王国軍の架橋
※ ※ ※ ※ ※
「では、ボルトアクション式単発小銃は3個連隊分、3600位で、1個砲兵中隊分(87名。大尉、中尉、少尉、曹長各1名、軍曹4名、伍長5名、1等砲兵24名、2等砲兵48名、鼓手2名から成った。大砲はカノン砲6門、曲射砲2門を装備している)の玉付きで、決まりですな」
「殿下。それはー、小銃は良いですが。大砲は最新型ではありませんか。そう望まれるのはいささか無理ぎみでは無いですか? 帝都に行っている間に、色々と調べられた様ですのかな」
「良いじゃないですか、そのぐらい。弾丸はケドニアから購入する事になるんですし。王国はまだ作れないし、消耗品を売るんですから」
「シーロ副伯も、お人の悪い。そうですな。工業製品ですからな、精密加工技術も要りますしね」
「ついでに、他の銃器も払い下げという事にして、渡して戴ければ有り難い物ですな。さすれば、貿易額も上がり、伯爵の名誉も増す事でしょうな」
「殿下も中々ですな。まあ、そのぐらいなら私の権限でも」
「実は、某都市防衛の為に、リューベック川を渡った物があります。魔獣の攻撃により、それが無くなったという事でなら何とか出来ます」
「まるで、重包囲下のステファノみたいなお話ですね」
「それは何とも、想像の内という事でお願いします」
「使うべき軍に、届けれ無いという事ですか。なら、有効利用という事ですね」
「しかし、ステファノ街道へは、東へ1300キロは有りましたね。それを持って来られるとは? 難しいでしょう」
「オルビエート補給基地からです。ステファノ北部と帝都を結ぶ補給基地で、リューベック川南岸橋を渡った所に有る。イヤ、橋が有ったという場所です。輸送隊は、待機中のはずです。某都市は重包囲下だそうですから、引き返す訳にもいかず、何時までも留まって居るとは思いませんが、オルビエートは魔獣の帝都への進撃路にあたりますのでね」
「伯爵、ここは少し考えてみます。検討するので、返事は少し待って下さい」
「どうお考えです、殿下。武器輸送隊」
「影と近衛を使えば。どうだ、セフェリノ。やれないか?」
「行きは早馬ですから、ともかく。しかし、ここまで戻って来るのに、30日から40日かかります。行きと帰りで5、60日あれば可能かと思いますが」
「あまり長くは、ダメだな。惜しいが、この話は無理かもしれんな」
「それとも、ジョスラン伯爵に頼んで、こちらに向かわせて途中で会うか」
「借りを作るのは、如何な物かと思います」
「そうだな、シーロの言う通り、まだ援助について協議中だからな」
※ ※ ※ ※ ※
「カトー、お帰り。帝都どうだった?」
「ただ今、エミリー。まぁ、上手く行ったんじゃないかな。皆、忙しそうにしているけど留守中、何かあったの?」
「殿下達は武器輸送隊の事で忙しいそうだ。カトーも他人事じゃないぞ。7人のホムンクルスの訓練が終わって、要塞の地下で待っているんだ。管理官も、ホムンクルスの移動について相談したいと言っていたな。あと、セバスチャンが国債の空売りとか、なんか分からん伝言が来ているぞ」
「そうか、セバスチャンに連絡を入れないとな。ラザール司令官とマルタン大佐に会ってと。ゴーレムは、転送機をガードしているはずだから。管理官と、打ち合わせしとかないとな。ヴォメロの事も、殿下達と話し合いをしないと。今から会議だし、ジョスラン伯爵に、銃器の性能評価も聞いてかないと。殿下に出すレポートと、ケドニアの防衛力の……」
「ウンウン、カトーもチャンと分かっているな。結構忙しいんだな。という事は、私もじき忙しくなるという事か。終わるとなると、10日の休暇などあっという間だったなー。残念だが明日からは、プールで泳げなくなるのかなー」
「エミリー、休暇。10日も有ったの? それに、プールって?」
「あぁ、人間。休める時に、休むようにしないとな。要塞に有る、温水プールの事だ。女性専用時間が有ってな。まぁ、のんびりと寛いだ毎日だったからな。インストラクターの女性がいて装備を付けていても溺れないよう水泳の仕方と、運動の相手をしてくれたんだ。勉強になったし楽しかったなー。ア、そうそう王国から、ケーキとクッキーを送って来ていたぞ。店の皆に、礼を言わないとな。もちろん、全部食べてしまったが」
「フーン。エミリーって鬼のようだと言われた事ない?」
※ ※ ※ ※ ※
「ゴーレムは、S型は動いたけど残りの10機のF型はどうかな? 早めにラザール司令官とマルタン大佐に会って、使用許可を貰わないとな」
「カトー、全部動かすには人数が足りんぞ」
「地下のホムンクルス達の、移動は少しずつだから、手を貸してもらうつもりだよ」
「そうか。あとセバスチャンが言っていたけど、領地の方も上手く行っているそうだ。シエテの町で、羊飼いたちの手配も出来たみたいだぞ。羊とヤギ、牛はいないけど放牧の時期だから、ちょうど良かったって」
「鍛冶屋の夫婦は、良い返事だったのかな?」
「テオドシオとカサンドラは、別荘へ移動して鍛冶仕事が出来るようにしているそうだ。後、ヒバリの宿の、エスタバンとオリビアにモニカ達が、今年の秋に宿を閉めて別荘に移動するって言っていたな」
「ヘー、あそこ閉めるんだ」
「エステバンが、移住に乗り気らしい。奥さんは炭屋の娘だったから大丈夫だが、モニカが町育ちなんだけどな。でも、賛成しているらしいぞ」
「そうなんだー。牧場の娘にでも憧れているのかな? ゆくゆくはエステバン達に、ホテルの経営や観光関連の仕事を頼みたいんだけどなー」
「そう言えば、ナタナエルが、いい所だと随分と吹き込んだらしいぞ。元冒険者だったからな。客商売も良いが、広い所が性に合っていたんじゃないか。そうそう、これからは貸し馬屋のシモンが、荷運び用の馬車とロバを用意してくれるそうだ」
「じゃ、荷物はいちいちロバを、探さなくても送れるね」
「セバスチャンが、年間契約したみたいだな。色々と、便利になって来ているみたいだ」
その、セバスチャンは、国債の空売り買いの時期設定で忙しいらしい。その上、人に見つからない様にしながら、要塞と113の行き帰りの日々だ。
「転送で行き来しているのは、セバスチャンだろ?」
「そうだけど、人間だと何故か転送を繰り返しされていると、胃がムカついて食欲が無くなってくるんだ」
「そう言うもんなのか? 確か、セバスチャンも細胞の更新で食事をしていたはずだけどな」
「そうだったね。うっかりしていたよ。今度聞いておかないと。カトー家の家宰だから、苦労性だし気を使っているんだろうなー」
「ちゃんとお礼を言わないとな」
※ ※ ※ ※ ※
帝都での協議後は、王国と要塞の協力関係も進んでいるし、帝都からの通達も有ったようだ。
「では、カトー卿。明日から騎士の間は完全閉鎖としてかまいませんが、大丈夫なんですか?」
「大丈夫です。何とか11機全部が稼働できるように、術式を考えていますから。まぁ、少し時間がかかりますけど」
「それは構いませんが、転送機の見張りをしているゴーレムは動かなくなるんですね」
「そうです、マルタン大佐。ですが練兵場の警備は、第1軍団が行いますのでご安心を」
「魔獣の事も有りますし、何とか戦力向上が出来れば宜しいですがな」
「仰る通りです。ラザール司令官」
「11機のゴーレムが、動くのはさぞ壮観でしょうなー」
「司令官、少し惜しい様な気になりますな。イリア遠征軍の物に、なるんですよね」
「そうとも思わんが、ケドニアは少しでも力が必要だ。20万の援軍だ。帝都からも、協力せよとも言われておる。それに、あの11機は、正式にはカトー伯爵の物になっているという事だぞ」
「そうでしたね。男のロマンだと仰ってましたね。見ているだけでも、嬉しそうですしね。自分には、スケールの大きなオモチャに思えますが」
「そうだな。昔からよく言うが、ネコと魔法使いのやる事は、良く分からんという事だ」
「MS-●6Sゴーレムの助手さん達、お疲れ様。当然、君達の名前も考えてあるよ。心配しなくても、アムロやブライトでは無いからね。知っての通り、この名前なら文句は出ないと思うよ。整備士ならアストナージ・カトー・ブリト。ドラゴン係ならばサイ・カトー・ブリトという事でどう? 分かっているって。お礼は良いよ、ズーと警備していてくれたんだ。もちろん、整備運用係とドラゴン係の主任には、黙っておくよ」
「カトー様、本当にありがとうございます」
「ところで以前話した、ゴーレム訓練を警備用ホムンクルス7人。ドック、グランピー、ハッピー、スリーピー、バッシュフル、スニージー、ドーピー、みんな男の名前だったけどアストナージとサイが仕込んでね」
(女性名がないと言って、放り出した訳では断じて無い)
ゴーレム隊の名称は、ゴーレム戦隊じゃ無くて、普通にゴーレム小隊と決まった。傍から見ると、カトー卿は、ゴーレム稼動に忙しく苦労しているいように見えただろう。だが、趣味に走れば、徹夜も厭わず働くと言うのはここムンデゥスでも同じ様だ。何しろ夢に出てくるような機体が11機、スケールが1分の1の実機である。アストナージとサイと同じ、2晩ぐらいの徹夜もどんと来いである。
(ゴーレムの運用スタッフが22人になる。11機あるけど、半分溶けたのは部品取りにしよう。指揮官機はもちろんアストナージとサイに僕が乗るんだ。ペンキが足らなかったので、肩と盾だけだけど赤く塗れたしね)
「管理官も、ホムンクルス達と相談して、ゴーレム用に人員を用意してくれたけど。後は、ヴォメロの事を、殿下達と話し合いしないと」
「例の、お皿計画か?」
第1軍団の魔法使い達にお願いして、ヴォメロの塔の廻りに大きな浅いプール、言わばお皿の形をした大きな窪みを作ってもらう。きっかけは、エミリーがプールに通って寛いでいたと言っていたのを聞いたからだ。
※ ※ ※ ※ ※
「みなさん。大変、悲劇的な事が起こりました」
「どうされました、伯爵」
「実は4日前、第四次ステファノエクスプレスが全滅したそうです。ステファノ街道は、オルビエート補給基地に通じています。このままでは魔物に占拠されそうなので補給部隊再編と、積めるだけの補充品を持って、ケドニア帝国要塞への移動を命じられたそうです」
「オルビエート補給基地と言うと、この間の武器輸送隊の話の?」
「そうです。もう向こうを出ているかもしれません。リューベック川南岸に沿って移動していますから、魔獣がステファノから
要塞に進行していても、街道が違うので大丈夫です」
「あれだけの物資ですから、また、橋も無いのに川を渡らす事は無いと思います。それなら、陸路で要塞に運んだ方が良いですからね」
「そうだな、シーロ。この間の迎えに出るというのをやれるか」
「ハイ、影と近衛でやれます」
「影が先行して、武器類を確保。直ちに補給所方向に向かい途中で近衛と合流して……半分として25日。1ト月か」
「ジョスラン伯爵、では? 上手く行けば、軍事援助の方は、まとまりそうですな」
「了承しましょう。急いで武器輸送隊に一筆、したためましょう」
帝国歴391年9の月13日
リューベック川の川幅も、夏になり水量も増え渡河には浅瀬と言えど不向きである。15万のイリア王国軍を、要塞から反対岸に渡す必要が出て来た。要塞近くの急峻で流れの速い川も、東に十キロほど進むと流れの緩む所がある。遠征軍司令部は、そこを渡河地点と決めた。15万もの軍を、川舟によって渡河させるのは長時間掛かるし、なにより安全とは思えなかった。
リューベック川の橋は既に落とされている。一番近い橋も、1000キロ東であったが今は無い。誰も、ここに橋を架けようとは思わぬ地である。川の幅は250メートル、深さは5から8メートルあるようだ。流れの速さは、冬の水量が少ない時でも、人馬を押し流して川舟が渡せないほどである。この為、架橋は非常に困難だと思われた。しかし、帝国要塞近辺で、崖ではあるが、リューベック川まで降りられそうな場所はそこしかない様だ。
流れの早い川に架ける橋とは違い、沼地などにかける橋は、エバント王国南部でポンス・ロングス方式と呼ばれる。この橋は、王国南部の干拓の歴史と深く結びついている。湿地帯が多く、人の往来や荷馬車が通行するのに困らないようにと考案された橋である。湿地帯に杭を打ち込み、上に木の板をかけるだけである。
その木の板の上に、しばの束を敷くだけだったが、今では工法も代わり板の上は砂利に変えられている。橋の幅を広げるには、単純だが平行に杭を作リ足すだけで良い。この工夫により、荷馬車の移動速度もあがり、安全性も確保できた。
ただし、この種の橋はイリア王国では、土魔法で強化された杭に変わっている。ケドニアでは、魔石エネルギーも枯渇しており魔法使いも少ない為、失われた技法で有ったと言える。橋の規模は遥かに小さくなっており、造られてもエバント王国の木の杭の方法が普通であった。
ポンス・ロングス方式の橋を、2万名もの魔法使いと術師が力をふるい、作り出す時が来た。大まかに言えば、5000人が岩場を下る階段を刻む。8000人が、川床におりて川幅に合わせて橋脚を作り、7000人か橋桁と敷板を作って橋を伸ばして行くと言う具合だ。
実際には、遠征軍の架橋手法は以下の様に進められた。これは土製の橋であるが、王国では橋の構造についてさまざまな方法で、架橋方法が考案されて付け加えられている。当然だが、水がかかる杭や板には、大きな魔力が必要だが、強化の魔法が掛けられる事が決められている。
構造は単純でも規模はすこぶる大きい土木工事である。まず、川床に基礎を築く為に、杭打ち機が造られた。同時に、大型の槍の形をした杭が何百何千と作られた。水魔法の使い手が、工事部分の川の流れを変えている間に杭打機を据える。これを、先をとがらした方を下にして、流れに対して縦並びの2本ずつ、150センチ間隔で打込んで行く。
同じように、この杭を横並びに150センチ間隔で伸ばして行くのだ。すると川床に、内径が150センチ四方のマスが出来る。杭の太さもあるので外径は220センチ間隔になる。川の深さに合わせて、打ち込んで行くので長さに多少の差が出て来る。水準器で水平が図られ、水面から40センチに切り揃えられる。
その上に橋桁がおかれ、留め具替わりの土杭で緊結される。橋桁の上に、土板を260センチに拡げて並べ、床を作る。土杭を、下方斜めに傾けて川の自然な流れに合わせて支える力を強化する。これで、ほぼ橋の形が出来る。また、橋には欄干が下流側にしかつけられていない。これは増水して橋の抵抗が増えると部分毎に、壊れて外れ橋への抵抗が下がるようになる様に工夫されている。
さらに大水が来れば、橋自体が潜水橋と言われる水に浸かる構造なので、さらに抵抗を減らす事が出来た。最後に川の上流側5メートルに、打ち込んだ土杭の倍ほどの太さの杭を600センチおきに打ち並べて行く。これは、増水期や山崩れ、敵対する者が橋を破壊する為に、投げ込まれた木などから橋を防御する物である。
何時しか、崖には緩やかな階段が出来ていた。リューベック川の流れを変え、人力による鉄槌や滑車を使わず、魔法使い達が重量物を宙に浮かせ術師が固定してゆく。飛び交う杭や梁を見る者には、目を疑うばかりの光景が繰り広がれた。
この渡河方法を伝え聞いた、帝国の将兵もまた魔法の力に驚く事になるが、イリア王国遠征団は王都に有る練兵場のドーム、自分達を送り出した転送ステーション113、またの名を尖塔の城壁都市ドラゴンシティの規模を知っているので苦笑いをするだけだった。
そしてイリア王国遠征軍15万人、輜重部隊と商人達6万人が、リューベック川に架けた橋を渡って行くのだ。建材が造られ始めてからわずか21日で、すべての作業が完遂していた。遠征軍は、イリア橋と名付けられた橋を渡って北岸に行く事になる。
橋の完成と同じくして、階段の入口にはロンダ砦を築き、残る者で強力な守備隊を組織して後顧の憂いを無くす計画である。秘密にされているが、要塞から爆薬が持ち込まれ、いざという時は瞬時に橋を爆破・破壊する手はずになっていると噂されていた。
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「じゃ、軍団は魔法使い達を護衛してリューベック川を渡るんですね」
「あぁ、8日後にな。橋が順調に出来ているからね。シーロ副伯との話では、要塞線を築くのはここから200キロ下流からで、かなり険しい崖からになるそうだ。12000の、魔法使いと術師が作業を始めるが、最初は1日で5キロ出来れば上等だろうな。もっと条件が良く成れば、10キロ以上でも行けるかも知れないが」
「軍団が、王国からの補充無しで動けるのが最大半年です。195日で約2000キロとして、全行程4000キロの半分ですね。食料や備品、軍資金もかなり要ります。金には換えられない援助ですし、内容も技術・軍事と多岐に渡りますから王国にとっては安いとは思いますが」
「金の事は恨まれそうだが、セシリオ殿下に任かしておくよ」
「では、早速。軍団会議ですね」
「15万の、将兵が移動するんだ。武器輸送隊の事もある。当分、打ち合わせが続くな」
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「ジョスラン伯爵、お世話になりました。これからは?」
「あぁ、その事ですか。もちろん援助の詰めをして、要塞の戦闘準備確認とイリア王国との調整ですか? 20日位はかかるでしょう。ぼちぼち、やらないと。橋が出来たので、対岸に渡り、また高速馬車です。リューベックラインの、建設地を見ながら帝都にいく事になりましょうな。その後は、北のスクロヴェーニの町で所用を済ませ……ハッハッハ、これでは食事も満足に出来ませんなー」
「ずいぶん、お忙しそうですね」
「今度は、同好の士も居ないので、少し寂しいですがね。ハハ、カトー卿が一緒だと時間を忘れますからな。今思えば、実に良き時間でした」
「ジョスラン伯爵には、銃器の事もお聞きしたいし、何時か何処かでお会い出来ると良いですね」
「そうですな。それでしたら、一段落したらスクロヴェーニの軍需廠に居りますからお出で下さい。また、お会いできるのを楽しみにしております」
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特別行政都市スクロヴェーニは、人口50万以上の軍需廠が新設された、鉄の生産と加工技術が進んでいる帝国屈指の工業都市である。帝国中央山脈が途切れるように無くなり、エルベ川の河畔、僅かな平野となる地にある。南部と北部を繋ぐ、交通の要衝でもあり、帝国の軍需産業の中心地になりつつある。
スクロヴェーニでは鉄道馬車が毎日、銃器工場に勤務する作業員を運んでいた。勤務は(1日27時間)、11時間勤務の朝勤・昼勤2交替制で1週間ごとの繰り返えしである。様々な職業の出身者がおり、工場構内には宿舎と寮が完備されていた。この周辺には駅がなかったのだが、この工場ができた為に新駅が作られた。単線だったが、駅には線路の両側にプラットホームがある。通勤してくる人達と、勤務明けで帰宅する人達が、同時に乗り降りする事が出来た。
ジョスラン伯爵から、スクロヴェーニ軍需廠の様子を聞く事が出来た。機密事項なのではと聞くと、あんなに火器に詳しいなら、逆によく聞いてもらって、高速馬車の中で話題の1つとなった製造法の改良点や、ベルトコンベアーによる連続生産ラインについて教えて欲しいと頼まれてしまった。ひょっとしてジョスラン伯爵は、損して得取れの諺を実践しているのではないだろうか?
日本の某有名工場の、生産ラインは進んでいる。派遣の友人が話す事を、少しアレンジして世間話のように話ただけだ。右利き、左利きだけでも効率が上がるそうだ。ちょっとした工夫で出来る、カイゼンの話を熱心に言わされた。それに、ごく普通の日本人なら、テレビ番組等で聞き知っている事ばかりだ。
人間、趣味と言えないまでも興味を持つ事はあるよねー。1つや2つ、3つ普通だよねー。かく言う僕も、人型ロボットや、キャンプだけという訳じゃない。男の子なら火器の図面の2・30枚描けると思うのだが。違うのかな? まさか、僕だけと言う訳では無いよね。確かに友人達から、温かい眼で見られたような事もあったような……。
それはともかく、スクロヴェーニではドンドン軍需工場が拡張されていく。敷地には北側と南側には通用門があって土製の塀に囲まれていた。外から来る者には警備員によって身体検査がおこなわれている。それもそのはず。この工場では、最先端の技術を用いて今まで主に、王国にも援助されたボルトアクション式単発小銃が作られていた。
だが、この工場群はすでに、単発小銃から新兵器生産に切り替わっていた。敷地一杯に増改築されて第1から第8工場まである巨大な規模となっているのだ。その中には工場はもちろん、作業員養成所や木材加工場、資材庫、診療所、作業員宿舎、貯水槽、管理事務所、大食堂、石炭庫、保管倉庫などがあった。
第1工場・歩兵用小銃三八一式、軽機関銃三一一式の製造
第2工場・歩兵用小銃三八一式、軽機関銃三一一式弾体の製造
第3工場・歩兵用小銃三八一式、軽機関銃三一一式薬莢づくり
第4工場・歩兵用小銃三八一式、軽機関銃三一一式弾への火薬装填作業
第5工場・歩兵用小銃三八一式軽機関銃三一一式弾の信管工場
第6工場・作業員養成の訓練所
第7工場・木材加工場・弾薬箱製造
第8工場・制作工具と銃剣を作る所
三八式と軽ク式の発射体(いわゆる弾丸である。口径7ミリ実包だが、口径が6.5ミリのボルトアクション式単発小銃でも使用可能)は、共通とされ互換性があり運用上の利点であった。工場の動力は大型蒸気機関である。場内では熟練工が、技術と精密さを要求される作業をしており女性が多いのが特徴だ。作業は、最新型の旋盤機械を使って、加工を行っていたために品質は良かった。
火器の生産は続けられる。帝都の開発局からは、今また二種類の図面が送られてきている。次期生産ラインには、重機関銃三九二式、略称九二式重機。今一つは、対重魔獣駆逐銃、略称対戦車銃が作られる予定である。これらは、他工場で作られる蒸気動車に装備されて、魔獣との戦場に繰り出して行く事になるだろう。




