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癒やされたいキャンパー。異世界を癒やしに行く。  作者: カトー
第4章 お店を開こう
33/201

盗賊を退治する

 北の城門を出て、絨毯を隠した森まで二時間ほど歩いた。王都を出て、これから空飛ぶ絨毯で発見した転送ステーション113に戻り、ミゲレテ村にあるレアンドラの家へ寄りタラゴナに帰る心算だ。


 絨毯の隠し場所も変わっておらず、王都を飛び立つ事が出来た。北に延びる、街道を離れて北西に進路を取る。

「いい天気だね。エミリー」

「あぁ、風も穏やかだし飛行も順調のようだな」

「さっきから見えているこの街道は?」

「辺境都市ビルバオに続く道だろう。おや? あんな所に馬車が……なんか追いかけられているみたいだ」

「後ろから馬で追いかけているみたいだね」

 馬車とは少し距離が有るようで、盗賊に気付いた護衛の冒険者が威嚇しているのだろう、後ろに矢を射っているようだ。


「やっぱり、助けなくちゃね。エミリー」

「当たり前だ。襲撃を目にして、放っておける訳がないだろ。私は守備隊だぞ」

「そうだよね。あそこの丘に降りて、絨毯を隠そう」


 飛行帽のメガネに、毛皮のマントを羽織ったままなら正体は分からないだろう。見つからないと思うが、加速して丘に向かう。身を隠すや否や、馬車が目の前を通りすぎて行く。追いかけてきた盗賊の前に、土魔法でドーンと壁を立ち上げる。その手前には、作った壁の分だけ穴が出来る。


 5人の盗賊が、馬ごと穴にボコッーン。3人は辛うじて踏み止まれたようだ。そこへエミリーがさっそうと登場し、あっという間に槍で馬上の一人を突き刺した。驚く2人に槍を向けて、剣を抜こうとしている者の脇腹に下からズブリと穂先を入れ、抉る様に抜いてまた一人。抜き刺しざまに、返した槍の石突で後ろに回った盗賊の目を潰す。堪らず、座り込む男の首筋に一刺し。馬上の、盗賊3人を葬った。


 続いて穴に向かうと、ふら付きながらも起き上がった5人が剣を抜こうとしている。槍を握り直して、まず1人。残る4人の内、2人は怪我をしたのか動きが遅い。槍の穂先をぐるりと廻して、刃を首筋に入れて2人目。残る3人の内、二人が逃げ出そうとして僕の方に向きを変えた。その動きに慌てたのか、対峙していた1人の胸前ががら空きになる。すき有りと、残った1人にエミリーの槍が胸を刺す。これで3人だ。


 この間、僕は棒乳切を持って、前に構えただけだ。向かって逃げて来る、2人に慌てて目潰しの風を起こす。1人はまともに目に入ったのか、走るのを止めて手で顔を隠す。それを見た、いま1人が目潰しを気にするでもなく、怒りにまかせて突っ込んで来る。

 今度は、水魔法で相手の上半身を覆うが、盗賊は持っていた剣を手放して僕に体当たりをする形になった。弾き飛ばされた杖を掴もうと、手をバタバタと動かす。護身用に持っていたミスリムのナイフに触り、思わず抜いて相手の首に突き刺した。赤い血が割れたメガネに広がって行く。これで4人を倒した。

 残るは、あと1人。エミリーの投げた槍が、目をやられながらも剣を持ち僕の方に向かって来る、盗賊の背中に突き刺さった。盗賊全員、8人を倒した。短い時間で倒したはずだが、非常に長く感じるのはアドレナリンの所為か?


 さすがエミリー、王都守備隊の副長だけある。馬車はたいぶ行ってから、様子を見て引き返してきたようだ。その間、エミリーが助からないと思われる盗賊達に慈悲の剣を与えていた。


「オイ、あれ何だ?」

「どこから来たんだ?」

 見慣れぬ格好なので戸惑いがあるみたいだが、エミリーの軍人らしい受け答えで守備隊の盗賊狩りと思われたみたいだ。確かに土魔法を使って制圧するのは珍しいが、土魔法使いがいない訳では無い。この時初めて、周りの酷い鉄錆の臭いに気が付いた。エミリーは返り血を浴びた様だ。僕も上半身に血が付いている。


「お助けいただき、ありがとうございます」

「王国の魔法使い様なのですね」

「お礼を言わせて下さい」

「良いんですよ。務めですから」

「しかし、凄腕ですなー。惚れ惚れする動きでした」


 襲われた馬車の人々に、礼を言われる。さて、この倒した盗賊達をどうしたものか? 普通なら盗賊など持ち物は、討ちとった者の判断により好きに出来るらしい。死体から、剥ぎ取るというのも神経を削られる。お金に困っている訳でもないし、盗賊達も、ろくな防具もしていないようだ。良さそうな武器だけ別にして埋めてやろう。さすがに、野晒しは可哀想だ。


「エミリー、埋めてやろうか」

「そうだな。可哀想な馬だからな」

「エー!」

 ここら辺は、日本人なのか「死なば皆、仏である」という事かな。5頭の馬は無事だったが、残りの3頭は足を折っている。残念だが慈悲の剣を与える事になるだろう。馬のついでに盗賊の死体を埋めるとは。確かに馬に罪はない。とはいえ盗賊は人間なのに人間扱いされない様だ。


 僕は、土魔法を使いながら穴を掘っている。水魔法で血を洗い流しながら尋ねる。商人による流通は商業の要である。加えて、国の通信インフラは街道の往来が出来る事で維持されている。街道上での犯罪行為はひと際、罰が重いそうだ。中でも、盗賊行為をする者は極刑にされるのが普通である。


「盗賊は、捕まれば縛り首なんだ」

「当然だ。遅かれ早かれ、彼奴らが死ぬことに変わりがない。だが、手を下すのは、あまり寝覚めの良い物ではないな」


 エミリーが以前言っていたように、この世界では自分の身を守れなければ結果は悲惨なものになる。今回、襲われている者を救うため人を殺す事になった。正直、今回は自分の命が助かったと言う気持ちの方が大きい。襲撃を止めるにしては、日本でなら過剰防衛かも知れない。しかし、討ち漏らせば反対に殺されるかもしれない世界だ。殺そうとする者は殺される覚悟もあるだろう。人の命は軽い。気分は良いものでは無いが納得するしかない。


 僕は、土魔法で深めに穴を掘った。人を埋め、少し離して馬を埋める。実際、この少年の体では、大人の体なんて動かすことさえ難しいのに馬なんてとても無理。エミリーとで、転がして埋めただけだ。


 誤解されている事を良い事に、作戦中なので盗賊の武器と5頭の馬の権利を放棄する。と言っておいた。盗賊の届は、引き返して王都に行くか迷ったらしいがビルバオの町で出す事になった。

 それで良い。届を出しておいてくれと頼んだ。エミリーさん曰く、彼らもチャンとわかっているし善良なる市民の務めってやつである。

 届や取り調べには時間がかかるので、面倒を嫌い出さない人もいる。届けておけば、手間はかかるだろうが盗賊の武器や五頭の馬を売って、分配できるそうなので悪くない稼ぎ? になるそうだ。馬車の人々と護衛の冒険者は口々にお礼を言って去っていった。


 ※ ※ ※ ※ ※


 思わぬ騒ぎで、転送ステーションに着いたのが夕方だったので一泊する事になった。翌日には、アルカンテの町にまで出て運搬用の馬車などを買うつもりだ。セバスチャンとエマには、ステーションの荷物をアルカンテからレアンドラの家近くの森まで運んでもらう。2人によると、転送ステーションで整理中に発見でき、持って行けそうな物は荷馬車にして二台位になりそうだと言っている。


「お帰りなさいませ。カトー様、エマ様」

「調子はどう?」

「順調でございます。重すぎる物や取り外しできない物もありますが」

「なるほど」

「しかし600年の年月を経てもなを使用可能な物がかなりあります」

「へー」

「状態保存の魔法が、掛けられていたとはいえ600年です」

「凄いじゃないか」

「改めて魔法の凄さを知った次第でございます」

「ウン」

「これらは動力用エネルギー源が無い為、今までは作動は出来なかったのです」

「そうかー」

「多くの物は魔石を供給されれば可動するでしょう」

「セバスチャンとエマは?」

「勿論、今はカトー様のお力で完全作動状態です。整備・点検は必要ですけど」


 僕の興味を引いたのは、セバスチャン達の戦闘用モジュールだ。外骨格状なので警備ユニット用のを装着するとまるで重装騎士のフルプレートに見える。エマのサービスユニット用戦闘用モジュールも外骨格状で、騎乗騎士のフルプレートにそっくりになる。この外骨格も、ステーションに保管されていた物を見つけ出したそうだ。


 2人揃うと、そうですねアイア●マンに出てくるパワードスーツ姿の男性と女性と言った処ですね。飛べないと思っていたが、エマが訂正してくれた。飛べます。動力用エネルギー源として、赤い魔石の小サイズが必要となるそうだが、それだけで大型クルーズ船以上のパワーが出るそうだ。


 色の属性について少し分かった。セバスチャンが言うには魔石は色によって使い分けられ、熱や動力系なら赤色がエネルギー変換効率も上がるとの事。因みに3倍ではありません。上手くいけば、1・5から2倍位だそうだ。使う魔法が適合すれば最低でも1・2倍にはなるらしい。また魔石は形が整っていて、色が濃いほど良い物らしい。


 荷物の移動用に、土魔法を使って外装強化型コンテナを作った。20フィートコンテナ(積載量21トン、自重3トン、サイズは6×2・5×2・5メートル)ですね。積載量は、荷馬車10台分以上になりますね。土魔法、気にいっています。知らない間に、体内魔力でここまで作れるようになりました。

 これ、前後に持ち手を付ければセバスチャンとエマの二人で運べるとの事。さすがに、コンテナを掴んで空は飛べないが、ジャンプなら可能だそうだ。アルカンテに行って、馬車を買おうと思っていましたが、いらないみたいだな。


 そんな訳で、セバスチャンとエマは肩にコンテナを担いで、ミゲレテの村近くの森まで移動する事になった。場所はルカスが子供の時、エミリーに教えてくれた秘密の場所だそうです。約500キロの距離を、5日間でレアンドラの家に着けるらしい。

 ひとけのない深い森を通る予定だが、コンテナを引きずると跡が残るので、念の為に担で移動をしてもらう事にした。足は重さのため沈み、何者かと思われそうなので、大きなかんじきを付けて動物の足跡に見せかけるそうだ。


 服も、毛皮のままだ。さすがに、皆に会わせるのにターザンとジェーンの様な恰好ではまずいと思っている。意外と毛皮が気に入っている様だが到着したら、見つけ出したという作業着に替えさせる心算だ。

(600年で、人と会う時のマナーがそんなに変わるとも思わないが、2人とも意外に無頓着なのは何故?)

 毛皮は採り増しして、コートを数着エマが作ったようだ。到着後、運んでもらったコンテナは土魔法で土をかぶせて隠しておく、保管庫として使えるしね。セバスチャンとエマは、服が用意出来るまで森に潜んで、待機がてら機器の調整と整備点検をしてもらうつもりだ。


 エミリー以外、僕の過去を知る者はいない。エミリーには、これまで僕に関する秘密は話さないように頼んでいる。ミゲレテの村のレアンドラの家に帰るまでに、イバン達に王都の出来事と、セバスチャンとエマの辻褄を合わせる話を考えておく。2人は僕の家の執事とメイドという事にし、やっとタラゴナの町で追いついたという話をしよう。


「エミリー王国では、魔法を使える者も20人に1人か2人と少なくなっていると言ってたね」

「あぁ。見たことの無い癒しの魔法でも、今までに多くの魔法が失われているのでその一つと言い張れる」

「消失魔法? セバスチャン?」

「どう呼ぶか分かりませんが、癒やしの魔法は普通であるとは言えませんな」

「やっぱり」

「幸か不幸か上位の魔法使いは変わり者が多くおり奇行蛮行も珍しくはない」

「エミリー!」

「ただ、魔法使い達はその有能さの故に、おかしな事が有っても目をつぶってもらう事が多いそうです。そこは600年経っていても変わっていないとエミリー様がおしゃってました」

「エマまで。マ、何とかなるだろう」


 製作作業やプランで忙しく、練習時間が足りないので棒乳切は御無沙汰だ。もう棒術は、身に付けなくとも良いか? 身を守るのに、魔法の方が有効と思うので魔法で行こう。ウン、魔法が使えるし、せっかくの異世界だ。小説の様に武器を恰好良く使えたらいいけど、武芸者を志していた訳じゃ無いしね。


 ※ ※ ※ ※ ※

 

 無事、ミゲレテ村にあるレアンドラの家へ寄り、イバン達と話を済ませてタラゴナまで戻って来た。少々疲れたが、中々、意義深い王都への旅だった。

 さて、ガブリエルの話によると、副番頭だったエステバンは乗っ取ったイバン商会を、エステバン商会に名を変えて商売をしている。商売敵だったガビノ商会から人が来て、昔からいる店の者が暇を出されたり、出入していた商人が替えられたりされているようだ。

 相談後、ガブリエルとルカスの2人にはタラゴナの町にアジトを設け、偵察を続ける事にしてもらう事にした。鍛冶屋の作業場は水車を利用している所が多い。音と火災予防の為、大抵は町外れに作られる。テオドシオ達に手伝ってもらう為、僕達も打ち合わせに町外れに向かった。


 村や小さな町の鍛冶屋の仕事は、人々を相手に包丁やはさみなどの生活関連品、武器や職人の道具まで、様々な物を造る事だ。村の鍛冶屋は、鍛冶仕事なら何でもしなければならない立場だが、出来ない物も多くある。

 都市の鍛冶屋は、専門化して分業が進んでいる。金銀細工物を扱う指物師や、金座・銀座・銭座で貨幣を鋳造し刀剣を作る専門職まである。テオドシオは刀剣などに限らず金属加工が好きで、やがては王都の同業者をしのぐ腕になりたいと思っているそうだ。

 

 テオドシオの親方も、領主のため鉄製品を作っていた。村の鍛冶屋は、領主から農具を製造する権利を与えられ、農具を作る。農具以外にも、鉈や斧、ナイフ、鍋、ハサミなど色んな物を製作する。時には領主に命じられて、水車の整備や修理を行ったりする。

 農村に居たテオドシオは弟子として働いていた。しかし、親方が突然、死んでしまう。領主が呼び寄せた、新しい鍛冶屋の親方とは反りが合わず、村から2人してタラゴナに出て来たという話だ。


 妻のカサンドラ・ベーガ・エスコベドは炭焼きの娘だった。炭は夏場に作られる。専業の職業だがその実、半農として生活する者が多い。王国でも炭の需要は多く、金属、塩つくり、陶器、調理などや冬の室内暖房にも使われる。庶民にとっては、薪より高いのだが煙も少なく使い勝手の良い燃料だ。燃料や暖房に魔法が使えれば良いが、貴重で高給な魔法使いを雇う事は出来るはずもない。

 イリア王国の鍛冶屋は小型の炉に鉄鉱石と炭を入れて、銑鉄を作り色んな物を製作した。炭焼きの娘と鍛冶屋の男との職場の距離は近かったのだろう。ナタナエルと一緒にタラゴナに出て来て、鍛冶屋の妻として店を切り盛りしている。


 テオドシオは金属加工が好きだと聞いている。隠し場所から持って来た、工業製品である自転車を見せたらどんな反応をするだろう。

今、テオドシオは日本の工業製品であるブリ●ストンの折りたたみ自転車を、鍛冶場の横の倉庫で見ている。麻袋に入れ輪行袋から出された自転車は、道具がなくともあっという間に組みあがり、いかにも工業製品と言った処だ。

(ゆるキャンプに持って行けるよう、見栄の張り処だと思って買った。6万円近くした自転車なのだ)


 スレンダーフレームはアルミ製でTIG溶接してあり、キャリパーブレーキ仕様。TIG溶接とは、電気を用いたアーク溶接の一種でバイクや車の部品やパイプ類の接合、製作に使用されステンレス、アルミに最適な方法とパンフに書いてあった。スポークはステンレス、タイヤはこれまたゴム製と、二人が見たことの無い物ばかりで作られている。


 僕が知っている自転車作りの工程をざっくり話しておく。鉄等のフレームを作って溶接する。さびない様に鍍金して、前フォークとハンドルを取り付けて別に作った車輪を作る。車軸にはボールベアリングが入っている。車輪はハブの穴にスポークを刺してリムを着け、ゴムタイヤにチューブに入れて組み立てる。自転車本体にギヤ、クランク、チェーンをセットし、後輪と前輪をつけ、サドルをつけて一応完成。

 これは古代アレキ文明のアーティファクトだ。という事にして、再現できる技術があるか、ゆっくり考えてと言う心算だ。折角、知り合いになった鍛冶屋さんだ。縁は大事にしたいし、内政チートには必要だ。マァ、一番初めは、簡単な構造の道具から始めてもらおう。精密に出来れば、なお良い。さて、何時どんな物が出来るだろう? 


 2人は目を見張って黙り込んでいる。エミリーは、2個の車輪しか無いのに、倒れないで動く自転車に非常に驚いたらしい。

(今まで見た事のある自転車は、カートを引いていたので分から無かったようだ。でも驚く所が、そこなのか?)

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