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癒やされたいキャンパー。異世界を癒やしに行く。  作者: カトー
第5章 王宮に行こう
42/201

お店のオープン準備

 イリア王国歴181年2の月11日

 フリダ夫人が、人脈を使ってお店の紹介をしてくれた訳だが、幸運な事に、カタリナ王妃の衣裳係女官フィデリアの私室係である、セシリア夫人を招く事が出来そうだ。計画の歯車が少しずつ回り始めたという事だ。


 王妃の衣裳係女官フィデリア・デボラ・ウリバルリ・トラーゴは、王妃の衣類と宝石を管理する役目だが、行事における様々な役割とともに、女官の勤務割りの調整を担当するという実質的な女官長だ。政治に影響を与える立場なので、王妃の衣裳係女官は通常公爵夫人が務める事になっている。


 ※ ※ ※ ※ ※


 衣装係女官フィデリアは、セシリア夫人、フェリシア夫人、エリシア夫人、ニエベス夫人ら4名の私室係を従えている。衣装係女官は王妃と共に、財務と人事管理を分担し私室係が補助をしていた。彼女たちは、補助とは言え主人であるフィデリア同様、費用を管理し、賞与を決定し、王妃の名において文書を書いたりもした。祝賀や晩餐会、娯楽、旅行、衣装に宝飾、家具調度に至るまですべてが衣装係女官の管理下にある。


「美味しいケーキ屋さんのオープン3日前になっちゃったね。エミリー、やっぱりやらないとだめかな?」

「そりゃそうだ。目の肥えた関係した者をレセプションパーティーに招いた方が良いに決まっている」

「確かに、専門家として遠慮なく意見を述べてもらえば不都合な所も分かるからね」

 両替商のクラウディオ、カッコーの宿支配人のマウリシオ、商業ギルドの頭取アニバル、同ルフィナの4人に連絡してみる。忙しいと思われた4人だが何とか都合をつけてくれるそうだ。


 ラウディオさんとアニバルさんはワイン。マウリシオさんとルフィナさんは、アレンジメントされたお花を持って来てくれた。一通り料理と飲み物が出されていよいよ評価の時間だ。

「お店の商品の値段設定は、かなり高くしておりますがどうでしょう?」

「このようなお菓子なら、むしろお安いのでは」

「そうですねー。比較対象に成らないかもしれませんが、値段については良い線言ってますよ」

「クラウディオさんとテオドシオさんの評価なら間違いありませんね」

「もしこれが高級ホテルで出されるとしたら、値段は安いと感じるでしょうな」

「お聞きした仕入単価は少し高い様な気もします」

「アニバルさんが仕入れについて仰る通り、市場からの入れ値がもう少し安くないと店が赤字になりますよ」

「品質については、今の水準であれば申し分ないのですが」

「そうですな、後で私から良い人を紹介しましょう」

「ありがとうございます。クラウディオさん」

「イエイエ。サンスさんという食材の納品業者さんです。連絡しておきましょう」

「ルフィナさんは、女性として気になる点がありそうですね」

「そうですねー。お店も綺麗だし、掃除もきちんとしています。そこらへんは大丈夫だと思いますが、見た事も無いお菓子ですからメニューに一工夫あっても良いと思います」


 このレセプションにはお披露目も兼ねて、工事中に迷惑をかけた近所の人やお店、工事の業者やお世話になったと思われる方も招いている。レセプションは紹介ばかりではなく、スタッフの皆さんの実践にもなり、問題点の洗い出しもできた。おかげで接客、お菓子やお茶、警備など色んな面で向上できそうだ。

 早急な改善点としては接客の仕方、ケーキの盛り付け、提供できるまでの時間が指摘された。協力してくれた、皆さんへのお土産はグラス二個のセットだったが非常に喜んでくれた。


 「美味しいケーキ屋さん」のメニューには、使われた材料の内容が書かれている。この新しい試みは、苦手な物が使ってある場合や、アレルギーの有無の参考にしてもらいたい為だ。ここで皆にアレルギーとは何かと聞かれたので、じんましんや紅斑、むくみが出る食材だと適当に言っておいた。

 飲物は、ガラスポットに入れて出すフリダ夫人直伝の各種ハーブティー。ソフトドリンクは、普通の果実水と炭酸飲料を用意した。ケーキやお菓子は女性が中心だ。しかし、男性にも広げる事によって販路の拡大をめざす。女と男、合わせれば購買力が2倍になるからね。


 室内の演出として、セバスチャンに作ってもらった音楽を小さ目の音量で流す。教会音楽だけでなく、クラシック音楽もあるのでこれだけでも評判を呼ぶだろう。実際、オープン後に人気だったのは、グレゴリ●ン聖歌より少年聖歌隊の声だった。が、歌っているのはセバスチャン一人である。


 エマが一人で作り上げた制服は、この国どころかこの世界にはどこにもないだろう、日本基準のメイド服と執事服だ。メイド服は、ヴィクトリアンメイドのロングドレス風でフレンチ風ではない。ダークグレーの執事服は、そのままアニメからデータを落としている。男女とも気に入ってくれた。特に、男性用制服にした執事服は「カッコイイ!」と女性陣の受けが良い。


 セバスチャンと三人の冒険者も、まんざらでもないようだ。エマの記憶領域には、僕のスマホのデータが全て入っている。以前、自分たち用に作ってもらった服も、実際にはエマの工夫した物とは知らなかった。この服の、サイズ合わせも昨日終わっている。着慣れない感じはしているが様になっている。


 ※ ※ ※ ※ ※


 イリア王国歴181年2の月14日

 オープン初日の朝は、エマのお話から始まった。エマは、タウンハウスに招いたお客様達から、多くのお褒めの言葉を頂戴している。メイドとして、一流とも言われるほどの立ち振る舞いだそうだ。その、エマのお話である。

「このお店のコンセプトは、甘く美味しいケーキと飲物、新鮮な材料や果物を使用、品格のある味わい、上質な空間を作る事にあります」

(そうだったのか)

「女性客を意識して、色々なケーキやデコレーションしたソーダ水も、非日常を演出する一つです」

(ウン、分かる。高級志向なのね)

「カトー様が用意して下さった、食器や椅子やテーブル等の家具と什器は、全て特注品で希少な品ばかりです。」

(セバスチャンと僕が作ったのは本当だ)

「常に微笑みを持って、明るく接客して下さいね」

(基本だね)

「銀食器、カトラリーを磨くのもお仕事ですが、皆さんの心とスキルも磨いてください」

(良い話だったねー)


 実は、翌日がオープンという時に、やっと食品サンプルが出来た。これは蜜ロウと油絵の具との賜物である。蜜ロウは精製を繰り返して、やっと透明な生成りぽぃ塊に近づけた。これが一番の苦労だった。なにしろ化学着色料が無いので、透明度や強度が足りないのだ。麻布や膠で補強して絵の具で色付けした。

 絵の具の白は、健康被害が出るかもしれないので鉛は使わなかった。白色は、できる量の少ない割に手間がかかる石灰岩で作る事にした。絵の具は、作陶した時の顔料の資料とリンシードオイルが役立った。シャン●ンの、泡を作るのに苦労すると思ったが意外に簡単にできた。飲み物サンプルは、ガラスの入れ物に入れるとそれなりに見えるもんだ。

 偉そうに言っているが、これは絵心のあるエマが夜中に皆作ってくれた。エマもセバスチャンも「27時間働けます」ので。


「どれが、おこのみ?」

「ガラスのショーケースなんですね」

「色んなケーキサンプルが並べられているので目移りしてしまいますね」

「名前と値段も分かるんですね」

「サンプルが間に合わなかった商品にも、イラストで表示してあるのは親切ですね」

「良いですね、これは、ガラスドームに入れた本物でなんですか? これが本日のおすすめケーキセットなんですね」

 主力のセットは、カットケーキ3種とお替り出来るハーブティーである。量が多いかと思ったが、ケーキは別腹だと言うのはこの世界でも同じ様だ。なお、女性達からはケーキセットはお一人様一セットに限らせてもらった方が良いと助言があった。

(ホント、どれだけ食べる気だろう?)

「ガラスドームに入っているのはディスプレイだから閉店後に希望者に渡すように。ショーケース内の日保ちしない物も同様に配って下さい」

「ショーケース内の品も、おそらく売り切れて残らないと思いますけど」


 ケースに並んでいるのは、プチフールとカットケーキの間の様な感じで、少しだけ小さなおもちゃの様なケーキだ。一つ一つがまるで宝石の様だ。キュートな見た目で、人気の定番になるに違いない。どこの世でも、女性は可愛い物に弱いようだ。この店のケーキは、可愛さだけではなく味付けとデコレーションに力を入れている。ホールケーキの、カットしたのも良いもんだが沢山は食べれない。子供の胃袋で残念だと思う。


 食材を納品してくれる、サンスの御蔭もあって冬だと言うのに生クリームの材料や、色んな果物とジャムが手に入った。この世界でも、果物の旬の時期は一緒の様だ。ソフトドリンクでは普通の果実水もあるが、魔法で作った炭酸水に麦芽糖のシロップを入れ、生クリームを浮かべたノンアルコールの炭酸飲料も用意した。久しぶりに作る事になったが、わらで造ったストローも良いもんだ。


 豆乳の氷菓も、アイスクリームに近い感じで中々いける。卵を使わないので材料の安全性が高くなる。この世界の生卵を使うアイスクリームは安全性に気を使う為、量が出来ないからね。多少シャリシャリ感はするが、豆乳の匂いも気にならない程度だし良いんじゃないかな。今は冬だから、研究する時間は有ると思うが、スタッフの評判は良いので期待できそうだ。


 ケーキはフロスティングやデコレーションが施されている。内部がフロスティングや果実、クリームで満たされた物もある。スプーンで上の部分をすくって穴をあけたり、クリームの絞り袋で中に満たしたりする方法でも作ってある。


 順番に説明していくと、スポンジに生クリームがトッピングされ食べやすいケーキ。パステルカラーのバタークリームや、クリームチーズフロスティングを乗せたタイプもある。最初、バターはしんどいけど手で振って作った。今は樽に牛乳を入れて、洗濯機の様な水魔法で水流を作って回転させて作っている。水で温度も冷やせるしね。


 レッドケーキは、ケーキに赤い果物のジャムを乗せた物。恐らくラズベリーよりは、見つからなかったイチゴに近いかも。少し暗い赤色が印象的だ。キャロットケーキ 、ニンジンを入れたスポンジ生地は、天然の優しい甘さ。野菜が苦手な子にお勧め。砂糖不使用です。


 果物のケーキは、季節の甘い果物とくるみをスポンジ生地に混ぜ、しっとりと焼いたケーキ。果物の自然な甘さと、香ばしいクルミはお八つにぴったり。かんきつ類のケーキは、ほのかな酸味と香りが爽やか。皮を少し削って降ってある。かぼちゃのケーキは、ほくほくと食べ応えもある。他には、蜂蜜に漬け込んだハニーナッツのケーキを用意した。


 5日後に、フリダ夫人がセシリア夫人と共にお店にやってくると知らがきた。2人は、同じ年の娘がある友人で良く気も合う中だそうだ。お店の評判も上々で、オープンして日も経っていないのにお茶会でも噂でもちきりだそうだ。当日の午後は、僕がご案内しなきゃいけないらしい。

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