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癒やされたいキャンパー。異世界を癒やしに行く。  作者: カトー
第19章 中央大陸
187/201

187 付与魔法と魔道具

 ※ ※ ※ ※ ※


 今回の侵攻は、無事防げた。クシャーナ王国の魔女達は、あわやと言う処まで追い詰められはしたが、黒き霧の悪魔は霧散し、得体の知れないモノの侵攻を押し止める事に成功した。私が望んだとおり、王国は10回目の防衛戦に勝利したのだ。


 得体の知れないモノが撤退していく直前に、カトーの体が光ったと弟子のリディが言っていた。何かしらの魔法が発動されたのは間違いない。それが決め手となったようだ。やはり、その魔法が発動した時、私のお師匠デラーラーム様が魔法陣に強大な魔力を得たと言っていた。デルバル様とデルカシュ様も、口には出さないが気付かれていたようだ。


 今回は何故だか、迎え撃つ魔女達に死者は出なかった。もちろん、文句などは無い。儀式の終了間際には、半数近くの者が倒れていたはずだ。それどころか、一時は死を覚悟したのだ。しかし、終わってみれば負傷者も無く、体力が落ち込んだ者もいないようだ。事実、皆が心身共に回復したようだし、かく言う私もその一人だった。


 不思議な事であったが、何はともあれ勝利を得た。めでたしめでたしである。しかし、事情を知る者としては、めでたいと言うだけでは済まないだろうと思っていた。得体の知れないモノを押し止めた。そう、辛うじて押し止めただけなのである。討ち滅ぼした訳では無い。


 王国の力は弱まり、予想した通り得体の知れないモノの力は増していた。これからも、侵攻は続くだろう。次回、侵攻が62年後なら私はこのムンドゥスにはいないだろう。これからは、次代の魔女達を育てねば王国に未来は無い。だが、今は一時とはいえ勝利の気分を味わっても良いだろう。


 ※ ※ ※ ※ ※


 ハーフェズ城は何時もの静けさを取り戻し、侵攻前と同じ日々が始まった。すぐには侵攻が繰り返され無いと思われるが、城では警戒が続けられている。この為、警告の鐘が鳴らなければと言う制約は有るが、国王陛下のご臨席を賜って、王都の空中庭園で勝利の喜びを分かち合うために祝勝会が開かれる予定である。


 残念ながら、得体の知れないモノを押し止めても、この後は王都ドルードで、黒き霧の悪魔によりゾンビ達の出現が予想されている。過去の例からすると、そのゾンビ達を打ち払うのに6日ほどかかるだろうと思われていた。ところが、漏れ出た黒き霧も少なかったようで、今回は思いの外、ゾンビ達の発生が少なかったようだ。


 マァ、ゾンビと言っても300年ほど前にカタコンベは閉鎖されており、王都周辺はイーラーム教の特例地として火葬が認められている。従って、危機ではあっても徐々にゾンビの数は減っている。また、出て来るゾンビと言ってもスケルトンに近い姿だ。変な言い方だが、玉切れなのだろう。


 今回は、さしたる被害も無くゾンビ達を排除できた。これにより、侵攻阻止から10日後に祝勝会が開かれる事が本決まりとなった。得体の知れないモノを押し止めた事を祝して催される宴である。同時に行われる祝賀パレードは、嬉しい事に約62年毎に開催される恒例の儀式となっている。


 ゾンビ退治が首尾よく終わり、再び王都ドルードに平和と安寧秩序がもたらされると、祝勝会とパレードが行われる。祝勝会は、得体の知れないモノを首尾よく押し止めた事について、空中庭園で催される。また祝賀パレードは、人々が魔女達を讃えてその労に感謝する為に王都でパレードが行われるのだ。


 王国は、今回の侵攻阻止により祝賀パレードは10回を数える事となった。王都では様々な人々が立場の違いを超えて勝利を祝う。この日ばかりは、貴族も平民も無い。金持ちも貧乏人も関係ない。何故なら、得体の知れないモノを押し止めれ無ければ、死が平等に訪れる事を知っているからだ。


 パレードに参加する魔女達は、正装とされる黒のロングドレスに白いエプロン、手には杖か短杖を持つ。王都の人々が歓迎するなか、パレードの馬車が進む。王都の危機を救った彼女達には、一様に感謝の眼差しと拍手が送られる。


 大任を果たした魔法使い達のパレードは、ドルード北東の城門から中心部の王城まで向かう。人々が笑顔を見せ、子どもを肩車した親子連れが歓声を上げる。王都ドルードは祝賀ムードに包まれる。王城の発表によると、一目パレードを見ようと今回は30万を超える人々が集まった。これは、事前の予想を大幅に上回ったようだ。


 勝利の報が、王国各地にもたらされ規模は小さいものの各地で同様の祝賀パレードが行われ、魔女達の偉業が讃えられた。今回も、魔女達は王都ドルードを破滅の危機から救ったのである。クシャーナ王国の魔法使い達が尊敬される訳である。これには、合計で約200万人が参加したと思われた。


 王都では、国王陛下の主催により王城の空中庭園のある一階層をすべて祝勝会場としている。空中庭園は、晴れの場に相応しい。花も多く、彩があるだけでもより祝勝モードになるだろう。まさに勝利を祝う為の会場として申し分ない。そこでは魔法使い達と、2000人の招かれた市民達による華やかな祝宴が開かれた。


 祝勝会場の入口には、儀式に出た魔女達の名が書かれた花輪が飾られている。こうして彼女達一人一人がヒーローとなり名が知られるのだ。会場には、200メートルにも渡るテーブルが3列も置かれ、その上には大皿に盛られた食べ物や、飲み放題の酒や飲み物が並べられていた。


 アータシュ ・ラシュト・ドンヤー3世国王陛下は、失礼ながら齢5才の凛々しい男子である。今はその事については述べないが、王位に就かれるには紆余曲折が有ったと噂される。その幼き王が、叔父にあたる摂政閣下をはじめ、王族を引き連れて盛大な拍手の中に入場された。


 拍手の中、トコトコと歩む姿は愛くるしい子供であったが国王の威厳を備えている。聡明な陛下は、年若くとも王都ドルードの危機を、臣下と共に案じられていたと言う。皆、幼き子が、かような重圧に耐えて政をなしていた事に感心していたのだ。


 陛下は会場に用意された玉座に座られて、お菓子を口に頬張っておられたが暫くすると寝てしまわれた。幼き国王は、侍従にそっと抱えられて席を後にされた。それを見た参加者達は、笑顔を浮かべて王国の危機が去った事を実感していた。


 ※ ※ ※ ※ ※


 師匠のサクシは、王都の屋敷で考えていた。クシャーナ王国では、魔法使いは貴族か貴族相当として遇せられる。フラン王国、イル王国、ケドニア帝国しかりである。カトーの魔法の力は強大と言ってよい。カトーほどの魔法使いが、年若いとはいえ無位無官で有るとは考えにくい。弟子達の話を聞けば聞くほど他国の貴族で有るのは間違いない。


 得体の知れないモノを押し止め、光り輝く石造りの門に押し返せれたのも彼の助力が有ったこそだ。思い切ってカトー本人に尋ねると意外な答えが返って来た。仮に貴族だとしても、他国の貴族による力添えで問題を解決したとあっては、クシャーナ王国の面子が立たないだろうと言うのだ。それも一理あるが……。


 帰国途中であるし、耳目を集めたくは無いと言っている。確かに、王国は一枚岩ではない。未だに、国王派も反国王派も魔法使いを必要としている。カトーの強大な魔力量が知られれば、王国の為と言って力ずくでも留めようとする輩も出て来るだろう。当然のこと、拘束されるのはイヤだろう。どうやら、そこら辺が本音かもしれないな。


「それに、今は魔石が使えないので、癒しの魔法も使えないですしね」と驚くべき事を言っていた。それも、滅多に見られない虹色の魔石を使ったという。7、80年前、遠くフルの地で100個の魔石が出た事があった。それ以来、魔石が出回る事は極端に少なくなっている。いったい何処から手に入れたのだろう。


 ここ中央大陸では、極小の魔石でさえ見つける事が困難となって久しいのだ。だが、王国の高官の話によると、アレキ大陸では魔獣大戦のおり、魔石が大量に使われたらしい。ウーム。ムンドゥスのどこかには、今もまだ眠っているかもしれないな。


 現状、王家や軍でさえ、過去から伝えられた魔石の欠片を後生大事に保管しているのだ。それを年端もいかない少年が所持していて、惜しげもなく使用したのだ。身分を尋ねてもはぐらかされたが、やはり貴族と言うのは間違いではないだろう。


 祝勝会の名簿に名が無くても、本人は気にしていないようだ。むしろ功績を誇る事も無く、王都ドルードの散策に出ていく。3人の弟子達が順番に散策に付き合っている。行先は市場と道具屋だそうだが、王都のあちこちを廻っており、逆に目立たぬようにと気を使っているようだ。


 弟子が案内した空中庭園では、600年以上前に描かれた魔獣達を熱心に見ており、横の説明文を読み下していたという。加えて道具屋でも、使えない魔道具の説明書を見ていたという。どうやら、古語が読めるようだ。失われた古語が読めれば付与魔法の習得は早いはずだ。


 本人は気付いていないようだが、彼の魔法には理論的体系や学習がされたとは思えない。おそらくだが、魔法使いの師匠や学園などの教育機関にも縁が無いようだ。基礎となるものが歪だ。そうだとしたら、付与魔法が使えるまでになるのは難儀するだろう。さり気なく聞いてみたら不思議な事に、魔法が突然、使えるようになったかのようである。


 ウーム、伝説の魔法の巻物でも使ったとでもいうのだろうか。上位の魔法使い達に、どうやって説明したものか……。転移事故で飛ばされたというが、それほどの魔法が使える者だとは……。ひょっとしたら、少年の姿は仮の物で、名の有る魔導士が化身しているのかも知れない。


 そうか! 私の知らない化身の魔法か! あり得る話だ。だとすれば、かように気を使われては、頼まれた魔道具製作方法を教えない訳にはいかないだろう。だが、魔法を極めた魔導士にしては、付与魔法が使えないなど矛盾が多いしおかしすぎる。


 何にしろ魔法を数多く使いこなし魔力量も多い。確かに才能豊かな魔法使いなのだろうが、あまりにも歪だ。偉大な魔導士が少年に化けているとは……。私の考えすぎかもしれないな。魔法など、使えればイイヤという事なのだろうか? それに属性情報にも疎いようだ。


 魔法と言うものは、属性に合わせて上手く使えば、1.5倍にはなると言われる。そこは豊富な魔法量で済ませている感じがするし……分からない事ばかりだ。


 だが、いずれにしても、得体の知れないモノを押し止めれたのは、彼のおかげだ。魔石まで使ったのだ。厚く礼はせねばならないな。


「弟子達によれば、カトー殿は付与魔法と魔道具について調べておられるとか」

「エェ、そうです」

「私が出来るのは初歩的なものなのです。それでよろしければ、ご教示させていただきますが」

「ハイ、よろしくお願いします」


 ※ ※ ※ ※ ※


 今日は空中庭園とも言われる巨大な王城の一室に向かっている。クシャーナ王国の魔法使いとして、かなりの地位にあるサクシさんは、貴族地区に屋敷を構えており、王城内には研究室? を持っている。もちろん、専用の馬車による移動である。そこで付与魔法と魔道具道具のノウハウを教えていただくのだ。


 サクシさんが、長机を前にして話し出した。なるほど、確かに実践も必要だが、元となる理論も必要である。学生の頃の少し思い出した。という事で、1時間目の始まりである。尚、3人の魔女達も、基本は大事だから復習してきなさいと言われて同席している。


「では、魔道具の作り方の説明をさせて頂きます」

「お願いします」

「今回は付与魔法と魔道具道具についてです。私が作った事のある魔道具は、火魔法と水魔法の魔道具です」

「2つあるんですね」

「エェ、火魔法は簡単な発火具。水魔法は水が出て来る物です」

「凄いんじゃないですか?」

「そうですねぇー。残念ですが、そんなに凄い物じゃないんですよ」

「ン? どうしてですか?」

「魔力を流している時だけが使用可能なんです」

「じゃ……?」

「そうです。魔法使いしか使えないんです。で、魔法使いは火魔法や水魔法が使えるんですよ」

「なんか矛盾していません?」

「そうなんです。魔力が溜めれれば良いんですけど」


「付与魔法と魔道具と言うのは密接な関係が有ります。表裏一体と言っても良いですね」

「やっぱり、そうでしたか」

「エェ、魔道具と言われても道具の一つです。道具と言うのは誰でも使えなければなりません。もちろん、道具の使い方に上手い下手は有るでしょうけど。普通の人というか魔法が使えぬ者の為に魔道具が有るのです。

「そうですね」

「基本、魔法使いなら得意不得意は有るでしょうけど火、水、風魔法等を使えます」

「となると」

「マァ、魔法使いにとっては魔道具はいらないかも知れませんね。ですが、昔の魔法使いは多くの魔法が使えましたが、今では魔法が使えても5種から6種が普通です。必要になる時が来るかもしれません」


「先ほど述べたように、本来は魔法が使えない者でも、魔法使いと同じように道具に付与された特定の魔法が使えて成功しなければなりません」

「確かに、言われてみればそうですね」

「それも、火魔法の魔道具でしたら、何千回、何万回も使えなければいけません」

「確かに、それなら便利な魔道具と言えますものね」

「かといって、便利な所ばかりでは有りません。どんな優れた魔道具でも使用回数が有るんです。魔力回路の中に魔力が収められているんです。今回は詳しくは触れませんが、魔石も同様の働きをします」

「なるほど」

「で、ご存じだと思いますが、使用回数が終了した魔道具は、使えないのでゴミとは呼べないようなゴミになります。エェ、値段の高い物でしたから、先祖代々のお宝として貴族や金持ちの商人は、家宝として残していますけどね」


 600年も経てば高価だった魔道具だからといって、使えれなければ価値や由緒由来が忘れられる事も有るだろう。イル王国で出来の良い魔道具を手に入れれたのは幸運だったのだ。おそらく、クシャーナ王国と違い、魔法が使える者がほぼいないので使えなくなったガラクタ同然の骨董品としか思われなかったのだろう。


「骨董品として道具屋に置かれているのは、壊れているのが歴然としている物か、量産されて数が多いし魔力切れを起こしているので価値が低いと思われる物ですね」

「そうかー。それで、道具屋が売っていたり、趣味人が収集したりする訳ですね」


 マァ、なんにでもコレクターというのは居るという事だろう。一般人にとってはゴミの様な物でも、本人にとっては価値あるお宝と言うのは分かる気がする。


「これは、魔石や魔力回路の中の魔力が切れたのでゴミになりますが、魔法は付与してあるので魔力さえ補充されれば、壊れていなければ魔道具として再生されるはずなんです」

「そうなりますよね」

「中には再生可能な物があるかもしれませんよ」

「ウン、ウン。やっぱり、そうですよね」


 クシャーナ王国では、魔法が使える者も多い。そこそこコレクションとしての需要があるのだろう。だとするとイル王国のように、当たりの魔道具は使えなくなったとしても高いかも知れないな。少し考えておこう。


 ※ ※ ※ ※ ※


 2時間目は素材の講義である。この部屋には砂盤では無く、黒板の様な薄い石の板が台に乗せられて置かれている。なんと、そこには貝殻を焼いて作ったチョークの様な物がある。地球では、ホタテの貝殻や卵の殻が使われているそうだが、必要は発明の母と言う処だろうか。


「まずは、魔道具を作るのに必要な道具を揃える処からです。え、そこからなんですか? と思うかもしれないけど、基本は大事です」。

「確かに」

「魔道具の作り方を簡単に述べると、先ずは元となる素材、付与魔法による魔力回路内の魔力、いわば魔量が必要です。この場合は魔石と言い換えても良いでしょう」

「なるほど」

「魔力回路の構築。つまり呪術付与には素材が必要となります。すぐ手に入るような素材、例えば子供でも集める事ができるカエル・ムカデ等などですね。コウモリの目玉は少し難しいかも知れませんが」

「そんなのが素材になるんですか」

「エェ、いずれも初歩的な付与魔法に必要です」


「望んでも手に入れられないドラゴンの牙やウロコ、妖精の涙、魔石等は別として、たいていの物はお金で求める事が出来ます。効力が落ちて、手間はかかりますが代替品も有りますしね」

「ホー」

「実際、王都ドルードには、その種の問屋もありますし、色々な産物が集まって参ります。動植物の一部や、珍しい鉱物などは購入した方が早いですね」

「では、お金さえ出せば魔石も手に入るのでしょうか?」

「どうでしょうねー。元々、希少な物ですし、有ったとしても王家や軍が優先的に購入してますね。ですが、無い訳では無いようです。フルの地では偶に出るという話を聞いた事が有ります。もっとも、数多くの魔石が出たと言うのは、私のお師匠の時ですからね」

「そうですかー」

「アァ、魔獣大戦の時に、多くの魔石がアレキ大陸で使われたそうです。思うに王家の秘蔵品だったんでしょうかねー。クシャーナやイルでは、もう出回らないと言っても良いかも知れません」


「話を戻しましょう。魔道具製作で、注意しなくてはならないのは時間帯について。一日が27時間と言うのはムンドゥスの全域で変わらないけど、気にするのは昼と夜の事です。つまり陽の光が必要な魔道具と、闇の力が必要な魔道具と別れているのです」

「ホー」

「季節によっては陽と闇の時間が違ってきますから、付与魔法の効果が最大になるように考える事。これが凡ミスの原因となる事も有るんです。魔力付与の日に、月からの橋が出てる出ていないを気にする魔法使いもいますけど、私はあまり気にしなくても良いと思っています。その分、時間帯に気を付けた方が良いと思いますけどね」


「似たような事だけど、素材の採取時期も重要になってきます。5の月から7の月に開花した花と、12の月から15の月にしおれた花とでは同じ花でも違いますから、季節も考えて採取して下さいね。自分で採取出来なかったり、品質が気になったりしたら、魔法素材の問屋に頼む事。有料だけあってその点は、しっかりしていますからね」


「この子達が作っているポーションはエナジーポーションがほとんどです。魔法薬とされていますが、素材+魔力パワー増し増しと言う処ですね。一応、王都でのゾンビ対策の為、教養としてゾンビパウダーも教えてます。素材には、すりつぶした人骨・アマガエル・ヒキガエル・ゴカイ・フグを使うんですが、これはという上質の毒が中々手に入らないのでね」

「へー」

「ポーションを作成するには、まず清らかな水が必要です。これをベースに特定の魔法を付与する事で作り出します。下級品から上級品までと様々ですが素材に左右されます」


「で、ポーションはご存知の通り振りかけたり、飲んだりする事で効果を発揮します。誰でも使用出来きますが、使い切りタイプの品物です。普通は量り売りなどせずに、小瓶に入れて販売します。半分ほど王家に納める事になっていますが、余剰分は販売して研修センターの運営費や素材の仕入れ費用に使っています。また話が逸れましたね。すみません」


 ※ ※ ※ ※ ※


 3時間目は付与魔法の講義と実践である。初心者向けの魔道具を作るという事だが、そんなに簡単に作れるのだろうか?


「魔導書には作業の仕方が一通り書いてあります。分からない所は、師匠や先輩に教えてもらったり、もしくは自分で調べたりする事となりますね。今回は、目に見えやすい水魔法の短杖を作ってみましょう」

「魔法が使える者が使用する魔道具なんですね」

「エェ、理論的には付与魔法で魔力回路が構築され、魔力が保存されれば魔道具となります。私では無理ですが、上位の魔女達なら魔力を保存できる魔力回路が作れるという事ですよ」

「ホー」

「もっとも、その能力は魔石入りとは比べれませんが」


「それでは始めましょう。用意するのは、ヤドリギかオークの枝ですね。出来れば永遠の力と言われるヤドリギが良いです。ヤドリギは水を吸い上げる力が弱いのですが不思議ですね。使えない事は無いけど、オークも使えます。ですが心材が堅いので本来は火魔法や土魔法向けですけね。アァ、ニワトコとネズの木は薬効のある木ですけど、短杖には不向きですね」


「先ず、ヤドリギの枝を削り出して短杖の形にします。ヤドリギは長い枝が取れませんから短杖向きですね。杖の柄には、相性の良い宝石をはめ込んだりして魔法の強化を行う時が有りますが、よほどの石で無いと威力向上はありません。お値段も高いですしね。柄には魔法陣を刻んだり書いたりしても威力の向上が出来ますよ」


「とは言ってもアレキ文明の頃は、魔力回路中の魔力と魔石を併用するのが一般的でしたから威力では比べ物になりません」

「フーン」

「魔石は市場に出回る事は非常に稀になっています。新品の魔石入り短杖はまず見つからないでしょう。中古品でも使用出来る魔石入りの短杖は、非常に珍しく高いですね」

「やっぱり」

「魔動具には魔力許容保有量と言う厄介な物が有ります。600年以上前の物が多いですからね、魔力を消費してしまって使えない物が多いんです」


「短杖の形が出来ると、次は呪術付与ですね。魔力を付与して魔力回路が構築されて、初めて魔道具となります。呪術付与はそれぞれの個別魔法を作るのとほぼ同じで、適正な出力の設定が必要です。高度な魔道具には、例えば火魔法の魔道具なら、種火から攻撃火魔法が使えるようにした出力調整スイッチなんかが付いているのも有りますね」

「フーン」

「適性のある魔法使いはともかく、魔力の無い一般人には使えません。それに魔石入りの短杖と違い、魔法使いの魔力量によって左右されます。また魔力切れ等にも注意しなければなりません。それでも使われるのは短杖には魔法の威力を増幅して性能の向上が有るからです」

「どのぐらい上がるのですか?」

「指向性の魔法の場合3から4倍、良く出来た物なら5倍の物が有ります。自分の出せる能力の5倍の威力となれば、使わない訳には行きませんからね」

「そうですよね」

「短杖は複数回使用出来ます。短杖は魔術を使用回数分発動するとその力を失い、宝石の付いた短杖になります。製作者、上位の魔女のことです。魔力回路作成レベルによりますが、高級品でも火つけ石の様な低い威力なら2000回。先ほど述べた強力な物ならから10回ぐらいでしょうか?」


「この手の短杖は、使用者が発動呪文を唱えさえすれば使用可能です。発動までの時間は規模にもよりますが、実際の魔法と同じぐらい時間がかかると思います」

「アノー、僕は時間がかからないように無詠唱なんです。ただ思うだけで発動するんですけど」

「そうなんですね。カトー殿は実戦的な魔法スキルなんですか。その上、魔法発動までのタイムロス無しですか。そうですか……。戦闘型の上級ファイターでしたか」

「そんな立派なものではありませんけど」

「アァ、それから付与魔法に失敗した時には、再呪付を行う訳ですが熟練度によって左右されますから、初心者はなるべく慎重に作業しましょう。初心者でなくとも火魔法の付与や素材を間違えると、思いもしない爆発物が出来たり、もしくはユクタのように爆発したりする事も普通にありますからね」

「エーン。お師匠様、すいませんでした」

「本当に反省してますか? この話は時々思い出して下さいね」


「それで、呪文を描く時は牛の血を使うのが一般的ですね。でも、血を取る為だけに牛を殺すのはもったいない。なので量さえあれば、少しだけ傷付ける程度で十分です。豚の血を使うのはお勧めしないけど、大猪なら良いかも知れません。呪術文字はアレキ文明の語を使ってますから、チャンと勉強した方が良いですね」


「魔道具には、短杖に枝が必要なように適切な器が必要です。器には様々な物が選ばれます。剣等の武器や鎧の様な防具、指輪やネックレスの様な装飾品、水入れや発火石等の道具等と付与が可能であれば無限とも言えます。マァ、回路の設計に苦労するでしょうけどね」

「ヘー」

「後、魔道具には使用方法についての文を添えておく事が必要です。通常、この文にはアレキ文明の言語が使用される事になっています。魔道具が、一番作られた時代ですからね。で、600年前のアレキ文明の言語が必修となります。呪術文字は勉強すれば誰でも読めます。勉強して下さいねー」


「長々と失礼しました。では、素材の短杖を手に持って下さい」

「ハイ」

「付与魔法は魔道具製作には欠かせません。弟子達がポーションを作っていますが、ポーションもある意味で魔道具と言えます。応用ですよ。では、付与魔法を使ってみましょう」

「定型魔法呪文を唱えて下さい。ア、失礼。カトー殿は無詠唱でしたね。」

「ウーン」

「いまいち、上手く付与魔法が使えないですね。カトー殿の魔力量が多すぎて、アツアツのステーキを手掴みで食べるような物かも知れませんね」

「意味が良く分からないんですが?」

「そうですか。まず、ご自分の魔力の流れを感じて下さい。感じたらそれを操作します。多い少ないより、乱れないようにコントロールが大事です」

「……」

「基本的には定型魔法と同様に、魔力コントロールが使えれば……出来るんですけどねぇー。では、魔法属性を考えながらしましょう。……上手くいくはずですよ。フム。……マァ、誰でもすぐには出来ません。時間をかけて練習すれば良いでしょう」


 お師匠サクシさんは優しい人だ。サクシさんの話では付与魔法は一朝一夕にできる訳では無いらしい。3人の魔女達も、1年近くかかってモノにしたそうだ。ボチボチやって行けば良いのだろう。


 ※ ※ ※ ※ ※


 今日も今日とて、王都ドルードでお買い物である。市場を巡ってから、魔法の素材問屋に立ち寄るつもりだ。さすが、王都である。魔法素材問屋が3軒ある。問屋巡りは中々楽しい。クシャーナ王国は、他国より魔法使いが多い。その数はムンドゥス1であると言われる。消費が多いので素材も必要とされる、という事だろう。


 王都で素材の購入する者の多くは一般魔法使いである。それも大半は、初級コースを学んでいる学園の生徒と言われる。生徒という事で授業や自習で使用する商品が多く、購入する素材の種類も限られてくる。パーシャー学園からほど近くにある、素材問屋ヘダーヤトと、やや離れたディーナーはそんな品を扱う大型店である。


 両店舗とも授業で使う素材や研究者用の素材を扱っている。もちろん、小売りにも対応しているため、気軽に入店できるし学園の生徒には割引制度も有る。素材のほか、呪術具などの道具や魔法使い用の装備の販売もしている。


 ヘダーヤトでは徳用魔法使いセット(11万デュラム)のように手頃なものから、定番品や変わり種などを詰め込んだオリジナル魔法使いセット 大(200万デュラム)まであり、予算や希望に応じて対応してくれる。


 一方、ディーナーは店内に常時1000種類の素材が用意されており、素材を全て把握する魔法コーディネーターが在中している。素材選びから完成までサポートしてくれるため、初心者にはお勧めである。


 両店とも、オリジナルの素材も多数販売しており、魔法の幅が広がる事だろう。また、商業ギルドの郵送便で王国全土から購入が可能である。


 そして最後の一店は貴族地区にあり、長い歴史を持つ魔法素材問屋ファルザーム(賢者)で有る。この店は、特別な素材が多く上級者向けである。素材は一つ一つが店主によって選ばれており、高品質の手作り品が多い。店主自らがカゴを持ち、素材を1本または1個ずつ選ぶスタイルは、なかなか見る事ができない体験となるだろう。


 尋ねれば、素材の詳細や使用法を丁寧に説明してくれる。当然、理解する魔法レベルは必要であるが。専門問屋ならではの厳選された素材の品質や、長い時間をかけて素材を販売してきた姿勢は素晴らしい。要チェックの店である。


 以上、色々述べてきたが、今はそのファルザームに向かっている。案内役のリディさんは素材の仕入れ担当なので、王都での素材問屋も利用している。ファルザームは一番小さいが、知る人ぞ知る店との事だ。上位の魔女達やお師匠のサクシさんも贔屓にしているそうだ。


 そんな話を聞くと、そう思えるような由緒ある構えに見えてくる。ちょうど店主と思われる魔女さんが、陳列棚のホコリをハタキで掃っていた。他の2軒と違い、大通りからわざわざ一本入った道の中ほどにあり、何となく入りづらそうな店である。幸い、リディさんと一緒なら、一見さんお断りとはならないだろう。


 ※ ※ ※ ※ ※


 私の店は、入店すら難しいらしいとの噂が有る。まったく不本意な事である。どこかの町と同じ、一見さんお断りにしているだけだ。もっとも、これには訳が有る。王国最古の素材問屋と言っても、高級素材は入手量が少ない。私も先代たち同様に、金に飽かせて集める収集家より、これでなければと言ってくれる魔法使いに売りたいのだ。


 素材問屋にとって、一時的な儲けよりも内容を重視したいのだ。いわば、必要としている常連客が優先されるべきなのだ。元々、扱う商品が魔法使い向けである。限られた店舗面積だし、限られた数量しか入荷出来ない。一見さんお断りと言うのは本当に必要な者に届ける為でもあるのだ。


 しかしながら、最近では独特な雰囲気が評判を呼ぶのだろうか? 魔法使い以外の者や投機目的の商人に目を付けられる事も有る。近年では、観光に訪れる素人も来る。素材問屋と言うのは、次代、次々世代の魔法使い達の為にあるのだ。第一、魔法使い達が使い物にならなければ、得体の知れないモノを押し止める事が出来ないだろう。


 カエルやムカデ、コウモリの目玉の様な低価格品でも、変わる事のない品質を提供し続けなければならないのだ。価値をわかる人は分かるのだ。一時のブームの為に店を拡大し、売り物を増やす意味はない。そもそもドラゴンの素材など、入荷するかというよりも、有るか無いかも分からないのだ。


 一概に素材と言っても、用途によって向き・不向きがある。時には相談を持ち込まれる事も有るが、話を聞いて量販店での購入を進める時も有る。多くの種類の素材の中から、探し出すのはそれなりの根気と目的が必要だ。


 アァ、あそこなら置いておるかもしてないという店になるようにと、代々の店主である魔女様達が仰っていた。良品を扱っていれば意外と結果が付いて来るものだ。と代々の店主が言っても魔法使いも少なくなってる。やはり売り上げが下がるのは事実だ。困った事に、うちで扱うような魔法素材は、薄利多売が成り立たたないのだ。


「こんにちはー。ドルリさん」

「エーと、あなたは確か……。そうそう、サクシさんの所のお弟子さんでしたっけ?」

「ハイ、御無沙汰してます。リディです」

「東にある研修所。ダマーヴァンドの森でしたか。ようこそ、いらっしゃいました」

「ありがとう。覚えていてくれたんですね」

「イエイエ、いつも、お買い上げいただきありがとうございます」

「こちらこそ、お世話になってます」


「で、今日は?」

「エェ、連れの魔法使いが素材や魔道具を見たいというので」

「カトーと言います。よろしくお願いいたします」

「ご丁寧にどうも。店主のドルリ・ブーカーンです。しかし、素材はともかく、魔道具はねー」

「そうですよね」

「リディさんも、困らせないで下さいよ」

「私も、使えなくなった魔道具でも高いし、数も無いと言ったんですけどね。それでも良いから見たいと言うもんでね」


「エェ、それはそうなんですけど。実は僕、使える火魔法の魔道具を持っていまして」

「エー! 持っているの? ユクタから結界装置の事は聞いていたが、他にも持っているとは初耳だね」

「すみません。内緒にしてました」

「確かに、貴重な物だから隠していてもおかしくないけど」

「それで、持って来たのは短杖なんですけどね」

「それは珍しい。是非、見せて下さい」

「これですけど」

「ホホウ! 火魔法の短杖は使い勝手が良いので、有るようで無いんですよ」

「これを売って、使えなくなった魔道具を買おうかなと思うんですけど」

「そうなんですか。持っても良いですか?」

「もちろんです」


 所持金は、10万デュラムほど市場で使ったが、まだ100万デュラムほどある。日本円なら150万円ぐらいだが、魔道具を売れば資金に余裕が出来るはずだ。イルでは、魔道具の水差しを300万ルピーで手放したが、アヤンさんによれば一個3600万ルピーでも売れただろうという事だ。


 クシャーナ王国との交換レートは、2デュラムが1ルピーだそうだから仮に3000万ルピーで売れれば6000万デュラム。魔道具1個で、5000万ぐらいと思っておけばいいだろうか。


 サクシさんの話では、使えなくなった魔道具とはいえ、イル王国の相場より高い売値が付いているそうだ。お店には、在庫も有るようだし、なんなら交換としても良い。壊れているのも有るだろうが、魔力切れの物が多い感じだ。1個を手放して、複数の魔道具を入れる。何だか、交換する度に儲けているような感じで、わらしべ長者みたいだな。


「では、お預かりして査定します。1個ですから、さほど時間はかかりません。よろしければ、陳列品を見ていて下さい」

「エェ、お願いします。やっぱり、鑑定魔法を使われるのですか?」

「ハイ、鑑定魔法を使えるというほどの事は有りませんが、そこそこは」

「なるほど」

「素材問屋は仕入れが肝心。偽物を持ち込まれる事も有りますしね」


 ※ ※ ※ ※ ※


「うちに有る使えなくなった魔道具は、このぐらいですね」

「結構有りますね。見させていただいても?」

「どうぞ、ご覧ください」


 目の前の机には11個の道具が置かれている。魔法使いが魔道具収集の趣味を持っていても、そんなに不思議では無いだろう。もちろん、勧められた素材も少し購入するつもりだ。


 1個ずつ手に取って見たが、動くかどうかは分からないし、身に付ける訳にもいかない。値段次第かな? イルでは1個10万ルピー(20万デュラム)で売られていたのが多かった。火の魔道具は予想より多い7000万デュラム。お金は十分ある。ちなみに魔力回路の中に、魔力がフル近く入っていたのでこの値段だそうだ。


「ここに有るのは、いかほどでしょう?」

「50万デュラムから80万デュラムの物が多いです。珍しい物は200万しますし」

「少しお高いのでは?」

「そうですかね。クシャーナ王国では使えなくなった魔道具とはいえ、魔道具ですからねぇ。魔法使いの中には趣味として魔法関連の物を集める者が多いので、そこそこ需要が有るのです」

「なるほど、そうですか。魔法書なんかは有りますか?」

「残念ながら、うちでは扱っていません。王立図書館か専門書店で見る事は出来ますが、売り物は無いと思いますよ。もちろん、閲覧には地位とお金が必要ですからね」

「そうですか」


「では、こちらの品をみな頂きます」

「エ? 今、なんと?」

「使えなくなった魔道具を、全部頂きますので値段を決めて下さい」

「それは……、ありがとうございます」


「火の魔道具代金から差し引かせていただきましたので、5900万デュラムをお渡しします」

「承知しました。では、それで」

「ありがとうございます。今、商業ギルドの換金手形を切りますので、少しお待ち下さい。お買い上げの品は、リディさんの品と一緒にサクシ様のお屋敷にお届けします。よろしいでしょうか」

「ハイ、お願いします」


 2人を送り出したドルリはホッと一息ついた。どうやら、この火の魔道具で店が続けれそうだ。代々の店主が仰っていたように。良い物を商いしていれば、精霊様が何とかしてくれると言うのは本当のようだ。


「カトー、商業ギルドへ寄っていくかい?」

「良いんですか?」

「ついでだし、近いからな」

「すいませんね。お昼ご飯おごりますよ」

「フフッ。ならば高級店に行かないとな」


 ※ ※ ※ ※ ※


「サクシさん、哲学者の石というのは何でしょうね?」

「ン?」

「昼間、リディさんに聞いたのですが」

「そうですか。哲学者の石ねー。私も詳しいという訳ではありません。明日、お師匠達に会いますので聞いてみましょうか? それからで良ければお話しましますが」

「エェ、お願いします」


 ※ ※ ※ ※ ※


 私も、国王派には魔法が使える者がまだまだ必要だと思っている。3人の上位魔法使い、デラーラーム、デルバル、デルカシュ、様達は国王派だが、儀式での恩もあるしカトーを拘束してまではとは考えていないようだ。問題は摂政閣下だな。閣下は、カトーが相当な魔法使いだと思われるだろう。手に入れば喜ばれるのは間違いない。


 だが、手にいられなければ、どうなるだろう。反国王派に捉えられて利用されるぐらいなら、いない方が良いと思われるかも知れない。ひょっとしたら、反国王派より危ないかも知れないな。


「サクシよ。もうそろそろ、摂政閣下のお耳に入れないと」

「限界ですね」

「摂政閣下に知られればカトーは……」

「言わずと知れた事だ。魔法使いだけでなく、人を隷属させる禁忌の術があるからな」

「だが、我らとて恩義は感じておる。せめて、気づかれる前に逃がしてやれ」

「アァ、恩に報いるのだ」

「そうですね。それが良いですね」

「ところで、話と言うのはカトーが尋ねたという賢者の石の事だったな」


 ※ ※ ※ ※ ※


 錬金術は、鉛や錫等の卑金属を金に変える事が出来るとされる。で、賢者の石は、錬金術師が金に変える際の触媒になるとの事である。金への変成が出来れば富を無限に増やす事が出来る。賢者の石と言うのは、四大(土・水・火・空気)原物質を精錬して出来る純化した霊薬? らしい。石なのに? 


 そう言えば、テレビ番組で見た事が有る。賢者の石と言うのは架空の物質かも知れないが、物理学者アイザック・ニュートンが興味を持っていたらしいし、中国では仙丹とも言われていたんじゃないかな。マァ、某国民的ゲームでは、賢者の石と言うのは、HPを回復させる優れものとして登場するが、化学ぽっさを纏ったオカルトと言える。


 ここムンドゥスでは、話として残っているので存在しているかもしれないそうだ。哲学者の石と賢者の石とは、属性が違うそうで別物だそうだ。まったくの別物という訳では無く、せいぜい従妹ぐらいの違いであり、引き出す力が強ければ使えるそうだ。もちろん、その分、効力は落ちるらしい。魔法の使い手に左右されるという訳だ。


 万病を癒し不老不死を与えるとされる哲学者の石であるが、実存を確認された訳でも無く、作用についても不確かな事が多い。単なる空想の産物にすぎないかも知れないと思っていたそうだ。思っていたか……。言葉は濁されたけど、上位の魔女は使われたのを見たような雰囲気だったという。


「普通の魔石は、属性を備えた魔力の容器ともタンクとも言われます。これは良いですよね」

「ハイ」

「心して聞いて下さい。良いですか? 哲学者の石と言われる物は、アレキ文明期最盛期の最高位の魔石で、時間属性を使う時の魔法用で虹色の魔石の事だそうです」

「時間属性で虹色ですか……」


 思っていたのと少し違うらしい。お話によると賢者や哲学者は、長い年月をかけて見識や学問を積んで、錬金術が使えるようになるらしい。イヤ、なる事が有ったらしい。何分にも600年以上前のアレキ文明最盛期の話である。しかし、虹色の魔石かー。遺跡都市メリダの部屋から持ち出した憶えがある。イリア王国に帰ればまだまだあるし……。


 魔法を極めた最終段階の賢者や、哲学者のみが行える魔法だそうだ。虹色の魔石でなくても良いが、その場合は魔法の効力はかなり下がるらしい。その魔法は、人を若くし、病気やケガを癒すそうで癒しの万能魔法であると言われたそうだ。


 具体的に言うと、その対象の生命体(例外もあるが多くの場合、人間のみに有効だとされる)の自然の治癒力を引き出すものらしい。それだけでなく、時間属性を持つ事により、気力や体力をその対象の全盛期に近づけるらしい。これって癒されて蘇るという事だよね。


 ※ ※ ※ ※ ※


 僕は、薄々だが「知っていても言わない」の状態であるのかも知れないと思っている。癒しの魔法が発動し、得体の知れないモノを押し止めた。上位の魔女達は気が付いているだろうが、何も言わないし言われない。そして、お師匠のサクシさんは、リディさんから話を聞き出したらしく、少し前から何事か思い悩んでいるようにも見える。


 3人の魔女には、講義後も王都に滞在するように強く引き留められたが、サクシさんは無理を言わないようにと諭してくれた。多分、サクシさんは何か知っていて、この国から出るようにそれとなく誘導しているんだろうか? 


 だとすれば、恐れていた通りだ。悪い勘ほどよく当たるらしい。クシャーナ王国もイル王国の魔法使い達も、魔道具に魔力の充填は出来ないらしい。依然聞いた通り、魔力タンクだけも拙いだろうが、魔力充填が出来る事が知られればかなり拙い事になる。


「これは、表立って言えない事なのだが、カトー殿の魔力について話が出ているらしい。近いうちに王城に呼ばれるかもしれません」

「僕をですか?」

「エェ、優秀な人材ですからねぇ」

「そ、そうなんですか」


 3人の魔女達やお師匠のサクシさんは良い人だが、良い人と思っても国家的利益の前にはあがらう事は出来ないだろう。帰国途中とは言ってあるから、日を区切ってサヨウナラをしよう。知られる前に別れれば、お互い気まずい事にはならないだろう。


 付与魔法を成功したい気持ちは有るが、イルの冒険者ヴィハーンさんが言ったように、魔力充填機となって一生飼い殺しになるのはご免である。市場でタネの購入も済んだ。素材屋で動かなくなった魔道具を仕入れれた。


 王都ドルードでも魔導書を売ってはいるが、イル王国と同じで途方もない値段である。先日までは先立つものも無かったので閲覧する事が出来なかった。という事で赤い指輪も役には立たない。時間をかければ、王立図書館と言うのも有りだろう。だが、帰国途中だ。そこまでの時間は作れない。


 サクシさんが付与魔法と魔道具の講義をしてくれたし、哲学者の石と癒しの魔法の関連性が分かっただけでも目っけ物だ。潮時だと思う。


 お師匠のサクシさんのお屋敷からは、空飛ぶ絨毯馬車型で出て、人目のない郊外から飛び立つ事にした。仲良くなった3人の魔女さん達は、別れを惜しんで引き留めてくれたが、そうもいかない。お師匠のサクシさんも残念そうだったが、何か気になる事が有るようでホッとした仕草を見せていた。


 買い足したタネや、骨董品の魔道具と素材で、荷物は木箱で3個となった。空飛ぶ絨毯なら、移動中の食料等を積んでも余裕で運べるだろう。これぐらいなら台車で運べそうだ。イヤ、この世界の人達なら、背負子で運べるかもしれないな。


 ※ ※ ※ ※ ※


 クシャーナ王国の王都から帰国の道は二手に分かれる一つは王国の北東部の山岳地帯を通り小王国経由してフラン王国に入る道。今一つは、王都より南西に向かい港湾都市ビールジャンドから、海路となってフラン王国の港コブレンツを目指すものである。


 季節は冬の入口だ。寒いのはイヤだし同じ冬でも南の方が暖かそうだ。中央山脈で起こった転落事故はトラウマである。あれは、もういやだ。今回は、海路を選ぶ事にしよう。取り敢えず、目指すのは南南西にある港湾都市ビールジャンドである。直線距離で700キロほどになるそうだが、天気が良ければ2・3日で行けるだろう。


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