180 帰還の旅 魔道具購入?
※ ※ ※ ※ ※
「今見てもらったのは火魔法の魔道具です。実は、僕。異国の魔法使いなんです」
「やっぱりそうか。おかしいとは思っていたのじゃ」
「分かりましたか?」
「アァ、お前さんは、若い割には丁寧と言おうか古風な話し方をする。ワシが知らないような古語が出て来るかわりに、子供でも知っている事が分からんようだしな」
「ハハ、そうなんですか」
「で、どうしてこの町に来たんだ?」
「さっき言ったように偶然だったんです。町で路銀の足しにと魔道具を売ろうと思ったんです」
「売る事は出来たが、安値じゃったな」
「ハハ、そうですね。そのあとで魔法書の存在を知ったんですけど、これが高いんです」
「その通り。おいそれとは出せん額じゃ」
「で、魔道具の水差しを売った時に、道具屋で動かなくなった魔道具を手に入れたんです。で、これを直して売ろうと思ったんです」
「フムフム。それで」
「ありていに言えば、安く買い叩かれるのはイヤだなーと……」
「話はだいたい分かった。それで、カトー。本当に使える魔道具なのか?」
「エェ、本当です。ここでは、いつ人が来るか分かりませんから、移動しましょう」
「チャンと動きますよ。これなんかは火魔法を使っていますね」
「ホー。どれどれ、見せてくれ。ワァ! 焦げたぞ」
「気を付けてくださいね。火傷しますよ」
「すまんかった」
「イイですよ。ケガしなかったら」
「これ、火魔法の発火具。ライターと言う物なのか」
「ハイ、魔力充填式ライターです。ここのトリガーを引くと火が点きます。風の影響は0です。どんな強風が吹いていても、一発で点きますから便利ですよ。こちらの棒状のは風魔法。それと、これが暗視鏡ですね」
ここは、町から少し離れた人気の少ない場所である。性能回復の確認も兼ねて、アヤンさんと一緒に来ていたのだ。周りに人がいない事を確認して、動いた魔道具を取り出した。アヤンさんに、順に道具の説明をする。確かに、魔法に親しんでいない人にとって、魔道具は摩訶不思議な道具である。
だが、アヤンさんにとって驚異的な魔道具とは言え、僕は、稀代の魔法使いと言われているのだ。この程度で驚く事も無い。逆にどうしたら威力を増加させれるかと思うぐらいだ。火魔法の魔道具でも、一度視て感覚が掴めればだいたいの性能は分かる。
使用方法は当てずっぽうに近いが、テレビやスマホをいじるのと同じで、4日間の身に付けていれば何となく操作法が分かるような気になるもんだ。それよりも、ここで見てもらっているのには理由がある。実は、魔法書を購入する為に、せめて本と同額ぐらいで魔道具が売れないだろうかと、思い切って相談する事にしたのだ。
※ ※ ※ ※ ※
3個ある引き金型の大型火魔法ライターには、フル充填なら40万回ぐらい使えるらしい。これは本体底部のふたを開けると注意書きが出て来た。短く使用法と注意点が書いてある。乾電池の向きが描いてあったのと一緒だな。
ぐらいと言うのは個々に出力の差が有るからだろう。これでだいたいの使用回数が掴めた。日常的な利用なら1日に100回。一番活躍するだろう野営で、頻繫に使ったとしても1日に200回使わないと思う。40万回使えれば十分役に立つだろう。尚、魔力残量表示がある大きな物1個だけで、小型の2個には付いていない。
使用法はいたって簡単だ。これらはいずれも、安全装置のノッチを入れ、スイッチを押すだけで着火できる。ほぼ日本にあった引き金のある100円ライターと同じである。違うのは温度と火力調節のスイッチがある事で、2段階約800から1000度。過負荷状態では1200~1400度に操作できる。当然だが、火力が強いとその分、魔力の消費量が多くなり使用出来る回数が減る。
1300度では、炎の色は白く光の様に見える。試しに落ちていた石に、温度と上げて炎をあてると3分ほどでどろどろに溶けてしまった。これ、すごくない! 人工的な溶岩かも知れないぞ! 気分はすっかり理科の面白実験である。マァ、言い方はともかく、これは魔法では無く、炎を当てたという物理的な現象である。
小笠原諸島の西之島の噴火や、伊豆大島の時のニュースで知ったのだが、三原山の溶岩は1200度、桜島の溶岩は1000度ぐらいらしい。確かに、熱くて見つめていると目が悪くなりそうだが、グニャリと溶けるのを見ると面白い。日本にある普通の岩石は、800度から1200度ぐらいで溶かす事が出来るらしい。
今でこそ、魔法でガラスを造り出しているが、イリアの別荘で作り出した時はごっそりと魔力を使ったのだ。温度を高めずとも、ケイ素を含む土を土魔法で作成すれば、かなり楽が出来る事が分かった。未だにどうして熱を使わずにガラスが出来るのか分からない。つくづく魔法というのは、とんでもない事だと実感している。
話がずれた。ここまでは高温が使えるライターとしての説明だが、引き金の安全装置を解除し、モード切替をすると火口から火弾が撃ち出せる攻撃用魔道具となる。マァ、火の玉が出てくれば普通に驚くだろう。当たり所が悪ければ死んでしまうかも知れない。中央大陸でも銃器の事が知られているのでましだが、銃器が作られる以前に見た者はさぞや驚いた事だろう。
「試してみますか?」
「いいのか?」
「じゃ、さっき注意したしたように火口を人に向けないように、気をつけて下さい。設定は普通で、時間は最短で良いですね。では、どうぞ」
ド!
「びっくりしたなー。これが火魔法の魔道具か。まるで鉄砲か大砲じゃな」
「エェ、そうですね」
「次は最小で、時間は長めにしてみましょう」
ゴー!
「これは、火炎放射器みたいなもんですね。アァ、放射器とは火焔を噴き出して敵を薙ぎ払う武器です」
「火炎弾攻撃出来るのは、この大型タイプしかないみたいです。こっちの小型は、モードスイッチが無いようですね」
「フーム、なるほどなぁ。かなりの威力じゃな。どのぐらい使える?」
「使用回数ですが、40あったメモリが2つ動いている感じですね。おそらく、後38発ぐらい撃てますね」
「そうか。連射も出来るのだな。ウーム、すごい物を見せてもらったなー」
「まだありますよ。こっちは暗視鏡です。これが有れば、闇夜でも霧の中でも物が見えます」
「フーン。暗闇で使うのか? 筒が5本あるが、こちら側の眼鏡に目を当てるのだな」
「視界を確保するのに必要みたいですよ。真後ろ以外は見えますね」
「そうか。ウーンもう少しで、自分の背中が見えそうなんじゃが……。なんか気持ち悪いな」
「スイッチを入れてここを回せば、ホラ画像の拡大が出来ます」
「横の数字は倍率だな」
「みたいですね。これは、熱源探知も使えそうですね。付けてみますか?」
「白い影が動いているな。これは、ネズミか。なんか気持ち悪いな」
「これ、探知系の魔法と赤外線を併用して使ってますから、感度を上げると壁の向こう側に隠れていても分かりますよ」
「ホー。凄いもんじゃな。それは何じゃ?」
「風魔法の短杖ですね。一か所に集中して風を送れます。火起こし送風機として使うと、早く効率的に火を起こせます。今の時期なら、扇風機と言う機械の代わりになります」
「フーム。火起こしか。野営の時に使えそうだな。あれば便利だと思うが、今見たのに比べると無くても……」
「そうですよね。そこでこのメモリで狭に設定し直すと。チョット下がって下さい。危ないですよ」
小さく手首を動かして振ると、ヒュンという音と共に草が切られ、小枝が落ちてきた。
「風魔法によるカッターです。距離も関係しますが出力を上げれば、30センチぐらいの木なら切れますよ」
「ホー。おっかない物だな」
「このブレスレットは、腕時計の一種だと思いますがまだ動いていません」
「腕時計?」
「個人用の小型時計です。イルにも時計台があるでしょ。あれの小さい版です。もっと多機能だとは思いますが……。この箱型のは僕にも分かりません。まだ、動かないので壊れてしまっているのかもしれません」
「そうか。マァ、全部が全部動く訳では無いだろうからな」
「エェ、そうですね。魔道具の説明は、このぐらいですね」
「そうか。イヤー、良いもん見せてもらった。長生きはするもんじゃ」
お金と交換するなら、ライターと風起こしに暗視装置だな。これらは、今の処無くても良い。というよりも、自分の持っている魔法と互換なので絶対に必要ではない。それに魔法書を手に入れれば、似たような物の製作は可能だろう。
ブレスレットは日本にあったスマートウォッチの進化版だと思うが、だが、これは複雑な機械製品と言う感じだ。長方形の箱は長方形のスマホの大型予備バッテリーサイズぐらいだ。何に使うのかさっぱり分からない。この2個の魔道具は、複雑な工業製品に近く、すぐには作り出せないだろう。
「ところで、アヤンさん。折り入って話が有ります」
「なんじゃい。急に改まって」
「もう少し、僕に雇われませんか」
「フム。話し次第じゃが……。」
「動かなくなった魔道具は、1個10万ルピーでしたよね」
「多少前後はするが、だいたい、そんなもんじゃ」
「カジュラホにある、動かなくなった魔道具を集めたいのです」
「フーム。なるほどな。確かに、お主なら動かす事が出来るからな」
「持ち金は、300万ルピーあります。これを購入資金にして手に入れたいんですけど」
「計算では、30個の動かなくなった魔道具となるな」
「ハイ、そうです」
「30個あるとは限らんぞ」
「エェ、分かっています。その返事だと了解してくれたという事ですね」
「アァ、やってみても良いという気にはなった」
「それと、帰国途中だと言いましたね。これは本当なんです。あまり長くこの町にいる訳にいかないのですが、どうでしょう?」
「ウーン。いつまでかな?」
「10日程でどうでしょう」
「マァ、10日あれば回れるだろうが……」
「アァ、取り分ですね。そうですね、動かなくなった魔道具の買取金額の3割と、動くようになった魔道具2個を差し上げます。どうでしょう?」
「そうだなぁ。300万ルピー全額を買えないかもしれんし。5割と、動く魔道具5個で」
「その魔道具が、動かせるかどうか分かりませんので? 4割と、動く魔道具3個なら」
「間の4割という事か……。ではこうしよう。3割5分と動く魔道具4個」
やっぱり値段交渉が、終わりそうもない。アヤンさんもイル国人だった。条件闘争するより全体戦で勝てば良いのだ。損して得取れと自分に言い聞かせて交渉を終わる事にした。
「良いでしょう。ですが魔法書を購入する手伝いをして下さい」
「良いだろう。それで、手を打ってやる」
「ありがとうございます」
「なに、構わん。しかし、意外に早く決まったな。何となく面白くないな。もう一度やらんか?」
動かなくなった魔道具の値決め交渉はアヤンさんにお願いして正解だった。集めれる魔道具はどのぐらいか分からないが。アヤンさんと道具屋を廻って集め始めた。直ぐに10個の動かない魔道具が集まった。そのうちの5個は、アヤンさんが知り合いから手に入れてきたと言っていた。
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動かなくなった魔道具は順調に収集出来ている。この分で行くと遠からず、予算分の魔道具は集められそうだ。相手が体力と精神力を使うイルの商人でも、難しい値段交渉はアヤンさんがやってくれるので大助かりである。やはり、餅屋は餅屋である。
僕は、不本意ながらも、横で立っているだけというステキな時間を過ごす事が出来ている。何しろ、余剰魔力を充填中なのだから。なるべく体力や魔法を使わない生活を心がけているのだ。決して、怠けている訳では無い。
そして、今は最初の2日で集まった、動きそうな魔道具10個を身に括り付けいる。これ以上は、目立たないように身に付けるのは無理だし、付けれたとしても魔力の充填が出来るとは限らないと思う。今付けている10個全部が動くとは思わないが、動く魔道具が無いと魔法書購入の以前の話になるのでしょうがない。
そんな感じで、宿に遊びに来たアヤンさんと四方山話をしていると、カジュラホの南にある遺跡の話が出た。地図魔法で見直すと、工場の様な建物が立っている事になっている。この町はかなり古いし、隕石テロを生き延びたと思うので、アレキ文明の関連する物が何かあるかも知れない。
アヤンさんは何もない所だと言っているが、宿でじっとして魔道具の充填をしているのもツマラナイもんだ。町を離れて遺跡に連れて行ってもらう事にする。アヤンさんなら、動かない魔道具をブラブラと身に付けているのが見えても良いだろうからな。
返事はOKだった。少し遠出の一日コースなので、お弁当はこちらで馭者さんの分も含めて用意すると言っておいた。食堂でお弁当を頼むのを忘れないようにしないとな。なんか、遠足みたいだな。お菓子は300円までにしておくか。最近は全く無しの0円とか、上限なしとか色々あると聞いていたが、古き良き文化も消えて行くのだなー。
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馬車は3人を乗せて、丘を越えた所に有ると言う遺跡に向かっている。遺跡は、町から少し距離がある丘の向こうなのでアヤンさんの伝手で馬車を用意してもらった。ちょっと驚いたが、聞いた通り馭者がいた。この馭者はイシャン・ラルさんと言い、アヤンさんの友人の息子で口は堅い人だと言う。
体格が良いので、お弁当が3人分で足りるかなと思う。遠足のお菓子は、有ると言えば有る。果物、即ち水菓子と言う事で梨みたいなのを市場で購入した。分類はデザートになるかも知れないが、そもそもここイルでは、駄菓子屋さんみたいな店は無い。
それはともかく、イシャンさんは会った時から、アァ、とウンぐらいしか言わない無口な人だ。確かに話好きとは言えないようだ。それに、イメージ通り映画に出て来る、筋肉隆々とした、ボディーガードの様な立派な体である。アヤンさんもイシャンさんもグルカナイフのような物を持っている。これで益々、強面のボディーガードそうろうである。
さほど、遠出という訳では無いが、イルと言う国ではナイフぐらいは持つべき物なのだろう。だた、グルカナイフそっくりな大型の刃物は、刃渡りだけでも30センチある。アヤンさんはずいぶんと昔になるそうだが、イルの西に有る山岳地帯に行った時から愛用しており、人にも勧めていると言っていた。
アヤンさんによると、このナイフはくの字型に大きく内側に曲がっているのが特徴だと言う。山林での作業や枝打ちにヤブの草を払ったりするのに使われる。長さや重さも様々で好みのナイフが選べるそうだ。突く事や薙ぎ払う事も出来る。野生動物はもちろん、人と戦う事も出来る万能タイプのナイフという事だ。
「カトー。充填は上手く行ってそうだな」
「エェ、今、動く魔道具は11個になりました。その内アヤンさんの分が4個です。残りの7個が売れれば」
「後は、動く魔道具を売って、魔法書を購入するだけだ」
「そうですね」
「確か、気のいいカトーは魔道具の水差しを300万ルピーで売り渡したのだったな」
「ハイ。そうです。失敗しました」
「いい勉強になったと思うんじゃな。だが値段交渉は心配しんで良いぞ」
「エェー頼りにしてます」
「一個3600万で売れば、見積もりにあった魔法書5冊分。目標の2億5000万にはなるな」
「ハイ。ですが、そんなに上手く行きますかね?」
もちろん、たくさん買えれば良いが、希少な魔法書は高すぎて、おいそれと手が出ない。最初の見積もり通り行くしかないようだ。
購入予定は「魔道具の管理法・初級編」「魔道具製作の心得ABC」「入門、あなたも今日から錬金術師」「不法魔法具追跡27時間」「アレキ文明の魔道具を訪ねて」の5冊のまま。合計2億5000万ルピーであるが、これだって右から左へと出せる金額ではない。
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孫たち2人が乗った馬車が、盗賊団に襲われて攫われてしまってから、はや一カ月。知らせには、盗賊の数が多く、護衛も馭者も2人を守って死んだとある。ただ一人の生き残りも、盗賊団に襲われたと報告し、わずかな情報を言い残して亡くなってしまったとの事だ。だが、彼のおかげで盗賊団の様子が少し分かった。
ワシは元々この地の者ではない。このアヤン・パンディーが治めるカジュラホは、元はゴルガーンの町の領主だったのだ。ゴルガーンの町は昔から王家と血縁のパンディー一族が治めるている。だが、古都カジュラホの掃除をしてくれとの王の頼みで、この地に来てからもうすぐ2年になる。
楽隠居しようとしていた身だが、王の依頼を断る訳にもいかない。結局、ゴルガーンの統治を息子に譲って家族や孫たちとも別れてやって来たのだ。今は、息子のレヤンシュ・パンディーが治めるゴルガーンは、ウダイプールの町から北西200キロにあり、カジュラホからは830キロほど離れている。
カジュラホの掃除に、ようよう目途が付いた時、事件が起きた。ゴルガーンの町からウダイプールへ行く時の事であるが、母方の親戚である南の海近くが孫娘のアディティアの療養地として選ばれたのだ。貴族ゆえ、母が先に行って色々と段取りが必要だったのだろうが……。兄弟を呼び寄せる途中で、孫達が攫われたのだ。
報告によると、残忍なやり方は、おそらく噂になっているフルから流れてきた軍人崩れだろう。なにしろ当家の護衛を10人も馭者と共に惨殺したのだ。攫われた2人はまだ幼い。兄のシュリアの事も心配だが、妹アディティアは先年の風邪をこじらせてからは病気がちで、薬が欠かせないと聞く。かわいそうだが、覚悟をして下さいと息子からの書状に記されていた。
未だに孫を誘拐した者達の行方は分からぬ。事件が起きたのは、なにせ遠く離れた地である。2人を探しに行きたいのは山々だが、このカジュラホの領主として勤めを疎かにする訳にもいかず、まして捜索に出る事も出来ず悶々としていた。精々、街道を見張らせ、悪所の噂話に気を付けるぐらいが関の山であった。そんな時にカトーがやって来たのだ。
ワシが、カトーの事をおかしな者だと報告を受けてから、既に5日ほどになる。今は孫の誘拐が起こった事でカジュラホの町は秘密裏に警戒中だ。少しでもおかしな者は網にかかる。最初に不信を抱いたのは城門の衛兵だった。それは、この者が街道を歩いて来た事だ。まだまだ暑いこの時期、普通ならば駅馬車か商隊と共に来るはずだ。
確かに、歩いて来る者も少しはいる。年の頃から学生だとも思われたが、入場の列に並んで古都カジュラホの事を聞いていたようだ。学生ならば学究都市だと知らぬ者は無いし、行商人にしては荷物が少なすぎる。百姓や近在の者でもない。衛兵からは、子供といえど顔見知りであるなら、その場で合図がある。
旅装束だが、盗賊が出るかも知れぬ街道を旅するのに身を護る武器もなく、いきなり街道に現れたのだ。黒目黒髪だが、フルの者でもないようだ。この様な者は、町に入った時点で見張りが付いて、手はず通りの指定の宿に泊まるよう誘われる。
宿の主人もワシの息がかかった者だし、道具屋も出入りの者だ。意外だったのは、道具屋で何やら売ったらしいとの事だった。後で聴きただすと魔道具の水差しを売ったらしい。ワシの第六感は、カトーが何か知っていると感じていた。賊では無い事が分かったが、今度はなぜ高価な魔道具を持っているという疑問が出て来た。
ワシは、この疑問に興味を覚えた。この時、ワシの下に朗報を持って急使がやって来た。彼はゴルガーンにあるパンディー家騎士隊の伝令だった。知らせによると、孫たちは無事に発見され2人とも無事だったとある。それだけでは無く、2度目の知らせでは驚く事にラチャナの病は、まるで魔法を掛けられたかのように完治していると報告されたのだ。
※ ※ ※ ※ ※
我パンディー家騎士隊は、ようと知れぬ盗賊団の行方に焦っていた。御子息のシュリア様と御令嬢のラチャナ様が、かどわかされてから一カ月近くになろうとしている。パンディー家の者だけでなく、縁のある者すべてが四方八方に散って、お二人を探し回っている。
それは襲われた馬車の一人で、今は息絶えた者が教えてくれた方角へと、我騎士隊を進めていた時だった。先行する偵察隊が、手を振る駅馬車の馭者を発見し近寄って行った。駅馬車は8頭の馬を引き連れており、ウダイプールの町へ引き返す途中だった。
事は重大であった。馭者が襲い掛かった賊の壊滅を知らせたのだ。賊の風体を聞くに、若様達をかどわかした盗賊団ではないかと思われた。すぐさま、偵察隊からの伝令が後続の本隊に知らせに走る。知らせを受けた我本隊は、馬の足を速めて駅馬車を発見した場所を目指した。
本隊が着くまでに、命拾いした馬車の馭者と乗客達は落ち着きを取り戻したようだ。皆の話を聞いていた者によると、盗賊のアジトには、2人の女性と2人の子供が囚われているという。その子供達は、高級な馬車に乗っていたようだと話していたと言う。この話から、私は御子息と御令嬢をさらった者達と判断した。
皆の話では、襲った盗賊は10人との事だが、襲われた地で魔法使いの少年が1人で賊の9人を倒したそうだ。そして、生き残った盗賊の口を割らせて、アジトに20人以上の盗賊が居ると知ったらしい。今は、ただ一人生き残った盗賊の案内で、冒険者と魔法使いの少年が盗賊のアジトを調べに向かっていると言う。
馬車に居た商人が、襲われた馬車までの案内を引き受けてくれた。9人と言うのは何かの見間違いでないかと思ったが、襲われた地に着くと確かに新しい土盛がある。その魔法使いの少年が、魔法を使って掘ったと言う。彼の話に、いよいよ信憑性が増した。
商人が聞いた話では、ここから1キロほどに盗賊達の馬が繋いであったそうで、探索に出した者が馬が繋がれていた跡を見つけた。だが、残念な事にアジトの場所は北にあるとだけしか聞いていなかった。私達は致し方なく、話に有った使われていない巡礼路に沿って捜索を開始した。
途中、また新しい土盛の報告を受けた。行ってみれば、馬車の襲撃地点の土盛よりかなり小さかった。そこには石のように固い土で作られた、墓標の様な物が添えてあったのだ。この土盛は子供にしては大きい。話に有った女のものかもしれない。となると、希望はまだある。
やはり、この方向で良かったようだ。捜索再開を命じたその時。先行の偵察隊より、丘の向こうにある古い祠で手を振る人影があると急報が入った。
※ ※ ※ ※ ※
手を振っていたのは冒険者のヴィハーンであった。着いてみると盗賊だろう5人が後ろ手に縛られておとなしく座っていた。ヴィハーンは、盗賊団の壊滅を知らせてきた。そして彼に案内されて、騎士隊は、木陰で休んでいた2人を見つける事が出来た。
「やはり、シュリア様とラチャナ様でしたか。探しておりましたぞ」
「アディティア・ダッタ隊長でしたか。安心しました。どうか、妹をよろしくお願いたします」
「シュリア様、どうされました」
「僕は、もう立っておれません」
「大丈夫ですか?」
「エェ、もう大丈夫です」
「突然、お倒れになったので心配いたしました」
「それは済みませんでした。気が緩んだのかもしれません」
「無理もありません。ですが私より、妹君が心配されておられましたよ」
「そうなんですか。兄と妹が逆転してしまいましたね。ㇵㇵㇵ……。この間までは、妹は体が弱い上に、持病があるので無理をさせられなかったのですが……監禁中にも薬が切れて、もうダメだと思ったぐらいなんです」
「そうでしたか。ですが、ラチャナ様は至って元気なように見えますが」
「ハイ、危ない所でしたが、魔法使いの少年が手当てをしてくれたのです」
「ホー。それはそれは」
「お礼を言いたいのですが……。いないようですね」
「我々も探したのですが」
「彼は、何処へ行ったのでしょうか? 大丈夫でしょうか?」
「そうですね。たぶん大丈夫でしょう。30人以上の盗賊団だったはずです。それを事も無げに制圧しています。かなりの力を持った魔法使いのようです」
「一緒にいた冒険者にも聞きましたが、彼はこの旅で初めて知り合ったそうです。あまりよく知らないとの事でした」
「そうですか」
「ハイ、騎士隊はシュリア様がお休みの間に、祠を徹底的に調べましたが、盗賊の物ばかりで手掛かり一つありません。おそらく我々が姿を現す前にここを離れた様ですね」
「アディティア隊長。捜索をお願いできませんか?」
「申し訳ありません。二度とこのような事は起こせません。騎士隊は、お二人の無事なご帰還を命じられております。護衛の騎士を減らして、探せと命じる訳にはまいりません」
「それはそうですね。妹の事も有りますし、戻らなければならないでしょう。無理を言いました。命の恩人ですが、今はお父様達に知らせを送り無事に帰るべきですね」
二人の無事を知らせに早馬が走る。もちろん、吉報はカジュラホの領主アヤン様の下にも知らされた。
※ ※ ※ ※ ※
「お父様、只今戻りました」
「オゥ、オゥ。シュリアもラチャナ。二人ともよく無事に戻ってくれた」
「ご心配をおかけしました」
「二人ともケガは無いか? 大丈夫なのか? 医者を呼んである。直ぐに診てもらえ」
「お父様。私、前よりも元気になりました。心配しないで下さい」」
「そうか。そうかー。いい子だ。だがな、ラチャナ。父の為にも、よく診てもらいなさい」
「閣下、ご令嬢のラチャナ様が」
「どうした? 何かあったのか!」
「イエイエ、ご心配にはおよびません。ご令嬢は全快しておいでです」
「それは良かった。ンー、なんだと! いま全快と言ったか? 胸の病はどうなった!」
「それが、全快しておいでです。間違いありません。奇跡が起こったとしか思えません」
「お父様、私は寝ていたので分かりませんが、シュリアお兄様に教えていただきました。優しい魔法使いのお兄さんが手当てをしてくれたそうです」
「本当か。シュリア」
「ハイ、ラチャナのお腹に手を当てて、頑張れよと言っていました」
「魔法使いか。アディティアの言う通りだったか。それも凄腕だな」
※ ※ ※ ※ ※
王国歴 184年11の月10日。既にイルに飛ばされて一カ月26日が過ぎている。今頃イリアの皆は、どうしているのだろう? イリアだったら季節は初秋に入ったばかりだろうが、イルではまだ夏の感じが続いている。
その日は、町の郊外にある遺跡に連れて行ってもらうので、前日決めた通りアヤンさん達と南城門で待ち合わせた。僕の顔を見たアヤンさんは、昨夜は遅かったせいか、今日は体調がチョット不良だと言っていた。
「遅れてすまん。急に良い知らせが入ってな、バタバタしたんじゃ」
「良いですよ。今日は、無理を言って僕に付き合ってくれるんですから」
「それが、本当に良い知らせだった。孫の事でな。思わず涙がこぼれそうじゃったわい」
「ヘー。お孫さんの事で嬉しかったんですね。どおりで」
「ハハ、涙もろくなると言うのは本当じゃな。年は取りたくないもんじゃ」
「何を言っているんです。十分、若いじゃないですか」
「イヤ、さっき言ったように、最近は忙しかったので疲れが出たのかもしれん」
「そうなんですか。忙しくさせましたか?」
「気にするな、カトーの仕事以外にも野暮用が有ったんじゃ」
「マァ、今日は、朝から蒸しますからね。不調なのは天気のせいですかね」
「アァ、ここいらでは珍しい天気だ。そうかもしれん」
「無理しないように、ゆっくりと行きましょうか?」
「そうじゃな」
そこは、言い伝えも無いようで遺跡としてか残されていないらしい。アランさんは僕が期待外れにならないように念押ししてくれた。詳しく探せば、古都と名が付くほどの都市である。何処かに遺跡の記録が残されているのかもしれない。今日は、息抜きの遠出。マァ、遠足みたいなものと思う事にした。
「遺跡と言っても、円卓の形をした石碑の様な物があるだけだ。良いのか?」
「エェ、お願いします」
「カトーがそれで良いなら構わんが。そうじゃな、外で弁当を食べるのも一興じゃろうて」
「イシャンさんは、誘わなくて良いんですか?」
「弁当を置いていけば良い。さほど、美しい場所でも感銘を受ける場所では無いしな。却って馬車で昼寝しながら番をしていた方が良いじゃろう」
「そうなんですか。やっぱり、なにもない所みたいですね。暑いし、行くのが面倒になってきました」
「いい若いもんが何を言ってる。サァ、行くぞ!」
「ここを超えれば遺跡跡が見えるぞ」
「ハーイ」
丘を越えると、小な隕石でも落とされたのうだろうか? 突然、何もない石の窪地が現れた。足元には、まるで溶けたアメのような石が落ちていた。岩山の上部が溶けて消えたか、衝撃波を受けて崩壊したのだろう。600年前のムンドゥスの隕石テロでは、2290個以上の隕石が落されたという。その一つが、ここに落とされたようだ。
「カトー。何をボーとしているのじゃ。こっちだ」
「エー。物思いに耽っていたんですよー」
ここには、産業基盤となる何かが有ったのだろう。あるいは、古都カジュラホが狙われたのかもしれない。もっとも当時は古都とは呼ばれなかっただろうが……。軌道誘導が失敗したのかもしれない。はたまた、防御結界が衝撃を防いだのだろうか。わずかな差がここを破壊し、この岩山が盾となってカジュラホの町を救ったのだろう。今となっては知る術は無い。
「どうしました?」
「チョット休憩しましょうか」
「そうさせて、もらおうか」
「アヤンさん?」
「大丈夫だよ」
「いいえ、ふらついてますよ。少し座りましょう」
「驚きましたよ」
「驚かせたか。すまんかったな。護衛をしていた時の古傷がなー」
「そうなんですか」
「ウーン」
「アヤンさん! 大丈夫ですか? 胸が苦しそうですが?」
「ウーン。ウウゥー」
「ウワァー、アヤンさん! どうしました?」
「左の内ポケットに薬が……ある」
「アヤンさん、この薬で良いんですね」
「ウウウー」
座らせた、アヤンさんが身をひねって苦しんでいる。飲ました薬が効いていない感じだ。医者を呼びに行こうかと思ったが、町まではかなりの時間がかかる。取り敢えずヒールを使ってみようか? 上手く行ったら儲けものだからな。というより効いてもらわないと大変な事になりそうだ。
「もう具合は良いんですか?」
「大丈夫だ」
「薬が効いたんですね」
「ウーン。そうなのかな?」
「きっとそうですよ。元気になって良かった。心配したんですよ」
「アァ、ありがとう。悪かったな」
「しかし、自分でも死ぬかと思ったよ」
「正直、僕もです。で、今の調子はどうですか?」
「段々と良くなっている感じだ。倒れた時はもうダメだと覚悟したんだが……。カトー。本当は、お主の魔法じゃろ。礼を言う」
「イヤー、バレちゃいましたね。たまたま上手く行っただけですよ」
「そんな事は無いぞ」
「マァ、良いじゃないですか。良くなったんだから。おそらく、この魔法の効き目は、だんだんと上がるんだと思います。ですが今日は、もう帰って休んで下さい」
「アァ、そうしよう。感謝する」
「そんな事は良いですから、起きちゃダメです。サァサァ、もう少し横になって下さい」
これって心筋梗塞なの? ヒールで手当てをしたけど、すぐには効かないと思ったが、随分と顔色が良くなってきている。心筋梗塞の症状と言うのは確か、呼吸がしづらいそうだ。ウム、確かにそう見えた。息が詰まる感じというのもそうだ。中々、空気を吸い込めないように見えるのも同じ。
冷や汗も出ているし……。蒸し暑いのに丘まで歩いて来たし、朝から不調だと言ってたからな。やっぱり、急性心不全なんだろうかな? これって、お昼ご飯の時に見ていた、テレビ番組の知識だからなー。あの女の子の時もそうだったけど、これからは取り敢えずヒールだな。
※ ※ ※ ※ ※
帰り道では、重力魔法でアヤンさんを背負っていたが、暫くすると心臓の痛みもなくなり、胸の古傷も無くなったと喜んでいる。老人とはいえガッシリとした体だ。ならば、背中から降りてもらう事にした。最近は10個ぐらいの魔道具を身に付けているので、重力魔法を使っていても動きにくくてしょうがなかったんだ。
「もう少しで三叉路です。馬車の所まで20分ぐらいですね」
「ン、カトー。暫し待て! どうやらお迎えがいるようだぞ」
「何ですか?」
「まずいな。盗賊か?」
岩を背にして覆面をした賊が20人、そのうちの3人は小銃を持っていた。追剥にしては大人数だ。
「やり過ごせそうもないな」
「止まれ! 小僧を置いていけば、爺さんには何もしないぜ」
盗賊のリーダーらしき者が声をかけて来る。悪事を重ねたのであろうか。その声は、絶対に信じてはいけない者の声だ。
「爺さん、諦めて小僧をよこすんだ」
「カトー。病は無かったかのように調子が良いが、如何せん賊は20人を超える。半分は倒せるだろうが……」
「ヘー。やるっていうのか。人が親切に見逃してやると言っているのになー。逃がしゃ、しないぜ」
※ ※ ※ ※ ※
病は治り始めている気がするが、思うようには体が動くまい。ワシだけではカトーの身は守れぬだろうな……。やれるだけ、やらねばなるまい。
ワシは、ふわっとしゃがみ込んで小銃を持った3人に向かった。グルカナイフがキラリと光り、集まっていた3人を素早く切り裂いた。これで、銃は使えなくなった。他に飛び道具を持つ者はいない。これなら何とか逃げれる。銃の護衛だったのだろう、近くにいた賊が切りつけて来る。
「この野郎!」
とっさに体をひねって剣を躱して距離を置く。
「ちくしょう! 待てぃ!」
待てと言われて、待つ者はいないぞと思いながら再び距離を取ると、背後から追いかけてくる賊が、頭を目がけて剣を突き出してきた。だが、賊は勢い余って前につんのめり、たたらを踏んだ。そこへ、ワシのナイフが生き物のように動いて賊の喉を食い千切る。
「ぐ、ぐふうっ」
賊は喉に手をあてて押さえようとしたが、ばったとその場に倒れた。
「後、16人。カトー、今だ。逃げろ!」
そう声を出して、カトーの口元を見ると……何やら言っていた。
「追剥か何だが知らないが、運が悪かったな」
※ ※ ※ ※ ※
「兄貴、奴です」
「変なガキだな。本当にあいつなのか?」
「エェ、間違いありません」
「ヤサは、分かっているんだろ」
「ハイ、城門近くのハーミと言う宿です」
最近、動かなくなった魔道具を買い集める者がいる。そんな話が安宿街パハールの影の黒幕の耳にも入ってきた。他からは魔道具を貴族に売る者がいると噂話が聞こえてきた。結びつけるのは簡単だった。そんな奴が町を出て郊外の遺跡に向かうとは好都合だった。
「ボス、小僧が出かけます」
「昨夜、食堂で聞いた通り遺跡に行くんでしょうか?」
「そのようだな」
「弁当は、3人分頼んだそうです」
「1人じゃないのか? マァ、いい」
「そうですとも。相手は3人です。20人もいれば何とでもなりますさ」
「見つかるんじゃないぞ」
「ハイ、分かっています。着いたら使いを出します。ボスはゆっくり来て下さい」
爺いと馭者など、簡単に始末できるだろう。取り敢えず、小僧さへ捕まえれば良い。20人は多すぎるが、どうせ暇をしている奴らばかりだ。動く魔道具が手に入れば、小僧に多少のケガがあっても構わない。むしろ、手の一本ぐらい無くなった方が言う事を聞くかもしれない。
「奴らは、馭者を置いて、岩山の道を行ったか」
「ボス。帰りを襲うなら、確かこっちに道がありましたぜ」
「そうだな。わざわざ岩山に登る事もねえ。良し。そっちで待ち伏せする」
「ボス、奴らです」
「良し。皆、ぬかるんじゃないぞ!」
※ ※ ※ ※ ※
3人。あっという間にアヤンはナイフで切り裂いた。それも3人の死体は、さほど離れていない。アヤンがどれほどの達人なのか分かる。つまり、短い時間でザクッ、ザクッ、ザクッと、非常に手際よくやった訳だ。マァ、こうなったら仕方ない。正当防衛成立だな。賊は灰色のカトーを襲ったのだ。運が悪かったと思ってくれ。
賊達の頭が水に囲まれている?
「○×○×。ゴボゴボ」
アヤンはナイフを鞘に納める事無く賊達を見ていた。残された14人の賊は必死になって水球から逃れようとしていた。
「.。o○」
5分ほど手足をバタつかせていたようだが急に静かになった。見張り役なのだろう、少し離れていた賊がそっと逃げ出そうとしたが、アヤンのナイフが飛ぶ。
「逃がしはしない」
「ア、ウワァ!」
「もう、いないようだな」
事は終わったようだ。、聞き耳の魔法を使ってみたが周りでは音はしない。遠く下の方から足音が聞こえるがおそらく騒ぎを聞きつけた馭者なのだろう。逃げれば良いのに、僕らの安否を確かめに来るなど中々に律儀な者である。
「無事でしたか? アヤン爺」
「アァ、何とも無い」
「血だらけですが?」
「これは、賊の返り血だ。どうやら、少し腕が鈍ったらしい」
「そうでしたか」
「それより、周りを視て見ろ」
「ウーン、数が多いですね。どうします?」
「こんな所から運ぶのは難儀だな。かといって、このまま捨て置くのは忍びないか……。埋めてやらねばなるまい」
「じゃ、僕が土魔法で穴を掘りましょうか?」
「フム。そうか、土魔法でな。それは助かるな。では、ワシとイシャンは剥ぎ取りをするか」
「こいつらは、パハールの者です」
20人分の大穴を土魔法で掘っていると、賊を調べていたイシャンの声が聞こえる。剥ぎ取りをすると言っていたが、イシャンの手の動きが何となく違う。身元を探るような仕草なのだ。アヤンさんに話しかける時もチョット変だ。でもこれで、一段落ついたな。
アヤンさんが近くに寄ってきて、不思議な物でも見る様にジッと僕を見ていた。マァ、魔法使いなので不思議だと言うのは分かるが……。
「アヤンさん。服が返り血で真っ赤です」
「アァ、3人だったので汚さずに片付ける事は出来なんだよ」
「待って下さい。今、クリーンの魔法を使います。血は温水より冷水かぬるま湯の方が落ちやすいので、チョットだけ冷やりとしますが、我慢して下さい。では」
「アワワワ。カトー、ウップ」
「ハイ、お疲れ様でした。キレイになりましたよ。じゃ、行きましょうか」
さっきの立ち回りを見てからは、さすがにアヤンさんを背負う事も無いだろう。剥ぎ取り品の量もかなりある。マァ、心理的に堪えたのは確かなので、ゆっくりと馬車まで向かう。途中で一服した時、ククリナイフの柄に着いた血を拭きながらアランさんが口止めをしてきた。
「ナイフはクリーンの魔法じゃったか、あれで奇麗になっていたが。やはり、得物は自分で手入れしないとな。アァ、それから襲われた事は、他言無用じゃ」
「何故でしょうか?」
「子供一人と爺に、悪党が20人がかりで襲った理由が噂になるからじゃよ。その上、魔道具が絡んでいるとなれば、大騒ぎになって困るのはカトーだぞ」
「なるほどね。ハイ、分かりました。誰にも言いません」
しかし、20人に及ぶ殺人事件についてはお咎め無しなのか。アヤンさんは、たとえバレたとしても些細な事だと言う顔をしている。マァ、アヤンさんが黙っていろと言うのは、口には出さないが何かの考えがあるようだっだ。お任せして気が楽になったのは確かだが……。取り敢えず感謝しておこう。
※ ※ ※ ※ ※
この町の商業ギルドと、ワシとの関係はこの2年間でかなり良好になった。随分と掃除に精を出したお蔭だな。後は安宿街のパハールに少し残っているだけだ。もちろん、カトーには危ない所だと言って近づけないようにしてある。
賊は、安宿街のパハール者だった。そこは、孫たちが見つかったので監視網を引き揚げさせたが、孫の誘拐に加担した者がいるやも知れないと思って重点監視していた街だ。襲った馬車の馭者やワシの事は知らなかったようだ。
悪事を働く者は、妙に勘の良い時がある。カトーが目を付けられていたのだろう。お忍びとは言え領主を襲うなど言語道断、普通なら八つ裂きにされるのが当然だ。
「この事は、バレますよね」
「すぐにでは無いだろうが、20人が帰ってこんのじゃ。遅かれ早かれ話が出るだろうな」
「騒ぎになりますね。それじゃあこれから、魔道具の売り先を探すと言うのは、難しいかも知れませんね」
「そうだな」
「魔法書を諦めるかなー」
「ノンノンノン。まだ、諦めるのは早い」
「?」
「売る先は貴族じゃ。当てはあるからな」
「ヘー。アヤンさんは顔が広いんですね」
「そんな事は無い」
「で、どこの貴族なんです?」
「相手は、ここの領主じゃよ。あいつの命を助けた事が有る。今まで何かと世話をしたんじゃ。本を欲しいんじゃろ。間を取り持ってやろう」
※ ※ ※ ※ ※
「本屋には、5冊だっな。見積もり通りの額を渡してくれ。本はカトーに明日渡す」
「ハイ、了解いたしました。早速ご用意いたします」
「魔道具の販売代金から……」
「承知しております。残金という事でお渡しになるのですね」
「200万ルピーぐらいか」
「少し多いように思いますが」
「構わん」
「そのー、旦那様。この魔道具はどういたしましょうか?」
「こちらにとり置く。貴重な魔道具だからな。半分は陛下に献上させて頂くつもりじゃ」
「左様でしたか。旦那様らしいです」
「で、魔法使いのカトー様はどうなさいますか?」
「あの、カトーなる者は善なる者にて、お構いなしとする。マァ、このままほっておくようにという事じゃ」
「では、そのように」
「頼むぞ。あとは……、そうだなぁ。国境を超えるので、通行許可書も付けてやるとしよう」




