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癒やされたいキャンパー。異世界を癒やしに行く。  作者: カトー
第7章 ゴーレムとドラゴン
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転送ステーション74。別名、ヴォメロの塔

 帝国歴三百九十一年四の月二十四日

 広大な平野に、一つポツンと置かれたような岩山は、絶海の孤島とも思えるヴォメロの塔である。古代アレキ文明期に、今となっては失われた高度な土魔法を、駆使して作られたと思われている。

 隕石テロと六百年の年月を、潜り貫けた帝国ではわりと有名な観光施設であった。これは戦闘を想定して作られたものでは無く、展望を楽しむための製作物である。それを、急遽改装して作戦に使用する事となったのである。既に、調査の為、先遣隊としてアロイス・ドミニク・ディディエ・ジュレ大尉が、部下二百五十名からなる一個中隊を率いて向かっていた。ヴォメロの塔は、観光施設から前哨観測基地となる。


「アロイス大尉、懐かしそうですね」

「アァ、子供の頃に連れられて来た事が有るんだ」

「聞いたところ、塔の頂上まで百五十メートルあるそうですねぇ。上まで行かれたんですか?」

「そうだ。垂直に切り立った岩山の上には二つの展望室が築かれているんだ」

「その、岩山の上にですか?」

「外側からは無理だよ。昔は魔石エネルギーで動いたんだろうが、岩山の中心部にはエレベーターの様な垂直のシャフトが作られているんだ」

「ホー、それはすごい」

「平野部から塔の入り口に入れるんだ。、シャフトまでを繋ぐ通路が水平に掘られていて階段室まで続いているんだよ」

「フーン」

「四百二十八段の螺旋階段を登るとだな、さしずめ天守とも言われるような高さにして三十メートルの複数の階層からなる第一展望施設に着くんだ」

「良くご存じですね」

「ここに来る前に資料を読んだからな」

「ハハ、驚きましたよ」

「この岩山の基部では、さらに深く水源まで掘られた井戸と貯水槽が有る。食事ができる所とお土産屋があったと思う。アァ、もちろん入場券を売っていたぞ」

「平和だったんですね」

「アァ、ほんの少し前まで訪れる観光客は、動力が切れて動かなくなったシャフトを、横目で見ながら五百段の螺旋階段を登ったもんだ」

「絶景なんでしょうね」

「そうとも。おそらく大昔は、ここをホテルの部屋の様にして、第一展望室の三十メートルの部分に宿泊客を泊めたのだろう。そして、その先の七十二段を上がると、岩をくり貫いたかのような第二展望室と、全周を見渡す事の出来る観望場に出られる」


 素晴らしい展望に思いを馳せながら、地上の景観を楽しむために頂上まで上がる。上り下りを済ませた帰りには、地下に降りていまでは水槽となった貯水槽で、飼われている淡水魚を見て歓声を上げる。展望と水族館を楽しむ施設、それがヴォメロの塔だった。


 ケドニア帝国要塞防衛軍は、要塞の南二十五キロ地点にあるヴォメロの塔を、前哨基地に作り変えるつもりだ。リミニからステファノ経由で、帝国要塞に侵攻してくる魔獣を観察し偵察する為である。塔に興味が引かれないよう、廻りは何も変えず、入口からは大量の罠を仕掛けた。防御設備と方法は、可能な限り工夫される計画だった。


  基地化の為、階段室の基盤より更に深く縦溝が掘られた。しかし、地下水槽より僅か数メートル下で、極めて強固な岩盤に突き当たった。計画は修正され、水平方向に空間を広げる事で妥協した。そんな時に、イリア王国の公使が来て命令書をアロイス大尉に渡したのだ。


「では、カトー男爵殿。これより指揮下に入ります。ご命令のままに」

「指揮権を頂きます。アロイス大尉。以後、カトーが中隊の指揮を執ります。急な事で、申し訳ありません。ところで、塔の下部で岩盤に当たったとか。そこまでの、案内をお願いいたします」


 ※ ※ ※ ※ ※


 統合官は決断を迫られていた。転送ステーション113と要塞下部の転送装置、さらに転送ステーション74を接続し、簡易ネットワークを再構築すると自分たちの存在が知られるのではないか。果たしてそれは、後の人類の為になるのか? ホムンクルス達、仲間の事も有るが今しばらくは、人類の文明度が向上するのを、待たなくてはならないのではないのかと?


 統合官は気付いていない様だが、ホムンクルスは未来を見通したり考えたりする事は出来ないし、想像力も無いはずだった。ホムンクルスとして生まれてきた者達の、使命は果たして何なのか?

 嘗て、要塞がホテルだった頃。六百年以上前の頃。人が喜ぶのを見るのが楽しくて、お礼を言われたりすると喜びも大かった。統合官は、その気持ちを忘れずにいた日々を思い出した。


 自分達ホムンクルスの為に、失われようとする帝国の何百万の人々の命の重さを秤にかけていた。そして、今は迫りくる魔獣の事を思う。

 カトー男爵の言う通り、今一度だけ第三世代のドラゴンの様に、人類にかけてみても良いのではないか? と言われた事を思っていた。統合官は、戻れぬ決断を下す事にした。


 ※ ※ ※ ※ ※


 僕とエミリーは、帝国要塞の遥か地下にいた、上級管理官のホムンクルスとの打ち合わせ通り進める事にした。

「エミリー、統合官が言っていたけど、昔の転送ネットワークは網の目状に曳かれていたらしいね」

「そう言っていたな。私はそんなものなんだと思っただけだが、それがどうしたんだ?」

「ケドニア要塞が、飛行機。アァ、知らないか。そうだなぁ船の様にハブ港の基点の一つとすると、幹線航路と言うのが三本ほどあったらしいんだ」

「ウン」

「仮にメリダから要塞線とすると、後はこの大陸の横で東フルに通じる線にあたりまで通じていたんだつて」

「ウンウン」

「さらに全滅したとされる南大陸に続く線だったという事だよ」

「転送網がムンデゥス全域に有った訳だな」

「統合官によると、転送ステーション74は稼働していない。そこにある設備ではおそらく伸延は難しいらしいとも言っていた」

「フーン。そんな事、言ってたのか」


「魔獣の研究所まで引かれていた転送ネットワークを、修復するのは出来る確率は半々ぐらいかもしれないらしいよ」

「修復する? 誰が?」

「ホムンクルス達に頼むことになると思うけど」

「私は技術的な事はさっぱり分からないのだが」

「僕もだよ。統合官によると、もしも74の稼働が出来ない場合は、74の設備を要塞近くに転送機ごと移築して新たに整備し直すしかないらしい」

「大事だなぁ。そうなると転送機を整備する場所と、ホムンクルス達が見られない仕掛けが必要になるな」


 ※ ※ ※ ※ ※


「カトー卿、この少し先です」

「アロイス大尉、ありがとうございます。ここから先は自分達でやります」

「では、後程。失礼いたします」

既に、塔の地下の岩盤まで降りたカトー達は、さらに掘りすすめられた空間の中で、立っていた。

「アロイス大尉は気をきかせてくれた様だな」

「アァ、そうだね。ウーンとこれは入り口かな?」

目の前には、土魔法で掘り出された転送制御室の入り口があった。


「じゃ、いつもの通りだと思うから」

「中に入ろう」


「統合官達は、地下にある魔石エネルギーの発生装置が、今でも使用できるのか分からないと言ってたからな」

「そこで、判別できる装置を渡して、転送ステーション74の機能回復が可能か確かめたかったのだ」

「魔石は、転送制御装置の端末にただ置けば良いと言ってたけど」

「ここで動かせば良いだよね。このアーティファクト」

「ビーコン発生装置を稼働させるだけなんだろ」

「ウン、ここのスイッチを押せば良いだけなんだけど。そうすれば、塔の北にある転送魔方陣の起動ルーチンが動いて、自己診断プログラムが働きだしてネットワークの再構築が準備可能となるはずなんだ」

「暫くすると転送装置は正常稼働へ移行して、システムの再構築が行われるんだろう?」

「正常ならね」

「表示、変わらないな」

「ウン」

「再構築後はイリア王国にある転送ステーション113が、三千キロ離れたヴォメロの塔へ、瞬時に軍を送れる事につながるんだよな」

「王国と帝国はめでたく転送魔方陣を手に入れる……」

「まだ表示、変わらないな」

「何百年ぶりだと思うから、時間がかかるんじゃないかなー」


 複雑な設定を簡素化する為に、行きっぱなしの片道設定となり、交互運用ではないが瞬時に移動できる。遠征終了後は、同様に帝国からの一方通行設定すれば良い。片道百五十回、往復で三百回の転送が出来る。それが、置かれる魔石の限界だろう。それ以上は危険だ。転送は一度に、千五百人と装備品が転送可能だという。およそ百五十トン~二百トンが一瞬にして移動するのだ。

(B777-300の機体のみの自重は約160トンと聞いた事が有る。空荷の飛行機一機分を転送だ。今回、騎馬隊の運用は予定していないので軍馬の転送は必要ないだろう)


「カトー、……表示板が赤く輝き、終わると静電気の臭いがするんだろ? 辺りにたちこめるだったか?」

「この装置、ちょっとコンコンしてみて」

「どつくのは止めた方が良いんじゃないか? それアーティファクトだろ。精密機械なんだろ」

「やっぱり動かないなぁー。そんなに、上手く行く話は無いかー」

「しょうがないな。カトー。では、プランBとやらの出番だな」

(やはり、エミリーの言う通り大事になった。ヴォメロの塔の転送システムの移動と修理が必要だという事だ)


 遺跡都市メリダ、王都北の第三級転送ステーション113、ケドニア要塞の魔力エネルギーが枯渇していた転移ステーションとホムンクルス達。そして、ヴォメロの塔にある第三級転送ステーション74。74が動けば、露見する確率は減り、要塞下部の秘密は守られていくだろう。


 今となっては、残された物も時間も少ない。要塞下部の魔方陣は魔石エネルギーを注入すれば動くはずだ。そして要塞上部との行き来を、113起動後には完全封鎖しようとしていた統合官は、考えを改めなければならなかった。


 ※ ※ ※ ※ ※


 ドラゴン (高々度迎撃タイプ大型ドラゴン第四世代)の話

 ワシ達は二頭だけだそうだ。六百年前に人の手によって生み出された。三年ほど前になるが、中央大陸に居た最後の第三世代(巡航タイプ大型ドラゴン)の龍が絶滅したらしい。我々の内どちらかが向かう事になり、東大陸イルの文化に興味があると言ってワシを残して飛び去ったのだ。新しい環境に慣れる事が苦手な事をしっている、あいつなりの気の使い方なのだろう。


 たまにだが、第二世代のドラゴンと共に空を飛ぶ事が有る。彼ら? 彼女?達(ドラゴンに性別は無い)は飛ぶのが本当に楽しいようだ。思い起こせば、第一世代はまるで幼児みたいだったな。ご機嫌な時は良いが悪いと喚いて煩かった。しかし、可愛らしさは子犬や子猫のようで見ていても飽きなかった。彼らは一番先にいなくなった。混乱期に、人間の騎士たちに不意打ちや、罠にかけられて死んだ者が多かった。三百年の寿命まで生きたのは少なかったと思う。


 第二世代は、賢かったがやはり今は四頭だと思う。ひょっとしたら三頭かも知れないが。彼らのお蔭でドラゴンは討伐されなくなった。獣に襲われている人間を見かけたら、助けるように条件付けられていたのが大きいのだろう。日照りの時には、水魔法で村や町を救ったらしいとも聞いた。自分たちの話を聞くワシに嬉しそうにしていたのが印象に残っている。


 第三世代は、人間と同じぐらい賢かったが、賢かったゆえに隕石テロの時に一頭を残して全滅している。彼らは本来なら寿命が七百年近くある。第二世代に後から聞いたのだが、テロの時に都市を隕石攻撃から守る為と言って自ら体当たりして破壊を防いだのだ。ワシ達との付き合いは一年もなく、もっと話せれば良かった。


 第三世代は、第一と第二世代には隕石の迎撃は出来ないだろうと分かっていたようだ。一頭に付き一隕石だが、体当たりをして一都市を救えれば良いと思っていたようだ。自分たちと人間たちを秤にかけて、人間の未来に賭けたとも言っていたらしい。この話は、羽を整備中だった為、出撃出来なかった最後の一頭になった第三世代に聞いた。なぜか、せつない。


やはり六百年は長いようで短い。


 今も、あの日の事を折に触れて思い出す。そう、隕石テロが行われて人類が愚かにも自らの手で滅びそうになった日。私達二頭も、テロリストの魔法使いを探して高々度を飛んでいた。しかし、さらに高い所から落ちて来る無数の隕石群を見て絶望した。それでも、四十個程は軌道をずらしてやったが。


 隕石テロから、四日目の早朝。補助ブースターを付けて、天空に舞い上がる。基地司令から命令を受けて、テロリストの魔法使いが集めた軌道上の隕石の集合体? 軌道攻撃衛星群? (今となっては、何でも良いが)を破壊出来たのは、第二の隕石雨が降り注いだ後だった。


 再突入に苦労しながらも、この惑星を滑空しながら半周して基地に戻ると全てが破壊された後だった。既に、命令権限を持つ者は居なかった。尤も、灼熱の地とかした、この基地に人間が生存すると言うのは不可能だっただろう。


 いつの日か分から無いが、指示する者に出会うまで、嘗ての定期巡回コースAパターンを飛んでいる。今はイリア王国西部とエバント王国山岳部というらしいが、二か月に一回のペースで廻る事にしている。このコースで飛ぶのは、ケドニア帝国という中央山脈の西に居た第二世代のドラゴンが、時々会いたがるからだし、私も懐かしく思うからだ。


 ワシは身体動作チェックと攻撃力確認の為に、魔獣研究所から抜け出したワイバーンを狩っているだけだ。基本、生態活性値を下げ、魔力の温存に努めている。稀にワイバーンに遭遇する事が有る。小うるさいワイバーンは、火炎の息でも十分すぎる。まして魔法を使うなど、雑魚どもにはもったいない。


 主兵装の口に有る発声器官は、対大型魔獣の特定の遺伝子を破壊して、即座に息の根を止めることが出来る。上空から、破壊音を出しながら飛ぶだけで良い。恐らく対大型魔獣用の音波兵器を持つのはワシ達二頭だけだ。これは、大型魔獣が逃亡した場合の対策用として、装備されたのだろう。今となっては、宝の持ち腐れかも知れないが。

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