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10/17

吾輩は浜松 敦である。名前はまだない。



『やーい、浜松菌~』


『あっちいけよ、浜松菌』


『マスクしてないと感染するぞぉ~?』


『はい、そーしゃるでぃすたんす~! 浜松菌効きません~』


『なにヘラヘラ笑ってるの? キモすぎ』



 、、、



 幼い頃からずっと俺は気持ち悪がられていた。


 あんまり見た目などに気を遣わずに生活をしていたからなのかもしれない。


『臭い』だの『汚い』だの『キモい』だのという言葉は日常的に浴びせられていた。



 家が貧乏だったのであまりオシャレなどは出来なかった。


 そのぶん給食はたくさん食べた。そうしたらどんどん肥えていった。


 家ではよくテレビばっかり観ていた。


 芸人さんが好きで、お笑いが好きで、だからよく彼らの真似をして家族を笑わせていた。


 ただそのぶん、目が悪くなった。


 おじいちゃんのおさがりのぶかぶか眼鏡をかけるようになっていた。


 コンタクトを買うお金なんてなかった。



 歌うのも好きだった。


 家族でたまにいくカラオケが俺にとって一番幸福な時間だった。


 貧乏だったけど、そこにはきちんとした温もりがあった。



 学校ではいじめられていた。


 でもそのことを家族の誰にも相談することはできなかった。


 大切な両親や兄弟を悲しませたくはなかった。


 だからただただジッと耐えた。


 わざとらしく笑って、平気なふりをした。



 教科書にはよく落書きをされていた。


 『キモい死ね』と書かれた教科書は、両親が少ない給料で無理をしてまで買ってくれたものだった。


 大切に使いたかった。


 でも、ある日それはゴミ箱の中で無惨にも破り捨てられていた。



 何もしていないのに女子に泣かれたことがあった。


 それが理由で男子には殴られた。


 だからもう女子とは関わり合いを持たないようにした。


 そうすれば傷つけることはないから。



 汚物は消毒だ、と水をかけられることがあった。


 びしゃびしゃに濡れた服を観てさすがの担任教師も怪しんだ。


 でも俺は両親に報告されるのがいやだったからおどけて見せた。



 『暑かったのでちょっとお風呂いってました』



 そんな冗談をいうとクラスのみんなが笑った。


 いじめていた奴らも笑っていた。


 俺は教師に怒られた。



 どれだけ辛くても泣き顔は見せなかった。


 帰り道に涙を流しても、どれだけ嗚咽をこぼしても、


 家に着くころには笑っていた。


 「学校たのしかった?」と聞いてくる母親に、


 「うんっ、最高だった!」とおどけて見せた。


 母に心配をかけたくなかった。



 でも、いつも家の近くの神社では泣いていた。



 おどけることを覚えてからは上手くリアクションを取れるようになった。


 わざとらしくキレた顔をしたり、大袈裟な反応をすると、いじめっ子たちは腹を抱えて笑うのである。


 それを繰り返しているといつしかそいつらは俺の嫌がることはしなくなった。


 面白がって弄ってくることはあれど、それ以上のラインは超えて来なくなった。



 彼らを恨んだりはしていない。むしろ彼らのお陰で今の俺があるから。


 暗い顔をしてヘラヘラと笑うよりも、感情をきちんと示したほうが面白がられるとわかった。


 人が恐れるのは表情が読めない人間で、わかりやすい人を好むというのもわかった。


 道化を演じていれば攻撃されないことを知った。



 こうして俺はお調子者キャラになっていった。



 ×××


 中学にあがってからはもういじめられなくなっていった。


 俺は軽音部に入って、ドラム兼ボーカルを務めた。


 部内での盛り上げ隊長とも言われていた。



 話しかけてくれる女子もいた。


 違うバンドの女子ボーカルの子にはよく話しかけられた。


 緊張して上手く喋れなかったのを全部冗談で誤魔化した。



 中学三年生最後の文化祭。打ち上げのときに告白した。


 産まれてはじめてした異性への告白だった。


 でも失敗した。



『俺と付き合わない? ランデブーデート……的な』


『なにそれ意味わかんな~い』


『いや、マジマジ! 本気だから! 本気で付き合いと思ってるから!』


『絶対うそだー』


『ええっと……じゃあ、俺と付き合ってください! お願いします!!』


『え、』



『本気だったの? いつもの冗談だと思っちゃった』



『……あ、うん。本気も本気』



『あ~……ごめん。浜松だけはないかな~ごめんだけど』



『あ、そっかぁ……だよなぁ、うん。こっちも……ごめん』



『いや、嫌いじゃないんだよ? 嫌いじゃないんだけど、なんていうか……うん。いいやつなんだけどね? 本当にごめん』



『い、いいってことよ!!』



『なにそれ~w』



 後日、その人には好きな人がいたということを噂で聞いた。


 そして結局その子は野球部のピッチャーと付き合った。


 顔がカッコいい爽やかなやつだった。


 卒業まで付き合っていた。



 、、、



 いつしか俺は高校二年生になっていた。



 彼女なんてできるわけもない。女子にも避けられたまま。どうせ何も変わらないまま、そうやってこの学校を卒業していくのだろう。


 

 "分相応"という言葉を知っておくべきだった。



 当たり前だ。なんの自分磨きもしていないのだから。



 努力することを放棄して、自分を変えようともせずに異性に好かれようなど愚の骨頂である。



 誰がこんなキモいやつを好きになるのか、思い上がりもほどほどにしろ!だ。



 だから期待なんかしなかった。お昼休みも誰とも関わらずに一人でいた。



 もう傷つきたくないから。こうしていれば自分を慰められるから。



 なのに、なのに……。





『わたしは先輩のことすきですけどね?』





 ────君が、現れてしまった。

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