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癒やされたいキャンパー。異世界を癒やしに行く。  作者: カトー
第5章 王宮に行こう
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陰謀と復讐終了のお知らせ

 統治方式に違いはあるが、絶対王政では領土、国民はすべて統治者のものである。イリア王国の王位は、継承法によって決められている。貴族も王族と同様で、安定した王国の運営のため継続性が必要とされていた。

 女男爵や女公爵も居るみたいだし、王国成立時と違い今では王家に限っては、長子相続で男系女系など性別による排除が普通に行われている。

 国の運営は長幼の序による統治よりも年功序列に変わってしまっていた。もっとも、オスマン帝国みたいに争いを防ぐため、王位につけない兄弟を皆殺しにしていては非効率であり、さすがに道義上も問題も多いみたいだが。


 現フェリペ国王は、立法王とも行政王とも呼ばれる賢王と言われる。その業績は、立法し王国全土に行政法を施行した事だ。賢王と呼ばれただけあって、徴税や自治などに関する権限を明確化した。民法や商法などを制定し、一部慣習法も認めた。商人や役人が、手前勝手なルールで私腹を肥やす事も禁じている。

 これには強国のケドニア神聖帝国の発展が陰にあり、一方的に国力が開いていく事を懸念した為だ。国王は法治による、進歩を踏み出そうとしたのだと考えられている。


 また、フェリペ国王により10年ほど前に、軍制改革が行われた事も特筆に値する。絶対王政下の、貴族制度とはいささか矛盾するが、都市守備隊や近衛師団などでは階級制度に変わっている。やがて、ケドニア神聖帝国のように軍の指揮は、貴族や騎士などと言う事は関係無くなるだろう。これは、身分より能力が優先される初めての事例となった。

 確かに、中世然とした軍制では帝国と競うことも出来ないだろう。しかし、地方では階級制への移行は極めてゆっくりと行われた。10年経っても、依然として地方では、指揮権は土地を治める領主、貴族に騎士などの身分の有る者が持っているべきだという者もいる。


 国王の人となりは、優秀で能力もあるが表に立つのは苦手の様で、一口で言えば、学者肌の人物であると言われた。これは、年を重ねるにつれて強くなる感じだ。若い頃は、王太合の決めた婚約者たちが居なければ、王位の継承が危ぶまれたほどと噂された。なのだが、男子を十人女子は五人設けている。 


 ※ ※ ※ ※ ※


「では、クラウディオさんがわざわざ調べてくれたんですか?」

「役に立つかどうかは別にして、お力添えさせていただいくという事です」

「イエ、大変助かります」

「知られている事と言うのは良くある話です。事の起こりは第一王子が優秀と言われ、第三王子は平凡だとという噂からなんです」

「噂なんですか」

「小さな子供の気分など日によって変わるものです。偶々静かであったから真面目そうに見えたり、優秀なのだろうと思われたりしたます。反対も、また同じ事でしょう」

「そうですね」

「皆、小さい頃は良かった。いつでもいるもんです。王宮の口さがない者や気に入られようと媚を売る者、ただ暇に任せて噂する者、そして真の黒幕は帝国の外交官かもしれないと言われてますね」

「フーン」

「混乱を徐々に煽り、広めようとする。あわよくば、エバント王国の様に帝国の属国にとする図り事だったかもしれません」

「ケドニア帝国が影に居るんですか?」

「イヤ、噂ですよ。だが王国も、帝国の裏側でやっている事に大差は無いと思います」

「王国もですか」

「ゆっくりとだが、確実に2人の王子は不仲となって行く。やがて、ボタンの掛け違いだけと言えなくなってしまうまで。とまぁ、こんな筋書きだったんでしょう」

「何と言うか、あまり気持ちのいい話では無いですね」

「された方はたまりませんが、帝国にとっては理想的ですな。事が大きくなるほど都合が良い。その意味では当時の外交はケドニアが一枚上手だったという事です」

「そんな事が有ったんですね」


 慣例上、王妃の衣裳係女官は通常、公爵夫人が務める。側室のクリスティナ妃は、若くして王の寵愛を受け第三王子エドムンドの母となった。元々、侯爵夫人派である、かといってすんなりと側室になれた訳では無い。国母になる者は、王妃を入れれば6人もの競争相手がいるのだ。婚外子の母は3人だが、王位継承権は無いに等しい。


 第二王子カシミロ・オスワルド・バレンスエラ・オリバレスの母は、カシミロを生んだ時に亡くなっている。経済に明るく年も30才。第一王子セシリオが32才と年が近いし、2人とも魔術好きという。馬が合うのだろうか、気の置けない中になっている。


  荒事が好きで、軍事が人より優秀であると思っている第三王子が、母の愚痴とも言えない言葉に、魔が差したともいえる。第一王子が政務に着き、王位継承も波風が立たないまま受け継がれようとしたとき、間の悪い事に急病か過労か分からないが第一王子の母カタリナが倒れた。結局、過労によるもので三か月ほどかかったが快癒した。しかし、貴族たちの一部から第三王子を押す声が出てきた。どこにも、権力の主流から外れる者はいる。

 既に第二王子は後ろ盾になる者も無く、本人も王になる気はないと宣言している。また、年齢では2番目の31才のカルリトス・レルマ・テラサスは、婚外子ゆえ王位継承権では第8位とされている。


 クリスティナ妃にも、嘗て王の寵愛を受けていた時と同様に、年月は容赦なく過ぎていく。自分が頼りとした派閥は徐々に勢力を減らしていく。第一王子が、経験を積むにつれ差が開いていく気がする。頼みの王は、法律に興味があったのか性格なのか立法に熱心である。賢明な王と呼ばれはしているが、後宮に訪れる事も久しく無い。今では年老いた学者然とした風貌である。宮廷内の口さがない貴族には、王位継承も間近にあるのではないかと言われるぐらいである。


「そんな時、第三王子がエバント王国との国境で小競り合いを起こしたそうです」

「起こした?」

「起こされたと言うのが真相です。ですが紛争とまではいかなくとも、責任の有無が議論される」

「国境ですからね」

「王子が盗賊を追いかけて、勇み足をしてエバント王国の国境を侵したのだ。と言う噂が広まりました。この事件は第三皇子に勇み足有るとの疑いが掛けられます」

「へー、そりゃ不味いなー」

「ここまではね、何とでも説明できたし悪くは取られなかったでしょう。ですが召喚された王子が弁明の為、王都に向かおうとした時に、誰も止めなかったので討伐軍を同道するというミスを犯してしまった。王子側の話によると同道の旨、書簡を2度送っていると言ってますが」

「お芝居になりそうな話ですね」

「そうなんです。王都に許可なく兵を連れて来るのは、見ようによっては武装反乱ですからね」

「それで」

「王都では、誰が考えたか分かりませんが陰謀とまでは言えないまでも図り事が企てられたようです」

「それが原因だったんですか」

「第三王子は、利用されただけかもしれない? と思う人も多いんです」

「フーン」

「で、王子は母に善処を頼んだ訳です」

「王宮かー。複雑そうですね」

「その通りです。友人とは母方の親類になる派閥の長老で、老獪と言われた領主カミロ子爵の父ミテロ・マトス・ベラスコだったんです」


 この後の話は結構、長くなるのだが概略だけでも順に話をしておこう。さて、義理とはいえ、親類になるクリスティナ妃の頼み事である。派閥の領袖として第三王子の相談に乗る事もあった。側室のクリスティナ妃は、タラゴナ出身で権勢もある。タラゴナの領主であったカミロ子爵は、クリスティナ妃からの息子を匿ってくれという手紙を無視できなかった。 


 タラゴナの領主。陰謀が本当にあったのかどうか? 第三王子は、謀反を起こし王都に攻め上る心算があったのか? 分離独立する事が出来るのか、出来ずともせめて自治権を獲得する気が有ったのか? 全ては、藪の中である。

 

 話は、意外なとこから漏れてきた。街道の盗賊が捕まったのだ。それだけならよくある事なのだが、取り調べで口を割った話の内容が、薬問屋の商人への襲撃計画だった。なぜか分から無いが、取り調べ書類が机に置かれていた。そこには盗賊から聞きだされた貴族関連の名前があった為、報告が第一王子セルシオまで上がって来たのだ。

 彼は後に知ったそうだが、盗賊仲間から誘われたそうで、まとまった数で襲ったそうである。偶々、自分は小遣い稼ぎの、恐喝をしていた処を役人に捕まって、町の牢に入れられていた為に行けなかったと供述している。


 この取り調べで、執事の名前が出たのだ。派閥の下の貴族の執事とはいえ、とかく帝国との関係が噂されている、中央の大物の貴族の息子の名前が。(盗賊への指示は執事がしている。この世界でも、秘書がした事になるのかな?)


 領主のカミロ子爵が弁明の為、王都へ向かうのは、治安が普通に良好な国の幹線道だ。確かに、盗賊がいない訳では無い。しかし盗賊にしても、人を殺めるような凶悪犯は少ない。辺境ならいざ知らず。このような街道では、追剥で有り金を出させて終わりである。いたずらに殺せば、治安回復の為に守備隊が出動して、たちまち鎮圧されてしまう。凶悪な事件を、起こせば長くは続かない。まして貴族の馬車なら、警護の騎士も付きそれなりに警備されている。


 帝国にとって、エバント王国の様に王族が反乱事件を起こせば、たとえ嘘でも国は混乱する。真偽の程はどちらでも好いし、2年3年と長引かせ、その隙に乗じて属国化の謀を進める手もある。

 カミロ子爵は弁明後、王都の閑職に着くよりも引退を選んだようだ。しかし貴族と言っても、法衣貴族で代官になって任地について2年だ。父親が派閥の長とは言え、その地位は弟たちの誰かが継ぐだろうし、引退できるだけの蓄財が有るとも思われない。何か有る。


 盗賊が捕まり、執事の名前が知られた。ここで慌てたのは帝国だ。証拠は無いはずだが、無いとは言い切れない。帝国が糸を引いている事を、王国に知られる前に口を封じなければならない。一介の薬問屋の商店主等の事など、移動中に不信な死に方であっても、死人に口なしである。そして襲撃が行われた。


 帝国としても事が露見した以上、外交問題になるのは避けたいので、早急に後始末を付けるつもりだったらしい。実の息子のカミロ子爵が、消されかけて父のミテロも政治に嫌気がさしたのか、引退を仄めかしている。第三王子、エドムンドの手の者か? 側妃クリスティナに、よるものか? そう見せかけたのか? これも真相は、藪の中である。


 暫くすると、クリスティナ妃には「尼寺へ、いきゃれ」という沙汰が降りるらしいと、噂が流れた。そこでクラウディオからこの世界の修道院の事をチョット聞かされた。クラウディオによるとこの大陸では修道院は多くの場合、生活の便を第一としているので都市に立てられている。修道院は、多彩な経済活動をしている。

 例えば読み書き教育、捨て子・ストリートギャングの世話、救済院での病人看護、貧者、巡礼に対する奉仕、訪問による看護、死者のための祈りと通夜・葬列への参列、家事(洗濯・調理)、職布、糸つむぎ、裁縫、エールにワインの醸造、製粉、写本、巡礼の代行、印刷所等、実に様々な事が行われているそうだ。


 修道院というのは、概して清貧のイメージがある。ただ聖秘蹟教会の場合は、貴族の女性など身分のある者が、修道女に成るというのは意味合いが少し異なる。彼女たちは、金持ちで侍女もいる。昼間の外出についてほとんど制限は無く、経済活動、つまりお金を稼いでも良いとされている。ただし、男女とも政治的活動は一切出来ない。


  女子修道院も一般に街中に有るが、彼女が送られる女子修道院は郊外に位置していた。クリスティナ妃の場合は「尼寺へいきゃれ」というのは、世捨て人の集まりのような郊外の女子修道院にいけという事だ。非力な、女でも毒なら使える。薬屋ばかりが、悲劇に合う訳でも無い。何時までも王宮に居座られ、逆恨みされて揉め事を起こされるのも心配だと思われたのかもしれない。いずれにしても秘密裏に王宮で政治的決定が下されたのだろう。


 尚、教会では修道院に入るため持参金を要求する事は無いと言われている。しかし、喜捨は喜んで受け入れた。クリスティナ妃と侍女を受け入れるのに、一人当たり平均的な庶民の生活費が、悠に10年分が必要といわれたらしい。


「以上が私の知る噂です」

「ありがとうございます。クラウディオさん」

「カトー様、よろしいですか。念の為に申し添えておきますが、これはみな噂ですからね」

「ハイ、了解しました!」

 こんな事を聞かされるとは27年間、日本人として生きて来たが、今までは絶対に関係ない世界だと思っていた。リアルに噂や王宮が怖いと思ったのは初めてだ。生きていけるかなー。

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