警備ユニット
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いまだステーションの探索中である。ここの備品庫には、金属製の大きな箱と一廻り小さい箱が置いてあった。エミリーを呼んで、外に出そうと思ったが2人で動かすには無理な重さだった。小さな方でも300キロ位あるかも知れない。
取り敢えず蓋を開けてみる。柔らかそうな梱包材に囲まれて、繭玉の様な乳白色の容器に何か入れられていた。あちこち押してみるが変わりは無い。鑑定魔法で中を覗いてみようと思って魔力を込めたけど、そもそもそこまで鑑定の力は使えないし。
「オーイ、カトー。何やってんだ。キャンプの用意をするぞ」
「ハイー、今行くよ」
(気にはなるけど暗いし、誰もいないからスマホを取ってくるのは明日でもいいか……)
ざっと見まわして、外に出てきた。スマホを備品庫に忘れた様だけど。外は陽が暮れそうになっている。早くキャンプの用意をしないと不味いだろう。今日は、エミリーには狩りに出てもらったし。僕は一日中、ステーション内を探検していた。おかげで魔法やテロの事も知った訳だが、少しお疲れだ。
イリア王国歴180年15の月3日
「カトー、今日は?」
「昨日の続きをするつもりだけど、エミリーは?」
「食料の調達かな? 昨日、罠を仕掛けて来たが掛かっているかどうか見て回るつもりだ。掛かっていなくとも、ウサギぐらいは持って帰れるよ」
「ウン、助かるよ。じゃ僕はステーションの中で調べ物を続けるよ」
「そうか、なにか発見出来ると良いな」
翌朝、備品室にスマホを回収に行くと驚く出来事があった。昨日と違い朝日が差し込んだ部屋は明るくなっている。昨夜そのままにして出た重そうな箱の正体が分かった。中身は警備ユニットとサービスユニットの各一台。繭玉の様な乳白色の容器に入れられていた。
「エ? 警備ユニットとサービスユニット?」
よく見ると「最初に読んで」と「ホムンクルス使用説明書」と言う冊子と本がふたの裏に付いていたのを発見した。確かに暗かったし、当時はここに張っておくのが常識だったかもしれないけど、もっと見つけやすい所に付けておいてよー。
「最初に読んで」からだよな。何々、本品は状態保存の魔法が掛けられており、常に最高の品質が保証されております。開封後には利用者登録を速やかに行って下さい。ご利用なさるまでは本ケース付属の魔力絶縁手袋を必ず使用して下さい。尚、使用権限者以外は誤認証回避の為、素手で絶対に繭の頂部を触らないで下さい。使用権限を持つ者が、ケースを開けると認証パスコードが確認されます。
認証パスコードが確認後に、繭の上部に手を充て、個人または使用者パターンを少量注入して下さい。初期設定には五時間ほどかかります。また、初期設定では自動で外皮の細胞が形成されます。データを用意して、ご希望の体型と容姿を決めてから行う様にして下さい。とある。設定終了後、五時間は目安です。外皮の細胞の大きさによって時間は異なる場合があります。
作動準備完了後、中央のピンクの脈動が消えており、繭が硬化してヒビが入れば起動準備完了です。
(完了って、その後どうなるの? ヒビって言うのはこのヒビの事なの? この後の事が分かるような気がして怖い!)
結果が分かってから反省したよ。書いて有る事が良く分から無かった。しっかり「ホムンクルス使用説明書」を読んでいれば良かったんだろうけど「最初に読んで」だけだったからな。マニュアル読まない方だから、こんな事になっちゃうのかな?
「警備ユニット」汎用魔力工作物。ホムンクルス男性タイプ。戦闘用モジュールによって重強化可能。多言語翻訳機能及び外交プロトコル準拠。自己学習・自立作業可。ハウスサーバント及び家庭教師可。連続稼働日1000日。
「サービスユニット」汎用魔力工作物。ホムンクルス女性タイプ。戦闘用モジュールによって強化可能。多言語翻訳機能及び外交プロトコル準拠。自己学習・自立作業可。ハウスサーバント及び家庭教師可。連続稼働日1200日。
その後です。繭を破って出てきた2台、警備ユニットとサービスユニット。いや人型ですので2人? に面接した。ステーションのサポート要員のアンドロイド? ホムンクルスだったのか? ハイ、薄々気付いていたかも知れないが、これはやっぱりヒナの刷り込みだね。インプリンティングやっちゃいました。目の前にいたし他に人もいないので使用権限者として、確認し登録されたんだろうね。
警備ユニットとサービスユニットにご主人様って言われそう。説明書通りなら、優秀な執事とメイドになれるよね? 男性タイプの名はセバスチャンと直ぐ決めたが、女性タイプはエマになるかな……かなり候補が多いし。取り敢えず、魔石がエネルギーとして交換が必要と言われた。魔石が無ければ短時間なら稼働できるが、魔力エネルギーが無くなるとスリープモードに入るそうだ。
最初の魔石は腕時計や家電に入っている初期電池やお試し用だという事ですね。不都合な場合や再設定が必要な場合は、稼働後5日以内にお客様送料負担で工場まで送り返して下さい。とも書いてある。でも、600年も経ったこの時代。どうすれば良いのかな?
マニュアル読まない方だから、こんな事になっちゃうのかな。なんて言ってないで「使用説明書」を最後まで読んでおくべきだった。各ユニットは「使用説明書」を読んでいれば服が要ると言うのが分かったのに。
人間に似せてある為、食物摂取すれば、外装に細胞を構成可能で、脂質、核酸、タンパク質等、もろもろを変換して筋肉や皮膚組織を纏う事が出来るとある。
警備タイプは40才台のターミネー●ーみたいですね。メイドタイプは30才台でバイオハザード映画、傘のマークのアリスさんそっくりですね。近くにあったスマホの映画データで作られたそうです。昨夜、備品庫に忘れたままだったからかな? 食べ物は人間と同じ様に口にすれば良いらしく、筋肉や皮膚組織が作られるし維持するにも少量の食物で良いそうです。いざとなれば旨いか不味いか別にして、体液を抜けば食用にも出来るそうだ。全く誰が考えたのか。
「で、カトー。この二人は?」
「警備ユニットのセバスチャンとサービスユニットのエマさん」
「セバスチャンは呼び捨てで、エマさんとさん付けするのは? ……イヤ、そこじゃない。何故いるんだ?」
「夕べ、見つけて今朝行ったら、こんにちはって感じ」
「お前はー!」
今、僕はかまどで料理をせっせと作っている。大きな猪でしたが半分になりましたね。昨日、エミリーが仕掛けて有った罠で獲った猪を2人がムシャムシャ食べている。随分と痩せているので、大量のタンパク質入用だそうだ。筋肉をつけてスマホのデータに近づけているそうだ。それは良いんだが……言いにくい話だが、全裸の人間そっくりなユニットが横にいるって事です。
マ、目のやり場がね。エミリーもね。呼び名はもちろん「警備ユニット」はセバスチャン、「サービスユニット」はエマで決定した。魔力エネルギーは手持ちの魔石で間に合ったが、服は無いので代わりに大事なとこだけでも毛皮を使おうと思っています。
(ハハ、名前はターザンとジェンーにした方が良かったかな?)
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焚き火を見ながら考えている。セバスチャンとエマはとても優秀なようだ。ホムンクルスと言うらしいがAI搭載のロボットかアンドロイドの進化型といったところかな? 並の人間は到底かなうとは思われない能力を持っている。2人とも僕の事をご主人様と言ってくれるし、これから、きっと役に立ってくれるに違いない。一応、見ない事にしてそのままスリーブ状態と言うのも考えたが、必要なのは魔石だけで良いみたいなのだ。
お給料もいらないかな? さすがに気が引けたので、普通に雇ったと言う感じで行こう。僕も含めて普通の日本人は執事とかメイドとか、どう対応していいのか分からないんじゃないかな? 植民地を持っていたヨーロッパの人は、苦も無く扱えると聞いた事が有るが。頼むんじゃなくて、命令するなんて気を使うよな。でも、この世界はそんな感じだし、慣れるしかないのかな?
このまま王都へ行くか、一番近いアルカンテの町へ行くか迷う。結局、王都から戻って来るまで、この転送ステーションで待ってもらう事にした。やっぱ、アンドロイドみたいな人工物なんだが擬人化してしまう。でも人工生命体なら物扱いにしても良いのかな? 難しい考えは止めて、普通にセバスチャンとエマとして接することにした。
(見え張らずに、やっぱ問題は先送りだな。ウン、日本人の十八番だし)
「カトー、決まったか?」
「ウン、2人には、僕達が王都にいっている間にステーションにある、役立ちそうな物や設備を解体して集めてもらおう」
「ホー」
「ステーション自体は、状態保存の魔法が掛けられているみたいなんだ」
「そうか」
「魔石エネルギーが、有れば稼働すると思うが操作方法も分から無い。でもセバスチャンやエマなら知っていると思うんだ」
「そうかも知れないな」
「まぁ、やみくもに転送装置を動かしても、何処へ飛ばされるか分から無いしね。今は保留という事で」
「確かにな。それでいいとして、2人は状況が分かっているのか?」
「状況を把握してもらう為、600年後の世界だと色々話しておいたよ」
「戸惑っただろうな」
「そうだろうね。起動したら600年経っていたんだから」
セバスチャン達と話をしているうちに分かったが、転送方法や転送先を完全に知っている訳では無く彼らも足りない知識は学習して覚えるようだ。本が棚一杯有ったのはその為かも知れない。時間を作って読んでもらおう。僕は無理だ。後、ホムンクルス達には、何とか3原則が有って僕を危険があるかも知れない所には送れないと言っていた。
ステーションで集めた荷物は一番近いアルカンテの町へ行き、馬車を手に入れてミゲレテの村近くの別荘まで運び込む予定だ。置いてあった嵩張る本や書類は二人の内蔵カメラで撮影して荷物の量を減らすしかない。セバスチャンとエマは、空飛ぶ絨毯での移動は無理だ。一人でもかなりの積載重量オーバーだからね。
エミリーの知っていた場所を、待ち合わせ場所にして歩いてもらう事にしよう。もちろんアルカンテの町から少し離れた郊外だけど、何度か往復すれば、粗方の物を運べるだろう。
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日本に住んで居て、空の旅であちらこちらにしていますなんて言ったら、結構羨ましがられそうだがこの現実は厳しい。キャンプと言うより野営である。だが、物は考えようである。空飛ぶ絨毯が使えるようになってだいぶ楽になった。第一寒い中、歩かなくて済むし、テントやタープ、寝袋にクッション代わりの毛皮等の寒さ避けもある。タープを被せるように絨毯を覆えば、スピードは出せないが少しだけ防風防寒仕様になって移動も楽ちんだ。
魔法を覚えてからは水と火は魔法で、肉はウサギの場合が多かったエミリーがあっという間に何かしら手に入れてくれる。生活力が段違いである。エミリーは弓を使う事が多かったが、罠をしかける事もあった。クマが罠にかかっている時は目を丸くした。20才の女の人がクマを捕まえるって想像できない。タラゴナで手に入れた弓だが、エミリーは上手く使いこなせている様で本当にお嬢様だったのか? 狩人じゃ無かったのかと疑われる? 何時だったか聞いたら、得物は槍が得意だが守備隊の訓練では弓と石礫も一通りやったそうだ。
猟糧は、さっきも述べたようにほとんどがウサギか鳥だが川の近くでは魚もあった。ちなみに魚は釣るのではなく矢で射るのだ。熊や猪は、一人で狩るには危険でケガをするリスクがある。それに大きすぎると解体時間も掛かるので、ぎりぎり運べる鹿ぐらいまでを狙っているそうだ。そう都合良くは行かないのが狩りだ。重すぎると半身で美味しそうな処だけで、後はゴメンなさいして来るそうだ。
言っておくが僕の運搬力なんて知れている。今の所、僕には勢子でも無理なようだ。でも一度水のきれいな所で、僕がサンショウウオみたいのを獲って来た時、何でも食うかと思ったが、2人してお先にどうぞと勧めあった事もある。蛇は食べられると言っていたのに。
ソロキャンプの用具は、軽量で折りたたみ出来るがイスやテーブルを普段使うには少し小さい。別荘で気づけば良かったが要改善である。これも空飛ぶ絨毯が使えるようになって、持って行ける道具も荷物も余裕が出来たおかげだ。必要な基本装備品や調理器具などが増えて野営が随分と楽になった。何となくツーリングとオートキャンプの中間の感じで、ありだなと思っている。
タープに2本の棒とロープが有れば、帆柱から繋いでテント仕様に出来るので大抵の所でゆったりできるし、突然の雨でも慌てる事がない。スピードを出さなければだけど。空飛ぶ絨毯には風除けの箱よりも、衣装箱のようなチェスト風の腰かけられる物を作っても良いかもしれないな。
「カトー、料理の腕はまあまあじゃないか?」
タラゴナの市場で無いと思っていた脚付きのダッチオーブンのような器具を見つけた時は嬉しかった。鉄製で重かったので遺跡都市から持ってこれなかった。今回は、積載重量に多少の余裕が有ったので持ってこれた。煮炊きに大助かりだ。
「こいつを使えば焼き・蒸す・煮るが出来るからね」
「私よりもかなり上手いぞ」
「蓋はフライパンになるし、ローストポークなら肉の塊と野菜に軽く味を付けて蓋をして火にかけるだけで良い。道具が良いんだよ」
「そうかー」
「料理の腕が良ければだけど、スープもリゾットにパエリアも出来る」
「料理法もアレコレ知っているし」
「まぁ、ごった煮のスープは確実に出来るので有って良い。料理法と言っても、塩を少し入れているだけなんだけど」
「悪くないと思うぞ。街道の店より美味いからな」
野営だときついが、凄くワイルドなBBQキャンプだと思えばいい。エミリーは美人さんだし、体が11才ではお酒はいらない。肉が多めの薄い塩味だけの料理も出来るし、火力調整の難しい焚き火での調理も一興だ。薪にしようと拾い集める生木の枝は、煙たいし火力も炭より弱い。多少キャンプファイヤーが大きくなりすぎて火事になったとしても、灯りが足りなくて暗くて足元が危ないよりは良い。
予約も要らなくて、混む事も無いキャンプサイトで、熊や猪と自然に触れ合いえる上に、トイレも自由にそこらで出来る。但し、シャワーや自販機にバーベキュウ材料まで有る売店は無い。もちろん、帰りに寄れる日帰り温泉も無いが、他人を気にせず自由に寛げ、例えケガや病気で倒れてもほっといてもらえる。登山道や散策路は無いが、人にはつらい獣道は有る。
私は、そんなストレスフリーの自然の中のキャンプが大好きだ。
馬鹿な冗談はこれぐらいにして。明日には、王都へ飛び立たたなくちゃ。王都行きは、空飛ぶ絨毯で片道2日の予定だったし。




