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癒やされたいキャンパー。異世界を癒やしに行く。  作者: カトー
第3章 王都へ行こう
24/201

タラゴナだ

 イリア王国歴180年14の月5日

 レイナとルイサを見送り、スイザの村近くのキャンプ地から王都へ移動である。キャンプ地……もう別荘で良いか。別荘への道は見つからないように小山を作って隠し、作った物はそのままにしておく。ここら辺は王家直轄の猟場近くなので、厳しい規制が有るので猟師も近寄らないそうだ。触らぬ王家に祟りなしという事で人はまず入り込まないだろう。


 タラゴナの町へ行くには村を2つ通り抜ける、シエテの町から、プレトリ村まで3日、ミゲレテの村まで2日、そして2日かけてタラゴナに着くという事だ。そうそうエミリーと、ぜひともミゲレテの村に行かなければならない用が有る。ガブリエルが教えてくれた通りなら母のデボラと妹のソフィアが隠れ潜んでいるはずなのだ。

 ミゲレテの村には、エミリーの乳母だったレアンドラ・サラゴサ・ブリトが住んでいる。息子のルカス・リマ・ブリトは聖秘蹟教会の下働きをしているとの事だ。幸いレアンドラの家は、村はずれにあるのでコッソリ近づく事ができた。しかしロバの世話と荷物の事もあるので、僕は居残りエミリー一人で向かってもらう。万事良かったら後から行くという話になった。


「こんにちはー。エミリーですー。お久しぶりです。レアンドラ小母さん居ますか?」

「ルカス、エミリー様だよ。大丈夫、剣をしまってこっちへ来てね」

「あぁー、エミリーお嬢様なのですか。お久しゅうございます。大きく成られて、見間違えましたよ」

「ルカス、なに他人行儀みたいに。あんなにお姉ちゃんと懐いていたのに」

「そんな事、久しぶりだというのに。そうだ、すぐにも会わせたい人がいます。どうぞ入って下さい。お嬢様、絶対に驚きますよ」

ドアを開け次の部屋に通されたエミリーの眼には懐かしい3人の顔が飛び込んできた。

「エミリー、エミリーなの? ソニア、パパに知らせて」

「お姉さんなの。パパ、エミリーお姉さんが来たわ!」

ドラマにあるように家族が揃って涙のご対面である。レアンドラの家には、父のイバン、母デボラ、妹ソニアの3人が無事匿われていた。


 その後暫くしてからエミリーが戻って来て大体の事教えてくれた。運命はイバンを見捨てなかったようだ。神の加護なのか折よく教会にいたルカスは、墓に投げ入れられたのは自分の母が乳母をしていた、商会の元主人のイバンだという事に気づいたのだ。虫の息のイバンを急ぎ村まで連れ帰って母と共に手厚く看護したのだ。

 助かったのは奇跡的だったそうで、ルカスが見つけて運んでくれなければ、亡き人になるところだったとデボラが涙ながら礼を言っていた。イバンは死の一歩手前で助けられたが、残念ながら未だ床に就いたまま臥せっている。


 ここで癒しの魔法を使わなくっちゃ。魔石・小を発動すれば、元気な状態に戻れるはずだ。エミリーが僕の魔法の事を説明して、部屋に皆を集めて目を固くつぶってもらう。透明になるのを見られると色々と差し障りも出るのでフードを被って結界を作りピカッと癒しの魔法を発動した。僕はそのまま、イバンもみんなも元気になっては若返る事になる。

 魔石・小でも3か月戻るし、おまけに気力・体力も十分になる。未だに、どうして時間が戻るのか? 何故、体調が絶好調になるのか良く分からないままだけど。

「ま、良いか。ハイ、目を閉じて」

 エミリーさん、そんなに近くに居なくても効果は変わらないと思いますよ、若返るのは内緒にしておきますからね。こう見えても女性の若さに対する執着は知っているつもりなのでね。でも19才相当なら妹のソニアさんより若いって事になりません? まぁ一緒に若くなるみたいだから、いいけど。


 ※ ※ ※ ※ ※


 イリア王国歴180年14の月13日

 僕とエミリーはイバン達と一端別れを告げ、乳母の息子のルカスと一緒にタラゴナの町へ向かう。懐いていたロバ達だか荷物と一緒に、レアンドラの家に預けて身軽になって商会を探るつもりだ。  


 2日後、目的地のタラゴナの町へ着いた。この地はエミリー父イバンを陥れて乗っ取ろうとする商会主のガビノや、不都合な手紙を燃やした領主のカミロ子爵がいる所だ。

 タラゴナの門番に一人300エキュ(約80円)を従者役の僕が入城料を出した。二人で600エキュ。ちなみに自家用? ロバなら一頭300エキュ、人間と同じだ。ここタラゴナでも荷物については一人5個まで無料なのは変わらない。この町にはエミリーの父の事件の情報を集めるため滞在する事になる。僕達より少しおいてルカスが町に入って来たようだ。彼は住人では無いが教会関係者なので入城料は無料だと聞いている。住人ではなくとも、教会関係は色々保護されているようだ。


 ここタラゴナは嘗て第三王子エドムンドによる王位簒奪の計画が噂され、王都ロンダを追放されて謹慎となった因縁の場所だ。噂によると2人の兄に計画の一部が漏れ、自分からタラゴナに逃れてきたそうだが。ここに逃げ込んだのは母である王の側室、クリスティナ・アマランタ・レイバ・ベラスケス妃が生まれた土地だからだ。


 彼女の家は側妃になる以前から、商人たちに利便を与えてタラゴナで勢力を伸ばして旧家だ。この町では何かと都合が良いし無理も効く。クリスティナ妃は、表向き穏便に済まそうと二人の兄に働きかけてエドムンドを追放した事にした。もちろん何年か後には王都に呼び戻すつもりだった。争いを起こさないよう、ある意味穏健ともいえる。


 まずはタラゴナの商会の様子を探る事からだ。エミリーに後ろをついて行く。エミリーは冒険者の服装で変装しているが、見る人が知り合いだったらすぐ分かるだろう。まして近所なら顔見知りもいるはずだ。道行く人々にも気取られぬように十分注意をしたつもりだが、僕たちに後ろから声を掛けて来る者が居た。

「エミリー様、エミリーお嬢様。こっちです」

「エ、誰!」

「私です。ガブリエルです。そんな所では直ぐに見つかります。こちらに来て下さい」

エミリーが振り向くと、建物の陰に隠れた人影が、声を潜めて手招きをしている。ガブリエルだった。


 町では普通は宿を取るのだが、エミリーは顔を知られているしガビノ達も探しているはずだ。どこか身を潜める良い所がないかエミリーとガブレエルが相談している。暫く相談して行き先が決まったようだ。そして三人してイバンが懇意にしていた、鍛冶屋のテオドシオ・ビダル・ノゲイラの所に向かう事になった。


 鍛冶屋のテオドシオは、口下手ではあるが実直な男との事だ。暖かく三人を迎え入れてくれ部屋に通された。もちろんガブリエルから事情を聴かされイバンの身に起こった事に腹を立てたようだ。思っていた通り、娘であるエミリーが部屋を貸してくれないかという頼み事に快く答えてくれた。隣で話を聞いていた妻のカサンドラ・ベーガ・エスコベドも賛成していた。


 ガブリエルの話によると、看守を買収して連れ出そうとした矢先にイバンを見失って悲嘆に暮れたそうだ。その後、商会を見張りながらガビノの動きを探っていた所に、僕たちがやってきたので声を掛けた訳だ。

 この時、エミリーはガブリエルにミゲレテの村での涙の再会を知らせた。レアンドラの家には父のイバン、母デボラ、妹ソニアの三人が無事匿われており、イバンの無事とルカスの活躍を話した。ガブリエルは我が事のように喜んでいたが、別れた後、エミリーが怪我をしていた事やそれを救った僕との運命に驚いた。知り合ってのち、今力を貸して貰っている事も伝えられると深々と頭を下げて礼を言ってきた。


 ガブリエル・セブロ・アラーナは先代の大旦那様に返しきれないほどの恩があるそうだ。祖父と父の二代にわたって仕えている。なんでも彼が孤児院から抜け出し、町で生き倒れそうになっていたのを救って商売を一から教え、礼儀を学ばせて教育をしてくれたという事だ。


 そればかりではなく、ガブレエルが7年ほど前にメイドとして働いていたダフネと恋仲になったそうだ。2人は年が離れていたが幸せな結婚し、家庭を築き子供を授かるが、流行り病で母子ともに亡くなってしまうという悲劇に会う。失意のガブリエルに、主人のイバンが長期の休暇を与え1年後に職場に戻るまで席を空けて待っていたそうだ。中々、泣かせる話である。


 ガブリエルの推測では、副番頭のエステバンはガブレエルが一年に渡り休んだ事で、自分が番頭になるはずだと思い込んだのだろう。彼は新店を任されるのは当然であると思っていたみたいだ。再びガブリエルが重用されて、新店を任されると聞いて恨んだのだろう。魔が差したのかもしれない。商会を乗っ取った、商売敵のガビノの言葉にも踊らされたのではないのだろうか? ガブリエルは、推測なので申し訳ないと話していたが案外そんなところかもしれない。


 事件直後、番頭のガブリエルはミゲレテの村に住んでいるエミリーの乳母レアンドラにデボラとソフィアを託した。そして主人のイバンが牢獄に囚われ病気になったのを知る。牢番を買収し逃そうとした矢先に、イバンを見失って悲嘆に暮れていた訳だ。まさか牢番に死んだ思われたイバンが教会の墓地に捨てられてしまっていたとは思いもしなかったのだ。

 ガブリエルはエミリーを探しだす事も出来ず、その後は良い考えも思い浮かば無かった。やむおえず商会を見張りながらガビノの動きを探っていた。そんな時、商会の近くでうろうろしていたエミリーと僕を見つけたという訳だ。


 ガブリエルと出会った事で、色んな情報を貰い今後を相談できた。しかし事件の糸口さえ掴めない。だが、諦める訳にはいかない。探索と見張りは続ける事となった。折よくレアンドラが乳母をしていたのはかなり前になる。副番頭のエステバンに、ルカスは顔を知られていないはずだ。ガブリエルとルカスには、引き続きイバン達の世話とタラゴナでの見張りをして貰う。

 大丈夫とは思うがエステバンと競争相手の商会主ガビノを、そしてガブリエルは領主のカミロ子爵との関係を探ってもらう。エミリーは王都に土地勘もありそれなりに詳しい。僕とエミリーはカミロ子爵の父ミテロ・マトス・ベラスコを探りに王都へ向かう事になった。



 イリア王国歴180年14の月16日

 今日は様子を探るため、大勢で動くのは止めて僕とエミリーとで人通りの少ない鍛冶屋のテオドシオの所に向かう。そして道行く途中、少し打ち合わせをしたのだ。

「エミリーは待っていて、僕は顔も知られていないし今日は一人で商会を探ってみるよ。エミリーは顔を知られているし、危ないからね」

「アーそうかも知れないな」

「エミリー大丈夫なの、熱でもあるじゃないか? 無理しないで休んでいた方良いんじゃない? ヒールいる?」

「あぁ、ちょっとふらつく様だ。何、じき治るよ。外じゃ、魔法が光って拙いだろ。折角、町まで来たんだから教会に行ってルカスに様子を聞いてくる。夕方にはテオドシオに行くよ」


 今いる教会前の広場では露店が出ておりかなり賑やかだ。町外れにある鍛冶屋の付近には店も少なく人通りもまばらのようだ。僕はおとなしく見張っていたが、エステバン商会の出入り口は警備する冒険者もいなくて長閑なもんだった。


 暫く、様子を見ていたら入り口で動きが有る。どうやらエステバンが出かけるようだ。やはりエステバンが足早に店を出行った。後をつけると、商会を狙っていたガビノの所へ行くようだ。

 ガビノとエステバンは、エミリーの口封じをしようと探し一度捕まえ損なっている。ガビノはゴロツキ達を雇いエミリーの乗っていた馬車を襲撃もしている。警戒しないとエミリーがまた襲われる。奴らは絶対、事件を闇に葬るつもりに違いない。


 そんな事を考えながら見張っていたが、夕暮れ間近には、ガビノ商会からエステバンと4人の冒険者風の男たちと出てきた。少し距離をとって後をつけると鍛冶屋のテオドシオの方に向かっている。エミリーと別れた時間から考えると、そろそろエミリーも教会から戻って来る頃になってしまう。


 エミリーとルカスは並んでテオドシオの家へ行くところなのだろう。朝から調子悪そうだったし、話し込んでいるようで背中に注意が行ってないようだ。剣を抜いて今にも刺そうとする男が飛び出た。エステバンがエミリーに襲いかかる。

(やっぱり反応が遅い。街中なので得意の槍も持っていない)

「間に合うか!」

 風魔法で突風を起こしながら、男たちをまとめて土魔法で腰あたりまで埋める。突然、身動きが取れなくなって驚いている。何とか襲撃を止めれた様だ。用心して近づいていく。エミリーも状況を悟ったのか、剣を抜いてエステバン達に近づいて行く。今にも切り捨てそうだ。その場にいる冒険者たちは聞いていた話と違う、離してくれと言って騒いでいる。


 話に有った女は、エステバンに商会の金を持ち逃げした悪い女と言われていた。エステバンが、探していた女に向かっていきなり剣で刺そうとしたので自分達も驚いている。商業ギルドで護衛として雇われただと言っている。しかし、このまま返すわけにもいかない。武器を取り上げ、後ろ手にしてエステバンの着ていたローブを裂いた縄で縛り、土魔法を解いて鍛冶屋のナタナエルの所に向かう事にした。


 鍛冶屋に着いて、冒険者たちの手足は縛られたが猿ぐつわははずされた。本当に雇われただけらしくエミリーに概略を聞くとエステバンをにらみ付けている。以前から、商会が不当に乗っ取られたと言う噂も知っていたようだ。以後この件にかかわらない事、ガビノ商会から手を引く事を条件に開放する事にした。

 ガビノに知らせてして小銭を貰うより、この事が明るみに出た時、悪くすれば殺人幇助の罪になるのは明白でためらいは当然有るだろう。突然、殺そうと襲い掛かると言う犯罪を見た証人もいるし、この国の刑罰は極端だから死刑もあるからね。


 エステバンの身柄はレアンドラの処に置く事に決め、ルカスに隠れて運んでもらう事にして、ナタナエルの家で一晩をすごした。ルカスは教会の馬車を使うので怪しまれることは無いだろう。僕たちも、王都に向かう為の装備を市場で買ってからミゲレテの村に戻る事にした。


 イリア王国歴180年14の月19日

 ミゲレテの村から少し離れて見つからないように、魔法の絨毯のセットアップだ。いよいよ絨毯の実用試験を開始した。この寒空に、絨毯を飛ばすという酔狂も、エミリーの為ばかりではなく僕のワクワク感を満足させる為でもある。寒くてワクワク感は直ぐに萎んだが。

 タラゴナの町で手に入れた毛皮等の冬装備が無ければ寒くてとても旅は出来ない。とっくに冬支度をしなければならない時期なんだ。キャンパーの冬は世界が違っても基本は同じ。防寒対策だ。冬服を買い足して野営が出来る様にしないとね。


 冬服は保温性重視だ。暖かそうな肌着を重ねてミスリムを着けて魔法のローブを着る。魔法のローブはフードを被れば暖かい事には違いないが、如何せん姿が見えなくなってしまう。度重なる衝突事故に遭遇した僕達はフードの仕様を最低限にする事にした。その為、追加の衣類は必要だったんだ。選んだアウターは風が通りにくく防水性もある毛皮の上着と帽子。これで外見は地元民にも見えるかもしれない?


 靴は当然防寒・防水、内側がムートンで厚手の靴下を履けるサイズの物。オプションでカンジキを用意した。手袋は防寒もそうだが防水タイプがあればなお好し。冬場の主食となる穀物は市場で高カロリーと思われる副食と一緒に購入。保存食の塩漬けは、高いし辛いけど塩辛くないと春までもたないのでしょうがない。タラゴナは内陸なので塩自体も高いがようだ。だが、食料は必要なので止むを得ず購入する事にした。


 寒くなると凍る水は、今回も水魔法で十分足りる。これはチョイ飲み用にペットボトルが2・3本で済む。何かと便利なスコップとバケツは日本から持ってきた折り畳みが出来る物にした。今では、魔石を使わず体内魔力で作れる家は別荘の5分の1ぐらい。それでも体内魔力は増えてきていると思う。この世界の空気を吸ったり水や食物をとったりしているかもしれないな? 


 土魔法も作るだけでなく、元の様に壊したり均したり出来るようになった。取り敢えず野営に使うにしても、もはや立派な家。土魔法と水魔法によりテーブル・イス・焚き火台・かまども解決。中は一間だが大きく壁を作り、真中にペチカタイプのかまどを作って火魔法と薪で熱くする。熱放射があるほどになるのは2・3時間掛かるが一晩中ポカポカで一酸化炭素中毒も心配なし。


 乗って行くのは、鉄道では無く空飛ぶ絨毯だけど。

「さあ、王都 行こう」である。


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