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癒やされたいキャンパー。異世界を癒やしに行く。  作者: カトー
第5章 王宮に行こう
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採用面接と新店舗

 イリア王国歴181年3の月2日

 オープンして間もないのに、王妃がお忍びで来店される事になったらしい。らしいと言うのは、僕は当日まで知らなかったからだ。王族と言うのは、もっと腰の重いものと思っていたが、よほどケーキを食べたいのかな?


 フリダ婦人に、紹介された僕の前には王妃様とセシリアさんがいらっしゃる。店からの使いで、タウンハウスから急いで来てみれば、口の横にクリームをつけた王妃様がケーキを堪能していらっしゃる所だった。見て見ぬ振りをして、息を整えた。イリア王国の王妃というのは、かなり大胆な性格なんだろうな? 宮廷政治や、外交もこなすと言う王妃ならある意味、当然かもしれないが。


「カトー準男爵。こちら、王妃様。粗相のないようにね」

「カトー準男爵。王妃のカタリナよ。フリダさん、お忍びだから、作法に気を使わなくていいわ。本当にお若いのね。王宮では、今まで見かけた事が有りませんでしたが?」

「ハイ、この度、叙勲致しました。今年初めて王宮に上った所です。どうぞ、よしなに」

「あぁ、それでなの。ところでケーキ。本当に、美味しかったですわ。シャン●ンといったでしょうか? ワインの様な飲み物でしたが? 美味しく頂きましたけど、あれは新鮮だったわ。セシリアさんは、つまみに出たジャーキーもお替りしていましたよ」

「お口に合いました様で、嬉しく存じます」

「王妃様、そろそろお時間です」

「残念だわ、登城の際はお土産を忘れないでね、そうそうシャン●ンも有ると素敵ね」

「無いと、お留守番で今日来られなかった、フィデリア様が泣くかもしれないわよ」

「セシリアさん。そんなにはっきり言っては、でも私も少し期待していますよ」

(イリア王国の王妃というのは、こんな性格だったの?)


 王家という物は、公式の場ではどれだけ飲んだり食べたりしても、自分の国の貴族にお金は払わない。接待する名誉を与える訳だから、有り難く思いなさいという事だ。下賜される事はあっても、上下関係が家来と言う最たるものなので、金銭を支払うという行為は無い。お金では無く、有ったとしても形が変わってくる。例えば指輪とか勲章と言うか名誉、爵位等の地位なんてのもある。


 商家での購入する場合は、予めお金が渡されているか、支度金が用意されている。大店の商人などには、代金を後日払うが、レストランなどは、よほどの事が無い限り受け取らないらしい。それだと言って、度々訪れて無銭飲食などありえない。ただ貴族に対しては少し違う観点から無銭飲食がされる。これは時として最初から政策として王家の者が滞在して金を使わせ、力を弱めると言う事もあるらしいという怖い噂がある。


 ※ ※ ※ ※ ※


 翌日、お礼のお手紙と言う御褒美と、お願いという命令書が来た。お礼の言葉はともかく、王族が(この場合王妃自身の事だろうが)ギルド近くのこの店に来るのは、色々差しさわりが有る。ついては、王宮近くに店を出すように希望したい。と、遠回しにだがはっきり書いてある。

(ケーキのあるコンビニ店の設立希望である。やだなー、営業時間が終わっても来るのかな? しっかり時間、決めておこう)


 お店を開いたばかりだが、無理を承知で行うのが絶対王政とやらの王族という物らしい。国民といえども全部、自分達のものだし、少しでも店が近くないと面倒という事らしい。元々が、エミリーの事件で伝手を得る為の店開きでもある。準男爵の身だし、王家と縁が出来ると思えば仕方ないよね。


 幸か不幸か、見合った家が有るそうだ。土地と建物は、貸与されるが改装費用は自分持ちという事らしい。お店が成功したら(これは気にったらだよねぇ)下賜される。確かに、一等地ではある。くれると言うなら、貰わない手は無い。


 場所は、第三城壁外の第二城区ではあるが、メインストリート沿いで王宮にも近い。西には、両替商のクラウディオの店があるはずだ。早速、エミリー達と見に行くためにセバスチャンに言って馬車を出してもらう。店長のタティアナ・調理のジェセニア・チーフのレイナ・警備からエミグディオの7人で、窮屈だったがそんなに遠くないので良いだろう。


「ワー。見て大きなお家だ」

「そうだなぁ。確かに屋敷と言うには違いないが一階が店造りの様だ。商家の作りだな」

「確かに、金のかかっていそうな大きな一軒家で2階建てですね」

「以前は貴族が使うレストハウスだったのかもしれないな」

「店の入り口に続くプロムナードには、花壇やアーチもありますね。広めの駐車場もあるようです」

「管理はどうなっているんだろう?」

「空き家と言われましたが、きちんと手は入っているようですね」

「花壇の花もきれいに植えられていますね」

「あそこにいるお年寄り夫婦が世話をしているんだろう」

「管理人という事ですか。そういえば駐車場脇に小屋がありますね」

「そこに住んでいるんだろうな」

「カトー、ここなら良いんじゃないか」


 計画が、一歩前進したと思おう。店を移転するのは構わないが、規模が一回り以上大きくなるので人的資源が足りない。(ホントの処、引っ越しするとなると設備やスタッフの移転、仕入れ先やご近所の挨拶など色々ついてくるし。もう一回、同じ事を繰り返すのはぞっとしない)


 商業ギルドで受けた説明では、人手も前回からいくらも経っていないので新規の募集は難しいそうだ。人気店のはずだが、オープンして間もないせいか、まだ店の評判と結びつかないようだ。新商品に、商売も始めたばかり、新店でコネも無いというのは変わらない。今の店でも採用できたのは、冒険者パーティーの3人以外、半分以上が本職とは言えない者ばかりだし。


「カトー様、頼まれていた冒険者達の事ですが知り合いの女性のパーティー3人が来てくれるそうだ」

「本当ですか。助かりました」

「ドリナ・ベルガンサ・ディアス、エデルミラ・モントジャ・コルデーロ、フリダ・サラサール・ソサ、セレスティナ・タムード・バティスタの女性パーティー4人です」

「エミグディオ、舌をかまずに名前を全部言えたんだね。良かったな、覚えるのに苦労してたみたいだし」

「お前ら俺がエッヘン。ちゃんと言えたーと言うとでも思ったのか」

「ハイ? 四人なんですか?」

「イイヤ、セレスティナが結婚の為に抜けるそうなので現在は3人なんだそうだ」

「そうなんですか? その3人なんですが、どうして来てくれるんです?」

「アァ、その事か。4人なら少し無理すれば大きな仕事が出来たが、3人になったので受けるのが難しくなったそうだ。イヤ、そうです」

「エミグディオ。言葉使いを練習してかないと、これからは困る事になるぞ」

「ホルヘとアマドの言う通り、店の客には貴族も多くなりそうだからな。気を付けないと」

「エミグディオさん、無理しなくて良いんですよ」

「ウン、すまんな。貴族と話すのは慣れなくてな。彼女たちは花嫁のお祝いに、結婚式のある町まで行っているんだ。来れるまでに10日程かかりそうだと言っていました」

「じゃ、その後と言う事ですね。お手間を取らせましたね」

「気にしないで下さい。仕事を探していた最中に、アマドに声を掛けられたようで、逆に助かったと聞いてますよ」

「そうなんですね」

「一応雇われる前には、ギルドの地下の訓練場で、セバスチャンさんに腕前を見てもらってからだと伝えてある」

「セバスチャンさんって」

「あの人は凄い武芸者だ。試験官として当たり前だと思うが」


 この大陸のイリア、エバント、ケドニア神聖帝国も女性の冒険者は普通にいる。志願すれば守備隊に入れるし、成績次第では近衛師団も可能だ。現にエミリーも守備隊の副長だった。王国も男尊女卑であるが、こんな所は日本よりずっと女性の社会進出が進んでいる。人間、適材適所である。後日、セバスチャンと女性冒険者たちの手合わせも満足のいくものだった。

「カトー様、女性パーティの実力試験という事でしたが中々のものです。男性のパーティーより少し上でしょう」

「ウン、良い人達そうだし。では、本採用で」

「都合、警備は合計6人になります」

「お店の規模に比べて、警備が少し多い気がするが」

「イエ、お店の評判を思うと足りないかも知れませんよ」


 余談だが、彼女たちも男性用のダークグレーの執事服が気に入っている。警備なので、メイド服よりの着なれた服装のズボンスタイルの方が良い様だ。まるで、タカラ●カ歌劇団の男装の麗人である。

 そうそう、管理人のお年寄り夫婦(レイナルド・サンルカル・ロジャ、アイダ・アルチュレタ・パレホ)はそのまま雇うことが出来た。花壇や駐車場に、屋敷の営繕管理もお願いできるそうだ。


 ※ ※ ※ ※ ※


 戻るのもなんなので、下町のファブリシオの事を思い出し、その足でエミリーと行って見る事にした。タティアナが住んでいた家のすぐ近く、露店で店番をしていたファブリシオを見つけることが出来た。

「アデラとタティアナさんが、世話になっているみたいだな。礼を言うよ」

ファブリシオは、アデラの幼馴染で近所の10才の男の子だ。


「ファブリシオ、うちで働いてみる気はないかい? 人手を探しているんだ」

「そりゃしたいけど、子供だし母ちゃんもいるからな。ここから通えないし」

話を聞くと、ファブリシオの父は職人の頭だったそうだ。きのどくに、子供の時に事故に有って父親は死んだそうだ。今は親子で暮らしている。アデラとタティアナさんと同じような境遇らしい。


「お母さんも一緒に来てもらって。君はセバスチャンの下で、執事見習いとして働かないという誘いなんだけど」

「仕事も住むとこもある。という事かい?」

「そうだよ。お母さんは、寮母さんみたいな事出来るかな?」

「昔は、職人たちも大勢家にいたから、世話をしていたって聞いた事が有るけど」


 折よく、母親が帰って来たので経緯を話してみる。タティアナに、今の働き先の事を聞いていたみたいで、喜んで是非にとの事だ。ただ、すぐには無理で3の月の終わりまで待ってほしそうだ。

「タティアナさん達とまた会えるなんて嬉しいね。ファブリシオも、アデラちゃんの事を気にしていたみたいだし」

「母ちゃん、余計な事は言わないでくれ」

そうこうしている内に日が暮れてきた。

「少し支度金を、置いていった方が良いぞ」

 話しは、エミリーの機転で上手くまとまった。母のデボラ・モンテス・オルギンはがっしり型の肝っ●かあさんで、幸い借金は無いそうだ。支度金を、両手で押し戴いていた。


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