イリア王宮の歩き方
イリア王国歴181年2の月5日
一の月も過ぎたので、王宮に準男爵の叙勲を届けに向かう事になっている。紋章院で登録して、晴れて貴族の仲間入りだ。身分が、子爵以上の時は王宮で式があるそうだ。商業ギルドのルフィナさんに、紋章院についてアドバイスを聞く事が出来た。面白かったのは終わり際に渡された冊子だった。
「こちらは、商業ギルドの上級会員向けの(イリア王宮を歩きたい)、という冊子でございます」
「当ギルドでは3年ほど前から、ケドニア神聖帝国より薄い紙を購入しております。遠く中央大陸の東の国、フルから伝わりました印刷という最新技術を用いて作られました。羊皮紙とは違い、コンパクトに情報が束ねておけます」
イリア王宮は、首都ロンダを代表する観光スポットでもある。ルフィナさんも、よくお客さんに聞かれるそうだ。
「大変人気がありまして、次回の刊行では(イリア王宮を歩きたい)から(王都ロンダを歩きたい)に書名を変えて、観光ポイントや人気な食べ物に美味しいレストランなどの、紹介を加えて発行予定でございます」
刷ってある部数を消費するまでは、この冊子の間違いの箇所は手書きの紙に糊をつけて貼り、修正してあると言われた。次回の、重版の時に訂正するそうだ。用紙も高いのだろう、勿体無いものね。
(イリア王宮を歩きたい)
挨拶文があって、知っておきたいイリア王室の歴史、ロンダ城の内部、とあって観光地の案内本と言った所かな……ここの部分か。
王宮に着いたら、門衛に王宮入城申請書(一般見学者用)を出しましょう。名前と住所(地方からの場合は宿屋でも可)、あと身分証が必要です。文字が読み書きできない人は、門番の方が代筆してくれます。なお、王宮の受付は、1日27時間1年390日中開いており、フェリペ・エドガルド・バレンスエラ・エスピナル国王の思いの通り、まさに開かれた王城となっています。
王宮の南にある第一城壁門は、高さ約35メートル幅は約60メートルあります。通常使われる大きな入口と、夜間や火災など緊急で使われる非常用の入口の二つがあります。城門は、初代フェルナン国王により王国歴21年に見張り塔が築かれ、二代目バレリアノ国王によって完成されました。
(建築史も書いてあるな?)
かさばる荷物と武器は門衛に預けましょう。警備室横には、一時荷物預かり所があります。1回、1個400エキュ。預かり券を忘れずに貰いましょう。小さなカバンなどは、検査を受ければ持ち込めます。食べ物の持ち込みは禁止されています。門を抜けると正面右手にお城の入り口が見えてきます。直進すると堀に落ちます。
(この直進の書き方おかしいよね。こうゆうの、次回校正されるんだろうな。でも、わざわざ書いているとすれば、本当にたくさんの人が落ちるのだろうか?)
暫く北に進むと、ロンダ城南門に着きます。ここでロンダ城入城申請書を出しましょう。入り口は、ロンダ城に勤務する者と外来者(見学者を含む)の二つの入り口に分かれます。貴族など、身分のある者でも勤務者用入口を通ります。
外来者(見学者を含む)は外来者受付に並びましょう。名前と住所(地方からの場合は宿屋でも可)、あと身分証と要件もしくは面会者名の記入が必要です。ここで再度チェックされてロンダ城に入る事が出来ます。
なお、ロンダ城の受付は夜明けより日没までです。公式祭典や王室行事及び緊急時は、関係者以外は開門されませんので行事等は事前に確認されると良いでしょう。
ご注意
緊急時、特に治安に問題が生じた場合や、不審者や不審物が発見された時は、王宮全域に入退場の制限が出されます。軽率な行動は、ご自身の身に不測の事態を招く事になります。落ち着いて、騎士の指示に従って下さい。必要と判断された場合には身柄を拘束されます。
一般外来者は、何時でも身分証の提示が出来る様にしておきましょう。多い時は係りの衛兵に、平均で3回以上提示を求められますが、嫌な顔せずに提示しましょう。2階以上は、居住区を含みますので再度入場確認が必要となります。
尚、王宮に入る際は男女とも、スマートカジュアルが最低限のドレスコードです。女性は袖なし服でも、ドレスなら入場できます。夏場でもお城の中は意外と涼しいので、薄着ですと寒く感じると思います。羽織る物を、一枚加えると良いでしょう。
(エーと紋章院。これだな)
紋章院は、ロンダ城を通過して左手。敷地内にある別棟で、王宮内の北西にあります。紋章と系譜を管理し、新たな紋章を授与し公式に証明する国王直属の機関です。国王や王家の典礼も行います。紋章官は、世襲の貴族が多く職務中は王家の(イリア王国はカーネーションと剣のデザインが国旗と紋章になっています)紋章入りの衣装を着ています。
建物内には展示スペースと喫茶コーナーがあり、代々の王族の衣装や儀式に使われる品を展示・保管しています。北東にある庭園に至る道には、季節の花が植えられて庭園と共に訪れる者の楽しみの一つになっています。
要所の解説の他には、憧れの騎士団・密着騎士様の1日、光の芸術ステンドグラスのある王族専用の礼拝堂、トイレの場所や小腹の空いた時の宮廷茶も楽しめるカフェテリア。
これは、見逃せないイベントが有るみたいだ。何々、王宮地下牢見学ツアー。王宮入口警備室の地下にある地下牢で、あなたも受刑者体験できます。(要予約1日1回、所要時間2時間、一人6000エキュ)運が良ければ、拘束中の不審者や執行中の受刑者を見学出来るかも。
最後は、素敵な王宮オリジナルデザインの工芸品・人気のお土産展示と販売。
(この冊子。会員専用とあるが、良いわーこれ)
さすがに機密事項には触れていないだろうが、これを出版する商業ギルドも凄いが、王宮の担当者も負けてないなー。
※ ※ ※ ※ ※
馬車は、家紋の登録に紋章院に向かっている。この馬車は王都までに使った紋章入りの馬車で一応貴族らしい仕様である。3人の冒険者は護衛の仕事をしていたのでいずれも馬車が扱える。運が良かった。
「今日は、ありがとうございます。冒険者パーティーの皆さんが護衛と御者をやってくれて助かりました」
「イヤ、それは構わんが本当に王宮に行くのか?」
「ぶちゃけ貴族の見栄の為なんですが、王宮に行くときはそれなりの人数が要るんですよ」
「オォ、そうなんだ。でも少し緊張するな」
「お店の男性用制服が決ってますから、黙ってそれらしくしていてくれば良いんです」
「それなら良いが」
「エミグディオさん達、カッコイイ! ですよー」
「その言葉はやっぱり女性スタッフに言われたほうがいいな」
王宮まで歩いて行くのはみっともないとエミリーに言われたが、お店がオープンしたらどうしようかなぁ。馬車は王宮前の門で誰何されたがセバスチャンが要件を話して前に進む。王宮内にある紋章院に近づくにつれて緊張してくる。セバスチャンがどこからかリベルト男爵の事を聞いて来てくれたが、男爵は領地持ちの法服貴族で紋章院では偉い人らしい。紋章院の前庭で馬車から降り、個室に通された。
「カトー殿、ようこそ。どうぞお掛け下さい。ここが私の職場ですよ」
座る時に、ギルドの冊子をポケットから落としてしまった。男爵が拾ってくれたが、
「おや、この冊子。歩きたいシリーズですね。お役にたちましたかな? 私が担当して、文章も書いたんですよ。全部じゃないですけど」
(やはり、リベルト男爵は気さくな人らしい)
「実は商業ギルドで分けてもらったんですが十二分に役立ちました。詳しくて、フレンドリーな傑作だと思います」
「そうですか。嬉しいですな。中々、みんな感想を言ってくれなくて」
「遅ればせながら本日は、お世話になります。また、先日のお誘いありがとうございます」
「娘も家内も喜んでおりましたよ。こちらこそ、お礼申し上げます」
そこでお茶が出されて天気等の話をするのだが、貴族はこの作法を守らないといけないらしい。セバスチャンが言うには、お茶の作法ばかりでなく天気や世間話の一つ二つもしないと貴族としては無作法になるとの事だ。様式美だそうだが?
「では、今日お越しいただいた本題につきましてお話いたします」
「お願いいたします」
「緊張なさらずともよろしいですよ。カトー殿の手続きは、滞り無く済んでおります。そうそう、少し珍しい紋章ですな。私も初めて拝見しました。アァご心配なさらず、何の不都合も有りませんよ」
「ありがとうございます。セバスチャンあれを、ほんのお口汚しですがお納め下さい」
控えていたセバスチャンが箱からケーキにシャン●ンとシャン●ングラスを6個のフルセットをテーブルに置いた。
「ホー、これは有り難い。イヤ、先日来客がありまして頂いたワイングラスを出してみた所、大層グラスを褒められましてな。是非とも欲しいと言っておりました。マ、気の置けない仲なのでやんわりと断りましたが。今回はまだ珍しいシャン●ンの専用グラスですか。これも、きっと欲しがるでしょうな」
「そんな事が有ったのですか。そのような事なら後日セバスチャンにワイングラスを届けさせます」
「イヤ、強請った様で申し訳ない。」
「お気になさらないでください」
「かたじけない。しかし、実に美しいグラスですね。これに入れて飲めばさぞかし美味しいでしょうな」
今にも飲みそうな勢いなので、氷で冷やした方がおいしいですよと飲み方を伝えた。言ってしまってから気が付いた。リベルト男爵の、知り合いに氷が作れる人が居ると良いんだが。
「そうですか、さっそく氷魔法が使える友人に頼まないと。そうだ、お礼と言っては何ですが、カトー殿に一つ助言いたしましょう。カトー殿は珍しい物も御持ちで、ご商売にも熱心な様子。タラゴナから、いらっしゃたのですな」
「ハイ、その通りです。ほんの駆け出しですが」
「イヤイヤ。……そうですな、機会が有れば第一王子のセシリオ殿下をご紹介いたしましょう。きっと殿下は、カトー殿に興味を持たれるでしょう。とても良い方ですよ」
「有難うございます。この身は準男爵になりたての若輩者、拝謁できる栄誉など、とてもとても」
「ハハ、ご謙遜を」
流石だな、王宮には色んな魔法使いが居るみたいだな。それに紋章院の幹部ともなれば、調べはあらかた済んで噂にも詳しいという事か。派閥への勧誘も貴族として仕事の内で、報告も上に挙げていますと言う事なんだろうな。
その後は、同僚だという魔法使いの子爵様に紹介されて一緒に歓談した。
「いつも護衛はやってるけど、こんな堅苦しいのは初めてだな」
「御者役も結構気を使うもんだな」
「ホント、冒険者と言うのは何でもこなさなくちゃいけないと言うのは本当だな」
「スゲー緊張したよ」
「あぁ、紋章院なんて初めてだ」
「王宮は行った事あるけど、奥に行く事になるとはな」
「そうだよな。自慢できるぜ。そんでもって、俺たち、待ち時間の間に売店で記念の土産買ったわ」
「お前ら、そんなところへ行ってたのか?」
「安心しろ。ちゃんと、お前の分もあるぞ」
「しかし、子爵様に男爵様なんてのが居たんだな。あれ、見送ってくれたの、紋章院のお偉いさん達だろ?」
「子爵様の服についてたの、水魔法出来ますマークだぜ」
「あれは、水じゃなくて氷だよ」
「フーン、手振ってたよな」
「カトー様って準男爵なんだろ。身分が上の貴族が、見送りに出て来るなんて普通無いよな」
「子供みたいに見えるが、見かけじゃ分かんないもんだなー」




