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癒やされたいキャンパー。異世界を癒やしに行く。  作者: カトー
第6章 要塞の秘密
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魔石を届ける

 イリア王国歴181年4の月4日 ※ ※ 帝国歴391年4の月4日

 要塞指令官の話では、この施設の稼働率は、凡そ10パーセントで遠からずエネルギー不足で、要塞としての機能を失うとの事だった。本来、魔石が必要とされる前に交換補充されるべきなのだが、なにぶんにも魔石が手に入らない。

 四方八方に手を尽くして探しているが、帝国内はもちろん、裏の闇市場にも出ないそうだ。今回、イリア王国との秘密協定で、手に入れる事が出来たのは正しく僥倖と言える。


「既に要塞は、使用されるエネルギーを制限して随分になります」

「そうだったんですね」

「段階的にですが、一部は機能不全になっているんです」

「中々、辛い話ですね」

「お恥ずかしい話、危険レベルを超える程エネルギーが不足している部署もあります」

「順次、機能縮小されているのですか?」

「イヤ、それどころか要塞機能の停止まで、待った無しの状態だったんです。来月には一部兵員の要塞からの撤退を考えていましたからな」

「そこまででしたか」

「これで、やっとまともになりますよ。魔石の運搬、本当にご苦労さまでした。そうです。折角ですからセットアップも、ご覧になりますか?」

「はい、お願いできますか。見たことが無いので」

「こちらへどうぞ、さして難しくはないんですよ。マ、置くだけなんですが後は自動という感じですね」

「へー、そうなんですね」

「ここのメーターを御覧下さい。魔石エネルギーが復活してます。これで、諸設備が稼働します。これからは随分と楽になりますよ」

「楽にですか。例えば?」

「そうですなー。まず、エネルギーが復活したので、要塞の全換気システムだけでなく空調ですか? 冷暖房と、除湿が出来る様になります」

「それは良い」

「お恥ずかしい話ですが年を取ると、湿気で膝が居たくなるのですがこれで。オッとよけいでしたな」

「イヤ、湿気は大敵ですから」

「で、次に、1本だけだったシャフトの多人数用エレベーターが、3本とも動くようになります。もちろん15層ある各階のエスカレーターも稼働します。給水ポンプが運転を再開して、上下水道設備も完全に使えるようになるので、安心してトイレに入れますな」

「なるほど、生活環境や衛生環境の向上は軍の運用と士気に関係しますからね」


どうやら話を聞くと、この要塞の日常使用の設備が復活して、巨大ホテル並みの設備が稼働するという事だ。

(ここって第3級転送ステーション113で分かった、巨大ホテルの事なのかな? ホテルだとすると、昔の緊急時対応施設って事だよね。エミリーも資料に残っていたと言っていたし)

「そして、何より通路と各部屋の照明が使えます。なんと、自動で扉の開閉が作動します。ご存じ無いかも知れませんが、ドアの前に立つと扉が開き、離れると閉まるのですよ。さらに、戦闘指令室からの一方向なのですが、各階層に声を伝えられますな」


 嬉しいことに帝国要塞は、魔石・大1個でほとんどの設備が動きだして復活できる様だ。魔石の交換は何の障害も無く終わり、(ただ、前の魔石と置き換えるだけだったけど)今までの魔石は、予備として厳重に金庫にしまわれるそうだ。以前、交換された際には要塞の巨大な施設群は3日かけて、順次機能が回復していくだろうと言う説明を受けた。


 ※ ※ ※ ※ ※


要塞指令官の話

「カトー卿。本当に助かりました。此度のイリア王国から救援、誠にありがたい。これで魔獣との戦闘もなんとかなりそうです」

「いえいえ、ラザール司令官。こちらこそお手伝い出来て良かったです」

「ま、お掛け下さい。お茶でもどうですか? オイ、お茶だ」

「閣下、申し訳ありません。少々お待ちください。まだ、水圧が下がっておりまして」

「ああ、そうだったな。うっかりしていてすまん。用意が出来たら、持って来てくれ」

「水圧がどうしたんですか?」

「すみませんな。実は水が不足しておりましてな。給水制限をかけて何とかやりくりしているのですが。水魔法使い頼りの給水は焼け石に水でしてな。何せ15000人以上の給水ですから、大河エルベの取水施設だけではギリギリでして。冬なので、止むおえないのです。水量が増える春には回復すると思うんですが」


どうやら、エルベ川の取水量だけでは足らないらしい。本来備蓄してある水の量は、要塞の常備兵1000人分で一般戦闘員や、非戦闘員の軍属が増えた為に15倍以上の消費である。

「そうゆう事情なら、お役に立てるかもしれません」

ここで常日頃、水魔法で風呂を入れているのが役に立つかもしれない。早速、司令官室を出て、副官のマルタンに貯水槽まで案内をしてもらう。


「大きいでしょ、この規模のが5ヶ所。3層おきに、設置してあります。エルベ川からの取水は魔道具で揚水できますが、最上階の貯水槽までは。ポンプの事も有り、渇水期では中々難しくて」

「では、上から順番に行きましょうか」


 学校などにある、25メートルプールより一回り大きい貯水槽の貯水率は、2割を下回り危険ラインの1割に迫っていた。学校のプールなら家庭用の浴槽で換算すると、3000から4000杯分が規定量と思われる。1割となれば、日本だったらレベル4の耐えられない渇水とも言える。


 貴重な水は、飲料水と医療用に優先使用しているらしい。干上がっているという事だ。念の為、換気口と外部に通じるドアを全開にしてもらった。もし水魔法が、空気中の水分を集めているという説なら大変だもん。

「じゃ、出します。そばにいると、濡れますので離れて下さい」

ドーンとね、と言えるぐらい水属性と思う魔石を使って瞬時に満水にした。属性があっているだけで1・2から1・3倍だからね。目を白黒させているマルタン大佐は、体内魔力だけと思っていて魔石だと気付いていない様だ。

(マァ、体内魔力でもこの半分なら行けるかも知れないが、まだ数があるようだし)

「凄いですな」

それ以後は、呆れた顔のマルタンに先導してもらう。見学しながらなので移動時間はかかったが、残りの4個の貯水槽を満タンにした。


マルタン大佐と別れ、その夜は遅くなりましたと、案内された部屋は割と大きな二間続きの部屋だった。

「すみません。特使様。籠城中ですので、要塞には大きな空き部屋が少ないので」

メイドさんは、恐縮しきった顔で頭を下げた。

「イエイエ、突然ですし。二人だけですから」

「後ほど、お食事を運ばせますのでお召し上がり下さい。では、失礼いたします」

 

 ワゴンで料理が運ばれてきた。ボーイさん? がセットしてくれるらしいが、後は自分たちでやりますと受け取っておく。食事後は、ワゴンを廊下に出して置いておけば良いとの事だった。さあ食事と動くと、運ばれてきたワインの瓶が手に触れて、うっかり倒してしまった。慌てて、敷物を拭こうとして角を捲り上げる。

「だめだな。これは。明日メイドさんに頼もう」

 こぼしたワインが、床に吸い込まれていく。おかしいなと思って敷物をどけると、床下には「驚くようなダンジョン」ではなく、手提げ金庫が3・4個入るぐらいのスペースがあった。

 まぁ、床下収納庫ですね。何か入っているかな? 何気なく蓋を開けて、中を見ると、畳まれ色あせた古い印刷物が1枚出て来た。


 この印刷物、客船などで見られる構造案内図の様だ。これが床の隠しボックスから出て来たのだ。アレキ文明の文字であるが、見つからなかったのだろうな? ボックスがあった事を、知る者もいなかったのだろう。この紙は、600年という長きに渡ってボックスの中に有った訳だ。よく見ると、うっすらと地下に続く通路があるように読める。読み取れた文字には、緊急テロ対策本部・通用3番出口とあった。


「エミリー、これ見える?」

「構造図に見えるが、古い書体なので良く分からん。何と書いて有るのだ?」

エミリーは、要塞に来てからは、あまり喋っていない。やはり、似ていると言ってもイリア王国の言葉とは、少しずつ違うからだろう。

「あぁ、分かるんだ。翻訳魔法のお蔭だよ。擦れているが、緊急テロ対策本部・通用3番出口とあるんだ」

「カトー、考えている事が分かるぞ」

「ウン、やっぱり。明日はこれだね」

「マルタン大佐には、大佐もお仕事忙しそうだと案内を断っておいて良かったね。疲れたと言って1・2日なら部屋から出歩かなくても可笑しくないよね? 見つかっても、要塞の中を見学させてもらっています、と言えばいいよね?」

「それはいかんだろ。軍事要塞なら機密も有るだろうからな」

「やっぱ、一寸後ろめたい気もするけど、魔法のローブで透明人間コースだね」

「見つからなければ良いという事でも無いが。やれやれ、共犯者になりそうだ」

「ごめん、エミリー。また、財宝発見かも知れないし、とりあえず内緒で」


 ※ ※ ※ ※ ※


 カトーとエミリーは王都に向かう途中、第3級転送ステーション113を発見している。カトーが何のためらいも無しに管制室のスイッチを押している。その日、王国歴180年15の月1日。転送ステーションの起動スイッチが入り、初期ルーチンプログラムが開始された。ホムンクルス達に、ステーションの役立ちそうな物や、設備を解体して集めてもらう様に頼んだ頃の事だ。


 2人は王都に向かうが、ホムンクルス達の活動用にと魔石を渡した。その後、作業を進める為にホムンクルス達は、外部出力機能を使って魔石エネルギーを、ステーションに僅かにチャージをした。そのわずかな変化を遠く離れた所から見つけた者がいた。


「統合官、西のロンダ北部の第3級転送ステーション113から、機能起動中の信号が入っています」

「本当か?」

「ハイ全機能ではありませんが、魔石エネルギーの補充があったようです。初期ルーチンが動いています。起動を開始してますから、基地機能回復までおおよそ15日と思われます」


 起動を開始してから10日後の深夜。第3級転送ステーション113は、基地機能を一部回復したのかデーターのやり取りが可能となった。しかし翌日早朝には、エネルギー供給が絶たれたのかまた沈黙してしまった。僅か5~6時間の部分稼働であったが、基礎データー等のアップデート後に現状確認の通信が行われた。僅かなデーター量だったが、おおよその出来事が把握された。


「ステーション自体は、状態保存の魔法が掛けられており、ほぼ完全な機能を保持しておりました。そこへ外部の者が魔石を持ち込み、ホムンクルスを起動させ作業開始を命じた様です。何故だか良く分かりませんが、ホムンクルスの外部出力機能により微々たるエネルギー供給されて、基地の機能が部分稼働したと思われます。暫くして、魔石エネルギーの供給が絶たれ、基地機能がまた失われたという事になります」


「ウム、そうか。ご苦労だった。これからも注意してくれ。だが問題となるのは、魔石エネルギーを誰が補充したのかだな?」

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