アレキ文明とケドニアの成立
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「カトー子爵、紹介しておこう。第二王子の、カシミロ・オスワルド・バレンスエラ・オリバレスだ」
「っ、初めまして」
「よろしく。噂は、かねがね。君が麒麟児と言うカトー卿というわけか?」
「こちらは、影の頭。リゴベルト・ライネリオ・グアルディオラ・ラミレスだ」
「ハイ、よろしく」
「こちらこそ、よろしく。カトー子爵」
エミリーによると、第二王子のカシミロは、経済に詳しい。30才でセシリオ殿下の二つ下。殿下と同じ魔法好きだそうである。殿下は、遠征前に是非会いたいと、カシミロ殿下に言われたそうである。僕が、今回の経済振興策の発案者だと言われているので、楽しみにしていたそうだ。顔合わせみたいなもんだが、その年でと疑問に思っているようだ。
後、一人を紹介された。一見どこにでもいる一寸だけ体格の良い小父さんだ。
「今回、要塞に同行するセフェリノ・ロレンソ・マネン。影の小頭をやっている」
「どうぞ、よろしく。カトー子爵」
「あれ? 何処かでお会いしましたか? セフェリノさん」
「カトーもそう思うか。影達は二人一組で行動する。性別はもちろん姿、形、声もなるべく似た者でね。相棒だった、小頭のノエの声を要塞で聞いたかもしれないな。今はステファノに居るらしいが、今一人の小頭ノエ・バラデス・イ・クベードだろう。この者は魔獣襲来の第一報を送ってくれた。現状、ケドニアではメストレ、リミニでかも知れんが4人が消息不明だ」
「殿下、よろしいので」
「シーロ、かまわん。カトー子爵は、今回の作戦の胆だからな。出来るだけ協力してやれ」
派遣軍の、編成の打ち合わせを兼ねてなので、少しみんなで親睦を兼ねてお話をした。
帝国歴391年5の月24日
「そろそろ、転送ステーション113だよ。ちょっとだけ久しぶり」
「あれが、北国街道で辺境都市ビルバオに続く街道なだ。あそこまで出れるように道を作らないとな」
「王都を歩いて出て、北の森から飛んだが4時間かからなかったね? 100キロから110キロ位かな。道造り、大変になりそうだね。113の廻りには、昔は道が有ったんだろうな。少し周りを見ておこうか」
眼下にはうっそうと茂る暗い森が広がり、北寄りの森の中、廻りを小高い丘で囲まれた大きなドーナッの様な丸い形の空き地。以前、夕方近くに降りた、キャンプ地は元のままだ。セバスチャンとエマがここを出てからも、何も変わらなかったのだろう。
着陸した下はコンクリート様な平らな床である。崩れた建物の真ん中から、巨木の根がコンクリートの様な地を打ち割り、朽ちた木々が転送ステーションの敷地を覆っている。
管理室は半地下だ。草がまばらに生えた大きな溝の後ろに階段を降りて行く。施錠された二つのドアを開け室内に入る。セバスチャンとエマが部屋を整理してくれていたらしい。一通り、見まわしたがここで待つより、表に出てキャンプの用意をしよう。久しぶりに、キャンプ成分を補充しなくちゃ。
「カトー様、お待たせいたしました。エマは市場によって、食料品を購入してから来ると申しておりました」
「早かったね。そうか、セバスチャン達は走ったら時速100キロなの忘れてたわ。僕ら、ここに来るのに4時間かかったよ」
「はい、人目が有りましたのでそんなに早くは無理でした。2時間程掛かりましたでしょうか。それに、お店に寄ってからですので」
前回の退去時の様子を聞きながら管制室に向かう。管理室や備品室から役に立ちそうで、取り外せる物は既に移送済みとの事だ。セバスチャンによれば、主室のコンソールは、スイッチを入れればすぐにも起動が開始されるそうなので、魔石の置き場所を教えてもらう。
「ここも、要塞や地下の転送機みたいに、魔石を置いてふたを閉めるだけの簡単仕様だ」
「カトー、置いたかー。スイッチを押すぞ」
「あぁ、お願い。エミリー、もう戻って来たんだ」
「ウン、兎が二羽。エマに渡しておいた」
「深呼吸と言うのか、その動き。体操みたいにも見えるが随分と嬉しそうだな」
「あぁ、久しぶりのキャンプだからね。何だか良いなーと言う気分だよ。久しぶりだと新鮮な感じがするなー。ハンモックで、ゆっくり読書でもしたいよ」
「カトー様、夕餉の用意をします。そろそろ、お願いいたします」
「お風呂どうするかな。エミリー要るよね。お風呂」
「あぁ、頼む。私も誰かのせいでここの処、忙しかったから、のんびり湯に浸かりたいよ」
「じゃ、いつもの街道の家やめて、別荘ここに作るね。今日はセバスチャンとエマが居るから二部屋足しておくけど。じゃ、エミリーはお風呂大きめに作るから二階の部屋で良い?」
「カトー、まだ読んでいるのか。ライトの魔法、消し忘れるなよ」
「もう、眠いんだけど。でもこれは、面白いよ。ミレアが渡してくれた。これ。前半はホムンクルス達が言っていた事に近いし、後半は想像力が逞しいという感じで書いてあるんだ。でも、誰が書いたのかな?」
「明日にしておけよ。道造りで大変なんだぞ」
「そうだね。この10日間、本当に忙しかったし、明日あたりにはミレアを呼ばないとなー」
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「惑星ムンドゥスのアレキ文明 第一部 起源と変遷に関する考察」
「惑星ムンドゥスのアレキ文明 第二部 大魔法文明の世界観」
「惑星ムンドゥスのアレキ文明 第三部 文明の崩壊と陸上決戦兵器の背景」
「惑星ムンドゥスのアレキ文明 第四部 崩壊後の世界と残された遺産」
(これは序文か? にしては、長いが本文の下書きかな。本文はどこだろう。確かに興味を引かれるお題だ。著者名は、分からないが。これ、アレキ文明と現状についてか……著者の覚書なのかか? 書きかけだろうか?)
この私的論文が、人々の目に触れる事が出来、そして事実だったと思われる事を祈る。
まず、惑星ムンドゥスのアレキ文明、特に 大魔法文明の後期。突然、出現した世界観について述べる。現状、限られた時間で資料を精査する事は不可能に近く、検証の類は時を待たねばならない。
しかしながら、部分的な事実を付き合わせただけでも、現在の学説と大きく反する物ではないと思う。諸兄の賛意を得るべく、ここに拙い文ながら披露する次第である。
この惑星ムンドゥスの各地には、ご承知のように人類の様々な文明が築かれた。ムンドゥスの他の大陸でも、様々な人々が生まれ、歴史が作られ、多くの文明が滅び、また花咲いたと言われている。今、この文明がまさに崩壊の危機にある時に、いかに成立したについて記すのも一つの務めである。
およそ1万年前とも言われる神々の時代を前期アレキ文明としている。次は8000~6000年前の神の怒りの時代を中期アレキ文明である。以後の6000年~400年前が後期アレキ文明とよばれている。今では、これらを合わせて古代アレキ文明としている。
アレキ成立伝説によると、帝国は小さな都市国家アレキを祖先としている。都市国家アレキは、まわりの部族との戦闘に明け暮れ、そして勝利し、しだいに大きな存在になっていく。都市国家アレキは、魔法使いの長である者が王を名乗り統治した。だが王政は続かず王を追放して、議会による共和政となる。執政官と呼ばれる議長が、政治を行い戦争時には司令官としてアレキ軍を指揮した。
たくさんの部族や多くの有力者たちを取り込み、アレキは敗者も同化して行く。やがてアレキは都市国家から巨大帝国への道をあゆみ出す。アレキ議会が強化され、共和政時代のアレキが発展していく。そして歴史が作られていく。
伝承によると、中期アレキ文明のアレキの魔法使い達は、突然、交易をしていた北方人の来襲で滅亡の危機に立たされた事が有るらしい。魔法を、封じ込める事の出来る術者を連れた、北方人の大軍が南下したと言われるものだ。迎撃に出たアレキ軍が大敗し、建国後はじめてアレキの街はふみ荒らされたと言う。
人々は襲撃と略奪に会い殺害されても、じっとこもる事しかできなかった。弱ったアレキに、好機と見て周辺の部族も攻めてきた。ところが半年後に、北方人たちは突然引きあげる。理由は不明だが、略奪に飽きたとも、魔法のせいだとも言われている。
嵐が過ぎ去るのをじっと耐えていたアレキ人達は、ゆっくりとだが破壊された国内を再建して各種法律を定めた。なお、この法律の一部は今でも文言は変化しているが同じ内容が定められている。アレキは、周辺の部族に魔法で水道等のインフラを作り、自治を与えた。そして、同盟を結んで他の部族を征服し、文明化したと称して植民地にしていく。各地で戦いが起こったが、勝利して領土を広げた。
共和国は魔法を持ちいて、建築や技術で領土を整備して各地に植民都市を築いた。植民都市が、増えるにつれて富が流れ込む。アレキの公共財やインフラと言われる道路網や水道施設が拡充されて人々の暮らしは良く成り、さらに富が増えて行ったと思われる。
後期アレキ文明の、アレキ市民たちは魔法の力と共に、もっと多くの征服戦争を望んだ。だが富の偏重が起こり社会的格差も広がると、植民地各地で反乱が起こり、アレキの社会は変化し混乱して弱体化していく。
やがて一人の英雄が、民をまとめ秩序を回復させた。それが初代皇帝となったジャック・エタン・アシル・ジャキヤである。彼は共和制を廃止して、国家の権力の中央集権化を行った。皇帝として、経済を安定させ開発や軍の再整備を行い、アレキを甦らせた英雄と言われる。
アレキ帝国は安定して発展するようになり、後に「七賢帝」と呼ばれる皇帝たちによってムンデゥス全域に不動の地位を築いた。以後の300年はアレキの平和といわれ、続く50年の間に、絶頂期を迎えたと考えられている。これが後に「アレキの平和」と言われる物である。
様々な品々が、帝国各地から運ばれ商業が盛んになり富を生んでいく。遠くイルやフルの地から香辛料、香料、絹、ガラスが行き交う。勿論、水道や公衆浴場など様々な社会インフラが、魔法の力も借りて整備されアレキの平和に寄与する。人々は、富と贅沢な食事や娯楽を求めて、さらに領土を広げていく。
この、後期アレキ文明の最盛期も陰りが見え始めた頃、隕石テロの悲劇を作り出した集団が生まれている。彼らは、自らが神の教えを正す者として生まれ、自分たちが迫害されても、やり遂げなければならない使命があると唱えた。あまりにも、過激な考え方により社会的に排除され、それが今でも続いているほどだ。
多くの者が、地下に潜り秘密結社を作った。彼らは自然回帰を謳い、文明を嫌い、すべての生き物が平等だと教えを広めた。富豪たちの娘が、入信して巨大な経済的基盤を掴んだらしい。伝道と称して過激な思想は広められ、各地に秘密教会が作られた。そして、金に追い詰められた、行き場にない人々に支持されて狂信者が作られていった。
絶頂期も、やがて衰えていく。特に疫病が流行り、魔法使いが半減し社会の生産力が落ち込むと、今まで苦しめられていた周辺の諸国が牙をむき出した。人口が減り、常備軍の衰退が始まり、軍権の分裂が起こった。そこに宗教的な過激な思想が持ち込まれた。間もなく、古代アレキ文明を崩壊させた隕石テロが起こる。今でも、惑星ムンドゥスの各地で破壊と混乱の日々が続いている。
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第一部 起源と変遷に関する考察
第一章 ケドニアの起源
ケドニア神聖帝国の、建国期の英雄たちは謎に包まれたままである。どうやら初期の十字軍だったらしい。陸路、コンスタンティノープルに向かう、輜重隊の護衛騎士達と思われる。古アレキ文明の、崩壊以降の破壊と混乱が長引くなかで、物資を持つ彼らは非常に有利だった。
当時の十字軍の遠征は、物資の供給を現地に頼る、言わば略奪である。略奪が前提では有るが、そればかりでは軍は維持できない。多くの物資や商品が用意される事となる。この十字軍の輜重隊は、当然、商人達を同行していた為、多様な物資を惑星ムンドゥスに持ち込むことが出来た。
この随伴商人達は、信ずる宗教が違う為に殺戮を行い、無人となった土地で生き抜くための、基本的ではあるが多種多様な物資を持ち込むことが要求されていた。商品には、女性が含まれるのはもちろんである。作物の種を始め、人々が生活し拠点を築き拡大させる大量の物資があった。
中世ヨーロッパの文化、道徳、そして閉鎖的な宗教価値観がこの大陸にもたらされた。神の奇跡を信じる十字軍の彼らは、魔法が奇跡であるとした。そして幾人かが初歩的な、魔法を得とくし使う事が出来るようになった。彼らは、自己を高め神の様な絶対者に近づけると思い、魔法の構築や思想などの体系を努めて発展させた。やがて、魔法を主体とした文明が築かれる事になる。
魔法と、中世の入り混じった世界が築かれた。400年の間に、惑星ムンドゥスの各地で国々が誕生する。魔法と文明の差異は僅かで、世界は一つだった。魔法による文明は様々な物を生み出した。近代医学を凌ぐとも思われる治癒魔法で、人々は不死を手にしたかのように振舞い、魔方陣による転送は流通を変えて、更なる繁栄を生み出した。そして、すべてを賄う魔力の塊、魔石が生み出された。
魔石は、すべてを変えたと言って良い。某ゲームの様に、無料とは言わないが膨大なエネルギーが手に入った。魔力の濃いとされる場所に、魔石の研究所と生産施設が作られ、魔力を濃縮した魔石が、遺伝子操作された魔獣によって生産される。需要に追い着く為か、需要を作り出す為か定かでは無いが、魔石が大量に生産された。
効率を高めようと1万年前の大型肉食獣だけでなく、身近な動物、兎や猪、狼やカラス等、次々と魔獣が生み出されて行く。そればかりでは無く、人間の能力を遥かに超える獣人が作られた。ついには、キメラによって伝説のドラゴンをも作り出した。
この魔獣の、遺伝子操作技術はごく普通の人々にも使われた。そして特定の情報を直接、脳に書き込む事の出来る、魔法の巻物が生み出みだされ、誰もが魔法を覚える事が出来るようになる。
再び、世界は一つになったと思われた。文明も科学や秩序は似た物であったが、時が過ぎるにつれて、少しずつ、だが隕石テロが起こされるほどに世界の価値は違っていった。
テロの発生前、秘密結社の狂信者達はエト山に集まっていた。この秘密結社の魔法使い達は一万年前に砕かれたと言う月と、月の欠片が連想させたのだろう。彼らは魔石によって力を増幅させ、軌道を変える恐るべき術式を、何処からか手に入れたのだ。
テロリストは、軌道上に浮遊基地を建設したと言われる。おそらく軌道誘導ができる魔法使い達と、念話が出来る魔法使いを乗せて、隕石テロが継続できるように、惑星ムンドゥスの周回軌道に乗せたのだろう。重力魔法は集合群の軌道変更を可能にし、月の欠片が一番近くなる満月の夜、隕石が落ち始めた。
隕石テロが始まる。目標とされるリストは長く、終わりは無いかのようだった。遥か山奥の地に、絶海の孤島にも空気の震える音が響く。人々が生活する都市や、産業基盤のある場所と魔石の生産設備が攻撃され破壊された。凄まじい破壊力によって、大陸の都市が壊滅していく。さらに、破壊は続く。そして、エト山に集まっていた、自分たちの仲間の頭の上にも隕石を落としたのだ。
騎士たちにより築かれた帝国は、隕石テロを生み出した。全世界へと拡大した文明を再び飲み込み、恐ろしい悲劇と共に破壊と混乱を招いた。そして、アレキ文明は、衰退し滅亡した。
(想像力、過多の様な気がするが実に面白い。それに、妙に筋が通っている。アレキ文明の崩壊と、十字軍の転移か? ひょっとして真実に近いからなのか? 長年、研究をしていたのか、偶然知ったのか分から無いが、執筆者はもうこの世の人では無いだろう。転移者なのか? いつ頃の人なのだろう? ミレアが、住まいにあったと言っていたが)




