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⑨虫入り飴

ああ、リアルにセルフ罰ゲームさ。



 君はどんなモノを食した事があるか。


 必要以上に身分不相応な山海の珍味を食したか。


 或いはまだ見ぬ未経験の味に驚愕したか。



 人はモノを食い生きる。


 ただそれだけの為に生きて何時か死ぬ。


 ただそれだけの為に食べるのだ。




✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳✳




 先日、職場に出勤した稲村某は、直属の上司そしてマネージャーの二人がキャッキャとはしゃいで話をしていた(二人とも稲村某より年上)。


 「いやいやいや、それは無理だって!!」

 「やー、そうでもないですよ?」

 「じゃ、食うのか?」

 「無理っす」


 ……自慢では無いが、稲村某はこうした会話から即座に(……何かネタになりそうだな!)と察知出来る直感を持っている。つまり、そう言う訳で話に加わった。



 「何なんですか?」

 「いや、こーゆーのお前見た事あるっ!?」


 マネージャーの手には【虫入り飴】が握られていた。


 「あー、懐かしいですね。女子高校生ブームの時に流行りました。よく原宿キディラン○にコーナーが設置されてましたよ?」

 「マジでっ!? つーか絶対嘘だろ、その説明!!」


 マネージャーは信じられないと言いたげな顔で、稲村某の言葉を否定しながら件の飴を突き出して、


 「お前、これ食えるか? あげようか? いやお前ならきっと「いただきます!!」(即答)





 稲村某、ユーチューバーではない。動画で撮影しながらオーバーリアクションで振り回して、結局食ってげんなりしたりは、しない。


 俺は物書きの端くれではあるが、決して譲れないモノがある。



  写 真 な ん か 絶 対 に 挙 げ た り し な い ! !



 そう、つまりはそう言う事だ。期待させて済まないが、写真は無い。ここには一切出さないので、そのつもりでな?





 見た目はこんな感じである。


 所謂(いわゆる)棒付きキャンディの体である。その形は産地アメリカらしくかなり大きい直方体だ。大きさは縦3×横5センチ、高さ1センチだ。かなりデカイ。そして……透明な飴の中に、ミールワーム(享年不明)が短い足を六本備えた姿で軽く身を湾曲させながら鎮座している。早く早く食べてと言いたげに、鎮座している。そう、丸見えなのだ。はぁ……セルフ罰ゲームだな、こりゃ。



 商品説明には「ミールワーム(大豆) マルチトールシロップ テキーラ香料 31グラム」とある。肝心な飴の材料は一切記載されていない。麦芽なのか何なのか非常に気になるが、問題は(大豆)の表記である。ミールワームの材料? 大豆で育てたのか? だったら牛と変わらんな。


 ……と、ここで見慣れない名前を発見した。マルチトールシロップ、とは何ぞや? 稲村某、この名前の食品添加物は初見である。


 グーグ○せんせぇーっ!!


 やぁ、呼んだかな? みんなの疑問を即時解決、○ーグルせんせいだよ!



 【マルチトールシロップ】とは、糖アルコールの一種で麦芽糖をアルコール化させて、なんか良い感じにした甘味料だ。口に入れても砂糖と違い虫歯菌の栄養分にならない上に、腸で吸収されにくい特徴から最近使われ始めた添加物の一種で、()湿()()()()()()()()()()()()()()使()()()()いるぞ!



 ……化粧品にも広く使われている? 食い物の話は何処に行ったんだ? ちなみによく聞くキシリトールと似たような清涼感が有るものらしい。ふむ、勉強になったな。それにしても、化粧品かよ……。





 さて、まあ、うん。



 ……はあ。仕方ない、食してみよう。


 ……はむっ♪


 おー、柔らかいな、この飴。にちゃにちゃと歯にくっつく。正直言って困る。本音を言えば、砕いて一気にミールワームを食するつもりだったのだが、全然到達出来る感じではない。ただ、奴が飴の表面に近い場所に片寄って浮いているのが救いではある。


 しかし、あまり旨くもない。テキーラを原料とする香料のお陰か、ほのかに酒の風味に近いフレーバーがある気もするが、何も嬉しくはない。テキーラ飲ませろ。それと、件の清涼感らしきものが若干感じられるのだが、愛煙家の稲村某はヤケクソになって最中にメンソールタバコを吸った為、どっちがどっちだか判らないのだが。




 しかし、もう稲村某は食う気になっているのだ! さっさと寄越せ!!



 気の短い俺は、荒業に出た。


 ライターで表面を炙り、更に軟化させて掘り出す作戦を取ったのだ。



 ほじほじ。うーん、全体を露出させるのも難しいか……余り強く温めて、肝心なミールワームを焦がしても面白くない。



 おっ? 何とか虫を露出させられたぞ? えーい、ままよ!!


 こうなったら欠片でも構わん!! 食しよう!! (半ば自棄(やけ)である)




 微細なミールワームの欠片をほじくり出して、口へと運ぶ。


 噛むとさくっ、とした歯応え。そして長い間、飴に封じられたブツが口の中を移動し、とうとう舌の上へと載った。



 ……ふむ、麦パフそっくりじゃん。甘さと歯応えは、まんま麦パフそのもの。だがしかし、これは想定内。だって、飴に封入されていたのだから、甘いに決まっている。それにミールワームの身体はエビ等と同じような構造。だから味なんて飴が染み込んで甘くなるだろう。


 それにしても拍子抜けである。もしかしたら身体の中にトロッとした物質が詰まっていて、それが舌の上に染み出してくるのかと期待していたのだが、そのような物は存在していなかった。


 やれやれ、結局は虫の形をした異物に過ぎなかったようだ。個人的には、もっとハードでダイナマイトな味わいを期待していたのだが、肩透かしも甚だしい。もっと頑張れ、ミールワームよ。




 そんな訳で、極メシ的には感動も後悔も存在しない、ありきたりな物でしかなかった。


 




 君はどんなモノを食した事があるか。


 必要以上に身分不相応な山海の珍味を食したか。


 或いはまだ見ぬ未経験の味に驚愕したか。



 人はモノを食い生きる。


 ただそれだけの為に生きて何時か死ぬ。


 ただそれだけの為に食べるのだ。




 ……まあ、好奇心だけで食べる時も、たまには有って良かろう?









 ……と、ここでオマケ。


 先程、内容物について述べたのだが、諸兄はこんなルールが存在しているのをご存知だろうか?


 『含有されている物質の内容量が多い順に列挙される』


 つまり、先程の記載だと、ミールワームの次に多いのがマルチトールシロップ、と言うことになる。



  だ か ら 飴 の 原 料 は ど こ に 行 っ た の だ ?




 蛇足だが、件の上司二人が虫入り飴をくれた時、コンビニで販売されているタピオカ入りドリンクを飲みつつ、【タピオカ入りミルクティー】のミルクティーの味が全然しない! と騒いでいた。が、唐突に「稲村! お前詳しそうだから分析してみろ!」と差し出されたので眺めると……



 ……紅茶成分、材料の項目の上から十番目だった。


 おいおい、含有量的に少な過ぎだろ? ミルク成分はまだしも、タピオカや甘味料より少ないんじゃあ、香料程度にしか入ってないじゃん!!


 そう思いながら報告すると、何故か二人は大爆笑。


 「だって全然、紅茶の味がしなかったんだもん! まるできな粉モチ食べてるみたいだったぜ!! いや、まるで信玄餅飲んでるみたいな味だったぞ!!」


 あー、そうですか。よかったですねー。俺は貰った虫入り飴、食って感想書きます。


 ……そうそう、(かいこ)のサナギも食いましたが、それはまたいつか書く事にしましょう。








こちらには写真は載せませんが、活動報告にて写真掲載予定です。ではまた!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 虫入りのアメ、とても懐かしいです。勇気がなく食べる事が出来なかった思い出がよみがえりますw
[気になる点] 虫入り飴食ってタバコ吸ってライターで炙って虫ほじくり出して食べ始めた稲村氏を上司さんらはどんな顔で見ていたのか…… [一言] 内容物のルールは知ってましたよ(ドヤ) 私も虫を食べるこ…
[一言] (;'∀') そんなのあるんですね。 ←モノを知らないw でも、なんだか虫は美味しくなさそうだなぁ @@:
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