197 幻影ドラマ放送
※ ※ ※ ※ ※
イリア王国・王立ロンダ大学・ケドニア神聖帝国史研究室
歴史学講座 「辺境伯領の変遷」 より抜粋
「カトー辺境伯の統治を、初期から見て行こう」
「シエテの町からですね」
「アァ、資料収集を兼ねて、さかのぼれるだけね。やりがいのある仕事になるぞ」
「大変なフィールドワークになりそうですね」
「現在、辺境伯領内の都市は領都レオン・城塞都市としてバンブローナ・サリア・マラガ ・ビペイロ ・リャネスの5都市がある。また、最初の村と言って良いかも知れないがプルゴス別荘が知られている。後は霧の村ルーゴの名で有名なカトー家の人々のみが住まう村が有る」
「かなり村の数が少ないですね」
「アァ、城塞都市が5カ所も有って村らしいのは2カ所しかない。これだけ歪なのはカトー辺境伯領の特徴とも言えるね」
「やはり、理由としては?」
「そうだね。皆の知っているように、辺境伯領はカトー卿の強化土魔法によって急速に建設された物と言って良いだろう。インフラの整備がほとんど魔法で行われたので当然だと思われるが、建設当時はかなり話題だったらしいな」
「ヘー」
「残された資料からも分かる通り、カトー卿の偉業は多岐にわたる。内政面に限って言っても、癒しの魔法を始め、各種の魔法がある。特に強化土魔法工法は秀でているし、農地開発として農地改革、農機具、新規作物もそうだ。ホムンクルス工学等は近年、やっと公開となったが、とにかく、色々とある。これらを数回に渡って少しずつでも講義する事になるだろう」
「ハイ」
「そこで問題となるのは、膨大な資料を選別し、どうやって分かり易く伝えるかだ」
「それでなんですね」
「アァ、閃いたんだよ。当時の出来事を再構成するにあたり、国営王都ロンダ放送の幻影ドラマ放送から当時の関係者の回想及び、演出シーンを使用すれば良いんだとね。これらは専門家による聞き取りを含め正確な情報の再構成を行っているからね。もちろん、若干の修正を加えられているので割り引いて考えなければならない処もある。そこさえ注意すれば良い教材と言える。では、始めよう」
※ ※ ※ ※ ※
幻影ドラマ放送シーン
領地開拓の事始め
「しかしながら、御屋形様」
「何だい? セバスチャン」
「申し上げにくい事でございますが、領民と言おうか住人と言いましょうか……。実は、ご領地に住まう者は800人弱でございます。お蔭で、王国への納税は無いに等しい額ですが」
「ウーン、ホムンクルス達の数を水増しに使うのは何だか違う気がするしなー」
「左様ですな。となると700人を切ります」
「少なくない?」
「左様ですね。実はこの数字には続きがありまして……」
「? どうしたの」
「エェ、これから王国の行政関係者や行商の人々が移動する事になります。シエテの町の行政管理下に有りました村は3カ所、いずれも開拓村です。小さな町と呼べるものは一つのみ。ですが、これらは領主の交代により近々人員を引き払う事になっております。さすれば、あと1カ月もせぬ内に無人となりましょう」
「無人って。セバスチャン、まずいよね。何とかできないかな?」
「言い辛いのですがこのような辺境の地では、本来は新しい領主が家臣団と共に移住する者を引き連れて来るのが普通なのだとか」
「そうなんだー」
「そのようです。しかし手が無い訳ではありません」
「ウン、ウン」
「先ずはシエテの町から移住しやすいようにすべきかと。御屋形様は貴族になられて日も浅く、たとえ侯爵位をお持ちであろうと国王陛下の新規開拓の推挙がある訳でもございません、ならば、少しずつでも領民を増やすしか無いかと思われます」
「やっぱり、そうなるか。で?」
「人々が衣食住に困らぬようにする事が肝要かと存じます」
「なるほど、確かにセバスチャンの言う通りだ。衣はともかく食と住は何とかしないといけないな」
「ハイ、さすれば開拓村や町の人々も望んで残りましょう。シエテの町には彼らの納税分を渡せば何とかなるでしょう。そもそも開拓村は無税ですし、町も小さいので納税金額にしても幾らもありませんから」
「ウーン、なるほどインフラねー」
「ハイ、こう申しては申し訳ありませんが、ただでさえ苦労する辺境の地です。住むのに苦労するような地では、人は居つきませんでしょう」
「確かに、居住環境を整えれば何とかなるかもしれないなー」
※ ※ ※ ※ ※
幻影ドラマ放送シーン
シエテの町 ヒバリの宿屋
「エスタバン、聞いたか?」
「何を?」
「カトー様と言う貴族様が、西のご領主様になると決まったそうだ」
「ヘーそうなんだ。でも、凄い所に領地を貰ったんだな」
「なーんも無い処だしな。マァ、貴族様の考えている事は分からんからな」
「待て待て。思いだしたぞ。確か、シエテの町が面倒を見ている開拓村3個と小さな町が1つあるはずだ」
「でも、その先は広い森と草原、砂漠のような荒地を越えて行っても、西の海まで無人の地だよな」
「アァ、シモン兄さんの言う通り、なにも無い処だな」
「開拓村かー。村人も頑張っているんだろうけど、上手くいかないのが当たり前だからな。それに名前も無い小さな町。全部合わせても700か800人ぐらいかな」
「そのぐらいだな。マァ、俺達には貴族も領地も関係ない雲の上のような話だけどな」
「ハハハ、違いない。笑わせるなよ。そう言えば、ご領主様になられたカトー様は凄腕の魔法使いだそうだ」
「カトー、カトーって、珍しい名だな。ウーン、どこかで聞いた名だぞ」
「ウーン、聞いた事が有るぞ。エーと、何だったかなー。そうそう、思い出した。オリビアが昔言てったじゃないか。モニカちゃんが熱を出した時、薬を貰った人の名がカトーって」
「まさかねー」
※ ※ ※ ※ ※
幻影ドラマ放送シーン
プルゴス村 酒場での会話 01
「これは、村の古株から聞いた話なんだけどよ」
「ウン、それで」
「アァ、カトー様の村造りの話なんだ。その人も、聞いた話しだそうがな。村造りの時なんだけどよ。凄かったらしいぞ」
「ヘー」
「知ってるか。あの城壁なんか、何でも地下にも3メートル入っていて、17メートルのつるつるの城壁がぐるりと取り巻いているんだぜ」
「すごいなぁ。王都の第三城壁と同じなんだよな」
「そんでもって、カトー様が最初、お造りになった時、壁には門なんて無かったんだよ」
「? おかしな事を言うな。出入りはどうすんだよ?」
「そうだよな。それがさー。城門と言うか開口部と言うのか」
「城門で良いんじゃないか」
「ウン、そうだな。その壁にカトー様が攻撃魔法を使って穴開けたんだけど……驚くなよ」
「攻撃魔法というだけで驚いているんだけどな。それでどうした」
「あれ、垂直の一枚の壁だろ。東西南北合わせて八か所に向かってな……」
「それで、どうなった。気を持たせるなよ」
「そんで、話しではよ。指の先から赤い光が城壁に向かってビューンだよ。でな、指先をちょいと動かしてさ。最初は丸い穴だったのが、楕円に広がってな。アーチ型の入り口が、あっという間に出来上がりだぜ」
「エー! そいつはすごいなー」
「アァ、まったくだ。ビューンのシュバで十メートルの穴だよ。でな」
「続きが有るのかよ」
「穴だけではダメだろ。門扉がいるんだ。これも、魔法であっという間に地べたから出てきて出来上がりさー」
「ホエー!」
「おかしな声を出すなよ。そんなに驚くなら、跳ね橋が出来た話は今度だな」
※ ※ ※ ※ ※
幻影ドラマ放送シーン
プルゴス村 酒場での会話 02
「オイ! 城壁の外に堀が出来ているんだが……俺は夢でも見ているのかな? と普通なら思うよな」
「アァ、俺も横で見ていたから知っているよ」
「そうだよな。同じ、城壁の巡回班だもな」
「次の班も同じ気持ちだと思うぞ」
「確かになー」
「空堀だったんだよ。朝の交代時まではな」
「お昼前に、カトー様がいらっしゃって水堀にしたんだよ」
「アァ、水魔法だとよ。朝、雨降りそうだったろ。カトー様がこの近くの雨雲を持って来て」
「チョッと待て。曇って、持って来れるのか!」
「出来るんだとよ。で、堀の上でギューとしぼって中も外もお堀に水がタップリよ」
「ホントかよ」
「アァ、嘘じゃないぞ。その証拠に湿気が無くなっただろ」
「それで洗濯物が良く乾いたと、メイドさん達が言ってたのかー」
「この堀って、昔は大きくても水が流れてなかったんだ。だとすると、水が淀むじゃないか」
「ウン、ウン。そうだったな」
「アァ、そう言う話も有ったよなー」
「新入りのお前達は知らないかも知れないな。いいか、よく聞けよ。それを聞きつけたカトー様が北の川までビューンのシュバだよ。城壁の横に、まっすぐな川が南北に出来ていたっていう事さ」
「エェ! 北の川って、50キロぐらい先でしょう」
「その川なら猟師に聞いた事が有ります。ここからは一番近いはずです。ですが、50キロですよねぇ」
「鮭が釣れるそうだな」
「お前、驚かないなー」
「この手の話は、山ほどあるからな」
「フーン」
「なるほど。それでセバスチャン様が、釣り道具を手配されたのか」
「でもな、川が真っ直ぐ過ぎだろ。流れが急なもんで、魚なんて釣れねえじゃないかって爺さんが文句言ってたなー」
「オイ、オイ、そんな事。カトー様の耳に入ったら大変だぞ」
後日、その大変な事が起きる事になる。直進していた川は、蛇行して所々に岩組がされており、鮭の遡上が観測された。また一部では、愛好家の為であろうか、渓流釣りに最適化されていた。
※ ※ ※ ※ ※
幻影ドラマ放送シーン
プルゴス村 酒場での会話 03
「カトー様がおっしゃるには、水は自分がいる時はともかく、いない時に皆が不便だろうって水道って言うのを造られるそうだ」
「井戸水じゃだめなのかい?」
「婆さん、もう昔の村じゃないんだから。こんなに人が押し寄せてきているんだから、とても足りないさ」
「そうなのかねー。でもさ、水道って難しい工事じゃないのかい?」
「それでもよ。有ると便利らしいぜ」
「フーン」
「アァ、ここから北の湖まで水道橋が作られるそうだぜ」
「湖まで結構あるよな」
「そうだな。歩けば3日半か、そのぐらいだよな」
「おうよ、確かに山の麓にある湖だったよな」
「ウン。でよ、ここまで水を引こうという話さ。王都にある水道橋ってやつらしいぞ」
「俺も聞いたぜ。でも、川の水じゃないんだな」
「そうともよ。もしもの事もあるから、水源は一カ所以上必要だそうだ」
「確かに、冬は川の水量も減るし日照りもあるからな」
「なるほどねー」
「それに湖の水は山の湧水だそうで、旨いらしいぞ」
「フーン。山の麓から引くんだ。婆さんの言った通り、えらい工事になるんだろうな」
「だな。おまけに噴水を十も二十も作るって話だしな」
「じゃ、水に不自由しないね。食堂やってると水があるのが一番ありがたいからねー、惚れ直したよ」
「おい婆さん、何言ってんだ。若い娘たちがカトー様をほっておく訳ないだろう」
地理魔法で等高線を出して高低差を確かめる。古代ローマでは50キロで17メートル下がったそうだから、山麓の湖からなら余裕で引けるはずだ。土地の起伏が有ってもアーチ構造の水道橋なら問題ないだろう。丘が邪魔ならくり抜けば良いし。どうせ造るならなら、水道橋上部は水路を三段にして上は露出、中と下は水道管式にしておこう。
そうだなぁ。後は取水口では枝や葉を格子で防いだり、沈殿槽でろ過したりするか。さらに見張り小屋を置き、点検用マンホールを作っておけば安心だ。各地区に上水用の噴水を作っておけば、何時でも自由に使ってもらえるしな。
「カトー何ぶつぶつ言ってるんだ。それよりも、水魔法の時間が過ぎているぞ。村の奥さん達が洗濯物の乾燥はまだですかと言ってたぞー」
※ ※ ※ ※ ※
幻影ドラマ放送シーン
プルゴス村 酒場での会話 04
昔語りに有る冒険者達の生活は楽では無いが、自由ではあった。商業ギルドの下部組織である冒険者ギルドは彼らに色んな仕事を世話した。冒険者の中には、傭兵に近い仕事をする者も多く、完全に傭兵となる者もいた。彼らは、あちこち旅して貴族同士の争いがあれば雇われて金を貰っていた。
貴族や領主同士で揉め事が起きれば、冒険者や浮浪者をかき集めて軍の編成が行われる事もあった。もちろん常雇いの兵では無いので、中には町や村で略奪をする不届き者もいた。常備兵であっても、いないわけでは無いが……。だが、王国は大きく変化し、時代の波は彼等にも等しく訪れた。
エミグディオ、ホルヘ、アマドの3人の冒険者パーティーはロンダ市内にある美味しいケーキの店で警備の仕事についていた。偶然であるが応募した警備の仕事が長く続いている。警備を任されたケーキの店は、順調に大きくなり人も増えた。冒険者の仲間も増え、忙しい日々を送っている。
そんな時に、オーナーのカトー様がご領地で辺境伯領軍を新設し、人員の募集が行われるとの話が舞い込んだ。辺境伯軍に加われば定職に就く訳だが、遠く離れた辺境では碌な所ではないはずだ。おそらく住居も娯楽も無いだろう。食事だってまともな物があるだろうか? 街での生活が捨てがたく思うのも無理はない。
ロンダでの生活は安定し金も稼げていたが、街での暮らしはせわしなかった。時々、のんびりとした故郷の暮らしを思い出しもした。そして、警備とはいえ行列の整理だけでは物足りなさを感じていた。やはり冒険者として、荷物の護衛で旅する事や盗賊との戦闘の日々を懐かしく思う。もっとも護衛任務はともかく、イリア王国では盗賊などはいなくなって久しいのだが……。
「こんな生活も良いが、一から始めるのも良いかも知れん」
「冒険者は優先されるし、護衛職をしていた奴らは熟練兵扱いになるそうだ」
「フーン。そうか、では二人とも良いんだな」
「セバスチャンさんに聞いてきたら、俺たち3人が志願するならば、大隊の将校にするのだそうだ」
「軍事教練なんてした事が無いし、とても将校なんかできそうもないな」
「だろ。そこで王都守備隊の将校訓練を8カ月間受けさせてくれるそうだ」
「それは、願ったり叶ったりだな」
「渡りに船というやつだ」
「訓練は必要だろうが、しかし部下が付くのはしんどいな」
「大隊長や将校は近衛魔法師団からも出すそうで、あまり気にせずとも良いと言われたんだがな」
「世の中変わって、何時までも冒険者ですと言ってられないからな」
「アァ、時代だなー」
「カトー様はどうするんだろうな。店は畳むって事かな」
「イヤ、皆に渡すんだそうだ」
「ヘー太っ腹だな」
「マァ、大金持ちの貴族様だし。なんて言ったて辺境伯様なんだよな」
「普通に考えて、ここで呑気に氷と炭酸水を作ってる時間は無いだろう」
「今度、入って来た3人組は荒事の方はかなり出来るらしいしな」
「セバスチャンさんが連れて来た奴らだろ。サンスさんも知ってたそうだ」
「護衛職で仕事をしていたというからそこそこ出来る。後は任せても良いんじゃないか」
※ ※ ※ ※ ※
少し前まで、王国では吟遊詩人が酒場のエンターテイナーであり、踊り子や歌手という専門性は必要とされないとされていた。だが、芸能の流れにも変化が出ている。単調な教会音楽は過去の物となり、王都のケーキの店から広がった音楽とお湯屋の歌謡ショーは、やがて来るアイドルの時代を予見していた。
王都の凱旋パレード辺りから、すっかり人気者になったレイナとルイサは毎日てんてこ舞いをしていた。お湯屋で歌に踊りを取り入れた歌謡ショーを披露してからだろうか。彼女達は、昼は店でウエイトレス、夜と休日は休む事も無く、忙しく活動をしていた。
お金を稼ぐ気ならウエイトレスも良いが、元々は生きる為の方便であり、冒険者となった事もあるのだ。姉のレイナは踊り子、元々槍を得意としていたので剣劇をアレンジした型の舞。妹は歌い手ルイサ、歌好きでかなり情熱的なので舞台の振り付けも派手にやれる。
才能あふれる姉妹である。いつまでも二足の草鞋とはいかないだろう。若い娘が舞台に出て歌や踊りを披露するとは、なんて破廉恥なと言われた事もあるが、本人達はいたって平気で、むしろ褒められて満更でもないみたいである。
※ ※ ※ ※ ※
「カトー卿、どうぞ」
「皆、久しぶりだね。お店が会場だったんだけど、前回より人が増えたから少し狭いかも知れないねー。ごめんね。来年からは広めの会場を用意するからねー。でも、料理とお酒は沢山あるから楽しんねー」
「「「ハーイ」」」
「では、乾杯となります。皆様、グラスをお持ちいただけましたか?」
「ちなみにこのシャンパンは、お店で出している高級品の方だぞー」
「カトー様の手作りですよねー」
「そうだよ。もちろん、今日は無礼講だよ」
「御屋形様、乾杯の音頭をお願いいたします」
「1、2、3、カンパイー!」
「店がどんどんと大きくなっている事に不安に思うかも知れないが安心してくれ。さっきの総会で話したように、事業規模の拡大が順調なんだ」
「「「ハーイ」」」
「美味しいケーキの店は本店、支店、共売り上げも増えているし、利益も出ている。クッキーのフランチャイズチェーンも順調だ。砂糖の事業もまだまだ大きくなるだろう。これも、皆が頑張ってくれるからだ。ありがとうー!」
「「「ワー! パチパチパチ」」」
「これからもよろしくねー!」
「「「もちろんでーす!」」」
「サンスさんも頑張って下さいね」
「ハハハ。了解しました」
「タティアナ店長も引き続きよろしくね」
「ハーイ」
「後、一つ。嬉しいお知らせがあります。レイナとルイサが芸能界に本格的にデビューする事になりました」
「そうなんだぁー! おめでとう」
「オォ、アイドル誕生だな」
「それと残念だが、エミグディオ、ホルヘ、アマドが辺境伯軍に加わる事になった。男性の冒険者が抜けるので女性のパーティー4人に、補充の3人が慣れるまで頑張ってもらう事になるからね」
「「「ハーイ」」」
「アレハンドリナ、エデルミラ、フリダ、セレスティナ。よろしく頼むなー」
「では、この壺の中の紙を取って下さい。抽選でカトー様からステキなプレゼントが当たります。空くじ無しですよー」
「「「ワーイ!」」」
「そうそう、帰りにはお土産も用意してありますから忘れないで下さいねー」
※ ※ ※ ※ ※
幻影ドラマ放送シーン
「要塞自治区」より
「お招きに預かり、光栄です。カトー、まかり越しました」
「カトー卿。どうぞ、お楽に。今回の功績者ですからね」
「シーロさん」
「ハッハッハ、実に良くやってくれた」
「ハァ」
「要塞自治区の開発とはな……イヤ、耕作放棄地だったな。荒廃した農地を再開墾したんだ。中々出来るものでは無い。ご苦労だった」
「そうですとも、これですぐには無理でも食料供給は何とかなりそうですね」
「魔石エネルギー様々だな」
「そうですね。ステファノ街道沿いの農地面積は439万平方キロとなっており、嘗て豊饒の大地と呼ばれた地の6分の1ほどになりますからね」
「そんなにもなるか」
「エェ。ですが、耕作する農民がまだまだ足りてません。ついでに言えば、彼らの食糧はもちろん、住む場所や農具も足りません」
「内乱では、農具まで供出して武器を作ったそうだからな」
「そうですね。転送陣もフル稼働していますが、救援物資も多く、量も増えています。なかなか難しい物が有ります」
「やはり、他の手段も必要となるか」
「エェ、リヨンの港を使えばケドニアの東、ブロージョ市と東海岸まで送れますから」
「転送陣では不足ぎみ……。量は必要だ。となると鉄道かー」
※ ※ ※ ※ ※
幻影ドラマ放送シーン
鉄路建設「イリア王国国有鉄道史」より
魔獣大戦後、イリア王国はインフラの整備に積極的に乗り出した。王国内各所の鉄道網建設もその一つである。王国全土に張り巡らされつつある高速道路との併用により、国内流通網の安定と一層の拡充を望んだのである。そして、リヨン共和国首都リヨン(当時はエバント王国の宗都リヨンと言われていた)まで鉄道建設の延伸を計画し実行に移す事にした。
数年に及ぶ好景気の為、資本は十二分に用意できた。だが、いかんせん技術に不十分なものがあり、ケドニアから高速蒸気動鉄道の技術が導入された。王国にとって幸いな事に、技術的な問題が生じたとしても、帝国の内乱により技術者達が移動して来ているので解決は用意であった。そして、930キロを超えるリヨン線は王国歴200年春から本格的に着手される事となった。
王室資本の導入により、工事の着手は順調であり、近衛魔法師団の協力の下に完工までの期間短縮も図られる予定である。特にイリア王国南部の軟弱地盤地帯では土魔法による杭打ち工法が威力を発揮すると期待されていた。
北の町への鉄路建設が有ったとはいえ、出来たばかりのイリア鉄道省の運営水準はあまり高くはない。その為、鉄路建設と運用ノウハウについてはカトー卿が主体となり、気動車の開発と製造はケドニア製の技術によるものとされていた。
今回のリヨン線の計画は、その流入した技術者が作り出したとはいえ、すべてがイリア王国の内製品である。しかも、工事開始から運用までわずか3年の予定で有った。この路線計画は、イリア王国の北の地であるレオン山脈から、南の田園地帯までと、王国中に2万キロ近くにも及ぶ鉄路が建設される先駆けとなり、大いに鉄道関係者の意気を上げる出来事だった。
一般にイリア・ケドニア間で物資の移動に使われるのルートは、ドラゴンシティーから帝国要塞地区まで転送陣が使用される。その先、ブロージョ市に至るまでには、リューベック川を下る蒸気船で18日ほど、馬車道では30日で到達する事が可能とされいた。だが、リューベック川は通年使用が出来る訳では無く、川の水位が下がる冬には日数が余分に必要であった。このルートによる旅には少なくとも36日がかかるっていた。
当時、転送陣以外の大量の物資の輸送は王都ロンダ・宗都リヨン間は鉄路を使い、リヨン港から海路にて大陸東岸のブロージョ市を目指すとされた。途中、港湾都市で魔獣被害の大きかったメストレ市を経由するのだが、その復興が進んでおらず遅延を余儀なくされていた。この為、ブロージョ市へ向かう旅の最短所要期間は60日あまりでとされ、あまりにも日がかかり過ぎた。その代りの移動手段として考えられたのが鉄路であった。
鉄道省の初期構想では、アレキ大陸西岸、すなわちイリア王国の最西端とされるカトー辺境伯領の領都レオンから王都ロンダを経由して帝都ヴェーダをつなぎ、大陸東岸のブロージョ港までつなぐアレキ大陸横断鉄道と言う名の壮大なプロジェクトを計画していた。
しかしながら、計画はしょせん計画であった。旧エバント地区の治安悪化に加え、帝国政府の歳入は減り続けており、財政は疲弊しきっており、その財源がまったくない状態であり、鉄道どころではなく絵に描いた餅の如く、叶わぬ夢とされていた。
それでもセシリオ陛下を始め、イリア鉄道省の努力により、リヨン線は完成された。その先の帝国要塞自治線と言われる鉄路は残念ながら建設中断となっている。順調に滑り出した鉄路の東進であるが、エバント・ケドニア国境地帯の治安悪化と難民問題の為に停止されて頓挫する事となり、しかも解決の目途はたっていなかった為である。
しかしながら、旧エバント王国のベルクール手前100キロの山岳地帯まで延ばす事が出来たのは運が良かったと言える。尚、建設を難しくするもう一つの要因は、鉄路建設にあたってエルベ川を横断するような橋梁建設が予算不足により出来無いという事もあった。
数年以内に莫大な費用に対する恐怖が克服され、この鉄路東進開発プロジェクトが再開されるとは誰も想像していなかった。だが、遅ればせながら帝国要塞地区が自治区となった事により、イリア王国による膨大な資金のあてが出来た。
金の目途が立てば、おのずと結果が付いて来る。イリア王国の魔法使い達の大規模派遣による、橋梁建設や各種プロジェクトが再考される事となる。結果、リヨン・帝国要塞自治間線は王国歴202年冬までに帝国要塞自治地区まで延伸が出来た。しかし要塞自治区以東、帝都ヴェーダへとは着工すら出来ず、アレキ大陸東岸のブロージョ市まではさらに時を要する事となる。
※ ※ ※ ※ ※
幻影ドラマ放送シーン
領地開発開始より
「領地?」
「そうだ、そろそろ行かんとな。カトー、拝領してから随分と長い間行ってないからな」
「そうだねー」
「色々と忙しかったし、それどころじゃなかったのも分かっているが、領主様なのだからな」
「あと、キャンプ成分の補充もしないとね」
「セバスチャン達に任せきりだもんな。王都での政治が一区切りしたら一度行くんだぞ」
「ハイ、了解しました」
「それで今度の話だが、自覚が足らんぞ。だいたいお前の考えている土地所有法は斬新過ぎて異端に近いぞ」
「でも、領地内でならお構いなしだと陛下と紋章院の許可は貰っているけどね。それに、よく分からないけど対貴族用に使えるって」
「そ、そうだったのか」
「王国に影響が少ないから、実験するのも良いかも知れないしね」
「ウーン、確かにそれにしてもこの間までは、カトーの領地は荒野に近い。被害も少ないかも知れん」
「それも少し酷い言い方だけどな」
「と言うよりも人の手が入らない、そのまんま荒地だった処だしな。100歩譲って森林資源が一杯の大森林と言う所だし、狩人さえ奥にはいかないからな。それに、お前も原野商法とか何とか言っていたではないか」
「アァー。マァ、それが幸いして、好きに出来るんだけどね。ホムンクルス達は、放牧の仕方を羊飼いの先輩達から教えてもらって喜んでいたし、何よりも放牧が出来て牧歌的な生活が送れると喜んでいたけど」
「それは、帝国要塞の地下に600年も閉じ込められていたからな」
「そうだねー。領地か。考えてみるよ」
※ ※ ※ ※ ※
幻影ドラマ放送シーン
辺境伯領開発計画より
「セバスチャン。もちろんエマも有難う。さて少し真面目に考えないと。まず拝領した土地の区画制度と測量方法を決めようかな」
「ハイ、御屋形様。お言いつけの通り、イリア王国基準直轄城郭指定都市5万人居住型プランですね」
「長い名称だね」
「そうですね。それはともかく、いわゆる城塞都市タイプです。御屋形様の強化土魔法により、メインとなるほとんどの部分が建設されます。残りはカトー家の者によって逐次製作される予定です。特徴的なのは丸型では無く、正方形の城郭が採用されている事でしょう」
「イヤー、皆すまない。ホント、カトー家の皆に助けられてばかりだな」
「そうですか」
「アァ、区画整理に農地開墾と色々とやってもらっているからね」
「イエイエ、御屋形様にお仕えするのは当然の事、これに勝る喜びはありません」
「ウーン、チョッと何だけど、ありがとうね」
「お褒め戴き感謝いたします。しかしながら、以前から申し上げました通り、想像力は御屋形様にはかないません。ここは是非、プラン作りに力を入れて下さい」
「任せきりで、楽してはいかんと思うんだけど。僕がやれるだけやってみるよ」
「よろしくお願いいたします」
考えてみれば、日本に居た頃の生活技術と言うのはほとんどがブラックボックスみたいなものだ。その工業製品は知っていても、自分一人ではまず作れない。偶然にも要塞地下で知り合ったホムンクルス達だが、もしも彼らがアレキ文明の知識と技術で助けてくれなければ大変な事になっただろうな。
実際、ホムンクルス達は目的遂行の為には1日27時間休む事が無い。魔石エネルギーが切れるまで働き続ける事が可能だし、何も言わなければブラック企業など足元に及ばないほど働くのは事実である。
転生者のアンベール帝は皇帝の弟として生まれたが、身分が有ったとは言え一人である。実に良くやったといえる。長い年月もそうだが、どれほど苦労したか分からない。この世界にある魔法の力を借りても技術チートは難しいだろう。
この惑星ムンドゥスの歴史の中には、転生者が結構いたみたいだ。ホムンクルス達を作り出したアレキ文明の化学者達や中央大陸の建国者達。ズーと昔の十字軍。中には悲運に見舞われた遺跡都市メストレの旅人の様な者も居ただろうが……。おかげで、道具に作物と色んな事が出来た。不可能と思えた日本食にもありつけた。先人に感謝、感謝だな。
「カトーどうした?」
「ごめん。エミリー。チョッと他事を考えていただけだよ」
「御屋形様、よろしいでしょうか?」
「アァ、すまない。続けてくれ」
「ハイ。イリア王国タイプという事でこの地でも、ロンダの第三城壁、内城壁高さ17メートル幅3メートルの基準を採用しております。今回、ドラゴンシティーの様な交易商業都市プランは、ご領地という事で除外いたしました。そこで内側につきましは御屋形様のご指導に有りましたニュータウン風の町と、いこいの村の二つのプランになっております」
「ウン。分かった」
「エマさん、先ずは頼んでおいた方から、お願いします」
「ハイ、セバスチャンさん。では、管理部門総括の私からお話いたします。まずは、基本概念のご説明です。ニュータウン風の町では公有地法をつくります」
「公有地法なのかい?」
「エェ、そうです。簡単に説明いたしますと1パートは4セクションから構成され、ひとつのタウンは一辺が2キロの正方形とし、一つのタウンは、16の街区から構成されます」
「ウン。五角形じゃなくて正方形なのかー」
「ハイ、ご領地での戦闘は考えられませんので」
「マァ、そうだよねー」
「続けます。ひとつのタウンは一辺が8キロの正方形と規定したため、一街区の面積64平方キロになります。東京ドームの面積で換算すると、一つの街は東京ドームとかの136個分の大きさになります。もっとも、御屋形様がよく例に出されますが、ここにいる誰も東京ドームを見た者はいませんが」
「そ、そうだったね。ハハハ」
「失礼いたしました。いつか誰かが言わないといけないと思ってましたから。それはともかく。升の目になるように計画され、新しくできるパートも升目になるように計画して定めたました」
「セバスチャンはどう思う?」
「ハイ。ここまでの話では抜けは無いと思われます」
「また、公有地法において16街区中、1街区は公的な施設と教育の為の施設に割り当てるように定めており、一つのタウンシップの中の1セクションは教育施設を建てるように計画しました」
「すごい量の資料だねー」
「カトー、ちょっとこれは……資材計画に工程表。完成時の挨拶文もあるぞ。お前、エマさん達に丸投げしたのではないのか?」
「そんな事ないよー」
「まずは、領民を集める為に魅力の創出を行う事となります」
「ここに来れば明るい未来。つまり自分の土地を持つ事が出来ると言える。だけどオーストラリア風なんだ」
「オーストラリアと言うのはカトーがいた世界の国の名だな」
「ウン。エミリーえらい。覚えていたんだ。それでね、オーストラリアは土地の所有権は王にあってね、自由保有権だけが認められているんだ。オーストラリアだけじゃなくてイギリスも同じように、古くから土地の重要性を認識してきたんだ。先進国と言われる国の多くは、土地の所有権を国民から取り上げて国が保持しているんだよ」
「フーン」
「僕のいた日本も固定資産税が有るしね。ある意味、払わないと土地を没収されるので、買ったつもりでも、国から賃借しているだけと言う考えもあるんだ。その為、土地の所有と言うのは本来できないという考えなんだよ」
「そんなもんか」
「ウン。もちろん、すぐに自由保有権を貰える訳ではなく、20年間以上住み続けたら取れるようにしたんだ。それまでは仮の保有権なんだけどね」
「カトー。なんとなく、都合の良いように、ごまかされている様な気がしないでも無いんだが」
「それは気のせい。うちは明朗会計だから、安心して欲しいなー」
「明朗会計? よく分からんがマァ、良い。民を泣かせないようにな」
※ ※ ※ ※ ※
イリア王国・王立ロンダ大学・法学部
一般教養講座 「カトー卿の土地拝受法」
移住して来るにはそれなりの旨味が必要である。その旨味をいかに作り出すか……。セシリオ国王陛下の名で定めたられた、カトー侯爵の東北部特例土地拝受法の最大の特徴は、その土地で3年間を超えて居住し付属の農地を開墾すれば、無償でその土地の自由保有権を取得できるという点である。
元来、イリア王国にとって、公有地売却による収入は重要な財源である。土地拝受法以前の王国の地は、王家から臣下に下だしおかれる物である。しかし、今回の開発地となった地は、何もない荒れ地とされておりいかに開発整地されたとはいえ、本来なら1街区が8200万エキュと高額に定められるはずの地である。分譲されれば割安になるとはいえ、王国の人々を引き付ける程の魅力は無いと言える。
その地が無償で提供されるのだ。国家財政確保の一助となるのはもちろん、貴族達が高をくくったかのように黙っていた所をみると、無償とはいえわずか3年間で開墾させるというのはまず無理な話だと分かっていたとも言える。
しかし陛下は、イリア王国の未来を考えて決断された。領主や貴族達の力を抑える為にも有効であり、王国の目指す中央集権化には是非とも必要である。と、貴族の反対を押し切っても可決した訳である。カトー辺境伯にしても、経費はうんと掛かるが人が寄れば町も発展する。マァ、人間がたくさん居れば、たくさん税金が取れるから懐も温かくなるはずだから……。
「さて、皆さん。カトー卿の土地拝受法が社会に与えた影響を王国西部開拓史の面から見ていきましょう。まず、土地拝受法の影響です。移民を西部に向かわせた理由にはケドニアにおいて飢饉が発生したり、各国が政治的に不安定になったりなど色々と考えられますが、土地拝受法の成立が移民を引き付けたことは間違いありません」
「教授、カトー卿の執った政策は結局正しかったんですか?」
「そうですね。簡潔に歴史を振り返りましょう」
「最初に辺境の地へ入って行ったのは、カトー卿の民とも臣下、或いは一族と呼ばれる人たちです。彼らがレオン山脈や大陸西部の鉱山を開発に着手したのが始まりとなります。偶然でしょうが、この時アレキ文明の遺跡を各所で発見しています」
「知ってまーす」
「次いで、カトー家の羊飼いや牛の放牧業者が西側の乾燥地帯へ入りました。魔獣大戦が一段落した頃には、乾燥地帯における農業開発基盤となる運河の建設も盛んに行われるようになりました」
「今使っている農機具が改善され、乾燥農法と共に乾燥に耐えうる品種がサンス食材のサンス・ガウディ・アラーニャによって見つかったのもラッキーでした」
「サンスはカトー卿の御用達業者ですよね」
「エェ、彼の事は砂糖の歴史の処で習いましたよね。まさに、天才による甜菜の発見と言われるものでしたね」
「教授の洒落は古いですねー」
「ハハ、では話を戻します。当初、独立した自営農民を増やすことを目的にした土地拝受法でしたが、山脈の西側の土地には不毛な土地も少なくなく、大規模な灌漑計画が実施されなければ、たとえ広大な土地であっても収益があげられなかっただろうと言われています」
「で、先ほどの運河の建設になるんですね」
「経済学的な観点からいえば、西部が発展し人口が増えることは東部を中心とする工業生産地の製品の市場が拡大する事を意味したのです」
「買う人が増えたんですよね」
「そうですね。イリア国内で工業と農業の両方をまかなえる構造を作り出す事が出来るようになったんです。これにより外国に依存する必要のない自立的な国家としてイリア王国が発展を続ける事が可能になったのです」
「教授。チャイムが鳴ってまーす」
「アァ、時が経つというのは早いものですね。本日も随分といろんな話をしましたが、今日はここまでとします。ここは試験の課題としますので、皆さんしっかり勉強しておいて下さいね」
※ ※ ※ ※ ※
幻影ドラマ放送シーン
イリア王国制定200年記念事業 第1回ロンダ万博より
「王国歴200年ですか?」
「世紀の変わり目。その瞬間に生きているのは、かけがえのない事でしょう」
「エミリー少佐の言う通りだ」
「ハイ、来年は多くの者が建国200年を祝う事になるでしょう」
「それが違うんですよ」
「エ! シーロ卿。ちがうんですか?」
「エミリー。建国200年と言うのは王国歴だと201年の事になるんですよねぇ。陛下」
「アァ、199年なのに誤解している者が多い。皆、何故か王国歴200年が建国200年だと思っているんだ」
「私もそう思っていました」
「マァ、気持ちはわかるんだが」
「定義はどうあれ、めでたい事には違いありません」
「王国民が喜んでくれて経済にも好影響だ。政治だからな。なおさら利用しない訳にはいかんよ」
「陛下、そこまで言わなくても良いんじゃないですか。聖秘跡教会でも、100年毎に大聖年としてお祭りをしてますから」
「そこで何かのイベントをすべきと思われたのです」
「王国歴200年。マァ、201年でも良いですが、新しい時代の幕開けとなるものですか?」
「その時は、カトー卿。よろしくお願いいたしますね」
イリア王国制定200年記念事業は、第1回ロンダ万博を中心事業としている。発展する王国内で優れた技術や文物を一堂に会する博覧会で建国200年を記念して始められた。最大のモニュメントである建築群は王都ロンダ競馬場の北側にある広大な草地に建設された。以後、万博は王国最大の催しとなり、開催は4年に1回とされている。
イリア王国の人々は自らの誇示と、団結力を高めるために、その技術を使って、万博会場を築き上げた。特にジッグラトの塔はカトー卿によって建造されたもので、あまりにも壮大な為に天と地を結ぶ物とも言われた。塔の名ジッグラトは、高い所を意味しており、会場の中心、またシンボルとされている。
塔の高さはムンドゥスの1年の暦(1カ月は26日、1年は15ケ月、普通の年は390日である)と同じ390メートルとされた。5角形の塔の一辺は91メートルでやや変則的な建築物である。ちなみに階層は1日の時間と同じ27階とされ、最上階には展望台があり王都はもちろん、約74.7キロ先まで見渡す事が出来た。
塔の色は白色の化粧大理石に近く、強化土魔法によって作り上げられたという事は一見して分かる。1階から7階までには王都の有名店が入ったショッピングモールとなっており、食事や買い物、お土産など雨で景色が楽しめなくとも十分に遊ぶ事が出来る。8階から上は住宅、15階から26階までは宿泊施設となっている。
時代の要請と言うべきか、高い建物を建てるというのは、ロンダの凱旋門計画など王都各所で様々に試みられていた。ナタナエル商工大臣が、イリア王国制定200年記念のモニュメントとして記念碑的なものであり集客効果も見込める良い案がないと、ロンダ城庭園を設計した建築家パブロ・フアネーレ・イダルゴに相談した事が始めと言われる。
パブロはかねてから構想していた390メートルのジッグラトの塔で、白い大理石で被われたかのような光り輝くの塔を提案した。そして、頂上部に回転する反射鏡を設置して光を反射させ、夜でも海上の灯台のような照明でロンダ全市を照らすというものであった。
建築家パブロによって、作られていた小模型に沿って塔を創造する為計画が動き出した。意表を突く建築物であるが、物理的・経済的にも合理的であり、それ以上に何よりも魔法先進国を象徴する強化土魔法を用いる塔は魔法文明の祭典にふさわしいものとされた。
魔法で造り上げられる塔は、魔法文明を再興したと言われるイリア王国を象徴するモニュメントにふさわしいと王家が判断しこれを支持した。しかし、第一聖秘跡教会尖塔の6倍もの高さを土魔法で建造する事は現実離れしていた。
あわや、計画がとん挫するかと思われた時、王室より画期的な提案がなされた。これらの問題を一挙に解決したのがカトー卿による魔法(魔石)供与である。これに驚喜したナタナエル商工大臣と建築家パブロは、わずか15日でジッグラトの塔を造り上げるとするカトー卿の案を即座に採用した。
王国にその人ありと知られる、稀代の魔法使いカトー卿の強化土魔法建築である。カトー卿は、そもそも強化土魔法の建造物を多く手がけた強力無比な魔法使いである。塔の建築以前にも、ホテルや別荘や、ケドニア帝国では魔獣監視用の偽装観測塔等を手がけている。
特に、在来の強化土魔法では垂直方向390メートルと言う、ジッグラトの塔の建設は不可能と思われていたが、更に密度を上げると言う特殊な強化土魔法を使用すると言われた。ここにきて塔の建築が出来ないなどと思う者は一人もおらず、まさに、太陽が西から昇り出すような杞憂であるとされた。
また、卿の強化土魔法で有れば、旧ケドニア帝国の産業革命を象徴する鉄と違って、経年変化も少なく、まさにイリア王国の不滅を意味しているとされた。
しかし、王都ロンダの街に突如飛びぬけて高い塔が立つ事は、王室の権威を貶める者として貴族からの反感も多く、王家に反対請願書が提出された。ナタナエル商工大臣は、自由な経済社会こそイリア発展の礎と思っていた為、権威主義的な貴族が反対したのはむしろ名誉であると考え、逆にこの反対嘆願書を塔内に展示したほどである。
結果、塔の工事はカトー卿と近衛魔法師団によって、極めて短時間で成し遂げられる。着工は王国歴199年13の月2日、完成が同年13の月16日で、建設期間は見積もり通り15日であった。
尚、建設作業は広域魔法陣を伴うものであった為、建設予定地は交通遮断・進入禁止となったものの、異例の速さで完成する事ができたとされる。また最終的に、塔に用いられた土砂の量は競馬場の容積対象面積を超えた為、急遽近隣の丘陵部が削られると言う予想外の出来事も有ったが……。
ジッグラトの塔は王国歴200年1の月1日、年明けと共に無事にオープンした。最新型魔動エレベータ(魔石駆動の魔石エネルギーの上位版)5基が設置されたおり、お昼の開場にも関わらず夜明け前から多くの観客が列を作った。入場券販売資料によれば、万博開催期間中に150万人が塔に昇ったとされる。
これは実にロンダの人口の1.2倍が昇った事になる。1階から7階までのショッピングモールを忘れてはならないが、塔に昇ってロンダ市街を眺めると言うだけで有ったが、意外にも大きな娯楽となったのである。夜には照明魔法によりライトアップされ、暗い夜空の中にひときわ光り輝いていた。特に、オープニングセレモニーの10日間はカトー卿による花火の魔法が彩を加えた。
同時に、塔の一階にはアンテナとして使う思念波通信基地局が設けられた事により、従来50キロ程度であった通信反意を一挙に5倍の250キロに伸ばしている。また、思念波を音声に変える装置により、魔力を持たない一般人による通話も可能となった。
この事は、専門の魔法使いに頼る事無く通話が可能とされる事を意味する。今まで以上に離れた地との交信を、通常の会話で即座に行える通信は画期的であり、通信の革命と言われる出来事が1の月1日に起こったのだ。
塔の建設計画が発表された時には、多くの貴族による反対意見があった。一時、不評の場合は取り壊しも検討されるとして事を収めたのであるが、通信の利便性が知られるとその声は完全に無くなった。また、完成後は人気の観光スポットとなり、多くの芸術家にも好んで描かれる場所となっている。
しかしながら、明かりの魔法を応用したアーク灯さながらの照明は、点灯試験の時にロンダ中を思った以上に照らし出した。防犯には有効であるとの声も有ったが、まぶしすぎて安眠妨害ではないかと懸念の声が続出したのも致し方無い事であった。
その為、万博以後は、光量を半減とし、催し等の開催期間中のみの使用とされたが、その実は魔石エネルギーの消費金額が膨大であった為、商業ギルドが支出をためらった事が真相であると言われている。
※ ※ ※ ※ ※
イリア王国・王立ロンダ大学・経済経営学部
一般教養講座 「万博の波及効果」
さて、会場全体の説明に移ろう。まずは光の祭典と言われる夜間開催である。ジッグラトの塔の屋上から行われた近衛魔法師団万博特別協賛隊による花火の饗宴に続き、魔獣大戦戦勝記念パレードの16倍もの照明の魔法が100日に渡って点灯される。特に会場のライトアップや、夜間のイルミネーション、噴水ショー等は、その演出も評判となっている。
また、動線確保の為、万博専用新駅が作られている。これはロンダ北駅から5キロの場所にあり、毎時1万人の旅客を会場に運ぶ事が出来た。地上部の混雑が予想されたので緩和の為に高架鉄道となっているが、実は高架鉄道が作られたのは会場ばかりではない。
驚く事に、高架鉄道の規格より一回り小さいながらも高架吊り下げ型鉄道が新設されている。遊覧を兼ねた乗り物として右回りのみの巡回方式も車両が第1、第2、第3と各城壁上に作られ王都ロンダを廻っているのだ。この吊り下げ型方式は、王国で初めての登場であるが用地問題を解決する為の未来の交通手段として期待されていた。
また、会場内では人工の運河が掘られており、そこをゴンドラのようなボートで巡る事が出来た。そしてご多分に漏れず、未来の交通手段として動く歩道が作られており、会場内の数万人を乗せる事ができた。まさに、魔法工学に新交通システムや先進技術のみならず、観光と娯楽を併せ持った夢の祭典といえた。このような新時代を象徴する画期的な技術が幾つも公開されたのである。
先進技術と言えば、開会式前日に動力系の新システムが稼働している。これは、セシリオ陛下が魔石館でボタンを押すと、魔石エネルギーが高温高圧を作りだしてタービンを回す事により発電を開始し、一部では有るが会場内に電力が供給されたのである。これはイリア王国が新しい技術の手掛かりを得た事を意味した。
今回、魔石エネルギーに変わるものとして話題となった魔石館では、直流型の発電機、交流型の発電機が展示されている。同時に発表された変圧器により、高電圧に変換が可能とされ、交流型は送電ロスが少ない為、電灯と電力の基盤となっていくとされている。
電気は次世代のエネルギーとして期待されていたが、王国での現状は未来技術と言える。実際、魔石エネルギーの方が、はるかに効率が良かった。現在はカトー卿によって安定供給されている魔石であるが、エネルギー消費の指数関数敵拡大と、将来に渡っての魔石供給は不安視されていた。魔石エネルギーに替わる、次世代エネルギーの開発は急務であり、万博は人々の啓蒙活動の一役を担う事となった。
※ ※ ※ ※ ※
イリア王国・王立ロンダ大学・芸術学部
一般教養講座 「幻影写真家セルヒオ 回顧展」より
これは、懺悔と共に真人間として生きていく幻影写真家の話である。驚異の万博から20年、一人の幻影写真家が亡くなった。その芸術性と時代を捉えた映像表現は高く評価されており、今年も王国のいずれかの地で回顧展が開かれるだろう。
ケドニアの幻影作品や技術が王国に持ち込まれたのは魔獣大戦中と言われる。中でもセルヒオは魔獣大戦の暗い話題ばかりではなく、人々の生活が良く表されている幻影写真も多く残している。今回、出品された幻影写真は王国歴182~227年間とされ、当時を知るうえで貴重な資料であり、かつ興味を引く物である。
セルヒオはイリア王国の幻影史において異例の芸術家としても知られている。孤独の幻影家として知られるいるが、その半生は不明な点も多い。彼は当時の最新技術である幻影を扱っている事から、貴族の子弟であるとも言われており、中には聖職者であったと言う人もいる。
彼自身の言葉と思われる物が、最後の幻影写真と言われる「イリアに生きて」の裏に書かれていた。発見時には、かなり評判となったので知っている者も多いだろう。ここにその文を記すが、創作文なのか、事実が伝えられているのかは不明とされている。真偽の程は、後の世の賢者たちに任せよう。
「私が王都ロンダで聖秘跡教会第九教区首席司祭のセルヒオとして生きていたのが遠い昔の様に思える。私は紋章院のリゴベルト男爵の口添えを受けて生きながらえる事が出来た。今思うと、金に媚びる人生の何と無益な事であったか。生きる目的も無く、処刑される為に只無為に生きていた。そんな時リゴベルト男爵の情けで帝国の風景幻影と魔獣大戦の幻影を見せてもらった。その時から幻影家として生きていく事を決めたのである」
王立美術館 幻影写真家セルヒオ回顧展にて
王室・ロンダ城 第1展示室
王室※自転車に乗られる皇太后陛下
王国陶磁器展※セシリオ国王陛下の行幸
王都ロンダ※ドラゴンに乗って空撮・空から見たロンダ全景
ロンダ城前公園※王国軍と女性
ロンダ城前公園※公園でデートするカップル
第一城壁※伐採される前の並木道(現・ロンダ城前公園)
時の人※王室最高顧問官 シーロ・モンポウ・クエジャル閣下
法律※民法典に署名されるセシリオ国王陛下
芸術・芸能 第1展示室
画家※制作中のエマ嬢
舞台演劇上演※真夏の泡沫の夢(王立劇場)
美術展※第4回イリア美術展会場前にて(王都美術館)
ロンダ城前公園※小音楽堂でのコンサート
第二城区南公園※音楽堂・女子の演奏
ヒット曲※王都ロンダの恋歌(お湯屋歌謡ショー録音盤)
国歌斉唱※ロンダ城前広場(王国歴182年制定ロンダ音楽出版社)
音楽※放送を聴く・全波思念波受信機
幻影活動大写真※ロンダ幻影撮影所(略称ロンエイ)
幻影活動大写真※「魔獣大戦Ⅱ」(王国公開198年版)
幻影活動大写真作品※「わが青春に悔なし」(レイナ・ルイサ主演)
幻影活動大写真※「命ある限り」(レイナ・ルイサ主演)
幻影活動大写真※「わが青春に悔なし」(レイナ・ルイサ主演)
幻影活動大写真※自転車狂時代・近日上映・宣伝街頭大看板
レイナ・ピニャ・クルスとルイサ・ピニャ・クルスの女優姉妹は、タラゴナ出身の金髪の美人姉妹である。王都での歌謡ショーで評判の歌手となった。歌唱力をかわれて歌って踊れる俳優としてスカウトにされ、一世を風靡した。
商業ギルド 第2展示室
王国発行の紙幣を見る人々※エキュの値打ちとは
薬局※化膿止め薬の売り出し
魔石エネルギー※井戸水を吸い上げる家庭用魔石ポンプ
魔石エネルギー※簡易魔石七輪(アリカンテ魔石製造、現・アリカンテ魔石)
自転車が欲しい※商業ギルド福引会場※
関心事※商業ギルドで新10万エキュを見る人々
街頭音楽隊※鳴り物入りの商業ギルド祭(街中広告宣伝班)
魔石エネルギー貯蔵装置※イリア王国魔石エネルギー研究所記者会見場
王都ロンダ駅中央ホーム※複線化中の北の町線
王都ロンダ万博会場駅※新築中の高架鉄道駅舎
王都ロンダ駅※輸送人員拡大の為、改築中の改札入口(当時は北口)
貯蓄推進ポスター※貯金をしましょう。やがて冬がくるシリーズ
商業ギルド本店※宝くじの当選金支払い
商業ギルド※宝くじ投票券の発行・100万エキュ長者
エキュ紙幣※新エキュ紙幣・新100エキュ(ロンダ城正門)
商業ギルド※商品券(1000エキュ券・贈答用)
生命保険※広告(イリア王国生命、現・イリア生命)
生命保険※積立型の養老保険(ロンダ生命、現・イリア生命)
玩具※フラン王国への輸出玩具の商談会
食品 第2展示室
食品※没収した隠匿物資の供出・配給
食品※正規の食品料店で買い物する役人
エール※モンジェイック村エール(駅売店)
輸入ウイスキー※聖秘跡教会リヨン地区の伝統的な蒸留酒
輸入ブランデー※旧ケドニア帝国アハマディヤ市で造られた銘酒オクタビィアン・ブランデー(旧帝国歴391年物)
食品※加水式湯もどし麵(しょうゆ味)
生活 第3展示室
デパート※ロンダ第一城区店にて
スキンケア製品※乳液(イリア王国堂謹製、ロンダ化粧品)
スキンケア製品※あれ止め(イリア王国堂謹製、ロンダ化粧品)
スキンケア製品※粉白粉(イリア王国堂謹製、ロンダ化粧品)
おしゃれ※スラックスを穿くマネキンを見るご婦人達
おしゃれ※最新お子様服
市場※第3城区西市場
万博会場※噴水ショー(初期の閃光照明)
万博会場※オープニングセレモニー(ジッグラトの塔より俯瞰撮影)
聖秘跡教会教※王都ロンダ第一教会
交通整理※自転車違法駐輪取り締まり中の守備隊々員
競馬場※単勝馬券(春季、ロンダ競馬場)
競馬場※競馬誌「競馬ニュース」(競馬の友・発行)
ロンダ駅北口※ロンダ発観光列車の混雑
工業※新型思念波ラジオの販売(現・イリア思念波)
第三城区※グランドキャバレーロンダ(ロンダ第一の社交場と言われる)
蒸気動トラック※イリア200年型トラック(積載量2トン)
王国産蒸気トラック※エデルミラ号 イリア王国第三王女・エデルミラ・バレンスエラ・コルデーロ様による命名(高速蒸気動機関工業)
公共交通機関※イリア王国製バス(ロンダ蒸気動車工業)
観光案内所※ロンダ王国ホテル内イリアツーリストビューロー
飛行機※複葉型飛行機械
飛行機※初期のイリア王国空軍単葉型飛行機械
飛行機※試作機(垂直上昇型飛行機械)
第二城区※アパートメントハウス入口の警備員
第3展示室には、上記分類以外の作品と少数の幻影ネガも展示されている。
セルヒオは魔獣大戦関連の幻影作品でよく知られているが、イリア王国内での人々の暮らしの一瞬をとらえたスナップショットも銘品であるといえる。開催にあたって題と短く説明文が添えられているが、各コーナーにある掲示は、本人が付けたものでは無く、作品の理解を深める為に関係者が選定したものである。
尚、撮影場所及び日時不明が多いのはやむを得ないものと了承されたい。




