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癒やされたいキャンパー。異世界を癒やしに行く。  作者: カトー
第4章 お店を開こう
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生活用品の製作

 イリア王国歴180年15の月17日

 トルトサの村から、2日ほど離れたシエテの町近く、森の別荘にいる。幸いここは、まだ誰にも見つかっていない。見つかっても、来年の3の月には正式な土地持ちの貴族である。さほど不都合は無いだろう。年末まで、別荘? 工房? で製作をする日々になる。拡張して、王都で話題になるような物を色々と製作する心算だ。

 ここでは、朝起きてから食事も早々に色々な物を作っている。何しろコンセプトは「見た事の無い」ですからね。セバスチャンとエマも、転送ステーションの部材を持って来て王都行きの準備をしている。


「カトー様、」

「何だい? セバスチャン」

「5・6人で開く小さなパーティーでも、ガラスの椀や皿なら十数人分必要になりますが」

「そうなの?」

「ハイ、さらに贈答用や商品に使える様にも用意するとなれば、かなりの数が必要かと思います」

「そうか、量産しないとだめなのか」

「ガラスについては吹きガラスの型作り方を朧気ながら思い出せそうだ。それなら同じ物が出来るはずだが」


「熱効率を考えて、土魔法で強化した坩堝を作ったのが良かったようだ」

「上手く行きそうでございますね」

「そうなんだ、エマ。ガラス製品は、ちょっと前まで作っていたのは普通に冷やすとペシペシし割れたからね」

「それで砂を使われた訳ですね」

「ウン、よく失敗して割れたからね。ただ救われるのは、ガラス製品なら陶器と違って、魔力と手間を別にして再加熱すれば、原材料として利用できるのが救いだよ」

 椀や皿は、それ自体が美しくても一点だけなら中々目立たない。ここには、苦労したかいが有って一度の宴会に必要だと言われた数十人分のガラスセットが一堂に並べられている。圧巻のビューだ。数を作ろうと頑張った結果、熱源以外は日本と同じような工場のレイアウトになって行く。昔、行ったガラスの工房見学と体験コースが役立った。季節は冬だけど、扇風機代わりの風魔法も使うし。やっぱり一度でも見ていると違うもんだなー。

 

「上手く行かんなー」

「ナタナエルに頼んで、かなりの量の銀のインゴットを手に入れたんだけどね」

「カトー、職人でも無いのにそんな簡単にはいかんだろう」

「銀の燭台や銀食器も作ってみたんだけど、これって芸術的すぎると思う? この縁取り部分を、彫金の要領で細工したんだけど」

「デザインは独特だと思うが、やはり模様や透かしが入れないと高く見えないんじゃないかな」

「やっぱりか。純銀だと柔らかいような気がするんだよ、少しだけ他の金属を入れて傷が付き難い様にしないといけないんだろうな」

「銀食器の表面が、鏡みたいに綺麗なのでガラスに銀箔を貼ってみたがいまいちだしなー」


「鏡? 鏡を作れるのか?」

「しかしうる憶えの知識だからね。油漕を作るのも無理そうだし」

「油なんか使うのか?」

「ウン、大きな鏡を作る時にはね。でもイリアでは難しいだろうな。作るにしても実用知識が不足だしな」

 鏡を作れれば、かなりインパクトのある商材だからやってみる価値はある。こういうのは、ぼちぼち思い出しながら試行錯誤するしか無い。只のキャンパーだし。


「待てよ、セバスチャンとエマにはスマホの小説データがあるんだった。読み返さないと、何とか成らないかな」

 データをソートして、知りたい項目が検索できれば調べたい事柄にたどり着く? スマホに記録されたチート技術の解禁か? とも思った訳だ。

 二人に相談してみたら、日本語なので文字の形で比べなければならない。印刷と手書き、書体によっても違うので膨大な処理が必要になるらしい。やれない事は無いだろうが、専用のコンピューターみたいのが要るそうだ。それでも、使えるようになるには人の一生では足りないらしい。いったいスマホに保存したウエブ小説はどれだけのデータが有ったんだろう。


 エマが、やっていてくれている絵やデザインは、僕が最初に似た物を出しているので、画像検索で出来るらしい。一度、僕がこちらの言葉で話すか書けば、データ化できるので単語で検索もでき条件も加えられる。僕がロゼッタストーンに成るしか無いのかな? 恐らく千冊分ぐらい読み上げたり書いたりすれば、文章も類推して処理できるかもしれない。辞書とか辞典を作る様な物だ。

 難しさは、江戸時代のターヘル・アナトミアどころでは無い。それでも、必要な情報なのかは文意が分からないし、ぼかして書いて有る物や、中には間違っている物も多いので注意が必要だろう。

(ウン、翻訳魔法の凄さと理不尽さを再確認した)


「土魔法で造られた登り窯で焼くんだ」

「確かに出来れば楽だからな」

「趣味なら陶芸は楽しいけど本職となると難しいと分かったよ」

「随分と一生懸命に見えてたぞ」

「土をひねって、道を究め、何々名人、何代目と言われたい気にもなるけど」

「そうなもんか」

「それでもまぁ、小さな物なら安定して出来る様になったし、様々な四角や丸・星形を、大量に作くれたけどなー」

「何事も精進してやらないとな」

「少し小さいと思うんだ。でも良い感じの焼き色にはなっているんだ」

「私はこのサイズなら女性受けすると思うぞ。これならカップケーキ・ココットやプリンにと十分使えると思う」

 エミリーの言う通り、お店で出す時や数が出来れば販売用にも使えるかもしれない。後、食器と言えば、白っぽい石を選んで天然石の皿も沢山追加した。数も多く出来たし、意外に高価な皿に見える。


 お昼を食べ終わる頃には、エマが写真の出力を終える。これは、スマホで時々撮っていた、3・4日おきの日記代わりの記録だ。指先から、放電の様なレーザーを出しながら、木の板に焼き付けて焼き板工作を施しているのだ。

(レーザーが出せる事に驚いたが、転送ステーション等では電磁ショックを発生させて、暴漢対策としていると言われて納得した)


 板絵はメリダから王都までのイリアの風景として、画の様に額装し「板焼き百図」として製作しているのだ。板はこの別荘の内装した時の残りで乾燥も終わっている。板を、焼きながら描いて、黒く焼けたススをとる。後は、丁寧に布切れで磨いて完成だ。深みのある木目の板に、黒の陰影が上品に表現されている。この風景を見るだけで、行ってみたいと感じさせる絶品だ。


 セバスチャンが作る装飾された家具は、スマホからのデータで作られたロココ調の家具と椅子だ。例によって、メイドさん達のお店の背景にあったのを借りました。ライトグレーやクリーム色などの淡い色に金箔を押し、猫足の脚で金物との組み合わせしてある。

 作り方は、僕が土魔法で家具を作り出して金貨から金を抽出する。セバスチャンは、金を叩き出して金箔を貼る。そして塗装して箔押する。乾燥には少し時間がかかるが、とても上品で暖かみがあるので、華やかな場でも存在感を発揮する作品となっている。

 ガラスで作った、ティーパーティー用のセットも置いてある。質の高さを感じさせ、雰囲気をより華やかにする品だ。いずれも、時代を先取りしたデザインがされている。


 目を楽しませるだけではない。聖秘蹟教会では、単旋律の歌曲があり聖歌と呼ばれている。楽譜は作られておらず、口頭で伝えられ聖歌の声部にもう一声重ねて歌われている。立て笛と竪琴が中心で、音楽はまだ神に捧げるものであり人が楽しむという事は少ない。吟遊詩人が歌う曲とはいささか趣が違いう。

 聖歌を参考にして、セバスチャンがグレゴリ●ンチャントを歌たってくれたのを録音した。何しろセバスチャンとエマはほとんどの楽器の音が出るし、人や動物の声でも、機械音だろうと似せて発声が出きる。二人で多重録音すれば壮大なオーケストラも出来る。これで設置したスピーカーから曲を流し、何処からか天上の音楽が聞こえて来るかのように演出できる。


 そう言えばセバスチャンとエマが来てから、劇的に変わった事の一つが温度管理だった。二人には温度センサーが装備されている。おそらく熱電対なのだろう。指をエールに突っ込んでいる。お風呂も適温で入れるようになった。

 イリア王国でも冬は寒いので、この別荘でも氷が張る事が有る。水たまりの薄氷を見ると色々な事を思い出す。27才の日本人だった時、あの熱燗が懐かしい。それにも増して(今は11才児の体なので飲めないが)、露天風呂を出て飲んだ、湯あがりのビールの旨さを思い出すと涙が出て来る。

 エールはこの国の酒場で常温にて出される。これはネットで読んだ豆知識をエミリーに話したのだが、エールは摂氏13度が飲み頃らしい。ビールの様な冷たさでは旨くない。エミリーが湯上りのエールを出してもらって、腰に片手を当ててグーと飲んでいる。美味いだろうが、何か着て!


 夏に向かって、そろそろ氷室作りを始めないと、せっかく土魔法と水魔法があるのに勿体ないと思っていた。

(火や水魔法でなぜ氷が出来るのか? いまだに分から無い。やっぱ、氷の巻物欲しい。王宮には氷を作れる魔法使いがいるらしい。氷の槍も恰好良いし)

 気温が上がるまでに、氷室だけでなく何とか冷やす方法を考えないと思っている。ふと、エミリーの飲んでいるエールが何故適温なのかと思った。

「セバスチャンに、お願いしたら出てきたぞ」

セバスチャンいわく「摂氏13度に指定されたエールをご希望なので、冷蔵庫で冷やして調整いたしました」


 第3級転送ステーション113から運んだ物品には、冷蔵庫とエアコンが2台ずつあったそうだ。約六百年前の物でも、状態保存魔法のお蔭でエネルギーさえ供給されれば、正常に稼働できたそうだ。しかし、別荘を日本の生活水準にしようと思うと、冷蔵庫とエアコン各二台では足りない気がする。取り敢えず、冷蔵設備が出来るようになるまで食品保存に注意しないとね。

 で、エールの事もあって、セバスチャンが渡してある魔石から冷蔵庫にエネルギーを供給して動かしたそうだ。セバスチャンとエマは魔石エネルギーの外部出力も出来るようだ。


 ※ ※ ※ ※ ※


 イリア王国とエバント王国、ケドニア神聖帝国の一部ではワインが作られている。

非発泡性のワインで、貴族などの上流階級の飲物として庶民の飲むエールと二分されている。教会によれば、ワインは神が遣わした液体のパンと考えられており盛んに生産されている。

 そこで、上流階級が興味を引きそうなワインの一種であるスパークリングワインを作る事にした。透明なグラスにシャン●ンを注ぐと華やかな泡立ちが起こる。いかにも貴族が喜びそうだ。シャン●ングラスをセットにして売り込みだ。

 ワインは樽で酒蔵から仕入れて、瓶詰にすれば良い。瓶とグラスは、当然僕がガラスで製作する。もちろん、このセットは贈答用に虚栄心を満たすよう、希少価値を一杯付けて高値を狙う心算だ。


 スパークリング・ワインには、瓶内発酵のために二酸化炭素が溶け込んでいるものと、後から人工的に二酸化炭素を吹き込んだ、いわゆる炭酸ワインとが存在する。一般には、3気圧以上のガス圧を持った発泡性ワインで、二酸化炭素を多く含むのが特長だ。通常の非発泡性ワインに二酸化炭素を吹き込む製法で、泡はやや粗いものの、味はスッキリと大量の品質の安定した酒が安価にできる。もちろん炭酸水も出来る。これなら、アルコールがだめな人でもソーダで飲めるしね。


 飲料業界の皆さん、お仕事ご苦労様です。ごめんなさい。二酸化炭素は、魔法で空気中から集めるだけなんだ。二酸化炭素は0・03パーセント位だが、空気は沢山ありし。瓶に入れる量が、あやふやなので圧力がどの位なるか、いまいち分からない。割れたりするのは危険だしペットボトルでも破裂事故なんていうのもあったし。十分に慣れるまで練習だな。

(それに二酸化炭素を上手く取り出せれば、ドライアイスの製作が出来るだろうと思って頑張りましたよ)

 簡単に言えば、ワインをガラス瓶に入れ炭酸を入れて栓をするだけでスパークリングワインの出来上がりだ。


「エミリー、タラゴナの町は指定都市なので大きな町なんだよね」

「そうだ」

「ワイン蔵みたいなのもあるよね?」

「この近くに、確か……あったと思うが聞いてみるか?」


「ここでなら栓の材料を分けてくれるかもしれん」

栓はコルクみたいなのが必要なので樽用の栓を流用する事にした。結局、栓の材料は普通には売ってないようで、ワインを仕入れたタラゴナの酒蔵から仕入れる事にした。市場で仕入れたい物も一杯あるし、荷馬車一台分ほど買えば配達してくれるらしいので一緒に帰ればOK。ついでに酒蔵の見学を頼んでみた。

「見る分には不都合無いですよ。ゆっくり見て下さい。瓶の栓はその間に用意しますから」

 驚いた事に、製造器具の中に鉛製の配管があった。隕石テロの前に作られた水道施設は、水道管は銅で出来ていて鉛は使われていない。今、行われている補修工事では鉛製が多く使われる。全体から見れば、水道施設はほとんどが土魔法によるものである。常に、流水があるので健康被害は少なそうだが鉛は体に良く無いはずだ。


「鉛管がありますね」

聞けば、鉛製品は加工が容易で価格も安いので普通に使われているそうだ。ワイン中の醋酸と鉛が反応して甘いが有毒な醋酸鉛入りワインができる。古代ローマ人は甘くするためにわざわざ鉛の鍋でワインを煮たりしてたし、香水入りのワインも作っていたという。香水入りのワインはともかく、この鉛入りのワインを好んで飲んだ者は鉛中毒となるわけだ。多くのローマ皇帝や有名人の発狂や死の原因ともなったらしい。


 鉛は随分と長い間使われたのだろう。ベートーヴェンが鉛中毒だったという説を聞いた事が有る。彼の髪の毛から通常の100倍近い大量の鉛が検出された為である。彼は年代を指定して飲むというワイン好きだったからで、その晩年ほぼ耳が聴こえなくなった原因として、当時のヨーロッパでは、醸造過程で甘味料として酢酸鉛などの鉛化合物類が頻繁に加えられていたそうだ。この為、鉛を大量摂取し中毒になったと思われているらしい。水魔法、覚えていて良かった。ワインも気を付けないと。


「取りあえず、ワイン造りから鉛製品をはずす様にした方が良いですよ。生意気に聞こえるかもしれませんが、鉛は溶け易いので、部品に鉛を使うと毒になるそうですよ」

いぶかしがる主人に話したが、改善されるかどうか分からない。


 お酒関連でウェブ小説によく出て来るのは、蒸留によるブランデーやウイスキーの製作だがこれはもうある。古代アレキ文明の蒸留器の技術が伝承されていて、僧院で細々と作られている。ただ、装置を使えるだけで効率も非常に悪い。恐らく、科学的な知識なしで経験によるものだからだろう。

 主に兵士のケガの治療に使われており、樽に寝かして何年と言う訳でも無い。酒として、飲む事も出来るが薬用として使うのが普通だ。高価な物で、量も少ないので上流階級男性の一部の変わり者しか飲まないそうだ。

(ちょっと残念。マ、子供の体では飲めませんが)


 ※ ※ ※ ※ ※


 酒屋から帰る途中、商業ギルドでレイナとルイサ二人の冒険者に会った。

「この間は、泊めてもらってありがとうございました」

「イヤイヤ、今日はどうしたの。王都の、叔母さんの所に行くと聞いていたんだけど?」

「またトルトサの村で、チョット気になる事が有って」

「なに?」

「トルトサの村で新しい噂が広がっているんです」

「へーそうなんだ」

「カトー様、猟師が四角い箱形のゴーレムが、飛び跳ねて移動していたのを目撃したんですよ」

「フーン」

「何でも、足は毛むくじゃらだったって猟師がいうし、見つかった大きな足跡から考えると新種の魔獣だと思われているんです」

 だが、調査依頼はまだ出ておらず、村では様子見するのではないかという事だった。二人には、知っているからと言う目でじろりと見られた。セバスチャンとエマは今回、馬車移動なので知らん顔しておきました。


 計画では、王都で住宅を早急に手に入れなければならない。今回は、空飛ぶ絨毯は荷物が多くて使えない。僕にエミリー、セバスチャンとエマの四人で王都まで馬車旅行だ。馬車も馬も、商業ギルドの上級会員は借りることが出来たが、魔石の残金が口座に入っていたので購入してしまった。

 貴族の馬車としては、飾り気も少なく安めだそうだが、この馬車には四頭の馬と、今人気の新型スプリングが使われているのだ。馬車は買い取ってから、窓ガラスが填められる様に少しだけ改造した。冬だもん。ドアには、貴族だと分かる様にカトー家の紋章を画き入れてもらう。


 タラゴナの町から、王都までの移動する間中、お勉強である。僕はセバスチャン達から付け焼き刃ではあるが、貴族として対応が出来る様に行儀作法を勉強している訳だ。準男爵として、おかしくない振る舞いを身に付けなければならないそうである。


 改良された馬車だが、王都まで12日かかるらしい。僕達は、七日後に王都に着く計算だ。馭者のセバスチャンは、ほんの僅かな光があればセンサーで見えるので夜でも進める。新型スプリング以前の馬車とは、比べられないほど乗り心地が良くなっているそうだが、中にいる僕とエミリーはクッションと一緒に飛び跳ねて揉みくちゃになっている。


 製作した品々は、ギルドが集荷してくれる。3台の荷物用馬車に積まれる予定だ。その後、ギルドの輸送業務を専門にする信用できる冒険者達が、7日遅れて王都の商業ギルドをめざす事になっている。


 街道沿いの、休息所の前を一台の馬車が走り抜けていく。真夜中でうるさいのだが、貴族の馬車なので誰も止められない。実際、貴族達はこのような傍迷惑な事も平気で行う。すっかり忘れていたのだが、僕も貴族でした。

「すいません。反省してます」

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