王子が捜してる
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王都ロンダ、看視所守備兵。第一王子セシリオ殿下との会話。
「はい、自分は北城門第一看視所で対空監視をしておりました。ごく稀にですが、ワイバーンが風に流されて来ますから。それで、ワイバーンへの対空戦闘警戒をバリスタに伝えました」
王都ロンダ、北城門の長距離・対空担当指揮官。
「そうです、看視所から連絡を受けたので、バリスタを対空用の軽い矢に替えました。風魔法で、かなり離れても当てられますから」
「で、今回は間に合わなかったと言うんだね」
「ハイ、殿下。ワイバーンの滑空と違って、直線でかなりの速度で近づいてきました。私は遠視の魔法が少し使えますので、乗っていたのは毛皮を被った子供と女か若い男と思われました。正直、空を飛ぶ乗り物の様な感じでしたので驚きました」
「で、王都の手前の森で降りたようだと」
「はい、そうであります」
「ウム、下がってよろしい」
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王都ロンダ、北城門守備兵。第一王子セシリオ殿下との会話。
「では、城門を通ったのはエミリー副長だったのかも知れないね?」
「ハイ、そうです。エミリー副長にそっくりだったのでおかしいと思ったんですけど。恰好は冒険者でした。自分は、エミリーと同期で同じように城門守備に配置されておりましたが、今考えてみるとエミリー本人だったかもしれません。一緒にいた少年は解りません。只…」
「只、何だね?」
「エミリーにしては若いのです。守備隊の相互連絡などで時々会ったのですが、自分が以前見た時より年が3・4才若く、20前の感じがしました」
「そうか、若く見えたのか」
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第一王子の補佐官、シーロ・モンポウ・クエジャル副伯。第一王子セシリオ殿下との会話。
「エミリー・ノエミ・ブリト・ロダルテについて、報告いたします」
「現在23才。15の成人後、王国に任官して8年になります。守備隊で5年をすごし、その後、城門守備隊に配属されました。2年前に第7守備隊の副長になっています。勤務態度良好。槍術優秀。火魔法と風魔法が少し使えます」
「父親がイバン・ギジェルモ・ブリト・ナバルレテ、母親がデボラ・コルティス・バティスタ、妹のソニア・イベッテ・ブリト・ロダルテの4人家族で、割と大きな商会の娘でしたが、魔法適正もあり守備隊採用者として王都ロンダに移動。本人も、体を動かすのが好きで商売は苦手と。あとは、いわゆる商家のお嬢様教育で一般教養ありです」
「フム、勤務態度は良いか?」
「隊長がいっていましたが、王都ロンダ守備隊の副長なので、それなりに優秀です。結婚しなければ、近衛に行く話が出ていました。エミリーと言う名はこの国では珍しいのですが、父親が昔フランに商売しに行った時、そこで世話になった恩人の名前だそうです。休暇申請後、変わった事もなく王都を出ました。アルカンテの町の城門記録では、名前と王都守備隊との記載がありました。それ以後、行き先・連絡とも不明です」
「先ほど、大きな商会の娘でしたといったが?」
「はい、少し調べました。父は、反逆罪で投獄後に生死不明。母親・妹は、番頭と共に行方知れず。経営は、競争相手のガビノ・アラゴ・ネメシオが実権を握り、副番頭のエステバン・ルハン・ウルバノが事実上の乗っ取りをしています。役人が、絡んでいる可能性もあります」
「そうか、エミリーはそのまま休暇扱いとして置け。商会の方は、気の毒だが民事不介入だ。ただし、違法行為が有れば別だが」
「ハ、そのように手配致します」
「引き続き調査を進めてくれ。下がってよい」
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影(密偵)。第一王子セシリオ殿下との会話.
「聞いていたな、それでどうなった」
「ハイ、若様」
「教会にいた密偵の連絡を受け、ご報告と同時に捜索を始めました」
「結果は?」
「北城門を出て後、行方知れずです。しかし王都での宿屋を見つけました。3日ほど滞在しており、第一城区の商店に用があり行ったようだとか。大きな宿ですので、雇い人も多く、皆詳しくは知らない様でした。フロントの者が、湯船の有無を聞かれたそうですが後は何も知らないようでした。報告にあった教会に出入りしている親子とは偶然出会ったらしく、二人とも天使の様に親切だったとかしか言っておりません」
「そうか。教会の奇跡は、どうなんだ」
「はい、それが部屋にいた者と廊下にいた者だけではありません。教会横の路地に寝泊まりしている者まで、体調を回復しており、病気らしき事は無く、怪我まで治っておりました」
「病気に、怪我もなのか?」
「ハイ、皆ピンピンしております。神の奇跡だと言う者もおります。話しを聞こうにも、貧民街の者は迷信深く、おまけに口が堅くて。特に仲間が世話に成ったり、恩を受けたりしますと尚の事。密偵達には引き続き探させておりますが、奇跡と信じている者ばかりで。また、募金箱の多額の金貨も、誰が入れたか未だに不明です。申し訳ありません」
「水に火と土、さらに回復魔法に飛行魔法か。西から来ていたのに、距離がある北門から出入りしたか。見つけ次第、彼らの調査を続行せよ。気取られるな」
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シエテ守備隊隊長による、城門衛兵主任の聞き取り調査(部外秘。ハト便を使用の為、質問項目は略してあり返答のみ)。
1、「ええ、感みたいなもんです」
2、「従者としては言葉づかいが変だった事。入城料を知らないのはままありますが、潰し金を出したりする事はまずありません。次に、文字が読めるのが意外でした。若いのに金の管理をしているようでしたが、潰した金を出したのに釣り銭の量の多さに驚いていました」
3、「それからエミリアと名乗っていましたが、従者はエミリーと時々言っていましたね。愛称とも思いましたが、それなら普通エミリー様って言うと思います」
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影。第一王子セシリオ殿下との会話
「そういえばシエテの町でミスリム硬貨が見つかったみたいだが」
「流石、若様です。報告が上がっています。それによると、市場横の両替商ナタナエル・アレサンコ・ペラジョが、潰した金とミスリム硬貨をエキュに交換しました。20才位の女でエミリアと名乗ったそうです」
「エミリーがエミリアか、何とも芸がないな。ま、ミスリムならいい客だ、手数料もだいぶ稼いだのだろう」
「はい、これ以上はと渋ったそうですが、身分証の確認をしなかったのは、黙っていてやると言ってしゃべらせました」
「まだ、かなり持っている様なので手数料を下げるから、次回もお願いしたいと言って粉を掛けておいたそうです」
「流石に、商人だな」
「10日後に挨拶がてら話をした所、王都の両替商で高級品も扱う同業者を紹介して欲しいと言われ、親方筋のクラウディオ・アルモドバル・メリノを教えたそうです」
「で、泊まっていた所は分からなかったのか」
「名前から、すぐわれました。市場横の、ヒバリの宿と言う元冒険者がやっている所でした」
「エスタバン・イラエタ・オチョア。37才、ヒバリの宿の主人で元冒険者。引退後、盗賊討伐の報奨金で今の宿を買い取ったそうです。オリビア・マネン・アレグリア、34才。妻です。モニカ・イラエタ・アレグリア、14才の娘。3人で宿を廻しています。怪しい所はありません」
「宿は引き払った後でしたが、娘のモニカが憶えていました。二人の金髪の冒険者が訪ねて、彼は命の恩人だと言っていたそうです」
「それで、魔法の事は?」
「残念ですが、何も。年恰好から、商業ギルドの2人の冒険者で間違いないと思われましたが、知らぬ存ぜぬで通されました。レイナ・ピニャ・クルスとルイサ・ピニャ・クルスの姉妹です。かなり、口が固く金でもだめでした。脅すのは、ご命令通り控えました」
「それで良い。しかし、命をどのように助けたかだな」
「小年が、関係しているとは思われますが確実な所はなんとも。手の者を増やして、引き続き調べさせております」
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補佐官シーロ副伯と、第一王子セシリオ殿下との会話
「有能な魔法使いは、何としても見つけ出さなくては。私は引き続き情報を集めます」
「そうだな、さまざまな魔法を操る少年魔法使いどころか。話の通りなら、この世の者ではないな。これでは、本当に天使ではないか」
「それと、今一つ。魔法関連でおかしな噂が出ています」
「教会と貴族からなのですが、魔石の値段について調べている者がいると。オークションに、出るとか出ないとか」
「大きさにもよるが、本物なのか?」
「鑑定士が視ており、魔石・大が出るようです。本物だと言った者もおります。その話なら、500百億エキュ以上だとか」
「まさかな。ひょっとして、少年と繋がるのか?」
「噂ですから、真偽の程は分かりませんが」
「そうか、ではこの件も探ってもらおう」
「ハ、仰せのままに」
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「殿下、少しですが足取りが分かりました」
「シーロか、よくやった」
「イエ、少しなのですが、殿下がどんな些細な事でもと仰るので」
「それで?」
「まず、お探しの人物の名はカトーと呼ばれております。名前がリョウタ、家名がカトウだそうです」
「珍しい名前だな」
「なんでも、東方の姓名だとか」
「フムー、で少年なのか」
「姿形も幼い上に、やや常識に欠ける処があるそうです」
「それと、クラウディオ・アルモドバル・メリノですが、やり手ですが仕事は固く信用を大切にする男だそうです」
「ウン」
「クラウディオの紹介で商業ギルドに口座を持ったようです」
「ホー」
「中々ある事ではありませんがクラウディオの保証が付いているそうです」
「で?」
「商業ギルドですからこれ以上はしらべれません。しかしながら魔石と繋がりそうな気がいたします」
「そうか。オークションの話はありそうだな。そちらの方も用意しておくように」
「了解いたしました。手の者にも抜かるなと申し添えておきます」




