ロールケーキ
イリア王国歴181年3の月4日
「ケーキに、もう一つ工夫して新作を出そうと思ってます。新しいカマドも、調子が良い見たいだし」
「まだあるんですか? カトー様はお菓子の天才ですね」
「調子の良いことを言っても何も出ないよ」
「いや、ホント。次から次へとアイデアが出て来るんですね。本当に、神様に愛されたお菓子作りの天使の様ですね」
「それ頂きまっす。名前をどうするか困っていたんだ。新作は、天使のロールケーキシリーズと名付けます」
王都での、お菓子の新作はロールケーキである。二の月も末という事で、ふと日本の事を思い出したんだ。恵方巻きである。昔、キャンプ場でショッピングセンターの専門店で購入したロールケーキを、カットが面倒くさいと一本食いしたのだ。若気の至りである。我ながら、ちと恥ずかしい思い出だ。
「この新作の巻き巻きケーキは、ロールケーキって言うんだ」
「へーそうなんだ」
「タティアナさん達の技術ならそろそろスポンジやシフォンケーキが焼けると思うんだけどな」
「新作のケーキですか?」
「ウン、本当は丸型なんだけど。ロールケーキは長方形のパウンドケーキ型で焼けるようにしないとね」
「お聞きしていたホールケーキですか?」
「それとは違うんだけど。この形にするとね、丸型と違って中まで火が通りやすいそうなんだ」
「長方形かー。巻き巻きするなら、ふっくらとしたスポンジがポイントになりますね」
「確か、焼きあがったらすぐに逆さまにすると上手く行くって書いてあったな」
「試したんですか?」
「イヤ、僕じゃないけど。マ、シフォンケーキはしっかりと冷まして型から外す事。冷めきる前に、カットするとしぼんでしまうそうだ」
何故か雰囲気が厳しい。これは少しケーキに対する女性達の情熱を見くびっていた様だ。
「これは、少し研究しないとだめですね」
「さぁー、カトー様。洗いざらい話してもらいましょうか」
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ロールケーキを、カットしてタワー状に積み上げて10種を1組にして販売。人目を引くディスプレイはインパクトがあるし、お客様は各種の味を楽しめる。そしてお店も一編に売れて売り上げアップになるかもしれない。
「小さ目のロールケーキとはいえ、10個も頂くなんてどうなの?」とスタッフの女子達に聞くと「まだまだいけます」と頼もしい返事があった。
お皿の上の、ケーキのタワーを見ると誰しも思わず笑顔になるはずだ。このロールケーキをお土産に持って行けば一番人気に成ること請け合い、誕生日のプレゼントとしても良いかも。日本に会ったバレンタインのチョコみたいに、イメージを作り上げれば、無くてはならない物にする事も出来るかも? である。祝日に、ケーキと宣伝するのも良いかもしれないね。
(これはケーキを、楽しむ文化を作った瞬間かもしれない)
ウェブ小説の定番で、お菓子でチートってのも結構な定番であったし、販売ノウハウも小説に書いてある。分量や作り方なんかは、タティアナ達に研究してもらえばいい。何しろ作り方や種類は、少し読み直せば思い出せるので十分行ける気がする。零から、スタートと言う訳では無い。
(決して、自分がおいしいケーキを食べたい訳では無い。すべて世の為、人の為である。ウン、次はプリンが良いかな。随分と長い間食べていないし)
日本のクリスマスケーキを見れば、ケーキの進化と言うのが分かるだろう? スマホのデータにある、ケーキの写真をエマにイラストタッチで描いてもらおう。既にショーケースのサンプル画で、要領は掴んでいるようだからアレンジも可能だ。神様へのお供えなら、質素なのより見た目も豪華で派手にした方が相応しいだろう。ひょっとしたらご利益もあるかも知れない。良し、これで理論武装もOKだな。フフフ。売れるぞー!
「カトー、なんか企んでいる顔してるぞ」
先ずは、スポンジケーキを焼いて中の具を変えるのが基本となる。デコレーションで表情も換えられるし。新商品は、可愛さも味もという目標である。今あるラズベリーを散らした生地に、生クリームと三種のベリージャム。ナッツを砕いて、少し焦がしたキャラメリゼを振った物。柑橘系のマーマレードが入った、酸味が爽やかな生クリームのロールケーキ。乾しレーズンを散らした生地に、バターのクリームでデコレーション。緑豆を潰して、生地に混ぜラズベリーソースを挟んだ物。紅茶を混ぜ込んだ、生地も開発しても良いかも。プリンも良いがケーキも奥が深い。
タティアナ店長の下、調理・製菓のジェセニアとルシア。ホールスタッフのベタニアとマリア。5人のスタッフたち(タティアナの娘のアデラは味見係)の、技術は日々進歩している。特に、調理・製菓のジェセニアとルシアにはエマの指導の下、お菓子のレパートリーを広げてもらう。5人とも研究熱心なのだろう。最近、少しぽっちゃりとしてきたようだ。
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鍛冶屋の、テオドシオが王都にやって来た。折りたたみ自転車を見てもらい、色々工夫して貰おうと思っていた。しかし、考えあぐねてどうにもならなかったと言っている。エミリーの近況を知らせる手紙を、タラゴナのガブリエルに近況を知らせたら、王都の住所を知って、たまらず来てしまったという事だ。
どおやら、からくり細工に目覚めてしまったようだ。ならば、お抱えの鍛冶氏にならないかと誘ってみた。技術関係の知り合いだからね。大切にしないと。僕、貴族だし。自由に作れるし、何より製品のアイデアが話せるよと言っておいた。
タラゴナで留守を預かる、妻のカサンドラと相談後と言っていたが、本人はかなり乗り気らしい。いずれにしても、答え貰うのは先になるだろう。焦る事は無い、ゆっくり考えてくれと声掛けしておいた。落ち着いた様なので、金貨を幾つか渡して王都を見物後、帰らせる事にした。折角の縁だし、腕の良い職人らしいので勿体無いよね。
店の方はタラゴナでやっていたので、多少開けても良かったのかもしれない。村の鍛冶屋と違って、そこまで縛られているわけでもないしね。幸い口で説明するより、自転車という工業製品の現物がある。呑み込みが早そうだし、工夫が巧みな人だから、順番にやればさほど難しくは無いだろう。動力は水車があるし、何なら二世代ぐらい先の鍛冶の設備を作っても良い。
元々鍛冶屋なので、金属加工は馴染み深いだろうし、基本的な道具が出来たら徐々に進めて行けば良い。スマホのデータをエマに書き直して貰えばかなりの数が出来るだろう。だとしたら、色んな物が作れる様に、試作品作りに精を出してもらおう。広大な領地があるので、色んな鍛冶道具が必要となるだろう。
領地は荒野に近いので、地球の同じような条件の土地の使い方を思い出してみよう。内政チートの農業は、いきなりでは無理だろう。荒野と言っても、西の方とは違い草や木は生え放題だ。やはり最初は羊やヤギの放牧からだろうな。エサは雑草を食べさせておけば良い。最初から牛を飼うのは難しいだろう。草に好き嫌いが有るし世話も掛かる。ガイド本だったと思うが、羊の放し飼いをして緑地の整備をしている話がスマホにあったはず。
今から手当てすれば、雑草の成長し始める春にはちょうど良いかもしれない。ススキやセイタカアワダチソウだって、美味しいと思ったらどんどん食べる。まぁ、さすがに新芽や青々とした方が、枯れていたり固すぎたりするより好きだろうが、何しろ一日中草を食べるので、量は3キロ~5キロにはなるし大抵の草はいけるらしい。ヤギは傾斜地でもOKだし、よく食べる。ヒマヤラ山脈が、ツツジしか生えていない原因になったらしいとも聞いた事が有る。
最初は、羊飼いに放牧をさせ羊とヤギを増やしていこう。羊飼い達は、病気を予防する小屋の建て方や、ツナギ飼いの事故防止も知っている。羊は群れで飼う動物で、ヨーロッパの放牧をテレビなんかで見ると道路を凄い数の羊が移動している。両方飼って平野に強い羊と傾斜地に強いヤギなら除草も捗るだろう。
後から土地を利用するにしても、除草剤をまいた訳でも無いから安全だ。まき散らした糞も、農地の肥やしになるので良いだろう。街中の悪臭よりは好いし。いずれは、自家製チーズやバターも作れるかもしれないけど、確実にラム肉と羊毛が採れる。
これでも僕はキャンパーなので、アルプ●の少女でぺーターがしている放牧と言う、牧歌的な言葉と羊の可愛いさに弱い。性格もおとなしい様だ。ヤギは角もあるし野犬にも襲われにくいそうだ。
除草エリアを、牧柵で囲むのに有刺鉄線はどうだろう? 映画で見たけど、有刺鉄線は凶悪そうに見えるが、ヒツジや牛は危険だと見抜けるようで近寄らないそうだ。野犬やキツネだって、いない訳じゃ無いだろうし、管理するには柵ぐらいは必要だろう。城壁なんかも良いだろうが人目に立つし、一遍に作るのには魔力が足りない。
逃げていかない様に土魔法で杭を作り、有刺鉄線で囲えば良い。歩き回って土杭を立てるより、空飛ぶ絨毯からか、地図魔法を使って簡単にできる方法でもあれば良いんだが。
ウン、テオドシオには最初にプレスもどきと針金加工機を作成してもらおう。ワイヤーは鉄を細長く伸ばせばいいだろうがプレスを通さないと線状にしにくいだろうし。鉄線が出来れば色々使えるし、針金を複数撚ればワイヤーが出来る。ちょっと普通のワイヤーをひねって金属のトゲを動かないように巻いけば有刺鉄線の出来上がるはず。
有刺鉄線は王国には無いそうだが、板を並べて柵を作るより安くて効果的だ。それより先に、旋盤の仕組みを説明してビスを作ってもらおう。ボルトとナットもいいな。頼みたい事が、どんどん増えて行く。ここら辺になると、鍛冶屋から工場になってしまうかな?
これは内政チートの前触れかな? 問題は鉄の生産だな。ゆくゆくは製鉄所を作らないといけないが、今は製鉄所を作るよりも帝国から輸入する方が良いかな? 鉄は国家なりとも言うし、迷う処だな。
噂に聞く帝国の技術はかなり進んでいる様なので果たしてどうかな? 留学ならぬ派遣で帝国に行ってもらうのも良いかもしれない、一度できるかどうか調べてみなければいけないな。
テオドシオの事もそうだが、魔石の事も気になる事がある。王都から帰って来た時に見た魔石は、色もグレーにくすみヒビが入りかけていた。いつもなら、使い切るまでそのままのつもりだったが、何の気なしに、絨毯からポケットに戻しておいた。このまま使えば、今までなら割れて御用済みとなってしまう処だ。3日後に、見ると少し色が透明になりヒビも小さくなっていた。
「ひょっとして充電している?」
充電と言うのもおかしな言い方だが、魔力が補充さえているのかもしれない。完全に使い切って割れてしまう前なら、魔力の再生ができるのかな? 僕が電源で魔石が電池? もしそうなら? これは、別荘に戻って研究してみるべきだな。エミリーの事が、落ち着いたら是非やってみよう。




