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癒やされたいキャンパー。異世界を癒やしに行く。  作者: カトー
第3章 王都へ行こう
25/201

転送ステーション

 イリア王国歴180年15の月1日

 ミゲレテの村とタラゴナの町には12日いた事になる。雪はまだ降って無いが、周りはすっかり冬景色になっていた。空飛ぶ絨毯も完成したので近くを慎重に飛び回っている。何しろ大量の紐を木とペットボトルに結び付けただけで作ってあるからね。ウン、天気の良い時だけなんだけど、技量を積むために文字通り飛び回っているんだ。そこそこ練習量をこなさないと、こんなので遠出できるとは思えないからな。


 王都に向かうつもりなんだが何と言っても今は寒い冬だ。絨毯には風防をつけたいが、風防ほどの大きさのガラスは割れやすいだろうし重たいだろう。魔法使い風の幅広つばの帽子はあごで結べないタイプなので直ぐに飛んで行ってしまう。そこで革の帽子に透明ガラスで眼鏡を作り、一見すると昔の複葉機の飛行士風にしている。とまあ色々と準備も完了したので飛び立つ事にした。


「絨毯の高度は、凡そ200メートルだ」

「高度200メートルなら弓矢でならまず大丈夫だろう。火魔法の使い手なら届くかもしれんがここら辺にはいないだろう」

「200メートルだとかなり高い感じがして怖いね。日本いた頃は七十階とかのビルでご飯を食べたんだけどね」

「そんなに高い建物があるんだな」

「ウン、大きな都市には一杯あるよ」


「高度が有ると気温も下がる気がするな」

「その通りだよ。平野に居るのと高い山とでは随分と違うよ。確か100メートルで0.6度か0.7度ぐらいだったかな」

「風も強いと寒いしな」

「そうだねー。今日は風もあるし。飛んでるからね。一メートルの風で一度だったかな。体感温度が下がるっていうんだけどね」


「何処までも続いているような森の上だし、方向を見失うと大変だからな」

「コンパスが有るから良いけど、それでも方向を確認したいしね」

「高度を上げると風も冷たくて前が見づらいし、それでなくとも15の月なんだからな」

「木のてっぺんより少し上の方が良いとも思ったが高度が低すぎると、おかしな物が飛んでいると思われて矢を射かけられるかも知れない」

「やっぱりなー」

「動いているので当てにくいと思うが、飛んでいる鳥を落とす猟師もいるからな」


「エミリー、前に話した事が有るけどジェットコースターというのは安全だから乗れるし楽しめるんだよ」

「そうか」

「言いたくないけど、この空飛ぶ絨毯は空中分解の可能性もある」

「そうなのか」

「作った本人が言っている。間違いない」

「そうだな。確かに落ちると痛そうだな」

「エミリー、もう魔力を切っての急降下はとても怖くてやるつもりはないよ」

「残念だな、偶にでも良いよ」

「だからダメだって、しないよ。変な事が気に入ったんだもんだ。エミリーはジェットコースター好きな人種なのかな。落ちる事が好きだなんて嫌う人の方が多いと思うけど」


 この絨毯の大きさは横8×縦12メートル。厚さになるのかな? ずらりと横に並べたペットボトルを紐で縛って、木枠と板を乗せて絨毯敷いて20センチ程である。魔力節約用にと思い折り畳みできる帆が立ててある。追い風の時は使えるはずと思うがまだ試していない。後、最大高度は5・600メートル? かな。 横に乗っている奴は喜ぶと思うが1000メートルからの自由落下は絶対無理だ。落下経験はもうしたくない。早い事どこかでパラシュートを手に入れたいものだ。


「しかし、上がると随分と遠くまで見渡せるもんだな」

「エミリー、立たないで! そうだなーだいたい五十キロぐらい先まで見えるはずだよ」

「あぁ、ごめん。森の上ばかりだと進んでいるという感じがないなー」

「でも、この感じだと四十キロは出てるよ。最高速度は六十キロぐらいじゃないかなー、自動車で走っていた時と同じ位のスピード感なので当てずっぽうだけど」

「フーン。馬の早駆けよりは遅いのか」

「良く知らないけど、空の上だもん。普通の馬で六十キロぐらいだったかな。障害物も無いし早いんじゃないのかな」

「そうだな、考えたらみたら凄い事なんだ」


 生憎と絨毯の上には、何でもかんでも積める訳じゃ無い。前後に風除け代わりの箱を置き、間に毛皮の絨毯、(まぁ座布団だが)を広げて、毛皮の毛布を被ってエミリーと仲良く並んでお座りしている。今のところ最大積載量300キロかな? これは僕とエミリーで体重が100キロ位。荷物が麻袋と箱8個で200キロと思うので。魔法の腕なんかが上がれば数字は増えるかもしれないが、魔石を使わないと15・6分でドスンだ。


 感覚的だが、体内の魔力の30倍ぐらいが魔石・小のパワーだと思う。複合魔法を使って適性のあると思う青色の魔石・小1個で飛んでいるが、意外な事に飛行時間はかなり長く8時間位もつ。積載量によって違うだろうが、航続距離は1個当たり4から500キロになるかな?

「カトー、何かだか嬉しそうだな」

「あぁ、その事ね。色々言ったけど、実はこの空飛ぶ絨毯。僕はかなり気に入っているるんだ」

「フーン、分からんでもないな」

「エンジン音が無いので風を切る音だけが聞こえる」

「エンジン?」

「飛行機械が飛ぶ為の動力を作るものなんだけど。結構、音が出てうるさいんだよ」

「そうか、鳥の様に飛ぶようにはいかんのだな」

「グライダーのように滑空するんだ。ウーン、鳥は羽ばたいて飛び上がってからは滑る様に空を飛ぶ事が出来るんだよ」

「グライダーとやらは聞いた事も無いけど、気持ちよさそうだな。乗ってみたい気にはなるな」

「きっと、こんな感じだよ」


 平和と言えば平和だなー。こんなとりとめもない会話をしながら王都ロンダへ飛行している。地図の魔法によると、スイザの村から王都ロンダの位置までおよそ650キロ、直線なら550キロ位で100キロの短縮になりそうだ。巡航速度40キロなら15時間、1日が27時間だけど冬の昼間は短い。10時間位飛べるとして安全の為、王都まで片道2日の予定だ。 


※ ※ ※ ※ ※


 スイザの村から王都への直線だと、タラゴナとアリカンテの街道よりかなり北寄りを飛ぶ事になる。遥か北にある、レオン山脈は既に雪を被っているようだ。眼下にはうっそうと茂る暗い森が広がり、忘れたころに村がポツンと見える。北の辺境都市ビルバオに続くだろう道が、森を二つに割っている。


 アルカンテの方向を確認するために、最大高度近くまで上げて見回してみる。そろそろ野営地を探す時間だ。既に夕方近くなっている。

「エミリー、あそこぐらいでどう?」

「北寄りの森の中だな。空き地か。廻りを小高い丘で囲まれた所だな」

「そう、そこの大きなドーナッツの様な丸い形の空き地」

「いいと思う。二度ほど旋回してくれ、様子を見よう」

「あれ? どこかで見たような気がする」

「どうした? カトー、良さそうだぞ。ここなら丁度いい。ここを今夜のキャンプ地にしよう」


 野生動物や不都合な物が無い事を確かめて、中央に着陸した。立ち木も無く広場の様な空き地には、草が所々に生えているだけだ。早速、土魔法で整地と野営用の家を作り始めた。しかし土魔法で堆積した土や草をどかすと、下はコンクリート様な平らな床である。空中からは丘に見えたが地表からよく見ると、なるほど建物だったらしい。


 年月により崩れたと思われる建物の真ん中から、立派な巨木が聳えている。木の根がコンクリートの様な地を打ち割り、朽ち果てた木々が折り重なって敷地の境界が曖昧になっているようだ。思い返せば、遺跡都市メリダに転移して来た時はガレキで囲まれた中、直径200メートルほどの空港の様な広場に立っていた。


 遺跡都市の転送ステーションと同じ様な感じだ。ここの方が規模は小さかったのだろう。空き地の直径は100メートルちょっと位だな。同じような転送ステーションだとしたら、ここにも管理室か事務所があるかもしれない。同じ作りなら半地下のはずだ。と見廻したら案の定、草がまばらに生えた大きな溝の後ろに階段を見つけた。

「カトー、ここって? 前に話していた様な所だな」

「そう、僕が転移して来た所に似ているんだ」


 流石に緑の侵略者も、ここまでは手が出せなかったようだ。今度は、施錠がしっかりされた金属製のドアがある。この出入り口の向こうでは、残された物も無事に違いない。おそらくこのドアの向こうには、パスカードが置いてあったと同じような部屋があるはずだ。


 見廻すと、このドアの横には認証用みたいな装置があり、パスカードを当てるような小窓の枠がついている。僕の持っていたカードを当てみたが何も起こらないので少し考えてみる。エネルギーかも知れない。軽く魔力を意識してカードを当て直してみるとドアがプシュと音を立てて5センチほどだが開いた。


 ※ ※ ※ ※ ※


 エミリーが力を入れてドアを押し広げてくれた。やはり小部屋がある。さらに奥にはドアがある。 

「同じような装置が壁に埋め込まれていると思うけど」

「どこだ?」

「ウーン、取り敢えずあちこち押したり撫でたりしていたら開くんじゃないかな」

「そうかなぁ」

「いまドアがカチッと鳴らなかった?」

「鍵が開いたようだな」

「これ手のひら認証みたいだね」


 思い切って一歩を踏み出す。よどんだ空気の室は当時のまま残されていたみたいだ。ここは以前、エミリーに話したように同じような管理施設で間違いないだろう。取りあえず明かりをつけて探索してみる事にした。室内を探して感じたのは、ここは破壊を免れていたという事だ。明り取りの窓には、土が被っているのだろう部屋は薄暗い。室の中央にランタン置き、エミリーは手回しラジオライト、僕はヘッドライトだけでは暗いので、スマホのライトも点けて探してみる事にした。

「エミリー、これなら片手で使えるよ」

「あぁ、ありがとう。右は槍を持ちたいからな。カトーは杖か? 大丈夫か? ミスリムのナイフなんか先につけて」

「ウン、少しでも長い方が安心できるから」

「そうか」

「どう?」

「生き物の気配はしないな。だが気を抜くな」

「了解。でも良かったー」


 思った通り発行前の免許証サイズのカードは、机の中にしまわれていた。部屋の中は整理されているが、あわただしく移動したような感じがする。多くの物がそのままで、明日から連休が始まるという退社時の様な雰囲気だ。

 

 ここには色んな物があり過ぎだ。久しぶりに高度な文明というのを感じた。部屋の左手にはロッカールーム、シャワールーム併設トイレ、給湯簡易調理室、備品庫等がある。中でもメインコントロールと思われる主室のコンソールは、スイッチを入れればすぐにも動きそうな感じだ。ということでプチッと押して様子を見て見る。エネルギー切れているみたいで、やっぱり動かない。


 給湯室には私物だろう食器、備品室だったと思われる部屋には、暴漢鎮圧用品のサスマタ・伸縮警棒から応急用品の担架かもしれないがストレッチャーや組み立てベッド、園芸用品もあるし引き出しには植物の種らしき物など様々な物が置いてある。


 主室の机で、見つけたキラキラしたカードの鏡の様な面にエミリーの顔が映る。エミリーが一枚のカードをジッと見ているとピカッと光ったので登録完了したらしい。

「これでいいのかな?」

「いいと思うよ、光ったから。しばらくするとエミリーの顔が浮かんでくるじゃないかな」

「あぁ、いま絵が出てきた。けど、暗い表情だな。もっと上手く写せないのかな。髪型も、いや、前髪が、ここは光があたらないし」

ホログラムを見ながら、エミリーがブツブツ言っている。

「右側はきれいに撮れているのに、ここら辺もう少し可愛く撮れないのかな? 撮り直せるかなー。カトー、どう? おかしいと思う?」

 エミリーも魔力があるので登録できたらしい。サイズは一緒だが今まで無かった赤い枠で縁取られている。僕のカードには無かったけど何でなの? 


 壁の大型ボードには、緊急として全第3級転送ステーション宛てと書かれた紙が貼られていた。

(全第3級転送ステーション宛てという事は、他にも多くの転送ステーションが有るという事になるぞ)

 カードと一緒に見つけた書類からも、いろんな事が分かってきた。それにしても翻訳魔法マジ凄い。書かれていた事もかなり凄いけど。


1、テロリスト集団の攻撃により、ムンドゥス各地に隕石が落とされた。被害はムンドゥス全体に及んでいる。この大陸では、隕石落下攻撃により、中央都市ベルト帯にある中央管理施設と上級ユニット達が破壊された。以後、この事は隕石テロと呼称される。

(後で分かったが中央都市ベルト帯とは、現在のケドニア神聖帝国の中ほどにある帝国中央山脈からリューベック川南岸までの都市群の事である。中央都市ベルト帯は、ムンドゥスで有数の産業集積地でもあり穀倉地帯でもあるようだ)


2、未確認だが、隕石テロにより攻撃された中央都市ベルト帯では、大火災により中央山脈が赤く染まった程で、都市群は壊滅したと思われる。

(これらの都市群の中で、防御結界が機能して唯一生き残ったのが、ヴィータらしい。エミリーに聞くと現在のケドニア帝国の帝都となった都市の名前と同じだそうだ)


3、連絡途絶の都市が多く、重大被害が広がっており、魔石の研究・生産施設からも連絡がいまだに無い。

(この惑星全体に転送ステーションのネットワークがあるらしい。この場所は転送ステーションであるが転移ステーションではない事。ウン、第3級転送ステーション宛てとあったし、3級って? 下位か地方の事かな? 当然、転送なら遺跡都市メリダとも繋がっていただろうし) 


4、テロリストは駆逐された訳で無く、再度のテロを警戒し備える事。尚、緊急事態が宣言された為、人員は緊急時対応管理施設に移動し、一時的に第3級転送ステーションは閉鎖される。


5、施設の設備は、状態保存魔法により出来るだけ保護し保存に努める事。自動モードで防御結界を優先して動かし、魔石エネルギーが再充填されれば、転送装置も含め全機関を稼働可能な状態にしておく事。

(状態保存の魔法? 魔石の補充が出来なかったので自動停止のままになったのかな? 通常の管理要員は、人間は2~3人・ホムンクルスの警備ユニットとサービスユニット各1台で運用していたみたいだ。ホムンクルスって何?)


6、攻撃及び防御魔法所持者は、対策本部に集結し戦闘に備える事。

 (何処だろう? エルベ川沿いの巨大ホテルって書いてあるが、バックアップセンター?)


で、役に立ちそうな物だと思うのが、管理マニュアルと使用手順書一覧。なんと部屋の一方の壁を天井まで埋め尽くしている。この大きな書架から取り敢えず、絵が沢山あって簡単そうな本と薄めの冊子を、5冊ほど選んで読む事にした。字が一杯だ。書いて有る字は分かるが、意味が分かるほど理解力がある訳では無い。

(だって、転送理論なんて分かると思う? 残念な事に、この一杯の書架には漫画で描いてあるハウツウものは無いらしい。僕の理解力が足りないんだろうかね?)


 「第3級転送ステーションの管理法・初級編」「転送管理者の心得ABC」「初級魔法入門・あなたも今日から魔法使い」「不法魔法追跡27時間」「聖アレキ帝国の遺跡発見・月のリングは何故出来たか」

この5冊、選んだけど分かるかな……。

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