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軍事支援。産業技術の援助

 ※ ※ ※ ※ ※


「シーロ、お前の言った通りだな」

「殿下、お分かり頂けて良かったです。こんなのが、そう何回もあるとは思いませんが。話を聞いた外交官達が、王国の未来も心配だが人間不信になりそうだと言っています」

「国家の運命を左右する話などそう何回も、あってたまるか!」

「殿下、お言葉ですが甘いですね。まだ夜明け前まで少しあります。あの、カトー伯爵なんですよ」


「影としては、どうなのだ。カトーの言う通りなのか?」

「ハイ。もう、影は要ら無いかも知れません。あんなに詳しく、ケドニアの事を御存じだとは、頭のリゴベルトに報告しないと」

「セフェリノ、そんなに落ち込むな。エミリー少佐、まだ話は続きそうか?」

「あの状態のカトーはー。そうですね、朝食はここに運ぶよう頼んでおきましょう」


「それで、まず発射体が変わるでしょうね。今は司令官達が持っていた先込めタイプは弾丸、発射体の事です。これが変わって行きます。1つ1つ作っていた物が鋳型の何だったかな? そうキャスティングだったかな? ワックスで、くし団子状かな? に変わってバリ取りと研磨が行われるようになり射程が伸びます」

「カトー様の仰る通り、カタパルトも、遠くへ飛ばす時は真球を選ぶって言いますしね。理に有ってますな」


「そうです。技術革新が、最初は少しずつなんですが連続して起こって行きます。最近、エバント王国が押されているのも紡績機や正確な動作をする機械、これは時計台を思い出して下さい。あんな正確に、時を刻む技術があるんですよ。それを紡績機に応用したりすれば、生産性がどんどん上がって行きます」

「確かに、納得できる話ですね。王国にはロンダにしか時計台はないと言うのに、帝国では小さな都市にまで有るそうですな」


「ここで、エネルギーに新しい物が加わります。水車の、水力では無く蒸気ですが。同じ水を使うのですが、使い方が違います。沸かして湯気を使うんです。影さん達は、気が付いているかも知れません」

「蒸気機関の事ですか? それなら、一部ですが帝国の北に有る、紡績工場ですでに使われているという事です」


「そうでしょうね。波紋が広がるように、ほぼ同時にでしょうが製鉄が技術的にさらに進歩します。鉄道馬車で培った技術だそうですが、石炭を使うと、もろい鉄が出来ていたのを克服したんです。帝国中央山脈の北側には、豊富に石炭が有ります。木炭と違い、大きな火力の出るコークスと言う物が出来ているそうです。こうなると直ぐに良質な鉄が出来て、工業用の様々な機械が出来てきます。その一つが、馬を使わない鉄道です」

「そうだったんですか。これで、蒸気エンジンの製造数増加と繋がりました」


「すでに帝国では、車輪製作用に旋盤なる物が稼働しており、ネジやボルトなども造られています。これは、驚く事にだれが作っても共通の大きさなので、たとえ違う者が作っても使えるのです。もはや、一個一個の形を合わせる必要は無いのです。これが部品の共通化です。王国でも、今回遠征時に同じような剣を、何千と作りましたが少しずつ違います。それが皆、同じ形なのですよ」


「規格が統一されるという事は、帝都で作るのもブロージョの様な、離れた場所で作くっても同じものが出来るという事です。いずれ、この鉄道馬車が同じ形、同じ生産性を持って作られれば、線路がひかれて何千キロもの鉄道の運行が可能になります。ロンダから113に来られた時の、あのアレキ文明の道が縦横に走り、鉄道なる物か都市を結ぶ。何時か日かは、帝国は膨大な量を、転送魔法に頼ることなく使えるようになるのです」

「そんな強大な帝国が作られつつあるのかー」

「そうです。よろしいですか? 軍事援助は最新武器で、産業技術の無償援助を引きださないと、後々王国の行く末が心配になりますよ」


 ※ ※ ※ ※ ※


「イリア王国の皆さん。最初、マチュー少佐が訓練の解説をいたします。その後、マルタン大佐が図上演習を指揮いたしますのでご覧下さい」

「では、マチュー少佐。始めてくれ」

「ハイ、了解しました。では、皆さんは軍関係にお詳しいと思いますし、演習開始時間の事も有りますから、ざっとだけという事で」

「よろしく」


「どこの軍でも同じだと思いますが、今回の訓練と演習は個人と部隊の能力アップを目的としております」

「……」

「この要塞の兵員は基本的な軍事教練は終了しております。号令を掛ければ動くという事です。正直、ここへ避難して来てから志願した者が多数居ります。部隊が迅速に行動し、指揮官の命令によって力が発揮できるぎりぎりのレベルです」

「……」 

「ですから、兵には使命感を育て、任務の遂行と規律の厳守、団結して事に当たる。部隊指揮官や下士官には、士気と規律。特に団結力を気にして指導しています。魔獣は数で来ますから、こちらも連帯して団結力を上げないと太刀打ちできないと言われています」

「……」

「あと、号令は努めて声を大きくします。まぁ、戦場では今までもそうでしょうが、特にこれからは、射撃音や砲の発射音が有っても、号令が聞こえるようにと思っています」

確かに、どこでも一緒だった。


 2時間程、屋外での訓練を見たりして早めの昼食、これは外で兵と同じ食事だったのでマチュー少佐が恐縮していた。ケドニアでも将官の食事は兵と同じではない。高級レストランと言うほどでも無いが、それなりの物が用意されるのが普通だ。しかし要塞ではラザール司令官の命令で、将官も一般兵と同じ食事を取るらしい。


 殿下達は特に気にした様では無かった。しかし、貴族それも王族にシチューとカタパンはと思ったのだろう。いつものメイドさんが、気を使ったと見えてデザートの果物とお茶を持って来てくれた。その後は、図上演習の見学となった。


 30人程が居る、割と大きな部屋に通される。机の上には、要塞近辺の地図の上に部隊や、魔獣に見立てたコマが置いてある。

「マルタン大佐が、演習開始を指示されます」

「皆さんよろしく」

「これより兵棋演習をご覧いただきます。魔獣に対しての要塞侵攻時の仮想反撃戦闘です。対応力向上もありますが、対魔獣戦の戦訓の検証を兼ねています。中々思うように行きませんが、そこは不備を見つけるという事で勘弁してもらいます」

「コンスタン少尉、用意は良いか?」

「ハイ、いつでも」

「よし、状況開始」


コンスタン少尉が魔獣の状況を述べてシチュエーションの完了である。

 ステファノ方面から、要塞に向かい魔獣が急速接近中である。ヴォメロ前哨基地からは、その数、約十万との報告が入った。魔獣主力は、帝都方面に向かう主力と、要塞に向かうものとに2分されていると思われる。当要塞に、襲来する魔獣は、明朝には近接して攻撃を開始すると思われる。


 イリア王国遠征軍は、展開中である為、軍団は魔獣に対して脆弱である。全王国軍団の、防御態勢が整うまで54時間を必要とし、作戦行動は取れないものとする。

但し、イリア軍は先行して展開済みの第1軍団5万名は作戦可能とする。尚、ヴォメロ前哨基地は秘匿とされており、今作戦では遠距離偵察のみとし、他の行動は不可とする。


現在、当要塞に分離侵攻中の魔獣の進行を遅延させて、イリア軍20万名の防御態勢までの時間を得よ。


「魔獣の進行を遅らせるのが任務なので、要塞内の連隊を出しての、防御戦闘となります」

図上では、想定訓練として黒色の小さな木片が重魔獣として登場したり、赤く塗られたコマが大型魔獣群だったりして現況を表現していく。各兵科の担当官や、部隊指揮官が出て来て、あれやこれやとコマを進めたり外したりしている。


「ここで、要塞からの砲撃と連隊の榴弾砲が、魔獣の先陣を破壊したらしく侵攻を頓挫させてしまいます」

 砲撃戦が上手く行き、派遣した連隊が善戦して魔獣を退却させるという流れで頭上演習が続けられる。そして、勝ち負けの審判であるマルタン大佐が、勝負ありと宣言して状況が終了した。


(ですが、そんなに上手く行く? とは思えませんよねー。無理ゲーだとも言います。本当なら、王国軍は半壊していますよ。お客さんだから喜んでもらおうかとかいうより、政治的色合いが、強い感じですね。帝国の反撃は、凄いぞという事かもしれません。だとしたら、この図上演習は帝都からの指示ですね)


 ※ ※ ※ ※ ※


「二人とも、出て来てくれ」

「セフェリノさん、この方たちは? いつも、世話してくれるメイドさんじゃない?」

「ハイ、帝国要塞に潜入させてある王国の影です。独断となりますが、本来なら王都のセシリオ殿下と、シーロ副伯しかご存じないはずです。派遣軍司令官のカシミロ殿下も知らぬ事ですが、カトー卿とエミリー殿にはお知らせしておいた方がよろしいかと」

「ハスミン・ソルデビラ・ルカスと、エメリナ・サラビア・カプデビラです。よろしくお願いいたします」

「エミリーの、言う通りだったね」

「なに、たまたま気づいただけだ」

「さすがは、エミリー少佐ですな」

「以後は、ケドニア側に知られたくない時の連絡や、指輪の通信での魔力切れ、何でもご下命ください」

「よし、2人とも下がって良いぞ」

そして2人は、影らしく一言もしゃべらず軽くうなずいただけで、再び姿を消した。


「ハスミン先輩、緊張しましたねー」

「私もよ。エメリナさん、黙っていてね。ホント、何にも言えなかったし。思わず目を、伏せちゃった」

「エー、先輩もですか。私もそうなんですけど。癒やしの魔導師様でしょー。小頭、急に言うんだもの。そうだ、小頭と言えば、終わってからお手紙もらったでしょ。先輩宛ての、恋文ですか?」

「何言ってんの、指示書よ。カトー様から新しい料理法を伝授して頂いたから、次の昼食の時に使う様にって」


 ※ ※ ※ ※ ※


 ケドニア外交団との外交協議は続く、そして、あの鉄血宰相ナゼールの腹心ジョスラン伯爵もやり手であった。日中は協議が行われ、その苦労を癒す目的で晩餐会の饗応は今宵も開かれていて、今宵、3日連続した宴が終わる事になる。

「産業技術の、無償援助ですか?」

「それは、追々お願いします。まずは、武器援助についてご相談を」

「帝国では、火器の大量使用が前提の軍が作られつつあるとか」

「エ! そのような事を何処で?」


「私どもにも、耳は有りますから」

「そうですな。では、ご存知だという事ですね」

「ハイ、そこで武器援助です。最新型の連発銃と、曲射できる榴弾砲か、ひょっとして空飛ぶ魔獣用の高射砲なんてのもありますよね。それとも重魔獣用の対戦車砲、じゃなくて対重魔獣砲があったりして。もちろん、無償で軍事顧問団、平たく言えばコーチを付けて下さるようにお願いいたします」

「ウーン。帝国の軍事機密を御存じなのですか?」

「エエ、少しだけですけど。例えばですね、これからは空中で爆発して、制圧が出来る榴弾砲が魔獣戦には良いでしょうね。カタパルトより長射程の物もあるし、高精度ですが、装薬量が多くなるので重くなります。まぁ、重いのは肉厚にしないと砲身がもたない為ですが、経済性と砲撃持続性が良いですからね。主力にするのは、良い考えだと思いますよ」

「そのような? ……事までを御存じとは」

「でも、今のバリスタだけでの対空装備はいただけません。ア、そうか。やっぱり、高射砲が有るんですね。うちも欲しいです。で時限信管出来ました?」

「時限信管? 何ですか? それ」

「厄介ですもね。ワイバーンやカラス型魔獣は、やはり位置算定に、てこずりましたか? 無理も無いですよ、発射前の設定は難しいですもんね」

「仰っている事が、良く分かりませんが、それ、帝国の上級機密指定ですよね。ひょっとして王国は、開発出来たんですか?」

「偶然、う・わ・さ・を、聞いただけですよ。それより、重魔獣用の対戦車砲はどうでした?」

「対戦車砲?」

「あぁ、すいません。こっちでは、対重魔獣砲とでも言うんでしたか。重魔獣を、撃破、破壊するやつですよ。やっぱり徹甲弾なんですよね。初速はどの位なんですか?」

「カトー卿、伯爵もお困りの様ですよ。その位で」

「あ、気がつかず済みません。趣味だったので」

「随分と、よく御存じですな。私も似た様な事が好きですが、それ程、ご存じでしたら学者になれますよ」


「お褒め頂き恐縮です。では、次は今一番話題である、個人用武器について考察しておりますのでお聞きください」

「カトー伯爵。今宵も晩餐会が有りますので、ほどほどにお願いいたします」

「シーロさんもちろんです。それまでには。では、昼食をとりながらという事で、メイドさんには故郷のサンドイッチと言うの、お願いしておきましたからご賞味下さい。会議をしていても食べれるという便利な食べ方なんですよ」

「カトー伯爵。ちゃんと昼休みぐらい取りましょうよ」


「では、再開しましょう。次は一般的な前装滑空式小銃。いわゆるマスケット銃ですが、コックを上げ、引き金を引くことで先端に付けられた火打ち石が当り金に激突し、擦れ合って火花を起こし、これとほとんど同時に火皿の火花がおきて点火薬に着火すると言う仕組みです。炎は、火門の中を通って銃身底の発射火薬に達して大きな爆発を誘発する。銃身内のガス圧により、弾丸は銃口方向へと押し出され発射されると言う訳です」

「……」

「初期には複雑な構造で部品も多かったそうですが、しだいにモジュール化する訳です。当り金と火蓋のように、部品もわずかになっていく。この方式は、扱いが簡単で、火種や火縄の維持が不要なので、安く大量生産に向いているはずです。いきおい、火縄式と歯輪式に代わって普及します。時代遅れの武器なのは確かなので、これは要りません」

「ウゥー。……すっかり、ご存知と言う訳ですね」

 

「不発の原因は、火打ち石の摩耗や、湿った火薬、装填の不手際ですが。空気が湿っていると約三割の確率で不発が起こるそうです。不発だけでもなんですが、点火薬と装薬が別なので、点火薬だけが発火して不発になる。すると火薬の不発に気づかずに装填を繰り返して発砲すると、2倍の力で爆発しますね。これで銃身が 破裂して重傷を負い、失明、肩の脱臼や打撲で腕が利かなくなり戦線離脱となります」

「確かに、その報告も上がっています。過去の事とは言え、前装銃は帝国も苦労しました」


「まぁ、弓兵の運用を応用した密集横隊なので、後列が銃の事故を起こすと、しゃがんだ前列の兵士が火傷や裂傷を受けます。頭の上ですからね。立っていても耳の横ですからね。訓練なんかでは、ベテランは勝手に装薬の量を減らしますが、これでは撃ってはいますが、実戦ですと弾丸の威力が無くなり、 飛ばないし狙っても当たらない事になります」

「なるほど、大勢で撃つので、誰が火薬を減らしたか分から無いし、仲間を怪我させるのも何ですからね」


「それから、銃になれていない兵に有るんですが、慌てて装填させると弾は飛びます。しかし、きちんと銃底に火薬を入れてないで発火すると、玉と一緒に火炎も噴射します。これでは爆発力が弱くなり、弾丸は目標の手前に力なく落ちる。格好悪いだけじゃ済まず、吹き出す火の粉は、視界を奪い、慢性的な目の炎症になります」

「頭の上でこれをやられたら、誰でも怒りますな」


「戦場では、訓練していた晴れの日ばかりでは有りません。前装式銃は雨に弱く、火縄銃ほどではないですが、銃身の中まで濡れになると乾くまで使えません。布を使ったり、火であぶって銃身を乾かしたり、間に合わないと銃剣と気合でいく事になります」

「それでは、高い武器を揃えても。槍で十分以上ですよ」


「そうなると、薬包の出番です。玉と量った火薬にして一個ずつ紙で包みます。帝国は紙の生産先進国ですしね。油紙で包んで防水と湿気を防ぎ、使う時には歯で封を切って使います。聖秘跡教会では、牛のタブーは無いと思いますけど、僕の知っている宗教では、牛は神様なんです。その油紙に牛の油を使ったので、大きな叛乱が起きました。セポイの叛乱と言うんですけど、東の大陸のイルだったと思います」

「そういえば、カトー伯爵は東の大陸が出身だそうですな。お詳しい訳だ。大陸は、火器が随分と進歩しているのですな。憶えておかないと」


「弾は音より早いそうで、近いと低い音で虫の様なブーン。威力の無いのはヒューだそうで、ベテランには分かるそうですよ。連射できても十発ぐらいで銃身が熱くなりすぎますからね。速射だと込め矢を飛ばしたりしますし、隊列で撃っていますから一斉射の後は自分のペースと言う訳です」

「そうなるでしょうな。正直な話、発射音が響いていれば景気も良いですからね。みんなが、闘っているのが分かりますし」


「照準なんか戦場では、だいたいです。狙うのに時間がかかるより、むしろ数打ちゃ当たるです。魔獣が押しかけて来るのを見れば、3列横隊だと3列目の兵は撃たずに、銃剣の用意をするんじゃないかと思います」


「カトー伯爵、カトー伯爵、だいぶ時間が」

「エ、もうですか? 早合も弾薬箱、肝心の後送式弾丸のジャイロ、まだ最新型の連発銃についても」

「ジョスラン伯爵に、ご迷惑ですよ」

「そうですな。……時間ですな。でも、私こう言う、お話たまらなく好きなんですよ。残念ですねー。同好の士だったんですね。しょうがない。また、今度という事にしますか」

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