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癒やされたいキャンパー。異世界を癒やしに行く。  作者: カトー
第7章 ゴーレムとドラゴン
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お帰りなさいパーティー

 帝国歴391年5の月6日夕方

「クラウディオさん。お久しぶりです」

「オォ! カトー様。よくお戻りなられましたな。大変だったでしょう、お勤めご苦労様でした」

(クラウディオには、もちろん悪気はないだろうが、言葉のせいなのか? 塀の中から、お勤めして出て来た人を思い出してしまうのだが)

「ありがとうございます。積もる話も、おありかと思いますが」

「エエ! それはもう、ありますとも。サンスが甜菜を見つけてまいりました」

「あのー、僕の話を……」

「それでカトー様。今、言いつけられていた通り、砂糖の抽出に全力を挙げておる処なのです!」

(全部聞かないと、話を聞いてくれない様だ。エミリー、ゴメンって、すぐ済むと思っていたんだ。居眠りするなら向こうでね)


「それでですな、サンスが言う様に大規模に製造する前に原料の甜菜ですか、これをですね……」

(幸いな事に、10分ほどで話の区切りがついた様なので、すかさず話題を変えた。人間は、誰でも自分の都合を優先するものなんだよ)

「実は、クラウディオさんの本業になるんですがよろしいですか?」

と言って、魔石・中をテーブルに置いた。

「これは? 驚きました。これって魔石ですよね?」

「はい、買って下さい。予めお教えしますが、商業ギルドのアニバルさんにも、同じような魔石を購入して頂くつもりです」


 タウンハウスには会議が長引き、クラウディオの所にもよって来たので夕方過ぎに帰宅する事になった。王宮では殿下達と実に40時間の会議だったのだ。エミリーも疲れていたようだが、軍人生活の性か顔には出ていないようだ。夕食を取りながらセバスチャンとエマに、エミリーの顛末を知らせた。二人の労をねぎらい、留守をしていた時の事を話してもらう。他の人たちには、明日の朝、店に行ってから話をする事にした。


 タウンハウスに居た、お店のスタッフも新店に移動していて、ここにはセバスチャンとエマだけだそうだ。皆も職場への通勤時間0の方が都合も良い。こちらの警備の方は、商業ギルドがやっていてくれるので(引っ越しの時のセットサービス付きに似ているそうだ)二人も夜帰るだけらしい。今日は、久しぶりに早帰り出来たそうで、運が良かったと言っていた。何がって夕食が食べれたんだしね。


 セバスチャンとエマに、店を40日も留守にしたが大事な任務が、完遂出来たと告げる。今回の任務の流れを説明しておかないとね。やはり、要塞下部のホムンクルス達の事は気になる様で詳しく話しておく。それに、殿下との会議で決まった子爵の事や、ホムンクルス達を領地に迎え入れる事について手はずを決めておいた。

(二人とも、大抵の事では驚かなかったが、ゴーレムや、特にドラゴンの事を話すと開いた口がふさがらない様だった。ホムンクルスの、フリーズと言うのを始めて見た気がする)


 明日、お店に行ったら皆にお礼を言わないと。出かける理由を話すのに、誰が良い、ダメだと線引きできなかったとセバスチャンとエマが謝っていたが、これは二人の判断の方がもっともだ。今となってはその方が良かったと気にしないでと言っておいた。皆には、秘密情報の制限が解除になったら、出かければならなかった理由を話そう。


 ※ ※ ※ ※ ※


 帝国歴391年5の月7日

 朝一番でやってきた、商業ギルドのセットサービススタッフにアニバルとの連絡を頼んでおく。

「さて、エミリー久しぶりに皆の顔を見るか」

タウンハウスから新店まで歩くつもりだったが、セバスチャンに馬車を勧められた。夕べ、二人には子爵に任じられた事を話しておいたので、その為に体裁を気にしなければならなくなったらしい。エミリーと、遅めの朝食を食べて店へと向かう。エミリーは、店に寄ってから守備隊に顔を出しに行くそうだ。


「こうやって町並を見て、人々の暮らしを見ると良いなーと思うね」

「カトー、やけにしおらしい事を言うんだな。マァ、確かに人の営みを見ていると、感じる物が私にもある」

「オ! 凄いなー、何かあったのかな。なんの行列だろう?」

「カトー、行列が店の前まで続いているぞー!」


「ひょっとしてセバスチャン、いつもこうなの?」

「ハイ、たいていは、こうですね。いつも行列が長いのでご近所の方に、ご迷惑ではないかと思い心配しております」

「凄いねー、あれ、皆が手に握りしめているの整理券なの? 小さな、板みたいだけど」

「エマが、偽造防止用に作った物です。割符も兼ねておりまして、中々工夫してあります。こうでもしないと収拾がつかなくなりますので、お店はかなりの評判なのですよ。もう王都名物どころか、ここでケーキを食べてないのは、ロンダっ子の恥だという者まで出るような事になっております」


 近づくと、警備担当のエミグディオ達、6人が総出で行列をさばいている。駐車場の誘導をしているのは、レイナルドとアイダの二人だ。馬車を乗り入れると、気付いた二人が手を振って喜んでくれた。

「ご苦労様」


 調理・製菓担当のジェセニアとルシアは、厨房でケーキの仕上げをしているようだ。ホールスタッフのベタニアとマリアは、さながら蝶の様に舞ってテーブルを行き交っている。タティアナの娘のアデラは、約束通りケーキの味見係をしているようだ。ファブリシオも、何故か味見に加わっていたが、二個目に手を出そうとしている。あれは母のデボラに叱られるぞと思っていたら、案の定。ウン、怒られていた。


 僅か、40日ちょっと離れていただけなのに、人という者は不思議だ。そばにいる時は、何も感じないが離れてみると懐かしく感じる。外にいた、六人の警備担当エミグディオ、ホルヘ、アマド、ドリナ、エデルミラ、フリダ、駐車場の誘導をしている、レイナルドとアイダにも声を掛けてかないとな。結構、甘い幻想を抱いて感じ良く感慨に耽っていたのに、どうやら立ちふさがる現実が勝ったようだ。


「店長! カトー様です。お帰りになられました」

「タティアナさん、元気してた?」

「カトー様、お帰りなさい。直ぐに、エプロン着けて。炭酸水作って下さい。早く! あれだけ有った在庫が切れかけているんですよー」

「ア! カトー様いたんですかー、お帰りなさい。タティアナ店長。追加オーダーまだですかって」


 ア! だって。お昼休みもこき使われて、ホッと出来たのは閉店後の清掃時間の時だった。皆に、ちゃんと挨拶出来ないまま、明日の仕込みの為に、残業するかと誘われた。もっとも、これは皆の冗談だったけど。

「疲れたー」

 本当は残業では無く、エマが考えたサプライズ。お帰りなさいパーティーだった。厨房でガス充填のお仕事をしている間に準備してくれたらしい。お店の片付け後、皆に手早く小皿が配られた。セバスチャンとエマが、何処からか料理と当店のシャン●ンを持って来てくれた。(僕とアデラは、子供は水だよと言われてグラスを取り上げられたが、ファブリシオはちゃっかり飲んでいたようだ)


 エミリーも、守備隊に顔を出すので遅くなる様な事を言っていたけど、間に合ったようだ。このパーティーは僕以外、全員が知っていたそうだ。昨日、会ったクラウディオと、甜菜を探してくれたサンスも来てくれた。もちろん彼らも知っていたようだ。


「みんな、ありがとう」と世間並みに感謝の言葉を述べてお礼を言う。こんなときの挨拶は、照れもあるが短い方が良いと決まっている。

「色々あってね。僕。今、子爵やってます」

 四人は、むせっている。後はポカンとしている。アデラは意味が分からなかったようだ。クラウディオとサンスは、頭を押さえている。エミリーとセバスチャンとエマは知っているので、関係なく食事をしている。(セバスチャンとエマも、ちゃんと食事して細胞の更新をしています)


「カトー様って、準男爵から男爵様になったばかりですよね。今は、子爵様なんですか?」

警備に増員した女性3人パーティーと日が浅かったので、エミリーに確認をとっている。因みにエミリーも、子爵の副官にはせめて大尉でなければと、という事で中尉から近衛大尉に昇進している。世に言う、バランス人事である。


少したって落ち着いたらしく、皆も会話を再開した。

「でも、カトー様。今日は、王家のお忍びが無くて良かったですよ。お見えになると、もう大変。お時間を作られて並ばれるのでしょうが、王家の方が行列に並ばれて、警護の方が前後左右について、通りの向こうからは装甲馬車って言うんですか? あれが2台、近衛兵を乗せて控えているし。行列に並ばれる一般の方も、最初の頃は緊張していましたけど、今では気軽にご挨拶されるし。……あれ、本当にカトー様言ったんですか? 列に並ばないと、お出入り差し止めって」


後日、王妃様に聞いてみた。

「よいよい、戯れじゃ。そうとでも言っておけば、わらわも社交から逃げられるからな。やっと3の月が過ぎて余裕が出来て来た所じゃ。それに、町の皆の意見や雰囲気も分かるからな」

どうやら、本当に言った事になっているらしい。


 ※ ※ ※ ※ ※


 帝国歴391年5の月8日

 昨日、タウンハウスに朝一番でやってきた、商業ギルドのセットサービススタッフにアニバルとの面会を頼んでおいた。会えるように日時を調整してもらおうと思っていたら、すぐにでもと言うのでギルドに行く事にした。いきなり話をしても何だし、マァ、内容からすればそれなりに歓迎してくれるだろうけど。そこは社会人という事で。ご挨拶してからの会話です。


「流石、耳が早い。よく御存じですね」

「イエイエ、種を明かせば昨日こられたクラウディオさんが、嬉しそうにしていたので。何故かと尋ねたら、カトー様のご帰還を教えてもらったんです。はい。それで、お話しとは?」

「アニバルさん、商業ギルドにとっても良い話だと思いますよ」

「ホー、そうですか。期待していますよ、カトー様」


「ルフィナさんも、御無沙汰していました」

「カトー様も、お久しぶりです」

「アニバルさん。この度、子爵位をセシリオ殿下から下賜されました」

「エ! 確か。カトー様は、準男爵から男爵様になられたばかりではないのですか?」

(流石、二人とも金融関係者。顔には出さないと思っていたがそうでもない様だ。貴族位の事で、嘘言ったら死刑だし、これって驚いているよね? でも、驚くのはこれから。そして魔石をゴトンとテーブルに置く)


「これはこれは、魔石ではありませんか! カトー様……! クラウディオさんが、力を入れる訳だ」

「で、手元不如意という事で。これを、買って下さいと言うお願いです。予めお教えしますが、クラウディオさんにも同じような魔石・中を購入して頂くつもりで昨日渡しました」

「では、王都には今現在、魔石・中が2個あると? エー! それを、現金に換えると……。失礼しました。ハイ、この間のオークションでは魔石・中は50億で始まり87億エキュで落札されました。大変人気があり、地方の方で上京してオークションの参加に間に合わなかった方も多かったようです。欲しがる方は多いでしょう。上手くいけば100億エキュになるでしょうかね」

「思ったより多い金額ですね」


「売却はお急ぎなんですよね」

「まあまあ、急ぎで。常識的な買い取り値段でしたら、手数料の事も有ると思いますので1個60億より多くあれば」

「オークションの様に、100億エキュとはいきませんが、ご承知でしょうね。イヤ、度々申し訳ございません。今のは、お聞きにならなかったと言う事で、魔石という事でちょっとドキドキしまして」

「忘れましょう。その販売代金を使って、ちょっとした投資をしたいんですよ。小麦、大麦、あと豆もですか、塩なんかも良いかな。その売却代金で買えるだけ買って下さい」

「買い占めると言う事ですか?」

「人聞きの悪い。直ぐに売ります。今からでも買ってもらって、15日後に皆売って下さい。で後は、幾らかわかりませんが王家のセシリオ殿下の口座に、今から言う分を引いて全額入れて下さい」

「王家の、セシリオ殿下にです?」

「なに、販売代金より減らないとは思いますが、減っていても気にしません。でも、商業ギルドでも真似して良いのは1回だけですよ。これは守って下さい。王国にも、国家公務員の守秘義務と言うのが有るのでしょう? これ以上言わなくてもおわかりだと思いますけど、念の為に申し添えます。では今からお話しするのは、国家の未来に関する情報ですからね」

「ハイ、そのようにいたします」


「話しは飛びますが、関連しています。ルフィナさんに聞きましたが、アニバルさん。歩きたいシリーズの冊子では、印刷と言うのをしているとか」

「はい、その通りです」

「アニバルさんが、口座の契約書を作成してくれた時、ピカリと光りましたよね。あれは契約魔法ですか?」

「王国貴族の方なら、話しても良いと思います。そのとおり、契約魔法です」

「では、偽造防止処理した金券の印刷をお願いいたします。これが殿下の許可状です。封蝋をお確かめ下さい」

「確かに、殿下がお書きになられた物かと。な、ルフィナ君も見てごらん」

「念の為、口の堅い鑑定師に改めさせて下さい。これからお話しするのは、金券と言うより有価証券という物です。100万エキュ以上、交換所に持ち込むと金で交換する建前です。手数料なしで。それにこれ、担保なんか無くてもすむ方法があるんですが、オッと今のは無しで」


「今日の処は、あと二つの考えがあります。一つ目は商業ギルドが音頭を取って王都ロンダで大々的に協賛金や、販売大売り出し、つまりセールをして戴きます」

「セールですか?」

「いつも販売している価格の2割引から始まり、日を追って、そうですね5割引で」

「そんな事をすれば、お店が潰れます」

「そう思いますか? ルフィナさん。これが面白いように売れる事になるとしたら」

「詳しい事は、こんど説明しましょう」


「後一ツ。食べ物フェスタ。ウン、フェスティバルとでも言いましょうか。これを王都にある全ての教会前広場で、競技会のトーナメント方式で開催し、この予選を通過した美味しいと言う屋台を、練兵場で本選を開催して競わせます」

「食べ物で、競技会をするのですか?」

「ハイ、東の大陸ではB級グルメ大会と言って人気なんです。おそらく会場の練兵場では、王都中と言ってよいほどの人が来るでしょう。」

「B級グルメですか」

「出品者用の屋台が足りないと何ですから、今から増産を始めておかれると良いでしょう。それを、売却したり貸出したりすれば、これも美味しいでしょうね」

「はい、ご用意させていただきます」

「オヤ、こんなに長く話し込んでしまいました。ではまた、打ち合わせに参ります。エミリー、失礼しようか。この件で、お忙しくなるでしょうからお見送りは結構ですよ」

「すいません、気づきませんで。玄関までお見送りさせていただきます。ルフィナ君、君も一緒に。受付嬢と手隙の者もな」


「ルフィナ君、カトー子爵様達は。確かに、お帰りになられたよな?」

「ヒ! 急に声を掛けないで下さい。アニバルさん。ご自分で、お見送りしたじゃないですか。私、お話を聞いているだけで、カトー様が怖くなりました」

「君もか、あの知恵はエバント王国のベルクール小鬼どころでは無い。他のもそうだが、有価証券とはな。金融市場が完全に書き換わるぞ」


 ※ ※ ※ ※ ※


「カトー、王都に戻ってから随分としゃべるようになったな」

「そうなんだ、殿下達と徹夜で会議したし、お帰りパーティーも、それは沢山の話をしたんだ。苦手なお金の話もしたし。今もベラベラと話しているし。何だか、いつまでも話をしていられそうな……ランナーズハイかな、この高揚感はβ-エンドルフィンかもしれん。走ったり、音楽聞いてたりした訳でもないし。悪いもんでも飲んだり食べたりしたかな?」

「まぁ、自分で分かっているなら良いだろう」

「これ、きっとキャンプ成分が不足しているんだ。そうだよ、こんなに人に会って話しているし」

「カトー、今晩はしっかり寝ような。人間、働き過ぎは良く無いよ」

「ウン、そうだね」

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