なんでだよ
「うううううううううむ。」
何故俺が唸っているか。それは、
「能力が発現しない。」
という悩みを抱えている、という至って単純な理由だ。
苦楽にも能力について教えてもらって、色々な能力発現方法を試し始めて5日が経った。しかし、全く能力は発現してくれない。
俺もしかして才能ないのかなぁ。
とも思ってしまう。駄目だ。
ネガティブ、ダメ。ゼッタイ、
そう言い聞かせるも、誠に残念な事、俺の全く気持ちは浮かばない。
本当に才能が無かったらどうしよう。
さすがに魔皇になんの能力無しの生身で立向かうなんて、そんな完全な自殺行為は俺的に絶対にしたく無い。
「まあ、こういう事もあるさ。って言いたいけど…何が足りないんだろう。」
「思い当たる事は、やれるだけ全部やったんすけど。」
「能力者は、小さい頃に特にこれと言った事はしてないけど、いつの間にか習得してました。って言うタイプが多いからなぁ。かく言う僕も、そのタイプだし。だから、意識して習得するって言う事に関する資料が少ないのは仕方がないんだけどね。」
「でも、俺の練習に付き合う時、苦楽すっごい楽しそうだよな。」
そう、俺に教えてくれる時、なぜかは知らんが、すごく生き生きとしてるんだよな。
「だって、ほら前も言ったじゃん。僕は能力で避けられてるって。だから同年代友達の友達もいなかったし、頼られることもなかったから…」
なる程、てか苦楽…お前、よくよく考えると何気にちょっと寂しい人生送ってたんだな……今後は俺ももっと気にかけよう。お節介かと思ったけど喜んでそうだし、そうしよう。
「でも、前は朱秋に能力はあろうとなかろうとどっちでも良いと思ってたけど、よくよく考えたら、多分ないと思うけど万が一、リベストリア皇国から使者とか出されて、街に攻め込んできたら能力がないと厳しいかもな……」
リベストリア皇国
そこはあの魔皇が統括している国だと言う。
魔神の如き強さを誇る皇帝、略して、魔皇と呼ばれるようになったらしい。
一般住民はおらず、住んでいるのは魔皇の配下となった色んな種族の者達だけで構成された国。全域支配を狙っているらしく、こちらの国にまで攻め込んでくるのだとか。
そして前は、こんな文化の発展した街の周りが森に囲まれているのを何故だろうと思っていたのだが、聞いてみるに、魔皇の使者から街を守るための物であるらしい。
森を構成する木々は研究によって生み出された特殊な木で、魔力を感知すれば根こそぎ奪い去るかのような勢いで吸い上げてしまうらしい。この吸い上げた魔力は色晶という実になり回復薬の材料として重宝されている。
前に聞いた魔術師が少ない理由はこれのせいでもある。というかもう魔術師がいることに驚く程の環境だ。
まあ、このだだっ広い街の中心部辺りまでは流石に影響を及ぼすことがないので、そこら辺で暮らしているなら普通に魔術の行使に制限はないからそこまで驚くことでもないか。
最初は別に魔術師を目指せば良くね?と思った方もいるでしょう。しかしこの街で暮らしたい(行く宛がない、ホームレスになりたくない)が故に、目指すのを俺はやめました…
まあ、それ以前の問題で、俺が体質的になぜか魔術が使えないっていうのもあるんだけど。だからどっちにしろ俺には能力者を目指すしかなかったと。かなり悲しい。
というか、そろそろ出会いというものがないのだろうか。ここにきてから一週間ほど経ったのに、女っ気がやってこない。知り合った人は、殆ど年上の野郎共とはいったいどういう案件だ。一体何だというのだ。このお約束は、能力と同様にあの女に阻止でもされとんのか。
「一回休憩にしようか、僕ちょっと色々取りに行ってくるから少し待ってて。」
「おう、了解した。」
そう言って立ち去る苦楽の背を見届けて、空を仰いだ。
あいついつ帰ってくるのかな、なんて平和な事を思いながら。
暫く待っていると後ろの方からさわさわという音が聞こえた。ああ、帰ってきたんだなと思って、俺はおかえり〜と言おうとした。
しかし聡い俺は気づいてしまった。
アレ、街って俺の正面方向にあるよな。俺じゃあるまいし、あの純粋過ぎて馬鹿野郎がまさか後ろからひっそり近づいて驚かそうとするはずも無い。そんな発想はあいつの中に無い。
じゃあ一体なんなのか。
諦めと悲しみのこもった目をしつつも笑顔を浮かべながら俺はゆっくりと後ろを振り返った。
すると、こちらに少しずつ近づいてくる、RPG中盤で出てきそうなミノタウロスが。
ああ、知ってたさそんななんとなく気はしてた。
なんで厄介事に限って破れないんだよ!!
お約束5
一人にされた瞬間、なんの前触れもなく襲われる