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軍団会議。帝都へ行こう

 ※ ※ ※ ※ ※


「本日の議題はと、アァ……産業技術援助の続きでしたな」

「これで、協議は大方済むはずですな」

「ご冗談を、まだ先は長いと思いますよ」


「ジョスラン伯爵、機材供与。これは外せません。専門家の派遣も必要となります」

「技術開発と、技術支援は推進しないとなー」

「物造りに、必要な知識や技術には一定期間掛けないと」

「産業構造を、農業から工業中心にしていかないと」

「品質管理や情報処理も必要です」

「交通インフラの、小型鉄道の様な蒸気動車もありましたね」

「皆さんそう一度に言われても。では、まとめておきますか。シーロさん、後は?」


「基礎生活分野、インフラの拡充に関する無償援助。同、資機材などの購入に対する無償資金協力。同、連携と人材育成支援の無償援助。テロ対策等治安用品、防災用品・災害時の復興支援無償援助。開発支援、貧困削減戦略支援無償援助。環境・気候変動対策無償援助。一般文化、草の根文化推進無償援助。で、終わりですね」

「イヤ、実に皆さん熱心ですなー。うちの若手にもそのぐらい意欲が有ればねー」

「マー、本当のところ、うちもカトー卿のレクチャーを受けるまでは皆、ボーとしていましたがね。ハハハ」

「ご謙遜をなさらなくても良いですよ。殿下。では、私たちももうひと頑張りしましょうか?」


「今回は時間が足りなかったのですが、文書にしておきますのでよろしく。その観光コンテンツの開発事業ですが、音楽や、伝統衣装などを活用したエンターテイメント事業や、暮らしや食事などのイベント、伝統文化などをテーマパークにする事業の事です。エェ誘客に効果的で、斬新な企画を考えておりますが、ケドニアも合同でという事でどうでしょう?」

「ホー、興味深い話ですな」

「そうそう、他にも話が出ていました。これは無償援助と言う話とちがいますが。イリア、ケドニアの紛争予防協力。同、安全保障条約締結が残っていますね」

「カトー伯爵、休息を入れましょう。我々もですが、両国のシェルパの皆が、青い顔をして倒れそうですから」


 ※ ※ ※ ※ ※


遠征軍司令官並びに将軍の筆頭は、カシミロ。第2軍団は、エドムンド。第3軍団は、リノ。第4軍団は、ルイス。第5軍団は、カルリトス。第6軍団は、カミロ。各軍団長と外交協議に出た者が、会議を始めた。


「では、カシミロ殿はケドニア側との協議で、魔法使いと術師を12000出すと言われるのか」

「そうだ、エドムンド殿」

「いわば、軍事支援と産業技術の引換だな。これによって、フェリペ父王の望まれたケドニアとの差が、少しでも埋まる事になるだろう」

「承服できかねる。方々、いかがお考えか?」

「軍事支援と産業技術の中身もあろうが、ここは司令官の意をくんで、王国として統一した行動を採るべきだ。反対されているのは、エドムンド殿だけではないか」

「それはそうだが、武人として魔獣とまみえてこそであろう」

「いや、いたずらに将兵の命を晒す訳にはいかん。それに、魔法使い達が、軍団から抜ければ戦闘力が低下する。構えて、慎重に行動すべきだ」


 人数の多い会議は、得てして何も生み出さず空回りする処だが、軍事支援と産業技術援助の内容が丁寧に説明される。さすがに最後にはカシミロが折れた。魔法使いの供出が認められ、第1軍団より魔法使いの数が2500名、術師4000名全員、各軍団は魔法使いの数が100、術師1000を出してという事になった。


 魔法軍団とも言える第1軍団は1500名の魔法使いが残るだけで、5軍団とも千の術者と100の魔法使いでともに半減となった。魔法使いだけ、と言う訳にもいかないので、魔法使合いと術者、合わせて将兵15万に、輜重と商人達6万を付けている。作戦計画もあるが、それに見合う以上の援助が有ると思って、送り出す事になった。イリア遠征軍としては、要塞に残ったのは5万の将兵。輜重と商人達2万名となった。


「カトー。人を、売っちゃったなー」

「エミリー、人聞きの悪い。作戦計画通りでしょ。それに、人材なの。派遣……軍なんだから。言ったでしょ、彼らは、今後王国の基礎となる技術を、学んで帰って来るの。だから若い術師が多いの。ケドニアは、要塞の中に小型鉄道の様な蒸気動車を、走らせるつもりなんだ。そのノウハウを覚えて帰れば、現場を知っている王国の近代建築工法と、鉄道建設技術者が一万二千人になるの。蒸気機関車は、経済援助で作ればOKだから、ひょっとしたらケドニアより早く、王国中に鉄道網が引けるの」

「遠征軍だったはずだぞ。派遣と軍との間の……は、聞かないでやるが、狙い鉄道網なのか?」

「石炭さえ、見つかればね。一気に近代化出来るかもしれない」

「石炭? 燃える石か? それなら、知っている。北の辺境都市ビルバオの近く一杯あるぞ」


 ※ ※ ※ ※ ※


「兵が15万ですか。随分と多い護衛ですな」

「それはもう。魔法使い、合わせて12000ですからね。我が国の魔法戦力の主力ですから。さすがに全部とはいきませんが、要塞に5万もいればエバントもイリアも防衛戦力としては十分に安心できると思いますよ」

「マァ、そんなもんでしょうな」

「そうですよ。ところで伯爵、今回の協議はこの辺でと言う処ですか?」

「そうですね。帝都のナゼール宰相に、協議内容を報告して決裁を仰ぎます。その後、アンベール皇帝陛下にイリア王国の派遣軍到着を上奏します。して、使節団の訪問は如何されますか?」

「皇帝陛下と宰相との、派遣軍のご挨拶ですか。それならば、特別使節団で表敬という事になりますね」

「では、私は使節団の訪問手配と、帝国の役人達と援助の実行の事で、打ち合わせとも思いますので一度帝都に戻らないと。なに3、4日向こうにいて、援助計画を詰めに直ぐに舞い戻りますよ」


「伯爵。アンベール皇帝陛下とナゼール宰相との、特別使節団の謁見という事ですね。いずれは、私も帝都に行き、皇帝陛下にお会いできると思いますが、その先触れとしてどうでしょう」

「そうですな。表敬訪問という事でよろしいですよ。喜んで手配致しましょう。人数はいかほどでしょう? 高速馬車は5人乗りですから、私どもは二台でまいりましたが、大人数ですと馬車の手配で少し日を頂く事になりますが?」

「ご快諾して戴いた様で、嬉しいですね。そうですね、後程、人員の調整をしてお知らせします」


 ※ ※ ※ ※ ※


「さて、あまり時を置くのも何だな。帝都への特別使節団だが、表敬訪問という事だから、少人数でも良いだろう」

「そうですね。殿下、伯爵も早めに戻りたそうでしたから。それがよろしいでしょう」

「では、語学が堪能なカトー卿と、エミリー少佐、実務のシーロ副伯、外国官は二人はいるだろうな。影の小頭セフェリノは、外せないだろうしなー」

「今回、馬車を1台都合してもらってですね、6人のうち5人が男ですから、エミリー少佐には女性と言う事も有り、男だらけの馬車では不都合もあるでしょうから、外れてもらいましょう。護衛にはセフェリノがいますし」

「そうだなぁ……、そうなるか。では、シーロ。表敬訪問者の了解を取っておいてくれ。セフェリノ、イリア公使館には、オスカル・マルセロ・サンティアゴ・ボルレゴ公使だったが、他には誰がいる?」

「副公使のアルセニオ・オダリス・エスピノサ・ノエミ、公使館員はアグスティン・ノエミ・グアルディオラ、ファビオ・カナバル・モヒカですね。家族も入れて14名です。影が一人、ウーゴ・デラ・デル・カンポが帝国人に成りすまして、公使館の下働きとして雇われています」

「アルセニオが居るのか?」

「ご存知でしたか?」

「あぁ、魔法考証の先生が一緒だったからな。懐かしいな。マ、そのうち会えるだろう」


 ※ ※ ※ ※ ※


「ジョスラン伯爵。帝都表敬訪問者として、シーロ副伯、カトー卿と、外交官はセフェリノ・ロレンソ・マネン、エルナンド・パレンシア・ガゴと、アルフォンソ・アレホ・バルデラス・イ・アルマハーノという事でお願いします」

「5人という事ですな。なら来た時の馬車をそのまま使いましょう。1台分の5人を下ろして、イリアの皆さん5人に乗っていただくという事で」

「ケドニアには不都合、無いですか?」

「なに、その5人はこのまま残って、援助の細目を作っていてもらえば良いので。私も帝都で用が済めば、すぐにでも引き返しますから。それに5人とも、馬車に乗らなくて良いと知れば大喜びですよ」


「高速馬車ですと、リューベック川を渡っても4、5日で帝都に着きますからな。疲れますがね。何しろ、夜昼関係なく、馬も馭者も次々と取り替えて、容赦なく馬車を走らせます。脅かすつもりはありませんが帝都まで1700キロ以上です。実際、この高速馬車は慣れるものではありません。マァ、遠慮なさらずとも、カトー卿が同好の士と分かった以上は協力を惜しみませんぞ」

「いま、容赦なくと聞こえましたが? 冗談、ですよね」

「ハハ、私も同行者が出来てよかった。こんなに、うれしい事は有りませんな。帝国の為とはいえ、高速馬車に乗るのは理不尽だと、かねがね思っていたのですよ。カトー卿の様な、同行の士が出来てホント良かった。道々、語り合いましょう。私は爆発系なら何でも好きなのですよー。カトー卿はどんなところが好きなんですか?」

「使い方によっては、人を傷つけたりするんですけど、火器には、ロマンを感じるんです。爆発がお好きなら、ジョスラン伯爵。僕、花火と言う爆裂火魔法が出来るんで、今度ご覧に入れます。けど……伯爵、字が違います。同行じゃなくて同好なんですよね」


(大変な、旅になりそうなだ。シエテの町の時に、出会った疾走する騎士さんがいたが、早馬の替わりに馬車と言う訳か。江戸時代の仕立て便でも、人が沢山いるリレー式だし、昼夜も関係なしにと言うのも同じか。江戸から大坂間を、人が走って570キロの距離を、2日、時速11キロちょっとだそうだから出来るのかもしれないなー)


 ※ ※ ※ ※ ※


「ウゥー……今日ほど、1日が27時間だと言うのが恨めしい」

「カトー卿。何を、バカな事を仰るんですか。1日27時間は、大昔からです。馬車に酔いましたか?」

「1700キロ÷27時間x5日で、時速13キロです。4日でも16キロいかないですよ。1日中移動しないで、夜になったら寝ましょうよ。食事に出る、馬車弁って言うんですか? あれ美味しくないし」

「カトー卿は、相変わらず計算が早いですな。それに中々、計算通りに行かないのが旅というものです」

「エエ、でも遠い異国のケドニアまで来て、何かあるなと思ってもすぐ通過です。面白くないです。外国の人が、新幹線から見ている気持ちが分かりました。美味しい駅弁食べたいなー。ビールも飲んでないよなー。富士山見えないかなー、曇りだけど。東向きに進んでいるから、北側の窓にいないとなー」

「みんな、大丈夫だ。エミリー少佐によると、カトー卿は時々こうなるそうだから。なーは、聞き流す様に」

「そうですか。私はてっきり……。イヤイヤ、カトー卿のように若くて夢多き人生と言うのは、良いものなんでしょうなー」


 ※ ※ ※ ※ ※


 リューベックライン建設と同時に、帝国では極秘に或る建設物が着工されていた。これは、魔獣と帝都で戦闘状態になった場合に備えて、帝室や中央機能を避難させる為に、中央山脈の南郊の山腹を掘って造った、巨大な地下宮殿の事である。鉱山の入り組んだ坑道を利用して造られた為、口さがない者には地下迷宮とも呼ばれる施設でもあった。


 公式名称、バハラス大本営と呼ばれるこの施設は、帝都ヴェーダから170キロと比較的近く、開発が進められていた鉱山をさらに掘削拡大して設けられた。ケドニア要塞とは違い、近年の工事なので設備的には遠く要塞に及ばないが、鉱山を使用する事により、規模的には同程度が造営できると見込まれていた。

 必要とされる作業用道路は鉱山が有る為、すぐにでも拡大して使用可能であった。また坑道には、人力や馬によるトロッコではあるが、線路が敷かれていた事も幸いした。


 このバハラス大本営建設予定地の近くには開発局の火薬などの爆発試験場が有るだけだ。また、山地でもあるので人口が少ない。その為、対諜報活動の規制がしやすいという事でも選ばれた理由の一つである。


 大きく3か所に分けられた施設は、皇帝一族が避難し生活できる帝室エリア、次は宰相の内府機関及び関係者と商業ギルド、同秘匿魔法通信班の政治エリア、やや離れた処に軍関係と備蓄庫の軍エリアが建設される事になっている。なお、工事規模の拡大に伴い、スクロヴェーニで主要街道を拡大補修中の土魔法使いの一部を呼び戻して作業にあたらせている。


 関連施設として大量の物資輸送は、バハラスに補給基地を建設するとして、物資搬入をごまかした。ここには、発見間もない重魔獣用の頑丈な鉄製扉が付けられた為、補給基地の防御設備として使用するのには過剰であると、いぶかる者も多かった。だが、その鉄扉の後ろには物資保管室を通り抜け、備蓄庫エリアへと続くトンネルが掘られる事は、当時は知る由も無かった。


 3か所のエリアは、第1期工事が終わると直ちに、拡張工事が始められた。第2期工事では、長期の籠城にも耐える様に居住エリアの拡大は、もちろん帝都民の避難先としても使えるように、諸設備の改善と拡大が計画されていた。この第2期工事の変更は上層部からの指示で有ったと言われる。


 いずれにせよ、優先して拡張されたのは帝室関係エリアで、地下に3階建ての宮殿を建設し、帝王の謁見室には、外光を取り入れる為に、鏡の反射を利用した設備を導入している。帝王と皇帝の一族には身分に合わせて、休息室、寝室、仮眠所、居間、書斎、応接室、医師控室、メイド室、風呂、トイレ、演劇室、等およそ帝都の宮殿と遜色のない部屋が用意される事になる。


 固い岩盤の為、難工事が予想されたが開発局が用意した、爆薬と導火線が岩盤を打ち砕いた。ナゼール宰相は、逆に岩盤の堅さにより、強固な建物になるだろうとして喜んだと言う。ここに至って、地に響く爆破音で少ないとはいえ周辺住民に、バハラス大本営の秘密造営を知られる事になる。拡大する一方の工事と、大量の物資の搬入は、帝王を始め帝王一族が来るのではないかと噂された。


 もはや公然の秘密となった、この拡張工事には、魔法使い達だけでは足らず、バハラスの地域住民が加わる事になった。彼らは爆薬によって破砕され、崩された石塊をトロッコで運び出した。最初、この発破も開発局が行っていたが、人員の欠乏の為に途中からは帝国軍が行っている。


 この時、皇帝陛下と帝王一族の帝都からの移動には、装甲馬車が使われる予定で有ったが、ワイバーンの襲撃が思ったより激しいとして再考される事になった。折しも、蒸気動車の実用化試験が良好だった為、これを用いる事になった。これは、鉄道使用を目的としたものでは無く、元々は自立して街道を走行出来る為の物で、自動車両とも言われた。


 馬車と違い、時速35キロを一定走行する事が出来、人も荷物もそこそこ積める。5時間弱で、バハラスに到着できるのも魅力である。装甲板を付ければカラス型魔獣や、ワイバーンでも小型の物なら、跳ね返せるだけの防御力があった。攻撃力は皆無だが、攻撃火魔法を持つ魔法使いを、同乗させれば問題ないとされた。


 試験と、運用方法が研究する為に12台が製作予定とされ、うち三台が先行して配備された。大きさは日本で言う中型バスぐらいである。この車両はその後、はかなく散り去る戦場のあだ花ともいわれ、多砲塔自動車両を生み出す事になる。初期型は時とともに、人々の記憶からも消え去る。しかし、豪華に咲いた花であった。


 運用結果としては、道路整備された帝都周辺の街道でも、乗り心地は非常に悪かった。且つ、車内中央のボイラーの燃焼により作動する為、夏場でなくとも非常に暑かったと言われる。装甲板に覆われた車体は、強制換気設備が付けられるまで、外気が取り入れられず蒸し風呂のような状態であった。


 車両操作には、4名が必要とされた。車長、操舵員、機関員、魔法使いで、機関員は副操舵員(中型バスの大きさなので、当時は小型の船舶として扱われた。船舶用語が多いのはこの為)を兼ねる。これも兵科新設の先例となった防空気球中隊と同じく、手狭な車内空間を有効利用する為に小柄な女性が選ばれている。

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