表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
癒やされたいキャンパー。異世界を癒やしに行く。  作者: カトー
第8章 魔獣の進撃
80/201

イリア王国 魔獣討伐遠征軍団編成される

 イリア王国歴181年5の月22日

 王国では遠征軍の編成が始まった。前線投入まで、行軍するのに100日。到着後の休養は手短に済ますとしても配置と展開には30日はかかるだろう。たとへ不可能が可能になったとして明日出る事が出来ても、魔獣と対峙する迄に百三十日以上は絶対に必要とされる。果たしてケドニアはどこまで耐える事が出来るだろう?


 急がせれば集団での戦闘訓練もせぬまま、軍団を作り、遠征軍とし、ケドニア神聖帝国の救援に赴き魔獣と戦い勝利せねばならない。まだ、この時点でイリア国内の転送陣は未確認であった。その故に要らぬ混乱を招かないよう、転送陣の事はまだ伏せられていた。


 王国では役人が、高札場で太鼓や銅鑼を鳴らして人を広場に集めている。人々は、遠征軍は王子毎に戦闘軍を作るとしらされた。近衛師団を拡大して軍団を編成するにあたり、兵員として共に戦う一般市民・貴族・領主の兵を一兵でも多くする必要があった。王国では、過去に片道50日以上の戦争動員令が出された事は無かった。


 フェリペ・エドガルド・バレンスエラ・エスピナル国王は、王命により貴族・領主達と結ばれた軍務出兵条項の50日以上の動員はないとする条項を変更し、特例として今回の遠征期間を認めさせた。その為、貴族・領主達の不満や不安を配慮し、国庫より50日以上の費用の大部分を出し、戦果を挙げた者は領地の加増を行う事となった。また、逆らう者には重い罰則が下されると匂わせたのは言うまでもない。


 ケドニア神聖帝国までは、人がただ片道だけでも歩くと100日以上かかるだろう。戦いが長引けば1年2年というのもあり得る事だ。動揺が広がりかけた。その為王国では、参加した一般市民には、以後の兵役の軽減・減税・報奨金を。また、残置者の権益の保護を約定した事により、人心は安定する事になる。この時、聖秘跡教会は人類の名の下に、聖戦であると宣言し魂の救済を説いたのも役立った。


 ただ、ここでおかしな噂が流れてきた。軍団の集結地は王都北西のある森であると。次に王国は、稀有な魔法を再発見し、この度の遠征で使用されるだろうという事。それが、いにしえの転送陣であると。一笑に伏す者も居たが、王都からの街道拡張が行われ始めるのを知ると人々は考え込んでしまった。なぜなら、軍団集結地が発表されたのだ。噂通り、王都練兵場に集結し、100キロ離れた北西の森に向かうと。


 王室も時期を選んでいたのだろう、フェリペ国王の譲位が取り沙汰された。しかしこれは元々が人心の安定の為の見せかけで、第一王子セシリオ・アルバラード・バレンスエラ・カナバルがすでに事実上のフェリペ国王名代となって政務の一切を取り仕切っている。これまでは一部の者しか知らなかったが以後、国王と見做されるようなったのは周知の所である。


 これは同時期、王都ロンダで数々の催しが行われると発表され、成功裏に成し遂げた手腕によるものが大きいとされる。以前から、聡明、博学として知られていた殿下だが、この危機にあたり、転送陣の再発見をし、ドラゴンを操る魔法使いを服従させる事が出来た為ともいわれる。そして、ケドニア遠征魔獣討伐軍は第一王子セシリオの信任厚い、第二王子カシミロ・オスワルド・バレンスエラ・オリバレスが、指揮を取る事になった。


 最終的には、遠征軍は6つの軍団で編成された。20万の兵(内2万人が、何らかの魔法を使える14000の術者と、6000の魔法使いである)を将軍達が指揮を執った。遠征軍司令官並びに将軍の筆頭は、第二王子カシミロで近衛師団より魔法兵(4000の術者と5000の魔法使い)が抽出され、魔法軍団とも言える第1軍団5万人を指揮する事になる。


 フェリペ国王には10人の男子があったので、6人の王子は継承権を考慮されて、15万人を5軍団3万人(2000の術者と200の魔法使い)として指揮を執ることになった。尚、王国では10年ほど前に軍組織は軍団及び階級制度に変わっている。編成にあたって王族以外は、身分より能力が優先される、初めての事例となった。


第2軍団は、第三王子エドムンド・ギジェルモ・バレンスエラ・ナバルレテ

第3軍団は、第五王子リノ・サムエル・バレンスエラ・ブリト

第4軍団は、第七王子ルイス・モデスト・バレンスエラ・グリエゴ

第5軍団は、婚外子の第一子カルリトス・レルマ・テラサス

第6軍団は、婚外子の第三子カミロ・ペレス・ソルデビラ


お留守番

第四王子、ルカス・アスドルバル・バレンスエラ・フレータ 

第六王子、オビディオ・タデオ・バレンスエラ・パルラ

婚外子の、第二子カルリト・イバラ・デレオン


 王国は帝国の戦闘を教訓とし、過ちを学習し魔獣との戦いに備えた。帝国での魔獣との戦闘での敗因は、接近戦に持ち込まれ数で圧倒された事による。同じように戦えば帝国のように敗北する。数には数で対抗するしかないだろう。しかし、王国の最大動員数を考えても、数で対抗するのは無理だ。

 もたらされた報告を考察するとイリア王国の兵だけでは、例え魔法使いが多くとも、圧倒的な数の暴力の前には無力だと予想された。やはり、ケドニア・エバントの両国と力を合わせるしかないと結論付けられていが、はたして軍政も装備も違う軍の共闘が出来るのかも危ぶまれた。この様な心配事は、それこそ山ほどあったが遠征軍の準備は進められた。


 王国の治安防衛人員は、通常人口の2パーセントで12万人であるが、他国からの侵略などのような緊急時では、最高動員数は34万を想定している。即時対応する近衛師団では兵力の拡大を可能にする為、普段から指揮する将官や下士官を多く抱えている。また商業ギルドの冒険者達には、軍務や戦闘可能なレベル付を行って出兵に備えられている。動員令とも思える、軍団編成の準備が完了していたのが幸いした。


 今回の魔獣との戦いには多くの志願した市民も加わった。魔獣の進攻により中止とはなったが、王都で毎年開催される槍試合の為、参集していた騎士たちがこぞって参加したのが誘い水となった。嘗てないほどの志願者があったのは、王都各所で行われていたイベント会場に、募集用人員を置いた事が大いに幸いしたといわれる。


 また、今回の遠征は、過去に無い破格の待遇が用意されているとの言う噂が聞こえてきた。何と、兵士全員に給与が支給される、100日分は転送時に前払いがあり、帰ってきたら200日分渡されるらしいと。この噂が知られると、今回の遠征は勝利に終わるだろとの推測が巷にあふれた為に、応募者が増えた原因とも思われる。


 人間相手の戦闘の主体は訓練された歩兵、弓兵、騎兵だが、魔獣戦の基本は歩兵と弓兵である。本来なら、訓練期間など設ける事の出来ない筈であったが、転送陣を使用する事により行軍期間の短縮ができ、40日近くを訓練に宛てる事が出来るようになったのはまさに幸運であった。


又、王都に集合という事で物資の補給や補充に時間もかからず、商人たちの(主に食料、小麦、大麦、豆、塩であったが)買い占めが一部であったが、すぐに商業ギルドから放出されたので戦費に換算すれば微々たる物であった。これもセシリオ殿下の手腕の一部と思われる噂が流れたが、実際は商業ギルドの画期的な危機管理操作であったと言われる。


 噂通り、稀有な魔法である転送陣を使用する為、軍団には集合地の変更が言い渡された。行軍などに移動は軍団単位で行うが、戦闘開始時前には100人隊として組み直される。そして、300人、100人隊3組での移動訓練が並行して行われる事になった。大隊三百人で行動し、連隊千二百名での移動訓練が進められた。


 元々100人隊で戦う為に、階級に区分して武具を支給し訓練をしていた。3倍の300人でも、移動時のみの事であり特に大きな問題は起きなかった。よって、基幹となる近衛師団では平時において戦闘指揮だけでなく兵の訓練も100人隊単位で行われ急速な兵員の拡大にも対応できた。


 近衛師団の拡大版となった、遠征軍の将官や下士官の訓練は厳しく、規律を乱すと非情な罰則もあった。後にこの訓練のおかげで魔獣の攻撃にも耐え、しばしば優勢な敵を打ち破ることが出来たと言われる事になる。

 王都における各イベントも訓練とのメリハリを付けるうえで役立った。遠征軍派遣という殺伐とした雰囲気も弱められ、逆に経済的活況を生み出した。尚、この時期に登場したのが王都各所で広まり、入浴施設で行われる水の饗宴とも言われる水芸である。


 初期に現れた魔獣達だが、数は多くても小型魔獣1匹の戦闘力はさして人と変わらない。訓練時には対人戦が応用できた事も大きい。大型の魔獣については、魔法使いによる結界と遠距離攻撃が有効と思われた。当然ながらケドニアの戦訓として接近戦においては多数対一が基本とされた。


 主戦力である歩兵が装備した武器は槍・剣・短剣の3つである。槍は主装備とされ長めの物と、短めで軽い投槍の2本持ちある。長槍は移動時には、馬車に積まれ戦闘前に配られる。

 剣は、刃渡り70cmほどの片手剣で鞘を紐で吊って肩からかけ、腰のベルトにつけ左前に帯剣する。 盾に引っ掛からずに抜ける為、取り扱いが楽である。これもしだいに対魔獣用にと長剣が好まれるようになる。短剣は、護身用というより食事時のナイフと日用品としてのカッターである。


 剣は左脇に、そして足にはすねあてを装着した。鎧は胴鎧で支給されたのは安価な量産品である。補強用に青銅の小金属板を繋ぎ合わせてある。指揮者には頭部と胴体だけの鎖帷子が配られ、主要な防具として使用された。右胸には、小札が付けられ一目見て階級が解るようになっていた。将官は板札鎧で、防御性に優れており機動面でも鎖帷子より軽い。常に磨かれたうえ勲章で飾られていた。


 武器の共通化は、量産を可能にして訓練方法の統一を生む。楯は、楕円形で兵の機動力重視のため軽く作られている。鉄板で補強された小手やすね当てなどの防具、兜は水滴型の鼻当てのある鉄製である。志願兵は装備や鎧が不揃いだったが軍団ごとに、色違いのストールが配られた。これは所属を明示する為であったが、首に巻いて寒さ対策と口を覆い埃よけとした。これは、止血用にも使用される事になる。


 帝国の戦訓により、魔獣との戦いでは槍と弓が有効であるとされた。槍の長さは恐怖を薄れさせる。未熟な兵でも、長槍を持てば魔獣を殺すことが出来る。ただ、騎士や貴族は長剣を持つのが身分の象徴ともされ、長槍や弓や弩は兵士の武器だった。騎士にとって弓や弩は卑怯者の武器といわれたが、この遠征では魔獣を討つことに卑怯も恥も無いと言われ好んで使われる事になる。


 槍隊では、列を組ませて面として当たらせる。柄は堅い木で作られ、シナリと強度を考慮してブナやナラの長槍が装備された。槍は、最初は叩くのが基本とされ、右手で握り左手で支えた構えから、滑らせながら突き出すという動作を叩きこまれた。

 2本の槍を持ち、5メートルの長槍と1メートルの短槍を装備した。攻撃時は槍を持った歩兵は密集方陣や横隊を組んで槍衾で横列を作り仲間同士で弱点をカバーしあった。突撃してくる魔獣がほとんどだが、長ければ距離を空けて戦えば相手の攻撃が届かず優位になる。


 しかし、槍が長くなれば接近戦には不向きで、狭所での移動や取り回しが難しくなる。槍なら短くても魔獣を貫けるし、足を薙ぎ払うこともできる。長剣より、ほんの少しだけ長い短槍は背中に背負った。短槍は投擲用とされたが、狭い場所では有効だ。森等の戦いは短槍と楯の組み合わせが好まれた。


 戦闘において、100人隊は通常は格子状の隊形に整列し、方陣による攻撃で始まる。終了時には横に広がり、包囲行動を行いつつ魔獣を殲滅する。

兵は、各人の戦歴、階級、装備に応じて4つの隊列に分けられた。

第1列担当は、前哨戦の担当。若年者・新兵・そして冒険者が主。

第2列担当は、戦闘に熟練した20代後半から30代前半の者。

第3列担当は、弓や投石機など遠距離攻撃が出来る者。

最後列は、古参の兵士が護衛にあたる魔法使いと術師達で、結界と攻撃が出来る者だ。


 本来、方陣では運動性が悪く柔軟性に欠けるが、その突撃力は魔獣との正面戦闘で無類の強さを発揮すると思われた。これが後に魔法使いの力を活用したイリア方陣と言われる戦闘集団を作り上げる事になる。


 最前列の兵士は盾を前面に槍衾を作り、後列の兵士は槍をその隙間から出して戦う。3列目の弓兵は遠距離で弱らせ、魔法使いまたは術師達で防御結界を張り遠距離攻撃を加えた。方陣を100人隊単位にして配置し、弓兵を置き老練な兵と魔法使いを中央に配置した。この方陣10個を4列に配置したのを基本にする。これで平野部の会戦でも勝利できると思われた。


 戦列の場合は3列にして、後方に弓兵を置き老練な兵と魔法使いを中央に配置した。魔法結界で前衛を守る。さらに、部隊を交代させつる戦闘訓練を重ねることで、高い継戦能力を作り、膨大な数の魔獣でも軍団は負けると思われなかった。

 志願兵の冒険者たちは、戦列に於いて個々の判断で動き、戦場の変化に臨機応変に対応できる。指揮官の指示なしでも、すぐさま戦列の乱れを防いだり、魔獣の隙を衝いたりする事が出来ると思われた。


 100人隊は90名以下の時もあれば100名を越す隊もあった。少尉以上は騎馬での移動が許されたが、隊の前線指揮官は兵と一緒に徒歩する事を好んだ。部隊の陣頭指揮を担当する下級指揮官は前線指揮官としての死傷率が高いのが特徴だ。彼らは先陣を切り、また殿を担っており責任感も強かった。


 多くの場合、開けた土地では歩兵は弓兵や投石兵また騎兵に頼ることになる。騎兵は、敵が敗走した後の追撃の役割が重要視され、そうした局面で投入されるよう訓練されていた。追撃戦が成功すれば大戦果となるが、魔獣は稀にしか後退せず戦い続けるので、遊兵になりがちであると思われた。騎兵が戦場で魔獣を突撃で崩すとう事は、無理であると判断されたので、馬を降りて歩兵となった。伝令や輜重部隊に加わる者も多くいた。


 野営時は、10人の兵士がテントと調理道具一式を共有していた。この時代、イリア王国の人々は町で暮らしていても、多くは野営技術に長けていた。現代日本の様に、意図せずともインフラがブラックボックス化されている訳では無い。大規模な部隊の、野営陣地でも数10分間で設営、撤収が出来た事がその証左であった。


 ケドニア神聖帝国の敗因は魔獣上陸後、時間が足らなかった事だとされた。帝国兵は、優れた戦闘員であると共に優れた工兵でもあった。攻囲戦にて、堅牢な陣地や恒久的な駐屯地や堡塁を建築することも出来た。

 彼らは堀や防御柵などを幾重にも設けた、堅牢な包囲線を短時間で構築し、実力の高さを示してもいる。攻撃魔法や防御結界の使える魔法使いの少なさが、勝敗を分けたのかもしれない。この時点では、魔獣の数による飽和攻撃は真に理解されていなかった。


 ケドニア神聖帝国の、対空戦では空の魔物に投石兵や弓兵、魔法を併用したバリスタや、実験的な網を打ち出す据え付け型カタパルトを用いて追い払った事例もある。百人隊の方陣は、地上型の魔物戦闘では有利であるとされたが、報告にあった空を飛ぶ魔物や、重戦車のような体躯の大型魔獣の攻撃には弱いと思われた。だが、歩兵が攻撃を撃退した例が皆無ではなく、兵の質や錬度によるが他兵科と協力して撃退したことも少なからずある。


 この遠征軍のバリスタ型の兵器は、短期間で組み立てられるよう工夫され、必要に応じて配置される。しかし、大型の魔獣の対抗用として投石機や出城代わりの攻城塔などの、大型兵器はその場で作り使用される事は出来なかった。これを考慮して、強力な力を持つ攻撃魔法師達は、最前線には出されず陣地の構築や軍団砲兵として運用され、遠距離打撃武隊とされた。


 遠征軍には、帝国の5倍近くの2万人もの魔法使いや術者が居る。だが、土魔法や遠距離攻撃可能な魔法使いたちは常に不足する事になる。イリア王国の近衛師団を核とした、緊急時の拡大兵制はかなり巧く機能した。短時間の訓練期間の割には、練度が上がっており継戦能力も高かったと言える。


やがて訓練は終わり、遠征軍は北西に進発する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ