別荘なんだ
イリア王国歴180年13の月22日
トルトサの村から、二日ほど離れたシエテの町寄りの森でキャンプしている。いると言っても、一応キャンプで野営なのだが屋敷みたいになって住んでいる。別荘とでも呼んでおこうかな。
「もうすぐ日も暮れるだろうから泊まっていってよ」
「あぁ、そうだな。二人ともそうした方がいいぞ」
「そうかもしれませんね。お世話になります。村の人が最近ここら辺で、おかしな事が起きているって言ってましたし」
「そうそう。私たち、その噂の調査に来たんです」
「へーそうなのかい。大変だね」
「アー。カトー、お前気づいてないのか。ここの事だと思うぞ」
「ギク!」
思い当たるところと言えば、
1、 木々が倒れていただけでなく微塵に砕けて飛び散っていたのは、製材して板や柱を作っていました。水魔法を併用して水分を抜いたので倒して直ぐ製材が出来るんだ。エミリーが軽くなって運びやすいと言っている。割と、大きな音がしたが僕以外いないので構わないだろうと思っていた。
2、 夜に輝く光球が空を飛び交いっていたのは、暗い夜は火魔法を松明や照明弾代わりに打ち上げていました。残業したし、花火も何時か作りたいし。
3、 今までなかった場所に小山があったのは、出てきた大猪に驚いて奴の頭の上に落としたからです。反射的に土魔法を使ったので、ちょっとした山になっていました。やっぱり平らにしてかないと不味かったかな。
4、 岩山の頂上に水源が無いのに池が出来ていたのは、水魔法で一々作るのは面倒なので、貯水槽と水道を作ろうと思って上手く行くか実験していました。作るかどうかはともかくウオータースライダーは作る事が出来ますね。水は低い方に流れますもんね。管と蛇口が作れれば水道が作れますね。
5、 整地された場所や水路の様な大きな溝、また斜面の洞穴の様な物は焼き窯の練習や失敗した物です。穴も沢山掘ったけど、おかげで良い土を見つけました。陶芸に利用出来ます。
以上ですが、全部本人として思い当たります。お騒がせして、すみませんでした。
(でも全部は知らないよねー。怒られないよね? 黙っていようかな? 二人の様子を見ると、これ気が付くの時間の問題だよね)
「お茶もそろそろいいかな? 場所を変えようか。家の中に入ってね」
「そうだな、少し冷えてきたかな。そうするか。カトー、ちゃんと2人に話しておけよ。テラスは私が片づけておくから、家の案内をしてやってくれ」
「じゃ、後はエミリーに頼んで。どうぞこちらへ」
「ワー。カトー様、ここはお屋敷みたいですね!」
「ホント凄いです。お風呂まであるし、話に聞いた高級宿みたいですね」
「あぁ、そうかも知れないね。二人には客室棟に泊まってもらうから。後で、案内するわ。食事はこっちだからね」
照明としてはリビングには、小型LEDランタン防水仕様のソーラー充電で光るランタン。これはペットボトルに水を入れて上に置くと結構明るくなる。テーブルには手回し充電ラジオライト。LEDランタンは暖かい光に設定してある。ランタンは昼間忘れないように充電すれば朝まで持つし暖色・昼間色・白色が選べる。後、ヘッドライトランプは何かと重宝。夜は真っ暗になるので両手が使える。これもUSBで充電できるしソーラー電源で繰り返し使える。
蜂蜜を取る時の副産物で蜜蝋が採れるんだ。土魔法で作られた燭台には5本のロウソクで明かりが灯されている。雰囲気は良いが明かりに使うには暗い感じがする。エミリーは気にならないと言っていたが、返す返すも日本の夜のコンビニでの電気の煌々たる照明が懐かしいと思う。
大きめの暖炉であるが、まだ暖を取る時期ではないので灯りとしては使っていない。料理に使えるか二度ほど試しただけだ。魔法使いとなれば、大釜で作るスープがとても似合いそうと思ったりしている。暖炉の前にはステンドガラスを組み込んだファイヤースクリーンをインテリアとして置いてある。後はクマの毛皮でも床に敷けば良いんだろうか?
灯りの次は料理に使うかまど。暖炉とは別に2か所に作った。台所と決めた所に2連式1台、テラスの横にピザ窯風を1台。台所のかまどは、土と水と乾燥させた藁っぽい草でまぜまぜして真中に穴と手前に焚き口、真中に穴、後ろに排気用の煙突を取り付けて出来上がり。ピザ窯風は工程が増えたが基本は同じ。ピザ窯と言ってもここムンデゥスではトマトをまだ見ていない。よってピザソースの無いピザである。マ、正統派? のピザとは言えないかもしれないが構わないだろう。
窯の土は同じ小山を作り、砂を盛ってから枯草で覆ってコネコネした粘土で覆って、風魔法と火魔法で乾燥させて、もう一度粘土をペタペタして乾かす。良く乾いたら中身の砂などを取り除いて出来上がり。乾燥中は雨に気をつければOK。
遺跡都市から持ってきたのはクッカー2組だけなので、土器に挑戦した。粘土層と砂礫層が混ざっているのが理想だが探してみるとここには結構あったんだ。大きいの甕なんかは作ろうと思っていないので、粘土紐を作り積み上げて形にして、乾燥させて野焼きにしてみた。
ひと手間かけて薪の上に土器を置き藁に似た草をかぶせて、天辺を泥で覆うとさらに温度が上がるので作りやすいんだが黒班が出来ちゃうので造形美がね、いまいちなんだ。
楽焼にも挑戦した。皿の高台が中々上手くいかないが、これは数で勝負だ。負けました。きっと水分量なんかのせいだ。かまどだとひびが入って割れても、土で埋めれば補修できるから良いやとはいかないなー。
土鍋なら出来るかなと思ったんだが非常に難しい。何がって土が。釉薬と火魔法の温度も。失敗続きで少し落ち込んだが、別に焼き物でなくても実用出来ればいいんだ。それならばと石鍋や石皿なら削り出しで出来るじゃないかと思いついた。
そういえば石鍋は弥生時代からあるそうで、主に西日本でつくられて使われていたようだ。まあ、魔法が使えるので石さえ選べば成形は出来る。天然石の薄い厚さの皿が沢山出来た。石の薄いのは陶製の皿と同じぐらいの重さだ。模様も入ってそれなりに格好いい。後、目測で作る歪んだ丸皿よりも、縁の加工さえ上手くいけば角皿の方が作りやすいと分かった。
まぁ、陶芸はやってみたかった趣味の一つである。そこで土魔法で作りました登り窯を。斜面にね、造るんですけどモー簡単。申し訳ないほどだ。でも先に言ったように、土鍋はできなかった。それと大きな物はダメそうなので練習がてら様々な四角や丸・星形を大量に作ってみた。夢中になると言うのかコップや皿を作るのだけでも大変なのに結構遊んでしまった。小さいと乾燥も早いし。さすがに2窯も焼けば多すぎるだろうとは思っている。
「今日は4人だから、テラスのグリルで多めに焼いてくるよ。ピザもね。エミリーはテーブルセッティングと飲物をお願い」
「ああ了解した。2人とも飲み物は蜂蜜酒でいいかい? つまみは猪ジャーキーだ」
「蜂蜜はここら辺のだから美味しいよ。水は僕が作ったんだ」
「カトーの酒は、味は良いが熟成してきつく成っているから、飲み過ぎると酔っぱらうぞ」
「ハーイ!!」
「この燻製、美味しいですね。手が止まりません」
「だろ、私もかなりいい味出していると思うよ」
「カトー様が作られたんですか?」
「そうだ。だが蜂蜜酒は私が教えたんだ」
「これも良いですね。両方とも商売できますよ」
グリルの炭に火を入れた後、ピザ窯にも薪を入れる。窯が暖まり灰を掻き出す。火魔法が便利で、割と簡単にグリルと窯の温度を調整できる。グリルではエミリーが獲って来てくれたタンパク質を焼いている。窯は生地に色々なものを載せてガレット風に焼いている。ピザもどきと呼んでいるが、2分も掛からないで焼き上がる。これでピザソースとチーズがあればなといつも思っている。
エミリーに聞いたところトマトは知らないらしいが市場でもヤギのチーズがあるらしい。でもこれだと牛のチーズのように溶けないので少し残念である。やはりピザには伸びるチーズでないといまいちだしね。
(ああ、グラタンとピザが食べたい)
季節は寒い冬に向かっている。暖をとるのに暖炉とかまどだけでなく、重いけど石製の火鉢といった移動できる物を作った。暮らすにも暖房や食事の為にも大量の薪が必要だ。周辺の森はまだ伐採作業も行われないような場所だが、もっと木炭を作った方が良いかもしれない。今は倒した木を、その場で割ったり削ったりした後、周りの土で被せる様に炭焼き窯を作っている。エミリー曰く、あまり良い炭ではないが何とか使えるらしい。
そりゃそうだよ。普通に日本人をやってたら炭を焼く事は無いからね。と言いながらキャンプをしていれば炭についても全く知らない訳では無い。心の中で薪で良いかなと思っているからだろうな。だって炭焼き窯の中に、薪をきちんと並べるのが手間だし、真っ赤に焼けた炭を掻き出すのも大変だからね。土魔法で、炭焼き窯は簡単に作れるけど今のままでも良いかな……なんてね。
レイナ、ルイサに泊まれる部屋を別棟に用意した。もちろん土魔法と板でベッドを作ってあるが、クッションはまだ作ってない。商業ギルドでは高級馬車用にクッションを販売しているそうだ。羽毛も溜まって来たが、ここで羽毛布団やベッドが出来るまではかなりかかりそうだ。ベットに敷く毛皮も無いけど外で寝るよりはましなはずだ。
僕だけは、エアーマットで枕があるタイプで熟睡している。エミリーに貸した事が有るが、寝付きにくいと言っている。
(イイヨー、使わしてやんない)
重量は軽くて、しまった形もコンパクト。最近のはポンプもついているし排気も簡単に作られている。寝袋はシュラフ専門メーカーのが良い。寝袋屋さんの寝袋は体の構造にピッタリして、寝やすく寝返りも打ちやすい気がする。これもコンパクトに収納できる。1リットルのペットボトル位のサイズだ。
「そうだ、今夜は満月だったな。テラスで露天風呂としゃれるか」
「エ、お風呂するんですか。今から水を汲んだり薪集めて湯沸かしなんて大変ですよ」
「エミリーさん、テラスで露天風呂ってお風呂なんですか? そんなの無かったみたいですし、私たちなら水浴びで十分ですよ」
「そうです。普段でも、行水出来るだけでもありがたいんです。お湯を沸かすなんてもったいないですよ」
2人とも良く分かっていないようだが、エミリーが僕を見て頷いている。
「いいから、いいから。カトーお願い出来るかな。かなり大き目なので」
「あぁー、やっぱり。それになんで大き目なの?」
「ウム、皆で入るからな。恥ずかしがらなくてもいいぞ」
「外で月を見ながらです? まぁ、良いけど。お風呂場あるのにブツブツ……」
レイナとルイサの、お湯を沸かすのはもったいないという気持ちは有り難く頂きました。そして今はエミリー、レイナ、ルイサと僕の4人、露天風呂でチャプチャプしている。ええ、4人一緒。エミリーも、たまにはいい事を言いました。いいお湯なんだ。星空の中の月をうす雲がぼんやりと隠している。季節は少し涼しくなって秋の雰囲気だ。エミリーに湯上りの扇風機、もとい魔法で風が欲しいと言われなくなったけど。
「チャプーンってね……」
お客さんも居るので、今晩は客室棟からテラスまでかがり火を焚いている。雰囲気良いし、客室までの通路も明るくなるのでね。揺れるかがり火を見ながらぼんやりと考えていた。ウェブ小説に有ったように空間魔法やストレージなんかでこの家を持って旅に行けたらどんなに素敵か思う。それに、この世界の人々にも触れ合うにつれだんだん愛着が湧いてきたのかもしれない。エミリーは誰に「月が綺麗ですね」と言われるんでしょうか? ね、漱石先生。
この後2人は、2日ほど滞在しトルトサの村に帰っていった。以前、聞いたように、この後タラゴナから王都の叔母の家に移動するそうだ。お土産には兎と熊の毛皮を持っていってもらう。本職の様に、上手く鞣してないがエミリーに合格点を貰っている。毛皮は、副産物なのかな? タンパク質の確保がメインだが、イスやベッドのクッションにもするので必要なんだ。
エミリーがやっているのは罠猟と思うんだが、たまに熊がかかる。穴に落ちた熊は危ないし、槍で止めを刺すのだが、重いし元気の良いのもいるのでかなり注意しないといけない。マァ、エミリーがいるのでそんなに危ない事にはならない。結果としてお肉は美味しく頂いた。量が多いのがチョット。しかしジャーキーが随分と作れると思う事にした。何しろバクバク食べるエミリーが居るからな。そうそう毛皮はもう少し立つと暖炉の前に置かれる事になる。
(中華料理で熊の手は、蜂蜜を取るのに使っているので美味である。と聞いていたが、分からなかった)
エミリーに教えてもらった所、熊は毛皮に肉や内臓と有効利用されているそうだ。中でも腹痛や気付け・強壮剤の薬になるという熊の胆が作れる。これは転移前に聞いた事のある漢方薬の事だと思うが、他の動物でも作れない事は無いが熊が一番だそうだ。ひどく苦い内服薬だそうだが、珍重され結構な値段になるらしい。熊を解体する時、内臓を見ていたら作るかと言って丁寧に胆嚢を取り出していた。
ここで油や血が混じるとB級品や不良品になるそうで、胆汁を含んだまま加工する為に胆嚢の上部を紐で結んで吊るしてある。生を台所で毎日見ていたのでちょっとね。また、一端、乾してから、ぬるま湯で揉んで形を整えると高級品になるそうだ。こんな事を知っているエミリーが特別なのだろうか? それともこの位は常識で無いといけないのだろうか?
台所に干して燻しているが、7日たったのでエミリーがクンクンしている。上手く行くとほとんど臭いが無いか、有っても僅かな香気だけだそうだ。ついでに、これもお土産に付けました。胃腸系もヒールで大抵治るし、この少年の体に強壮剤が有ってもね……。
探索の謎原因については、ちゃんと話しておいた。すみません。まあ依頼失敗とまではいきませんが、変わった事は無かったと報告するそうです。




