表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
癒やされたいキャンパー。異世界を癒やしに行く。  作者: カトー
第7章 ゴーレムとドラゴン
61/201

司令官と上級管理ユニット

 要塞を離れてリミニに行っていた頃、帝都から各軍管区に魔獣に関しての情報がもたらされた。

 隕石が落とされてから600年、失われた記録も多い。ケドニア帝国には、今まで魔獣の脅威と言える物は無く、ただ風に流されてくるワイバーンや海岸に流れ着く魔獣の死体だけである。ごく稀に、生きたまま着く魔獣もあったが、衰弱しており容易く殺処分されていた。


 魔獣の生態は、一般に知られてなかった。軍はメストレ襲来以後に、収集できたある限りの魔獣の資料を軍関係者に公表した。しかし、一般の人々向けには、パニックを起こさないように公開は慎重に行われ、一部は部外秘になった。


 公表された、軍関係者向けの資料では、多くの魔獣は本能のみで行動しわずかな学習期間しか必要としない。嘗て遺伝子改造された魔獣達は、生産性を優先して作られていた。加えて、餌に不自由する事がない環境では、異常なほどの繁殖率に達する。魔獣は、誕生するまでの期間は非常に短く、じつに多産であると知らされた。


 魔獣は一度に数匹、年に何回も生まれて来る。仮に半月毎に、雌雄2匹の魔獣が12匹の子を産み、1カ月にはその親子の七つがいがそれぞれ12匹の子を産み、毎回このように魔獣が増えていくと6カ月には何匹になるか? 2×7の12乗すなわち276億8280万4402匹にもなる。もちろん、全部が数字通り育つ訳では無いが。


 しかし、もしこれが真実としたら、100分の1でも3億近い魔獣が攻め上がってくる事になる。今でさえ、100万、200万の魔獣に苦慮する戦いが続いているのだ。メストレにおける魔獣の第1波でさえ20万~30万といわれる。この世界にも、万が一という言葉があるが、万分の一の100万、200万の魔獣に苦慮しているのだ。


 帝国は、魔獣の数に驚愕した。援軍を出す事に、否は無いが、限りある将兵を逐次投入しては、失うものが多すぎる。そこへ知らされた情報の一つが魔獣の寿命である。

 首脳部のみとされたが、秘匿されたこの情報は、一部将校たちにより意図的にリークされた。もしこれが真実なら、帝国南部一帯を封鎖地区として、エルベ川とリューベック川に挟まれた絶対防衛線を、構築すべきだというグループが生まれた。


 さらに、加えられた情報には魔獣は資料の通りなら生存期間は通常二~三年、長くても四年と記載されていた。そして研究所からおよそ二千キロ以上離れると死亡するとも。


 今のケドニア神聖帝国の科学水準では理解不能とされたが、組み込まれた特定遺伝子により研究所の大気中に含まれる魔石生成物質が不足し、呼吸できなくなり死ぬようプログラムされているらしい。

 魔獣が魔石を作り出す事が出来るのも、またそれによって研究所が世界各所に遍在する理由である。これらの事が、600年前の資料に記載されていた。


 魔獣とて、エサが無くなれば数を減らすだろう。共食いが始まり、やがて強者も居なくなり自滅を待てばよいだろう。魔獣の進攻を封鎖線でくい止めれば望みは有る。これが彼らの主張だった。魔獣を封じ込める事を目指すグループが大勢を占める事になる。


 うなずける意見だ。エルベ川とリューベック川に挟まれた、天然の要害ともいえる。その役目に丁度良い。作戦名「リューベックライン」の建設構想が進められる事になった。

 帝国は、開発局を除いてその意見に傾いた。開発局の研究者たちは、異を唱えた「生物は必ず抜け穴を探し出す」と。


「帝都の主流派は、援軍を出すより、リューベックライン建設を優先すると」

「そうだ、凍傷の時と一緒だ。壊死する前に帝国と言う組織を活かす」

「では、援軍を待って戦っている者は、時間稼ぎにすぎないと」

「残念だ。分かっていても、酷い話しだ」


 ※ ※ ※ ※ ※


 帝国歴391年4の月24日

「エミリー、もうすぐにも要塞だよ」

「早いものだな」

「着いたら司令官達に様子を知らせないとね」


司令部の皆に起こった事とリミニでの戦闘を話す。

「お帰りなさい。カトー卿、エミリー中尉。早速だがどうだったかね」


「そうだったのか。大変参考になりましたよ」

「意見ですか?」

「エェ、忌憚のない所を述べていただけば」

「では、正直に言ってかなりの苦戦をされています。古来より後詰のない籠城では」

「それは私も存じているのですが」


「老婆心ながら、可能なら援軍を送った方が良いのでは無いかと思います。が、無理なのでしょうね」

「既に魔獣の上陸をゆるし、メストレは壊滅している状態です。リミニは包囲中で、東のブロージョにも侵攻中です。魔獣の勢いは大変なものです」

「という事は?」

「援軍派兵は極めて難しいでしょうね。上陸後、早急に全兵力を持って攻撃すれば或いは可能だったかもしれませんが」

「すでに時は過ぎています」

「その通りです。魔獣の異常な繁殖力に怯える事無く、駆逐出来ていたかもしれない。ここに至っては是非もないでしょう」

「エェ、……」

「必ずしも、最善と思われた事が最悪かも知れないかもしれませんが」


「私も、公使の援軍派兵の意見はもっともだと思います。一方、リューベックラインの建設を唱える者の意見も良く分かるし彼らが正しいかも知れない。軍人は、命令に従えば良いかも知れませんが悩む処です」

留守の間にもたらされた、魔獣の情報と帝国の流れが掻い摘んで知らされた。


 当然、他国の公使に言われる話ではない。司令部の皆も、当然の事と援軍に行けない歯がゆさを感じていたようだ。司令部内の会話が途切れてしまった。彼らとて木石ではない。後で謝っておかないと。


その夜は疲れていたが、エミリーと籠城中の人々や、帝国、王国の人たち。そして、この大陸の未来を考えていた。

「エミリー、良いかい」

「魔石と、ホムンクルス。そして魔法がある。どうにか、すべきだろうね」

「あぁー、教会の時と一緒の顔をしている。また、お節介を考えていただろう。……だが、私はそういう考えは好きだよ」

(さて、どうやって話をまとめるかな?)


 ※ ※ ※ ※ ※


「ラザール要塞司令官、マルタン大佐、お二人だけにお話があります」

「どうしたのかね、エミリー中尉」

「実は、帝国の未来を、ひいては人類の未来を」

「未来?」

「今夜、会って欲しい人が居るんです」


「上級管理ユニット、統合官とお話があります」

「どうしたのです? カトー様」

「実は、ホムンクルスの未来を、ひいては人類の未来を」

「未来?」

「今夜、会って欲しい人が居るんです」


 エミリーは、マルタン大佐と近しいので要塞側を、僕は、帰還者と言う事でホムンクルスの統合官と話す事にした。エミリーは、何処へ連れて行こうとするのか、いぶかるラザール司令官とマルタン大佐を、無事地下のエレベータホールまで連れて来る事が出来た。

「エミリー中尉、これはどういう事かね?」

「今少し、お待ちください。ほどなく、カトー公使がまいります」

待つ事、一分も過ぎない内にカトーが来た。

「ラザール司令官、マルタン大佐。こんばんは。会わせたい人が居ます。どうぞ、こちらに」


 ここから2人はカトーに連れられて10分程、地下通路を歩いて行った。やがて、乳白色の2メートルほどの筒が置かれた部屋に着いた。乳白色のカプセルは、思い出したように緑色に点滅している。一部分は透明な樹脂?で作られており、外からでも人でない者が入れられているのが分かる。


エミリー達と会う少し前、カトーは統合官と話していた。

「では、打ち合わせ通りに部屋の方で」


「まず、お伝えしなければならない事があります。実は、イリア王国に伝わる古文書の中に、イリア王国と帝国要塞下部の秘密が書かれており、折よく半年ほど前に私が解読に成功いたしました」

(確かに、転送ステーションはイリア王国領で、600年以上前の物だ。嘘は言ってない、ここまでは)


「それは何とも!」

「つきましては、ケドニア帝国との秘密協定の為、古文書の機密をお教えいたします。第一王子が、特使に私を選んだ理由の一つです」


「こちらに居るのは、この要塞地下で、唯一稼働していました、汎用魔力工作物の上級管理ユニットと言われるホムンクルスです。ご存知かもしれませんが、古代アレキ文明のホムンクルスは高い自我を持ち、独自に思考でき、判断や決定が出来るタイプと聞いています。この為、人工物のホムンクルスではありますが同じ人間として接して頂きます」


「この保存カプセルから、出す事は出来ません。もう、設計寿命を遥かに超えています。ホムンクルスは、およそ200年稼働できるとか。テロから600年、無理です。おそらく、義務感? 使命感の故に稼働していたのでしょう。この誰も居ない暗闇の世界で」

「それを、発見できたと」

「恐らくですが、今回、魔石が補充された事により、微弱ですがシグナルでも発信されたのでしょう。このセンサーに感じる事が出来きました」

(統合官から渡されたセンサーは、転送システムの場所を発見出来る本物だ)


カプセルに入った統合官を、紹介をした後。出来るだけ背景をぼかして話し始めた。司令官達も、目の前のホムンクルスの出現に驚いたのか、深くは問われなかったのが幸いした。

「そうなのですか? 転送システムですか」

「そうです。イリア王国からケドニア帝国までの転送ルートが古代アレキ文明の頃から、あったそうです」


「私は、いささか古代アレキ文明に使われた、正統派の教会語を嗜みますので、通訳の真似事をさせていただきます」

統合官には打ち合わせ通り、なるべく古風な言い方で受け答えをしてもらう。僕は、翻訳魔法。統合官は、多言語翻訳機能及び外交プロトコル準拠持ちだ。古代アレキ文明の言葉は、正統派の教会語の単語が似て聞こえるので、信憑性が増すだろう。


「それで、彼女は何と?」

「弱っているのでしょう。聞き取りにくいのですが、イリア王国……、王都ロンダの北に転送ステーションが一つ。エ、? 一つが。……ケドニア帝国領の山間部。ここより北、西の方。そして最後に……ヴォメロの塔だと」


「イリア王国の転送ステーションについては、私が見つけております。そこで、ご相談が有ります」

「どのような事でしょう。公使」

「残る二つの内、ヴォメロの塔は古くからある帝国の観光施設と聞いております。最後に残った、山間部の転送ステーションについては場所が分かりません。しかし、ドラゴンの巣には導く鍵があると、彼女は言っています。そして、ご相談というのは……」


ラザール司令官は、暫く思い出したように緑色に点滅している、乳白色のカプセルを見ていた。

「お話は、了解いたしました、ヴォメロの塔については、私の指揮下にあります。その特殊センサーをお持ちください」

「しかし、司令官。いかに事情を知る公使でも、イリア王国の者に任せるのは?」

「かまわん。むしろ、進んでお願いしよう」

そう司令官は命令を、マルタン大佐に出した。


「では、ヴォメロの塔で転送システムを確認後に、要塞に戻り、その後今一つのドラゴンの巣を探しにまいります」

「よろしいのですか? そのような危険な場所に?」

「かまいません。それより、ラザール閣下こそ越権行為に成りませんか?」

「何、イリア王国の兵。幾万も援軍に呼べるのです。この、しわ首一つなど惜しくはありません。マルタン大佐、手配を頼む」

「閣下、分かりました、直ちに命令書を作成します」


「それで、彼女は?どうなるのかな? 600年なのか? 何か報いてやれないだろうか?」

「残念です。点滅が有りません」

(すみません。司令官、マルタン大佐。でもこれで、ホムンクルス達の秘密が守られるので許して下さい。それに僕はもう一回、王国で話さないといけないので気が重いんです)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ