きみとはなしができたなら『離縁』
離縁
どうやら、この日が来てしまったな。
待ちに待っていたと言ったら、誤解を招くかもしれない。
君と別れて。
君と別れて、僕はひとり、ゆくのだな。
こうなることは、心のどこかでわかっていたのかもしれない。
君はいつも怒っていて、それをいつも内に押し込んでいた。
まるで、トランクに詰め込む荷物のように。
そしてトランクの、蓋が閉まらず、また怒る。
そんな風にこの先ずっと怒っていくのだろうか、なんて漠然と思っていたら。
三行半を突きつけられた。
君にとって、この訴状には、いつもフラフラとして足下も覚束ない僕への不満でいっぱいなのだろうな。
けれど、君から渡された手紙に、僕は。
たくさんの思い出を見出している。
君と出逢った、始発のJR。
君との結婚を決めた、ドライブデート。
君にあげた、秘密のクリスマスプレゼント。
君と行った、美術館。
……君と一緒に見た、この世界のすべて。
こんなにも呆気なく。
一瞬でどこかに去って、泡のように消えてしまうものなのか。
怒らせているとはわかっていたけど、僕は自分の性格を変えられなかった。
だから、離縁。
これが最後の思い出。
待ちに待っていたという、君が僕から解放される日。
そして。
そんな君から、僕が、解放される日。
きみへ