①アニサキス
それは有名ながら、誰も知らない。食した者は居ても一切紹介されない。ならば、稲村某が食って、教えよう。
君はどんなモノを食した事があるか。
必要以上に身分不相応な山海の珍味を食したか。
或いはまだ見ぬ未経験の味に驚愕したか。
人はモノを食い生きる。
ただそれだけの為に生きて何時か死ぬ。
ただそれだけの為に食べるのだ。
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「アニサキス」が有る。
毒は無い。
では、味は?
なら、食べてみよう。
ここに秋刀魚がある。字が読めぬ諸兄の為にルビを振ろう。
サンマ。
これだ。知らぬ者はいるか? いるのか? 居る筈は無かろうて。
サンマには時折、アニサキスが寄生している。知らぬ者の為に見分け方を教えておこう。
奴等は筋肉や内臓を取り巻く腹膜に寄生する。最終宿主の大型海洋哺乳類に寄生する為に、小さな生物から一歩一歩進み、中型魚類に寄生するのだ。
さて、ここまで読んで「ならばアニサキスはどのような姿なのか?」と思ったならば、教えておこう。
奴等は丸まる。筋肉に入り込むと身を丸めて円形に保ち、姿を隠す。透明なので一見すると見えないが、寄生すると周囲に血栓を発生させる為、僅かに出血する事が多々見受けられる。
諸兄の為にアニサキスの食し方を伝授しよう。
寄生しているサンマを焼けばよい。良く良く焼き締めれば食中毒の心配は無くなる。だがしかし、それでも不安に思うならば、冷凍品を購入すれば良い。
但し、冷凍品の場合は業務用のマイナス二十度以上を長時間維持できる冷凍庫で保管された物を購入せよ。家庭用の冷蔵庫ではマイナス二十度には成らず、アニサキスを殺せない事を留意すべし。
では、焼いたサンマを解体してみよう。
適当で良い。解せば運が良ければ円形に縮まったアニサキスを見つけられるだろう。大きさは五ミリ以下。下手くそな奴が書いた丸の如き歪な丸である。
見つけたか? では、食すとしよう。
ぷち。
……意外である。
何と、奴は微妙に香ばしいのだ。
例えるならば、甲殻類に似た香味を発するのだ。
……但し、その大きさは五ミリ以下。一瞬だけ、香味を発すると、あっという間に消えていく。
……不味くは無い。寧ろ、旨いかもしれない。
しかし、これだけは言っておく。
……これ、満足出来る量を集めようとしたら、どんだけのサンマやイカが必要なのか? ってね。
アニサキスは、食える。
しかし、冷凍品に、限るが。
逆に言えば、美味いアニサキスの食い方は、良く焼き、良く噛んで食べよう、である。蛇足だが、極稀にアレルギー反応を引き起こす可能性もあるらしい。その事を留意して、しっかり噛んで食べて頂こう。
……調理方法。焼くだけ。