表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
癒やされたいキャンパー。異世界を癒やしに行く。  作者: カトー
第19章 中央大陸
184/201

184 王国の魔女

 ※ ※ ※ ※ ※


 空飛ぶ絨毯5号機を回収して、魔女の家を目指している。20キロほどだと聞いたから、飛行時間は1時間で十分ある。確かに村からの往来もそこそこ有るのだろう、道は分かり易く馬車や荷車が通った轍が見える。後3キロほどという所で、空飛ぶ絨毯から降りる事にした。


 これ、あんまり見かけない物だし、状況によるけど手の内はあまり明かさないようにしないとね。という事で、村の雑貨屋で手に入れたリュックサックの様な荷物袋を背負って魔女の家に向かう事にした。このリュックサックの中には、半分ほど回収できたタネと魔法書の残骸が入っている。


「あそこが魔女の家かな?」


 魔法使いの家というよりも、多人数が泊まれるような研修所の大きさと聞いてはいたが、日本にあれば森の中にある大き目なペンションである。意外とこじゃれた外観をしており、築年数もさほど立っていない感じがする。物語に出て来るような、暗い森に住むと言う魔女の家とは大違いだ。


 さて、同業者と会う訳だが、いきなり魔道具の作り方を教えて下さいと言っても本気にされないだろうし……。おまけに見た目は子供だし。ウーン。悪くすれば追い出されてしまうのがオチだろうなぁ。……では、少しハッタリの効く魔法を見せて、魔法使いだと信じてもらうしかないな。


「こんにちはー」

「ハイー。待って下さいー。今行きますー」


「お待たせ。どちら様?」

「こんにちは。僕、魔法使いやってまして、少しお話を伺いたいと……」

「だれ? エ、本当に魔法使いなのか?」

「エェ、嘘ではありません」

「フーン」


「魔法をご覧いただけば分かると思います。アァ、あそこの斜めに陽が差し込んでいる所が良いですね。付いて来て下さい」

「ウン」

「じゃ、この右手指先と、左手を見ていて下さい。いいですか?」

「よし、分かった。魔法とやらを見せてもらおうか」

「行きますよ。先ずは、水魔法です。空中に散水して小さな虹を作ります」

「ホー」

「シューとね。両腕を広げて、水分を霧状にするのがコツなんですよ」

「オォ! なるほど、確かに虹が出来ているな。奇麗では有るが、これだけではなー」


「そうですか。では次は花火の火魔法です。少し離れて下さい。良いですか?」

「アァ」

「1、2、3。行きます! シュルシュルとボーンとね」

「ホー。中々だ。昼間だから何だが、夜だったら奇麗だろうなー」

「恐縮です。マァ、こんな風に魔法が使えます。もう一度、見ますか?」

「良いのか?」

「構いません。行きますよー。シュルシュルとボーン」

「ワォ! さっきより大きいぞ」

「玉屋ー。まだまだ、もう一回。行きまーす!」

「オォ、そうか」

「1、2、3。ボーン。シュルシュルと。こればおまけですよーと。ボーン。鍵屋ー!」


「ホー、昼間でもあれだけハッキリと見えるとは。実に、たいしたもんだー。気に入った」

「他にもスターマインと言う種類が有るんですけど、それはまた今度という事で」

「そうか。残念だな」

「楽しんでいただけましたか?」

「ウン。あれは発動の呪文なのかー。確かタマヤーにカギヤーだったと聞こえたが」

「あれは、無事打ち上がって良かったと言う、感謝の呪文です。日本語ですけどね」

「フム、日本語とな? 聞いた事が無いな。……マァ、良い。魔力量は十分だ。少し若いようだが、この際構わんな」

「何の事でしょう?」

「だが確かに見たぞ。そうか、そうか、そうなんだー。フーン」

「ン?」

「なるほどなー。良し決めた。中に入ってくれ。ちょうど今一人なんだ。寝室に行くか」

「エェ?」

「こっちだ。いくら私でも、ここでと言うのはチョットなー」


 話に聞いた魔女の家を訪ねたら、20才ぐらいの女性が家に招き入れてくれた。そればかりか、2階の寝室に連れていかれたのだ。これって歓迎というレベルじゃないよね。絶対、誘われているんだよねー。夢じゃないよね。部屋に入ると、白いエプロンと黒いドレスをパッパッと脱いで、下着姿になっているんだ。


 そんな方が、下着の上を取って上半身裸で、なんとヒモパン一つでベッドに向かってゆっくりと歩いているのだ。肌も露わな妙齢のご婦人が、目の前に居るのである。それも、出る処は出たり引っ込んだりした、かなりゴージャスな体形の方であるのがよく分かる。あろう事か、そのヒモが今にも引かれそうで……。


  尚、彼女の名誉の為に言うが、ヒモパンと言うのは細ヒモで結ぶタイプのカボチャ型の下着の事である。念の為に申し添える。


 オォ! なんてことだ! 妙齢のご婦人がベッドから手招きを……。総ての神様、仏様、ご先祖様、ありがとうございます! 感謝感激雨嵐です。ウーン、なんかこう、これまでの苦労が全部無くなったような気がするなー!


 僕は、ドアを背にして彼女がベッドに入るのをマジ見していた。ホント。夢のような展開だ。大げさかも知れないが、かなり報われた気になる。生きていて良かった。寄り道して良かった。魔女の家である。


「リディ、ただいまー」

「オ! 帰って来たか。これからと言う処なのに」

「オーイ! リディ。いないのー。どこですかー?」


「気にするな。マーヒとユクタが帰って来たようだ。さぁ、早く済ますぞ」

「エ! エェー!?」

「まぐわうんだろ」

「まぐわう? ですか? 今から?」

「早く、服を脱げ。それとも着たままの方が良かったのか?」

「? イヤ、僕としても脱いだ方が何かと……」

「マァ、良い。早くしろ」

「エー、それはそれで嬉しいんですけど」

「アァ、師匠の言い付けだからな。しょうがない」

「?」


「何処にいるのー?」

「またさぼって、2階で昼寝しているんだねぇー。薬草を煎じといてと頼んでおいたのに。まったく」

「リディ、入るよ」


「ワァ! リディ! 何やっている!」

「エ? 師匠の言い付け通り……。見つけた順ではダメなのか?」

「?」

「やっぱり、くじ引きしないとダメだったのかー?」

「何を寝ぼけた事を言っている!」

「横に立っているのは誰だ!」

「魔法使いと言っていたが……違うのか?」

「イエ、僕は魔法使いと言われてますけど」

「?」

「君、12か13才かな?」

「12才に見えると、よく言われますね」

「エ、おかしいな。確か、師匠からは成人男性って聞いていたんだが」

「「違うー!」」

「?」

「じゃ、ベッドの前で立っているのは何処の子なのかな? ウーン、君は誰なのかなー?」

「エーと、通りすがりの者?」


「……」

「リディが間違えたんだな」

「お前、お師匠の処から来たんじゃないのか?」

「イエ、セムナーン村で魔女さん達の事を教えてもらって」

「それで」

「魔女さん達なら魔法の事に詳しそうだから、色々と教えてもらえればと思って来たんです」

「よく分からんけど、それは分かった。で、どうしてこうなった」

「リディさんがドアを開けたら、ウもスも無く、2階に連れてこられたんです」


「フー。こいつは白だな」

「リディ、お前が言うな」

「そうですよ。それより早く服を着て下さい。パンツ一つでは風邪ひきますよ」


 3人の魔女さんは、リディ・カシュヤップ。マーヒ・ヴァルマ。ユクタ・パテルと名乗ってくれた。魔女の弟子としてダマーヴァンドの森に住んでおり、日夜魔女の修行をしながら研鑽を積んでいると言う。


 もちろんあの後で、マーヒさんが今回の事はくれぐれも内密にと頼んできた。そして、いきなり好感度Maxのお出迎えをしてくれたリディさんは、かなり決断力が有り大らかな性格だそうだ。かばいようがない話では有るが、ユクタさんの説明を受けた後では、リディさんが誤解したのも無理のない話であった。


「カトー、悪かったな」

「イエ、まったく気にしてませんから。むしろ眼福でした」

「マァ、眼福かどうかは別にして、まったく信じられん話だ。まるで痴女の振舞いだぞ」

「カトーが、そうじゃ無いみたいだとは、何となく思ったんだが」

「「リディ、気付いたのなら、そこで、止めろよ!」」


 20才の女性の下着姿など、色々と眼福にあずかったし……。悪気は無いだろうし、偶然だとは分かったのだがなー。マーヒさん達の帰宅が遅ければなー。せめて、後1時間。事態が進行していたらと思わないでは無いが……。


「それに、少年相手に出来る訳ないだろ」


 そこは違いますとも言えずに黙ってうなずいていたが、確かに傍から見れば12才だしな。無理も無いか。エミリーも怖いしな。しかし、僕の周りのムンドゥスの女性と言うのは、すぐに裸になるんだよな。


「ごめんね。クシャーナには、魔法使いの若い男がいないのよ」

「だからと言って、誰でもという訳じゃないですわよ」

「リディさんは、お師匠の決めたつがい相手と言ってましたけど?」

「番ね。実は、クシャーナ王国では男の魔法使いは少ないの」

「なにしろ、4年前の魔獣大戦で男が一度に100人も、いなくなったからな」

「これ以上少なくなる前に、子孫を残す様に法で定められているのよ」

「ホー。さすがに冗談ですよね」

「イヤ、これが本当なんだ」

「で、お師匠が王都から送って来た、その相手かと思ったんだ」

「フーン。事情は何となく分かりました。そうなんですか……。でも魔法使いの才能は、遺伝するものなんですか」

「多くはね」


「魔法の才能が有る者は、王都に15才の時に呼ばれるんだ。これがなー、集めてみればほとんどが女なんだよ」

「男の魔法使いは、年々減っているようなんです。今では男は100人に1人いないぐらいかな?」

「そんな感じだねー」

「そんなのに、魔獣大戦でケドニア帝国に100人も男を出すから」

「戦闘に出る軍人は、男だけというのがクシャーナ王国の伝統でね。それが全滅しちゃうでしょ」

「あの時は、大騒ぎになったわね」

「戦争だからしょうがないとは言うものの、魔法使いは女だらけ」

「私達は大戦に行かなくて助かったけどね」

「この分で行くと、遠からず男の魔法使いがいなくなりそうなの」

「そうそう、年頃の男がまったくいないのよ」

「お爺さんならともかく、子供ではねー無理だし」

「お師匠が、王都で良いのを見つけて送ると言っていたのでなー。つい」

「良いのをですか」

「つい? ついって何ですか? リディ!」

「ユクタ。リディは、ほっておきましょう」

「フー。エェ、それもそうね。だけど、こちらにも選ぶ権利が有ると思うのよ」

「そ、そうですね」


 統合救援軍として魔獣大戦に派兵された、クシャーナ王国西方軍500名が超巨大魔獣により全滅したのだ。そのうち100名の魔法使いの男達は、まさに虎の子だったのだろう。そんな事情が有ったのに、アレキ大陸に100人も魔法使いを送り込んだのは、魔獣の脅威を憂慮し真摯に対応しようと思ったからだろう。


 残念ながら、このクシャーナ王国でも、イリア王国と同じように魔法が使える者は少ない。ケドニア帝国ほどひどく無くても数が少ないのは同じだ。そして何故か女性が多いのが特徴らしい。物のように足りませんから輸入しますと言う物でもない。

 それ故に、魔法が使える者を人為的に増やす為に、あれこれと工夫したり法で定めたりする暴挙が、理不尽とは言え行われているのだ。


「ところでカトー。今晩、泊まる所はあるのか?」

「村に戻れば宿屋が有りますけど」

「今からだと、夜道を戻る事になるか」

「場所を、お借りできれば助かるんですが」

「そうだな、リディが迷惑をかけた事でもあるし。本当に、場所だけで良いのか? 私としては、リディの部屋に泊まってもらっても良いんだが」

「ユクタ……冗談だろ」

「あのー、本当に場所だけ貸していただければ良いんですけど」

「そこなら、どうだ?」

「ウーン。中庭は拙いかもしれません。もう少し広い方がいいような」

「フーン。そうなのかー?」

「きっと、テントを張るのに広い場所がいるんでしょう」

「じゃ、母屋から離れるが、今は休耕中の薬草畑が有るぞ」

「畑ですね。そこなら良いでしょう。お願いします」


 お泊りするのは城塞ホテルの簡易版で、こぢんまりとした300平方の強化土魔法の一階建てである。これは標準仕様の高さ30メートル4カ所の監視塔付ではなく、6メートルほどの可愛い城壁で、お洒落な彫刻の入った城門付きある。ちなみに、この城門はイリア王宮の門を小さく再現したもので、中々好評である。


 フルバージョンの城壁も出来ない事は無いが、魔力節約になるし、必要以上に目立っても拙い。ここら辺では野生動物も少なく、出て来たとしてもクマぐらいだろう。それに高さ30メートルの城壁を作ったら、何故か信頼を失いそうだと思ったからである。


「そうかー。こんな土魔法も使えるんだな」

「この規模のは、久しぶりに見ましたね」

「王国西方軍の上級魔法使い級です。凄いもんです」

「そうですかー。うれしいなぁ。最近褒められていないので、褒められ成分が足りないんです」

「冗談だろう」

「火魔法に水魔法、そして土魔法か。これほど出来るとは、カトーはやはり優秀だな。なんなら今からでも続きをしに……」

「リディ、いい加減にしろ。カトーもビシッと言ってやってくれ」


 ※ ※ ※ ※ ※


「お師匠さんは、王都ドルードにお出かけなんですよね?」

「アァ、思念波通信網の維持にな。言わば助っ人だ」

「呼び出されて、かれこれ2年になるぞ」

「へー、2年もですか。大変なんですね」

「あのお師匠なら、多少忙しくとも大丈夫だろう」

「そうですわね」

「お師匠が呼び出されたのは、私達がようよう独り立ちと言う時でした」

「そうなんです。やっと免許皆伝と言う処で、王都に行かれたんですよ」

「厳しい方でした。イエ、お人柄は良いんですよ。でも、魔法の事になると」

「マァ、そのおかげも有って、私達も何とかエナジーポーションの付与が出来るようになったんですけどね」


「もとはと言えば、思念波通信員の絶対数が足りないせいなんです」

「20・30キロぐらいの短い思念波通信ならともかく、長距離は魔力消費量が大変だからな」

「そうですね。しわ寄せで、今では思念波通信網は王室と軍事優先で手一杯なんです。それも繋いでいるのは国内の主要都市のみですからね」

「庶民を含めて、連絡をしたい時は商業ギルドの郵便だな」

「お高い上に、時間もかかりますしね」


「でも、今考えてみればお師匠にみっちり教わったおかげで、曲がりなりにもポーション付与が出来ますからね。感謝しております」

「そんな訳で、お留守を預かりながら、3人で毎日、付与魔法を使いながら指示通りに色んなポーションを作っているんです」

「そうなんですか。皆さん、付与魔法が使えるんですね?」

「カトーは、付与魔法を使えないのか?」

「ハイ、残念ながら」

「そうか。カトーでも出来ない事が有るんだな」

「買い被りですよ」


「付与魔法と言うのは、エナジーポーション作りで、最後に行うんですよね」

「ハイ、そうです。薬液に効果倍増の魔法を付与するんです」

「私達は、王都の学園でみっちり2年の研鑽を積みました。それからこの地で、お師匠に1年教わりましたからね」

「こう見えても、結構優秀だったんですよ」

「もともと、みんな何かしらの魔法が使えるんですよ。私は、風魔法。ユクタは火魔法。リディは水魔法が得意ですね」

「マァ、そうゆう訳だ。偉そうに言ったが、厳しい修練を積んで薬草を精製する。そして先輩の魔法使いの指導を受けてエナジーポーションの付与がやっと出来るようになるんだ」

「へー、そうなんですね。じゃ、魔道具なんかも作れるんですか?」

「付与魔法が出来る様になれば、魔道具の製作も可能になると思いますが、私達ではとてもとても」

「ぶっちゃけて言えば、魔道具など高度な工作物は作れないんだ」

「そうだねー。お師匠でも、出来るかなー?」

「簡単な物なら作った事が有ると聞きました。でも、かなり難儀したそうです」

「やはり付与魔法と言うのは、高度な魔法なんでしょうね」

「イヤ、コツと言おうか、阿吽の呼吸なのかな? 以心伝心ともチョット違う。3人とも、ある月。多少の前後は有ったが、突然出来る様になったからな」

「へー」

「マァ、カトーほどの腕なら出来ると思う。そうだなー、エナジーポーションの付与だけなら1年も有れば出来るんじゃないか」

「普通に魔法一種類を習得するのに5、6年、上手くいっても3年はかかるそうですからね。皆さんは優秀なんですね」

「お師匠の教え方が、上手かったんじゃないでしょうか」

「そうですねー。確かに努力も必要なんですが、修行の年数を重ねていけば、魔法の種類が増えると言う物ではありませんしね」

「嘘か本当か分かりませんが、アレキ文明の時は巻物で取得出来たそうですよ」

「それは無いなー」

「もし、有ったとしたら私達が修行に使った青春を返せーと言いたい処ですよー」


「そ、そうなんですか。きっと皆さんは、付与魔法の才能が有ったんですよ」

「マァ、そうかもしれませんね。ここに派遣された訳ですし。適材適所という事なんでしょうかね」

「でもなー。ポーション作りが、いつまで続くか分からんのだよ」

「しかし、考えようによっては良い事かもしれません」

「そうですね。同期の者も、適正に合わせて色んな場所に行かされたようです。過酷な環境に行かされるよりは良いでしょうし」

「お花も咲いている、ここは当たりだったかも知れません」


 ※ ※ ※ ※ ※


 一応、滞在予定期間は10日を予定している。3人とも戸惑いながらも承知してくれたが、働かざる者、食うべからずである。僕が居れば、3人の魔女様達に農作業の一部とはいえ解放されて、ゆっくり朝寝が出来る事を説明したのだ。まさにウィンウィンである。こうして翌日から、付与魔法を少しだけ教わる事になった。


 一見して、のどかな農村での緑豊かな生活である。しかも、妙齢のご婦人、3人付きである。家庭菜園も良いかなー。畑開きをして菜園を始めよう!種を蒔き、苗を育て、畑ばかりでなく、温室を設置して野菜の成長を見守る。そんな生活をするのも悪くない。そんな事を、キャンパーだった時は思いもしたもんだ。とマァ、あれこれと思いながら今日も鶏にエサを与えている。


「よしよし。卵、チャンと産めよ」

「カトー、疲れたら休憩しろよー」

「そうですよ。お茶にしましょうかー」

「またですか。さっきもしたじゃありませんか。僕はキリの良い所までやってしまいます」

「そうか。無理するなよー」


 だが、現実は厳しい。仕事を済ませて後、午後のわずかばかりの時間で魔法のレクチャーを受けるのである。この10日間は、朝も暗いうちから鶏舎を廻り、鶏に刻んだ葉っぱや穀物を与えるのだ。それが終わるとヤギと牛から搾乳をする。その間にも、鶏や伝書鳩の世話などの雑用係を仰せつかる。


 この鳩は連絡用の使い魔である。かと言って魔力で作り出されたものではない。魔法で訓練されてはいるが、ごく普通の伝書バトなのである。1年に5度、王都へ送られ、送られても来る。これは、3カ月おきの定期連絡の為の鳩である。この鳩が、王都のお師匠から色んな指示を運んで来るのである。逆も出来るので、指示を仰いだり報告したりするのである。


 ここでの農作業やミニ酪農は、キッチリとしたスケジュールでマーヒさんが組んでくれた。思いの外、忙しく疲れる作業が多いが、皆もそれなりに忙しくしているはずだ。まさか、この僕だけハードスケジュールとは思えないが……。


3人の魔女様達は、最近は睡眠を十二分に取られているようでご機嫌なうえに、肌の艶も良い。まるで、誰かが代わって仕事をしていてくれるかのようだ。日本で聞いた事のある、どこかの国の農業研修生の生活より、数段過酷な生活であると思えてしまうぐらいだ。


 農作業と言うのは、機械化されていても大変なのに、それ以前の文明レベルであるから当然と言えば当然である。しかし、嘆く事は無い。我にヒールの魔法在り。当然の事ながら、フフフ、ヒールのかけ放題である。普通の者なら、すぐにも音を上げるだろう作業を地道にこなしている。


 ※ ※ ※ ※ ※


 薬を製作している一階の部屋は3つに分かれている。来客用の椅子が置いてある受付。何やら混ぜたり擦ったりして薬を作る部屋。適宜加工して、材料を保存しておく部屋である。受付はマーヒさん、薬の製作はユクタさんで、そして材料の保存はリディさんの担当となっている。

 これらの作業を纏め、修行をつけていたのが、今は王都に出張中のお師匠サクシ・ナイドゥさんである。


「魔女の家には、不思議な品々や素材が置いてあるそうですが?」

「ウン、魔女の薬に使うからね」

「そうですか」

「取り寄せもするが、素材の多くは、このダマーヴァンドの森で調達できるんだ」

「中央山脈まで足を延ばせば、希少な薬草も摘む事が出来るしね」

「王国がここに修行センター置いたのも、そんな訳なんですよ」


 魔女の家には色んな材料が溢れている。確かにそのような物が所狭しと置かれている。そして魔女の3人は、それらの間を舞うように仕事をしている。皆揃って黒のくるぶしまであるドレスと、シンプルな大き目な白のエプロンである。


 最初に会ったリディさんが着ていた、黒いドレスと白いエプロンと言うのは、クシャーナ王国では魔女の制服的なものらしい。あと、とんがり帽子があれば伝統的な魔女のコスチュームの完成である。だが、やっている事は調剤薬局の女性スタッフと言う処である。


「リディさん。コウモリの目玉とか、イモリの黒焼きとかは使うんですか?」

「もちろん。基本だからな」

「ひょっとして、ドラゴンの何とかありますか?」

「イヤ、欲しい品の一つだがな。そう言えば……。もう、何年も入荷して無いと聞いたな」

「残念ですが、王都の業者も、もう無理だと言ってましたからね」

「そうだったなー」

「いつまでも、オオトカゲで代用する訳にもいかないんですけどねー」

「大蛇では、いまいち効き目が悪いしな」

「蛇とかコウモリでしたっけ、素材はどうやって手に入れているんです?」

「決まっているじゃないか。リディが取って来るんだよ」

「へー、リディさん中々の強者ですね」

「ホー。カトーが興味あるなら明日にでも採取に行こうか。確かヤツデやサソリが減っていたからな」

「リディ。それなら余分に取って来てね。おかずが一品増えますから」


 おかずの話はともかく、煎じた薬草の茶と、クッキーを頂きながらの会話は魔法関係の事ばかりである。中々、奥の深い会話である。薬の素材となる獣や草木も減っている。日本でも象牙が禁止されているとか聞いた事も有るし、どこの世も同じような物なのかも知れない。


 ※ ※ ※ ※ ※


 日本で薬というと、疾患の治療、症状の緩和に使われ予防効果も期待できる物を指す。民間薬と違い製造には特別な資格や国の認可が必要である。このムンドゥスでは、どのようなものが薬と考えられているのだろうか?


  魔法の薬として有名なのはエナジーポーションである。昔から魔法という秘術を扱う者が、医者の役割を担って来た事も有り、彼らの扱う物は魔法薬として珍重され民間薬の一種として広く用いられてきた。なかでも効き目の優れた魔法薬は、漢方薬と同様、動植物を原料としており、魔法のトッピングが欠かせないとされていた。


 この、ポーション類にはエリクシャーなど、ヒール系の物や病魔を退散させるゾンビーパウダーや、聖水に近い働きをするものなど様々な魔法薬があるようだ。隕石テロ以前、即ち偉大なアレキ文明が無くなり、近代魔術が登場するまでは、いかにもと言うイメージで魔法薬が作られていた訳である。


 それこそ、伝統的魔術の書物であるホノリウスの書と同じような物が、ここムンドゥスにおいても同じような製法で作られていたようだ。例を挙げれば、お馴染みとなっている黒い雄鶏の首を切り、呪文を唱えて悪魔を呼び出して云々という作り方の事である。若干、薬とは思えないような物もあるが、魔法薬には変わりない。


 牛の胆石や鹿の角。もちろん、今はめったに見られないがドラゴンやフェニックスといった生物の素材。特に血については、ラクダが一番の薬とされ、強壮効果抜群とされる食材としても使用された。ちなみに、ムンドゥスではラクダの血は滋養強壮剤としてだけではなく巨人を呼び出すのに使用するらしい。


 知られているとは思うが、マムシ酒、スズメバチのハチミツ漬け。サソリ、タランチュラも揚げたり焼いたりして生薬として扱われている。これらは地球と同じように、精力剤の素材として使われている。


 優秀な精力剤ならば、使用者に体力や精力を与え、多くの作業が出来る事となる。この効果が付与魔法によって倍増されたポーションならば、さらに働けると言う道理である。ポーションを使用すれば、まさに魔法にかけられたかのように、ブラックな仕事や困難な戦闘でも動けるようになり、ドンとこい状態となるのである。


 尚、魔法薬マンドラゴラは、地球では有名だがムンドゥスでは存在しないという事を知った。確か、絞首刑にされた罪人の水分によって成長する植物だったと思う。ムンドゥスでも罪人には事欠かないが、肝心のマンドラゴが無いのだ。マァ、一歩譲って、未だ発見されていないと言い換えても良いが……。


 地球では、マンドラゴラは旧約聖書にも書かれていたらしいから何処かには存在するのだろう。生薬だからハーブと言っても良いかも知れない。これさえあれば媚薬に毒薬、魔女の軟膏にも、嘔吐薬や下剤としても有効と言われている。まんざら想像上の物という訳ではなく、漢方薬として使われたらしい記述もあるようだ。


 話が長くなった。近代まで、薬物の科学的な合成が出来るまで、これら動物や植物が原料となるのは当たり前の話かもしれない。


 ※ ※ ※ ※ ※


「マァ、今朝はご機嫌が良い事」

「エェ、チョット良い事があったもので」


 例の山岳回廊の転落事故の時、我身を助けてくれた結界装置のランプが赤から緑の点滅に変わったのだ。これで、クマの一撃だって大丈夫。場合によっては捕獲だって出来る。二度としたくないが、1000メートルの垂直落下が有ろうと大丈夫である。マァ、危険な事には遭遇はしたくないのであるが、運命は容赦しなかったようだ。


 いつも通り、薬の製作はユクタさんである。この方もそれなりの胸部装甲をしていらっしゃる。調剤の折、窯で火を焚くので熱い。これには自然志向と言うのか、火魔法は使われない。魔法との相性が良いとされている特別に切り出した木が使われる。中でも、トネリコとミズナラが一番とされている。


「カトーが来てから7日ですね」

「そんなになりますか」

「だいぶ覚えたようですね」

「イヤー、まだここだと言う、コツと言うんでしょうか。難しいもんですね」

「そうなんですか」

「ところで、今日は外で調剤ですか?」

「エェ、大釜を出して3カ月に一度ですが、王都に送る分をまとめて作ります」

「へー」

「加熱する時は、少し危ないんですけど、一度に大量に作れるのでね。レシピ通り作れば大丈夫です」

「で、今日はそのお手伝いという事ですね」

「ハイ、よろしくね。まずは薪を運んで下さい」


 トネリコは、この森でよく見られる。逸話では、この木を中心に神々、人間、地下の世界が出来ているそうで生命、知恵、死を司る木とされる。ミズナラは、オークとして知られてる。この木と、魔女の話は多いと言う。薪一つとっても、何かしら理由が有るようだ。


 それはともかく、ふくよかな胸が、さも邪魔そうであり、また火元の近くなのでボタンを2つ外していらっしゃる。それが、前かがみになると、丸見えになると言う特技をお持ちの方である。実に尊敬すべき方である。決してラッキースケベでは無い。目線の位置が胸の位置になってしまうのだ。これはしょうが無い事なのだ。


「グツグツ。グツグツ」

「まるで、大釜が文句を言い出したような音ですね」

「フフフ。今日はこれも入れてみようかなーと。ア! 入れすぎちゃった」

「今、入れすぎと言いましたか? レシピ通り作るのでは?」

「エェ……」

「この薬、少しだけ危ないんでしたよね」

「エェ、レシピ通りなら少しだけ」

「そうなんですね。入れ過ぎた訳では無いんですよね」

「そうかなー?」

「なんか、この窯の中の色。以前にも同じ様な色を、どこかで見たような気がするんですが……何処だったかなー?」

「?」

「思い出した」

「教えて下さい。その時はどうなったんです?」

「ユクタさん、広域極大火炎魔法と言うのを知ってますか」

「そのような魔法があるという事は習いましたが? それが?」

「なんだか、大釜の中身の色がその時のような感じなんです。香ばしい匂いもして来ましたが、大丈夫ですよねぇ」

「グツグツ。ボコボコ。ボコボコ」

「大丈夫ですよー……レシピ通りなら。それに、反応促進剤を入れ過ぎなければ、何と言う事も有りませんよ」

「さっきのビンに、書いてありましたけど?」

「マァ、意見を述べても良いなら、オホン。これはじきに爆発しますね。カトー。短い間でしたが、楽しく過ごせました。感謝します」

「エー! 何を言っているんです。ユクタさん。何とかしないと……僕は防御結界装置を付けています。この装置が有ったので、1キロ上空から落ちても助かったんです」

「へー、そうなんですか」

「感心なんかしてないで、こっちへ来て下さい!」

「分かりました」

「結界装置の効果範囲は個人用なので狭いと思います。ピッタリとくっ付かないとダメかもしれません。僕を、ギューとして下さい。それしか助かる方法はありません」


「ユクタさん、胸が……口が塞がって苦しいです」

「ピッタリという事でしたから」

「ハイ、分かりました。しょうがないですね。では僕もギューと」


 ギューと抱きしめられているのも何なので、土魔法で大釜の周りに強化魔法の壁を築いたと思ったら爆発した。地雷処理の場合は容器にフタをするらしいが、今回はフタ無しである。ハッキリ言おう、忘れたのだ。


「ドゴーン!」


 それはあたかも列車砲の様な巨大な発射音であった。僕が作った強化土魔法の壁にヒビが入るなんて、何年も見た事が無かったなー。巨大な音がして、黒い物が飛び出て行ったようたが……。幸い、土壁が破壊力の衝撃をほとんど吸収したようだ。チョットだけ危ないと言っていたが、大釜でニトロ化合物でも作っていたのだろうか?


 幾分、上方へ吹き出た大釜の中身が降ってきたようだが、結界に阻まれて惨事にはならなかった。マァ、防御結界装置が見事に稼働し、僕たち2人も何事も無いかったのは上々であるが。いったいどうしたら大釜で爆発物を煮込む事が出来るのだろう?


 結界装置が無ければ、爆発時の圧力でユクタさん共々、ペッチャンコであったかも知れない。爆発の被害と言おうか、犠牲になったのはわずかと言って良いのか、行方知れずとなった大釜が1個と研修所のガラス窓18枚であった。


「ユクタさん、爆発で大釜が吹き飛んだようですが」

「アラアラ、そのようですね。困ったわ、大釜を探さないと薬液が作れないわ」

「あれほど、レシピ通りに作らなければと言っていたのに」

「マァ、滅多に無い事ですが、反応促進剤を入れ過ぎたんでしょうかねー。それとも追加で入れた薬剤が拙かったんでしょうかねー」

「何を他人事みたいに。こんな事、何時も有ったら困りますよ」

「そうですねぇ。ホホホ」

「簡単に言わないで下さいよ。危なかったんですから」

「そうですね。失礼しました。でも、変な物が出て来るよりは良かったじゃないですか」

「ちょっと待って下さい。変な物って?」

「ところでカトー。ラクダの血と、巨人と言う話を知っていますか?」

「いいえ、知りませんが。でも大釜から、いきなり話が飛びますねー」

「まあね。迷信なんですよ。ラクダの血を使って白い巨人を呼び出す事が出来るんです。あの時は、それがちょっぴり入っていたのかも知れませんね」


 山岳回廊の隊商の時に、イエティの話が出た。あれって言うのは、魔法で呼び出せるものなのかー! 


「冗談ですよね。それ本当に本当なんです?」

「アァ、カトー。本当だよ」

「ユクタ。またですか?」

「イエ、今回は大釜が爆発しただけだけですよ」


 いつの間にか、後ろに仁王立ちしている2人の魔女が答えてくれた。


「あれだけの爆発音がしたんだ。普通、見に来るだろう」

「それも、ここの庭ですよ」

「あの時の事は忘れられないな」

「なんかの拍子に、ゴーレムみたいなのが出きたようなんです」

「エー!釜の中のゴーレムって。ゴーレムは、砂や土で出来てるんじゃ無いんですか?」

「普通はな」

「正体不明なんです。ゴーレムの腕より細くて、黒いかぎ爪でした」

「それが泡立つ大釜から、ニューと出て来たもんだから。もう大変!」

「そうでしょうねー」

「今もって、何故だか分からないんです……すみません」

「お師匠が居る時で良かった」

「お師匠も、あれはゴーレムじゃなくて別の物だと言ってましたが、正体を教えてくれませんでした」

「ホー。それはそれで怖いですね」


「マァ、錬成に失敗は付き物ですし」

「確かに、お師匠もやらかしたそうだからな」

「なにをです?」

「この家の周りの木ですよ」

「爆発させたのは同じだがな。酔っぱらっていたそうだ。よせばいいのに、その時は大釜で薬を作っていたんだ」

「へー。魔女と言うのは、簡単に爆発物を作れる才能が有るんですね」

「カトー、普通は無いだろう。そんな才能。マァ、本人は結界を作って何とか無事だったらしい。だが、家はバラバラ。周辺の木々を残らず吹き飛ばしたらしい」

「そうそう、この家が比較的新しいのは建て直したからなんですよ」

「それで、新しめの建物だったんですか」

「ここまではユクタと同じなんだが、よせばいいのに、証拠を隠滅しようと酔っぱらったままで、それを繋げたらしい」

「?」

「木だよ。家を建てるのに夢中で、気付いた時にはぐるりと回って大きく成っていたそうだ」

「それを思えば、今回の事など可愛いもんですよねー」

「そんな訳があるか!カトーの土魔法が無ければ、ここは野原になっていたんだぞ」


 ※ ※ ※ ※ ※


「しかし、秋とは言え今日は暑かったですよねぇ」

「確かに季節外れのように暑かった。だが、大釜の爆発が有ったからな。そのせいだと思うぞ」

「そうでしたねー」

「確かに、汗臭い感じと言うのはありますね」

「やっぱりそう思います」

「焼け焦げた煤の匂いもするがな」


「アノー。僕、お風呂作れますけど」

「火魔法と水魔法の合わせ技だろ」

「お湯シャワーじゃないのか?」

「王都の研修中に、聞いた事があります。大きな浴槽という事も有りますが、魔力消費が大きいので何十人もの魔法使い必要だとか」

「今では、外交使節に見栄を張るような時に使うとかね。これは、お話だけで信憑性は無いと思いますが」

「別名、魔力の無駄遣いとも言うしな」

「シャワーに使うなら、ポーション付与に使えとお師匠に言われますね」

「お風呂かー。この森も良いが、東の山へ1日歩けば温泉が有るからな」

「休みが取れたら行ってみたい所です」


「イヤ、僕が作るのは普通に大きな露天風呂です」

「露店のお風呂?」

「エェ、そうです」

「お風呂がこんな所で」

「もちろんです。よろしければお造りする事も出来ますよ。お借りしている畑で良ければ広いですし。一度、試しても損はありませんよ」

「それもそうねー」


 ムンドゥスに転移して、最初の別荘で設置して以来作り慣れた、イリア王国カトー家標準仕様の露天風呂である。パターン化してあるのでそれこそアッと言う間に完成である。このような事が出来るのもエミリーの風呂好きのおかげである。火と水の同時発動を会得出来たのも、お風呂が有ってこそなのである。思えば厳しい修練の日々であった。


 確かに今は、クリーンの魔法を使えるので衛生的には何ら問題はない。だがね、理屈だけでは無いのだよ。日本人は全員とは言わないが、お風呂が好きで堪らないのだよ。もはや遺伝子に組み込まれているかの如く、お風呂を愛してやまないのだよ。アァー、エミリー、レイナとルイサが3人そろって湯船に浸かって月を見ていた頃を思い出すなー。


 そんな事を考えながら、3人には特訓を重ねているので問題ないと説明した。源泉かけ流しとはいかないが、僕が居れば湯量の心配は無い。こう説明すると、人間給湯器としてご一緒に湯船の中で待機である。決して望んだ訳では無いのだが、3人の魔女と入る風呂は格別で有った。


「イヤ、これって地上の楽園ですよー」

「良いな。これ良いな!」

「そうですねー。解放感が堪らないですね」

「マァ、そうやって大の字に湯船に浮かんでいれば、そんな気にもなりますよね……」


「おやおや、雨が降ってきましたね」

「裸だから、濡れても構わんだろ」

「リディ。それを言うなら、せめてお風呂だからと言いましょう」

「長湯しすぎると体によくありません」

「のぼせそうですね」

「皆さん、湯上りに雨に打たれるのも結構ですが、風邪をひいてはつまりません。こちらに東屋を用意しますので、しばらくお待ち下さい」


「ホー! 凄い……なぁ」

「これが、東屋なのですか?」


 さすがに城塞ホテルでは大きすぎるだろう。マァ、パターン化しているのでカトー家標準仕様の別荘を作ったのだ。下手に小さな家を作るより、魔力消費が少し多くなっても経験量が多いので、こちらの方が早く出来る。


「カトー。至れり尽くせりだなぁ」

「エェ、そうですね」

「ところで、さっきから土魔法で何をしているんですか?」

「イエ、何時もお風呂の中に居る訳にはいかないので、少し掘ってみようかと……」


 ※ ※ ※ ※ ※


 時は流れて、セムナーン市の学校。

「皆さん、今日は楽しい野外授業です。資料館では、チャンとお勉強をしましょうね」

「ハーイ」

「では、始めましょう。セムナーン市がまだ村と呼ばれていた頃には、王国には多くの魔法使いがいました。特に魔女として、この地に派遣されていた3人の魔女の話は有名です」

「先生、露天風呂の事ですかー?」

「そうです。正確には、露天風呂付き客室観光施設ですね」

「知ってるー。これを作ったんで、お客さんが一杯来るんだ」

「ご馳走がいっぱい出て来るんだぜ」

「そうですね。森の中の秘湯から、風光明媚な中央山脈を見ながら湯に浸かり、山海の珍味を戴くと言うのは、今も昔も贅沢で夢の様な事なのでしょうね」


「修道院にお参りに来る人も多いですし、お土産も色々ありますからね」

「アルプホルンの事だー。うちの爺さんの爺さんが考えたんだぜ」

「そうですね。修道院のお土産としてミニチュアも人気ですね」


「マァ、それだけではありません。観光施設の充実も大切ですが、3人の魔女の教えにより他との区別化がなされた事です。温泉地では、何かをしなくてはいけないという思いを無くす事です。のんびり湯に浸かり、適度な食事を取り、よく眠る、森の中を歩いたり、鳥達とおしゃべりしたりする。こういう考えがもたらされたのです」

「3人の魔女と言うのは、立派な人達だったんですね」

「そうですね。謙虚な人ですね。この教えも異国の魔法使いによるもので、自分達はお風呂に浸かっていただけだと冗談を言ってました」

「へー」

「ハイ、それだけではありません。これから行く、体験型施設の郷土資料館セムナーン村がありますね。その発想も異国の魔法使いによる物だとか」

「へー、そうなんだ」

「昔の暮らしが分かるんですよね」

「懐かしく思う人も多いそうです。それに地下水脈を、建物近くで探し当てられたのも幸運でした」

「フーン」

「そうですね。皆さんがお話で知っている物が置かれていますね。では今日は、順番に見て行きましょう」


爆発した大釜

 この有名な大釜は、穴も有るしひしゃげて原形を留めていません。言い伝えによると、魔女達の1人が庭で魔法薬を煎じている最中に爆発したそうです。爆発音は尋常ではない大きさで、20キロ離れた当時の村の中心まで聞こえたそうです。

 爆発の時、一目散にその場を逃げ出したそうとしたのですが間に合いません。そこで、異国の魔法使いが土魔法で壁を築いて難を逃れたそうです。後日、大釜は3キロほど離れた場所で発見されたそうです。


魔女の空飛ぶ絨毯

 魔女の家から少し離れた森で発見されました。空飛ぶホウキは、1人かせいぜい2人までです。多くの人や荷物を乗せて空を飛ぶのには、かなりの魔力が必要です。3人の魔力エネルギーが、飛び貫けて優れていた証拠です。魔女の空飛ぶ絨毯は、土魔法で作られ水魔法で操っていたとされますが、今は失われた魔法ですね。


魔女の媚薬風薬草ポーション

 古今東西、老若男女問わず、好きになった人に振り向いて欲しいと思うのは自然な事です。ですが、そうは上手くいかない事は多々あります。3人の魔女が作った媚薬は高い効果が有ったそうですが、今では龍種の素材と妖精の涙が枯渇した為に製造できません。

 郷土資料館では人気のお土産品ですが、断り書きで味と風味のみを再現した、媚薬風の栄養ドリンクと言う事で販売されています。

 

魔女の恋占い・儀式用道具

 自分が相手にどう思われているか知りたい時に行う、魔法の儀式に使用される道具類です。占うには両者の血が数滴必要です。かなり正確な判定結果が出ますが、想い人に愛する者がいる場合は、嫉妬に狂い、亡き者にしようとする弊害が出る為に禁断の魔法と言われます。

 その為、良心的な魔女は媚薬のみを製造して占いはしなかったそうです。結構、効果のあると言われた媚薬は村の魔女の家で面談後に処方されました。決して恋バナが聞きたかったわけではなく、効果をあげる為だったそうです。

 媚薬には、強烈な薬草が必要とされ、それを作れるのは賢い魔女だけですが、素材は常に不足気味でした。素材として使われるカエル・ムカデ等、(特にコウモリの目玉は歓迎されます)は持ち込み可で、村の子供達のお小遣い稼ぎにもなったそうです。


魔女の毒薬、呪い薬

 毒薬は農業用殺虫剤として高い需要が有ります。呪い薬は農地に沸く害虫、害獣、特に駆除に難しいモグラに効果があり、天然素材が使われた自然志向のお薬です。もちろん、用法容量は守らなければなりません。守らない場合は魔女の呪いが降りかかります。


郷土資料館と周辺の樹木

 ヤドリギの緑は永遠の力とも言われます。ニワトコは薬効のある木です。ネズの木も古くから薬効の強い木として知られています。数メートルの高木と地面を這うネズもあります。紫色の実をつけます。数粒でハーブティーとして楽しめます。秋のみの季節品ですが、お土産コーナで購入する事が出来ます。

 いつも話題になりますが、魔女の家の周りの木々がぐるりと回って生えています。不思議な現象ですが、何故だか今もって分かりません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ