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癒やされたいキャンパー。異世界を癒やしに行く。  作者: カトー
第4章 お店を開こう
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お店の準備

 イリア王国歴181年2の月2日

 王都では、ティーパティーが毎日のように各所で行われる。タウンハウスで行われる茶話会は地方の屋敷と違い、余り気を使わないで集まれると好評で貴族や富裕層の間で人気だ。


 今度は、ラミラ嬢の誕生日会に御呼ばれした答礼の茶話会だ。招待したのは男爵夫妻だけなので、大まかな時間を指定して、夫人の好きなフレーバーティーを色々味わうお茶会とした。茶葉は王都で売られている高価なハーブティーを始め、東方より隊商によって持ち込まれた、本物の茶が少量だが手に入った。紅茶は、この王国ではまだまだ一般的ではないようだ。

 東方で保存性を上げる為に工夫したのだろか? 偶然出来たと言う処かもしれないな。発酵して乾燥させた状態なので、これは紅茶といっても良いだろう。


 父親のリベルト男爵は、多忙のはずだが夫人の助言が有って来たようだ。歓迎してシャン●ンとお店で出す予定の軽いパイ、甘い物ばかりではなくエミリーのお気に入りのジャーキーもお出しした。

「本日はようこそ、いらっしゃいました。歓迎させていただきます」

「こちらこそ、先日は娘の誕生パーティーにおいでいただき嬉しかったですわ」

「それに、ケーキだけでなくあのような高価なプレゼントまでいただきまして」

「いえいえ、お近づきの印にと思ったまで。男爵は紋章院におられるとか。近々、私も叙勲の手続きの為、お世話になると思いますのでその時は良しなに」


 男爵夫妻に出したシャン●ンも大変喜ばれた。これは素焼きの陶製のクーラーに氷を入れて冷やして出した。薄い透明ガラスのグラスに驚いていた。

 シュ! と軽やかな音と共に栓が開けられシャン●ングラスにそそがれる。本来ならポンと音を出さないのが良いのだが、お店では演出効果を狙って、派手にポンと音を出す方が良いかな? とも思っている。フルート型のグラスは細くて背が高いので、炭酸ガスの泡が立ち上るのを見て楽しめるのでさらに華やかに見える。


 フリダ婦人からは、誕生日パーティーの時に土産の礼があったが、改めて礼を丁寧に言われた。今回も、お返しに困りそうだと言っている。

「それでしたらフリダ婦人。今度、ケーキのある喫茶店を開きますので美味しいお茶の入れ方を、このエマにお教えいただければと思います」

「そのような事なら、今でも良いですわよ」

早速、道具が揃えられエマが控えている。エマにデジタル記録されたデータは、後でお店のスタッフの学習で使われる。好みは色々有るが、貴族夫人の嗜みの一つとしてお茶は必須だそうだ。フリダ夫人は、趣味もお茶だそうだ。お茶の入れ方にも様式美があり、さしずめフリダ流家元と言った感じだ。

「流石ですね。美味しいです。色んなお茶が楽しめました」

「そうですか? 良かったですね。でも王家の方が好まれると言う、東方の茶は分かりませんわ?」

「では、この東方の茶葉は是非お持ち帰りください。幸い入れ方が書いてあります。後日にでも、飲んだ印象を教えていただければ」

 厳重に包装された茶葉の小箱には、飲み方の方法が絵と文で書かれている。東方の言葉は、表意文字も多いので600年たってもあまり変わってないようだ。数字も変わってないし、有るとすればお茶を蒸らす時間があやふやかなー。種類によっても多少の差はあるだろうし。メモ書き程度の文章をすぐに書き上げて渡したが、夫人は僕が外国語だろう言葉を難なく訳して、書き記した事が驚きだったようだ。


 あれやこれやで、楽しい時間だったが夫人にはお友達の皆様にケーキ店の紹介をお願いした。快く引き受けていただいたのは好印象だったからだろうか。どうやらケーキ等の新しいお菓子の事ばかりではないようだ。貴族の奥方は優雅に済ましていると思ったが、お家の為、情報活動をしているようだ。フリダ婦人を始め、皆さん社交的で話題も多い。華やかな雰囲気の中で男性陣もたじたじだろう。


 さて、前回の初登場のケーキはかなり好評だった。タティアナ達のお店の準備も急ピッチだ。王都のギルド近く、通りに面したケーキとお茶が出る富裕層の女性向けのお店。店の名は、新しいお菓子の美味しいケーキを食べてもらう為なので「美味しいケーキ屋さん」とした。この世界で、ヘボン式ローマ字の略が出来る訳では無いが略称「オーケーさん」である。何でも上手く行くようにと願いが込めてある。名付けのセンスについては、批判は甘んじて受け入れよう。


「セバスチャン、通りに架ける入り口看板を作ってくれないかな?」

「私がですか」

「透かし彫りを頼みたいんだ。因みに、図案はエマが描いてくれるそうだから」

「では、頑張ってみましょうか」

「セバスチャンなら大工仕事も上手いし格好いいのが出来そうだね」

「そうならうれしいのですが、お作りなられたティーカップやお皿などの什器も運び入れた後になりますが、よろしいですか?」

「ウン、構わないよ。エマは日用品などを市場で買いに行っているから図案は貰っておいて」


 タティアナ親子とレイナとルイサの姉妹の四人、警備の冒険者は、建物の3・4階に寝泊まる事になる。空き部屋はまだあるので、住み込み希望のスタッフ拡充もオーケーだ。営業時間は、お昼前のケーキが出来てから日が沈む迄で、朝が無いとはいえ割と短い。朝は仕込みがかかる為で、ケーキの作れるスタッフ数から言ってしょうがない。それに最大購買層の、貴族や上流階級はお昼以降しか来ないと思われる。


 この王国では、商売や店舗には普通は休みと言うのは無いが、僕はあえてお休みを作り13日に一度(月に2回)は休みにする予定だ。エマによるメイドの作法と研修、僕が用意する厨房設備・器具の準備。セバスチャンによる、エアコンと冷蔵庫の設置とセキュリティ。一応、レイナとルイサの冒険者がいるので、さほど気にする必要はないだろう。まぁ、今後の事も有るので、商業ギルドで警備する冒険者も頼むつもりだ。


 1階のガラスのショーケースは、狙い通りかなりの高級感を出している。喫茶コーナーの各席には、レザークラフトによるメニュー板を用意した。2階では一部を間仕切りして個室の感じにしている。売上金の管理と、商品と材料の補充は当分の間エマに任せるしかないだろう。なお、清掃道具の用意は直ぐに、近隣清掃と挨拶はオープン前日までには済ます予定だ。


 ※ ※ ※ ※ ※


 イリア王国歴181年2の月3日

 商業ギルドからも面接者が揃ったと知らせがあり、名簿と略歴の用紙が届けられたので翌日の午後に行う事にした。面接者とはギルドの会議室を面接場所として借りられた。書類で半数、実技で採用という事になりそうだ。調理とホールスタッフが3~4人、警備も同じぐらい必要かな?


 「美味しいお菓子屋さん」の採用予定人数はタティアナ親子+調理2人と、レイナとルイサ+ホールスタッフも二人だ。残念だが新商品のお菓子で、商売も始めての新店でコネもなしという事で男性は応募者無し、女性ばかりだった。飲食業は体力勝負の面もあるので、男でも女でも良いが今回の採用にはしっかりした人をと思っている。

 僕の方を見て、何で子供がと皆が考えているようで、オーナーだと知ると貴族のお坊ちゃんの趣味の店かと思われたようだ。しかし、上級口座を担当しているルフィナさんが、新しいお菓子やケーキの発明者だというと何となく納得してくれた。


 調理・製菓スタッフは、ジェセニア・カルドナ・ボテジョとルシア・ロルカ・ルエダ。ホールスタッフは、ベタニア・グラノジェルス・ベルモンテとマリア・グリエゴ・モンロイ。の4人を採用。(マリアは商会勤めで売り子をしたことが有り、計算も出来るので会計を教えようと思っている)

 一番の年長者で、既婚者のタティアナが店長。よく気が付いて、役に立ちたいと思っているレイナがチーフ。接客も調理もできるエマの指導でスタートした。

 調理スタッフのジェセニアとルシアは、レイナと同じ様に几帳面そうで理解力があり絵が好きだそうだ。下ごしらえ・調理・盛り付け・食器の洗浄などを担当。

 ホールスタッフのベタニアとマリアは、ルイサの様にとにかく明るく笑顔が素敵でよく気が回りそうだ。席の案内・注文・料理を運ぶ・清算・テーブルの片付けを担当。


「警備の冒険者さん達は20代前半だが、護衛の仕事は5年以上になると言ってたよ」

「そうですか。3人でしたね」

「パーティーを組んでいて連帯は良いみたいんだ。雇いたいと思うんだけど僕では腕を見るなんて無理そうなんだ」

「では、私が代わりに動きを見ましょうか? 良ければ地下にある冒険者用訓練場で軽く手合わせしてみます」

「頼むよ」

 警備に応募してきたのは、男性3人の冒険者パーティーだ。エミグディオ・アレナス・マチャドに、ホルヘ・イダルゴ・イ・ロロンと、アマド・バケーロ・セビジャの3人だ。普段は、商人や馬車の護衛が多いが店舗の警備もしていたそうだ。バラバラになる事も有る護衛などよりも、多少安くとも3人で出来る仕事をしたかったそうだ。3人は同じ村の出で、年も離れていない。やはり農家の二男三男で、農業から離れて町で冒険者になって生きて行こうとした口だ。


 王都では治安関係者や貴族の従者などを除き、原則武器の所持は禁止されていたが、木の棒や杖は武器扱いにはならない。警戒丈と呼ばれる棒の基本操作は、冒険者として護衛依頼を受けていれば取得している技量だ。彼らは、格闘技や護身術の「目には見えない武器」を所持しているため、経験やスキルに応じて料金は高くなる。

 一般的な商店の場合、3人いれば十分だろう。もちろん人数が増えれば対応できる事が増える。だが、この規模の店では経済的に合わない。治安が良ければ、掛けなくても良い経費だがこの世界では絶対に必要だ。

 彼らには、お客様と店舗の「美味しいケーキ屋さん」を警備してもらう。店の出入、火災やケガなどの対応、王都守備隊への連絡、店内・店外の巡回、危険は未然に防ぐ事など多岐にわたる。


「では冒険者の皆さん、お仕事の内容ですが警備はもちろんですが、お店の品位を守る為に制服を着用していただきます。サイズ合わせが必要でしたらエマに行って下さい」

「セバスチャンさん、全員が新品の制服なんですか? 少し変わってますね」

「そうでしょうか?」

「普通は自前か、良くても在り物の中古の服だと思いますけど」

 目立たない様、かつ威圧的にならないよう男性はダークグレーの執事服、女性はメイド服を着用してもらう。意外な事に、皆が制服を好意的に受け止めた。新品で、洗い替えもあるというのは中々無い事だそうだ。


 ケーキ屋さんで雇った冒険者は、お店の3階に個室をそれぞれ与えられた事に驚いている。一日中休みなく、交代で警備する事になるが、かえって宿代の節約にもなると言っている。皆も、休日が有るし賄いも出る。制服もあるので、生活費がほとんど掛からないと言う好条件だと言っていた。


「エミグディオ、ホルヘ、良かったなー。飯付き、宿付き。服も休みも有って、おまけに美人さんがわんさか居る」

「ホルヘ、興奮するな」

「ホント、久しぶりに運が向いて来たぜ」

「2人とも、こんな楽で良い仕事もう無いぞ。まじめにやるぞ」

「そうだな、エミグデッィオ。しかし、セバスチャンさん。ありゃー、バケモンだぜ」

「身のかわし方もそうだが、木剣を素手で受け止めた時は驚いたな。3人、同時にだぜ。ギルドじゃ、そこそこ名前を売っていたのによ」

「エマさんもかなりやるそうだ。執事にメイドだそうだが、話に聞く王国の特務という影以上かもしれないな。カトー様は貴族だしな」

「おっと、余計な詮索すると面倒な事になるぞ」

「そうだなぁ」

「そう言えば、さっき食事の時に出たシャン●ンっていったか? 初めて飲んだが美味かったな」

「店で出すと言ってたけど、金持ちが飲むような高い酒だそうだ」

「フーン、そうなんだ。俺はケーキっていう菓子の方が良いぜ。練習で作ったそうだがスゲー美味いぜ」

「食いもんばかりじゃないぞ。冬なのに、こんな暖かい部屋に居れるしな」

「そうだな、とにかく気合い入れてビシッといくぞ!」

「オー!!」


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