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1話 英雄の息吹

子どもたちは学び舎で勉学に励み、大人たちはそれぞれの役割を果たそうと仕事に励んでいた。


つまらないくらいに平穏で、数年前の惨劇が嘘のようになだらかに時間が過ぎていく。


どんな事件があっても、そこに生きる者たちがあるのなら、やがて全てを忘れ去るかのように、なにごともなく日々を歩んでいくのだろう。


俺にはこの街に唯一かけがえのない親友がいた。それもかつての話。


今は身寄りもない孤独な木こりでしかない。


頼れる人も、気にかけてくれる人もいない。


寂しいが、それでも生きていくしかないのだ。


蔑ろにされているようで、それも仕方ないことでもある。


平穏ではあるけれど、この街には身内以外の誰かを気にかけている余裕なんてものはない。


真面目に働かなければ食うこともままならなくなってしまう。


明日の保証はどこにもないのだ。


だからこそ、誰もが必死に生きようともがき、身内以外に構っているような余裕はどこにもないのだ。


自分も彼等の立場だったらそうするだろうから、不平不満を漏らすのもお門違いと言ってよかった。


それに、俺には誰も守る人がいないから、自分だけのことを考えていればいいのだ。


家族のことを常に考えて上手に立回らないとならない人々に比べて、肩の荷物が軽いのは事実だ。余裕があると言っていい。


街の住民の一員として果たすべき義務は果たしているが、言ってしまえばそれだけだった。


それ以上の事は何もしていない。


人は一人で生きていくことはできないが、社会の一員としてそれなりに活動していれば、孤独であっても案外生きていけるのだ。


それが木を切り倒すことしか能がない天涯孤独の人物であったとしてもだ。


けれども、寂しいものは寂しくて、時たま思い出すのは親友が生きていた頃の記憶だ。


彼は本当に勇敢な奴だった。誰よりも誠実で正義感を持ち、誰よりも強さを求めた。誰からも好かれながら、鼻にかけるような真似はせずに、いつだって謙虚で自然体だった。


まるで物語から飛び出してきたヒーローみたいな存在感を持った、特別な人間が彼だ。


腕っぷしも強くて、時代が時代なら剣闘士として活躍していても不思議ではなかった。その強さが裏目に出てしまったことで彼は命を落としたのだ。


彼の名前はユーゴ。ユーゴ=ストラヴェイン。


街を襲った猛獣の群れをたった一人でなぎ倒し、その末に命を奪われた男。


あの日の彼の活躍は本当に凄まじいものとしか形容できない。


5倍もの体格差があった4足歩行の獣の群れを拳一つで壊滅させた。


まるで人間とは思えないほどの剛力に、何処から攻撃が来るのかを把握しているかのような完璧な見切り、次から次に襲いかかる獣を何百頭と相手にしてなおも尽きないスタミナ。


その光景を見ていた俺は、まるで彼が自分の知らない怪物に変容してしまったかのような錯覚を受けた。


今まで街の人々は自分も含めて、猛獣を軽々と屠るような強靭な人間も見たことがなかった。


彼の力が街の誰よりも強いことは知っていても、これほどまでに圧倒的なものだとは思いもしていなかった。


だから、誰もが助かると安堵した。この猛獣の群れがユーゴの手によって一匹残らず打倒されるだろうと。


その予想は裏切られることなく達成された。英雄はその身にただ一つの傷も追うこともなく猛獣の群れを滅ぼし尽くした。人類未踏の偉業かもしれなかった。


誰もがその光景に静まり返った。


場を支配した静寂は、新たな英雄の息吹であるかのように思えた。


しかし、英雄は生まれ落ちたその日に、世界に産声をあげることもなく、その命に終わりを齎された。


たった一体の凶暴無比な魔人によって。

よくわかんない

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