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癒やされたいキャンパー。異世界を癒やしに行く。  作者: カトー
第7章 ゴーレムとドラゴン
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火薬、そしてエネルギー革命

 帝国が属国化したエバント王国の南に、鳥だけが住む島が有る。海鳥だけの白い島。天敵もおらず、海鳥の天国と言われるぐらい数を増やしていた。そして、糞の堆積物から、硝酸カリウムが採れる。


 エバント王国の資料では、600年前の隕石テロ前までは優れた性能の肥料として使われていた。溶けやすく、即効性があり、根を痛めず、保存しやすいという事だ。ただ、運んでくる船が15年ほど前まで無かった。およそ600年に渡り、手付かずの硝酸カルシウムが今でも堆積しつつある。ここムンデゥスでは、地球と違いまだまだ掘り尽くすには時間がかかるようだった。


 黒色火薬の製法自体は、帝都の開発局に保管され少量の硝石も残されていた。当初、古土法は失われた技術で再発見されておらず、硝酸カリウムの生産の目途が立っていなかった。火薬製造計画もようとして進まなかったが、ここにきて露天掘りがされた硝石の供給が可能と分かった。残る原料の硫黄は北部の火山にあり、上質な木炭は帝国内どこでも生産が可能である。


 研究が進み、硝酸カリウムの製造方法も確立した。嘗て、古土法と呼ばれた技術が再発見された。古土法は、古家や家畜小屋の壁から土を集め草木灰を加えてから、煮詰めて結晶を作り硝石となる。だが、時間がかかりすぎる。わずかに時を置いて、硝石丘法も再発明された。木の葉や石灰石・糞尿・塵芥を土と混ぜて積み上げ、尿をかけて硝石を析出させる方法だが、採取まで同じように年単位の時間が必要だ。


 輸入品として運ばれてきた肥料は、港湾都市メストレから帝国の農業研究施設のあるリミニに運ばれた。リニミ周辺は、穀倉地帯として肥沃な土壌で知られ、黄金の大地と呼ばれている。当初、肥料として扱われていたので黒色火薬の原料とは誰にも気付かれなかった。


 だが、帝都の開発局が気付く事になる。そして火薬製造の為の試験研究施設をリミニに作ったのだ。農業研究所は試験場として恰好の隠れ蓑となり諜報対策にもなった。並行して、島からの輸入が大幅に増やされ、加工後は帝都の火薬生産工場へと運ばれる事になる。もちろんリニミでも研究の為、少なからず火薬の生産を行い保管して在庫としている。


 そんな時に港湾都市メストレが、魔獣により壊滅した。硝石の輸入が途絶える事となり火薬の生産が覚束なくなってしまった。侵攻前にリミニの硝石加工工場から送られてきた硝石は、かなりストックが有るが急増する需要に早晩尽きるだろう。陸路、エバントから輸入するにしても、量も馬車では知れているだろう。船で運ばれてきた、露天掘りの大量な硝石とは違い生産量は微々たるものだろう。第一に、日にちも掛かるし火薬製造方法の露見も考えなければならない。


だが、幸いな事にケドニア帝国北部で同時期、山岳地帯の鉱山開発時と言われるが、偶然洞穴のコウモリの糞から生成した、大量のグアノが発見された。帝国は、これらを用いて、火薬の供給を大幅に増やす事が出来る事になった。


 元々、開発局は火薬を開発するにあたって武器製造よりも、北部の山岳地帯の鉱山開発の土木技術の一つとして重きを置いて製造をしていたのだ。しかし黒色火薬は摩擦や衝撃に弱く、魔法使いの攻撃魔法より威力は大きくない。研究も遅れがちだったようだ。だが希少な魔法使いを、炭鉱で使う訳にもいかず、事故も無視できなかった為に研究は続けられていた。


 導火線の発明後は、火薬の利便性が増し炭鉱や土木工事で使用が急伸した。そして魔獣襲来の今、武器の開発が急務となったのは自明の理である。開発局は火薬の量産に力を入れて、更なる武器への実用化と応用が目標とされた。帝国は火薬を使った武器製造に大きく舵を取ったと言える。はたして、この世界でも戦争が兵器を発展させるのだろうか?


 ※ ※ ※ ※ ※


 火器の発達は、魔法がある為にかなり遅れていたと言われる。だが、ケドニア帝国では何時までも少ない魔法使いや、希少な魔石に頼る訳にもいかないと言う意見が多かった。その為、科学的にも技術的にも研究が進められている。


「カトー卿はかなり銃器にお詳しいようですな」

「ハイ、閣下。マァ趣味というか知的好奇心と言う事なんですが、嫌いじゃないですね」

「ホー、では帝国での話も満更では無いんでしょうな」

「ハイ、好物ですね」

「ハッハッハ。既に、ケドニアでは最初の鉄道馬車生産から30年近い月日が経っているのです」

「存じてます」

「そうでしたか。時には、線路を敷く一助として、火魔法の代わりに火薬の爆発力が利用されております」

「土木技術が、取っ掛かりと言う訳ですね」

「帝国は、鉄道馬車で産業化への基礎的な技術と経験を積んできたのです」

「成功したんですね」

「エェ、成功したと言えますね。商業的に成功した粗鋼生産は、現在では大量生産へと変わる過渡期となっているようです」

「科学技術振興期と言う訳ですね」

「そのような言い方をするのですか? もはや時代は、魔法に変わる新しいエネルギーを必要としてるのかもしれませんなー」


 ケドニアでは鋼を利用した、銃器の試験生産も始められようとしていた。火魔法による、広域破壊力の有効性は魔法使いの数に左右されるとされている。イリア王国の様に魔法使いは多くないのは事実である。王国が人口600万人に対して、帝国は人口3600万人である。しかしながら王国の魔法の術者は、同数以上で魔法使いのレベルでは3から4倍と言われるのだ。

 また、銃火器の開発に本腰を入れ始めている帝国軍は、領土自衛の為の切り札としたが、一部ではイリア王国への用意であるとも噂されていた。


「15年前から、帝都の開発局では火薬の量産化が図られています」

「そうなんですか」

「同時に、火薬の利便性を変えた、導火線と組み合わせた擲弾を開発しています」

「良いんですか? 軍事情報じゃないんですか」

「はは、その気になれば簡単に調べられますよ。上述したように、土木技術の一つとして鉱山の掘削に使われるはずだった物が、武器として製作され転用されたという事です」

「おもちゃを見つけた軍が考える事は何処も同じということですね」

「そうなんでしょうね。初期の手投げ弾ともいわれる擲弾は、火魔法ほどの威力は無く、投擲距離も手によるものなので短かったんです」

「イリアは魔法王国ですから必要とはしなかったようですが、それが良いとは限りませんけどね」

「そうかもしれません、魔法が使えない者でも下級火魔法に劣らない破壊力。この威力に驚喜した開発局は、研究の継続と応用を継続したのです」

「わかります。火魔法のお蔭で、爆発や弾道の概念は簡単に理解できたようですしね」

「その通りです。開発局は魔法使いを開発に加えました。皮肉っぽい言い方ですが、魔法で遅れた大砲は魔法で理解が進んだのです」

「やはり、土魔法による鋳鉄法ですね。成型技術はかなり複雑な物まで出来るようになったんですね」

「ご存じでしたか。さすがカトー卿ですな」

「ひょっとしたら試験的には砲耳を付けた大砲も、鋳造され出しているのではありませんか?」

「ホー、まるで全部ご存じの様ですね。いやはや、短いながらも実に有益な話でした」


 魔法がある世界でも物理は同じ様な働きをするものらしい。風魔法の使い手が、水鳥が水中に飛び込む形を見て、丸かった砲弾を弓矢の矢尻の様な形にした事で、飛距離が伸びた。発射体は金属の球形砲弾から、壁を貫く徹甲弾と頭上で拡散する榴弾の2種が理想と考えられた。このアイデアは時を置かず完成する。この発想が進む事で弾種は、徹甲弾、榴弾、散弾、榴散弾、焼夷弾へと次々と試作が行われる事になった。


 また土魔法で、比較的簡単に砲身が幾種類もデザインされ鋳造できたのも魔法の有る世界の利点であった。ハンドキャノンが、大型化して大砲や臼砲が作られた。また小型軽量化して、マスケット銃やピストルの原型が作られた。地球の歴史と同じ、火薬を応用した様々な物が考え出されている。遥かに早い開発速度で有ったが。


 攻城兵器として火薬推進の焼夷弾ロケットが考案された。火を噴きだしながら敵城や陣に飛び込み、火災を作り出する物だが、黒色火薬の燃焼不具合の為に度々爆発炎上した。開発局の研究者達はひるむ事無く、これを多連装化して面制圧兵器の製作を開始して成功している。この発想を、マスケット銃に拡大して銃身を束ねて一斉に発砲出来る物や、銃身を回転させて機関銃の先祖を作り出した者もいた。両方とも弾丸の再装填に苦労するが、地点防御力として大量の弾を使い制圧するという考えをもたらした。


 さらに、似た事を考える者は何処にでもいるようで、巨大な弾丸を放つ、これもまた口径1メートルという巨大な砲身を持つ巨砲が作られた。大きければいいと言う訳だろうが、さすがに当時の鋳造技術では困難で自爆する物もある。自爆しなくとも3発撃つと砲身にヒビが入り、4発めで割れてしまった。

 だが、自壊しなければ城壁への破壊力は凄まじく、同じ場所に当たれば特別行政都市の城壁、城門ともに打ち抜けると思われた。なお、余談になるが、二度も同じ場所への命中は無理と笑われた研究者は、攻城戦用の攻城槌を応用して接近できる台車を開発して可能にしてしまった。


 まさに、銃火器の黎明期ともいえる物が次々と作られた。だが、実用面では、天候に左右される事も多くまだ使い勝手も悪かった。


 鉄は、帝国各都市の軌道馬車に使われた為、生産能力と加工技術が向上した。全金属性の車輪を製作するにあたって旋盤が開発され、一部木製では有ったが金属製の車体のリベットに由る溶接方が生み出された。


 これらに使用される膨大な量のエネルギーは、帝国中央山脈からの豊富な水流や、母なる大河エルベでも、水車利用だけではとても足りない。過去には、魔石によるエネルギーで難無く行えた事も今では難しい。新エネルギーの開発は急務となったが、幸運な事に数年に渡る豊作と、経済の活況による潤沢な資金が生まれ、これを支えた。


 ※ ※ ※ ※ ※


 暖房に用いられる暖炉ではお茶用に薬缶が掛けられていた。この世界でも、薬缶の蓋は湯気でカタカタと動く。一人の研究員が薬缶を見ていた。いや湯気を見ていた。

「勢い良く吹き出ている湯気、使えないかな?」

「何にだ?」

「動力とか? 少し調べてみる。古文書に何か記述があったような……」


「こんな大きな窯がいるのか?」

「エネルギー量は違うが、熱源は火魔法でも薪でも、同じようにお湯が沸かすことが出来る。水と火が有れば良いんだ」

「火魔法も水魔法も、形を作る土魔法もあるんだ。試行錯誤しても良いと上も言っているからな」

「お前が幸運だったのは、600年前に失われた資料と記録の一部が見つかっていた事だな」

「まったくだ。これで蒸気の研究が進むな」


「以外と時間がかかったが、大かたの形が出来たようだな」

「アァ、まったくだ。暑いのに暖炉をいつもガンガンに焚いていたからな」

「古代アレキ文明は、魔石によるエネルギーで繁栄した。だが、そればかりではない。他にも動力源と機械仕掛けが有ったはずだ」

「今となっては簡単なギアの製作だったと思うが高速で回転するとな……まだまだか。しかしマァ、水車の回転運動が直線運動に変換されるのには問題ない。逆もまた可能だ。ピストンの理屈も解る」

「作られるエンジンの、基本構造は変わらないんだ。単純な構造だが、再発明されるまで六百年も掛かった事になったな」


 数年にわたる研究が実を結び、蒸気エンジンが造られた。

「こんな大きな装置が作動しているのを見る事になるとはなー。さすがに迫力あるなー」

「復水器で効率を上げ、蒸気圧を高めて出力が増す為には大きさ必要だからな。致し方ない。実用にはなるから良いんじゃないか?」

「そうだな。復水器は吸排気弁によって無くなり、さらに効率が上れるはずだ。後は新燃料の登場を待つだけだ」

 古代文明の知恵も手伝った。帝国では、エルベ川沿いのミューリッツ湖畔で、昔から燃える石として有名な石炭と、帝国北部の寒冷な土地にある泥炭が知られていた。結びつける事は、たやすかった。

そして、ケドニア帝国で動力とエネルギー革命が始まった。

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