表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
癒やされたいキャンパー。異世界を癒やしに行く。  作者: カトー
第20章 激動の世界
198/201

198 魔石研究室の日々

 ※ ※ ※ ※ ※


幻影ドラマ放送シーン

辺境伯領 領都レオン便りより


 イリア王国国営放送の中には地味ながら人気を博している番組がある。○○便りと言われる幻影ドラマは、多少の脚色は有るものの、その地の事を知るのにちょうど良かった。季節ごとの風物詩や出来事をそれと無く折り込み放送された。今回はカトー辺境伯領にある都市の紹介特集である。


 さて、魔獣大戦初期のイリア王国は、総人口が600万人・国土面積50万平方キロで有ったが、大戦後の10年で人口670万人、国土面積は139万平方キロとなっている。王国の領土面積が倍増近以上になったのは新しく開発された地ばかりでは無く、カトー卿が辺境伯としてシエテの町以西の広大な地を領有した為である。


 カトー卿の統治により人影もまばらだったイリア王国の西部は発展して行く事になる。今や辺境伯領内の都市は領都レオンを始め、城塞都市のバンブローナ・サリア・マラガ・ビペイロ・リャネスの5都市を数え、プルゴス別荘村と霧の村ルーゴ等と30万人以上の様々な人々が住まう地となっている。


 辺境伯領を発展させるにあたって、斬新なアイデアが随所にみられた。まずは移住して来る者の住居支援と推進である。確かに、辺境伯領の各都市は広い街区である。交通弱者と言われる子供や老人の移動手段の確保や、街区ごとの整備として移住者センターの活用、雇用場所の創出と住民活動の活性化、サービス機能の拡充が図られていた。


 さて、イリア王国の各地では、高速街道と鉄路の整備によりさまざまな人や思想、金が行きかうようになった。王都ロンダからシエテに通じるシエテ街道と呼ばれている。嘗ては辺境の都市として知られたシエテは辺境伯領への入口として栄えている。


 イリア王国歴195年以降、空前の経済拡大期を迎えた王国はシエテの町を始め王国各地で様々な公共施設の建造が開始された。試行錯誤をしながらも創意工夫された公共施設が建設され、公共施設整備率が徐々にではあるが向上していく。また、それに合わせるかのようにレオンからシエテまでの鉄路建設が行われ200年台初頭には領都レオンまで鉄路が着工されている。


 城壁に囲まれた巨大なニュータウン風の町には快適な居住施設はもちろん、ドラゴンシティーと比べても遜色ない商業施設があり、古代アレキ基準よりも倍の幅がある道路が巨大な升目を造りだしていた。


 今では30万人が暮らす辺境伯領であるが、嘗ては無人に近い広大な荒地と森の地であった。王国は発展期で有り、住民や人材の不足は何処でも同じであった。この辺境の地をカトー卿が領地として拝領し管理運営してきた訳であるが、言うは易く行うは難しであり、ましてや一朝一夕で出来るようなものでは無かった。


 だが、カトー卿とて、同じ苦労があるはずだが辺境伯領の人口増加率は異常なほど高かった。それはいかなる方法で有ったか述べる事にしよう。


 既に述べたように、家宰セバスチャンの言う通り、このままでは無人の地になりそうだとの指摘を受けてカトー卿は危機感を持ったらしい。人口を増やす為に町や村でのインフラ整備に精を出し、移住して来た者には土地拝受法により大幅に権利を与えられたのだ。


 今では辺境伯領の他の都市と同様に、領都レオンでは聖秘跡教会教会の白いマントをまとったかのような石造りの特徴を持つ建物を始め、多くの強化土魔法による建造物が立ち並び繫栄を謳歌している。では、魔獣大戦終了前後からの辺境伯領の都市の変遷を遡って見てみよう。


 ※ ※ ※ ※ ※


幻影ドラマ放送シーン

辺境伯領 城塞都市バンブローナ市便りより


 プルゴス別荘村とは異なり、やや北寄りになるが、シエテの町2番目に近い辺境伯領の都市は城塞都市のバンブローナ市である。この人口6万人ほどの都市は、カトー辺境伯領で最初に見えてくる都市らしい都市である。凡そシエテの町と領都レオンとの中間にある。都市は鬱蒼とした森の木々の梢や草原を渡る風の中、 神秘の色をたたえた湖の畔にあった。


 鉄路は領都レオンに真っ直ぐに向かっており、バンブローナ市へはまだ繋がっていなかった。来年には着工されるらしいが、今はロンダ蒸気動車工業の最新鋭の王国製蒸気動バスが都市間を連絡している。そのバンブローナに着いたバスから、大きなカバンを持った人物が降りてきた。商人らしい人当たりの良さそうな男は、王都で言うツーリストビューローに入って行った。


「ようこそ」

「ここは観光案内所ですよね」

「ハイ、そうです。どうされました?」

「今さっき着いたばかりなので、バンブローナについて教えて欲しいのですが」

「ハイ、分かりました。そうですねぇ簡単に言えば、自然豊かな都市ですね」

「ホー」

「案内用の地図付きパンフレットが、こちらになります。よければ少しご説明しましょうか?」

「エェ、お願いします」

「この城塞都市バンブローナは、シエテの町も領都レオンからも同じぐらいの距離です。直行快速便ですと17時間です。ですが、バスですと乗りっぱなしなので、やはり街道の駅で1泊する普通便の方が多いですね」

「フムフム」

「辺境伯領は、初めてですか?」

「エェ、店を出せるかどうかの下調べなんです」

「ホー、さすが商人さんは耳が早いですね。それに目の付け所が違いますね」

「というと?」

「バンブローナ市の事ですよ。今なら町興しのイベント中で先着の300店が優遇税制措置を得られるという話ですよ」

「イヤー本当ですか? 存じませんでした。これは良い話を聞きました。ありがとうございます」

「イヤなに、町に住んでいると広報と言う回覧板が回ってきましてね。町の催しや行政の事が自然と目に入って来るのですよ」

「ガイドさんは、この町にお住いなんですか?」

「エェ、王都から移住して来たんですよ。活気も有るし、良い所だと思いますよ」

「そうなんですか」

「もっとも移住して1年です。あまり詳しい事は分かりませんが、ご商売なら商業ギルドへ行かれるといいとおもいます」

「そうですね。行ってみます」

「先ほどのパンフの後ろのページには地図も有りますから」

「どうもありがとうございました。助かりました」


 ※ ※ ※ ※ ※


「中々、立派なギルドですね」

「お褒めにあずかり恐縮です。辺境伯領は強化土魔法の建築物が多いですからね」

「そうなんですね」

「ここもカトー様がお造りになったと聞いてます」

「ヘー」

「マスコットキャラクターもあるんですよ。カトー様の発案で、特産のカボチャの妖精だそうです。丸くてキュートなんです」

「ヘー。それって入口に置いてあった大きなぬいぐるみですか?」

「ハイ、カトー様が中央大陸から持ち帰られたタネの中にあったんです。土地に合ったんでしょうか、300キロぐらいのも採れますよ。入口に置いてあるのは実物より小さいんですけどね。フフッ」

「商業ギルドの作りは何処へ行っても同じ様なんですが、カボチャのぬいぐるみはありませんでしたね。マァ、美人さんの受付は同じですが」

「お口が上手い事。ご冗談はともかく出店の希望でしたね。こちらへどうぞ」


「これで、大方の事務は終了しました。次は開店のお手伝いをさせて頂ければ嬉しいですわ。では、またのおいでをお待ちしています」

「ありがとうございます。私も、ホッとしました」

「それはそれは」

「マァ、仕事ですから。ところでカトー家の人々のみが住まわれる霧の村ルーゴというのは不思議な所だそうですね」

「ハイ、私もまだ行った事はありませんが、うちのギルド長が行った事があるそうです。聞く所によりますと大自然を満喫できるそうで、どこかの山里へ迷い込んだような気になるそうです」

「ホー、そうなんですか」

「エェ、奥の方へ行くとまるで妖精の住まいではないかと思うような雰囲気が漂っているそうです」


 ※ ※ ※ ※ ※


幻影ドラマ放送シーン

辺境伯領 ルーゴ村便りより


 広大な領地の東、シエテの町からほど近いのがプルゴス別荘村である。領地では最初にインフラ整備が行われた村であり、カトー卿の別荘を中心として森の中に城壁と水堀によって囲まれた、人口500人ほどのこぢんまりとした村である。


「移住者も増えてますな」

「辺境伯領は、話通り良い所ですから」

「エェ。しかし、プルゴスもルーゴもあまり変わりませんね」

「そうだろうなぁー。在るのは自然だけだし」

「ありていに言えば不便ですからね。軍の野営地とも違いますし」

「コンセプトはキャンプ場とか言われましたかな」

「カトー様がお決めになった事ですからな。我々、凡人には知りようも無い深いお考えがあるのでしょう」

「エェ、そうですとも」


 プルゴス別荘村より人口の少ないのがルーゴ村である。ルーゴ村はカトー家に連なる者しか住まう事は許されず、訪れる者は魔石研究関係者や行政関係者だけとされ、多くとも年間で80人ぐらいでは無いかと言われていた。これは魔石エネルギーによる暴走事故の際、極力被害の低減を図るもので、魔力研究の為にはやむを得ないとされていた。


 領民にしてみればルーゴ村と言うのは、日々の生活には全く支障がないが、魔法の研究と実践を行う不思議な地であった。カトーにしてみれば単にホムンクルス達の秘密を守る為に必要とされる措置であったのだが……。


「ルーゴ村ではずせない癒しスポットがラレオ湖だな。この湖は元々、大昔の火山が噴火してできたカルデラ湖が有った場所だったそうだ。そこに、なんと600年前の隕石テロの時に小隕石が当たったらしいんだよ」

「ヘー」

「幸いな事に、小さかった為か他の都市の様な壊滅的な被害も無かったようだね」

「そうなんですか」

「でもまぁ、小さいと言っても10センチなら奇麗な流れ星になっただろが、隕石が1メートルでも被害は出るからね。それに水蒸気爆発は有ったようで、廻り一帯の木々は倒されてしまったらしいよ」

「フーン」

「湖の中央部分はかなり深い。湖底から湧く水は冷たくて名水と言われるだけあって美味いんだ。透明度もあるし、底に沈んでいる木が見えるぐらいだからね。で、光の角度なんだろう色々な青になるんだ。時間帯を変えると違って見えるし幻想的なんだ」

「ホー」

「湖の岸には散策路として7キロの周遊コースと公園が整備されており、ベンチで一時を過ごすのも良いだろう。この湖にはラレオ御前という女神がいるとされ、その美しさは言うに及ばず強力な神通力は岩を打ち砕いたと言うんだ」

「ホントかよー」

「まあな、言い伝えだから。で、言ったように入村は厳しい条件があって、冬の間は深い雪に閉ざされてアクセスは困難だ。真偽のほどはともかくルーゴ村では、毎年8の月上旬に、この湖の女神伝説を基に湖と女神フェスティバルが開催されている。一般人が訪れるには良い時となっているんだ」

「聞いたことがあるな」

「残念ながら、村には宿泊できる一般人用の施設はないので野宿になるんだ。マァ、湖畔に設けられた公園にはキャンプ場があるから、キャンプを楽しむ事ができると思えば良い。気の持ちようだろ。あとは、ボート遊びや釣りなどのアクティビティもできるな」


「そうそう、王国ではエマ嬢作のラレオ御前の鋳造作品が知られているが、そのオリジナルの像は、湖畔にあるエマ嬢の作品を集めた女神美術館に置かれているんだ。ここははずせないスポットになっているぞ」

「フーン。そうなんだ」

「観光の後は温泉でリラックスできる! 出来るんだが、ルーゴ村からは結構あるんだ。秘湯と言うほどでは無いが、山の方には珍しい温泉が幾つかあるな」

「ウン、温泉も良いなー」

「アァ、その塩温泉は美容のために飲んで良いし、塩温泉には共同浴場がある。民宿も隣にあるんだ。川を望みながら、のんびりできるぞ」

「ウン、ウン」

「2日酔いに効く温泉や皮膚病に効果がある温泉もある。それぞれの温泉に共同浴場があるので、お湯めぐりをしてみるのも良いかも知れんなー」


 ※ ※ ※ ※ ※


幻影ドラマ放送シーン

辺境伯領 城塞都市 リャネス市便りより


 辺境伯領リャネス市はドラゴンの住む都市である。些か正確さに欠ける表現であるが、リャネス市民はそう思っている。高々度迎撃タイプ大型ドラゴン第4世代と呼ばれるミリア様とユリア様は、この都市の北方に住んでいるとされていた。その証拠に、時々空を舞う2頭のドラゴンの姿が見えた。


 カトー家の家紋は上がり藤であるが、辺境伯領の旗に描かれているのは2頭のドラゴンが飛翔するデザインである。ドラゴンは力と知恵の象徴とされ、辺境伯領の公共物のシンボルマークとしても使用されており住民にとっても大切な心の拠り所である。


 リャネスでは、王都ロンダで催される巨人の秘跡祭りのパレードと同じように5聖人と4聖女の旗が掲げられ山車が市内を練り歩く。そして商人、農民、騎士、貴族、王と王妃、僧侶、魔法使い、魔獣の山車も同じであるが、最後に火を噴く2頭のドラゴンが加わっているのが特徴的である。


 パレードに登場するドラゴンの山車は、近くで見た者が少ない為か、巨大とはいえない身体、長い首と真っ黒な顔で、大きな牙と賢そうな目をしている。いずれにしろ魔獣大戦の災禍の時、人々を魔獣から守ってたという事には違いないのだろうが……。


 この6メートルほどのハリボテであるが、本来ならば、最終日に巨人たちが協力して魔獣を倒おし、魔石を砕く仕草をして魔獣を退治する仕草をするのだが、このリャネスでは、列の最後にいるドラゴンによって一挙に炎の塊とされるのだ。実際は少量の火薬によるものだが、ドラゴンの息吹もかくやと思わせる物である。


 また、祭りのパレードほどでは無いが、リャネス大学の正門にも精緻なドラゴンのレリーフが刻まれている。こちらは本物に近いできらしい。向かって右がミリア様、左がユリア様といわれミリア様の方が少し大きい。真夜中に、この像の口に火焔ならぬ花火を差し込んで炎に見立てるのである。もちろん禁止された悪戯であるが、卒業までに行うと幸運を招くとされ多くの者が行うようだ。


 ※ ※ ※ ※ ※


 ほとんどのイリア王国人にとって、カトー卿の霧の村ルーゴへの旅はあまりに困難すぎた。だが、他の5都市であればはるかに現実的である。王都ロンダを結ぶシエテ街道と鉄路沿いに見られるようになった強化土魔法による2階建ての街道の駅と駅舎は、広い駐車場を備え、曲線的なアーチ、頑丈な石の柱、魔獣退治の物語を題材にした豪華な装飾がしてあった。後の歴史家たちに、カトースタイルと呼ぶ建築様式である。


 基礎となっているのは古代アレキ文明の建築様式で、建物の構造や装飾には古代アレキ文明の影響が見られるが、エントランスホールなどの空間の演出は聖秘跡教会教的であり、まさしくイリア王国におけるカトー卿の影響を反映していた。


 ※ ※ ※ ※ ※


「今度は何を作るんだ?」

「アァ、エミリー。商工大臣のナタナエルさんがここらでイベントを開催したいというもんだから」

「そう言えば、中銀総裁のアニバルさんも同じような事言っていたな」

「領都にも何か記念碑的な物がいるのかなっーと思ったんだ」


「アレキ大陸の人達は高い建物が好きなのかなー?」

「そうかー? 塔ならカトーも好きじゃないのか?」

「まぁね。塔と言えば、王都にはジッグラトの塔があるよねぇ」

「カトーが万博の時に無茶振りして15日で近衛達と作った塔だな」

「そ、そうだったねー。時々、作って良かったかなーと思うんだけどね」

「フーン」

「だって土魔法で高い塔を作ると、何百年後にはダンジョンになるかも知れないから」

「ダンジョン? なんだ、それ?」

「ウゥーン、こっちの事。なんでもないから気にしないで良いよ。それにしても塔かー。確か、観光施設として帝国にもあったよね」

「帝国要塞の迎撃戦の時、前哨観測基地として使ったな。あの塔は昔から帝国では有名だったそうだぞ。確かヴォメロの塔とか言ったはずだ」

「忘れていたよ。あそこも中々だったね」

「魔獣を3万匹も焼き殺したところだ。普通、忘れないだろう」

「この際だからと、ナタナエルさんがムンデゥス最大規模のエンターテインメント・アミューズメント施設を作ると言い出してねー……」

「それで」

「プランは有るんだけど。マァ、日本に有ったネズミランドを元に考えているんだ。でも、転移してきたきっかけが、友人のネズミランド行きだからねー。今一、気が乗らないんだ」

「アァ、そんな事も言っていたな」


 ※ ※ ※ ※ ※


 カトー卿と言えば大陸中に名高い魔法使いで、イリア王国の貴族位では上から数えた方が早いという侯爵である。彼が使う魔法はアレキ文明最盛期の魔法を凌ぎ、今のムンデゥスで使われている魔法より高いレベルと広い効果があるとされる。

 その魔法に関する学識は海よりも深い造詣を持つと言われている。その卿の屋敷が王都ロンダ貴族地区にある。今、門の横にある呼び鈴が鳴らされた。


「ハイ、どちら様でしょうか?」

「お手紙を差し上げた聖秘跡教会の者です。今日はカトー卿がお見えになるかも知れないという事で尋ねてまいりました」

「ようこそ、司祭様。お話は分かりました。申し訳ありません。主人は留守にしております」

「そうですか。残念です。では、いつものように手紙をお渡しください」

「承りました」


 今日もまた、稀代の魔法使いカトー卿と、王国の魔女と言われるエミリー少佐を訪ねて聖秘跡教会の司祭がやって来たのある。家宰のセバスチャンは、主人が不在であると答えながら教会からの手紙を受け取った。彼は司祭と言う地位にありながら、お使いとして何度も来ていたのだ。居留守を使う主人の苦労も分かるが、司祭の事を少しだけ可哀想に思いながら見送るセバスチャンだった。


「お帰りになられました」

「アァ、セバスチャン。ありがとう。で、いつもの司祭様だった?」

「ハイ、そうです」

「なら、手紙の中身はいつもと一緒かな」

「左様ですか」

「ウン、リヨンのジャンカルロ枢機卿からだね。聖人の称号をお送りしたいと猊下が仰っていらっしゃる。つきましては是非リヨンにお越し下さいとある。最後にクラウディア教皇が、お会いできるのを楽しみにしております。と書いてあるんだ」 

「それは、それは……」

「やっぱりだ。列福されても無いし、本人が言うのもなんだけど僕でいいのか! だよねぇ。それに臣下が聖人だなんて王室としても大変だと思うし。普通、聖人に推挙されるのは死後何十年かしてからだよ」


 ※ ※ ※ ※ ※


「カトー卿。最近は聖秘跡教会との関係はいかかですかな?」

「それなんですけど、シーロさん。少し困っているんです。前からリヨンのお坊さん達が聖者認定させてくれと」

「アーその話ですか」

「聖人の称号なんて受けれる訳もないのに、うるさくて」

「マァ、良いじゃないですか。教会の敵になるよりも」

「ハッハハ。聖秘跡協会も抜け目ないな」

「笑い事じゃないですよ。陛下」

「そうでしょうな。我慢比べ状態ですね。ウン、ウン、カトー卿も大変ですね」

「全くですよ」

「聖人か。まさか、カトー卿と俳優を間違えていないだろうな」

「活動大幻影には、役者が本人になり替わってましたが、あれほど現実と違う人物になるとは」

「シーロさん。目も前に、本人がいるんですけど」

「オッと失礼しました。ですが、カトー卿自身が顔出しは恥ずかしいからイヤだ。広報は是非、彼にして下さいと言われた事だし。仕方ないですよ」

「確かに、出回っているのは活動幻影の役者さんの顔ですけどね。王都に来たジャンカルロ枢機卿なら、子供ぐらいの背格好だと知っているはずですから。少し調べれば分かるはずなので、大丈夫だとは思いますが……」

「意外と分からんぞ。魔法使いだから、顔を変えたり、伸びたり縮んだりするのも自由自在と思っているかもしれん。ヨシ! この際だ、影武者の方にするか」

「エー!」

「冗談だ」

「陛下、驚かさないで下さい」

「まぁまぁ。ところで、カトー卿。今日は如何されたので?」

「魔石の補充分を持って参りました」

「それは、それは、ありがたい事です」

「シーロさん、何だか言う事がお坊さんに似てきましたよ」


 ※ ※ ※ ※ ※


「陛下! やっぱり搦め手できました」

「シーロ卿。今度はこっちなのか。全く諦めの悪い奴らだ」

「気持ちは分かりますが、声が大きいですよ」

「すまん。で、話というのは?」

「ハイ、癒しの魔法を第9の秘跡として認定したいそうです。王国としても、その旨を承知してくれと」

「聖人が難しいので秘跡ときたか。考えたな」

「エェ、そのようです」

「年一回とはいえ、毎年続く祭典だからな」

「病気快癒、健康増進の催しとして有名になり過ぎました。一時とは言え、王都の人口が膨れ上がりますからね。経済効果は非常に高く、開催が出来ないものならナタナエル商工大臣が泣きますよ」

「そうだよな。今更、無くす訳にもいかんしなー」

「そうですとも。しかし、教皇庁からの催促。今年になって何度目になるでしょうか」

「そうだなぁ……」

「王都での癒しの魔法は、広くはあるが効果は薄いという事で誤魔化しましたが、まずかったですな」

「アァ。やっぱり、バレているんだろうな」

「そうですね。何しろ、魔法の事をもみ消そうとしても遠くヴェーダの事ですからね。時間も経ってますので話が拡がってしまいました。一部ですが記録が残ってますし。マァ、記録の方は影達が改竄して白を切りましたが、如何せん助けた人が多すぎました」

「しょうがないか」

「ハイ、癒しの魔法を使かって、瀕死の者のみならず22万のケガ人の治療。あまつさえ、70万余のヴェーダの人々を気力体力とも充実させるなどと言う……全く、神にも等しい魔法ですからね」

「そうだな。あのような偉業、とても人の身で出来るものでは無いからなぁ」

「エェ、神にも近い存在であると。そのような方をイリア王国の辺境伯としておくなど言語道断。直ちに善処されたいと……抗議も何度となく言ってますから」

「いつもの事だな。まったく……、ワシとて国王の譲位を考えないでもなかったが……」

「陛下、それはご冗談でしょうね」

「半分本気なんだがな」

「またまたー、しかし無茶とは言え、泣く子と教会には逆らえないとことわざが有るくらいですし」

「それなりの地位か。また、貴族達がブツブツ言いだすな。となると国王にする訳にはいかんか」

「絶対にダメですからね」

「困ったな」

「やはり、副王への推挙をすると言う処でまとめるしか無いでしょう」


 ※ ※ ※ ※ ※


 嘗て宗都リヨンは、半独立宗教都市としての役割を認められアレキ大陸中と教会を介してつながっていた。その成果として、一帯の経済は徐々に拡大を続けた。聖秘跡教会教徒たちはありがたい聖遺物を一目見ようと、リヨンに巡礼し、生涯に一度は訪れたい場所となり、街道は王の道と呼ばれるようになる。そして王の道を通る聖秘跡教会の巡礼達がリヨンに長年にわたり富をもたらした。


 大聖堂区は拡張を続け、聖人の遺物を所蔵する建物は評判を呼び、さらなる巡礼者を集めた。しかし、魔獣大戦後はエバント王国の内乱により混乱を極めた。それは、聖秘跡教会教の混乱期とも言われ、原理主義者の台頭もあり教会が空中分解したかのような時代だった。それは一つの時代の終わりを告げていたとも言える。


 教皇庁とエバント王室の固執は、上述したようにエバント王室を滅ぼすだけでは無く、エバント王国を崩壊させるまでになる。教会組織再編と威信の再構築の為には資金が必要であった。教皇派は苦渋の決断に迫られ、その手段を探した。その一つが教会謝罪札である。


 教会贖罪札とは、イリア王国歴200年前後に盛んに発行された聖秘跡教会の証明書の一つである。そして教会が激動する引き金となった。クラウディア教皇の名によって発行された教会贖罪札は証明書のようなイメージが強かったが、言葉通りなら良い意味で受け入れられるはずだった。


 実際の所、この贖罪札の発行が教会の権威の低下を招き、施策としても歴史的な低評価を受けている事は広く知られている。それでは贖罪札という制度は、本当に正当性のない愚策だったのだうか? 教会が辿った隆盛と衰退を振り返りつつ、その正当性を考えたいと思う。


 贖罪札とは何か、どうして贖罪札が必要だったのか? 贖罪札に関わり深いのは教皇庁であるが、贖罪札の配布風景を写した幻影がある。厳かな教会で、とても金銭が絡むような雰囲気は微塵も無い。当時の教会の社会情勢が的確に写されているようだが、その実、金で罪を解決できると思われたくなかったのであろう。


 販売では無く配布とされている事からも、後ろめたい事柄ではないかと分かる。喜捨された金額によって、罪の軽減を認められるとした事でアウトなのは明白である。しかしながら、贖罪札の正当性を考えるにあたって、些かしかたがないとする意見があるのも承知している。


 まずは、その歴史をたどってみよう。そもそも教会贖罪札とはその名が示す通り、聖秘跡教徒に罪の許しを与える札である。だが、教会が発行した証明書により、罪は無くなるか軽減する。もしくは悔い改められた者と同等の許しを与えられ、罪の許しを得る事が出来るとされるものであった。


 最初、そこで得られた資金は教会の再建などの浄財として扱われ、魔獣大戦や内乱で失われた教会施設に関わる事業に使われていた。今となっては教会の腐敗というイメージが湧く謝罪札であるが話は少し複雑である。


 魔獣大戦が始まった頃から、教会が特例で罪の軽減を認める特例制度は存在していた。贖罪札と呼ばれる証明書は、魔獣大戦後の内乱期に大量に発行されたが、実は過去にも発行が行われていた。当時も教会の宗教観では犯した罪に許しを求める行為は非常に重要視されていた。


 この罪の許しを得る行為は、教会も教徒にとっても宗教観の中で重要であったようだ。初期には金銭的な支払いは無く、名誉の回復に付随する物で有ったようだ。自身が犯した罪や異教徒の排除等、教会の支持を得た迫害を悔い改め、反省し罪の告白を行い、許しを得る償いを行ない、それが認められた者に渡されたのである。


 これらを経て犯した罪は許され、来世の幸福な生が約束されるとしていた。これが可能かどうかはさておき、教会贖罪札と呼ばれる魂の救罪制度の原型が誕生したのは、金銭を援助する事では無かったという事だ。


 現在の様な形になったのは魔獣大戦の開始とともにはじまったと言われる。だが、時が過ぎ教会は償いとして、教会への金銭の寄進や、その意向に対する賛同を教徒にさせているのだ。混乱した社会情勢、教会内部の対立、内乱による傷つき倒れた者、混乱による飢餓の犠牲者、それを作りだした者、又は命じた者の精神的苦痛を和らげる事を目的としてはいたが……。


 多くの者にとって、自分が生き残る為には他の者を追い落とさなければならない。それほど厳しい飢餓の時代だったのだ。助かる道は、比喩的な意味でだが救命筏に残るか残されるかと同じである。魔獣との戦いとは違い、食物が無いのでお前達は死ねと命じる者の心のうちは如何であったろう。多くの者にとって、人に死ねと命じるのは、なまはんかな事ではない。


 そんな時、神から差し伸べられる魂の救罪となるのが教会謝罪札であった。聖秘跡教会の権威は落ちたはしたが、人々は魂の救罪が得られるならばと、贖罪札という証明書を挙って購入したのだ。


 この制度が存続した原因は多いが、一つは聖秘跡教会の総本山という宗都リヨンまで行く事が困難だった事である。イリア王国を除きアレキ大陸中の交通網が混乱しており、おいそれとはリヨン行きができなかった為である。


 だが、教会にはそれを解決する知恵者がいた。各地に残された施設にて贖罪札を販売できるように許可したのだ。教皇庁は教会贖罪札による経済効果に気づき、制度と地方の教会は徐々に暴走を始める。


 確かに行けない者にとっては僥倖であった。さすがに、司祭しか販売できないとタガを付けたが、タガは外れるし壊れるものであった。それが、我々がイメージする教会贖罪札であり、今も続く教会の腐敗だったのだ。


 クラウディア教皇が贅沢な暮らしを好んでいたと言うなら、まだわかる。赤貧とは言えない暮らしだったそうだが、地位上それなりの贅沢は教会の名誉の為にも必要だったし、クラウディア教皇としても教皇庁の面子も考えねばならなかった。


 内乱時、教皇庁は教会の維持と対立する各派を押さえつける為に、その費用として各地の豪商に多額の借り入れ金を作っていた。そして、その借財返済のために目を付けたのが謝罪札だった訳である。


 魂の救罪と言う事で売り出された教会贖罪札だったはずが、リヨン大聖堂の再建資金集め、教徒の宿坊の整備の為、等々どんどん使い道が拡がる。もちろんそれだけでは無く、これらの多くは教皇庁の借金返済に充てられた。そして、更なる権威付けの為にも使われている。


 教皇庁は借財の完済のために、表向きは聖秘跡教会の建物とリヨン大聖堂の再建費用の徴収をするとして神の御名の下に青色の教会贖罪札を発行した。この時の教会贖罪札は、罪の軽減ではなく罪の全面的免除ができるとして発行されたのだが結果として青色になったのは彼等の顔だった。


 当然、これに対して待ったをかける教会関係者も多く、この青色教会贖罪札の発行が、後に起こる宗教改革へと繋がっていく事となったのだ。


 ※ ※ ※ ※ ※


 聖秘跡教会が借財返済の為に目を付けた今一つの手段が、カトー卿の癒しの魔法である。その魔法は体だけでは無く、その心も癒すと言われた。謝罪札とは違い、傷や損傷が目の前で修復されるのだ。その効果のほどが、その目で見えるのだ。


 王国祭は、王都ロンダで年一回開かれる。嘗ては新春馬術大会と呼ばれた祭典である。その祭典でカトー卿による癒しの魔法が行われる。イリア王国は秘匿しようとしたが既に知られており、隠蔽は不可能な魔法だった。ならば、癒しの魔法の矮小化を図り、その効果を下げて範囲を限定されると言う噂を広める事にした。


 第一聖秘跡教会前の広場限定で受け入れ人数は3万人とされた。カトー卿はこれだけの人数を一瞬にして回復させていたのだ。神の奇跡と言われる所以である。最初、魔法の使用場所は王宮広場とされたが教会前広場に変更されている。これは教会の塔のテラスから、広範囲が見渡せる事によって魔法の効力範囲が広がり、一人でも多くの者を救う為である。もっともこれを一番喜んだのが教会関係者であったようだが。


 これをリヨン市の大聖堂で行えば聖秘跡教会の権威は増し、威厳は保たれるだろう。そして、謝罪札同様に喜捨を募れば良いと。そして、柳の下の泥鰌ならず、目を付けたのがカトー卿の癒しの魔法だったのである。教皇庁としても体よく断られたままでは金儲けはできない。一時は、拉致さえ考えられたようだが、公になった時には、さすがに拙いとするだけの常識は残っていたようだ。


「で、カトーが関係あるのか?」

「ウン、癒しの魔法があれば治癒効果は確実だからね。リヨンに来い来いと話が出て来る訳だよ」

「フーン、在りそうな話だな」

「カトーは行かない。だとすると替わりの者が使い手となる訳かー」


 単純にそう考える者もいたが、聖秘跡教会の関係者はカトー卿を招聘する事ができず悩んでいた。だが、癒しの魔法を使えるのはカトー卿だけでは無く教会の中にも居るはずだと思わせた者達がいた。まさか、唯一無二と言われる癒しの魔法の使い手が都合の良く有ろうはずはない。正常な状態ならそんな事はウソであり詐欺同然だと分かるだろう。


 溺れる者は藁をもつかむ。それから暫くすると表には名を出さないものの、教会と言う権威により裏打ちされた謎の教団が作られる事になった。


 ※ ※ ※ ※ ※


幻影ドラマ放送シーン

謎の教団 活動拠点のその後より


 謎の教団とは、一時世間を騒がせた奇跡を売り物にする詐欺集団の事である。その詐欺の中身となったのは癒しの魔法と同程度の治癒効果がある魔法が使われるとした事だ。そして、その真偽は不明ながらも黒幕は教皇庁だったのではないかと噂されている。今回はその現場を訪れてみる。


 街道から離れた場所に、緑に覆われた朽ち果てた建物があった。最初に目につくのは、崩れた屋根だ。部屋の窓枠には、嘗ては美しかっただろう割れたステンドグラスがある。勢い良く茂ったヤブが建物跡を蔽い始めていた。ここは、いくらもしない内に小さな丘となっている事だろう。


 奥の入り口らしきものに降霊殿と表示がある。むしろ、伏魔殿の名が相応しいかも知れないが……。ここは、謎の団体が本拠地にしていた施設なのだ。そしていつの頃からか、街道を行き交う人々に噂話が出回るようになった地だ。


 誰もいない施設を案内人と二人で巡った。敷地内の建物は講堂らしき大きな建物と降霊殿と呼ばれる胡散臭そうな場所、そして宿坊だったと言われる。確かに大きな建物は宗教施設ぽっく見える。謎の教団、いいや詐欺師集団と言っても良いだろう。彼奴等は灰色の装束に身を包み、その姿は話に聞く灰色のカトー卿を思わせたと言う。


 ガラス窓は砕け、その壁は大きく割れている。見てくれは良いが工期の短縮する為に張りぼての様な建物であった。ひび割れた壁から入り込む植物。屋根などは、とうの昔に穴が開き床には水溜りが出来ている。廃墟らしく地下室に至る通路には焼け焦げた火災の跡もあった。


 嘗ては厳かな空間であったかも知れないが、今では昼間であっても薄暗い廃墟である。散乱したガレキを踏みながら、通路を慎重に進むと、冠を被った女神の彫像がある。手をかざして、いかにも死にそうな者に一条の光を当てているように見える。おそらく、この団体の治癒魔法と称するものが行われていた場所だろう。


 では、後学の為に彼らの一般的な手口を紹介しよう。詐欺師たちは常につけ狙っている。うまい話、楽になる話、は絶対ありえない。ところがカトー卿が使う癒しの魔法は真実である。ちょっと考えれば分かる事であるが病魔は冷静な判断を狂わせる。


 まがいものかもしれないし、実際には効果の無い魔法かも知れないが、言葉巧みに話されれば自分ならともかく、妻子や孫の病である。巨額とは言え、平癒すれば幾らでも金を出すだろう。そこに付け込まれる訳だ。


 王都ロンダで行われている癒しの魔法効果は、断片的では有るが遠く離れた地でも真実であると知られている。詐欺師達は金持ちで身内に病の者を探す。個人情報などは気にされない世界だ。持っていなくとも個人情報を手に入れるべく、ちょっとだけ動けば良いだけだ。


 教会関係者をかたり安心させる。司祭様からの紹介とか、枢機卿のお知り合いだから特別ですと偽るのだ。このまま放置しておくと命が危ないと不安をあおり、まことしやかに癒しの魔法の説明をした上で、巧みに誘導していく。弱みを巧みに突いて来る。そして不安が煽られる。


「必ず良くなる」「私の身内も治った」「友人として知らせない訳にはいかないよ」「私の人生から病魔が退散した」など、いかにもな話をする。次第に手口も巧妙になり、地域の親睦会、音楽会、食事会、聖秘跡教のセミナーと称し、会場ではもっともらしい事をほんの少しだけ話すのだ。


 教会関係者をかたる方法などで相手が信じ込めば良い。本物そっくりと言うよりも本物の関係者を雇う時も有ったようだ。悪質な者が勧誘すれば疑うが、教会の関係者がその効果のほどを語るのだ。十分に信頼を築くのだ。さながら、魚が針を呑み込むまで待ち、釣り上げられるのを見るようである。


 彼奴等は事をなすと直ぐにその地を去ったという。その行方は今も杳として知れない。


 ※ ※ ※ ※ ※


幻影ドラマ未公開放送

辺境伯領 魔石研究者達の日常より


 下記のシナリオは、幻影ドラマ放送の1シーンとして作成されたが、製作発表にあたってイリア王国の公安部、通称影達により発表見合わせせよとの指示があった。魔石に関するレポートは国家的損失が発生するとの事であった。


 50年後、情報開示法により当シナリオの一部公開が許可されるまで存在自体が無い物とされた。文脈が途切れるのは公開がまだの部分であるからだ。中でもインタビューは研究員達の人となりを知るうえで興味深い資料である。


インタビューシーンから

「幻影ドラマ制作部のエルビラ・カトー・ロダルテです。幻影ドラマは地域の話題や生に・ニュース等、コミュニケーションを目的としています。簡単に言えば、誰が何処で何やってるの? という人気の定番企画なんです。今日は魔石研究室の皆さんに集まっていただき座談会形式でお話を伺います。では、気になる質問に一問一答でお答えをお願いします」


「室員達は何をしているかって? アァ、先ずは研究員達を紹介しましょう。魔石研究の第一人者であるイグナーツ研究室長。ユーリア・カトー・ロダルテ魔石研究室副長ちなみに計算専門です。フェルディナント・カトー・ブリト魔石研究室室員。それと、ヘルミーナ・カトー・ロダルテ魔石研究室室員です。皆、忠実にしてカトー家に使える者達です」


「このインタビューでは、設問が多く用意されていますが、まず皆さんに慣れていただく為に、簡単な物から始めます。そんな事は当たり前である。マァ、当然だねと言うお話を伺いますから」

「そうなんですか」

「インタビューって、どの位の時間ですか?」

「4時間のインタビューを2回行います。朝と昼から1回ずつですね。お忙しいところ恐縮ですがまる1日頂きました」


「確かに、魔石研究室ではどのような仕事をしているのか不思議に思う方もいるでしょう。関わっていなければ何の為にと疑問に思うかもしれませんね」


「私達は皆とは違い、農地開墾の手伝いで野山に出るでは無し、領地の行政や発展に直接寄与している訳ではありません。実験地点に行く為に忙しく飛行母艦ショウワマルを飛ばしたり、搭載された巨大な計算機を動かしたりしては驚くほどの大量の魔石を消費しています」


「では、ごく普通にいつも思っている事や考えを述べてください。もちろん、私も視聴者も専門家ではありませんから噛み砕いてお願いします。質問に関しても、逆に質問で返される事も多いでしょうがそこは素人だという事で勘弁して下さい」

「どんな事でもいいのですか?」

「はい。研究に関連すればどんな事でもOKです」

「ホーでは何か、例を言ってくれませんか?」


「朝起きるのは何時かとか?」

「エーそれでいいんですか? 研究に関する事だと思ってましたが」

「はい。そんなんでいいんですけど、チョッと極端でしたか。でも、皆さんの生活にも興味が有るんです。この研究室では当たりだと思っても部外者には珍しい事が結構有るんですよ」

「ヘー当たり前って、難しいですねぇ」


「そんなもんですか。確かにいつも魔石研究室で何をしているの? とよく聞かれますからね」

「私も、魔石研究室ってなんなの? 皆は何してるの? 研究はどんな感じ? 等々ありましたよ」

「色々と有ると思います。では研究員の皆さんが、どのように暮らしているかをお伺いして行く事から始めましょう」


「私はお話しした通りショウワマルで魔石エネルギーを研究しています。研究にも少し疲れてきたので、気分転換にどんな生活をしているのかをお話したいと思います。難しい研究の話(中には退屈な話も有るんです)には、あまり触れないようにしたいと思います」

「それはお気遣いありがとうございます」

「私が一番の若手ですが。レディに年の話は無用です。マァ、魔法工学や魔石研究をしたいなーと思われる方、私達の活動や方針を知りたい方には今回の企画はちょうど良いと思ったんで賛成したんです」


Q. フェルディナント研究員、いつも何時から何時まで働いているのですか?

「働いているという感はあまり無いのですね。好きな事なので。マァ、だいたい毎日9時少し前に魔石研究室に来て、帰るのは20時ですねぇ。たまに27時でしょうか。月に12、13日はお泊りになります。今は研究がひと段落したところなので、自室に戻るようにしています」


「今日は余裕がある日ですし暇つぶし?でお話しています。エーと失礼しました。冗談ですからね。本気で話すなと所長が目をむいていますからね。たぶん後でお話があるんでしょうねー。マァ、それはともかく、帰れなかったというより、朝方になるまで魔石研究をして、もう朝だと思うといった感じでしょうか」


「いつも、朝の9時から実験できるようにしておくんですよ。帰りは自由にと言うか自主的に任されています」

「魔石研究には、どこまでをいつまでに行うと言う計画性はありませんから」


「所長は自分の事を棚に上げて早く部屋に帰るようにとよく言いますけどね。研究と言うのは時間と比例はしないかも知れませんが、やったほうが成果がでる気がするんですよね。自分が納得できるまで止める事はできないと言う処ですか。でもね、終わったら終わったらで次が気になって来るんですよねー」


Q.どんな人がいるのか?

「魔石研究室の構成は、お話したようにイグナーツ室長。ユーリア副長。フェルディナント室員。それと、ヘルミーナ室員います。ですが魔石研究室には事務補佐員にあたるいわゆる秘書さんはいません。幸いな事に研究費は十分ですが、事務的な作業も多く秘書さんがいれば研究室においても非常に頼りになるでしょうね。誰か知りませんー?」


Q. ユーリア副長さんはどんなスケジュールで動いているですか?

「私は朝9時過ぎ来て、まず思念波通信文をチェックします。通信文は意外と少ないですよ。王都の御屋敷か家宰のセバスチャンや帝国要塞の事務所からの思念波通信文ぐらいしかありません。夜中までいる事が多いので気付くのが普通ですが、確認を忘れると、今回みたいに5日後にインタビューの返信する事になります」


「主に食事はタンパク質を摂取しています。お茶を飲んで一息ついた後に、作業を始めます。お茶の時間は大切な時間ですから。本当は暇でも、忙しくてしょうがないと言う感の雰囲気でいます。息抜きは要りますから。アァ、これはオフレコでお願いします」


「お昼はなるべくですが揃って食べるようにしていますね。業務スケジュールの調整を兼ねていますから。私はこの時、皆の話を聞いて計算実験のスケジュールをたてます。たまにお昼の時間も取れない時もあるんです。こんな時は無駄な計算をする事が多くなりますね。打合せは大事だと思いますよ」


「夕食後、実験を再び開始するまでに、資料や文献に魔法工学書、計算成果やチェック事項を検討しながら夜まで入力して、また朝まで働きます。それ以後も同様です。長年同じ研究をしていても計算成果が違う事はよくあります。夜中は端末をまわしながら、計算計画を考えたり、ここのシステムの更新をしたりしています。すると朝なんですよね」


Q. 計算実験はどのくらいしているんです?

「魔石コンピューターが導入されてからは異常に増えました。それまでは1日4問程度でした。それが1日で130になりました。問題作成が軌道に乗っていて、簡単であれば予備計算を含めて1月で3000から4000ぐらいも可能になったのです。本当にすばらしいと思います」


Q. 皆さんのお給料は?

「カトー家の者は皆同じで、お給料や残業代はありません。要塞の事務センターから必要分が支給されますし、カトー家の予算は潤沢ですから……これって使い放題なんでしょうか? ご存知ですか?」


「成果が出ないという成果と言うのも何ですが、成果が出ない事は、珍しくないですし、それを確かめる事も必要な事なんです。ですからすぐに答えが出ないのは当たり前なんです。それも分かってはいるんですが、毎日のように上手くいかないと落ち込むんですよねー」


「実験の結果、一喜一憂しないようにしてます。長いスパンで魔石を研究すれば、いつかは成果があるはずです。それが魔石研究者には必要な事なんです」


「魔石エネルギーの分析計算は時間がかかります。エネルギーの反応計算にも時間が掛かります。と言っても1日は27時間しかないのですが、以前の魔石コンピューターでは連続稼働させても、アァ、この時はまるまる7日かかりましたけど、ズーと計算するのを見ているんです。その間、不眠不休になるのですけど、こういうのは多々あるんですよ」


「新しい計算研究を行うための準備段階として、予備計算が必要ですが、何しろやる事の全てが初めての事ですから自分でデータを読んで計算しなくてはないんです。データ通りに計算しても合わない事なんて事なんてざらにありますよ。いざ、データを読み込んで計算しようとしても、技術の問題で難しい時も有りますしね。で、また時間がかかって、帰るのが遅くなります。もう、研究室に住んでもいいやと気になりますね」


「ユーリアくん、自室にはなるべく帰るように。この発言はカットして下さい」

「ハイ、了解しました所長」


「で、魔石コンピューター自体が最新鋭技術ですから取り扱いや手順など、覚えることも必要な事です。魔石エネルギーの計算ができるようになるには、コンピューターの取り扱いや、一般的な計算手順を覚える必要があります。その技術が身について、やっと魔石研究が始められるのです。そりゃ、時間がかかりますよ」

「なるほど。ご苦労されている訳ですね」

「皆苦労はしていると思いますけどね」

「魔石コンピューターには計算速度を上げる為に特殊な溶媒、中には毒物や、酸を含んだものも有りますからね、油断していると触ってしまう事もあります。常に危険と隣り合わせなんです。それも毎日のように扱います。いくら頑丈なのボディでも良いものではありません。表皮は普通にタンパク質なんですから」

「アーここもカットでお願いします。頑丈なボディと言う処です」


「魔石エネルギーの計算は、計算したら終わりではありません。その後に、計算がチャンと出来たのかどうかを検証する必要があります。アァ、それと一般的には核磁気共鳴スペクトル法と赤外線吸収スペクトル法を使って分析しますが、これらの使い方や解析方法を覚えなくちゃいけません。魔石の分析技術も必須なのです」


「深い意味では無いのですが、イグナーツ室長の性なのかもしれません。とことんやる室長はブラックなんです」

「オイオイ、勘弁してくれよ」

「御屋形様の無理難題と言う研究依頼で鍛えられてきたんでしょうね。それをほとんど解決するか? もしくはもっと良い成果を上げているんです。魔石研究室がブラックになってしまうのは仕方のないことなのかもしれません」


「失敗はもちろんあります。エェ、実験には付き物ですしね。魔石は全て分析から始めるのですが、よく器具を壊しますね。実験中にやらかしちゃってねー。計算する前にその魔石の成分を分析するんですが、ほんの少し削るんです」


「ツールピペット、キャピラリー、フラスコはガラスなんですよね。ポキン、ピシッにバリンです。プレパラートのカバーガラスはパリンと軽めの音ですね。置いたはずのマグネチックスターラーの中に撹拌子が無い事もあります。さすがに高価な魔石が何かのはずみで飛んで行ってしまうと大変ですけどね」

「うちのツールピペットは1000個入りなので助かってますよ」


「薄層クロマトグラフィーは忘れているとヨウ素が蒸発して、スポットが見えなくなりますしね。そうそう分液ロートでもやらかしますね。これはガス抜きを忘れないようにしないと噴出しますからね。メスピペットなんかは目盛の精度は低いのですが、目盛が複数あるので助かります。でも洗った後、乾燥機に入れ忘れるとメモリがねー」


「○○さん(匿名希望です)は不器用なのかな。時々、培地をえぐり取っちゃうんです。力加減が難しいのかな? 廃液はきちんと処理しないとダメなんですが、ふと忘れて排水口へジャバーなんてしてますし。これやると、研究室が閉鎖されるんです。配管の調査でOKが出ないとモー大変なんです」


「アガロースゲル電気泳動と言うのが有るんですけど、私、も○○さんの事言えないんですけどね。電極を逆につける事があるんですよね。マァ、サンプルの作り直しを何回もする事になります」


「でも、器具の破損なんてかわいいもんですよ。うっかり副生成物なんてのが出来てしまいますからね。私達は、大丈夫ですが普通の人間には劇毒や危ないドラッグになりますからね。魔法工学兵器レベルの物を知らない間に合成してしまうなんてね」

「この発言もカットで」

「使っている器具の名前をど忘れする事が有るでしょ。魔石研究室内ではアレとかソレとかで通じるんですよね。ホント、正式名称を知らなくてもいけるんじゃないかと思う事もありますよ」


「高価な機材をぶっ壊したら、怒られます。でも、怒られるぐらいならまだ良いんです。極論を言えば謝って済みますからね。魔石合成に慣れている人ほど、やらかす恐れが有りましてね。恐ろしい事故の原因になる事もあります。この間なんか反応が進んで爆発性の魔素を生成、それが大爆発して周囲を木っ端微塵に吹き飛ばしたという話なんですがね」


「これなんかは知らない間に爆発物を作ってしまった例ですが……。今でこそ分かってますが、魔石は特定の条件では熱暴走を引き起こして、爆発の危険性が増します。少ない量ではたいしたことが無くとも、スケールアップして大量になると危険になるという事も十分ありますからね」


「溶媒も試薬であるのも忘れないようにしないとね。反応がゆっくり過ぎて進行してないと思う事もあるんです。こんな時には少し落ち着いて考えてみないとね。本当に反応が進行していない場合もありますが、この場合、実は反応がゆっくりと進行しているパターンも有るんです。後、思い込みもありますしね」


「以外と抜けが有るのが、試薬の純度です。試薬はチャンとしているかです? その試薬は使って大丈夫かとか? ひょっとして純度が違ったり、製造過程で不純物が混入していたりという事もありますからね。安定剤として添加されている試薬の影響もありますから」

「そうそう。結構、有るんだよなー」

「全ての試薬で純度100%という事は無いですからね。確認しないと。1当量入れたつもりが少なかった、なんて事もあります。中には魔石金属試薬のように、使っているうちに濃度が低下するものもありますからね」


 まだまだ、伺いたい事もありますが、残念ですがお時間みたいですね。非常に興味深いお話でした。思わず、長いインタビューになりました。マァ、色々とありましたが、中身の濃い話を本音で語っていただいたようでした。皆さん、ありがとうございました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ