ショーの打ち合わせ
帝国歴391年5の月9日
「この後、転送ステーションを探しに行きます」
「そういえば。まだ、肝心のステーションが見つかってなかったな」
「ややこやしい、話ばかりでしたからね」
「帰って来てから、ずーと会議でしたし、だいたいの場所は分かっていますが急いで探さないと大変な事になります」
「捜索の方はよろしく頼む。私は派遣軍団の編成表を考えて、発表しなければならないしな」
「アノー先日、殿下とお話した事の続きなんですが」
「エー、カトー卿。今から会議をするんですかー」
「ハイ、今日は紙に少しまとめて来ました」
「よかったな、シーロ。要件の下書きは有るみたいだぞ」
「何処まで話しましたっけ?」
「カトー。メモ、メモ出して」
「エーと、協賛金? 協賛金を出させる……これか。商店が、お祭りや今回の様な練兵場での、イベントの時に賛同して出すお金です。ですけど、手間なので商業ギルドに、一端まとめて払ってもらって、後で割り振りさせればイイですよ。もちろん他のギルドも同じようにします」
「ん、それじゃぁーこれって」
「やだなー、ピンハネじゃないですよ。協賛ですよ。それに、大店だと余分に頂けますよ。なにしろ、地域の人が購入したり、お店も色々お世話になったりしているでしょ。協賛金額を、商業ギルドのロビーに貼り出せばもっと賛同してくれますよ。おまけに店員をイベントに出して、協力もしてくれますよ」
「ハイ。そうですね」
「それとイベントの終了後には、各主催者から領収書や収支報告書を忘れないように出させましょう。終了するまでは費用はギルドが仮払いで処理し、領収書の内容を確認後、お金を出します。こうすれば、とりっぱぐれは無くなります」
「ハイ。そうですね」
「店がイベントのお金を出したら、金額に合わせてイベントのチケットを優先して渡たすのも手ですね。彼らも取引先やひいき客に無料で渡すかするでしょう。今度の、花火大会に協賛することで店の名が知られるし、特別な席のチケットがあればお金を出すメリットもあるでしょう」
「ハイ。そうですね」
「守備隊の、サポートしている警備巡邏隊と言ったけな。警備隊、あれにも協力してもらいましょう。夜回りだけじゃ無く、会場の警備もしてね」
「ハイ。そうですね」
「それでちょっと、時間が足りなかったので、それらしいことしか思いつかなかったんですが、だいたいこんな感じでお願いします」
「ハイ」
「王都に、あの名店や、ご当地グルメがついに集結! フードのジャンルは、いつもの庶民派食堂から、ロンダ城1階には貴族様の食卓の再現など様々。自分の好きな料理や見た事の無い料理が集まるフェスを見つけよう。なんてね」
「ハイ」
他にも色々とありますよ。「教区司祭様、推薦のB級グルメ・ご当地フードなど地産地消のメニュー」とか、「飲み倒れ広場では、お酒も販売。教会エール、珍しい教会蒸留酒を試飲できるコーナ。これは試飲を止めて、有料の方が良いかも」なんてね。
「教区の名店やご当地グルメが一堂に会す豪華な教会前会場に是非足を運んでみて欲しい」も良いと思いますし、「開催している広場横の停車場は、王都各所に有り辻馬車が待機していて各広場を廻る事も可能。1日フリー乗車券を考えても良いかも。王都内なら、4、5万エキュで1日何度でも乗れる、行ける。そんな感じで」なんて言うのも実利的ですしね。
フェスティバル会場はロンダ城と王宮、王都第一聖秘蹟教会、教会前の広場の朝市、王立図書館、美術館をはじめ 観光スポットとして有名な広場近くの常設市場、お湯屋などが点在している魅力あふれる場所となるのです。今後のイリア王国の文化と食指を体験できるフェスティバルとなるでしょう。
「今回は、そうですねー王宮であるロンダ城が会場として登場!」、それか、 春の王都で「味あうロンダ」「見るロンダ」を体感してみては?! なんて言うのを謳い文句にしましょうか。
「なんか、言葉を失っていましすね。シーロさん、ハイしか言わないし。殿下は声も出さないのですが」
「そんな事ないぞ。じゃ、私はみんなまとめてハイと言っておこう。……そうだな、休息しようか。お茶でも入れさせる」
「では、私は窓を開けてこの空気の入れ替えを……」
※ ※ ※ ※ ※
「先ほど、○○製作実行委員会は説明しましたよね。予定通り、イベントの数だけ作って下さい」
「結構な数が有ると思いますが、全部作るんですね」
「ハイ、そうです。グッツの製作と上納金の管理の為ですね。これは時間が押しているので各ギルドに丸投げで良いですよ。もちろん監査は必要になりますが」
「カトー卿。まだ名称を決めていませんでしたね。やっぱり、メインテーマである軍団編成記念にしますか。他のは追々決めて行きましょう。あと、花を持った女性が遠征軍を応援するパレードの件ですが、転送ステーションへ本隊が移動する当日の方が良いかもしれませんね」
「じゃ、そうしておきましょう。次は、競馬ですね。教会には、賭け事の好きなお坊さん達が、沢山居るそうなのでやらせてやりましょ。餅は餅屋と言います。運営には寺銭という事で、四半分ぐらい貰えば良いでしょう」
「餅屋と言うのは分かりませんが、好きこそものの上手なれって言いますから」
「で。王都で優勝のパレードですか。ここでもセールを打てますね」
「アーサー王の、マリーンの伝説みたいなのも聞いた事もないし。あれば、使えると思っていましたが」
「それ、魔法使いの伝説なのですか?」
「エ、そうです。しょうがない、じゃ、ごく普通に賢者の生まれ変わりにしましょうか? 賢者と言うのは、比類なき強さを持ち、異質さと知識量が尋常ではありません。賢者の精神は輝いているのです。その鋭い目は、すべての嘘やまやかしを見抜きます。賢者には深い智恵があり、悲しみが感じられます。賢者が体験した事は良いことばかりではありません。悲しみも残っているのです」
「それって、カトー卿の事なんですか?」
「ハイ、少しお恥ずかしいんですが。賢者は癒しを引き起こす力を身に付け、天候や物体に働きかける力もつ人と言う事です」
「大丈夫ですか? ……頭」
「良く聞こえませんでしたが。お話ですよ、冗談みたいなものですよ。でも、これは世を忍ぶ仮の姿で、どこかの王子も捨てがたいなー。という事で継続審議としましょう」
「それが良いですね」
「あぁ。歌謡ショーは、実験的な催しなので大々的では無いのですが、家の店の近くの教会と話を着けてからになります。第九教会の、首席司祭のセルヒオ殿が話をまとめてくれるそうです」
「広場の、一時使用をすると言うやつですね」
「はい、そうです。ウーンあとは、本命の協賛セールですね。商業ギルドには軽く話しておきました。外に漏れたりしないようにも釘をさしときました。商店の方は金券を、ドーンと使ってもらうつもりです」
「金券と言うのは、金の引換券ですけど今回は撒き餌という事になりますね」
「本当に、配るんですね」
「商業ギルドでも言いましたが、バーゲン開催を甘く見てはいけません。1日1日と割引率をあげて50パーセントにしますが、セールでは、今日10万エキュの物でも明日は9万、明後日は8万、7万、6万、と下がっていきます。先に良い物や自分が欲しい物は、人が買ってしまわれるかもとういう心理が働くのです。」
「そうなんですか」
「商店には、商品がありますよね」
「当たり前ですよ」
「だが、全部の商品が毎日売れる訳ではありませんね。これが在庫です。半分が売れたとしましょう、しかし半分はお金に変えられません。その在庫を売るのですよ」
「確かに、いつまでも売れなければ」
「利を乗せて売っていれば、その利を下げて売ればいいのですよ。セールなのですから。ここら辺の事は、商業ギルドに手伝ってもらえるよう話をしてあります」
「期限の限られた、この金券はおつりが出ません。使わなければ損だとつい余分に買ったり、使ったりしがちなのです。エエ、さらに5万の兵士がそこらじゅうで買っていたり食べていたりするのを見るんです。自分も、買いたい食べたい。もっともっとと、思ってもらえばいいのですよ」
「そうなんですか」
「食べ物でも、フェスティバルが終われば地方から来た者は、B級グルメや王都の料理など普段は食べられない。今なら、金券を使える分安くなる。食べてもいんじゃないか? と思う。安いんですから」
「確かに、王都の物は地方で食べる事は出来ませんし、自慢する者もおるでしょうし」
「マ、損をするのではないかと思わせば、買わなくてもいい物まで買わせることが出来るのです。群集心理と同調心理を、話し始めると長くなるので、この位にしておきましょうか。金券は遠征する兵士に1人10万エキュで5万人に配ります。50億ですね。補助金に百億廻していますからセールスの起爆剤としては十分でしょう。商業ギルドには、ここら辺は先に教えてかないと印刷できませんからね」
「中々、進んだお考えですね。私は経済に疎いのですがこれが普通の考えなんですか?」
「セール自体はよくやってますよ。少しだけ考えが違うようですが。マ、商人さんは損が嫌いなのですよ。損して得取れと言うのは、中々出来ない事のようです。王都の店は屋台も入れて5000店。だとすれば売り上げに比例して補助金は50億エキュ位だしましょ。規模の小さい屋台には、売上プラスの嬉しい数字になるようにね」
「何だかみんな、静かですね。マ、良いか。あと王都に、お土産専門店として練兵場や、王都の有名どころのお店に新しい商品を出しましょ。王都○○と付けて販売者から、売り上げの一部を冥加金として取りましょう。これで、200億ですが経費はあともう少しかかります。これは、私がやっときます。後で、殿下の口座に入れますので、よろしく」
「ン~……」
「殿下、ここで登場です。お金が動けば、景気が上がります。周り廻って税収がアップするという話なんですからね。国庫から出すと、シーロさんが泣きますから、魔石が売れるまでは取り敢えず請求書廻しますね。みんな、立て替えといて下さい」
※ ※ ※ ※ ※
帝国歴391年5の月15日
王都ロンダ、酒場での影達の会話。
「オイ、聞いたか? 例の話」
「あぁ、大変な事になりそうだな」
「こんな事になるとは。魔獣だからな」
酒場のカウンターで男たち3人が声を潜める様に、だが周囲には聞こえるように話をしていた。
「すいません。聞くつもりは無かったんですが、横に座ったら聞こえちゃって。魔獣がどうかしたんですか?」
「フーン、あんたには関係ないだろ」
「おい、やめとけ。すまんかった。悪気が有った訳じゃ無いだろ。たまたま、聞こえただけだろ。こいつも、悪い奴じゃないんだが今日の話はちょっとなー」
「ああ、悪かった。ケドニアに知り合いが居るもんでな」
「イエ、私こそ。聞いてしまって、すみません。怪しい者ではないです。食料品を扱っている商人です」
「イイってことよ、あんたも気になるだろうから。実は、小耳にはさんだ事なんだがな」
「なんで、廻りを見るんですか?」
「噂なんだが、魔獣がね。ケドニア南部に上陸したらしいんだ」
「なに、上陸したと言うだけの話ですよ」
「エー、それ本当なんですか? 大変じゃないですか?」
「声が大きい! 噂なんだから。う・わ・さ。知り合ったのも何かの縁だ。特別だぞ」
「そうですか。じゃ、一杯おごらせて下さい」
「彼、行きましたよ。……教官、あまり芝居上手くないですね。酒を、おごるのは我々だったはずでは?」
「うるさい、こんなんで良いんだよ」
「でも、演技過剰ですよ。あれじゃ、信じるのはよっぽどの○○ですよ」
「ウムー、次は、上手くやるわい」
※ ※ ※ ※ ※
「オ、見つけた。この間は有難うな。俺は……」
「誰かと思ったら。この間あったばかりの、エーと誰だっけ」
「食料品を扱っている、商人のサンスです」
「何、言ってんです。ここは誰もが来る酒場ですよ。飲み友達で、良いですよね」
「そ、そうですね。」
「一昨日、ぶりですか」
「そうなりますね。この間はどうも。聞いた通りでした。今日、高札場の前で人が騒いでいるなあと思ったら、字の読める人が読み上げていたんです。仰ったとおりでした。魔獣がケドニア帝国の南部に上陸したとふれていました」
「そうだったのか。もう高札が出たのか」
「魔獣はやはりケドニア南部に上陸した。そうか、知っているのか。魔獣はな、10、20じゃない、実はかなりの大群だそうだ。あまりにも大群らしいので、王国も何とかするしかないなー」
「そうだとも大群だったら、大変だろうなー。ほっとけないぞ、何かするべきだろうな」
「エー、本当なんですか」
「声が大きい! 噂なんだから。う・わ・さ。また、会ったのも何かの縁だ。特別だぞ」
「すみませんね。じゃ、一杯おごらせて下さい」
「モー、教官しっかりして下さいよ。自分から名乗ろうとする密偵なんていませんよ。それに、また酒おごってもらいましたよ」
「教官、成長してませんなー」
「うるさい。俺は、お前らみたいに、嘘が上手くないんだよ。次だ、次の店に行こ。ホント、誰がこんなこと考えのか。自信、無くすわ」
※ ※ ※ ※ ※
「オヤ、最近よくお会いしますね」
「そうだな、サンスさん」
「この間も、良い話聞かせてもらって、ありがとうございました。オーイ、お姉さん。こちらに、いつものを」
「すみませんな、いつも。お礼と言っちゃなんですけど」
「新しい、お話ですか?」
「イヤ、う・わ・さ、ですよ。実は、イリア王国でも軍団を編成して魔獣を討伐に向かうそうですよ」
「オー。そうなんですか。これで、少しは安心できるかもしれませんなー」
「ウーン……、教官、大丈夫ですよ。彼も信じていますって。その証拠に、またまた酒おごってくれたでしょ」
「教官、成長してませんなー」
「すまんな。俺、役者になるのは諦めるわ」
「エー、なる心算だったんですかー」
「やっぱり、俺は武闘派で行こうーと思うよ」




