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癒やされたいキャンパー。異世界を癒やしに行く。  作者: カトー
第4章 お店を開こう
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タウンハウスと競売

 イリア王国歴百181年1の月20日

 別荘から送った品々が、商業ギルドに着いたと知らせがあった。タウンハウスへ回送を頼んであるので、暫くしたら荷を解く事ができるだろう。荷馬車に三台、かなりの荷物になるはずだ。


「手伝おうか?」

「カトー様、私とエマの二人で大丈夫です」

「随分とあると思うが」

「全部運び入れても、さほど時間はかからないかと」

「いない方が良いぐらいと思われている様な感じかなー」

「イエ、それほどでは」

「マジなんだ。お店へ行って、かまどを製作したりして時間をつぶすよ」

「よろしくお願いいたします」


 帰るとエマが画いた絵が飾られ、製作した家具が配置されている。食器とスパークリングワインは、台所にしまわれていた。重い物や貴重な品は運び終えているようだ。今は、セバスチャンが隠しスピーカーを配置している所だ。

(お引っ越しは、やっぱりパワーだな)


 ガラスの食器だけではなく、透明な板ガラスもある。セバスチャンに、1階内庭側の窓を交換してもらい、明かりを取り入れるつもりだ。貴族仕様のタウンハウスだが、小さなガラスを集めて作られた曇ったガラス窓なのでいささか暗く感じる。運んできた、荷物の中の冷蔵庫とエアコンは各2台。お店に1台、タウンハウスにも1台ずつ設置した。


「カトー、行くぞ」

「待って、家の備品は大体買い揃えたから散歩がてら市場に行こうか?」

「もうすっかり常連じゃないか。貴族と分かるとうるさくなるぞ」

「とぼけておくから大丈夫」


「今日も、エマに濃いめの牛乳を買って来てと言われているんだ」

「エミリー、また肉を買うの?」

「ウン、大きいのをな」

「それって、タウンハウスの中庭でジャーキーを作れと言う事じゃない?」

「あたり。頼むよ」


  牛乳はお店を開いたら配達してもらうようにしたが、貴族用の上質な小麦は、手に入りにくい上にかなり高い値だ。甘味として蜂蜜はある。王都でも探したが、砂糖はまだ手に入らない。麦芽糖では、砂糖の様な甘さにならないのだ。いまいち足りない気がするし、作る手間もかかる。ま、水飴は出来るので、砂糖の代わりにクッキーなどのお菓子に使えるかもしれない。上手くいけば、アイスクリームやシャーベットも出来るかな? と思う。


 サンス・ガウディ・アラーニャは、クラウディオ推薦の食材の納品業者で、かなりのやり手だそうだ。手に入らない物はまず無いとの事だ。これから開く予定の、ケーキ屋さんでは甘味が大量に要る。水飴も大量消費になるだろうし、安定供給の為に製造法を教えて作ってもらおうかと思っている。

 水飴を作ったのは、随分と昔だったので作り方の確認が必要だ。麦は、調理でいつも暖かい厨房に場所を作って、一寸大き目の底の浅い桶に種をまいておく。麦芽糖が上手く行けば、サンスにとっても大儲けが出来るだろうし、恩にきて貰えれば何かと都合よい。


 サンスは北の辺境都市では、苦い葉っぱでえぐみはあるが、甘味のわずかにある根野菜を、家畜の餌にしていると話してくれた。ひょっとすると、砂糖大根かもしれない。遺跡都市からの移動中にも、大きなほうれん草の様な草原があった。確か、根っこは灰汁が強くて食べられなかったのだが、今思うと甜菜だったかなとも思う。これも何時か、確かめないといけないかなと思っている。砂糖が、埋まっているって事だからね。それと、森の中にカエデの木が無いかも探してもらっている。


 ついでに、スギやヒノキも探してもらった。糸杉は、西洋ヒノキともいわれ建材になる。目的は折詰めの経木作りだ。薪として、使われているので丸太で注文。楽器にも使われているが、ヒノキではないので、上手く経木ができるか分からない? 

 イリア王国には、まだカンナはないので風魔法で板を薄く削り出した。訓練にもなるしね。丸太の白身部分は、カビが生えやすいそうだ。何年も持たす訳では無く、赤身でも白身でも消耗品の箱になるのでよしとした。

 材料の経木を、ニカワで張り合わせて箱状にする。内紙は、市場で売っているホウバの様な大き目の葉っぱだ。もちろん、包装代は別料金を頂くが、これで紙箱ならぬ菓子箱が出来る。畳んで措けないので、場所を取るのが玉に傷だ。


「タティアナさん、上手いですね。練習したのは3日でしょ」

「ケーキを作ったのは初めてなんです」

「流石に、教会で料理していただけあってケーキ作りが上手くやれそうですね」

「それほどでもありません。みんな頑張ってますし」

「そうですよ。レイナさんとルイサさんも、接客練習をみっちりとしているみたいですし」


「エマさんの作ったメイド風の服は似合ってますね」

「そうですか?」

「似合っているよ」

「カッコ良いですよ。ねえ、皆さん」

「確かに」

「小さなアデラちゃんは、接客は難しそうですが、メイド姿で店に出るだけで愛くるしくて可愛いですよー」

「十分に、看板娘として通用します」

「ありがとう」

「なお、スカート丈の短いのはアデラだけですが、他の人も少しだけ短くして活動し易くしていしてます。不都合があったら言ってくださいね」

「ナイナイ」

「カトーよけいな事を言うな。スマホのデータ通りでは、やっぱり短すぎるようだぞ」


 この国には、このようなケーキが無いかもしれない。お菓子といえば、限りなく薄く焼いたパンに蜂蜜を添えて出すのが上流階級のお菓子だ。甘くないパイ生地の様で、少し薄く焼いたクッキーの感じだ。クッキーは上流階級だけではなく、広く受け入られているが、年明けの菓子として有名な甘みを練り込んだ物は、格式の必要な正式な食事には出てこない。1の月に食べる、商業ギルドで出された菓子である。蜂蜜が高いので、あまり庶民の口には入らないそうだ。それならラミラへの誕生日のプレゼントとして、ケーキを持っていけるかな?


 ※ ※ ※ ※ ※


 イリア王国歴181年1の月23日

 ラミラの誕生パーティーは巨人の秘蹟祭りの前日で、今も町のあちこちで祭りの準備が行われている。参加するギルドの前では、山車の飾り付けも進められている。町は少しざわついた感じだが、祭りの前日という雰囲気は中々良い物だ。教会前の広場の出ている屋台の数も増えているような感じがする。


 誕生会は、昼食後から夕食の間の何時でもという集まりだ。まだ王国では時計が広く普及しておらず、なるべく多くの者が来られるよう配慮しているせいかもしれない。したがって、皆で集まって誕生日ケーキのカットというイベントも無い。プレゼントを持ち寄り、お祝いの言葉を掛けるだけだ。


 10才の女の子には、朝から晩までと1日が長いかもしれないが、将来にわたる交友関係を築く大切な催しになる。この国の教育は、皆が揃って一緒にという訳ではない。第一に、小・中学校という物はない。第二に、正式な教育は男子のみに行われるのが建前だ。第三には、教育に関する言葉は教会語と王国語の2種である。すべてといってもよいぐらい書籍と名の付くものは教会語で書かれており、この600年間変わる事は無い。

 両者は良く似てはいるが、違う言い回しも多いのはエミリーと話して分かった。確かに教会語は、この国以外の所でも通じる利点が有るには違いないが、難しく感じるのは自分だけでは無い様だ。


 教育と言うと、貴族や福与かな商人は家庭教師から学ぶという事が自然である。女子は、エミリーの様にお嬢様の教養として学ぶ。ただ貧しくとも向学心のある者は、教会の慈善活動の一つとして教会で、教育を受ける事が出きはした。

 一番勉強をしたのは、意外かもしれないが貴族の娘達だ。女性とは言え、貴族は例外で教育を受ける。嫁ぎ先が、貴族や領主の家となれば経営はもちろん、金融知識や人間関係を円滑に進める事や臣下との協調は必須。文字書き、計算に、礼儀作法は、家庭教師によって男性以上にしっかり教育される。妻は奥向きの一切を取り仕切り、影の実力者に成る為に研鑽を積まなければならない。


 国による教育については、イリア王国では十七ある直轄城郭指定都市(人口5万人以上)で男性のみ学習が出来る学院が作られている。今は17都市にすぎないが、各都市では地域の学力向上と振興の為、一般庶民に向けて教育が行われ順次拡大予定だ。これらは地元の富裕な商人や篤志家、さらに貴族などの寄付により授業料は無料とされている。また教会や修道院でも、独自に一般庶民に向けて教育が行われていた。


 中でも別格ともいえるのが、王都にある国内唯一の大学だ。大学である王立イリア学院には、自治権と数々の特権が保障されている。王立イリア学院には、学生が初年度生を除き400人が勉学に励んでいる。入学は、それなりの推薦で入ることができる。初年度生とは、入学後の15ケ月1年とされている。最初こそ人数は多いが、16ケ月以降にフルイが有る。在学中の試験では定員が定められている為、脱落する者も多く毎年決まったように数を減らす。


 初年度生を除き、定員の内訳は半数が貴族と富裕な商人の子弟200名、聖職者の出身100名で、貧しい家の出身100名だ。卒業も難しく、論文と口頭試問をへて教授による卒業認定投票も必要とされた。卒業し、博士になると法服貴族への道も開かれるため、特別優秀な者であると考えられていた。


 ※ ※ ※ ※ ※


「本日は、お招きいただきまして有難うございます。準男爵の加藤良太です。どうぞ、カトーとお呼びください」

「私は、男爵リゴベルト・ライネリオ・シンタド・ラミレスです。娘ラミラの誕生会に、ようこそおいで下さいました」

「カトー様、ようこそ。主人は何時も紋章院の仕事で留守していますのに。娘の誕生日だからと言って、ほんと珍しいのですよ」

「フリダ婦人、この間のバザーでは美味しいお茶をありがとうございました。ラミラ嬢、本日はおめでとうございます。細やかな、贈り物を持参いたしました」


 ラミラ嬢にはケーキ、リベルト男爵夫妻にはワイングラスのセットを持ってきた。出されているパーティーフードは女性が多いので、キラキラ感のある一口サイズの料理と、極限まで薄く焼いた蜂蜜系のパイである。頃合いとみて、エミリーとエマが持っていた箱をさししめしてメイドに手渡した。

「中身は、ショートケーキという甘いお菓子です。多いかと思いましたが、良ければ御出でになった皆様にも」

「ラミラ、良かったわね。ドミンゴも、おりこうさんにしていたら、もらえると思いますよ」


 メイドさんが、ケーキをお皿に盛りつけて持ってきてくれた。

「ワ! 素敵。見たことないお菓子ですけど、美味しそうな予感がします」

「そうです。普段食べなれた物ではなく、新しいお菓子のケーキです。ただ生クリームを使っているので、お早めにお召し上がり下さい」

「ヘー、美味しそう。新しい感じのクリームですね」

「ミカンを甘く味付けたものと、リンゴのジャムをスポンジという台に塗り、生クリームで包んでホールをカットした物です」

 今回はシフォンケーキを、スポンジに見立ててショートケーキ風に作った。5個のホールケーキを六等分にして30個を持って来た。生クリームのデコレーションは、絞り金の使い方が慣れてないのでバラの花は出来なかったが、形よく縁取りのデザインできたのでよしとした。お店では、シフォンケーキの発展形を色々と製作予定だ。 


 ケーキは好評で、特に生クリームを使ったのは初めてらしく、売っている店を居合わせたご婦人方に尋ねられた。巨人の秘蹟祭りの後に開店するという事で、タティアナ達のお店だと紹介をしておいた。反応は良いので、富裕層や貴族向けのお店としてオープンしても良いだろう。価格も、高額だが十分行けると思う。


「リゴベルト男爵、お気になりますか?」

「ワイングラスのセットと言われたので、ちょっと気になりましてな。見てもよろしいかな?」

「エェ、もちろんです。お持ちしたのはこの様に大ぶりな感じのガラス製の六個のグラスセットです」

「なるほどー、ガラスなのですね」

「王国ではタンブラーの形をした木のコップや、厚手の色ガラスのカップが多いそうです。このグラスは、ワインを楽しんで飲めるように透明なガラスなんです」

「ホー、それはそれは」

「脚付きで、口径が6・5センチのやや内側に巻いた肉薄のグラスなんです」

「このグラスなら、ワインの色を楽しめますな。それに、グラスを回せば香りを確かめ、味わう事も出来ると言う訳ですか」

「ハイ、そのように思います」

「皆さん、ご覧下さい。何と素晴らしいグラスでしょう。このようなグラスは裕福な商人でも持っている者はいないでしょうな」

 男爵に夫人、居合わせたせた人々から、驚嘆の声が上がった。フリダ婦人には丁寧にお礼を言われたが、やはり物の値段を把握しているのは女の人なのだろう。改めて、社交をお願いされた。ご夫婦には、答礼の茶話会を期待されている様なので招待する事にした。快く受けてもらった処を見ると、思った以上に好印象を与えたようだ。


 これ以上は、やぶ蛇になりそうだとエミリーが後ろで咳払いをして話をそらしてくれた。相手は10才、僕は外見上では11・12才位に見える。交友関係の拡がりなら歓迎だが、下手すると婚姻関係になりかねない。


 ※ ※ ※ ※ ※


イリア王国歴百181年2の月1日

 毎月1回第1日は、商業ギルドでオークションが有る。新年1の月はオークションが無いので2の月1日が今年初めてになる。両替商クラウディオに頼んだ魔石が、オークションに掛けられる日だ。今回のオークションの最大の呼び物は、他でもない魔石の大・中・小の各1個だ。魔石が出されるという事で、大変な評判を呼んでいる。

 聖秘蹟教会はもちろん、貴族も競って来るだろうし、商人達との駆け引きもあるだろう。そこには、王室も入っているかも知れないと言う噂が流れている。


 会場となるのは商業ギルドの上級会員用ホールで、仮設された間仕切り壁と椅子を出して、100人ほどが入れるホールとなっている。個室は、ホールに出たくない上位貴族と教会のやんごとない身分の者、富裕な上顧客や、高額が予想される出品者が使う。入場は午後遅くからで、予想価格の低い物から徐々に始められる。今回は、オークション終了時に向かって白熱の競売となりそうだ。


 僕はクラウディオに招かれて、個室に入ったがまだ時間がある。廊下には、開始時には居なかった近衛の騎士が2人、少し大きめの個室の前に立っている。近衛の騎士が、護衛をしているとなると、かなり身分の高い者がいるようだ。

 オークションが終わりに近づき、本日の1番人気の商品、魔石が出される。魔石・小は、開始時には8億エキュでスタートした。2声目で10億、1声1億ずつ上がりハンマーが下ろされた時には22億エキュとなった。魔石・中は50億で始まり87億エキュで競り声が止まった。魔石・大は最初の1人のみで、1000億エキュの一声で他を圧倒し、即座に落札された。


 魔石3個で、合計1109億エキュ。過去20年間での最高金額だそうだ。この高値に次ぐのは、やはり同じような魔石が出た20年前以来だとの事だ。

 手数料は166億3500万エキュ(41億5875万円)。僕の口座には942億6500万エキュ(235億6625万円)が翌日入金される。

(僕はもちろん、クラウディオも泡を吹いている。桁が多いというだけでないよ。訳分からない程の金額だ。とりあえず、お家に帰えろ)

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