ゴーレム用の武器
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要塞で、カトーがメイドのハスミンに尋ねている。
「ハスミンさん。ちょっと人を探して来て欲しいんですけど」
「ハイ、カトー様。どのような事でしょう?」
「この要塞に、長く居る人を探して欲しいのだけど、知り合いは長くても3・4年なんだ」
「そうですか。でしたら、心当たりが有りますので、少しお待ちください」
「ロマーヌ小母さん、いる?」
要塞の、第2層の食堂をハスミンが訪ねていた。
「何だい? ハスミンさん」
「おばさん、ここに長いって前に言っていたわね」
「そうだけど、かれこれ25年ぐらいになるかなー」
「ちょっと時間作って、ついて来て下さい。直ぐにでも、お願いしたいんです」
「エー。今からお昼の仕込みだよ。ジャガイモの皮むきが有るんだ。抜け出せないよ」
「そうですよ、ハスミン先輩。今日は皇帝陛下もお好きな、美味しい肉じゃがの日なんですよ」
「その声は、エメリナ。また、つまみ食いですか? でも、ちょうど良かった。エメリナ、あなたはロマーヌさんに代わってジャガイモの皮を剥いてなさい」
「エー、あんな大きな袋ですよー」
「エメリナちゃん、その横の3袋もだよ。ガンバッテね。代わりも出来たし、じゃ、ハスミンさん行こうか」
「天気? なの?」
「そうです。この要塞の、この時期の天気の変わり方が、知りたいんです」
「そうだねー。確かに25年も居れば、だいたい分かるけど」
「それで?」
「それでって言っても、そうだね。ウン、初秋のこの時期は、夜から朝にかけて風がないね。昔はよく月明かりで、デートしたからね。最近は、目途しいのがいなくてねー」
「中々、説得力のあるお話ですね」
「話は、これからだよ」
確かに、この土地に関する知識は深かったです。でも2人の、なれそめを聞きたい訳では無く、天気の事だけで……。終わるまでの2時間、恋バナを熱心に聞いていたのはハスミンさんとエミリーだ。
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帝国歴391年9の月22日
軍団会議が開かれた、その日。ステファノが陥落した。遠征軍司令官並びに将軍の筆頭は 第二王子カシミロ殿下だ。殿下は暫く要塞に留まりケドニア側との対応を続け、時期を見て遠征軍本隊を追いかけるつもりのようだ。
遠征軍本隊は、王子達の合議制で意見の統一を図りながら進む事になった。200キロほど離れた、最初の建設地へ向かって15万のイリア兵と輜重はイリア橋を渡って行った。彼らはこれから帝都ヴェーダに向かいリューベックラインを建設しながら進んで行くのだ。要塞には、別働隊5万の兵が魔獣に備える事になる。
「で、カトー卿。願いとは何です?」
「実は、対魔獣戦で思いついた事が有るんです」
「何かね?」
「第1軍団の魔法使い、全員ですよね。1500名の力が要るんですが?」
「それはまた、何故ですか? 今この要塞に居るイリア軍別働隊もライン造りに出た本隊も総力を挙げて防衛線を築こうとしているのに? 魔獣と、勝つか負けるかの大戦の時にですか? ここに今、防衛陣を築いておかないと帝国要塞が持たないかも知れませんよ」
「シーロ、そんなに興奮するな」
「シーロさんの仰る事はもっともです。ですが、要塞に攻めてくる魔獣を半分は減らせると思いますよ」
「そうなのか。では、話を聞こう」
「殿下、有難うございます。少し話が長くなりますがよろしいですか。実は人間も含めて生物は呼吸をして酸素を取り入れて生きています。魔獣も同じ、息をしています。それを出来なくすると言う方法なんですが……」
トマサ・イバルリ・ムニジャ、イリア王国遠征軍魔法大隊中佐。ヘルトルディス・ウサンディサーガ・セラ魔法大隊少佐。アンブロシオ・セラノ・ベラスケス魔法大隊少佐の3人に紹介された。
(ちなみに、トマサ中佐とヘルトルディス少佐の2人は、スタイル抜群のしかも美女である。エミリーによるとアンブロシオ少佐は、モテると言われる魔法使いの上に、女性から見れば美男子であるらしい。ひがんでいる訳では無いが、けしからん男である!)
カトーによる長々とされた説明であったが、会議室の一同は言葉も無い様だった。結果は虎の子と言うべき第1軍団の魔法使い1500名と、同数の護衛がヴォメロの塔に移動し、大掛かりな土木作業が始まる事になった。
今回、遠征軍の魔法使い達は、土木屋さんになってしまっている。リューベックラインと言う城壁を作りに行かされる者と、ヴォメロの塔に行く者。行き場所こそ違えど王国に戻れば、これで食って往ける様な作業量をこなすのである。
習うより慣れろと言われる通り、本来は知らない魔法もこうやって覚えて、腕を上げていくものらしい。魔法の巻物で、一瞬にして覚えた僕が言える筋合いではないが。
魔法も、日常的に使っていると当たり前に思えて来るものか、不思議感が無くなるみたいだ。暗くなればライト、ちょっとした傷なら無意識にヒール、誰とでも不自由なく話せる翻訳魔法。癒しの魔法はもちろん土、火、水、風、の魔法。
道に迷わなくなった地図の魔法、暑かった夏に重宝した氷の槍、これは余興にも使えた。クリーンの魔法は、この世界では必需品。未だに良く分から無い重力魔法。諦めきれない収納魔法はともかく、結構な使い手になってしまった。
ホムンクルスの保管庫主任、又の名を○○バカと呼ばれている彼が、魔石の再生実験を進めてくれている。これで魔石が、繰り返し使えれるようになれば? もう、あと要る物って? 世界平和ぐらいかな? そんな事を思いながら、丸一日掛けて25キロを移動し、ヴォメロの塔に着いた。
「カトー卿、ここら一帯を広く掘るんですね」
「そう。ヴォメロの塔を、中心にして平皿みたいに、底は平らでなるべく広くね。最低でも半径20、できれば30キロは欲しいね。だけど深さは重魔獣の頭が隠れれば良いから6から7メートルで十分。魔獣が来る方向の勾配は、緩やかにという感じで。掘り出した土はお皿の縁になる様に、2メートルの土手にしてね。南側は無くても良いよ」
「巨大な、浅い窪みを作ると言う訳ですね」
「そうです、トマサ中佐。中心にしっかりとしたお立ち台? これはヴォメロの塔になりますから。分から無い時は、呼んで下さいね。良ければ指示も済ませたし、要塞でゴーレム再稼働の準備をしていますから」
「さすがですね、カトー卿は凄いですね。あれだけのゴーレムを意のままに操るとは、王国一と噂されるだけありますね」
(ウン、アンブロシオ少佐は、普通に美男子である)
「お話の通りなら、巨大と言うだけで何も問題ありません。大きいと言っても魔法使いが1500名も居るのですから」
「あぁ、良かった。どの位で終わりそうかな?」
「まぁ、5日。念の為に6日という事にしておきましょう」
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「アストナージとサイにお願いしといたけど、ゴーレム用の武器は要塞に有ったの?」
「色々と探しましたが、状態保存の魔法が切れていたのも結構な数有りました。予想してましたが完全再現とはいきませんね」
「武器の数が足らないので、一部工具を改造して使う事になります。主兵装の炎の斧なんてのは、数が無いのでプラズマの溶接機が代わりとなります。話に聞いた、炎の斧の様にはいきませんね。使いづらいと思います。幸い、副兵装の魔力弾発射機は全数ありました。当面はこれで、いきましょう」
(わざとじゃ無いだろうけど、助手達の望み通り、副兵装がメインになった。主任たち、ゴメン)
「サーボモーターとモノアイ用の部品は旧型が地下備品庫に置いて有りました。汎用性の高い設計なので助かります。それに、組み立て式の、ハンガーデッキキットがあったので助かっています」
「フーン。そうなの」
「エェ、新しいケーブルは要塞地下から持って来た物なんです。よく見ると使い回した部品が、使って有ったりするので整備する者の苦労が分かりますよ」
「まぁ、全部が稼働する、ギミックみたいな機体といえますな」
(2人は昔から、人型に乗って作業をしていた人みたいな事を言う。黙々と作業をして来たので、誰かに聞いて欲しいのかも知れないなー)
「ご覧なるのは構いませんがキャットウォークは気を付けて下さい。ケガをされると、エミリー様に私たちが怒られます」
「後、MS-●6Sゴーレムは指揮官仕様なので、赤く塗れと言われましたがペンキの量が足らないので肩だけです。しかし目立ちますよ。これ」
(ウンウン。指揮官機だしな。僕は補助席に座るつもりだけど、本当なら、危険な作戦に出撃して、かつ信頼されてないと乗れない機体なんだろうなー)
「操縦訓練と兵装の訓練は、シュミレーションプログラムを見つけました。これを、半壊している奴から、操縦室を降ろして、擬似コクピットにして動かせればと思っています」
「後は、バズーカ、クラッカー、パンツァーファウスト、バルカンなんですが、2日ほど頂ければ装備できます」
「流体内魔石パルスシステムで動くのですが、カタログスペックより15パーセントほど落ちています。フルパワーを出すには、イリアの113にいる、主任と相談したいですね」
「その代わりと言ってはなんですけど、良い事も有りましたよ。センサーの有効半径が、3キロから7キロに上がりました」
(2人には、交互に使い方を説明された。すまん、さっぱり分からん話である)
「盾は2種類、左肩のトゲトゲと右肩の盾ですが慣れればシールドバッシュが出来ますよ。右の盾を利用した、攻撃方法の一種です。手に持った盾を相手に叩きつけたり、突き当てたりし攻撃するんですが、コントローラーにマクロを設定してあるので綺麗に決まりますよ。
(現代戦では、手持ちの盾が用いられる事は稀である。こうした戦法は、機動隊の鎮圧の際に用いる事が行われるぐらいである。近接戦を主眼に置いた、攻守一体の戦術とは言える)
「3次元空間戦闘なんて、あの重さで出来るとは思えませんでしたが、打ち出し型ワイヤー発射機と巻き取り機を付けられました。脚部3連装ミサイル・ポッドの場所にピッタリでした」
(空を飛べなくとも立体機動が出来れば、偏在性、行動距離、移動速度、突破力、打撃力、運用が柔軟に行える。特に空中を活用する事で、地上に移動だけという制約を受けない作戦行動が可能である。でも、こんなに重い機体を支える方は大丈夫なのか? 打ち込まれた支持面は、崩れるんじゃないのか? それより以前に使用可能と判断した自分が怖い。やっぱり使わないでおこう)
「魔力弾発射機の弾が、11機体ですと弾種が限られてしまい合わせても12000発ちょっと、3回戦分?ありません」
「古代アレキ文明において、ゴーレム戦闘小隊(12機編成)では一度の会戦は3カ月(78日)の作戦行動期間を想定していたらしいです。当時の状況、戦場、 戦況、生産力などに不明な点が多いんですが」
「機内に残されていた資料によれば、1個分隊の1会戦における軍需物資の基準数量は約1万トンであり、弾薬は魔力弾発射機3万発、バズーカ450発、炎の斧24丁、クラッカー300発、パンツァーファウスト500発、バルカン型機関銃20万発とされていました。ですが見つけた残弾でいくと、MS-●6F1機当たりは、魔力弾発射機は150発にすぎません。バズーカ20発、炎の斧1丁、クラッカー22発、パンツァーファウスト22発、バルカン型機関銃13500発です」
「魔力弾発射機の砲身命数が、だいたい2000発位なのです。まぁ、これ以上を持たせても今度は予備の砲身を持たせないといけないという事情もありますが、1000発無いなんて、激戦になれば1日もたたずに全弾射耗してしまうでしょうね」
(まてよ! その言い方だと、ひょっとして君達。2人で、何をするつもりなんだ?)
「バズーカは、強力で威力はありますが、数が足ら無いですね」
「クラッカーは、帝国型の擲弾をそのまま大きくして自作にしました。威力も、そこそこありますので小型魔獣なら、20メートル圏の面制圧が出来ますね」
(何と言う事だ。すでに擲弾を300発も自作していたのか!)
「バルカン型機関銃は3点連射にしますね。1、2分で3000発使うなんてなんてモッタイナイ。連射だけは、出来るようにしましたので腕を上げて下さい。小型魔獣ならこれで十分ですから。一応、コントローラーのボタンを素早く複数回押せるよう、手連、痙攣打ち位は覚えて下さい。それに、ピアノ打ちならMS-●6Fの発射ボタン自体が大きいので、上手くやれると思いますよ」
(でもまあ、これは、その通りだな。僕の得意な、こすり打ちを見たら驚くに違いない)
「造れるのは、ここら辺までですね。拠点破壊用の魔石・小(火属性タイプ)無誘導魔力弾発射機ですけど。装弾数3発とありますが肝心の弾が有りません。これは、ほぼ再現は無理でしょう。通称魔核弾頭ですね。魔石分裂型なんです。あれ、落とすと20キロ圏がクレーターになりますよ」
(絶対に、自作しないでくれよ!)
「追加分は要塞地下で、作る事になります。無酸素室もありますけど、爆発物もありますので、慎重に作らなければなりません。しかし、数が要るとなると、一時的に、イリア王国への亡命計画を先延ばしにするしか無いですね」
(しまった! この二人も主任達と同じ、話し出したら止まらないタイプだった)
「通常装備品は、ゴーレムの体に装着できますが擲弾や予備弾は背中のランドセルに入れます。でも、自作の擲弾なので衝撃に少し弱いんで、持って行こうとすると危ないんです。着地のショックあると拙いので、補助推進器を使わないで下さい。残念ですが、長距離ジャンプは出来なくなります」
(自作した擲弾を、持って行かなければ良いんじゃないか? やっぱり、作ったら、使ってみたいのかな? 魔核弾頭を作れるとしたら、かなり拙い事になるかも知れない)
以前話した、ゴーレム訓練を警備用ホムンクルス7人とゴーレムの運用スタッフは合わせて22人になる。ゴーレムの搭乗時間が長いと偉い訳でも無いが、搭乗時間は飛行機のパイロットの様に練度の評価の一つとして大切だろう。
だとすると、アストナージが隊長、サイが副隊長になるのが順当なのだろう。20人は、2人に仕込んでもらおう。ウーン。この話しておかないといけないが、話に入り込む隙が無い。どうしよう?
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「カトー卿、武器輸送隊の事なんだが、幸い魔獣に見つからずに移動中と思われる。予定では、到着日は10の月25か26日だ」
「順調なんですか?」
「順調だと思いたい。だが、このままだと要塞に進行してくる魔獣に発見される事になるかもしれん」
「大変じゃないですか? 連絡しました?」
「影は武器輸送隊に行っているし、ハト便も移動中の連絡は無理だ。ということで、卿の出番だ。一飛びして連絡を付けてほしい。いいかね?」
「ハイ、それは良いですけど」
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「カトー、リューベック川を東へと言われて、ロンダ砦から400キロは来たんじゃないか?」
「そうだね、エミリー。地図魔法によるとその位は来たね。じきに、日も暮れる。あと少し飛んで、明日にしようか?」
「ちょっと待って、あの松明の行列じゃないかな」
「オーイ、そこの変なのー。降りて来いー」
「やっぱり、こうなると思った。でも今回も、ケドニアの旗が救ってくれたね」
「カトー卿じゃないですか、どうしたんです?」
「セフェリノさん。実は、魔獣の接近が予測されたので、急ぎ輸送隊に連絡をという事で来ました」
「了解しました。では、一時待機という事で、この近くの野営地で留まります。ケドニアの武器輸送隊の兵はどうします?」
「同じく待機で、荷を守ってもらえとの事です。その後、帝国要塞に着いたら編入されるはずです」
「では、輸送隊の指揮官に伝えます。カトー卿は、どうされます?」
「一晩泊まって、とんぼ返りになりますね。このまま帰るのも何ですから、大砲はさすがに持って行けないでしょうけど、小銃だけでも持って行きますか?」
「では、そのように致しますが、どの位積みますか?」
「絨毯の積載量は、200キロ位。エミリーと僕の装備で、残りは100キロか。小銃だと、12か13丁と弾薬ぐらいになるかな。無理してもらってもなんですからその位ですね。お願い出来ますか」
「もちろんです。命中精度が、良さそうな品を用意します。射撃訓練で使用して下さい。これで要塞のを、借りなくても練習できますよ」
その後、セフェリノと輸送隊の為に、近くの野営地まで行かず街道より少し離れた、見つかり難そうな野営場所を探した。エイや、と旅行用の少し大きな家を建てたので、皆がかなり喜んでくれた。初秋とは言え、屋根の無い野営はきついからね。




