ドラゴンの秘密
帝国歴391年4の月8日
「カトー様、ご説明させていただきます」
振り返りながら、ドラゴン係のホムンクルスが説明を始め出した。
(ウーン。このホムンクルスも、先の保管庫主任と同じ残念な臭いがすると、エミリーが耳元で囁いていた)
「ドラゴンは、研究所のあった魔獣島で四タイプが作られました。中央大陸と南大陸の施設は、研究と言うより工場に近かったのですが。彼らは、試作タイプ小型ドラゴン第1世代、駆逐タイプ中型ドラゴン第2世代、巡航タイプ大型ドラゴン第3世代、高々度迎撃タイプ大型ドラゴン第4世代と呼ばれおりました。」
「この中で最初になる試作タイプ小型ドラゴン第1世代は、すでに12頭全部が絶滅しています。隕石テロから600年前ですが、設計寿命が300年で寿命が尽きている事になります。大きさは25メートルでした」
「その後、駆逐タイプ中型ドラゴン第2世代も12頭が作られました。しかし彼らはそろそろ寿命なんですね。躯体の設計寿命が600年程で、大きさは35メートルです。魔石の効力が切れると、体が自然分解します。魔獣の体が崩壊するのも、これの応用研究となりますね」
「尚、こちらの観測では四頭が活動中でした。龍種は3・4年前に1頭、最近では1頭が減っていますね。中央大陸に西。つまり、この大陸寄りですがその1頭が失われたと思われます。要塞の北にある、帝国中央西山脈に住むものについては、もう少し観測しないと不確かですがもう随分と姿を見せていません」
(ここでドラゴンの解説図と言おうか、解剖図が広げられた。幸いな事にドラゴンから送られてくる特殊な思念波は、ここの要塞下部でも辛うじてだが受けられるので、だいたいの事は判別が出来たらしい)
「巡航タイプ大型ドラゴン第3世代もやはり12頭が作られています。設計寿命が700年だそうですが、隕石テロの時に、全滅しているので確定できません。かなり賢くて大きいですよ。個体差は多少ありましたが、45メートル弱です」
「高々度迎撃タイプ大型ドラゴン第4世代は、2頭が作られています。強力な火炎と、特殊な兵器を搭載しています。オプション品も色々ありましてゴーレムとも合体可能になっています。大きさも、2回り大きく70メートあります。設計寿命が900年とされていますが、魔石を取り込むことが出来るので、プラス3000年だそうですが大幅に伸ばす事が出来るらしいです。
もっともこれは副次的なもので、テロリストがこの惑星の周回軌道上に、浮遊基地を建設するかもしれないと言う情報の為に、急遽造られたドラゴンなのです。その為に、二頭になりましたが、予算に関係なく時間優先でバンバン機能を追加しました。装備品は完成していますけど、残念な事にドラゴンの量産は出来なかったようです。
1頭はイリア王国北部に居るようです。恐らくこれが、カトー様が遺跡都市メリダで見られたと言うドラゴンでしょう。後の1頭は、遥か東イル辺りに居るはずですが、ここ10年以上、観測出来ていません」
(図を指し示して分かりやすく説明してくれる。教師向きのホムンクルスみたいだ)
「第3世代以降は、思念の同期後に命令が出来ます。製作時からマインドコントロールを始め、各種刷り込みがされていますので。ただ思念の同期の為には、距離が問題となります。同期後でも、ドラゴンに指示や指令の効力が有るのは精々、200~300キロが限界でしょうな。まぁ、近づけば、同期が復活して命令できますよ」
「ドラゴンに会いたいですか? 確か? 今は第2世代のドラゴンの巣が有る、中央山脈に向かっていたと思います。此処から少し北に飛んで山脈の中央を東に進んで下さい。200~300キロなら、思念波が届きますので上手く届けば来ますよ。なに、探し回らなくても、向こうが見つけてくれますよ」
「エェ、そうです。カトー様は、第4世代のドラゴンとは今までに2回遭遇していますよ。確か、1回目は、200日程前ですか。メリダの北を飛んでいた時と、最近ですがエバントの山岳地帯ですね。メリダは、初回でしたのでカトー様の思念波を確認する為だったのでしょう。ログは後で確認できますが、エバントの時は遠くへ行ってくれと、命令を受けたとありましたね」
「ドラゴンの、性質なんかはどうなんでしょう。分かりますか?」
「普段は穏健ですね。各世代も、ワイバーンと違ってキメラですので繁殖は出来ません。魔獣を攻撃するように、命令が組み込まれています。合成生物なんですが、第2世代からは性格なんかも有りそうです。空を飛ぶのが好きみたいだと、報告されていますね。
結局、ドラゴンは非常に高価でしたので第3世代までに、36頭しか作られていません。第4世代の2頭は、別物と考えた方が良いかも知れません。
それはともかく、結局、飛行型の魔獣は、製作費の安いワイバーンと、カラス型に変わりました。何しろワイバーンと、カラスは卵で増やす事が出来ますので。まぁ、生産というより繁殖でしょうが、テロの前には両方とも量産型が出来たと聞いています」
「後、噂の域で信憑性は無いんですが人型になれる流体のドラゴンですか。造られたとか。見た者も聞いた者もいないし、やはり噂の類だったんでしょうな」
「あぁ、それから第四世代なら、カトー様は遺伝子上になんら問題ないので、ドラゴンライダーに成れますよ」
「ライダーって何?」
「何がって、搭乗員になるでしょうな」
「搭乗員ですって? 可能だとしても、どこに乗るんです?」
「もちろん、背中ですよ。ドラゴンライダーと言う感じです。難しくないそうですよ。結界魔法も、組んでありますし」
今までの質問もそうだが、僕はうなずくだけで、独りでに話が進んで行くようだ。
「乗り方は?」
「背中の翼の付け根、そう。そこ、図に突起部分の記入があるでしょう? 無くても良いんですが、結界がありますし、一応安全装置ですね。そこが、アンカーワイヤーを巻く所です。それを使用します。人もゴーレムも、そこで良いです。人が乗りこむ時は、ドラゴンが頭を下げますので左肩からですね」
「注意ですか? そうですねぇ、私なら結界魔法が有っても、宙返りの様な曲芸飛行はさせませんね。ハイ、宙返りは出来ますよ。おぉきな円を描いて、直径1キロチョットかな? 落ちないように速度を上げて、きつめのGがかかりますが、いけます。横スクロールアクションは、慣れないと難しいですよ。出来れば、お一人の時に勧めますね」
「あぁ、そうでした。巡回プログラムだけは独立仕様なので、3コースだけですが設定すれば、無人でも指示や命令が有効のままです。これにより長期間、勝手に周回してくれます。危険生物自動排除の、設定も出来ます」
「ドラゴンの敵味方識別装置は、第3世代でもかなり貧弱でした。あくまでも目視による索敵なので、プログラムではワイバーンの大きさ以上でしたら搭乗員が教えなければ、味方の飛行機械や気球でも、自動的に攻撃対象でしょう。なにしろ600年前には、人々は魔法で空を飛んでいましたから、そんな野暮なのはありませんでしたから。ハハハ」
「マ、空を飛ぶ生命体としては絶対者でしょう。70メートルの大きさですよ。重力を無視して飛べるのは重力魔法によるものです。大型魔石を取り込むことも出来、魔石がフルでしたら音速手前まで速度が出ます。素晴らしい加速性と、耐荷重を持ちます。広い索敵範囲はもちろん、攻撃用の装備も十分ですよ」
「高々度迎撃タイプ大型ドラゴンと名付けられていますが、その名に恥じない、成層圏を越えて高速落下中の隕石を迎撃できる、大型の広域・対空・全天型・戦闘ドラゴンですよ」
(ドラゴン係に、随分と熱く語られてしまった。このホムンクルス、ほんと、第4世代好きなんだろうな。鉄ちゃんならぬ、ドラちゃんだな)
「戦闘ドラゴンが装備している物の中では、おなじみの面制圧用大型火炎砲があります。いわゆるドラゴンブレスです。広域攻撃魔法も可能でして、結界など特殊魔法も複数出来ます。中でも特筆すべきは、対魔獣用生物遺伝子操作兵器ですな」
「長寿なのは、龍種の特徴ですがキメラ化した爬虫類の特性の為とも言われています。ここだけの話、私は亀じゃないかと思っています。この強化型ドラゴンの第3世代以降は、一撃で城壁をぶち抜けるでしょう。第4世代は、さらに強力な各種兵器を装備でき、各種魔法も組み込まれています。但し、魔石があればです。生命エネルギーとしても利用しますので、戦闘に使用する事が有れば一回で何十年分の寿命をちぢめると思います」
「通常行動なら、アイドリング状態みたいなものです。まぁ、これだと飛ぶ事と、多少の炎を出すだけでしょうが。恐らくですが、第4世代の様な出力調整できるドラゴンですと700年、場合によっては3000年も生きられるかもしれません」
※ ※ ※ ※ ※
ドラゴン (駆逐タイプ中型ドラゴン第2世代)の話
私が生まれてから六百年と少し。年を数える事にも飽きた。
最初にいた仲間も減り、今では私たちは4頭だそうだ? もっと大きくて、賢そうな龍が西にいるのは知っている。その龍とは、たまに話をする事が有る。あまり長く話した事は無いが、いまでは彼らの仲間の龍は2頭だけだそうだ。
私には透明な大きな容器に、入れられていた記憶が僅かにある。次は、空を飛んでいる思い出だ。昔は仲間と共に空を飛ぶ事が出来たんだ。実に楽しかった。
そんなある日、大空が光り、赤い火の玉が落ちてきた。しばらくすると人間がいなくなってしまった。でも、私には関係ない。その日から空を飛ぶ時の、許可をとらなくても良くなったんだ。仲間の皆は、遠くに行くそうだ。私も自由だ。私は北に行ってみる事にした。東へ、西へ行くものもいるようだ。仲間とは何時か、空でまた会えるだろう。
随分と昔になってしまった。偶にだが、分かれた仲間に会う事が出来た。会えると、色んな事が聞ける。愉快な時間が過ごせたが、段々と仲間の数が減っていくのが気になった。
ドラゴンなんだから、お腹が減ればあちこちに居る動物を狩ればいい。大きな熊や蛇もいたのかな? なんでも食べれるが、人間という動物は食べられないと決められていた。人を見ると何故だか懐かしい感じがする。最初に居た場所で、一緒になって遊んでいた気がするのはおかしいだろうか? 彼らはその頃から小さくて、弱くて、可愛かったと思う。
時間が過ぎて行く。巣の近くに有った小さな木が大木になり、朽ちて倒れるのを見た。空を飛ぶのは楽しい。時々、南の元居た所に戻りたくなる。でも本当の処、ここら辺にはエサが豊富にあるし狩りもしたいんだ。
先に生まれた子が教えてくれた。人間が作った生き物で、小型の龍種と鳥型の空飛ぶ獣がいるらしい。私達とは少し姿形は似ている様だが、小さくてずる賢い奴らだそうだ。仲間の話によると、いつも敵対してくるらしい。それでもって私達より、随分と数が多いらしい。撃退するのにもあまり手がかからない様だ。私が火炎を吹けば、一息でまとめてやっつけられる、と言って嬉しそうに話してくれた。
3・4年ぐらい前だったかも知れない? 仲間の龍が南の島に行ったきり帰って来なかった。南の島に有る、元居た巣に帰るのが好きな龍だった。いつも暑い季節に行っていたんだ。不思議だなー。帰ってこなかった。いったいどうしたんだろう。
少し気になったが、私は空が飛べれば良い気分になれる。いつも話してくる、西の龍が気にしてた。一度、元の巣に行ってみようかな?




