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癒やされたいキャンパー。異世界を癒やしに行く。  作者: カトー
第6章 要塞の秘密
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帝国要塞までの飛行

 イリア王国歴181年3の月18日

 本日、18日、天気は快晴。帝国要塞に向けて飛び立つ。王都からエバント王国国境まで510キロ。間に大きな町2つ、アギラスとハエンを抜ける。

「ハエンを出てから、しばらく街道沿いに東へ進もう」

「ここら辺は王国の地図もしっかりしているから問題は無い。むしろ地図の正確さに感心するぞ」

「エミリーの言う通りだね。上から見ると俗世を忘れるよ。天気も良いから少し高度を上げようか」

「低いと怪しまれるからな。ここまで来たのは久しぶりだ。アギラスも大きな町だが、ここいらから街道を離れていくんだな」

「アァ、国境の検問所を通るのは何だかんだあると嫌だからね。その方が飛行距離を稼げるし」

「こんなに順調なら随分と早く国境を抜けれるな」

「明日の夕暮れあたりかな?」

「許可証はあるが時間がな。地上の移動では、外交官といえども国境越えには入国審査があるしな」

「そうだろうね」

「普通だと貴族でも並んで順番を待つ。私達は外交官相当なのでイリア側からの出国はさほど時間がかから無いが、エバント側の入国には時間がいるようだ」

「時間がかかるのかー」

「アァ、そうだな。国境と言うのは隣り合ってはいてもすぐに通過出来ると言うものではない。実際、国境線は線ではない帯の様な中立地帯だからな」

「フーン」

「イリアとケドニアの国境検問所との間は、四キロほどある。身分のあるもの以外は皆歩きだ」

「そうなんだ」

「順番を待たなければならないが、公務の者や貴族用等は専用レーンに係員が訪ねてくるので馬車の中で待てば良い」

「副官のシーロが言うには、空からでは不法入国になるらしいけど」

「手続き上はな。しかし、外交官特権があるので、それがどうしたという事で終わるらしい」

「ウン、今の言葉で国家権力と言うのを垣間見た気がするよ」

「まぁ、色々と面倒だ。検問所を通らないよう、帰りももちろん空路にしよう」


 王都ロンダからは東へと進んできたが、国境を越えてから街道は南に降りて行く。宗都リヨンから、再び北東に替わりエバント王国の首都を抜け、東に進むとケドニア神聖帝国となる。ここでショートカットする以外は、街道に沿って飛行するのが分かりやすいだろう。街道に、近寄り過ぎてもなんなので5キロ程の距離を保って進む。これだけ間を開けていれば、通行する者達に気づかれる事も無いだろう。


 イリア王国、エバント王国と順調に飛行できたが、この3日ばかりは、深い森の中でキャンプだ。大自然の中、深呼吸するだけでも気分転換になる。カナダやアラスカの森にいるようだ。(行った事無いけど、そぉ気分的にね)


「ここら辺は山ばかりだな」

「そうだね、地図によるとエバント王国の山岳地帯だ。上手く行けば要塞まであと2日位かな。ショートカットで行く為にはしょうがないよ。予定通り近づいたら、エルベ川の手前で一度降りて様子を見よう。このままじゃ下を通る街道が見え無いし、磁石頼りだからね」


「オヤ? エミリー、アレなんだろう? 飛んで来るね」

「そうだ、飛んでるな。どんどん、近づいてくるな。単眼鏡で見てくれないか」

「近づいてるよね。て! あれドラゴンだよね?!」

「ドラゴンだな」

「退避ー! 取り敢えず下に降りて隠れるよー」

暫くすると、上空をものすごい速さでドラゴンが、飛び去って行くように思えたが引き返してきた。

「戻って来たよー!」

「とにかく隠れよう」

森の中に空飛ぶ絨毯を隠れる様に降ろしていく。ドラゴンがこの絨毯を中心にして廻り始めた。何となく、待機している様な感じで旋回しているが? 

「大きな、ドラゴンだなー」

「ほんと、70メータ位あるよね。遺跡都市で、見たようなドラゴンだよ。怖そうだな。早くどっかに行ってくれないかなー」

「オ、カトー言ってみるもんだな。戻って来た方へ飛んでいくぞ。ドラゴンか! 怖かったけど良いもん見たなー」

(隠れた所を絶対に見つけられたと思った。が、無視されたのか分からないが飛んで行ってくれた。何が良いもん見れただ。フゥ~、此処で暫く隠れていよう。しかし、ドラゴンか)


「ところでエミリー何してんの?」

「晩飯に、ウサギでも獲ろうかなと思って石礫を投げた所だ」

「そんなの、持って載ってるの?」

「あぁ、当たったようだぞ。ちょっと行ってくる」


 エミリーの生活力を見習いたいもんだ。マ、無理だけど。日本に居た時、1人でするソロキャンプは孤独を楽しむ為だった。お酒を飲んで、食事して寝る。夜中にトイレに起きて星空を眺める。今はエミリーと2人で料理をして、焚き火の火をズート見ながらボーとしている。今晩はウサギのお肉です。一寸だけワイルドなキャンプだ。……これも良いかな?


 ※ ※ ※ ※ ※


 イリア王国歴181年4の月2日

「見えて来たね、エルベ川。すごく大きいねー」

(あんな綺麗な景色の中、河原でBBQ出来たら最高だな。今頃、皆は何しているかなー?)

「あたりだな。少し、北に来たみたいだ。川沿いに下れば、要塞が見えるはずだ」

「あれは、エバント王国の軍隊かな?」

(教えてもらった、ケドニア神聖帝国の王冠に百合の花の国旗では無い。エバント王国の、白色の雛菊デージーの花の様だね。因みに、イリア王国はカーネーションと剣が国旗である。大きな川の手前には王国軍の炊飯の煙だろうか? 風にたなびいている)

「警戒体制では、有るんだろうな」

「そうだよねー。流石に魔獣が大群で、押し寄せて来たって事だからね」


 エルベ川を国境にして、10キロ程西にエバント王国軍が駐留している。エバント王国は、エルベ川西岸を防衛ラインにしているようだ。絨毯は野営地に向かっている。

 外交官である書状を見せて様子を聞いて見ようか? 翻訳の魔法が有るので言葉には不自由しないし、多少言い回しが古くても構わないだろう。エバントの言葉は、イリア王国と似てはいるが意味がずれているのも多少ある。まぁ、いざとなったら教会語を使う手もある。それでも、最近できたと思われる化学や工業系の言葉は、覚えるしか無いみたいだが発音は出来る。

(日本でも、訳も分からず使っていたカタカタ語だったし、同じだな)


「じゃ、少し離れた森に隠して、服を替えて行って見ようか?」

「て、どこへ? 2人でか?」

「やっぱ、司令部じゃない?」

「馬車も、随行員もいないのに、信用されないと思うぞ」

エミリーの珍しく常識のある意見で商人たちの方に足を向ける。この時代も、軍の後ろには商人たちの馬車が連なり、あちこちにテントを張り、店を出している。

 その店では客たちの要望(欲望ともいう)を叶えてくれる。食べ物屋に飲み屋、代書屋に売春宿、その中にはもちろん両替商も居て王国金貨のエキュを帝国金貨のリーグに換えてくれる。


 帝国での活動費として、金貨が50枚支給されている。エバント王国は、帝国のリーグが通貨単位として使用され凡そ1リーグは2エキュになっている。王国では、交換手数料は15パーセント以下と決められていたが、この野営地では20パーセントらしい。金額が多ければ多少下がるらしいが、お店のテントで売っている商品も少し高い。差し詰め、出張料金と言うところかな。


 活動費の金貨を半割にして、エミリーと二手に分かれて情報収集をする。流石に酒場は無い様だが、通りがかった酒保では、非番なのか兵が暇そうにエールを飲んでいる。

「どうした坊主。商売のネタでも探しているのか?」

商人たちの息子の1人とも思われたのだろうか? 子供相手の暇つぶしと考えたのかもしれない。そう言う事なら。

「お疲れ様です。ここ、良いですか?」

「俺の椅子でもないし、構わんよ」

「じゃ、御言葉に甘えて。お姉さん、こちらの皆さんにエールのお替り」

「お、気が利くじゃなえか坊主。聞きたい事でも有るのか?」

エールが運ばれ、ジョッキが半分ほどになるまで天気の話をしていた。

(実際、野営でもキャンプでも、お天気は気になるよね)


「要塞は大変なんでしょうね?」

「あぁ、そうだな。既に籠城の用意を始めているしな。彼らが、頑張って居てくれるので助かるよ」

「連絡なんかは、あるんですか?」

「あぁ、対岸に渡したケーブルが有るからな。出来るぞ」

一瞬、ケーブル回線が有ると思ってしまったが、ケーブルはこちらと要塞をワーイヤーケーブルでつないだ物であるそうだ。


 帝国は、工業先進国らしく鉄を使ったワイヤー加工が出来るらしい。ただ二キロ近くの距離なので、何時切れてもおかしくないそうだ。架ける時にも、非常に苦労したらしい。魔獣が、うろつきだしたら再架設は無理だろうと言われている。

「なにせ距離が有るし、風もあると難しいな。軽い物か連絡文しかやり取りしてないがな」

「そう言えば今朝も、要塞から現状が知らされたらしいぞ」


「帝国の魔獣侵攻は、どうなっているんでしょう?」

「やっぱり、気になるのはそこだよな」

「教えてください」

「アァ、帝国からの定期連絡では、魔獣はメストレ陥落後に二手に分かれた」

「陥落? したんですか」

「そうだ。魔獣の一群はでリミニを包囲していると言われている。おまけに、もう一群はブロージョを目指して海岸線に沿って移動しているらしい」

「そうなんですか」

「ブロージョから、メストレ近くまで派遣された船による偵察では、街道は北に向かう避難民で溢れる位だったそうだ。ただ、混んでいたのは途中まで、メストレ近くまで行くと人一人いなくなったそうだ」

「じゃ?」

「魔獣に襲われたらしい、気の毒にな。ブロージョに辿り着ければ良いいけどな。魔獣の数もかなりらしい、街道沿いには小さな町や村は沢山あるからな」

「そんな事が有ったんですか。残念ですね……お話、有難うございました」

「こんな話で良いのかい? 2・3日居れば分かると思うが?」

「エェ、助かりました」

支払いの時にカウンターに金貨を出したら、直ぐに持っていたお盆で隠して、危ないから人から見えない様に出しなさいとお姉さんに言われた。お釣りをもらい、チップを渡そうとしたら子供が気を使うなと怒られた。


 酒保を出て、エミリーと待ち合わせた場所に行く。少し前からエミリーはいたようだが、エミリーも似たような話を聞きこんだようだ。どうしようかと思っていると腕輪に押されたような感覚がある。シーロが言っていた影からの連絡らしい。王都ロンダを出てリヨンも寄らずにここまで来たのに、もう連絡が着いているなんてどうなっているんだろう?  


 教えてもらった通り、急いで人気のない樽置き場の様な所に移動した。腕輪を教わった間隔で握ると、声が腕輪の前から聞こえる。ちょっと見、携帯のスピーカーフォン機能だな。

「カトー男爵殿、エミリー中尉、ご苦労様です。近くに誰も居ませんね? 姿も見せず失礼します。規則なので」

「ハイ。エーと、元気です? 違うか。失礼しました。何しろ初めてなので」

「構いませんよ。皆さんそうですから。これまでの事を、今話せるようでしたら話して下さい。殿下に報告しますので」

「あぁ、分かりました。では」


10分ほど、これまであった事を腕輪にむかって話す。

「その旨、王子に報告いたします」

「最後になりましたが、王子から魔石の譲渡の件は、帝都に連絡中であるとの事です。それと、偵察時の独自判断を許可されるそうです。」


 エミリーが横で廻りを警戒しながら聞いていたが、要塞副官の名が出て来た時に、エミリーが名前を聞き直した以外は順調だった。

「要塞副官は、マルタン・ルネ・マルセル・オリエ大佐で信頼できます」

「良い話を聞いた。有難う」

エミリーは、話に出てきたケドニア神聖帝国・要塞副官のマルタンと父のイバンが友人だったらしく、小さい頃に可愛がってもらったそうだ。10年ほど前に、外交官から帝国軍高官へとなったらしいと、父から聞いたのを思い出したそうだ。同一人物なら、何かと都合良いだろう。


「そろそろ、腕輪の魔力が切れます。そこの樽の上に、腕輪を置いて人通りのある場所に出て下さい。腕輪は、後でお届けします。何、そんなにかかりませんよ」

「良いんです?」

「お願いします。では」

10歩も歩かないで振り返ると、樽の上の腕輪は無くなっていた。


「何時の間に? わからない。忍者みたいだ」

「忍者ってなんだ?」

「忍びの者といって、スーパースパイみたいの」

「スーパーって、何?」

「あぁ、ご免。凄腕の諜報員の事だよ」

「フーン、て、カトー。前を見てみろ。腕輪が置いてあるぞ」

「エ。ホントだ。凄いなー。オッと、騒ぐと目立ってしまうね」


「此処まで、そこそこ順調に来れたんだ。様子も少しわかった。要塞まで、あと少しだな」

「そうだね。じゃ、要塞に行って見ようか」

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