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癒やされたいキャンパー。異世界を癒やしに行く。  作者: カトー
第20章 激動の世界
201/201

201 後日譚

 ※ ※ ※ ※ ※


 これから述べられる後日譚は、カトーが帰還してからのムンドゥスと日本の話である。もちろん、危惧されたような時空間転移による悪夢のような世界では無い。当然ながら、恒星ムンドゥスや太陽系を破壊したり、銀河系を吹き飛ばしたりした訳でも無い。いわゆる無事? な帰還後の話である。


 だが、この時空間の太陽系はカトーの居た同じ世界とは言えないかも知れない。微小な存在のカトーではあるが、この時空間から僅かとは言え存在自体がなくなり、また加わったのだ。マァ、様々な時空間帯があるのだ、少しぐらいの違いがあってもしょうがないだろう?


 ※ ※ ※ ※ ※


後日譚 ムンドゥス編第1話

 イリア王国歴190年代から240年代のおよそ50年間にかけて、王国では産業革命が進展しており近代化が進められていた。特に、210年以降は加速度的に発展した為に色々と不都合も発生していた。だがその都度、是正処置がとられており概ね良好に発展を続けていた。


 しかし、農村から都市への人口流入や労働者の待遇改善、様々な都市問題は今日でも解決されたとはいえず、社会問題化している。またイリア王国歴221年には、辺境伯領に於いてカトー派と呼ばれる自然協調派により自然環境保全運動が開始され、同225年には、王国内にて必要な政策が施行されるまでになっていた。


 旧ケドニア帝国や旧エバント王国地域の人々の暮らしは依然として困窮していたが、アレキ大陸を主導するイリア王国では様々な政策と理論を実践に移しており、幅広い支援活動により旧帝国等の人々の生活も少しずつだが改善していた。


 その最たる施策が、イリア王国が主導した緩やかな連邦制の成立である。これを機に、やがてアレキ大陸ではパクス・ロマーナならぬパクス・イリアーナと言われる時期が到来する。パクス・イリアーナはアレキ大陸での覇権的平和と多大な文化的影響を与えた黄金時代とされる。


 パクス・イリアーナはイリアによる平和の意とされ、賢王第9代セシリオ陛下の時代から続く3賢王の時代までの約100年以上続いた平和をいう。 念の為に申し添えるが、いわゆるパクス・ロマーナとは異なり、大陸内で破壊や殺戮、掠奪を行った訳では無い。


 この時代は王国の軍事力も堅固で、小規模な例外を除き異国の侵入もなく、国内の治安も安定していた。僅かとは言え転送陣の復活もなされていた。交通網も確立しており、物資の交流も盛であった。まさに王国内各地では繁栄を享受する事ができ,王国民は平和を謳歌していた。


 さて中央大陸だが、中央山脈の部族民達は交易を保護するクシャーナ王国に好意的であった。残念ながら隣国のイル王国の貴族達は、クシャーナ王国による中央山脈の各部族への支援を快く思っていなかったようだ。イリア王国歴229年にクシャーナ王国で貴族位の廃絶に関する王室改革運動が発生すると、両国の関係は益々悪化していく。


 おり悪く、古代アレキ文明期の兵站基地が発見された事により状況は危機的なものとなった。この兵站基地は、カトーが転落した際に発見した崩壊寸前の基地の近くに有ったようだ。その兵站基地に残されていた物資や兵器の発見によって大幅な軍事力と経済的利権が見込まれるようになると、イル王国の貴族達が部族民の自治を破棄して地域一帯を接収せよとの声が巻き起こった。この事によるイル王国の内政干渉が戦闘の原因といわれている。


 イリア王国歴231年には、クシャーナ王国に対してイル王国とフル王国の両連合国との紛争が勃発する。紛争は拡大を続けて、後に中央大陸大戦と呼ばれるまでになった。この大戦は魔法対近代火器の対決となったのだが、装備や兵力差により、クシャーナ王国は、イル・フル連合により困難な状況に陥った。


 イリア経済にも転機が訪れる。大戦の勃発に伴い中央大陸のクシャーナ王国とイル王国の市場からイリア王国が後退する事になった。その結果、フラン王国には造船や鉄鋼など重工業の発展や海運業の盛況がもたらされた。フラン王国経済はいわゆる大戦景気と呼ばれる好景気を迎える。


 しかし大戦景気の一方で、依然としてフラン王国の庶民の生活水準は向上せず、むしろ貧富の格差が広がっていく。クシャーナへの大幅な輸出拡大は、国内の物資不足を招き、さらに急激なインフレが進行した。このような状況下で、特に深刻な問題となってしまったのが食糧価格の高騰である。これが、不満の発芽となり国制が共和国への移行する原因ともなった。


 一方、アレキ大陸では旧ケドニアや旧エバント地域の争乱などにもかかわらずイリア王国主導の連邦制は拡大し維持されていた。やがて中央大陸のフラン王国からフラン共和国への政変は、ムンドゥス情勢が大きく変わる転機となると予測された。


 事実その数年後には、フラン共和国が正式に連邦制に加わる事になる。イリア王国の勢力はアレキ大陸のみならず、大洋を越えて中央大陸へと広がって行く事になって行く。


 ※ ※ ※ ※ ※


後日譚 ムンドゥス編第2話

 私の乗艦は、嘗て父が尋ねた旧ケドニア帝国の領海を越え、リヨン共和国にある港へ向かっている。私の父エクムント・リッケルトは魔獣大戦の折、旧ケドニア帝国に救援軍の海軍中尉として訪れたのだ。その後、エクムント海軍中尉は少将となって退役、僕はその息子のループレヒト・リッケルト海軍少尉である。


 フラン共和国の西方艦隊は母港トリエステ港から、イリア王国歴250年5の月に5隻の遠征船隊を出す事になった。遠征船隊の目的は、南大陸の再発見と魔素の状態の確認である。航海期間は約4カ月。北半球の春に出れば、南半球には同じく春頃に到着する事が出来るだろうとの事だ。


 西方艦隊はイリア王国歴193年の魔獣大戦のおり、統合救援軍として1万キロを超える大海を、大艦隊を構えて途洋するという名誉ある歴史を持っていた。確かに共和制への移行時には、艦隊を含め軍事力の低下が有ったが、近年の大胆な改革により持ち直した。フランは北半球西側海洋の覇者に返り咲いたと言ってよい。


 シーサーペントにクラーケンは北部大洋でもごく稀ではあるが、見かける事の出来る巨大海獣である。木造帆船時代は、見つかれば即壊滅であり大海の悪夢とも狂夢とも言われて恐れられた。


 だが、我らの船隊は鋼鉄製の装甲魔動船となり、水中聴音機の開発と新兵器の爆雷や砲撃の精度も上がっており、例え会敵しても生存可能性は格段に向上しているはずだ。むしろ今回の遠征船隊は、火器の発達と作戦運用の進歩により、海獣等の存在をものともせずに南を目指す事が出来るのだ。


「ループレヒト少尉は確か……、そうそうエクムント少将の息子さんじゃないか?」

「ハイ、今は引退して予備役少将です」

「私は一時期、部下として勤めた事も有るんだ」

「そうでしたか」

「少将の書かれた西方見聞録は、海兵学校時代の愛読書だったよ」

「そうでしたか。光栄です」

「イヤイヤ、中々ためになったよ。何より、面白かったしね」


 父が書いた西方見聞録は、紀行文としては珍しくベストセラーとなり老若男女の愛読書となった。私も父を見習って書き始めた。表題は、南方大陸探査船隊見聞録とした。いつかはベストセラーとは言わないまでも少年少女の愛読書になれば良いだろうと思っている。

 

「早いもので、3日後にはリヨン港ですね」

「そうだな。イリア王国南方探査隊と合流する。我々は航海術と船舶一式。イリアは人材と研究資料だな。魔石研究の最先端だからなぁ。外す事はできんよ」

「ハイ、了解してます」


 イリア王国は、魔道化学王国として魔石創造と先進魔法工学を持つ。今回初めて、合同化学調査隊として20名が加わる事になっている。フランはイリアから魔石等の支援を受けており、公にはされていないが、そのおかげでフランはエネルギーと経済的混乱状態を抜け出す事が出来たのだ。


 フラン共和国はクシャーナ王国と良好な関係を保っていた。残念な事にクシャーナ王国とイル王国は小紛争を繰り返していたが、ここ2年ほど両国関係は辛うじて小康状態となっている。


 イル王国は、東の大国と言われるフル国の交易も頻繁に行われており、政治的影響も強いようだ。経済的に急速に接近した両国は、噂では準軍事同盟を結ぼうとしているとの事だ。それを知ったクシャーナは、フランと秘密同盟を結んだと噂されていた。


 この大陸では、パルティア小王国を初め自由都市国家などの小国家が利を求めて集合離散を繰り返していたが、いつしか二つの強国の下に引き寄せられている。それはまるで大陸が二分割されたかのような状態である。中央大陸は混迷し始めているのだろうか?


 ※ ※ ※ ※ ※


後日譚 ムンドゥス編第3話

 イリア王国は内需拡大の為に様々な政策を打ち出している。観光業は依然述べたように、多くの周辺産業を作り出すし、持続可能な産業であり、娯楽性もある。所得が向上し、余暇を楽しむ事が出来る王国民の支持も得ていた。また、カトー卿が提唱した自然環境擁護の理念は時代の流れに合っていた。


 既にバックグラウンドとして国内の交通路の整備も進み、治安も確保されている。ほんの少し前。高々30から40年前、近距離ではあるが旅と言えないような危険な旅や、一般女性では不可能とされた旅、また一生に一度と言われた巡礼の旅は遠い過去の出来事とされ、観光旅行は王国民にとって身近な事となっていた。


 イリア王国には有名な温泉が沢山ある。温泉好きいわく、これらの温泉地は、カトー卿が王国内を巡って源泉を掘り当てたと言うものが多い。いくら大魔導士のカトー卿とは言え88カ所の源泉発見は多すぎる気がする。だが、カトー卿が優秀な土魔法使いであったのは事実であるから満更嘘とは言えないと論される。


 他国とは違い、湯に入ると言う事も王都ロンダではお湯屋さん文化も有って、ごく親しみの持てる施設となっており自然な事である。マァ、カトー卿の事は逸話だったにしろ今では王国民にとって温泉は無くてはならないものとなっている。


 王都ロンダのお湯屋さんは、観光施設や健康増進の目的を兼ねた複合娯楽施設と言える。また、近年ではさらに一歩進んで温泉で保養やサナトリウムの意味合いが濃いのも作られている。もちろん、今でも温泉ブームは続いており、もはやイリア王国に定着した文化と言って良い。


 温泉が出るとなれば、それだけで民間資本が集まり、行政サイドからも観光客の誘致がなされるのだ。現に各地の観光地、例えばドラゴンシティー近くのショウワマル記念館にも同様な複合施設がある。最近では秘境にて露天風呂の解放感を味わうツアーが売り出されており、これもかなりの評判を呼んでいる。


 僕がこれから訪れるウエスカ温泉は、レオン山脈の麓にあり秘境と呼ばれる地である。近年になって発見されたので、まだ一般には知られていない。そこを訪れるには時間がかかるようで、出発地のロンダからなんと2日と8時間掛かかるとの事だ。ロンダならば、お風呂屋さんの温泉に入って食事をとり、さらに演芸を見て1泊し、朝風呂に入ってもう一軒トライして帰って来れるだろう。


 王国の西部に位置する辺境伯領の交通はあまり便利でない事は知られている。が、自称、秘湯温泉研究家としては行かねばなるまい。10日ほどの予定であるが、今では王国内の移動にこれほど時間がかかるのも珍しい。尚、旅のガイドとなるのは、何時もの様に商業ギルド発行のシリーズで、辺境伯領を歩きたいである。


 先ずは辺境伯領の領都レオンに移動し、魔動バスで城塞都市のリャネスに向かう。リャネスに着くと、次は地方行きの路線が有る魔動バスターミナルである。辺境伯領を歩きたいには、ウエスカ温泉セットツアーを購入する事と特記してある。これは13日に一度だけ発行のされるようで、色々とお得なチケットと宿代が含まれているのである。


 バスターミナルの旅行代理店で片道290000エキュのセットツアーチケットを購入する。インフレなのか結構高いと感じた。比べてはいけないのだろうが、王都までの往復でこの4半分の値段だったので驚きだ。魔動バスは中型で、出発は翌朝8時だった。30人定員の3分の1ほどの席を埋めて定刻でバスターミナルを出発した。


 最初は、この旅の最後のまともなホテルのあるとされるカルビア村に向かう。文明が残されたこの最後のホテルには近くで発掘されたアレキ文明の品々が有り、将来的には王立ロンダ博物館での展示も予定もされている。移動開始後2時間。時折、馬達の姿を見かける。街中では滅多に馬を見る事は無くなったが、ここでは移動用に活躍しているそうだ。


 途中、大森林を抜けて行く。目に入るのは木ばかりで視界は30メートル程度で有った。さすが辺境伯領である。道に迷うと大変な事になると言うのは本当のようだ。冬の降水量はかなり少なく、レオン山脈からの寒い風が吹くそうだ。バスは昼食の休憩を1回挟んで乗り継ぎ中継点のカルビア村のターミナルに着く。


 ウエスカ温泉の場所は北へ約50キロ。途中までは舗装されているので小型魔動バスで2時間である。辺境伯領の歩きたいには、養蜂が盛んな村であるが、他に産業らしい産業は無いらしいとの事。目的地のウトレーラ村には簡素な宿泊施設が有る。これには、木造のホテルとは書かれている表示板があるが、実際は旧村長宅である。


 途中、シエーロ川という割と大きな川のそばでは、1時間半ほど昼食を取る休息所が設けられている。川の幅は約20メートル。水は美味いがとても冷たく、12の月には凍り始めるという。もう暫くすると本流は氷混じりとなり、冬になれば全て凍るはずだ。ここの気温は恐らく10度近いはずなので少し寒い。風が強くなれば体感温度も下がりそうだ。


 川の流れが静かな処ではカモの群れが泳いでいた。黒に白い帯が入った40センチほどの鳥が空を飛んでいる。後から運転手さんに聞くとカササギだろうとの事だ。ここらでよく見る賢い鳥で、辺境伯領の狩人達はカチガラスと呼んでいるそうだ。


 見る限り魚はいないようだが、それでも釣りをしている人がいる。寒かったが暇つぶしを兼ねて眺めていた。よく見かける釣り人を見る人という絵柄だ。釣り人の話によればフナ等の川魚がいるそうだ。針を落とすと歩き出した。流れに合わせ下流へ移動しないと糸が氷に引っかかってしまうのだ。釣り餌はパンのようが、パンは水に沈まないのだがマァいいかである。最近は一匹も釣れ無いとの事だ。


 川を渡ると未舗装の道が有る。むしろ、それが辺境伯領では普通だ。嘘か本当か定かではないが、カトー卿の教えも有って自然保護の一環だと言う。草原にはガタガタ道が自然らしいが、我々はその温泉に向けて魔動車で移動しているのだ。馬の方が速くて快適であると運転手さんに言われた。今更、こんな所で馬に乗り換える事も出来ないし、第一、僕は乗馬が出来ないのだ。


 バスはウトレーラ村に近づいていく。辺境伯領の北部は鬱蒼とした針葉樹林で有名であるが、この村はどちらかと言うと草原に有るので見通しが良い。ウトレーラ村のホテルには部屋が8つあるのだが、ラッキーな事に台所の裏の部屋を確保できた。


 このタイプの住居では、釜で調理する事が多く、台所の竈の裏にあたる部屋は、その熱の恩恵にあずかる事が出来る。実に効果的な暖房で、毛布のみでも十分に温かい。この時期なら厚手の毛布は不要なほど暖かいのだ。


 早速温泉に入る為に荷物を置いてウエスカ温泉の入浴場に向かう。入浴場には管理室と着替え室。共同湯と露店風呂がある。村民は無料であるが、外来者は入浴料の300エキュを支払う。村人の風呂代が無いのは村の共用施設と言う事なのだろう。


 入口を通り抜けると湯けむりでむわっとし、温泉である事がよく分かる。浴場に入って、洗い場で作法通り入浴の儀を行いう。いよいよ念願の露天風呂へ向かう。浴場は面白い作りで、露天風呂の通路の左右に温度差の違う浴槽が有る。硫黄臭の温泉だが、源泉であり湯量も申し分ない。お湯は無色透明で無味であるが、体に良いだろう成分たっぷりという感じである。


 まだ外は明るく、外が見渡せて実に気分がいい。やっぱりイリア人には温泉だ。僕はもう20分は入っている。それでも温泉に浸かってまったりしていると、時間ですよと村人らしい先客に声を掛けられた。とても薬効成分が強いので、長く入ったら駄目なんだそうだ。彼は治療が目的で、温泉に入っており。長く入りすぎると体に悪いと医者に言われたいう。1日3回、各10分程度で十分に効くらしい。


 彼は脚のリハビリの為にここへ通っており、この温泉で治療すれば全快する事間違いなしだそうだ。今は少し歩き方に違和感があるものの、歩行には全く問題が無いとの事である。イヤー、ここの温泉はムンドゥスで一番なんです。と力強く語られてしまった。


 村人達はこの温泉をとても気に入っている。たいした距離の移動ではないと村人は言うが、村内と言っても村は広く、この温泉に来るのに移動時間が半日かかる人もいるそうだ。それでも来るというのはよほどの○○か、この温泉が気に入っているのだろう。


 温泉に続き、有料マッサージを受ける。マッサージをする人は辺境伯領人の中でも比較的体が大きな男性で、かつ結構ツボを心得ていて痛いのだ。痛いと言っても、あまり緩めてくれないので困った。尚、女性には女性のマッサージ師が付く。


 夕食は食堂で食べる事になっている。メニューはスタッフのお勧めであるが、そもそもそれ以外のメニューが無い。マァ、悪い事ばかりではない。捨てる神あれば拾う神ありである。なんとこんな僻地の温泉まで女性4人組みが観光に来ていた。彼女達はフラン共和国とクシャーナ王国から2年間の魔法留学に来ているそうで、イリアは治安が良いと言われており、若い女性でも普通に旅が出来ると喜んでいた。


 通訳さんが居る訳で無し。片言の会話になるが、女性が多ければ当然ながら異性の話となる。彼女達が持ち出した、指差しイリア王国語という本でいろいろな単語を教えてくれた。この本も商業ギルド発行らしく、フラン語とクシャーナ語が併記されているし絵も豊富である。たまに誤訳が有るのは愛嬌と言うぐらいのものだ。


 彼女達はイリアに留学し、辺境伯領の男性の男らしさ素晴らしさに気づいたそうで、感動したという。これはフランやクシャーナの男がだらしないという事かも知れない。マァ、確かに辺境伯領の男の中には、たくましい感じがする者がいる。僕は対象から外れるそうだが、ただ飲んだくれているだけの男も多いので気を付けるようにと言っておいた。


 楽しく話をしていると、いつの間にかこの食堂のお客さんも加わってきた。それだけでは無く、料理人や食堂の配膳スタッフ、お風呂に入りに来た近所の熟年のおばちゃんまでやってきて、ついには大宴会となってしまった。


 翌朝、再び露店風呂に向かう。勝手は分かっていたので浴場へ。酒が残っていたかもしれないし湯温が高かったかもしれない。温泉を出ると、ぐったりしてしまった。ちょっと長湯したようで湯あたりになってしまったようだ。僕は敏感なのだろうか、源泉は好きだが薄めていない温泉に入るとたまにぐったりするのだ。こたえた。マァ、それだけ効くのかもしれない。


 この温泉の近くにはもう一つ、泥温泉と呼ばれる薬湯がある。こんな近くで泉質のまるで違う源泉があるのは珍しい。泥温泉の入り方は、看板が掲げられているので至って簡単。足首と、長い道程で疲れた腰にあったかい泥をかぶせて布で包む。既に温泉で温まっていた体からはじっとり汗がにじむ。熱を持ち始めて暫くすると終わりの時間である。泥を流して外に出ると体が軽くなった気がした。


 食堂へ行くと、会合らしく15名ほどがワインを飲んで賑やかに食事をしている。何でもこの会は、何とかを発展させるコミュニティーらしい。ここら辺りでは目立った産業もないから、温泉観光に力を入れるしかないと聞こえて来る。お客さんは観光ですかとの問いかけに始まり、結局、前夜同様に宴会となって夜中の半ば頃に終了した。


 昨日から降っている雪混じりの雨は季節外れと言うべきか、非常に珍しいそうだ。積もっていないが地面を覆いつつあり、小型魔動バスなの出発できるのか少し不安になってきた。だが、露天風呂には最高のロケーションであると思えば、これも一興である。もう一風呂、浴びる事にしよう。


 ※ ※ ※ ※ ※


後日譚 ムンドゥス編第4話

 飛行機械の発達は目を見張るものであったが、空路による移動や流通は今しばらく待たなければならなかった。有用性は高く評価されていたが、飛行距離は200キロが限界とされていた。その為、近年では都市間の緊急郵便書簡のやり取りに使用されていた。


 故に南大陸への空路による進出は不可能とされ、海路による探査が進められた。探査に限られず、船舶ならば経済性はもちろん人員や物資を大量に移動できる。この後、ムンドゥスでは多くの船舶や海上交通路が作られ、大航海時代を迎えるのであった。


 ゴー戦隊が中心となったアレキ文明期の転送陣捜索隊は、カトー卿が行方不明となった為に一時中断されていた。その後、アレキ大陸内で3カ所の転送陣を発見している。まず西の大海原にあるとされる名も無き孤島、旧ケドニア帝国で魔核弾頭によって消滅した南部海岸都市パスタキアの北。同、巨大魔獣に破壊されたガルダンヌ城塞跡の近郊である。


 このアレキ大陸の3カ所は整備後に稼働可能であると判定された。ムンドゥスの各地に張り巡らされていたとされる転送網であるが、中央大陸で分かっているのはイル王国に有った補給基地跡。また今一つは、フラン共和国のコブレンツ島に有った。過去形なのは溶岩流によって破壊された為である。尚、旧アレキ文明期の海軍基地があった為、意図的な破壊工作が行われたと言う話があるが、真偽のほどは不明とされている。


 結局、中央大陸では調査班の入国禁止等や諸所の困難により再び捜索は中断される事となった。特にイルとフルでは、現地政府に捜索を委ねた為か発見できなかったとの回答のみであった。中央山脈の兵站基地が発見されてからは一層厳重になったようで、これには現地政府の意向が働いていたと思われている。


 ※ ※ ※ ※ ※


後日譚 ムンドゥス編第5話

 イリア連邦が、まだイリア王国と言われていた頃から200年余りが過ぎている。今日は学生向けの秘境探検ツアー遺跡都市メリダの初日である。僕達3人は、ルーゴ村から北に向かう中継点から少し離れたところで魔動車を停めた。ここでガイドのザバスさんと待ち合わせである。


 アレキ大陸では観光ツーリズムによって多くの場所に人々が訪れる事となったが、依然として辺境伯領は広かった。嘗て、旧辺境伯領内の旅は困難である事が知られていた。もちろん、当時から領都レオンとバンブローナ等の5都市、プルゴス別荘は除いてだが。特に霧の村ルーゴはカトー家の人々のみが住まう村であった為、旅行先になる事は無かった。


 しかしながら、現在では旧辺境伯領ツーリズムと言うキャンペンーンにより、僻地であるが故に人気の観光地となってた場所もある。一般でも人気であるが、辺境伯領の主要都市を巡るパック旅行は、料金もお値打ちで学生の卒業記念旅行として好評だった。また、オプションではあるが、ガイド付きの遺跡都市メリダの観光ツアーは中々の活況を呈していた。


 草原を魔動車が走る。ルーゴ村から遺跡都市間メリダは約700キロ。その街道はイリア王国歴190年代から整備され、今ではイリア街道と呼ばれており王国内では主要都市間の移動が高速に行える。この道路はすべての道は王都ロンダに通ずという諺があるように、全長40万キロに及ぶ巨大インフラであり、現在も伸延されているのだ。


 ちなみに、大陸内の近距離移動には飛行機械が大空を巡っている。また、大陸間を結ぶ転送陣ネットワークは距離と時間を0にしていた。だが、今回訪れる遺跡都市メリダは環境保全の為に飛行機械はもちろん転送陣も使用禁止とされている。


 遺跡都市メリダに近づくにつれて街道沿いの住民は少なくなり、都市部の喧騒とは無縁の地となる。昼食には大魔導士カトーが200年以上前に建てたと言う別荘ホテルと言う強化土魔法の休憩所に寄る予定である。この休憩所が無ければ、高速街道と雖ども大変な移動になっていたに違いない。


 ガイドのザバスさんはサバス・ブルノ・ミジャン・ナバスと言うのが本名で旧イリア王国の出らしく名前が長いのが特徴だ。休息所に着くと、彼が荷台からパンを取り出した。何事か唱えると、ちぎったパンを空になげ始めた。そして僕達にも手渡し、同じようにやれという。数百年も続くと言う旧辺境伯領の儀式である。


 唱えた内容は辺境伯領らしかった。空を支配するドラゴン、神のごとき魔導士カトー、アレキ大陸の母と言われるエミリー様と言った偉大なる者を敬い、血と肉となる食事をシェアするという考えらしい。そして旅する時には、安全を祈願して必ずこうするという事だった。


 さすがにパンを投げただけで終わりではない。ザルゴさんが携帯用のランチボックスを出してきた。偉大なる者とシェアするのにはいささか軽便であるが、安全を祈願する為、大人しく食事を取るのだった。


 ランチボックスには魔動レンジ可とイリア語で書かれており2段になっている。その中身は、前菜から主菜、デザートまで詰め合わされているレーションタイプだ。これを、魔動レンジで状態維持の魔法を解除して食す事になる。尚、宿を出る前に、好みを言えば主菜となっている肉の種類は選べるらしい。


 その肉だが、いろいろな肉が用意されている事に驚いた。牛、豚、鹿、鳥、羊、少し珍しい馬の肉もある。馬刺しはホテルの夕食に出たが、ラクダ肉は初めて見た。東方にあるフル共和国の砂漠地帯から移入したとの事だ。味は不明であるが、宿泊客をもてなしてくれているのは間違いない。


 もう1つのボックスには野菜サラダの素材が行儀良く入っていた。これも魔道レンジでチン。状態維持の魔法を解けば並べるだけだ。具の玉ねぎスライスは絶品であった。玉ねぎは旧辺境伯領で割と容易に収穫できるらしい。草原でも野生化した草のようなピリピリ辛い玉ねぎが取れるらしい。


 ザルゴさんが見事な手さばきでサラダを仕上げてくれた。他にも色んな野菜があるようで、隠し味となったのは、近くで自生している香菜を刻んで振りかけた物だそうだ。素材も良いのだろうが、ともかくこの地で食べる事が出来たのは良い体験である。


「こりゃー美味い」

「そうだろ、旧辺境伯領のは全然違うからな」

「ウン、ウン」

「腕が違うんだと言いたいが、香菜以外は並べただけのサラダだからな。本当のところは、この景色を見ながら食べるからじゃないかと思っているんだ」


 何でも、都市化が進んだ領都辺りで採れる香菜はもう駄目だという事だった。場所によって味が変わるのは確かにそうではある。と食べる前ならそうかなと思うが、味わった後は妙に説得力があるのだった。やはりガイドのザバスさんを選んだのは正解だった。


 稀に羊や馬を見かけたが、家畜では無いそうだ。ここには野生化した動物もいるようで、鹿が多かった。中央山脈にいる鹿の仲間らしいが、体は大型犬程度。群れて行動している。我々の魔動車の前に突然現れたが逃げ足も早かった。たまに交通事故を起こす事があり、夜間の移動は注意するように言われた。尚、この鹿肉は結構おいしいとの事だ。


 事故とは言えないが鷹に遭遇する事が有る。辺境伯領北部では鷹で有名だが、実は西部にも多いらしい。かなり大きく何羽も見ることが出来た。鳥の王者と言われるだけあって悠々と空を飛ぶ姿は素晴らしかった。


 その鷹のエサとなっているだろうウサギもいる。街道上に居る時は、体は小さいのだが魔動車の先を懸命に走って逃げようとする。どういう訳か横へ逃げる事はせず、高速道を走ってしまうのでウサギが先導している形になってしまう。結局、魔動車は速度を落として距離を取る。暫くすると、気が落ち着いたのだろうか、草原に逃げていくウサギを見送る事になる。


 余談だがキツネもいる。頭が良い様で、急旋回をしたり、サッとわきみちにはいったり、とにかく逃げ足は魔動車より速い。今回は残念ながら狼を見れなかったが、増えすぎたウサギや鹿の駆除の為に群れが放たれているそうだ。ザバスさんによると、人を襲う事は無いそうだがキャンプ中に出会うとそれなりのショックがあるとの事だ。


 遺跡都市メリダに入る前には警備隊の検問所がある。遺跡の物は土の一握りでも持ち出し禁止である。その為の検問所らしい。行きはよいが、帰りは時間がかかるそうだ。検問所は、場所に似合わずかなり大きな建物である。遺跡観光の支援センターとしても業務を行っているようなので何れの職員もなかなか愛想がいい。


 職員はここで食事をし、ここで寝ているのでそれなりの設備が必要なのだろう。近づく僕たちの魔動車を目ざとく見つけ、赤い旗を持って車を制する。警備隊のオフィスに向かいように言われて書類を確認されるのだ。ここで遺跡都市メリダの訪問許可証を提示しなければならない。全員の身分証も提示する。ザバスさんだけは何故か何も出さない。この地方の顔パスという事だろう。


 案の定、ザルゴさんは知っている職員がいるようでにこにこ笑っていたりする。10分ほどで通過が許可され、ザルゴさんが少し世間話をして検問所を出る。朝早く出て、夕方になってようやくメリダに着いた。自動運転装置が有るとは言え、約12時間のドライブだった。


 ザルコさんには、仕事とではあるがお疲れ様ですと言いたい。が、明日からは遺跡都市メリダを見て廻り、帰りも同様である。やはり、辺境伯領の男はたくましいと言われるだけの事はある。


 ※ ※ ※ ※ ※


 以上、ムンドゥスで起きた、もしくは起きるはずの様々なその後をピックアップした。次は日本に無事? 帰還した、カトーの周りで起きた事を中心にして話を進めたい。


 ※ ※ ※ ※ ※


後日譚 日本編第1話

 日本の某所。朝霧が残る山中のヤブ。お地蔵さんの様な像を中心として、草地の上30センチ上に赤く輝く転送陣が浮かび上がった。その周りには、神社に参拝した時のような鈴が鳴っていた。俺は帰ってこれたのだろうか?


 ここでいう鈴は、巫女が神楽を舞う時に持つ巫女鈴ではなく、神社の拝殿の前、賽銭箱の上あたりにあり、上から吊るされている鈴の事だ。鈴には、呪力があると考えられ拝殿で鈴を鳴らすのにはお祓いの意味があるとされる。と、意味不明の事を思い出していた。


 結論から言うと、俺は道路から十メートル離れた木の下に座っている所を、用を足そうとしていた消防団のじいさまに発見されたのだ。転移点は10センチとは言え地上から離れていたようだ。予期せぬ衝撃だったので、チョッだけうずくまってしまった。


 背中には、かなりくたびれたバックパックを背負っていた。マァ、車の中に置いてあったキャンプ用品は40年経っているからなぁ……。もしもの事を考えて、布に包んだ保存食のジャーキーとコメや砂糖菓子。水魔法が使えなかった場合も有りえるので大型水筒等の必要と思われたサバイバル用品一式が入れてあった。


 想定内であったが、足元近くに有ったはずの木箱はやはり着ていなかった。イグナーツの計算によると、3週間分の水と食料等を入れた木箱は5から6日ほど到着が遅れるとの事だ。言われた通りだったが、もう一つの大型木箱はそれよりも遅れるはずである。


 軽い落下であったが、幸運な事に少しボーとしただけで体に異常は無いようだ。最初に感じたのは湿った空気だという事だ。どうやら、天気は下り坂らしい。今にも雨が降り出しそうだな。そんな時に、後ろから声を掛けられたのだ。失礼ながら、じい様とは言え人間だ。クマでなかったのでホッとした。


「アレ、マァー! こんな処に居たのか!」

「へ?」

「おーい、あんた。大丈夫かや?」

「ハイ。エ、どなたです?」

「なにを言ってるんだ。あんた、遭難したんじゃろ」

「何の事ですか?」

「まぁ、いい。皆の衆に知らせんと、オーイ! 見つかったぞー! こっちじゃー!」


 ボーとしていたせいか、言われるままに道路まで連れてかれた。30分後には救急車代わりの軽トラに乗せられて病院に運ばれた。俺は行方不明になっていたと言う事で、ケガの有無を調べる為に一通りの検査を受ける事になっているらしい。


 検査室に有った鏡を見る。ウン、いつもの見知った自分の顔だ。ウーン、イグナーツが言っていたように本当に27才で体に戻って来たようだ。 唸っていると、ディスプレイの電子カルテに表示されている曜日をチラ見すると水曜日だった。


 土曜に出たから、転移してから4日後である。ムンドゥスに居たはずの40年間は4日だったのか。いや待てよ、ひょっとして俺は転移なんかしてなくて、頭でも打って夢でも見ているんだろうか? イヤイヤ、現にくたびれたバックパックは有ったんだし……それは無いはずだ。


 3時間ほどの検査が終わり、病室に戻ると岡田が待っていてくれた。ニッコリとだが、心配したような顔である。器用な顔をしているなと思いながら話を聞いた。消防団の人が捜索だとか言っていたが、どうやら結構な大事になっていたようだ。 


「岡田じゃないか。なんで?」

「オー! 加藤。良かったな。無事だったんだな」

「ウン。無事だ」

「気分はどうだ?」

「チョッとボーとしているような……」

「ボーとか。そうか。マァ、色々あっただろうからな。取りあえずって事で、現状を説明するぞ」

「アァ、頼むわ」


「お前からは、昼前には小学校に着いて、防災用品を渡してくれると聞いていたからな。でも、夜になっても連絡はないし、マァ、会社の方も携帯の電波が届かない所にでもいるんじゃないかと思っていたんだ。だけど、日曜日の朝、町から会社に電話が有ってな。まだ来てないと言うだろ。焦ったよー」

「ウン」

「町の方では道を間違えたのかも知れんという事で、もう少し様子を見ると言ってたそうだ」

「フーン」

「実は、俺も月曜日にこの事を知ってな。まだ来てないと言うだろ。それで、こっちに来た訳だ。マァ、お前の事だ。キャンプ慣れしてるし、車には道具もあったはずだしな。交通事故じゃ無ければいいなと思ったぐらいだよ」

「ウン」

「そしたら、山道で道に迷って事故って動けないじゃないかという事になっていてな。明日から雨だって予報は出るし、ひょっとしたら、クマじゃないかと言う人もいてな」

「ウン」

「で、火曜日に連絡が無かったんで、水曜の朝から捜索と決まったんだ」

「そうかー」

「見つけれ無ければヘリを飛ばそうかという話になってたんだが、雨だと飛べないしなー。慌てたぞ」

「オォ、そうなんだ」

「そしたら、消防団から連絡があってな、10時ごろに発見したって」


「マァ、無事でよかったよ。でもな、ご両親にも連絡をしといたから無事だと直ぐに連絡を入れろよ」

「ウン、そうするよ。色々とすまなかったなー」

「いいって事よ。先生、どうなんですか?」

「本人は、まだぼんやりとしているようですな。マァ、軽い疲れが有るようですが、大丈夫でしょう」

「良かったじゃないか。今日はゆっくり休めよ」 


 医師による検査を終えたが、翌日には退院できるだろうと言われた。山の中で3日間の行方不明である。念の為に一泊して様子を見るそうだ。発見された時、付近を探しても車は見つからなかったが記憶違いだろうという事ですんだ。実際、遭難時には記憶が曖昧だったと訳だし。回収するにしても、時間も金もかかるだろうしね。


 どこも異常がないので明日にも退院だ。両親は来ると言い張っていたが、退院したら直ぐに家に行くと言って止めてもらった。暇つぶしに行った待合室に置いてあるテレビでは、地方ニュースが映っていた。そのニュースでは、遭難したキャンパー加藤良太さん27才の無事発見を伝えていた。人の噂も七十五日と言うが、もうこれで有名人の仲間入りである。


 翌日の退院後も、ここまで来たらついでだからと岡田君が挨拶回りとお礼に付き添ってくれた。山で遭難した後は、遭難した事よりも疲れるんだなーと思った。


 マァ、軽口はともかく、車もキャンプ道具も無くしたという事で入院検査費は会社持ち。それに課長が社長に掛け合ってくれて、お見舞金として10万円も出してくれるそうだ。半分はお礼の手土産代になりそうだが有り難い事だね。アァ、あと一つ。気になっていた深夜のアニメ番組、録画容量不足を心配していたがどうやら足りたみたいだ。


 ※ ※ ※ ※ ※


後日譚 日本編第2話

 今週は毎日一度、そろそろ頃合いだなと思って戻ってきた時に転移したの場所に行って様子を見ていた。日本に戻って来てから33日目の朝、送られて来るのはコンテナサイズの木箱である。既に小さめの木箱が着いていたので大丈夫だろうとは思っていたが、藪の中に置かれてあった木箱を見つけた時には心底ほっとした。


 廻りには誰もいない。マァ、過疎地なので車もたまにしか通らないようだしな。しかも道から外れた場所なので当然と言えば当然か。


「良し。ちゃんと着いたようだな」


 誰に聞かせる訳でも無いが、思わず口に出た。これで、転移陣に置かれた物はすべて着いた事になる。結局、車は送り返せれないからとの事で、代わりに送られたのは容積と質量等を近づけた木箱である。1300キロ程の箱の中身はもちろん金銀財宝? イヤ、それよりも大切なものが入っていた。


 転送陣の中心からは離れた位置に置かれていたので時間的には1カ月以上の誤差が生じている。金はともかく、ミスリムはこっちには無いだろうし、何にしようかと随分と悩んだんだが、大切な者とサバイバル用品でほとんどが埋まってしまった。


「さーて、始めるかな」


 木箱から大人一人分の大きさの乳白色のマユを取り出して、蘇生作業を始めた。と言って3個のボタンを順にクリックするだけだが。このマユは結界魔法で保護されホムンクルスの皮膚組織を応用して作られたイグナーツ達の傑作だ。光が脈動して1時間、マユが開けられた。


「エミリーいらっしゃい。ようこそ日本に」


 ※ ※ ※ ※ ※


後日譚 日本編第3話

「今時、あんたも奇特な人だなー。良いのかい? マ、若い衆が来るのは大歓迎だけど」

「土地も安いですしね」

「ウン、それはそうだ。余っていると言うより、爺さん婆さんも先祖の墓が無ければ手放したいと思っている様な所だからなあー。確かに一山いくらだが、道路が有るから税金はそれなりに掛かる。本当に良いのかい?」

「ええ、思い出の場所ですから」

「そう言えば、どこかで見た顔だと思ったら、あんた。半年前に遭難した人じゃないか?」

「ハハ、バレましたか」


「二人とも自然が好きですし、しばらくテントで過ごしてみます」

「そんな事せんでも、空き家ならいっぱいあるから好きなのを選べばいいから」

「有り難いんですが、あそこには良さそうな土が有るようなので焼窯を作ろうと思っているんですよ」

「オヤ、陶芸の先生だったのかね?」

「先生なんかじゃありませんよ。スキが高じてと言う奴ですよ。マァ、作陶教室とプライベートキャンプ場でも作れれば良いかも知れませんが」

「そうなんだー。マァ、あそこなら誰の迷惑にもならんし、人が来るのは歓迎だろうから」


「行く行くはログハウスでも建てますよ」

「フーン、流行りなのかね? その建てるというログハウスとやらは」

「そうですねぇ。都会に住むのは何となくでしたのでね」

「気に入ってもらったの良いが、シカやイノシシ、たまにクマも出るんで気を付けなよ」

「有り難うございます。強い嫁がいるので大丈夫です」

「あなたー。後でお話がありますからね」

「冗談に決まっているじゃないか」

「仲の良い事じゃな」

「フフッ」

「フム、確かに強そうに見えるな。ワシは昔、剣道をやっていてな。鍛え上げた体と言うのは分かるんじゃよ。一応、言っておくけどここらの山では狩猟免許がいるからね」


「そう言えば何時だったかの、あんたの前に一人居なくなっておっての」

「そうそう、バブル景気が過ぎて。測量屋の若い衆が山でいなくなって、今も行方知れずじゃ」

「道具が、あんたがいなくなった辺りに置いたままだったのでなー」

「気の毒に、クマにでもやられたんじゃないかってなー」

「事故か神隠しかという話もあったな」

「ヘー」

「結局、見つからなくてなー。可哀想になー」

「ウーン、どうなったんでしょうねぇー」


(分かる人の話はさておき、行方不明の原因がクマなら気の毒だが、ひょっとしたら転移されちゃったのかなー。それも中々だけど……。やっぱりここを選んで良かった。ムンドゥスからの物資が送られて来るかも知れないし、何よりも転移点は押さえておきたいしな。待っているだけでは暇だし、話をしたように登り窯でも作るか? 魔素は少ないようだし、土魔法は使えるかなー?)


 ※ ※ ※ ※ ※


後日譚 日本編第4話

「早くこっちに来て下さいよ」

「アァ、ごめん。ちょっと神父様と世間話をね。じゃ、皆さん失礼します。迷子がいたんだったね。で、どこだい?」


「今のは、カトーさんだろ?」

「アァ、外人の迷子だって、それでカトーさんが呼ばれたんだ」

「へー、マスターは何でも喋れるんだね」

「すごいなぁ」

「全くだ。今度の迷子は、ギリシャ人らしいって?」

「らしいな」

「普通、ギリシャ語は話せんわな」

「アァ、でもマスター、なんか普通に話せるって聞いたよね」

「この間はオランダ語だったかな。フランス、スペインにイタリア、マスターが言うには似ている言葉だそうだけど普通じゃないよな」

「俺は古代マヤの展覧会でマスターがぶつぶつ独り言を聞いた事があるぞ」

「独り言ぐらいは……」

「でも、日本語じゃなかったし、意味を聞くと横の解説文より詳しいんだよ」

「そうなんだよ。この間はアラビア語だったと思うんだが、知らないしなー。でも、そんな風に聞こえたんだ」

「あれだよ、きっとむこうで長く暮らしていたんだよ」


「神父様、今の方は」

「喫茶店のマスターですよ」

「アァ、学生がよく行くって言ってましたね」

「美味しいコーヒーが出るそうですよ。少し安いようですしね」

「ハハハ、私も聞きました。それはともかく、ラテン語の研究者ではないかと思いましたよ?」

「イヤ、私も偶然に知り合ったんです。私も日本に随分と長くいますが、彼が学者で無いとは少し前までは知りませんでした。彼の語学力に驚きましたよ」

「いやはや、長生きはするもんですな」

「1000年以上前の中東でのラテン語ですからな。あれほど見事に話す方がおられるとは」


 ※ ※ ※ ※ ※


後日譚 日本編第5話

 その紳士が、カトーの喫茶店に訪ねて来たのは、ある秋の日の昼下がりだった。それは日本に向かう巨大な高速移動体を追って、自衛隊の航空機がスクランブルをした日でもあった。その移動体は台風の中、太平洋に浮かぶ○○島のレーダーサイトによって捉えられ、関東平野にある地方都市の上空で忽然と姿を消した。


 その紳士は意を決したようにドアを開けて喫茶店に入っていった。客を出迎えた妙齢のご婦人に二言三言話すと、彼女の案内によって、カウンター席に通された。ジャストサイズに仕立てられた暗いエンジ色の高級スーツを着こなしていた紳士は、カトーに向かって興奮気味に話し出した。


「すいません。今いいですか?」

「エェ、どうぞ」

「あなたでしたか。少し驚きました。この地では思念波は珍しいですからね」

「失礼しました。昔、懇意にしていました友人を思い出したので、懐かしく思ってつい呼びかけてしまいました」

「失礼ですが、お名前を頂戴しても宜しいですか?」

「加藤です。加藤良太と言います。ムンドゥスに長くおりまして、その時はカトーとも呼ばれていました」

「エ! オーオォ! あなたが大魔導士のカトー様でしたか?」

「ご存じなのですか?」

「もちろんです! そうですか……。あぁぁ、貴方が神祖ミレア様達のご友人であられるカトー様なのですね」


「イヤー、イグナーツさんと仰いましたか? ミレア達の、ご子孫だとは思いませんでした」

「ハハハ、そうですか。イヤー、転移点が雨でしたので少し北にコースを変更したんです。偶然とはいえ、良かったです」

「人化の魔法もそうですが、日本語も素晴らしいですね」

「イヤイヤ、お褒めにあずかり恐縮です」

「本当ですよ。それにしても、日本の事にお詳しいですね」

「まだまだですが、最近知り合った者に教わったのです。ゲーム友達なんですよ」

「ホー、それはそれは」


「ハイ、レッドドラゴンのご先祖様であられる神祖ミレア様とユリア様です。当時は高々度迎撃タイプ大型ドラゴン第4世代と名乗られたそうですが、13000年ほど前の事になりますね」

「ホー、そんなに前の事になるのですか?」

「エェ、転移による時空間潮汐の影響なのでしょう。私の様な一介のドラゴンでは、うかがい知る事が出来ませんが」

「なるほどねー」

「カトー様のご意思は何よりも尊いとされています。13000年前の約定通り、この地に仇なすような破壊をするような事は致しません」

「ご冗談でしょう」

「いや、本気です。残念ですが、今日は人族の長と会う約束がありますので、そろそろ失礼いたします。美味しいコーヒーでした」

「口に合ったようで良かった」

「イグナーツさん、また来て下さいね」

「エェ、もちろんです。エミリー様。では、カトー様。お暇します」


 ※ ※ ※ ※ ※


後日譚 日本編第6話

 この町には、小児ホスピスが置かれた結構な大きさの病院がある。気を張った業務の時間が続き、ホッと一息出来る時間は貴重だ。病院内にも喫茶室はあるが本格的なコーヒーとは言いづらい。それはともかく、その喫茶店のマスターが作るブレンドコーヒーは安くて美味い。


 しかも今時、珍しく出前を頼めるので病棟の職員も時々注文する。オーダー数が少なくても、多少なら営業時間外でも嫌な顔をする事も無く届けてくれる。もっとも、出前はこの病棟だけで他は受けていないとの事だ。おそらく、マスターの個人的なサービスなのだろう。


 コーヒーはともかく、少なめだがサンドイッチのサービスが付いて来るのは、気の利く奥さんがいるからとテレ笑いしながら話していた。確かに、看護職は体力勝負の面もあって小腹も空くのだ。


 その病棟は小児病棟なのである。回復困難の病を得た子供達の看護をする者達には、あやふやであり、まさかと思われるような言い伝え? いや、希望があった。


 それは春の奇跡と言われ、桜の花が満開になる時に起こる出来事とされたで。数年に一度だけだが、症状が急激に快方に向かい病室に居た子供達が全快するのだ。まともに取り合う者も無かったし、看護師だけでは無く患者本人さえも偶然だと思うのだが……。だが、十数回も奇跡のような事が繰り返されれば都市伝説になるには十分だった。


 ※ ※ ※ ※ ※


 後日譚第7話

 出張で時々、と言っても半年に一回ぐらいだが加藤の店に寄る事が増えた。駅の近くに、コーヒーと軽食を出してくれる店を開いて随分にもなる。ここは、チョッとした桜並木と奇跡の病院があると言うので有名になった町だ。


「オー、岡田。久しぶりだな。元気してたか? 今日も出張か?」

「あぁ、何とかな。出張でもなけりゃ、こんなとこまで来ないよ」

「ハハ、それもそうか。マ、コーヒーでも飲んでいってくれ」


 加藤の店は、西洋風のアンティーク家具が似合いそうなシックな感じだ。キャンプばかりしていた奴が、こんな良い雰囲気の店のマスターに収まっているなんて、世の中分からないもんだ。何でも、粘土とか焼き物とかで稼いだと言っていた。焼き物ってなんだ? と思ったが、親友が上手くいっているのは嬉しいもんだ。


「あ、エミリーさん。ありがとう」

「ようこそ。いつもお世話になっております。良ければこの蜂蜜ケーキもどうぞ」

「エミリー、そいつにあんまりサービスするなよ。長居されちゃうぞ。」

「モー、良太さんたら。いつも話しているのに、あいつは何してるかって。どうぞごゆっくり」


 加藤が俺の頼んだ仕事で遭難してからもう30年以上だ。いつの間にか、遠い親戚だとかいう青い目の娘さんを連れてきて仲良くやってる。しかし2人とも20才は若く見える。エミリーさんはともかく、夫婦仲よく魔法でも使っているじゃないかと思えるぐらいだ。


 俺の方も女房と上手くいったのは、加藤に仕事を代わってもらって、ネズミランドに行ったおかげだ。さすがに時効だろうな。

 

 この店には20席ぐらいのテーブル席と7席のカウンターがあり、午後のこの時間帯でもそこそこ人も入っている。コーヒーの値段は安いのに、椅子やテーブルはロココ調の作りでゆったりとしている。間隔を詰めればもっと入るだろうに欲の無い事だ。

「ま、それが良いのかもしれないが」


「マスター、こいつにも見せてやってくれる。例の」

 学生らしいのが4人、水のお代わりを頼んでいる。どうやら友達を連れて来ているようで、中の一人が自慢げに言っている


「おい、しっかり見てろよ。絶対分からないから。凄いんだから」

 加藤が、袖をめくりながら声を掛けられたテーブルに行く。左手でコップを持ち上げて、右手の人差し指の2センチ先から、水が静かにコップに注がれている。いつ見ても、こいつのマジックは分からん。まるで、空中から創り出しているように見える。


「マスター、エミリーさんのケーキも一つお願いします!」

「了解」

「あ、やっぱり4人なので四つお願いします。ここの蜂蜜ケーキも旨いんだぞ」


 エミリーさんが、ケーキを人数分持って来るが、変わっているのは火の点いていないロウソクが一本ずつ立てられている事だ。

「よーし、皆。今、見せてやるからな」

「お前がするんじゃないだろう」

「マァ、いいって。驚くなよー。マスター、よろしく」


 テーブルの横に立っていた加藤の両手が広げられて持ち上がる。人差し指と中指から、小さな炎が4つ灯った。ホーと見ていると、ゆっくりとロウソクへと小さな炎が飛んでいく。人数分のケーキのロウソクが灯った。これ、見終わってからおかしくね? となる。何度見てもマジで分からん!


 冗談では無く、加藤達は魔法使いと魔女なんだな~と自然に思ってしてしまう。学生たちも、驚いて唖然としている。もう一度という声が出るのはいつもの事だが、マジックのネタなんだろう。時間をおかないと次は出来ないそうだ。


「じゃ、またな」

「オゥ、また来てくれ」

「そうだな。また半年後と言いたいが、俺もそろそろ定年だ。今度はうちのと一緒に旅行先として来るよ。またな」

「癒やされたいキャンパー。異世界を癒やしに行く」終了致しました。2年を超える掲載となりました。拙い文でしたが、お楽しみいただけたでしょうか? 暫くお休みを頂きますが、次作は「キャンプ場から世界征服する? しないの?」を予定しております。また御高覧を頂けますよう、よろしくお願いいたします。


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