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癒やされたいキャンパー。異世界を癒やしに行く。  作者: カトー
第4章 お店を開こう
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叙爵した

 タラゴナの町の両替商ナタナエルには、王都の師匠筋に当たる両替商クラウディオからの手紙を渡した。中には極力、便宜を図るように記してあると教えてくれた。なにしろ、商業ギルドの上級会員として口座もあり手形も出せる。クラウディオ自身が信用保証をした事も書いてあった。

 手持ちで金貨860枚(およそ13キロ)の金があり、王都には金貨3000枚が預けられ、魔石が3個もあるオークションの話が出ている。3個の魔石大・中・小がオークションで売れれば、最低価格でも60億エキュ(15億円)以上にはなるそうだ。手元には、それ以上の魔石をはじめ金銀宝石があるらしいとも書かれている。

(さすが、両替商。クラウディオ鋭い!)

 

 そして今、ナタナエルの手元には魔石・小が一個置かれている。

「これは? 魔石ですか! いつかは扱ってみたいと思っていましたが、ひょっとして?」

「はい、ナタナエルさんにはお世話になっていますので、良ければお願いしようと思いまして」

「申し訳ございません。私には魔石を買い取るだけの現金がありません!」

「良いんですよ。全額でなくとも商業ギルドの口座に入れて置いて下さい。今、都合できるだけで。残りは後で、それに今回はお礼も兼ねていますので、クラウディオさんと一緒の10億エキュで」

「エ! それでいいんですか?」

「もちろんです。そのままお持ちになられても、売られてもお好きなように」

「このナタナエル、感謝申し上げます」


 やや芝居がかって感謝しているナタナエルに、代金は後で良いと言ったのだが。それでも、4億エキュを本日中に振り込むそうで、残りの六億は借用書を渡された。借用書分も、近日中に商業ギルドの僕の口座に入れてくれるそうだ。


 ※ ※ ※ ※ ※


「エミリー、どうして商業ギルドでは離れた本店や支店でも金額が分かるの?」

「大きな声では言えないが、古代アレキ文明の頃からある、秘匿された通信技術らしい」

 秘匿魔法で、自分達商業ギルド以外には、たとえ国でも使わせないそうだ。一方通行で会話などは出来ないそうだが、1回に付き100絵文字(14の記号と一から10までの数字の絵文字が使えるらしい)を送れるので、取引の金額などの意味を予め決めておけば、大抵の商取引は可能と言われている。


 だが、優秀な魔法使いでも、かなり魔力が必要で疲労も激しく二百キロも届けば凄い事らしい。それにお金に関する事なので、万が一にも混信等が有ってはならない。その為、日に何度も使えないらしく時間を決めて送りあっているそうだ。

(絵文字を描いた紙を、念写して飛ばしているのかな? 凄い。暗号表の仕組みと一緒じゃん。魔法版の、画像メールかな?)


「王都の商業ギルドに行った時に、ちらりと見たと言っていたぞ。中に制服を着た四人が眠りこけていただろ。あの人達だよ」

(まだまだ、この世界の常識に疎い様だ)

 後日、ハッキングにサギやミス等が無いよう、書類が送られて確認されるようだ。勿論、暗号表も替えられるらしい。これは、通信担当者が誘拐や脅迫等の犯罪に会わない様、システムの信頼性の維持の為にも、随時行われているそうだ。


 ※ ※ ※ ※ ※

 

 イリア王国歴180年15の月14日

 昔、読んだドストエフスキーは小説の中で「金は、どんなくだらぬ人物をも第一級の地位にひっぱってゆく唯一のものである」と書いている。で、「金で、見た目は買える」作戦の開始です。


 先に述べた通り、準男爵の地位は簡単には売ってくれない。相続する事の出来る地位なので、それなりの推薦が必要だ。これは教会の推薦状と、商業ギルドの上級会員という事で手に入りそうだ。叙爵の儀は、正式には王都で行われるのだが、準男爵ぐらいではわざわざ王都に行かなくても良く、紋章院に行くのも代理人で済ます事が出来る。

 担当の、そうです、領主のカミロ子爵が承認すればよいそうだ。ナタナエルが言うには、いずれまた王都に行かれると思うが、登録だけに行く者は少なく、王都見物の序でと言う感じで焦る必要も無いと言っていた。


 準男爵になる為、叙爵費用として国庫に納める4億エキュ(1億円)がいる。そして同額の、潤滑油とも言える4億エキュを渡せば良いらしい。賄賂ともいえる4億エキュだが、王国を含めてごく普通に行なわれている。利便を図かり、手間暇かかるので、お礼の意味を含めて当たり前のような慣習だ。

 ナタナエルが魔石の礼も兼ねてだろう、間を取り持って仲介してくれるようだ。領主の代理人とは、商業ギルドの上級会員ホールで会う事になった。


「加藤良太です。東方の姓名は、習慣上こちらと少し異なります。名前がリョウタ、家名がカトウになります。よろしくお願いします」

「こちらこそ、お目にかかるのは初めてですね。よろしくお願いします。領主の、カミロ子爵様の代理人を務めるアルセニオ・モンタニョ・フランコです」

「早速ですが、こちらの加藤様に叙勲について便宜を図っていただき、誠にありがとうございます」

「はい、構いませんとも。ナタナエルさん。所でカトウ様、カトーがお名前だったと聞きましたが?」

「その事ですが。皆さんがカトウと言いにくいというので。気にはなっていたんです。私もこの際カトーで良いのではないかと。マ、こんな訳ですがお願い出来ますか? 無理だったでしょうか?」

「イエイエ、些細な事です。何とでもなります。では、そのように」

書類上の日付も、審査を考慮して一年ほど前にした。代理人も、ノウハウが豊富で色々教わり、これでちゃんと審査した様に見えるだろうとの事でした。

(これで、良いのか? 大丈夫なのかな? マ、八億エキュも出すんだから、大事なお客さんなんだろうけど)


 準男爵叙爵の話ではナタナエルが随分と手伝ってくれた。話が出てからは代理人のアルセニオから色々と話を聞いてきてくれたのだ。

「ナタナエルさん、これで準男爵になれるんですか?」

「カトー様、話自体は順調です。あと詳しくは知りませんが貴族になった以上、領地を購入しなければならない義務があると聞いてます」

「やっぱり。何かあると思ったけど」


「今回は、土地取得は本人希望で貴族になる為、早めに必要なのだそうです」

「どうしましょう?」

「領地購入には寄り親ともいえる、カミロ子爵の領有している土地がお勧めとですとアルセニオさんから言われたんですが」

「領地ですかー。考えた事も無かったんで分からないんです。金額的にもかなりかかると思うんですが」

「イヤ、彼が言うには、叙爵と同時に取得する事で安くする事が出来るんだそうです。なんなら西北部の土地を如何ですかと言ってますが?」

「そうですねー。そういう事なら、お願い致します」

領地なんて何処で売っているなんて知らないし。ウム、代理人のアルセニオは、結構やり手である。


 領主のカミロ子爵は、既に王都へ向かっているそうだ。毎年の事ですが、おそらく3の月まで戻らないでしょうと不在を詫びられた。手続きは、淡々と進む。紋章は、叙勲して貴族になったら必要との事なので、家紋をそのまま使う事にした。これは、後からでも良いが、王都の紋章院で正式に登録しないといけないらしい。

(元々、紋章は戦闘中でも容易に氏素性や敵味方を判別できる物で、無くてはならない物らしいからね。せっかく命がけで戦っても、知られなければ何にもならないし)

 こちらの楯に描かれているような紋章とは少し趣が違うが、そこは東方という事で納得してもらった。しっかり覚えていないけど、形はだいたいで良いみたいだ。加藤家の上がり藤の家紋を、そのまま紋章として使う事にした。


 領地については西北部の土地取得でOKだ。もちろん、別荘がある辺り一帯まで広げてもらって買受けるつもりだ。領主不在のまま土地取得となるが、領主代理に土地代金を渡す事でOKとなるそうだ。

 

 購入確定後の話になるが、代理人のアルセニオに本当の所を教えてもらった。別荘付近は、原野に近い価値の極めて低い土地という事だ。昔、日本にも原野商法という詐欺? があったそうだ。この世界も同じで、原野はいくら広くて、ほっておいても価値が上がると言われても、お金を出して買うようなものでは無い。


「イヤ、エミリー。そうがっかりしてないよ」

「何故だ? カトー。聞けば元々が山林で、農地や牧場でもないので土地価格も安く、一山いくらになると言っているんだぞ」

「それはねー」

「加えて、王家の狩猟場が近くに有るので、色々と使い勝手が悪くなるそうだ」

「確かに」

「むしろ、トルトサの村周辺の道普請の整備費や義務がなくなるので有り難いと言われているんだぞ」

「分かっているから」

「本来なら、お金を貰わないといけないぐらいなんだぞ」


「手に入れた領地は、西ヨーロッパの気象条件と似ている気がするんだよ」

「フーン」

「イリア王国で同じような条件の、土地の使い方はどうなの?」

「私はそのような事は知らないんだが」

「最初はね。牧畜を中心に始めて、麦作が出来る土地になったら、鉄製農具を改良したりするんだ。有輪鋤を導入して、牛や馬等の家畜を育てたり、三圃制で収穫量を増やしたりするんだ。もちろん水車を導入して拡大再生産と言う流れかな?」

「なんだそれ? 随分と気が長そうな話だが」

「僕も随分と時間が掛かるな~と思っているよ」

 

「そこには気が付いたよ。内政チートの農業は、いきなりは無理だろうってね」

「チート? また訳の分からん事を」

「ウェブ小説の様に農業ができるたら良いんだが」

「現実は教科書通りには行かないもんだぞ。第一この領地となった所には農業うんぬん以前にまったく人が居ないぞ」

「そうかー」

「領地になる所は荒野なんだ。人口を増やそうと思えば、大きなシエテやタラゴナの町から人を呼ぶしかないんだ」

「じゃ、呼ぼう」


「無理だな。国王陛下肝いりの開拓ならともかく、精々トルトサの村や近隣の町民が、出稼ぎに働きに来てくれるぐらいだろう」

「エー!」

「態よく、広大な土地を押し付けられたんじゃないのかな?」

「そうかなぁ。待て待て」

「やっぱり、地道に住環境を良くしていくしかないじゃないか?」

「じゃ、インフラ整備をすれば良いんだね。ウーン、全く踏んだり蹴ったりの言い様だが、こちらもその位は承知である」

「本当に?」

「陶器造りの時に見たが、ここの土地自体は肥えておりシエテの町までは川もあり水利も良い」

「そんなことを言っていたな」

「北に向えば森林資源も豊富である」

「確かに」

「必要とされるインフラ工事も、土魔法に水魔法を使えば整備出来そうだ」

「簡単だとは思わんがな」

「村や町を巨大都市に育てて行くゲームでは、エネルギー源が一番の問題だ」

「エネルギーか」

「それは、魔石によって解決済みである。むしろ無人の地で無いと、色々とやり難い事もある。ウン、ウェブ小説の様な、内政チートだって可能だ。寧ろ、お楽しみは、これからである」

「前向きに思うのは良いと思うが……」


 土地の境界確定は3日後になるが、希望した地区の代金は、仲介手数料+αの8000万エキュで爵位の10分の1で良いそうだ。

(魔石・小の10分の1でお釣りが来る。ホント、有り難い事だ)


 拝領出来る場所は、大きな台形をしている。別荘があるトルトサの村の境界からスタートし、シエテの町の境界までと引かれた。南はタラゴナ街道、北は歩いて10日(原野とは言え、3、400キロはあるぞ!)まで、である。何とも、広大な土地を領有する事が決められた。これはやっぱり一山幾らなのかもしれん。エミリーの言ったように、本当にお金を貰わないといけないぐらいなんだろうか?

 

 代金の8億8000万エキュは、ギルドの口座から動かされて準男爵の叙勲は一件落着となる。4億8000万エキュは領主の管理する王国の口座に、代理人のアルセニオの4億エキュはナタナエルの口座から出される。これは代理人にとっても有り難い事だそうだ。ナタナエルが魔石の残金で清算して、残りは僕の口座に商業ギルドの手数料二千万エキュが引かれて振り込まれた。

「そうですか。こちらこそ、ありがとうございます」

「まだ、残金が1億エキュございますので。借用書をお渡しいたします」

「固いんですね。これからも、よろしくお願いします」


 3日目、商業ギルドの上級会員ホールに行く。羊皮紙にそれらしい言葉で、準男爵の証明書と領主の承認証を受け取った。これで、領地となる土地の所有権を、手に入れる事が出来きた。

 道具も段々揃いつつある。王都では高級な宿に持ち物、服装や食事などに気を使かおう。貴族なら、それらしい馬車や備品などの演出用道具も必要だ。

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