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癒やされたいキャンパー。異世界を癒やしに行く。  作者: カトー
第8章 魔獣の進撃
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リミニ陥落

 アレキ帝国の後継者足らんとするケドニア神聖帝国は、イリア王国がまだ小王国といわれ、ケドニア神聖帝国が帝国の名を持たなかった時代。イリア王家が、ケドニアの一領主として、やがて帝国となる地の南部を統治していた頃。そこで、魔獣の小規模な侵略を受け、おびただしい血を流がしたが防衛に成功している。


 ケドニアの地を離れ、やがて王国として大陸の西部に居を構える前に、ケドニアとイリアには人類として結んだ秘密協定がある。国王と帝王そして僅かな側近にのみに綿々と伝えられ、たとえ敵対していようと唯一の例外としていた約定が存在する……。イリア王国は、決して約定を忘れなかった。時が流れ、魔獣の進攻が始まった。隕石テロとは違うが、異常と言える程の数の魔獣が襲い掛かって来た。再び、破壊の歴史は繰り返されるのだろうか? 


 ※ ※ ※ ※ ※


 帝国にある特別行政都市リミニの商業ギルドで、帝国リミニ防衛軍による設立以来、過去最大の緊急強制依頼が発生した。リミニ及び周辺にいる全ての冒険者が集合を命ぜられた。文字では依頼とは成っているが実質は強制であり、軍による命令であるのは明白だった。冒険者達は集合するやいなや、順次グループ別に編成され、臨時とは言え階級を付けられて南のメストレ方面へ派遣される事になった。


 この冒険者達の、戦時の様な部隊編成と任官とも思える階級付与の決定資料は、やはり商業ギルドが管理しており、レベル・経験・戦技など多岐に渡る項目がチェックされていた事が大きい。素早い対応は、帝国の考える予備兵力としての冒険者の位置づけと、運用方法が垣間見られる。


 オルランド達の冒険者パーティーを含めた男女混合チーム17人のグループへの強制依頼は、魔獣上陸後の、港湾都市メストレからの避難民の誘導であった。彼らは、避難民の多さに驚きながらもリミニに初期の避難民と共に退避出来た。だが、彼らは息つく暇も無く、次の命令を受ける事になった。そして、先日、避難民と共に北上した道を再び南下して、メストレから60キロほど北にある前線に派遣されていた。


「俺たちは、今夜移動してスカッパ橋のリミニ第一防衛線まで手伝いに出る。300人ほどの大隊が居て防衛線を作っているそうだ。本来なら1個大隊は1000人のはずだがだいぶやられた。防衛軍が押されているという事だ。リニミから出す正規軍の応援は、第二防衛線の構築にあたるそうだ」

「魔獣の勢いが半端じゃない。生き残った300人と撤退して来る兵をまとめて、少しでも時間を稼ぐ訳だな」

「その通りだ。さっき軍の作戦会議で決まったんだが、この防衛線には魔法使いが15人いるそうだ。で、広域火魔法を使って、街道の魔獣を迎撃する。……これでいくらかでも、避難する者の時間が取れるだろう」


 ※ ※ ※ ※ ※


 橋での、一時的な防衛に成功したオルランド達は、避難民を護衛して後退した。途中造られたリミニ第二防衛線を越え、無事リミニ市に撤退することが出来たのは幸運とも言える。緊急依頼をこなした、オルランド軍曹はこの時、少尉に戦時任官されている。メストレからの避難者も今は無く、リミニ近郊からも少なくなっている。


 防衛軍は、時を稼ぎ守りを固めて反撃する為はずだ。しかし第二防衛線を、突破されたとの報を聞くと間も無く魔獣が姿を現した。人々はその数が信じられなかった。魔獣の大群は、地の果てまで続いて居る様だった。まるで、一枚のダークグレーの布のように見える魔獣の群れが、リニミを取り巻いて行く。包囲攻撃が始まった。


 リミニ市が魔獣に完全に包囲され、第一城区での多くの犠牲者を出した戦闘が行われてから5日が過ぎていた。そんな防衛線の初期にイリア王国から2人の魔法使いがやって来た。


 彼らは魔獣の第一城区の激戦で負傷した兵達救うと直ぐに帰って行ったが、救われた兵と看護に当たった者だけではなく、リニミの人々は口々にその癒やしの魔法を誉め称えた。その救われた兵の中には、オルランド達の仲間の姿もあった。


 激戦で手と腹をやられており、回復の望みは絶たれていた。彼女は教会前広場の、治療所からに寝かされていたのだ。だが翌日、重傷の分隊員が戻って来た。

「オイ、お前は本当にマリアーヌか?」

「そうだよー。ちゃんと生きているわよ」

「すまん、治療している奴がお前に何とかいう札を付けるのを見ていたんで、てっきりダメだと思ったんだ」

「トリアージの赤札ってね。私も見たわ。もうダメだと思った。そしたら司祭様の最後の祈りじゃ無く、魔導師様がいらしゃって癒やしの魔法? ピカッて。治って、そればかりじゃなくて、お腹も痛くないし無くした右手の指が3本とも生えているのよー!」


「ほら、見て。5本ある。今なら、倒れる前より、もっと強い弓でも引ける気がするわ」

「良かったなー。本当に……」

「周りに居る人みんな良く成っていたわ。看護兵に聞いたら、広場には1000人いたのよ。ひょっとしたら1000人以上かも知れないと言っていたけど。軽傷、重傷関係なく治っているのよ」

「そんなことが有ったのか。奇跡だな」

「そうね、もの凄い奇跡だわ。生き返ったのですもの」


 帝国歴391年6の月8日

 籠城が続き、リミニの防衛戦は激化し常に魔獣の攻撃に悩まされている。すでに、5つの堡塁のうち3つは失われてしまった。空飛ぶ魔獣による補給路への襲撃が懸念されている中、細々と思い出したようにステファノから補給が行なわれていた。防衛軍はすでに疲弊しており、補給路の維持が覚束なくなっていた。それは、リミニ防衛軍の運命が閉ざされる予兆であった。


 未だ籠城戦が続いている。生死を分ける戦いだが、何故か単調とも思える日々が続いている。そして雨が降り始めた。

 突然のゲリラ豪雨が、2日に渡り守備兵を襲う。常備兵が主体のロングボウ部隊は、平時なら弓から弦を外して雨で弦が痛むのを防ぐ。クロスボウは志願者が中心の市民兵だ。武器が、いくら簡単に扱えるとは言え、構造が複雑な発射金具の整備が出来る訳では無い。対処が、疎かなまま雨晒しになっていく。


 雨の止み間だった。弓兵が、射撃位置に着く間もなく魔獣が一斉に空を舞う。その日は常時、携帯されている30本の矢が尽きても空飛ぶ魔獣が襲ってきた。矢の補充の為、1人、2人と矢筒を取りにと走り出す。兵を狙ってカラス型魔獣が襲う。弓兵達が、予備の矢を補充する事ができず図らずも迎撃力が弱まった。


 クロスボウを持った市民兵が立ち上がるが、整備不良なのか雨に濡れたクロスボウの3割が発射不良を起こした。予想外の出来事だった。その間にも援護を失った為に弓兵が倒れ、バリスタが失われていく。迎撃力が落ちた第一城壁の、特定の場所めがけて何度も魔獣が攻め込んでくる。


 迎え撃つ槍兵達も、数で押されて全ての堡塁が失われた。そして、混乱の内に第一城壁が魔獣達で埋まって行く。第一城壁が突破され、多くの装備や食量備蓄が有る第一城区が奪われる事になった。


 第二城壁防衛戦で、初めて牙の長い鼻の無い象の様な大型の重魔獣が姿を現した。第二城壁にある南城門での、大型魔獣の突撃は、さながら破城槌の如く城門の扉に繰り返された。矢や魔法による、急所と思われる目や耳への攻撃は、カラス魔獣が身を持って防いでいる。


 魔獣は第二城壁に迫る。第一城区の地形を知る防衛軍は、随所で魔獣に反撃を加えたが、圧倒的な数に勝る魔獣の攻撃を受け退くしかなかった。夜には帝国軍の反撃を停止させるかのように、第二城壁のすぐ外は魔獣が埋め尽くしている。やがて、重魔獣の突撃によるドラムの様な音が止み城門が破られた事が分かった。


 周辺住民を飲み込み、一時、人口が100万人となったリミニ市は補給が全くできない籠城戦の継続を覚悟しなければならなかった。リミニ第二城壁、第三城壁とも市内にある為、掘割が狭く跳ね橋も作られていなかった。多くの魔獣は守備兵の長槍に貫かれ、壕に落ちて圧死したが、それでもなお幾度となく突撃は繰り返されている。


 第三城壁の前で幾らか攻勢が弱まったが、城門前の道は直線で馬房柵やバリケードも無かった為、重魔獣の突撃で城門を打ち砕かれる事になった。同時攻撃が三箇所に行われ、第三城壁はついに突破された。


 魔獣は第三城区以外の全域を支配し、防衛部隊は数を減し状況は刻一刻と悪化していくばかりだ。三重の城壁は悉く打ち抜かれたが、リミニ防衛軍は市内各所にバリケードを築き死力を尽くして応戦していた。雨が降っている。怯むことのない重魔獣による突撃がおこなわれる。退却しようとしていた部隊は、後方から迫った重魔獣に踏み潰された。


「閣下、我々も撤退しませんと」

「私はいい、残るよ。若い君たちは撤退して、対魔獣戦の戦訓を伝えてくれ」

「しかし」

「皆まで言わせるな。これは命令だ。中佐、撤退戦も大変だろうが指揮を取ってくれ」

「閣下……」

「なに、只では死なんよ。ハハ」

「閣下。従兵として、お仕えして20年。私もお供させていただきます」

「そうか、カンタンすまんな。つき合ってくれるのか。では、例のを、仕掛けてくれ。量が足らんかもしれんが、開発局が言っていた事が本当なら、魔獣に一泡吹かせてやれる」

最後の司令部要員に退却を命じ、残った閣下と従兵は満足そうにワインで乾杯をしていた。


 突然、天地を揺るがすような轟音が鳴り響く。司令部の置かれていた石造りの建物が微塵に吹き飛んだようで、辺り一面に舞い上がった小石が降り注いでいる。押し寄せていた、魔獣も全滅に近い状態だ。

「中佐、開発局の言っていた例のっていうのは?」

「この事らしいな」


 3日間の大激戦で夥しい血が流された。帝国歴391年6の月8日特別行政都市リミニの戦いは終った。リミニ防衛軍は魔獣の強襲に対峙し、人々を非難させる時間と引き換えに壊滅した。防衛に立った者は死に、生き残った者はステファノに逃れた。死亡者は確定ではないが、30万人とみられた。


 これにより帝国の南部から中部にかけて肥沃な土壌で知られ、黄金の大地と呼ばれた穀倉地帯の半分が失われた。もはやエサ場となった小都市や町や村が点在するだけだ。魔獣はその領域を大幅に増やす事となった。帝国軍は、ためらう事なく大規模焦土作戦を発令した。


 リミニ防衛戦の前半の様子が、比較的よく知られているのは、商業ギルドの秘匿魔法とされた通信が送られていたからだ。だが、魔獣が、広範囲の商業ギルドの通信所を襲う事で通信距離が短く要員も少なかったので、あっと言う間に通信能力が落ちて消えてしまい途絶する事になる。以後、帝国南部では、重要な連絡等は通信使による物に戻っていく。


 帝国はすでに動員令を出し、戦時体制をとって国力の全てを対魔獣戦に充てようとしている。魔獣排除ができるかどうか? 人間同士の、戦闘にある禁忌や不文律、まして礼儀などは全て関係ない。生き残るのは人か、魔獣か、だけである。間は、無い。魔獣はいま、道が続くままに数を爆発的に増やし、北上を続けている。


エサはまだ豊富にあった。

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