表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
癒やされたいキャンパー。異世界を癒やしに行く。  作者: カトー
第4章 お店を開こう
31/201

貧民街で人助け

 イリア王国歴180年15の月9日

 エミリーと僕は、王都ロンダの路地を歩いている。王都を出て、セバスチャンとエマのいる転送ステーションを経由して、タラゴナの町に戻る心算だ。空飛ぶ絨毯が隠しある、王都の北に有る森へ向かっている途中だ。ビルバオ街道への近道だと、エミリーの言う通りに曲がったのが悪かった。今は貧民街に近いかもしれない。エミリーは王都守備隊で、副長を務めるぐらいなので当然地理には詳しいはずだった。

「すまん。迷ったようだ」

「エ、なぜ迷う?」


 王都では、王宮前広場から東西南北と、各方角に広がる4か所の城門から第三城壁までが第三城区(第三城壁と城の間の市街地)で貴族・大領主と高級店がある。

 第二城区(第二城壁と第三城壁間の市街地)には、8か所の城門があり中小領主・騎士階級などと商家があり、

 第一城区(第一城壁と第二城壁間の市街地)には、16か所の城門があり一般商家と庶民、一部貧民街となっている。

そして、城壁外は貧民街にも居られないような人と、墓地や練兵場等があり日々の暮らしを平穏に営んでいた。


 他の大都市もやはり城壁で区分けされ、地区の中心の広場等から伸びる幹線道路の両脇には、金持ちの屋敷や商店や商会がある。そして、町外れになるにつれて貧乏人が増えていくという感じだ。

 迷った場所は、どうやら城壁外の貧民街への街路らしい。いつの間にか、周りは薄暗くなり行き交う人の服装もくたびれている。


「エミリー、ここら辺はチョット空気が違わない?」

「そうだな。そろそろ第一城区を出るぐらいだな」

「そうなのか。今いる場所は分かった?」

 見るともなしに商店街を過ぎて、やっと街道に出られたと思ったんだけど。

「ウン、この道で良いはずだ」

「安心したら、お腹が空いて来たよ」

「あそこに食堂が有る。腹が空いたなら入ってみるか?」

「ウン、ここら辺にはあまり食堂は無さそうだし入ってみるかな」

「そうするか、横にある宿屋の食堂みたいだ。カトーあそこで良いな」

「ウン、隠れた名店と言う風でも見えないし期待はできそうも無いね。メニューは薄いスープしかないかもしれないけど。空腹に不味いものなしと言うからね」」

「確かに」


「ここは街路に面しているのでさほどでもないが、貧民街では一本入った裏道では必ず複数で行動した方が良いからな。カトーは私の後ろに立つようにするんだぞ。おかしな物や珍しい物が有っても不用意に近づかないのが一番だからな」

「ハーイ、了解しました」

 一口に貧民街といっても、真面目に働く労働者や見習い、奉公人、人夫など慎ましやかに生活し互いに助け合って暮らす人々もいれば、娼婦、芸人、乞食など社会的に差別された人々もいる。中には、犯罪に手を染めて暮らす者もいるんだ。


「そういえば、エミリー」

「なんだ?」

「前に獣人に付いて教えてもらった事があったよね」

「ウン」

「王都では、獣人は未開の民族として差別されているって言っってたけど」

「残念だがな。私は詳しくは知らないが、話によると人族とあまり変わらず、むしろ優れた身体能力を持っているそうだ。大柄である事以外は、外見ではあまり違わないぞ」

「へーそうなんだ会った事あるの?」

「二度ほどだがな。人と見分けはつかんぞ。特徴と言えば……ウーン、ただ、とんがり耳であるというのが違うぐらいの差だな」

「変わんないんだ」

「そうだ。シッポは無いからな」

「それは残念」

「マ、カトーも会えるかもしれんぞ。王都には小さなコミュニティがあるからな。ひょっとして、彼らもこの中に居るのかもしれないぞ」


 ※ ※ ※ ※ ※


 そんな話をしながら食堂から出て、何気なく廻りを見ていると路地から何かが出てきた。動かない。どうやら、あれは座り込んでしまった子供のようだ。おかしな感じなので、近寄って話を聞いてみた。なんかフラフラだな。念の為、怪我がないかあちこち触って傷の有無を調べてみる。

 8才ぐらいの女の子で名前はアデラといい、母親のタティアナと地下の薄暗い部屋を間借りして住んでいるらしい。要領を得ない話なので、アデラと一緒に母親の様子を見に行く事にした。


 住んで居ると言う場所に入ると、入口から少し離れたベッドで、母親と思われる女の人が横たわったまま動かない。4メートル四方の部屋には、生活が苦しいらしく金目の物は見当たらない。

「ウヒャー、大変だ。アデラ、寝ているのはお母さんなの?」

「ウン」

「そうかー、良し。お母さんはすぐに良くなるからね」

 取り敢えず、アデラと母親のタティアナにも目をつぶってと頼み、フードを被ってピカッと魔石・小で癒しの魔法を使う。あちこち触って、怪我や病気があるかどうか確認する。

「お巡りさん、こいつです」

(幼女に母親にと、日本なら事案発生です。という、冗談が有った事を思い出した)


 貧民街では、聖秘蹟教会による食事の施しが行われている。2日ほど前の事、アデラは留守番をして母親のタティアナは当番制の配膳係として出かけたそうだ。

 いまいち元気が無いので、タティアナさんに聞くと、体調もそうだがお腹が空いているようだ。話を聞く間に、エミリーには先ほどの食堂へ食べ物を買いに行ってもらった。王都でも器を持って行けば普通に買う事が出来る。

「チョット無理したのかもしれません。戻って来た夜に熱が出たんです」

「無理はしないで下さいね」

「エェ、そのつもりだったんですけど、遊んでいる訳にはいかなくて。流行り病なんでしょうか? ここ4・5日で教区の多くの人が熱で寝込んでいると聞いてます」

「病人なんですよ。もしもの事があったらアデラちゃんが泣きますよ」

「分かっているんですが」

「ひょっとして、お金の事なんですか」

「エェ、そうなんですが……」


「お母さん、大丈夫かな?」

「あぁ、大丈夫だよ。アデラも、お母さんと一緒にご飯を食べようね」

「すみません。見ず知らずの方に、こんなに親切にしていただくとは」

「イエイエ、袖振り合うも多生の縁て、言うじゃないですか。ア、こっちでは言わないか。困ったときはお互い様。マ、熱もなさそうだし、連れが食堂から何か持って来ると思いますので食べて下さい」

 アデラを見ていると、お腹を空かせていそうなのが分かる。お金に、かなり困っているんだろう。金貨の入った財布代わりの革袋を、タティアナの手に握らせた所にエミリーが戻って来た。エミリーに見られた。偽善者みたいに思われたかもしれないが、何も言われなかった。


 話をしていると、男の子が飛び込んできた。

「タティアナさん、大丈夫ですか。アデラ、怪我はないかい? こいつが何かしたのか?」

と僕たちの方を見てけんか腰で話してきた。

「オレのいない間に、押し掛けてきたのか!」

「待って、お兄ちゃん。この人たちは良い人だよ」


 アデラとタティアナさんが、直ぐに誤解を解いてくれた。この子はファブリシオといい、アデラの幼馴染で近所の10才の男の子だそうだ。ファブリシオが気にしたのは借金取りだ。ここら辺の者は、たいてい金を借りている。取り立てには、力ずくという事もあるらしい。タティアナさんは27才の美人さんだ。先日も色街に売り飛ばそうとされた所を、なけなしのお金を払って待ってもらったそうだ。


「そうか、すまなかったな。俺は、ファブリシオ・ルナ・パストルって言うんだ。この下町の事は詳しいぜ、何かあったら言ってくれ」

照れるようにファブリシオが謝ってきた。手を合わせて礼を繰り返す親子と別れて、ファブリシオに話に出た近くの教会まで様子を見に連れて行ってもらう事にした。


 ※ ※ ※ ※ ※


 聖秘跡教会は、イリア王国でもかなりの財力があり独自性が認められている。王都ロンダには、教会も城壁内の各所にある。

「カトーの所には教会は無いのか?」

「あるけど」

「なら分かるだろう」

「そうは言ってもね。日本の古都にも防衛施設として寺が作られたようだけど」

「町造りの基本だからな」

「こんな石作りの堅牢な施設じゃないよ」


「フーン、そうなのか。イリアを含めてこの大陸では教会と言えばこんな感じだぞ。時を鳴らす鐘楼は物見台の役割をもつしな」

「時報を鳴らすためじゃないの?」

「それもあるが、緊急時の早鐘や連打で異変なども知らせるし、情報の伝達施設の役割もしている。それだけじゃないぞ、気付いていない様だから教えるが、会堂にはあのように矢狭間が作られている。窓は小さく壁は厚くしてあるしな」

「そうなんだ」

「教会の出入り口は人が2人並ぶ位の大きさで防御しやすい」

「ウン」

「堂内には、井戸が用意され籠城も出来るようになっている」

「へー凄いんだ」

「頑丈そうな石垣が組まれた墓地も見えるだろ」

「ウン」

「あれも、いざという時は地域の避難や救護場所としても使われるんだ」

「そうなんだ」

「防戦の場所としても機能するように高めの石垣なども作られるしな」

「へー」


 教会も地方では、荘園など土地を持った領主と同じある。院長が、元騎士職だったりする例も少なくない。荘園には、過去に反乱を起こした領民や盗賊も入り込む。農奴と言う借金奴隷が送られる処でもある。他の領主との争いもあり、貴金属の祭器が略奪される事もある。この教会の防備は、盗賊の略奪というのもあるが治安の維持に対しても有効だ。


 王都第九聖秘蹟教会の裏にある、施療院からは食事の時間らしく、病人や障害を持つ者や老人、恐らくは孤児だと思われる者達が出入りしていた。施設の費用は金持ちが賄っており、富を持つ者は教会に寄付金や遺産なども出しているようだ。

 このように富豪が慈善施設を作る事もままあるらしい。これは教会に財産を喜捨しない者は、天国に行けないと言う教義が幅を利かせているからだ。

(教会に財産を、と言う処。ここ重要)


 もちろん喜捨する先は教会であるが、お金が寄るところにはいろんな事が起こりがちだ。豊かな人々は、喜捨により貧民を助ける事で、自分が天国へ行けると思っている。自分達が、死後に天国に行くために寄付を行う訳である。何処の世でも、人は自分だけが可愛いいのかもしれない。とは言っても中には、本当に善意で奉仕している人も居るのだろうが。


 教会に入って様子を見てみると、具合の悪い人が大きな部屋だけでなく、廊下にまで溢れて座り込んでいた。なるほど、病人が多そうだしケガ人もいるようだ。 

「エミリー、どうしよう。大変な事になっているよ」

「言っても無駄かもしれないが、関わり合いにならない方が良いかもしれないぞ」

「癒しの魔法を使ってみる。いい機会だと思えるんだ」

「情け深いのは感心するが、何時か身を滅ぼすような事に成るかもしれないぞ」

「大丈夫だよ。今は地味なありふれたローブで目立たないし、魔法を使う時にフードをかぶれば、見えないから分からないよ」

「そうだと良いのだが?」


 部屋の裏手で、フードを完全に被って透明になる。結界が張られて、僕には魔法が効かなくなる。込み合った部屋では、透明になると人がぶつかって来る恐れがあるのでエミリーが先導してくれる。部屋の中心にある机の上で、ロウソクの明かりがボヤっと点いている。机の真ん中に、ローブから魔石・大を取り出して据えた。見ている人がいたら、いきなり手と魔石がニュと出てきたように見えたかもしれない。


 魔石・中では心もとないような気もする。まだ効果の範囲が分から無い。大は小を兼ねるという。この際、魔石・大にしておこう。一歩下がって、癒しの魔法を念じる。エミリーはすかさず隣に立った。魔法が発動すると、一瞬、魔石がまぶしく光輝いた。ピカッとしたらもうOK。


(ローブで防御結界が作りだされるので、僕には若返りする魔法は効かない。癒しの魔法は、無くなった血は関係ないのかな。時間を捲き戻すような魔法。虹色の魔石・大を使用したので1年分肉体が戻るはず。おまけに気分は良くなって、体力は絶好調)

ぶつからないように、エミリーと一緒に出入り口に戻り教会を出る事にした。


「おい、何かおかしくないか。気分が」

「お母さん、僕もう元気だよー」

「動ける、動けるぞ。足が動くんだ」

「私、もう大丈夫。起き上がれるわ」

「腕のケガが治っている。これで、働ける」

「じいさん。おいら、もう駄目だと思っていたよ。それなのに元気一杯の気がするぜ」

部屋の中にいた者はもちろん、廊下にはみ出ていた人々も驚きの声を上げる。

「奇跡じゃ……」


 第一王子セシリオ・アルバラード・バレンスエラ・カナバルの、影とも呼ばれる密偵にその奇跡を見られていた。カトーの思いとは裏腹に、教会の病人の一人が密偵で一部始終を見られていたのだ。そう、フードを被る前からの事を。何気なしに見た先に居たカトーを。急に姿が見えなくなり、何か光ったと思ったら体が楽になった。体力も戻ったと思ったら、目の端に人が現れるのを見たのだ。


 密偵として様々な訓練を受けたし、出来事を見知っているがこんな事はざらにある事ではない。とっさに、2人を追跡する事にした。頭巾を被り直し、とんがり耳を隠して後を追う。獣人の体力が戻れば、追跡など雑作も無い。かなり離なされていたが、教会から北門に向かって歩いている2人に追い着いた。

 しかし、城門を過ぎて北の森に入った所で見失ってしまった。不思議な事に、この先のビルバオ街道は曲がっていて、人が歩いているなら遠くからでも見えたはずだ。

「セシリオ様は、ありのままの報告が貴重だと知る方だ」

影は自分が癒やされた事を含めて、すべてを報告する事にした。


 ※ ※ ※ ※ ※


 王都第九聖秘蹟教会の出入り口の近くには、募金を兼ねた木箱が置いてある。献金、募金、浄財、賽銭、色々呼び名はあるみたいだが、この教会の活動費の一部になる。王都第一聖秘蹟教会を参拝した時のように僅か40エキュの銅貨を入れる事はせず、エミリーの分と僕の分で2個の金貨の子袋を入れる。ゴトン。ゴトン。

(2キロ近く、軽くなったと思うよ)


「どっこいしょ。フゥー、少しだけ軽くなったかな」

「カトー、今何をした?」

「献金、募金、浄財、賽銭。ウーン、アァここに寄進箱と書いてあるから寄進かな?」

 エミリーが「あほな」という目で見ている。

「2キロの金貨だぞ!」

「だって、お腹が冷えるし重いんだよ」

「ウーン、嘘だと言ってくれ」

「2袋だから、エミリーの言った通り2キロだと思うよ」


 王国金貨の1000枚15キロの内、エミリーはベストに11キロ、僕は4キロを腹巻のように体に付けて歩いていたんだ。タラゴナに、持って帰る軍資金の金貨だ。実は、宿に置いてあった魔石の手付分15キロが有るのを、2人とも出発するまで忘れていた。宿に置いておく訳にはいかないし、15キロなら持って行けると思ったが、装備とお土産も有ったんだ。こんなの持って、もう歩けないよ。金貨を減らすのに丁度良かったんだよー。


 北の城門を出て、絨毯を隠した森まで二時間ほどだ。

「あれ? そういえば。エミリーさん、確か19才でしたね」

「そうだが?」

「今回、タティアナの所で3カ月。教会で、1才若くなり今18ですよ」

「ウフフ、18か。いいかもな」

さっきまで気落ちしていたかのようなエミリーだが立ち直りは早いみたいだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ