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癒やされたいキャンパー。異世界を癒やしに行く。  作者: カトー
第6章 要塞の秘密
59/201

魔獣、初見。

 帝国歴391年4の月13日  

 リミニは人口60万の特別行政都市で、メストレ以北の最大の避難地ともなっていた。リミニは周辺住民を飲み込み、今や人口は100万人に迫ろうとしていた。

 リミニ防衛軍として、カンタン・エティエンヌ・ジロドゥー少将が指揮する三個師団を中心として8万人が防衛戦を行っている。急造された、5か所の堡塁と三重の城壁がある。市民兵も、約9500名が参加している。防衛戦に加わった将兵は、退役した者や市民の参加者も多く、予想を上回る者が魔獣と戦闘を繰り広げている。


 屋上の、対空監視所の指揮官に書類を渡す。ケドニア要塞司令官のラザール中将の、証明書と通行許可証を見せると納得してくれたようだ。ここでもマルタン大佐が、持たせてくれたのが役立った。直ぐに、階下の司令部に案内された。


 市役所だった時は、会議室だっただろう大きな部屋に通された。待っている時に、中将の当番兵? がお茶を出してくれた。カンタン少将以下、テランス大佐、バルナベ中佐、マチアス少佐、等の指揮する人たちが入ってきて挨拶を交わす。公使なので、ここら辺は儀式化しているがしょうがない。一通り儀式を体験した後、ソファーが勧められ話を始める事ができた。


「預かって来た物があります」

「命令書ですか?」

「連絡書と思いますが封蝋を確認して下さい。後、こちらもご覧下さい。要望と言おうか? こちらは、そんな感じのです」

軍管区が違うので、上官である中将といえども命令書では無く、要望書と言う形である。


「では、連絡書から拝読させていただきます」

「席を外しますね。エミリー、外に出ようか?」

「あぁ、お構いなく。機密文書の封蝋ではありません。連絡事項の、確認書みたいなものですよ。直ぐ読み終わります。そのまま、お待ちください」

カンタン少将が、文書を読み終えると笑みを浮かべて礼を言われた。


「ケドニア帝国への援助、私からもお礼申し上げます。ご要望についても極力、ご希望に添える様にいたします」

「はい、これで公使としての面目も立ちます」

「では、カトー男爵、エミリー中尉。お疲れでしょう。今日の処は、ゆっくりとご休息下さい」


そういう訳で、市役所だった建物から近くにある迎賓用の宿屋に案内された。

「VIPルームだ」

「カトー。ここ、部屋が幾つあるんだ?ベッドルームが四部屋も有るぞ。ア! こら、ベッドの上で撥ねるんじゃない!」

「エミリー、帝国のベッドってスプリングが入っているよー」

「ウン、確かに。私も少しなら良いかな?」


「もう良いだろう。テランス大佐、彼らの要望を叶えてあげなさい」

「了解しました。それで、閣下。連絡書とは?」

「ラザール中将からの知らせだったよ。ケドニア要塞は魔石の補充を、イリア王国から受けたそうだ」

「ほー、それはそれは」

「要塞は、あと数日で完全復活するそうだ。で、その魔石を運んできたのが彼らだ。王都ロンダから、僅か10日でな」

「イリア王国の、魔法使いと言うのは凄いものですな」

「何、驚くのはまだ早い。公使は、癒やしの魔法の使い手だそうだ」

「癒やしの魔法?」

「ケガや病気を治せるそうだ。中将が、わざわざ知らせて来るぐらいだ。かなりの使い手なのだろう」

「それでは、?」

「そうとも、負傷者達の手当てをお願いしてみよう。なに、こんな白髪頭で良ければ、何度でも下げるよ」

「閣下、有難うございます。これで少しでも兵の命が救われれば」


 ※ ※ ※ ※ ※


 帝国歴391年4の月14日 

 朝、VIPルームで豪華な朝食を頂いて、お茶を飲んでいた。カンタン少将が訪ねて来たと、メッセンジャーボーイが銀の盆の上に、少将の名刺を乗せて知らせに来た。慌ててロビーに行くと、リミニ防衛軍のNO.1と2のカンタン少将、テランス大佐が待っていた。

「カトー男爵、エミリー中尉。お呼び立てして申し訳ない」

「イエ、そろそろ市中の様子を見て廻ろうと話していた処です。お気になさらずとも良いですよ」

「そうですか。良かった。実は、お願いしたい事が有るのですが?」

「ハイ、何でしょう? 私どもに出来る事なら何なりと」

「オォ、有り難い。連絡書によると公使は、癒やしの魔法の使い手の事。是非とも負傷兵の治療をお願いいしたいのです。勿論、ご負担にならない範囲で結構ですので」


 ※ ※ ※ ※ ※


 リニミ防衛軍では時々、早朝に北のステファノへ向けて少数の護衛を付けてだが避難民を脱出させているそうだ。主に魔獣は市の南に展開しており、北のマレッキ川を渡河して包囲を敷いている魔獣はまだ少ないそうだ。避難民達は、この包囲の薄く、空飛ぶ魔獣の活動が少ないとされる時間帯に逃れて行く訳だ。


 リニミへの近隣からの避難民は少なくなったが、難を逃れた小都市が有るのではないかと推測されている。しかし魔獣の一部は、メストレからリニミ周辺を回遊し、村や町々へと移動しているに違いない。いつまでも、襲撃が無く無事に過ごせるとは思えない。

 

 メストレの魔獣は、大型の狼に似た魔獣やサーベルの様な牙の生えた猪だった。リミニでは、偵察で新たなに5種と大型種が4種見つかった。角の生えたウサギのような大ネズミ、大型で移動力の高い狼、サーベル状の角を持つ大猪、毛皮が厚く弓もはじくと思われる熊、人ほどの大きさの灰色のカラス。新たに、鱗の様な皮膚が有る猿と4種の大型肉食魔獣(巨大トラ・巨大オオカミ・巨大クマ・巨大ライオン)、この4種の大型肉食魔獣は今までの魔獣より2回り近く大きかった。


 空飛ぶ魔獣では、大型のカラス型の魔獣やワイバーンも確認されている。

「魔王はいないようですが」

 兵が冗談を言う気概はまだある。冗談ならいいが、可能性はゼロでは無いと言い切れない。まだ、士気は高い様だ。司令部では僕たちの為に、軍事情報を含めて教えてくれた。


 ワイバーンは、稀にイリア王国にも姿を現す事が有る。大嵐の時や、偏西風の向きが変わると流されて来ると言われている。比較的力の弱い魔獣が、近隣の村や町に向かっているらしい。弱いながらも、数が多ければ脅威だ。

 今回、大型種や新種を多く発見した。これは単に餌となる小型魔獣を大型種が、魔獣の島から追いかけてきたのかもしれないが、不思議な事に、集団毎の移動をしており、群れとして統率以上の力が加わっている事が感じられた。


「正直、帝国軍は後退しております。負け戦が続いているのです」

「やはり、魔獣の勢いが強いので?」

「その通りです。そしてここリニミは、魔獣の進撃路になっているらしいのです」

「メストレの次はリミニに向かって来たのですね。メストレの周りに広がらないでまるで目的地のように目指していたと」

「ハイ、その通りです。そこでリミニ市には、南に面し5つの堡塁と楼が防御施設として急造されました」

「では、大幅な防御力アップが望めますね」

「堡塁は魔法使い達が、土魔法を使い不眠不休のごとく働いた成果です。時間はメストレからここまでの兵や冒険者達の犠牲によって作られました」

「そうですか」

「今もリミニでは防御力強化の為に、都市の背後にあたる北側のマレッキ川を利用して水堀を拡張している処です」

「空堀は難しいのですか?」

「エェ、リミニは平野に建てられた都市である為に堀は水が溜まりやすのです。縦堀も考えていましたが時間的な制約もありましたので、一般的な横堀となっていますけどね」

「なるほど」

「5つある堡塁の建設は、急造されましたが同時に堀造りも同時に行なわれたのです」

「掘った土の利用ですね。一石二鳥でしたね」

「そんな処です。お蔭で何とか間に合いました」


 そしてリミニは第一(胸壁高さ6メートル幅2メートル)、第二城壁(外城壁高さ14メートル幅4メートル)で第三城壁(内城壁高さ22メートル幅6メートル)の城壁と、水堀と急造とは言え5つの堡塁が加えられた。今や、リニミは強力な防御力を持つ城塞都市に変わった。ただ惜しむらくは、城郭と呼べる城はない。第三城区内に有る、堅牢な石造りの市庁舎が城の代わりとなっている。


 変わったのはリミニだけでは無い。帝国軍の軍服は、魔獣戦が始まった頃は、ズボンは鮮やかな紺色、上着なら赤色(深紅色)だったが、戦場で目立ちすぎると言う意見が多かった。魔法使いの黒の制服を除き、年後半から導入予定だった新型制服を前倒しして、今年の前半からグレーがかった地味なブルーの服に順次切り替わっている。戦闘装備も日をおかず、改変される予定だという。


 装備改変もそうだが、リミニは、防御施設を加えた事により初期タイプの稜堡式城郭と呼ばれる要塞建築が出来た。堡塁からは、魔法使いや弓兵の攻撃時に効果的に十字砲火を浴びせている。それぞれが死角の出来ないよう補い合っている。

 堡塁には、傾斜が付いている。急峻な山形をしており、頂上部に100名程しか立てない。しかし第一城壁と合わされば強力な防御力が出きる。


 南の城門は、堡塁の外側に一部とはいえ水堀を斜めに掘った、250メートルのキルゾーンがある。城壁上には大型バリスタもある。等間隔で作られた堡塁が、半円に近い形で東の第一堡塁から南を通り、西の第5堡塁に至る5か所にある。そして、各城門に櫓を立て、高所からの攻撃と空飛ぶ魔獣への防御力を高めてある。


 バリスタは、大型魔獣に使える決戦兵器だ。対空兵器にもなる汎用性の高い武器だ。バリスタは対空用の軽い矢を用いて、直接照準でカラス型やワイバーンの迎撃に当たる事が出来る。風魔法の術者がいるはずだから距離も伸びるし、ある程度コントロールもできる。だが、次弾の装填にやや時間がかかる。

 火魔法の打撃班は、辛うじて対空攻撃が出来た。弾幕を作れないので辛うじてと言う事だ。空からの攻撃は厄介だ。現状、防衛軍の弱点ともいえる。


 城壁の上のバリスタは、時々矢を飛ばしている。大型の魔獣の、装甲とも言われる厚い皮膚を貫き強い殺傷力を持つ。先に述べたように、バリスタは汎用性が高いので、専用の台座であれば車輪による移動や、仰角を付けて対空射撃も出来る。打撃力のある太く短い矢や、対空用の軽く長めの矢もあり、中には先端に油を入れた火炎油弾や即効性の毒を塗った物も用意されていた。


 投石機は、散弾の攻撃で面制圧する。放物線を描いて発射できる投石機は第一城区から城壁越しに対峙する魔獣を攻撃できる。魔獣が密集しており、飛距離を出す事の出来る大型の投石機は、石や壺に入れた油を飛ばす火炎弾などを使用し大きな効果が有ったようだ。


 ロングボウは、連射が出来て弾幕作れる。魔獣が近づく前に消耗させられる。弩は弾幕や連射は出来ないが、簡単な訓練で使えるようになる。直線の弾道を描く為、狙い撃ちが出来るし貫通力もある。力が要るので、2名1組となり装填時間を短くしていた。弩手は慎重で射撃の腕が良い者、装填手は武器に不慣れでも筋力強壮の者が選抜されると聞いた。


「ここリミニでも、3年に及ぶ豊作は倉庫にある備蓄を溢れさせるぐらいです」

「アァ、それは聞いた事があります」

「エェ、籠城の備えも十二分と言えるでしょう」

「十分な食料がある訳ですね」

「近隣の各都市、村や町にも食料が十分にありました。ですがリミニに運び入れる時間は有りませんでした」

「魔獣の食料となる訳ですか?」

「イイエ、それを視越して焦土作戦が実行されたたのです。こちらにいらっしゃる時にも御覧になられたと思いますが、平野の各所から立ち上る煙はその証拠なんです。残念ですが、完全には焼き払う事は出来なかったようです」


「実際、兵糧攻めといわれる焦土作戦は、直ぐには魔獣の数を減らす事が出来きません。しかも、効果が出るまでにはまだまだ時間が足りない状態なのです」

「止むを得ないとは言え、生半可な気持ちで自分たちの家や町に火はかけれませんよ」

「その通りです。しかし焦土作戦は苦渋の決断でしたが実行されました。後詰めの帝国軍が、リミニに到着するまで持ちこたえられるか甚だ疑問ですが。援軍が送られて来るにしても避難民の移動もあるでしょう。南ケドニアの交通事情は悪くなっているのではないですか? おそらく北からも道路事情で直ぐに援軍を差し向ける事は出来ないでしょう」

「何処も彼処も時間が足りないのですね」

「それが分かっていても逃げ込んできた人々を見放すわけにはいきません。故に籠城が選択され、少しでも長く耐えなければならないのです」

「しかし、後詰めなしの籠城では?」

「無茶だと言われればその通りです。豊富な備蓄が有るとはいえ、リミニは魔獣の包囲下に有り、110万の人々が食料を必要としているのですからね」

「ウーン」

「もちろん、手をこまねいているばかりでありません。今も補給や戦闘の合間を縫って、非戦闘員の脱出が続けられています」

「こちらに来るときに見ましたが」

「エェ、たとえ防衛や避難が焼け石に水と分かっていても、やらなければならないのです。頼りにされておりますし、見捨てて引く訳にはいきません。我々は防衛軍なのですから」


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