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癒やされたいキャンパー。異世界を癒やしに行く。  作者: カトー
第19章 中央大陸
189/201

189 ビールジャント出港

 ※ ※ ※ ※ ※


 イリア王国歴184年13の月9日、既に2日が過ぎシュパイヤー号は、大海の中にいた。ビールジャント港でのアザ騒動で出港が1日遅れたが、フラン王国のコブレンツ港に向かう航海は順調であった。この西行き航路は、北風が吹いているのでコブレンツ港への入港は12日後の予定であるそうだ。その後、シュパイヤー号はコブレンツ港に入港後、南洋諸島に向かう予定である。


 僕はコブレンツ港で船待ちの為に10日ほど過ごして、大洋渡航が出来るトリエステ港に向かう事になる。乗り継ぐ予定の、フラン王国本土行きの機帆船ヴュルツ号は、2カ所の中継港アーヘンとコンスタンツに寄り、トリエステ港に向かう。尚、トリエステ港はフラン王国西方艦隊基地としても有名である。


 シュパイヤー号は常備排水量808トンの機帆船であり貨客船としてビールジャント港とコブレンツ港から南洋諸島を定期運行していた。西方艦隊の活躍により、嘗て有った海賊の被害も減り、軍用艦のように武装を施す事もない。よって自衛用の極めて非力な3インチ単装砲を1門、前部甲板に備えていただけである。


 王国の標準的な中型船舶で、機帆船の特徴と言える機関と石炭庫が設けられている。船体の基本形状は、鉄骨木皮の船体で3本のマストと中央部に2本煙突を持っていた。艦橋は1番煙突の前方にあり、船体は3つの区画に分かれている。機関は箱型煙管缶と最新技術のレシプロ蒸気機関で、乗務員は54名であった。


 ※ ※ ※ ※ ※


 今回のシュパイヤー号の航海は、冬場という事で1等船客の6人だけである。商人が2人、老夫婦達が3人(お付きのメイド兼看護師が1人いる)、僕とで6人となる。商人達は知り合いらしく、仲が良いような悪いような感じである。老夫婦の旦那の方はフラン王国の高級役人だったようだ。


 僕は予定通り金持ちの商人の息子と言う設定で、魔法を少し使えるのでクシャーナ王国に魔法の見学をしに来たんですと話したが、これはこれでかなり胡散臭い。服装はそれなりであり、1等船客になるだけの金は払えるから金持ちの息子かも知れないが、それなら世話をするはずのメイドや執事がついていない。


 皆も不思議に思っていただろうが、口には出さなかった。老婦人だけはかなり気にしていたようだが、港を出てしまえば調べようも無いし、外見上は子供だ。東方系と思われる黒目黒髪だが、自分でも害も無さそうな平たい顔をした日本人であると思っている。マァ、何かしら訳があるのだろうとだけ思われていたようだ。


 シュパイヤー号のヘルマン・ウッフェルマン船長は、およそ船の事なら、その成り立ちから運用に至るまで、シャレた会話はもちろん、乗客相手に社交ダンスまで出来る老練な人だ。そして1等船客には、船長からの特別サービスがあり、食事のテーブルを一緒にしたり、操舵室の見学などの様々な便宜をはかってくれる。


 乗船日当日は、親睦を兼ねて歓迎会が開かれ、以後も様々な催しがあるのだが乗客は1等船客の6人である。テーブルでは、船長がホストで乗客の相手をしてくれる。優雅に食事を頂きながら、いきおい船関係の話題となる。マァ、男性同士でダンスをする趣味は無い。老婦人もダンスは遠慮したいそうだ。その為、メイド兼看護師さんは、老婦人に付き添っているのであまり出てこない。


「船舶見学ツアーにようこそ。乗員一同皆様のご乗船を歓迎いたします。では、早速ですが操舵室へ参りましょう」

「「「よろしくお願いしますー」」」


「船乗りは風を読むんです。帆走は、常に風を利用しないといけませんからね。風の影響を考慮して航行するんです」

「なるほど、なるほど」

「速く走る為に、この島の風上側を走ろうとか、逆に風が強すぎるから風下側に廻ろうとか考えますからね」

「フーン」

「それだけでは無く、潮流の影響も加味します。できる限り追い潮、連れ潮とも言いますが、これに乗れるようにするのが大事なんです」


「ご存じの通り、海では風の弱い日はもちろん、朝凪やベタ凪などで動けなくなる事も有りますから」

「そうでしたね」

「エェ、船種にもよりますが、海上で風が落ちて速力が4ノットを下回ったら、機帆走に切り替えます」

「風任せの帆船より良い訳ですな」

「この船は、蒸気の力で動かす事が出来ます。ですが、風による推進力は重要なんですよ。帆は補助的なものではありません」

「なるほど」

「機帆走は、帆とエンジンの両方で走る事がですが、搭載できる燃料の石炭にも限りがありますからね」


「強風時でも、帆には少しだけ風を入れて走ったほうが船も安定しますし、結果的に安全なのですよ」

「そうなんですか。知らなかったです」

「帆をすべて降ろして機走するとローリングがひどくなって危険が増すんです」

「ホー」

「ですから機帆走であっても、メインセールがあるほうが操船しやすいのですよ」


「船長さんは、出来る限り風を帆に受けて航行し、燃料の節約をしたいわけですよね」

「そればっかりではありませんが、燃料の石炭さえ許せば、機関のみでの航海の方が良いと言えますねぇ」

「エェ、確かに。帆船の時代は過ぎ去り動力船が主体になるでしょう」

「寂しい事ですが、これからの時代はそうなるかも知れませんなぁ」


 ※ ※ ※ ※ ※


「フラン王国は、ケドニア帝国とは商品を相互に輸出入するという関係でした。ですが近年は、魔獣大戦の影響をも有って食糧の輸出が増えています。しかし、大洋を越えて持ち込むには利が足りません。ある程度は食糧援助という事になるでしょう」

「ホホウ。そうなのですね」

「エェ、クシャーナ王国からは食品、とくにコショウをはじめとする香辛料が多く、フランからは輸出が出来る物は数えるほどしかありません。まともに輸出できるのは銃等の武器くらいでしょうが、これも大砲等は禁止しております。もっとも魔法使いが、火力支援出来るクシャーナ王国出は必要ないかも知れません」


「東方の産物は珍らしい物が多く、欲しがる者も多いのです。ですが、なにせ中央山脈しか使えないのがネックですな。ビールジャント以東の海洋交易が出来るのは理想ですが、例の攻撃が有りましたからな。今は、まともな海図もない危険な海域ですが、最近は冒険的な航海となりますが少しずつですが上手くいっているとの話を聞きます」

「そうですか。東方に海路で商売に行けるようになると……楽しみですな」

「マァ、フルとは、隕石テロ以前まではムンドゥスの全域で海洋交易が出来たそうなので可能性は十分に有ります。王国はいずれ、南大陸への航路を開拓し、東方航路によってフルや、黄金の島と言う諸王国にまで進出できるかもしれません」

「さすが、ヘルマン船長。鋭い考察ですな」

「ハハハ、お上手ですな。西のアレキ大陸には、ケドニア帝国、エバント王国。そうそう、最近力を付けてきたイリア王国ですか。大洋貿易は夢が有りますからな」

「エェ、ケドニア帝国から西回りの航路は有るはずなのですが、ほぼ手つかずだそうです。確か、魔獣大戦の折、ヴィルヘルム提督の一部艦隊がエバント王国までは行かれたそうですがね」

「行けるようになれば、イリアかエバントにある貴重なお茶も手に入るでしょう。紅茶などは王族しか飲めませんからなー」


 イリア王国では一般にハーブティーが飲まれている。王国でも、お茶の加工品である紅茶は貴重品で高価であるが、王族だけが飲めると言うほどでも無い。エバント王国の山間で栽培されている茶の木は、原産地がフルで隕石テロ以前に東方より持ち込まれたと言われている。実際、生育が難しくイリア王国でも大変貴重な物となっている。


 ラミラ嬢の茶話会では、紅茶は厳重に包装されていた。小箱には東方の言葉で、飲み方の方法が絵と文で書かれていた。美味しいケーキのお店でも好評で売れ行きも良い。この箱入り紅茶、てっきり、海を越えて来た物と思っていた。あれはメモ書き程度の文章なので昔あった物を複製した物だったのだろうか? 


 コショウ等の香辛料や東方の商品は、原産地からはるばる陸路と海路を渡り、ケドニア帝国に運ばれるまでに最低でも3年がかりだという話である。地球でも、香辛料や絹糸の話は価値を上げる為に、この手の話が色々と想像されたという事は知っている。


 それに比べれば可愛いものかもしれないが、高価な理由はその希少性にあると販売戦略を考えた商人が居たのだろうか? だとすればたいしたものだ。今回、アレキ大陸で希少だとされる植物のタネを集めている。イリア王国で育てられるようになったら、どれほどの富を生む事になるだろう……。


 ※ ※ ※ ※ ※


「昨晩は中々、面白い話でしたな」

「イヤ、ヘルマン船長。勉強になりました。商売人よりお詳しいとは驚きましたよ」

「ハハ、いささか話が固くなりました。話題を変えて、今宵は海の伝説でもお話しましょう」

「それは良い。正直、経済は苦手ですからな」

「私も」

「御冗談でしょう。では、ウソかホントか分かりませんが、伝説という事でご容赦下さい」

「それは楽しみですな。いやはや、早くディナーになりませんかな」


「先ずは、クラーケンですなぁ。あれは、やばい。オッとご婦人の前で品の無い言葉でしたな。失礼いたしました。あれこそは海の怪物です。幸い私は見た事がありませんが、伝説ではもの凄く巨大で島の様だそうです。マァ、船乗りの話ですし、島と言うのは大げさでしょうがね」

「ホー、そんなのが居るのですか」

「エェ、言い伝えではクシャーナ王国から南大陸の間の海にいるそうです。船を転覆させて、人はもちろん船も海中に引きずり込むそうです。小さな船なら丸ごと呑み込むようです」

「船長さん。脅かさないで下さい。本気にしますよ」

「イヤイヤ、奥様。伝説とは何かしらの真実が有りますからな。満更、分かりませんぞ」


「以前知り合った学者さんから聞いた話ですが、もし実存するとすれば古生物の一種と考えられるようですな。その方の説によると、生態系の頂点捕食者に間違いないとの事ですよ」

「フムフム。前世の生き残りですか」

「イカやタコの仲間であるようですが大き過ぎます。伝説では海中を自由自在に動き廻り、くちばしでウミガメなどの体の硬い甲羅をかみ砕き、大型魚類をエサとしてるようです。およそ、視界に入るものは何でも食らうほど凶暴で悪食ですが、本来は肉食性で有るはずだとおっしゃってました」

「なるほどー」

「普段は深海域に生息しており、餌を襲う時以外は滅多に水中から出てこないらしいです。本体は水面までは上がらず、水中に留まる為、攻撃を受けても足が傷つくだけで、回復すればまた足が生えて来る。移動速度もかなり高いと言われておりますな」

「いやはや、聞けば聞くほど逢いたくない化け物ですなー」


「全くです。次は、シーサーペントですな。これも昔から船乗りに伝わる話です。その姿は定かではありませんが、巨大な海蛇の一種だと思われています」

「面白くなってきましたな」

「皆さんも、地図に描かれた怪物を見られた事が有るかも知れません。非常に古くから目撃情報が有ります。魚や蛇と違って身体を左右にくねらせて泳ぐのでは無く、上下にくねらせて泳ぐそうです。ドラゴンの仲間だという話もありますな」

「これは、興味深い。実は、私にも思い当たる話が有ります。昔、王国の北部で大きな動物の様な骨が出たそうです。35・36メートルのほど有ったと記憶しておりますの」

「ホー、そんな事が有ったのですか」


「大きなクジラだったのではありませんか?」

「エェ、最初はクジラだと言われましたが、それにしては大きいかったのですよ」

「違う物でしたか?」

「それが、骨の形から蛇のようでも有るんです。何より後ろ足が有ったんですからな」

「そう言えば東方のフルでは、龍王クジラと言う龍とクジラの混じったような生き物がいるそうです」

「オォ、そんなのがいるのですか?」

「私にも真実かどうか分かりませんが、その話によるとですな。この生き物は優秀な臭覚を持ち、毛が生えているそうです。ちょうど、この辺りの様な暖かい海域を好むそうですよ。アァ、鋭い大きな歯が有るので肉食だという話です」

「冗談でしょう」

「さて、どうですかな。いずれにせよ、近付いたら死にますから逃げ出すべきでしょう」

「本当に居るとすれば一般人では逃れられないでしょうし、もしも、そんなのを退治出来れば英雄と言われるでしょう。ひょっとして、精霊の加護を受ければ出来るかもしれませんがね」


「出会わないように願いたいですな」

「古参の船乗り達の話では、60メートルは越えるオオウミヘビなんてのはザラにいるそうです。他にもウミブタですかな。これはブタの頭を持ち、後頭部は龍のようだそうです。尾は普通の魚と同じくギザギザしながら二股に分かれています。そうそう、ビールジャントでご覧になられたと思いますが、アザにも似ているそうです」

「ホー」

「ポリプスという巨大なウミザリガニは、体の色を変えて周囲と同化できるそうです。大きなギザギザのハサミを持っているそうで、シマクジラと言うの者もいますな。島や山と間違えられるほど大きいクジラで、島だと思って錨を下ろして上陸すると海に引きずり込まれるそうです」

「いやはや、まいりましたな」

「まだまだ居ますよ。プリスターはクジラの一種で体長は約90メートル、非常に残忍です。吸い込んだ水を頭上から洪水のように浴びせかけ、その水しぶきで最強の船であっても大変な目に遭うそうです。最後には前甲板または後部甲板に体重をかけて船を沈めるようです」

「……」

「ロッカスはエイ逆立った硬い毛あるいは骨で全身が覆われているようです。サメやガンギエイに似ていますが、比べられないほど大きいとの事です。そのヒレで小舟でも大型船でも、ひっくり返すと言います」

「……」

「ゼフィアスはフクロウのような顔をしておりましてな、刃が鋭いひれのような物が背中から突き出ています。北方の海に住み、背中は剣のように盛り上がり、鼻先もとがっているとの事です。船体に穴を開けて沈めるのが、奴の常とう手段だそうです。船乗りの大敵ですよ」

「……もはや、言葉も無いですな」

「ご安心下さい。これにてお話は終了です。これ以上、お話すると次回は船旅とは行きますまい。ハハハ、さすがに、打ち止めにいたしましょう」


 ※ ※ ※ ※ ※


 テーブルでの話題は、料理と海の話である。ヘルマン船長は行った先々の名物料理を話して皆と盛り上がっていた。それも面白かったが、興味深かったのはフラン王国の立ち位置をざっと話してくれた事だ。この時期、フラン王国はケドニア帝国と同じ様に産業革命期であった。方や陸上の大国、一方は海洋覇権国家となろうとしていた。


 フラン王国の輸入品のおおよそ3分の1は、クシャーナ王国以東の亜麻や麻等の繊維業産業向けの原材料が中心であった。他には自由都市とパルティア小王国等から鉄材やタール等が輸入されている。また同じ量が食糧品であったが、その主なものとしてはコブレンツ島を代表とする南洋諸島からの砂糖であった。


 ケドニア帝国からは、工業製品が主力輸入品であった。だが帝国とは、往復をするにも貿易風を要する長距離航路である。この為、投資の回収期間は長く、1万キロの大洋を横断する事になり難破の危険も少なくなかった。海洋保険が発達した一因となっている。


 それはともかく、フラン王国が大艦隊を編成して、ケドニア帝国へ渡航出来たのは技量もさる事ながら、運が良かった言われるほどである。クシャーナ王国の航路は大洋を越える訳でも無く、沿岸や島伝いの航路にすればさほど困難とはいえなかった。この為、商船には旧来の帆船と動力を持つ機帆船が併用される事になる。


 現状、定期運航的な輸送の為にシュパイヤー号のように機帆船が導入されるか、ビールジャント港に居たレンメン号のようにスピード優先の高速化が行われるかの2分化が行われていた訳だ。


 尚、レンメン号の様な高速帆船は、中央山脈経由でクシャーナ王国にもたらされた、コショウなどの香辛料などの高級食品、詳細は分かっていないが、東方フルなどの絹の撚糸、生絹等の高価な東方の嗜好品を主に運んでいた。これは総重量にして年間で数十トンに過ぎなかったが、非常に珍重されており高価な輸入品となっていた。


 ※ ※ ※ ※ ※


 フラン王国に向かう機帆船シュパイヤー号は、パルティア小王国デッサウ港にむかう快速帆船レンメン号に洋上で追いつかれた。順風を受けて、穏やかな海の上を滑るようにして2隻は進む。レンメン号は、追い風を的確に捉える為に可能な限り展帆しており、まるで総帆展帆をしたかのように進んでいた。


 シュパイヤー号の乗組員は、感心しながら美くしくスマートな船体の快速帆船を見ていた。さすが快速帆船の名に恥じない速度である。後からビールジャントを出港した快速帆船レンメン号に追い抜かされてしまった。その差は徐々に拡がり、レンメン号の姿もすぐに小さくなった。


 そして翌日、シュパイヤー号がレンメン号の去ったと思われる海域に近づくと、無数の木片が波間に浮かんでいた。


「オーイ、甲板! 右舷前方に木片!」

「木片? 何が起こったのでしょう?」

「分からん。微速前進」

「微速前進。ステディー」

「船長、あれはマストの一部です。昨日見たレンメン号の物に似ています。嵐でもないのに、マストがあんなになるとは……。レンメン号に何か起こったのでしょうか?」

「そうだな。良くない事が起こったかも知れん。本船は、ここで捜索活動を行うべきだな」

「エェ、そうですね」

「見張りを増やしてくれ」

「アイ、サー」


 ※ ※ ※ ※ ※


「まだ、生存者は見つかりません」

「発見出来たのは、破壊されたレンメン号の船体と帆の一部か。救命ボートも見えん。これは最悪の事態を考えねばならないな」

「最悪ですか?」

「アァ、破壊の跡がおかしい。レンメン号は沈められたかもしれん」

「沈められた! どうして?」

「どうしてと言うより、何にだろうな」


「おかしいですね? 霧が出てきました」

「嫌な予感がする。対水上見張り 厳となせ! 大海原のど真ん中だから、座礁と言うのはは無いだろうがな」

「でも、船同士の衝突はあるかも知れません」

「そうだな、衝突か? 意外とあるかも知れんな」

「衝突ですか?」

「アァ、伝説だけどな」


「オーイ! 甲板」

「どうしたー?」

「右舷前方1海里、樽の様な物があるぞー」

「人は見えるかー!」


 フラン王国は、魔法使い少ないのは前述した通りである。嘗ては遠見の魔法使いもいたが、軍が優先的とされるので民間航路の見張りは普通に目が良いというだけである。生存者を発見出来たのは幸運だった。最初はピクリとも動かなかったので、死んでいると思われたぐらいだ。


 ※ ※ ※ ※ ※


「運が良かったなー。危ない所だったぞ」

「そうだな。ちょうど、甲板に上がった所だったんだ。そうしたらマストの見張りが、おかしな事を叫んでいた。ウゥウ……」

「そうか。話せるようになったら、何が起こったか教えてくれ」

「アァ、ありがとう。もう大丈夫だ。ところで他の者は?」

「今の処、見つけたのは君だけだ」

「……あの時、マストに居た見張り員は下を見たんだ」


そして、少しずつレンメン号に起こった事を話し出した。


 ※ ※ ※ ※ ※


「大変だ!」

「大変じゃ分からんー。落ちついて言え!」

「島が浮かんでくる!」

「そんなバカな話があるか! しっかりしろー」


「身張りが叫んでいたんだ。レンメン号の下から、巨大な島が立ち昇って来ると、何をバカな事をと思ったんだが」

「それで」

「突然、大きな水柱が上がって、柱が立っていた」

「海に真ん中に柱が?」

「柱だと思ったのは何かの足みたいだった」

「ウーン」

「それが、くねくねと動いて、船腹に吸盤でしがみついたんだ。レンメン号は急激に止められて船足を失った。突然、シーアンカーを出した感じだ。俺はその時、海に放り出されたようなんだ。気が付くと船からは100メートルほど離れていた……かな」

「そうか」

「レンメン号は、マストが折れ船腹に穴が開いたようで傾きかけていた。上部甲板から、人が海に落ちていくのが見えたんだが……」

「それからどうなった?」

「化け物が口を開けて呑み込んでいた」

「……」

「ヒモのついたタルが流れて来たので、自分を結び付けたんだ。大きな水柱が2回上がり、レンメン号の姿が見えなくなった。憶えているのはここまでだ」


 化け物は、深海から突如として浮かび上がり、レンメン号を襲ったようだ。生存者の話によると、海に生きる伝説の化け物クラーケンらしかった。 どうやら、ビールジャント港にアザが大量に押し寄せて来た原因はこのクラーケンの為らしい。


 これでアザの群れが、港から動こうとしないのか腑に落ちた。コブレンツ港に至る海域に、この世の物とは思われない化け物がいたのだ。アザは、クラーケンから捕食されまいと逃れてきたのだ。


「皆さん、助かった船員の聴取が終わりました。話からすると生存者は彼一人の様です。既にまる1日経っています。捜索を続けたいとは思いますが、レンメン号を襲った化け物はクラーケンのようなのです。クラーケンが存在し、シュパイヤー号が襲われる可能性があります。昼には捜索を打ち切り、コブレンツ港に向かいます」


「船長、時間です」

「アァ、これだけ探しても見つからんのだ。やはり海に引きずり込まれたか。化け物が出てくればこちらも危ないからな。やむをえん。これより、コブレンツ港に向かう。半速前進」

「半速前進。ステディー」

「航海士、針路を298度へ」


「何か浮かんできます!」

「イカン! クラーケンだ」


 クラーケンは、レンメン号を襲ったように突如として現れたが、折よくヘルマン船長の前進命令が出た為に、狙いを外したようだ。20本の柱が水面から飛び出してうごめく様は異様な光景だった。柱の様な足が、船に飛びつく姿は水面下の巨体と相まってインパクト絶大である。


 海面から浮かび上がってきたのは、1メートルを超える柱の様な触手だ。その柱の様な触手には大小の吸盤が並び、一つ一つの吸盤の内側には鋭い歯がうごめいていた。それが、伸びだしてシュパイヤー号の位置に向かってくる。あんな柱に巻付かれたら沈没は免れないだろう。


当然、僕も船が沈められるのはイヤだ。雷の籠手を装備して、万一に備えて甲板に居た。ヘルマン船長には、魔道具だからと秘密を話しておいた。船長は魔法が使える魔道具を見せるまでは半信半疑だった。驚いたようだが、3インチ砲一門では頼りにならないのは自明である。船長にとっても火力が増えるのは大歓迎だそうだ。


 秘密にするのは承知してくれたが、クラーケンが出てこなければ、魔道具の事は忘れて下さいとお願いしてある。ここの処、悪い予感ほどよく当たる。まったく不思議な事だがクラーケンの登場だ。


 船腹に取りついたと思ったら、さらに10本の足が甲板にいる者を襲いだした。雷の籠手で反撃の開始である。幸いな事に、3秒後の動きを知る魔道具のメガネが有る。魔力次第だが相手の3から5秒後の動きを知るメガネ。これならば、動きの速い触手が多くても確実に狙い撃ち出来る。


 だが、楽観はできない。クラーケンの襲撃を受けても、魔石が有れば追い払う事も可能かも知れないが、今は体内魔力だけだ。電撃がクラーケンに命中する。クラーケンは魔道具の電撃に驚いたのだろう船腹に取りついた足を離した。思った通り、深海に住むクラーケンは電撃といった特殊な攻撃への耐性を持たないのだろう。


 だが、クラーケンに電撃を浴びせ続けても、痛がりはする様だが殺す事は出来なかった。もちろん近づけば電撃を放つ。クラーケンは頭が良いのか、捕食者の性なのか、獲物を逃すまいと距離を取って追いかけて来る。距離は拡がりつつあるが、この状態が続けば、魔力が枯渇してしまう。


 ※ ※ ※ ※ ※


「凄い魔道具ですね」

「アァ、カトー様が乗船していて良かったよ。魔道具もそうだが、魔法使いとしても一流だな」

「本船は幸運です」

「そうだな。このまま、逃げ切れそうだが……。だが、魔道具にしろ魔力にしろ、魔力量は有限だ。いずれ魔力が切れると仰っていたからな」

「そうなんですか」

「なんか生臭い風だな」

「オーイ! 甲板。左舷前方に……なにか来ます」


「今度は何だ?」

「オィ、あれは、シーサペントなのか。なんてことだ。一難去ってまた一難か」


 脈打つ海面に、3ツの背を出し上下に蛇行してシーサペントが移動している。シーサペントの目指す方角にはもう、一頭の化け物がいた。大海蛇より大きなシーサペントがクラーケンに向かっていく。縄張り争いなのか? エサの取り合いなのか分からないが、海獣大決戦みたいな感じになって来た。


「船長、クラーケンを抑えるより逃げにかかった方がいいんじゃないですか?」

「ウン、それはそうだが。風が吹けばともかく、機関出力は一杯だぞ」

「カトー様がいるじゃないですか」

「ン? そうか。その手が有ったか!」

「すぐに、風魔法が使えるかどうか聞いてみます」

「アァ、そうしてくれ」


 壮大なスペクタクルかも知れないが、観戦する訳にはいかない。巻き添えになったらレンメン号の二の舞である。シュパイヤー号の皆の命がかかっているんだ。両者が争う内に、機関出力全開、おまけに風魔法で速力アップする。補助帆まで展帆したシュパイヤー号は速力を上げて化け物達の戦場から離脱した。


 ※ ※ ※ ※ ※


「オーイ! 甲板」

「どうしたー?」

「海の色がおかしいぞー」


 海面を見ようと甲板に乗員が集まって来る。


「確かに色が変だ」

「沢山、浮いているな」

「あれは、軽石じゃないかー」

「魚も浮いてるぞ」


 船首に居る測深班員が、バケツを投げ入れて海水を汲み取ってる。


「水が温かい」

「オイ、ここは海だぞ」

「でも、ぬるま湯ぐらいだぞ」

「海の底で何か起こったのかも知れん」

「浮いていたのは軽石なんだよな」

「アァ、そうだが」

「噴火したのかな?」

「海の中でか?」

「火山島の近くの噴火では、海に軽石が浮いているからな」

「火山でもあるのか?」

「火山は陸地ばかりに有る訳じゃないだろう。それに、意外と当たっているかも知れんぞ」

「じゃ、もっと前に来ていれば火山の噴火を見れたかもしれないのかー」

「何をのんきに……」

「実際、海の底でなにが起こっているのか誰もわからんからな」

「魚達には迷惑だろうな」

「魚だけとは限らんぞ。海獣も逃げるだろうし、クジラも避けるだろう」

「化け物だって、熱湯の中には居たくないだろう。クラーケンだって生き物なんだろう?」

「それは勘弁して欲しいな」


 海底火山の爆発か? ひょっとしたらこれがクラーケンや が出現した理由だったのか。


「オォ、風が吹いたぞー」

「追い風ですな。帆を張り増ししましょう」

「そうしてくれ。運が向いてきたな」

「アイサー」

「この風なら航海予定通り着けるぞ」


 ※ ※ ※ ※ ※


「何とか逃げ切れました。これも皆様のご協力が有ったからこそです。特にカトー様、ご苦労様でした。皆、感謝しております」

「イヤー、当然の事をしたままです。なにしろ、僕も自分が乗っている船が沈んではたまりませんからね」

「ハハハ、確かに」

「イヤー、君が護衛の一人も付けず旅をしていると聞いて疑ったのだが、あのような魔法が使えるとは驚いたよ」

「そうですね。クラーケンを寄せ付けませんでしたもの。本当に、護衛など要りませんね」

「全くです。このクラーケンとシーサペントの事は、私共が当局に話をしておきます。おそらく当分の間、この航路は閉鎖されるでしょう。レンメン号の事が有りますからな。ですが皆様にお願いが有ります。カトー様がお持ちの魔道具については、約定が有ます。くれぐれも内密にして下さい。もちろん、この事は船員達にも申しつけおり皆了解しております」

「そうでしょうね。商売人としては残念ですが、命の恩人ですからな。了解しました」

「皆様もそれでよろしいですかな?」

「エェ、もちろん」

「では、話もまとまりましたので今宵は、気分を変えてコブレンツ島の話でもいたしましょう」

「もう、化け物はごめんですからな」

「しかしマァ、孫に話すには良い自慢話にはなりますな。ハハハ」

「あなた、孫が泣き出さないようにお願いしますよ」

「それならば、島の話は無難で良さそうですな」

「ハイ、お願い致します」


 ※ ※ ※ ※ ※


「さて、本船の目的地であるコブレンツ島はフラン王国の南の玄関であり、海洋交易の重要な島です。大洋の南に位置しており、南北167キロ、東西93キロ、2500メートルのビンゲン山がある火山島です。気候は年中温暖ですが雨が少ないです。南洋諸島への物資輸送地としても有名です。良好な湾が有りますからな」

「ホー、今度は楽しいひと時となりそうですな」

「エェ、本当に」


 コブレンツ港は、クシャーナ王国ビールジャント港より12日を経て着くフラン王国の最初の寄港地で良好な停泊地である。コブレンツ島は大洋でも4番目に大きい面積を誇り、耕作の難しい山がちな地形で雨も少ないながらも沢山のワインが造られ名産となっている。


 ターコイズブルーの海に立つ赤い断崖。平地が少ない為に、山にしがみつくようにして作られた石造りの村。ブドウやオリーブの木が植えられた峡谷。島の各所には、小さいながらも多くの入り江があり、海と空が溶け込んだような美しい砂浜が点在している。


 その一方、海に切り立つ砦に守られたコブレンツ港を散策すれば、歴史と伝統が色濃く残る場所でも有ると分かる。隕石テロが起こると、多くの地と同じように混乱したが、その80年後には独自の憲法草案が作成され、コブレンツ共和国が誕生する。


 その後、海賊の襲撃を受けるなど、不安定な時代が続いて経済力を失い、都市国家として栄えていたフラン共和国(現在のフラン王国)の統治下に置かれることになる。また、嘗てはライバル的存在でもあったボスターン王国も沿岸地域に城塞を建設したが、ボスターン王国はクシャーナ王国に吸収されており、今では昔話となってしまった。以後、フラン王国の下、安定した時代が続いている。


 様々な大小の帆船が繋がれた港、背後に広がるカラフルな家々、コブレンツの塔(コブレンツ共和国時代に海からの敵を監視するために建てられた塔)など、美しい景色や名所に出会える。分厚い土塀に守られた砦から続く街は狭い小路や階段が縦横に延び、まるで何百年の昔に迷い込んだような錯覚を生む。


 また、海と山の幸を同時に味わう事が出来る。この島で有名な海の幸といえばウニですある。ウニ漁が許されるのは冬だけなので注意が必要だ。山の幸はソーセージ等の加工品が有名で、とくにドライソーセージが名物である。山羊や羊のチーズと名産のワインの組み合わせはかなりイケる。この島の柑橘類から採れるハチミツは太陽を感じさせると言われている。


「コブレンツ島は、南洋諸島から来る砂糖の集積地です。それだけではありません。これから向かうコブレンツは観光地として確かに有名ですが、巨人の伝説が有るんですよ」

「ホー、そうなのですね」

「船長! またですかー」

「マァ、聞くだけ聞いてみましょう。何やら面白そうではありませんか」

「まったく、殿方と言うのは仕方がありませんね」


「では、皆様のご了解を得たという事で。オホン、島には巨人伝説が語り継がれており、島民は残された巨大建築物は、古代の巨人達によるものと信じられております」

「土魔法でしょう」

「フム、アレキ文明の物なのでしょうかね?」

「種明かしはまだ早いですよ」

「島民は皆、空から星が落ちて来たと信じておりましてな、この島北部の切り立った断崖には巨人というほどではないですが彫像が、おそらく何かの目印なのでしょう。今もひっそりと佇んでいます」

「空から落ちて来たのですか……。失礼、どうぞ、続きをお願いします」


「報告を行った者は220年前の探検家リーンハルト・ルーベンですが、実は巨人の最初の発見者ではありません。航海の途中、たまたまコブレンツ島で冬を迎える事になり、しばらく停泊することになりましてな、結局はそこに一冬滞在する事になるのですがね」

「たまたまでしたか」

「彼らが停泊した地は、島にある火山よりやや南のです。今で言うコブレンツ湾であったようです。そこの村で例の手記を発見したらしいのですよ」

「例の手記と言うのは、巨人の事が書かれたていた文書ですな。そうでしたか」

「エェ、誰とも分からぬ者の手記を手に入れたらしく、そこに巨人と居場所が書いてあったのですよ。もっとも、その手記は航海中に失ったそうですがね」

「証拠は無しですか」

「ここまでは、王国でも知られています。ですが、天女の事を知る者は少ないと思います」

「天女? 初耳ですな」

「確かに、私も聞いた事ありません」

「これは、面白い。船長はご存じなのですか?」

「実は、私も最近まで知らなかったのですよ。ですが、2年ほど前に土地の古老とひょんな事から仲が良くなりましてな」

「船長、焦らさないで下さいよ」

「イエ、イエ。そんなつもりは有りません。その天女の話なのですが私が聞いても本当らしく思えるのです。コブレンツ島は精霊の加護に有ると言うのが島の宗教関係者の意見です。これに反対する者などいません。精霊はともかく天女の存在は旨くないという事でしょう。それで天女の話は表に出てこないそうです」

「なるほど。宗教がらみなら有りそうな事ですなぁ」


「リーンハルトが手記を発見したのは間違いありません。しかし、巨人を目で見たと言うのには無理があると思うのですよ。古老が伝えたのは天女が彼を導いたとの話なんです」

「ホー」

「天女が、彼を案内して巨人を見せたようなのです」


「場所については特定できませんが、言い伝えでは海岸の崖っぷちの洞窟で天女に出くわしたそうです」

「で?」

「残念ながら、それと思われる洞窟ですか? 今は無いのですよ」

「なんだ」

「がっかりしないで下さい。マァ、私も最初はそう思ったんですけどね。古老の話では火山の噴火で無くなったと言うのですよ。でも、その入り口は今も海面下に沈んでいると言ってね」


「リーンハルトは巨人の事は伝えたが、天女の事は故意に言わなかったか、それとも話の中で消え去ったか分かりませんがね」

「フムー。謎ですな」


「リーンハルトによると巨人は強大で、巨躯の身体を持っているのがその最大の特徴でありました」

「当然、巨人ですからな」

「ハハハ、確かに。ですが彫像の頭は巨大な ドームのようで単目だそうです」

「エ!」

「ウン、ウン。私は巨人が書かれた絵を知ってますからな。その通りです」

「何やら、そのような巨人が神話の世界に居りましたな」

「一つ目の巨人と言えば、キュクロープスですな」

「似たような話……ゴーレムではありませんか?」

「そうそう、魔獣大戦の折、ケドニア帝国で現れたというゴーレムが居りましたな」

「あなたも、ご存じでしたか。なるほど、可能性は有りますな」

「皆さん色々とお考えですな」


「確かに、リーンハルトの発見した手記には巨人の事が記載されていますが、リーンハルト自身の記録にも矛盾しているところも有りましてな。最初の書きはじめでは海底の巨人と書いていますが、同じ文章のなかでは巨人は陸にいたとも書いているのですよ」

「伝説を真に受けたのでしょうか?」

「彼は自分の目で見たと書いてますからね」

「ですけどね、彼の性格を知る者によれば、少なくとも誇張や誤報であったとは思えず、悪ふざけや冗談ではないそうです」

「ウーン」


「エェ、リーンハルトによって王国に伝えられた巨人ですが、彼によると、巨人の身長は人間の10倍とも、あるいはそれ以上ともと書かれております」

「ホー」

「居場所である石の扉の向こうには、今もなお多くの巨人がおるようで、彼が訪れた場所は、まるで墓廟のような静けさだったそうです」


「リーンハルトは出合った巨人について、自分の背が巨人の足首までしか届かなかったこと、巨人は灰色でまるで塗られたような感じで、一つ目は黄色です。首と言う部分が無く、胸には紋章のような模様があったと言っています」

「ホー」

「彼は巨人を捕まえて連れ帰ろうとしましたがピクリとも動かなかったそうです。辛うじて爪のついた手首を回収したのですが、この手首も後の航海の途中で失っています。ですが、巨人の姿絵を10枚ほど書き残しています」

「王立博物館に有るやつですな」

「リーンハルトの乗艦に保管されていた手首は行方不明になっております。これは、しょうがありません。何しろその後の大洋での過酷な航海で、3分の2の乗組員を失っていますからな」

「あれは、壊血病と思えるものでしたな。残念な事でした」


「停泊中にリーンハルトは村人達とかなり親密に接触していて、火山噴火で村人が逃げ出して無人島になった事を聞き出したりしてます。真偽はともかく、現実にはありえそうも無いこの巨人の伝説が、この島では200年もの長きにわたって語り継がれているのですよ」


「その後、航海技術も向上し、コブレンツ島への渡航は探検家だけの物で無くなりました」

「ウン、ウン」

「コブレンツ島は巨人の国かも知れないとの人々は思っていたが、島の事情が知られるにつれ、巨人伝説に関する話は減って行きました。実際、南洋諸島に残る巨人伝説は極端な誇張であったようですしね」

「確かに、おとぎ話の様でしたからなー」

「コブレンツ島は農業には向いた土地ではなく火山灰層なのです。しかも、辺境となればフラン王国人がコブレンツ島などの南洋諸島に進出してくるのは後の事であったのですよ」

「王国の南方発展期ですな」


「さらにフラン人が中央大陸から持ち込んだ病気、伝染病は免疫を持たなかった南洋諸島に諸民族を甚だしく減少させた疾病で人数を減らしています」

「偶然とはいえ、不幸な事でした」

「そして、巨人の存在が未だに確定していない事から、巨人は南大陸から渡ってきたと言う説もあるんですけどね。リーンハルトも天女について何も書き残していないので、天女の事については土地の古老以外は永遠の謎のままとなっているのですよ」


 ※ ※ ※ ※ ※


「オーイ! 甲板。島が見えるぞ!」

「良かった。コブレンツ島のようです」


 外洋からのアプローチでは、火山であるビンゲン山がコブレンツ湾の最初の目標となる。次に島の南西部に有る岩礁に注意しながら島に接近し、港路から見える陸のコブレンツの塔を確認する。入口にあたるコブレンツ湾は、北・東・西を囲まれ、鏡のようだと言われるほど波静かな湾である。遮蔽された地形は、しばしば天然の良港と呼ばれている。


 ここに至れば、古代に作られたという岸壁まであと一息である。近づくに連れて、南洋諸島から、フラン王国本土からも来たのだろう、色々な船舶の停泊風景を見る事ができる。


 機帆船シュパイヤー号は、12日間の航海中にクラーケンやシーサペントに出くわすと言う稀有な体験をしたが、無事コブレンツ島に着く事が出来た。



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