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癒やされたいキャンパー。異世界を癒やしに行く。  作者: カトー
第8章 魔獣の進撃
77/201

113整備開始

 ※ ※ ※ ※ ※


 今から、30日ほど前の帝国歴391年4の月5日。イリア王国から、公使がケドニア帝国要塞に魔石を援助として持って来られた。公使のカトー男爵とエミリー中尉のお二人は、大任を果たされ要塞の魔石エネルギーは復活した。


 エネルギーが補充され、設備が稼働され出した。シャフトやエスカレーターが動き、入り口ドアの自動開閉と各部屋の自動給排水(これは、貯水量が著しく不足していた為、一時間ほどは稼働音だけだったが)。通路の壁面照明や湿度調整された換気システム。これで暑さ寒さともお別れだと、館内放送によって告げられた時にはその設備に驚かされた。


 要塞を復活させたと言って良いお2人は、ラザール司令官のご指示で要塞内をマルタン大佐によって案内されている。案内時に、貯水槽を回られたそうで、イリア王国の凄い魔法使いだと噂された。私達は、その噂の事も知らずメイドとしてお世話する事を命じられ、後輩のエメリナと交代で任に当たる事になった。


 なにしろ要塞は、籠城に備えて物資の蓄積や人員の再配置で部屋が足らない。急に大きな部屋を用意する事となり、この要塞で空き部屋を作り出すという、まるで不可能を可能にしろと命じられたような私達はてんてこ舞いをする事になった。要塞内を巡回された後、ご挨拶に伺うと少年の様な公使と、凛々しい中尉にお会いした。

 私達はお世話する事も少なく、逆に気づかわれてしまった。私もエメリナも故郷の事を話せればと思ったが、お疲れの様なので食事について説明し休んで頂く事にした。


 ※ ※ ※ ※ ※


 要塞の第2層の食堂にて、メイド達が交代勤務の為、いささか早い食事をとっていた。

「ア、今日はスープもあるんですね。最近は、水が足りないって言っていたんじゃないですか?」

「そーですよね。その内、顔も洗えなくなるって言っていましたよ」

「ちょっと、エメリナ。女だって訳じゃ無く、飲み水以外とっくに禁止されていますよ」

「そうですよ。自分の配給量からに決まっているじゃないですか」

「そうだよ、ハスミン。本当だよ、エメリナも私も」

「ゴメン、二人とも乙女だったのね。ところで、小母さん今日はどうしたの」

「そのことよ。今日から給水制限は無しになったのよ。何でも王国の魔法使い様が、全部の貯水槽を満杯にしてくれたんだそうよ」

「へー。そうなんだ」

「あんたたちが忙しくしているうちに、お触れが回って来たんで知らないのも無理ないね。水が豊富にあると食事の用意もはかどるし、手も洗えるよ」

「じゃ、顔も洗えますね。良かった」

「そうだよ! もう遠慮なく使えるよ。お風呂も順番だけど、入れるようになるんじゃないかね」 

「有り難いですね。私達も珠の肌を磨いて、女をあげないといけないですねー」

「何、言ってんの。後少しで交代です。食べたら配置に戻りますよ、馬鹿なお話はそのぐらいにね」

「あーあ、しょうがないですね。でも魔法使い様には感謝感激です」


 ※ ※ ※ ※ ※


 要塞の2人部屋の自室にて、メイドが勤務明けの休息をとっていた。

「お帰りなさい。どうでした補給品を配給すると言っていたけど?」

「あぁー。ハスミンさん、お土産ですよ。アメニティセットって言っていました」

「何? それ」

「班に一個ずつ配給だそうです。女性を優先して配っていると言われました」

「へーそうなんだ。じゃ、エメリナと半分ずつですね」

「私たちの班は。一応、2人とも女性?」

「失礼な」

「ハハ、ハスミンさん。冗談ですよ、十分大人の女です」

「もー、分かっているわ。で、アメニティって何?」

「補給部の人が言うには、この要塞の備品だそうで昔は沢山有ったらしいですよ。この間、再生産されたって言っていました」

「この間って言うのは、明かりが点いた頃?」

「そうですね。ドアも勝手に開け閉め、できるようになったあたりかな? 何でも、魔法使い様が見つけたらしいんです」 

「もういいわ、開けてみましょう」

「ハサミの絵が描いてあるって事は、ここを切るのかな? ヘー。点線があって端に切り込みが入っている。ハサミが無くても開けられる工夫かな? 親切ですよね」

「何だか一杯出てきたわ。全部、小袋入りですね。なんか書いてあるけど」


「ホテル用品・一般宿泊セットって書いて有りますよ。歯ブラシセット・チューブ歯磨き粉、カミソリ、ヘアーブラシ、くし、マウスウォッシュ、シャンプー・リンス・コンディショナー・ボディーソープ、石鹸、ローション、ボディースポンジ・シャワーキャップ等バス用品、ボディータオル、ヘアーバンド・ヘアーターバン・ヘアークリップ、綿棒・コットンセット・フェイスケアセット、あぶらとり紙。有りますねー」

「すごいね!石鹸は聞いたことあるけど、ボディーソープというのは液体の石鹸で良いいんですかね? マウスウォッシュにあぶらとり紙は分かりませんね。なんか、瓶に入っているのは化粧品みたいだけど。瓶はひょっとしてガラスですか?」

「だと思うけど。里じゃ見たことないもんばっかりですね。訳の分からない物もありますよ」

「私だってそうです。きっと貴族様用じゃないですかねー」


アメニティセットが配られる少し前の事。

「エミリー、このボタンなんだと思う?」

「聞く前に押すな! 押すなと言うのに、絵か画いてあるだろ? 何か出て来るぞ」

ホテル用品・一般宿泊セットが包装されて出て来た。

「パネルに何か字が書いてあるぞ。なになに…状態保存中。作成ロットは1000個ずつで常備在庫30万8000個って」

「マー、それは1回押すと1000個出て来るって事かな?」

「正直に言え。何回押した?」

「3回だと思ったけど、5回だったかも?」

「早くこの部屋から出るんだ! 急いで人を呼んで来い! 埋まるぞ!! 」


 ※ ※ ※ ※ ※


 帝国歴391年5の月25日

「さあ、第三級転送ステーション113の復活だ」

コンソールの起動スイッチが入り、初期ルーチンプログラムが開始された。魔石エネルギーは、ステーションにチャージしてある。前回、部分起動を開始して、基礎データ等のアップデートは済ませている。基地機能回復まで、およそ15日近くかかると思われている。しかし、セバスチャンによると、意外と早く10日で可能に成るかもしれないとの事だ。


「明日にしておけよ。道造りだぞ」

「そうだね。この10日間、本当に忙しかったし、明日はミレアを呼ばないとなー」

(ミレアが居ないと大変だろうなー。あてには出来ないが、期待はしよう。おやすみー。ムニャ、ムニャ)

「寝たふりじゃ無く、ちゃんと寝ろよ」


 昨日、ミレアに寝る前、思念波を送っておいた。ミレアは、ビルバオ街道近くの深い森でのんびりと狩りをしているはずだ。2・300キロ北と言っていたから、十分交信園に居るだろう。


「カトー、ミレア様が来られたぞ。御呼びしたのか?」

「夕べ寝る前に、ひょっとしていい考えかも知れないと思って呼んどいたんだ」

本日から始まる、過酷な道路建設工事の為に、ミレアの力を借りる事を寝入る直前に思いついた。

「ミレア、おはよう。元気そうだね」

「主、エミリー。おはよう」

「ハイ、ミレア様。おはようございます」

ドラゴンは、気にするタイプらしい事を、エミリーはしっかり覚えていたようだ。言葉使いが改まっている。

(マ、ドラゴンは600年ぐらい年上だ。年長者だから、気を使っても当たり前かな)


「ミレア、ご飯食べた? 元気一杯かい?」

「軽めにな、熊一頭じゃ。のんびりと過ごしておったので、あまり腹も減らなんだ。体調は抜群じゃが、ん、どうした?」

「魔力は、大丈夫?」

「あぁ、その事か。基本ワシは身体動作チェックと攻撃力確認の為に、ワイバーンを狩っているだけだったし。生態活性値を下げ、魔力の温存に努めておるからな。ちょっと張り切って亜音速で、結界張って飛んだから。7、8年分位使ったかな」

「7、8年位って、ひょっとして寿命の事?」

「主、心配するな。ワシらは、最低でも700年は生きるそうじゃ。だから、1000年ぐらいはと思うておる」

「練兵場で、ドームも作ってくれたし。10年分ぐらい?」

「その位かな」

「ホムンクルスに聞いたけど、魔石を取り込こめればドラゴンの寿命は大幅に伸びるそうだと」

「それはそうじゃが、今までは主が居なかったからの」

「どう言う事?」

「たとえ魔石が有っても、使用権限があって許可なく取り込む事は出来んのじゃ。基地司令は、隕石テロで居なくなっておったからな」

「早く言ってよねー。僕、主でしょ。魔石持っているし」

「まぁ、遠慮というものが……あるし。……大きいの2個も有れば、1500年? 節約すれば2000年?」

「じゃ、これ。今は、5個ね。遺跡都市に行けばもっとあるし。遠慮なく、どうぞ」


 ※ ※ ※ ※ ※


「ところで、何故呼んだのじゃ?」

「ちょっと、力を借りたくてね。ここら辺の整地と、東に有るビルバオ街道までのバイパス? 連絡路と言うか造りたいんだけど」

「ウム、良かろう。しばし待て。ハァー」

「ハァーって、ドラゴンブレス?! エミリー、目つぶって!」


ゴーともブォーとも、お腹に響く重低音。まぶたを閉じても、明るく感じる。チリチリと、髪の毛が焦げるような臭いがする。

「カトー。私、プスプスと焦げているよね?」

「大丈夫、ドラゴンブレスはあっちに向いていたから。ほら、2、30キロは、真っ直ぐ行っているみたいだね」

「そうだねー、その位の距離あるね。あんなブレスの、それも3メートルに横にいたんだ。私、もう……、休みたい」


「あれ? ミレア様が居ないが?」

「エミリーがじっとしている間に、ミレアはあそこの端に飛んでったよ。後、4回でビルバオ街道に着くだろうと言って。たぶん一時間ぐらいで戻ってこられるとも言っていたよ」

「凄まじい、威力のブレスだったなー。しかし、火の手も上がらなかったようだが」

「あぁ、それね。水魔法を同時並行使用して、延焼防止。一部、風魔法も使ったって言ってたよ」


「戻って来られたな」

「ミレア、お帰り。道、繋がった?」

「あぁ、街道まであと100メートルで止めといたぞ。ワシ、気が利くだろう。それに、誰にも会わなかったぞ」

「朝が早いせいだな。歩きの者も、馬車の者もいなかったの?」

「そうだ。背中にお土産を持って来た。ちょうど、猪のでかいのが居たからな。ミディアムで頼む。ワシが焼くとブレスでは大抵の場合、ウエルダンどころか、燃えカスも残らないのでな。いつもはレアなのじゃ。たまにはステーキにして軽く火をとおしたのを食べたいのじゃ」


 ※ ※ ※ ※ ※


「昔は、街道の規格が決められておってな、それに合わせておいた」

「だから、10メートル幅で?」

「もう少し広いな。アレキ時代の道は、歩道を含めて12メートル幅で、中央部には排水路が作られておったよ」

「それが100キロ。1時間で」

「そうなる。次は、ここの整地なのかな?」

「ウン、危ないなら言ってね」

「特に危なくは無いと思うが、ではビュッと行くか」


(円形斬月波と言うのが放たれ、ミレアを起点に100メートル離れた所から1キロ? 2キロはあるね。うっそうと生えていた木々が一瞬の内に粉々に切り倒され、廻りに木の香りが満ちた。ドラゴンはんぱない! 僕も、ミレア様と呼ばないといけないかも)


「今のは、危なくないんだよね」

「そうだぞ、主。安全安心の簡単魔法じゃ。では、土魔法か。整地をしてくれと言っておったな。村でも作るのか?」

「村では無く、軍団の一時野営地かな? 転送ステーション113から、ケドニア要塞まで20万の兵と、輜重部隊に酒保商人を送るのでね。合わせて、28万人ぐらいの待機場所になるの」

「フム、人が野営するとなると? 水と、雨風を凌ぐ家か。なに、雑作も無い。確か、北に湖が一つ、その横に川が有ったような。50キロ位先だっか」

「一応聞くけど、ビュッとしたここ、第三城区ぐらいの大きさになるの?」

「あぁ、もう少し大きいかな。つめれば50万ぐらいは入るだろう。だが、話は後だ。水道を引いてくる」


「カトー、ミレア様は?」

「エミリーがまたじっとしている間に、あっちへ行ったよ? 水道橋が出来ているでしょ。その上あたりじゃないかな。湖から水道引くって言っていたけど、ちゃんと勾配取れているのかな?」

「そうか。そうなんだ」

「帰ってきたら、家を建てくれるんじゃないかな。たぶん」


「主、待たせたな」

「大丈夫、1時間ぐらいだから。次ぎは、家だったりして」

「いいや、住まい家では小さかろう。ここはひとつ任せておけ。ホイっと。どうじゃ」

 全天候型野球場、天井が開閉可能だそうで、いわゆる○○ドームです。東京ドームは、約216メートル四方です。この大きさは、比較対象としてしばしば聞きますが、今回これが直径4キロです。東京ドーム○○個分です。東京ドームの収容人数は、イベント時は55000人だそうです。出来たのはその大きい版だね。これなら、確かに雨に濡れないわな。


「でもね、ミレア。今はもう魔石エネルギーが、僅かしかない世界なんだ。ミレアが、悪い訳じゃ無いんだ。屋根の開閉がエネルギー不足で出来ないんだよ」

「そうか。では、天井は強化ガラスにしてと。ついでに壁を柱に変えて中柱無しにしておこう。広く使えなければならんのだろう? これで良しと」

(見ようによっては、コンビニの透明傘の持ち手無し巨大バージョンである。しかし、話をしているうちに屋根を素材ごと変更できるとは)


「後は、そうだ。城壁じゃろ。ウンウン、人族は昔から好きだったからな。王都か帝都か知らんが、あんなのが好きだとは窮屈だろうに」

「イヤ、今回は無くてもー」

「主、遠慮しなくともよい。ワシも魔法を使うのが面白くなって来たからな。長きに渡り、力を押さえていたし、魔力も十分に補充した。肩慣らしに丁度いいのじゃ。ホレ、ドドーンとな」


「同じ形では、芸が無いので四隅に60メートルの塔を建てといたぞ」

「カトー、もうミレア様をアゴで使うのは止めた方が良いのではないかと思う……」

「僕も、そう思うけど。このドームの外に、壁の様に見えるのは? そうだね……。やっぱり、城壁だよね」

「まず、間違いない。あの、言い様だと王都以上か、帝都の規模かもしれないが」


「もう少しで何とか住めるようになるじゃろう。そうだな、次は用水路を掘って暗渠にし、浄化場を作って川に戻す段取りじゃ。これを忘れると大変じゃからな。後はホレ、家みたいのを作ればよいのかな?」

「半分はそれで、あとは倉庫型で。倉庫は、出来たら連棟可能タイプでお願い」

「灯りは、ライトの魔法で良いか。取り敢えず、100日も持てばいいな? 王国には、魔法使いが沢山おるのじゃろ。後は適当にな」

「ミレア、ありがとう。これでお昼をゆっくり食べられるよ。エミリー、少し早いけど、お昼にしようか? モー! エミリー。またじっとしている。傍から見たら気絶しているみたいに見えるじゃないか!」


 これが別名イイサと呼ばれる転送ステーション113で起きた事であるといわれる。ドラゴンによる建設など都市伝説の類ではあるが、いまもこの話を信じている者は多く、正式名称、尖塔の城壁都市ドラゴンシティの始まりであると伝えられている。なお、後に作られる都市の原型ともいわれ、住宅、商業施設、レクリエーション施設、流通センターなどを付置した、複合型の市街地開発事業のモデルケースとなっている。


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