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癒やされたいキャンパー。異世界を癒やしに行く。  作者: カトー
第6章 要塞の秘密
53/201

ケドニア要塞

 ※ ※ ※ ※ ※


「地図によると、大陸を北から南に流れる川は大河エルベって言うのか。フーン、ケドニア神聖帝国の西端でエバント王国の国境となっている所が多いらしい」

「マァ、川が境と言うのは何処の国でも多い。自然の要害が国境という事だ」

「ケドニア神聖帝国は帝国要塞のある場所で扇の要の様に二手に分かれて、それぞれが海に注がれるんだな」

「帝国をまるで東西南北に分けるような感じだったはずだ」

「そうだね。大河エルベは、要塞の近づくと川幅を狭めて急流となっているのか。南に下ると川幅を広げ、やがて港湾都市メストレを抜けて海に潅いでいるんだね」

「一方の流れは、リューベック川と名を変えて帝国要塞から東に流れて下り、帝都の三百キロ南を通っている。実に、直線にして3000キロも東進している」

「大陸を横断する大河だね」

「分岐後の蛇行部分を入れると遥々3800キロ近くを旅する事になる。港湾都市ブロージョの北辺にまで流れているんだからな」

「帝国は大きいとよく聞いていたけど、ここまで飛んでくると大きさと凄さが分かるよ」

「まったくだ」


「これから行く要塞はそのエルベ川の分岐点にある、天然自然の要害という事だね」

「西方へ続く街道横にある。はるか古代に築かれたと言われているぞ」

「本当に?」

「山を利用した要塞だそうだ。要塞北岸近くの川幅は広く、川を渡った西側川岸は山が間近に迫っているんだ」

「それじゃ、橋が無いと渡河は無理だね」

「ウン、そうなるな。南へと続く急峻な崖になった自然の要害のせいで、いかな魔獣でも渡河して西岸に辿り着く事はできないだろうな」

「険しいけど、その分景色の良さそうな所なんだろうね」

「何をのんきに」


 エルベに架かる西の橋は、橋げたを落とし既に橋台のみが流れの中にある。川面に映るのは、エルベの壁とも呼ばれているケドニア神聖帝国の帝国要塞だ。要塞の東と南面はほとんどが平坦地で、そこに咲く花「ユリ」がケドニア神聖帝国の国花であるとおしえてもらった。残こされた、この防御施設は帝国の意地を見せているようだった。


 ※ ※ ※ ※ ※


「エミリーは要塞に詳しいんだね」

「イヤ、それほどでもない。実を言うと、守備隊の副長になると講習会で習うんだ」

「そうなんだ」

「マァ、思い出してみると色んな事を講習で習ったな。それを思い出してロンダを出る時に、資料を読み返してきたんだ」

「僕が商業ギルドに行ってた時だね。エミリーもチャンとしている処があるんだ」

「当たり前だ。それよりも要塞の事だ。ケドニア要塞は山を利用して作られいるんだ。この図の様に円柱の台座に円錐の帽子を乗せたような形をしている」

「ウン」

「で、要塞の話だが内部は地下を含めて、15層で構成され大きく3区分されている」

「ウン」

「地下5~地下1層までは、兵員室・看護室・倉庫・食堂・運動室等を含む生活関連。地上1~5層は、防御および攻撃層で兵員室もある。6層から10層まで、指揮・指令室やカタパルト発射台があり、16層に当たる最上階は観測・展望室だそうだ」

「結構、詳しいもんだな」

「アァ、要塞というのは、嘗ての失われた古文明の頃よりあると言われている。残されていた文書によると緊急時の施設としても運用されていたようだ」

「フーン」


「しかし、隕石テロ後だと思うがより存在自体を忘れさられ、時の流れの中に失われた施設だというのが定説だ」

「へーそう。それが何で」

「ウン、再発見は、300年程前の春にさかのぼる。発見者は放牧中の羊を追った少年だ」

「羊飼いか」

「その少年が偶然、入口を発見するまで、住民達も普通にある大きな岩山と思っていたんだ。要塞が復活したのは、帝国が建国された時に、革命派の初期の拠点となった為なんだ」

「帝国発祥の地と言う訳か」

「そうだ。要塞は、その後の混乱期を通じて周辺に目を光らせ要害の地として帝国軍の西方の主要な基地となっている。地理的にはエバント王国や西方への備えとして、度重なる改装を経て完全に要塞となったんだ」

「へーそうなんだ。随分と由緒のある施設なんだね」

 もちろん要塞であるから随所に攻撃・防御・監視所がある。僕が想像するに、規模ではジブラルタル要塞や、満州の虎頭要塞を遥かに凌ぐ大きさであるらしい。


「それでもって、三百年間も鉄壁の要塞でいるという事か」

「アァ、だが要塞の動力源は魔石によるものだ。要塞として運用するには、魔石の定期的な交換補充が望まれたが供給は難しかったらしい。だから私達が運んでいる魔石が頼みの綱と言う訳だ」

「やはり、魔石エネルギーが必須という事か」

「殿下の話では極力エネルギー消費を抑えてはいるようだ。だが数年後もしない内に要塞としての機能は保てなくなるだろうと仰ってたが」


 殿下の話では他にも色々情報があるらしい。例えば手に入れた魔石交換補充時の記録によると、完全稼働した場合には正に帝国要塞の名に恥じない物であった。中央部寄りの3カ所に大型シャフトが設置され、通常型シャフトと各階のエスカレーターが共に各階層を繋いでいた。驚く事にこの昇降装置は未だに動き、一度に大量の兵員や物資の移動が可能であるという。

 補修や修理が必要とされる箇所には、状態保存の魔法が掛けられていたようで。魔石が交換され全機能を発揮すると、天井や壁の壁面照明・温度管理された空調・揚水などの上下水道・温水プールまで稼働するらしい。


 この様な設備から考えると、隕石テロ前にはこの要塞と呼ばれる施設の本来の使用目的は、エルベ川沿いにある風光明媚で豪奢な巨大リゾートホテルではなかったのかと言われた。一部摩耗などがあったが、要塞は良好な状態であり、兵装・備蓄をはじめポンプなど水廻り等も同じで、給水やトイレ関係も不都合なかった。衛生的なトイレは、帝都の宮殿と要塞のみに有るという逸話もある。


 約8000名の戦闘員と、軍属3000名に加え非戦闘員等四千名で、合計15000名が籠城する難攻不落の要塞である。ケドニア神聖帝国の、西南地区の最後の拠点である。要塞の麓では、掘割を巡らして各所に楼を立てて兵を展開し、空の魔獣の攻撃にそなえ山頂部の各所のバリスタを配置している。また、カタパルトにより遠距離攻撃も可能であった。


「そういえば第1層には、巨大な正面入り口に続く有名な部屋が有るんだ。嘗て、騎士の間と呼ばれたそうで部屋には12基の彫像が魔法の力なのか、600年を経ても未だに黒く鈍い光を返しながら佇んでいるそうだ」


「殿下に教えてもらったのはともかく、これって講習会の資料だね。一応、聞くけど持ち出して良かったの?」

「そんな事は分からん。役に立ちそうだったし、忘れる事もある。焼くか破り捨ててしまえばいいさ」

「エミリー大胆だね。確かに役立ちそうだし、ここは見なかった事にしておくよ。講習会用だし。みんな知ってそうだがらね」


 魔獣は、幾重にも取り囲むだろうが守りは固い。魔石は別だが、15000名が籠城しても7年以上の物資を備え、水源は大河で確保できた。兵の士気は高く維持されており、籠城し続けることが出来るとされた。魔石が補充されれば、巨大な帝国要塞を落城させるのは非常に難しい。通常でも、落とすのに5年とか6年とか時間がかかるだろう。唯一有効と言われる兵糧攻めでも、南部穀倉地帯は豊作続きであったので備蓄は多い。魔獣が防壁を突破するには、多大の損害を出す力攻めしか方法がない。その為には魔石を届けなければならないという事だ。


 ※ ※ ※ ※ ※


 イリア王国歴181年4の月4日 ※ ※ 帝国歴391年4の月4日

 王都ロンダから、ケドニア神聖帝国・帝国要塞まで往復だ。空飛ぶ絨毯でも24日位はかかる。なにせ行き帰りで約5000キロを移動する事になるからね。いつ戻れるか分からないが、魔獣の偵察までしてきてくれと言われている。24日以上はかかるだろうなー。一応、1カ月の予定で旅だったが? 絶対に足りないだろうなー。

 

 途中、エバント王国通過して往路の日程を12日としていたが10日間でよかった。天候と追い風が幸いしたんだ。一度も行った事の無い地を、空から一直線に要塞を目指す。地図魔法である程度は分かっていたが、最終行程の山間部は難易度が高かった。やっと一昨日、エルベ河の西岸、エバント王国軍の陣地に着いた。情報収集と影への連絡を済ませて、目的地の帝国要塞に向かう事にした。


「上空なら、ワイバーンもそうそう飛んでないよね。要塞からの迎撃も考えとかないと」

「ワイバーンは好んで高度200~500メートルを飛ぶと言われている。カトー取り敢えず、ワイバーンが飛ばないような高度で接近してみるか?」

「この寒いのに。そうだなぁ、そうなるかなー」


「思うんだが空飛ぶ絨毯を、限界まで高度を上げて移動するのでかなり寒くなるんじゃないか」

「さすがにここまで飛んで来ただけはあるな」

「何をバカな事を。さあ、上昇してくれ」


「ウーン、こんな高度で、1時間の飛行は厳しいものが有るな」

「こうしろと言ったのは、エミリーもだったじゃないか。だからこそ、見つからずに要塞の真上に来れたんじゃないか」

「マ、これだけ曇っていたら見つからなかったかも知れないけどな」

 高射砲の様なバリスタが見える。撃たれないよう、要塞の真上から徐々に降りていく。風に流されないよう、ホバリングして風魔法で真下の見張り台に居る兵に声をかける。

「アノーすいません。ちょっと良いですか? イリア王国の方から来ました」

気が付いた兵が、声の方に顔を向けてビックリしている。

(そうだよねー。突然声をかけられたら驚くよね。それも頭の上からだもんなー)


「お前たちは何だー? どこから来たー! 何者だー!」

「イリア王国の方から来ましたー。降りますから、撃たないでくださーい」

(この世界でも、何々の方から来ましたってのは、拙いのかな?)

「怪しいけど、怪しくないでーす」

「やっぱり怪しい。降りて来い」

(だから降りて行きますと言っているじゃないの)

誰が見ても立派な不審者だが、監視所のマチュー・オーブリー・デサイー少佐はそれでも話を聞いてくれた。


 ※ ※ ※ ※ ※


 エミリーは、ケドニア神聖帝国・帝国要塞副官のマルタン大佐と面識がある。昔、お父さんのイバンが王都での商売の為に、家族揃って長期間滞在していた。外交官として来たマルタンさんと、気心の置けない飲み友達として、よく一緒に食事をしたりして楽しく過ごしたそうだ。そのお蔭で、エミリーも見知っているそうだ。


「監視台から、連絡が有った時は驚いたよ!」

 いきなり、空飛ぶ絨毯で乗り付けたのだからそうなるわな。エバント王国で副官がマルタンさんと聞いた時、エミリーが嬉しそうにしていたので何事かと思っていた。いくら知り合いでも、要塞の最上部の監視台に突然お邪魔するんだもな。屋上のバリスタに撃たれないで良かった。監視台の皆さん、驚かせてすいません。


 空飛ぶ絨毯にはだいぶ驚いたようだが、魔法で操作していると言うと、そういう事も出来るんだと大きくうなずいて納得していた。イリア王国の魔法使いなら、その位の事は出来るんじゃないのかという顔だった。わざわざ訂正する事も無いので、ニコニコしていたら気を効かせてくれて、空飛ぶ絨毯をバリスタ用の倉庫に入れてくれた。


(ちょっとした誤解は有ったが、無事マルタンさんの部屋まで案内をしてくれた)

「エミリー君、随分と久しぶりね」

「ありがとうございます。父も、お会い出来たら良かったのですが今回は公務ですので」

「そうか、残念だ。後でよろしくと伝えてくれ。私が君に会ったのは、こんな小さかった時だ。憶えているかい?」

と握手した手を腰のあたりで振っている。


「すまん。あまり時間が取れないんだ。これでも、要塞の副官でね。それで、火急の要件と言うのは何かね。この少年の事かね」

「ハイ、カトーと言います」

日本人である。思わずお辞儀をして「よろしくお願いいたします」と答えてしまった。因みに、今回お辞儀角度は45度、背筋を伸ばして腰から上体を深く折り曲げ、真下よりやや前方に視線を落とすのが基本。両手は、手を体の横に自然に合わせて行う。エミリーが咳ばらいをしなかったら危うく、名刺交換をしそうだった。


「ハハ、ずいぶん丁寧な挨拶だな」

その後、エミリーが慌てて僕が今回の正式な特使である事と、重要な案件を持って来たと話し始めた。

「実は、第一王子から届け物を預かってきました。これです」

「何だね、公務と言っていたが小箱と書簡か? どれどれ」

口頭で男爵と告げ、イリア王国の特使の任命状と書簡を渡す。


「イヤ、大変失礼した。許されよ。受けた報告では、エミリー嬢の事だけで。特使殿の事は、何も聞か無かったので」

「そんな、気にしてません。屋上に、突然舞い降りたこちらのミスです」

「イヤイヤ、こちらこそ。申し訳ない、突然の事で行き違いが有ったんでしょう。失礼いたしました」

「混乱させてしまいましたので無理もないと思います。特使でしたら、馬車で来るのが普通だと聞いています」

「確かに、空からお見えになった方は初めてですが」

「マ、特使となれば、それなりの人数のはずが僅か2人ですからね」

仕方なかった思うが再度謝られてしまった。

「では、帝国要塞の指揮権のある方か、帝国の上層部にある物を渡せと命令されていますのでお会い出来ますでしょうか?」

「勿論ですとも、書簡はイリア王国の王室の封印ですし、直ぐにラザール要塞司令官に会っていただきましょう」


 ※ ※ ※ ※ ※


 司令官執務室まで案内された。執務机から立ち上がったのは、疲労した顔であるが責任感にあふれる男性であった。応接セットの前に移動し互いに紹介しあう。

「ケドニア神聖帝国軍中将・帝国要塞司令官、ラザール・ブレソール・ピエール・ショヴォーです」

「はじめてお目にかかります。イリア王国特使の、加藤良太です。イリア王国より男爵位を賜っております。カトーとお呼び下さい。こちらは、私の副官の近衛騎士のエミリー・ノエミ・ブリト・ロダルテ中尉です」

「何やら、ご到着時に失礼があったとかお許しください」

「イヤ、その事はこちらにも落ち度がありました。お気になさらずに」

「では、お互いさまという事で。失礼ながら、特使にしては随分とお若いですな。では、書簡を拝見します」


書簡に続いて、僕の公使証明書を見てもらう。最後に、魔石をラザール司令官の前に出す。かなり驚かれたが、書簡を読んで納得した様だ。この要塞は、キーポイントだ。王国の秘密協定については、代々の司令官には知らされていたのだろう。

「なるほど、分かりました。感謝しますカトー卿。これで、帝国要塞は救われました」


 書簡に描かれているのは、イリア王国とケドニア神聖帝国の秘密協定により魔石を譲渡する。の一文だけである。援軍とは言え、二人だけで何が出来るのかと言われそうだが、ここで第一王子からの紹介状を渡して読んでもらった。癒しの魔法についてもさらりと書いてある。

(何時の間に調べたのか? 密偵凄いわ!)


 司令官が、紹介状のさわりを読み上げてくれた。

「イリア王国に限らず、本来なら優秀な魔法使いの派遣は軍事機密要件になる。第一王子セシリオ・アルバラード・バレンスエラ・カナバルの達っての希望で、カトー男爵を魔獣侵攻に対する一助として派遣する。この者は、年若いが複数の属性魔法が使えるイリア王国、有数の優秀な魔法使いである。

 その力は、数十メートルも離れた場所で瀕死の猪を再生させ、更にはその体力を回復させれる。貧民街でも同様に子供を回復させ、慈愛溢れるこの魔法発動時には、廻りの半径10メートル以上の人間が回復し、教会の奇跡とも言われている」


(こんな文章が、外交用語を散りばめて書いてあるみたいだ。だいぶ話が、盛ってある気もしないではない。ラザール司令官とマルタン大佐の顔が引き攣っている。なんかもう、ハラハラものだよ)


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