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癒やされたいキャンパー。異世界を癒やしに行く。  作者: カトー
第18章 新世界
179/201

179 帰還の旅 古都カジュラホ

 ※ ※ ※ ※ ※


 盗賊の祠近くで、身を隠して半日。乗って来た馬は騎士隊が回収して行ってしまった。移動手段を無くしたので、少し離れた場所で、空飛ぶ絨毯3号機をまる1日かけて製作する事にした。確か、今日は王国歴184年10の月26日、馬車に乗っていた皆さんから聞いた西の町、古都カジュラホを目指す事にした。


 古都カジュラホはウダイプールより一回り大きな都市だそうだ。マァ、川の近くだそうだから、川さえ見つければ街道も通っているだろうから何とかなるだろう。何時もの様に地図魔法で過去の地図と比べると、確かに町が書き記してある。となるとアレキ文明の都市で、隕石テロを生き延びた幸運な町なのだろうか。


 飛行行程はおよそ700キロ。真西に進むより、若干伸びて50キロ増しにはなる。時速約40キロで18時間の予定だ。魔石を使用するなら、頑張れば1日の飛行である。体内魔力だけでは、3日をかけて余力を残しての移動になる。


 夜は節約した魔力で、簡易版の城塞ホテルを作って凌ぐ事にした。マァ、魔力を使うので止めてもと思ったが、安心感は変え難いのだ。人気のない所を選んで作ったのだが、念の為に翌朝には土に戻しておいた。


 食料さえあれば一気に帰還とも思ったが、祠で見つけた食料は2時間探して3日分だけだった。騎士隊が、いなくなったの確認してから祠に引き返したのだが……。40人の盗賊が居た割には見つけた食糧が少ない。これは、騎士隊がキッチリと回収して行ったからだろう。


 フー。馬達だけでは無かった。金目の物はもちろん、金気の物。鉄製の鍋や釜をあらかた、どこからか持って来た馬車に積み込んで引き揚げて行ったようだ。残してあったのは、わずかな食料以外はゴミの様な物ばかり、これだけ見つけれたのも全くの偶然だった。


 ヴィハーンさんから、路銀として50万ルピーを持たされた時に教えてくれた事が有る。盗賊のお宝は、ヴィハーンさんと騎士隊で山分けになるかと思えば、さにあらず。持ち主がハッキリと分かる物は別にして、騎士隊の出動経費など、もろもろの経費を差し引いてから残りを分ける物という事だ。


 だが、この経費とやらに関係なくとも結構色んな物がプラスされるらしい。彼がお宝をもっと持って行けと言ったのもうなずける。原則として、ある所から取るのは正しいかも知れないけどー。騎士隊は完璧な仕事をしていったもんだなー。と、思わず感心した。祠には、騎士隊の見残したわずかな麦粉とコメがあっただけだ。有るだけましだったが……。


 長粒種のコメは、ウダイプールの町にも有る様だ。東方のフルから流れてきた盗賊なら、食べ慣れたコメを備蓄食料としていたのも不思議ではないだろう。ちなみにコメは、頑張って栽培中の短粒種である。新しい品種かも知れないので持って帰れば良いのだが……。


 移動するのには野生動物を狩りながらとも思ったが、飢えてさまよう事になれば前回の二の舞だし。なにも荒野を目指す必要はない。マァ、町に寄って食料を購入すれば済む話である。珍しい物も有るだろうし、タネのようにグッドなお土産を見つけれるかもしれない。


 なにせ、海に出るまで1万キロの旅である。急いで帰国したいのは山々だが、色々な物を見聞きする良いチャンスと言うのは本当だ。腹も減る。第一、塩味も無い食事はイヤである。


 そんな事を考えているうちに、貴重な魔道具の水差しを手に入れた事を思い出した。アレキ大陸では、あまり見かけなかった魔道具だが、中央大陸ではかなりの魔道具が有るようだ。ならば、魔道具を探してみるのも良いかも知れない。犬も歩けば棒に当たると言うし、作物のタネとは違うお土産になるだろう。


 魔道具はイリアに居た時に話には出てきたし、ロンダ城の宝物庫の品の中には、結界や攻撃魔法が使える物があると陛下から聞いてはいた。おそらく、魔道具とういうのは付与魔法とかが要るんだろうが……。考えてみれば、何度も使った魔法の巻物も付与魔法なんだよなー。


 付与のやり方が分かれば凄い事だが、さっぱり分からん。魔石小の充填時には、身に着けておけば余剰魔力を使って2か月ほどでOKだった。しかも、充填時間も徐々にだが短くなっているようなのだ。これも魔石への魔力付与と同じだと言えるのだろうか?


 だとしたら、この魔道具の水差しにも魔力の充填が出来るかも知れない。物は試しである。水差しは、陶器製なので割れないように布に包んである。取り敢えず、魔石のように体の近くに有るようにしないと充填しないだろう。上手くすれば、魔法の水差しにも同じように魔力充填が出来るんだろう。


 魔石小で2か月だった。たぶん水差しは、魔石小と同じだけの魔力量はいらないだろう。なら、5、6日も我慢すれば使えるかも知れない。マァ、少しブラブラするが腰にヒモを付けて身に着けておけば良いだろう。


 昔、と言っても4年前だが、思い出してみれば転送ステーション113から運んだ物品は、短時間なら魔力を流せば動く物が多かった。最初は冷蔵庫とエアコンが2台ずつだったが、あれらも魔道具なんだろうな。作る事は出来ないが、使ったり動かす事は出来た。これって、よく言うテレビやスマホと一緒だよな? 


 じゃ、難易度はテレビやスマホ並みという事か。鉱石ラジオぐらいなら、なんとなく作れそうな気がするが、イグナーツは思念波通信機を作ったしな。今迄は、思いつかなかったが、うちのホムンクルス達も魔道具なのか?


 でも、ホムンクルス達は道具じゃないし……。ぎこちないが今では人間のように自分で考えて行動している。これは、意思を持っているという事かな? 生命の規定と言うのは難しいもんだ。ウーン。真面目に考えていたら、頭が痛くなって来た。


 ※ ※ ※ ※ ※


 古都カジュラホは、イルの首都キッバルとクシャーナ王国の国境の町アラークを結ぶ街道上の町である。見つからないように、少し手前の街道沿いに降りる。ここで空飛ぶ絨毯3号機とはお別れである。念の為、城塞ホテルと同じように分解しておく。マァ、意味は違うが灰は灰に、土は土にである。


 荷物と言っても、カバンと祠で拾った布袋が一つ。布袋には、尽きかけた食料と腰から外した魔法の水差し。さすがに、水差しをぶら下げているのはおかしいと思うので袋にしまったのだ。他にはクリーンの魔法で洗浄したシーツと着替えの服が入っている。


 何時もの様に、50万ルピーは体の3カ所とカバンに分けて持つ。そう言えば、海外旅行の時、お金は分散しておけと言われていた。意外と外国と異世界は共通点が多いかもしれないな。日本は本当に平和だったんだなー。と、マァ。益にもならない思い出だ。テクテク歩いていけば、1時間ほどで着くだろう。


「見栄を張らないで、路銀をもう少しもらっておいた方が、良かったかなー」

「何を、ブツブツ言っているんだ。列が進んでるぞ」

「すいませんー」


 城門で30ルピーの入城税を、ウダイプールと同じように門兵事務所で支払う。結構、大きな町である。城壁はアレキ文明の規格なのだろうか? 30メートルはある城壁が一部だが残っている。列に並んでいる時に聞いた通り、一歩町に入ると、すり減った石畳の道と年代物の街並みが続いている。


 異世界とはいえ、カジュラホは古都の佇まいである。この町では、イリアの大学に当たるイル国最古の学問研究所が置かれているそうだ。行きかう人々の姿に若い学生風の者が多いのはその為なのだろう。旅装束とはいえ、僕と年恰好が同じような者がいるのは幸いだった。


「まずは、宿屋探しか。こういう場所には客引きが居るもんだが……」

「お客さん。安くて奇麗な宿ハーミです。どうです?」

「ウーン。いくらですか?」

「損はさせませんよ。お一人ですね。一晩一部屋3000ルピーでどうです」

「朝食は付いてますよね」

「エェ、お付けしますよ」


 じゃ、お願いしますと言うまで10分。何時もの様に値段交渉をする。2500ルピーと少し高いと思ったが、宿の客引きは1人だけだった。どうやら、到着時間が早かったせいらしい。本来、駅馬車や商隊の移動行程と到着時間は調整されており、普通は夕方が混むそうだ。


 もちろん、客引きはウダイプールの町の入口にも居たのだろうが、狩人達と一緒に荷を運んでいたので声がかからなかったのだろう。宿の客引き、日本の昔で言うなら駅前旅館かな。番頭さんが僕を案内してくれる。ネットで予約は当たり前の世界だったからなー。昔の映画を見ていて良かった。


 選んだ部屋は3階だ。この宿もウダイプールの宿と似たような作りだった。部屋に入って荷解きだが、袋から中身を出すと水に濡れている。原因は魔道具の水差しだろうな。この水差しは陶器で出来ており、上蓋と注ぎ口にも蓋のある旅行用タイプなので、少し漏れたのだろう。どうやら、やる事が一つ増えたようだ。


「古物商を探さないと……」


 ※ ※ ※ ※ ※


「すいませんー。チョットお聞きしたいんですけど」

「なんですか?」

「手持ちの品を売りたいので、お店を教えて下さい」

「なら、道具屋ですね」

「そうかー、道具屋だっな」


 宿泊延長の値段交渉をしがてら、道具屋の場所を聞いてみる。帳場で対応してくれた主人は親切だった。宿から近い店の名を、紙に書いて機嫌良く渡してくれたのだ。おまけに宿に迷わず帰れるよう、ハーミの場所を書いてくれた。地図魔法が使えるので、大丈夫ですとも言えない。値段交渉は宿屋の勝ちだったんだろうなーと思う。


 とにかく、情報を仕入れた。市場に行く途中に教えられた店に寄ってみる事にした。確かに、雑貨が並べられ家具が置かれている店がある。道路側に置かれている物はみな古くて傷んでいる物が多い。防犯スタイルはどこも同じなのだろう。


 だが、日本のようにレトロな佇まいが絵になる家具や、道具が修復されて並んでいる訳では無い。1軒目の店は、ざっと見流しただけだが普通の道具屋だった。次に、宿屋の主人が、高そうな品が置いてあると言っていた店に向かう事にした。


 2軒目は、かなり大きな店で、お金が無いと入りづらいような店である。そこは元社会人である。疑念を持たれないように、チョット見せて下さいと明るく声をかけて中に入る。パッと見、やはり新品は少ないようだ。だが、奥には年代物の装飾家具や細工の凝った道具が置かれていた。どうやら、この店で良いようだ。


「いらっしゃい」

「エーと、買取をお願いできますか?」

「ン? 何をかな?」

「これなんですけど」

「水差しですか。今、うち店には数が有りますので……チョット」

「ただの水差しじゃないんです」

「皆さん、そう仰いますよ。マァ、良いでしょう。見るだけですよ」


「じゃ、本当に魔道具の水差しなのかい?」

「ハイ、そうです」

「これが売れたら、代金はお前さんの物になるという訳かな?」

「エェ、叔父さんから貰いました。聞いていた通りなら、代々家宝として伝わった物なので、かなりの値が付くそうです」


 水差しを、魔道具と口で説明するのは手間だったが、それならばと、バケツを持って来てもらう。1リットルのペットボトルサイズの水差しから、バケツ3杯の水が出て来るのを見てようよう納得したようだ。もっとも最後の一杯は、自分の手でバケツにそそいでいたのだが。なんと、値決めをするまでに1時間近くも、とっかえひっかえ考えていた。


 僕は主人の考えがまとまるまで、鍵が付いた奥のガラス棚をみていた。中には7個の道具が飾られていた。決して高くは見えないガラクタみたいな物だ。だが尋ねてみると、動かなくなった魔道具で、手前の3個は火魔法の道具らしいとの事だ。


「魔道具は珍しいのですよね?」

「もちろんだとも。動く物は本当に数が少ない。この棚の物は魔道具だが動かない。だが、動かない物でも結構な値が付くんだ」

「じゃ、この水差しも高値が付きますよね?」

「かも知れん。が、ここの棚に有るように、動かない魔道具には色々と種類があるんだ。水差しが高値になるとは限らんよ」

「そうなんですか、残念です」


 高価な魔道具を買い取るんだ。そこは慎重に検討しているのだろうと思っておく。入手方法を説明するのは難しかった。冒険者だった亡くなった母方の叔父の持ち物である。家宝であったが、今は自分の物で、これを売って町での商売の元手としたいのだが……云々。信じたかどうかまでは分からない。


「とは言ってもねー。しかし、せっかく来てくれたんだ。これでどうだね?」

 と言って指を1本立てた。そこはそれ、分かっていますと言う顔で両手を出す。

「10本は、いくらなんでも高い。これでは?」

 右手の指が2本出された。

「2本ですか? 安すぎませんかー。7本と言いたいですけど……。さっき見せて頂いた、動かない魔道具が有りましたよね。あれをつけてくれれば」

 3本の指を、思い切ったように店主の目の前に出す。

「分かったよ。今。持ってくる」


 目の前に300万ルピー。イルのミスリム硬貨18枚が積まれていく。イリアなら3600万エキュになるのかな? 日本円でなら900万円になるなんて。まさか指が一本100万ルピーとは知らなかった。魔道具という事で、一本1万では無いだろうと思ったが単位が違った。ボディアクションだけじゃなく、ちゃんと聞く必要があるなー。


「勘弁してくれ。そんなに首をかしげていても、これ以上ルピーは出せないからな。動かないとはいえ、魔道具を7個付けただろ」

「ハイ、分かっています」


 商売の元手には十分になった。商売しないけど……。ホント、今日は良い日だった。道具屋の主人もニコニコ顔だ。不思議なもんで、店を出てから買取金額がひどく安いような気がしたのは何故だろう? この後、両替屋に寄って、ミスリム硬貨2枚をイルの金貨12枚に交換してから宿に向かった。


 ※ ※ ※ ※ ※


 小僧が、魔道具の水差しを持ち込んでから1時間かー。店は早じまいだ。本日休業の札を出して、店の者は使いに出しておく。しかし、今日は本当に良い日だった。家宝として伝わった物だそうだが……。小僧がやっぱり安いと言って戻ってきても追い返すつもりだ。しかし、動かない魔道具など何にするんだろう?


 あいつは、国への土産にすると話していたが、ここで商売を始めるんじゃなかったのか。マァ、そんな事はどうでも良いな。まったく物の価値を知らないと言うのは困ったもんだ。もっとも、そのおかげでこちらも商売が出来る訳だが……。


 やっぱり、箱のある方が価値も高く見えるだろうな。ここから一仕事だ。まず、店内にあった少し壊れている古い箱を持ってきる。もう少しでゴミになりそうだ。高そうに見える箱は500ルピーの売値だったが、二束三文で手に入れたものだ。近所の布屋で見つけた布袋は2800ルピーだったな。包装用に購入したが、中々良い感じだ。


 箱を土で汚す。話に聞いた紅茶みたいな物があればなお良いが、有ったら箱に塗るんだがな……。表面を洗い、木地をこする。 古道具特有の埃っぽい感や、年代物の重みという味わいのある古道具の様に見えるようになったかな? 何をしたいのかと言うと時代を付けるのだ。


 箱を薄い泥水に浸して、年代物のような印象にしておく。家宝だったのを手に入れたと話をするか? おかしくない程度に見えるようにする。ここがポイントだ。そう、一見、古いものと間違えてもしょうがない。もちろん、中身には手を付けない。そんな事をしたら偽物とか贋作とか言われかねないし、店の信用にキズがつく。


 マァ、お化粧は大事だからな。ここが素人と商売人との違いだ。何処かでは、どんどん偽物が作られている様だが、貴族相手にそんな事は出来ない。得意先の貴族は、金離れは良いが真偽には厳しいのだ。下手に偽物などを持ち込もうものなら命が危ない。


 箔付けに時間がかかって、もう夜だ。しかし、世の中ある所にはあるもんだな。この魔道具、ただの水差しなのだが貴族の所に持ち込めば5倍は固い。見栄の為には、貴族と言うのは10倍だって出すかも知れない。早く行きたいものだが、急いては事を仕損じると言うからな。明日の朝で良いだろう。


 ※ ※ ※ ※ ※


 考えてみれば、魔道具を作るといっても魔法付与が出来ない。ウェイブ小説なんかでは精霊に会うと作って貰えたりするらしいが、残念ながらムンデゥスでは精霊にも女神さまに会った事は無い。魔道具の作り方が記された本でもあれば良いのだが……。明日は書店だなと宿に帰って来た。


 今晩は良い晩だった。ホント、今日は良い日だったVersion2.0である。ハーミの宿に帰ると主人がどうでしたかと尋ねてきた。上々の首尾だったと答えると喜んでくれた。そこで、物は試しと書店の事を聞いてみる。すると古都カジュラホの名にプライドが有るのだろう、暫くしたら店名と住所を書いた紙を持って来てくれた。


 やはり、イルでは古くからある学術都市なのだろう。古都カジュラホの名に負けない、かなりの専門性のある書店があるそうである。少し驚いたが、メモにあった店は、昔は魔法研究書の専門店だったのだ。さすが、イル国最古の学問研究所が置かれているだけある。


 だが、喜んだのも束の間だった。主人によると、その書店は出入りする客でも身分にうるさく、一見の者は、300ルピーの入場料を支払うのだ。入れば入れで、ゆっくりしていってね! と飲み物が1杯付いて来るが、本を必ず買えと言われているような気がするそうだ。


 昨日までなら、なんてひどい本屋だと言いそうだが、今日は違う。フフフ、なんと言ったって300万ルピーある。フラン王国まで、特別馬車を仕立てて行っても良いんじゃ無いかと思えるほどの額だ。やらんけど。金があると余裕が出来るとは本当なんだな。


 ふと思う。僕は侯爵なんだからお金持ちのはずなんだ。だがイリアでは、エミリーにキッチリ財布のヒモを握られているからな。いつの頃からか、魔石とお小遣いには、帳面での提出義務が出来ていたんだ。行方不明になっても、良い事はあるんだなーと思う。


 明日は、古着屋で学生らしい服を揃える事にしよう。古着屋と言っても、イリアと同じように新品の服屋の方が珍しいぐらいだ。直ぐに揃うだろう。それはともかく、これだけの町だ。他にも魔法書の書店があるのではないか。別にオリジナルでなくても良いのだろう。解説本みたいのがあれば良いんだから。もう一度、尋ねてみよう。


 だが、無かった。実は、300年ほど前だが、王が禁書令を出して燃やしたのである。その中には魔法書も含まれていたのだ。むしろ、魔法書を燃やす為に作られたふしがあるという。どんな事情で決められたのか分からないが、未だに詳しくは話せない訳が有るらしい。もちろん、魔法書は当時からコピーも禁止。違反すれば厳しいお咎めが有り、場合によっては火あぶりの刑となった。道理で魔法関係の本が少ないはずだ。


 ※ ※ ※ ※ ※


「お客様、どうぞごゆっくり」


 書店員に言われて席に着く。年恰好が学生らしく見えたのだろうか、身分チェックは無かった。だが、聞いた値より高くなっていて400ルピーを払う。ここはカジュラホでも古手の書店だそうで、確かに古い革と紙の匂いがしており、いかにもと言う感じである。


 禁書令はとうに廃止されたが、残された魔法書には限りがある。その上、魔法使いが珍しくなって随分と年月が過ぎている。その為、必然的に魔法書専門店の需要も減っている。もう先代の主人の時に、魔法書専門店の看板は降ろしており、今では一般的な学問研究の専門店となっているそうだ。


 確かに古い店ではあるが……一応、店員に魔法書の有無を聞いてみる。答えはYES。しかも在庫ありますだ。ここで、何時もの様に変な学生がやって来たと言う顔をされた。慣れた感じで別室へどうぞと案内される。希少本が置かれている部屋だそうだ。ちなみに美術館みたいに入場料が別に300ルピーした。


 店員に連れられて、警備している冒険者達の前を通過する。さらに目つきの鋭い冒険者に、持ち物検査をされてから奥の部屋に通された。魔法書なんて売れない本を見物しに来る輩が意外と多いらしい。マァ、好意的に考えれば、希少本を飾っておくだけでも、それなりに維持費用が必要なんだろうと思う。


 目の前のガラスケースの中には、鉄鎖が付けられた巨大な本が置いてある。お値段はぴったり10億ルピー。売る気なんか無いような値である。300万ルピーが少額に思えてくる。気絶しそうな顔していたんだろう、店員がこちらにはもっと安い本が置いて有ると言ってくれた。


 言われるままについていくと、革表紙の本が、やはり本棚と鉄鎖で繋がれている。本を簡単に外へ持ち出せないようになっている。だが、鎖は本棚から取り出して読むのには十分な長さがあるようだ。イギリスのどこぞの大聖堂図書館には、今も変わらず鎖付きの本が並んでいるそうだ。地球でもムンドゥスでも、不埒な事を考える輩がいるらしい。


 その魔法書であるが、へり部分の革に穴が開けられて鎖が付けられている。本の置き方が変わっていて、背表紙が棚の奥に向かっており、まるで題名が隠されているかのようだ。これは、鎖付きの本の鎖同士が絡んだりしない工夫だそうで、本を引き出す時に内容も確認し易いとの事。当然、本の題名は見えないので、棚の横にある別表に値段と共に貼られている。


 書かれている値は、3000万ルピーからである。こういう価格と言うのは、希少本では常識なのだろうか? 日本円で一冊9000万円なんだ。サザビーズで競売されると、もっと高くなるんじゃないだろうか。今にもハンマープライスですと聞こえてきそうだ。あかん、現実に戻らないと……。


 この本の中には、さっき見た700年前に書かれた魔道書を筆頭に、600から500年前にアレキ文字で書かれた各種魔法書の複製などが置かれている。魔法学について書かれた初期の書籍はもちろん、素材の生産地の地図が記された書籍など、貴重な本が並んでいるようだ。ようだと言うには訳がある。


 実は、恥ずかしながら記憶しなくても、赤い指輪が有るからイイやと、本を手に取ろうとしたら怒られた。皆、似たような事を考えるらしく、えらく記憶の良い者が来たり、写真に似たような装置など、いずれも何らかの方法でコピーを試みるらしい。それもそうか。これって、スマホで本を完全に写真データ化するようなものだしなー。


 こっそり鑑定魔法でみるとチャンと魔法書とある。でもこれは店員が魔法書ですと言ったからだ。僕の鑑定魔法は、人から教えてもらったらそう答えが出るのだ。あてにならない話ではある。マァ、それはともかく店員の説明によると、貴重な魔法書としてはかなり珍しい物もあり蔵書の量も有るらしい。


 中身を見ずに買う訳に行かないのは、イルの人々とて同じである。1億円の本をハイそうですかと買う者はいない。まして、値段交渉に生き甲斐と言うか、意欲ある生活をしているのだ。手に取って観るにしても当然ながら買う事前提であり、補償金としてその本の全額を預けておいての交渉になる。


 手が出ないものの、ここまで来たからにはと、書店員にハウツウ物の在庫を教えてもらう。ハッキリ言って、絵が沢山あって簡単そうな本と、価格の安い薄めの冊子をリクエストする。選ばれたのは下記の5冊である。


「魔道具の管理法・初級編」「魔道具製作の心得ABC」「入門、あなたも今日から錬金術師」「不法魔法具追跡27時間」「アレキ文明の魔道具を訪ねて」興味を持ったのはこの5冊。いずれも時価で、合計2億5000万ルピーでの販売だそうだ。これって、日本円なら7億5000万円である。


 完全な、手元不如意である。あるのは300万ルピーだから、引き算する必要もない。マァ、帰国したらイリア王家の宝物庫に行こう。同じような魔法書が有るかもしれない……。ここで無理に手に入れなくとも良いかもしれない。それには頑張って帰国しないとな。でも待てよ?


 諦めかけた時に、気が付いた。魔道具が作れるようになったとしたら、別に土産の魔道具が5、6個減っても良いんじゃないかー? 動かなくとも、魔道具を7つ持っているんだ。何とかなるんじゃないかー。


 ※ ※ ※ ※ ※


「食事をお願いします。これ、朝食券です」

「おはようございます。お好きな場所へどうぞ」


 ここの宿の食事は近所で摂る。イリアと同じようなシステムの宿である。宿に食堂が有るのと、宿から引換券を貰って行く食堂の2種という事だ。小規模な宿だと、食堂で済ませてもらった方が効率的なのだろう。ここの食堂では、朝にオーダーできるのは2種類である。まずは定番の薄焼きパンのセットである。このパンは小麦粉多めの生地を作り、それを発酵させて焼いたものである。


 もう一つのセットは、油であげたパン、これは揚げパン? 穴の無いドーナッツと言うべきか? も同様に食べられている。そして、日本ならカレーに分類される物が添えられている。美味しいが、朝食べると胃がもたれそうなメニューである。これに、何かの葉っぱを煎じた飲み物が付く。高級な宿では、蜂蜜入りで甘いそうである。


 広いイル国であるので、地域によって様々な料理法が有るらしいが、どの料理にもスパイスが入っているのが特徴と言える。中央大陸の西部は小麦、東部は米が中心のようだ。中間地となるここら辺は、ひえ、あわ、とうもろこし等もよく食べられている。


 ちなみに、盗賊団の残したコメ。フル国が中心になって栽培されていると言う。粒の短いの、長いのと各種あるそうで、調理法も蒸米、お粥、炊飯、炊き込みご飯、焼飯、米粉の蒸しパンにしたりして食べる事も多いらしい。チョット残念だが、ここイルでは長粒種の細長いコメが普通である。


 飲み物は注意しないとひどい目に合う。水にあたるとか、水が違うと言うのはムンドゥスでも当てはまるようだ。イリアの水は慣れたが、ケドニアでは腹具合が良いとは言えなかった。煮沸した物はともかく、生水や生ものはよほどの事が無い限り口に入れないようにしている。


 この時期、昼間は結構熱くなる。これは、こちらの人々も同じ様に思うらしく、素焼きのツボを持った水売りが市場の広場を廻って、真鍮製だろうコップを下げて一杯4ルピーで売っていた。工夫したもので、滲み出した水が熱を奪って冷たくなっているようだ。なるほど、気化熱かー。生活の知恵なのだろう。


 僕は氷魔法のアイスジャベリンが使えるが、人の見ている前で氷の槍を出すような趣味は無い。先に述べたように自作の水筒を作っている。最初のうちは、強化土魔法で薄くて軽く作れば良いと思っていた。今では少しぼってりしているが、素焼きの様な感じの物を作って、冷えた水が飲めるようにしている。


 こうしてブラブラしているのは訳が有っての事だ。怠けている訳でも、ただの物見遊山ではない。動かなくなった魔道具7個を、何とか無理のないように身に着けて、4・5日を過ごさなければならないからだ。とは言え、じっとしているのも何だし、社会見学をしようと決めた。


 行く先は人気の市場はもちろん、後学の為の遊び場やデートスポットも含まれる。じゃぁ、どうやったら市内散策プラス知識や経験を広げれるだろうと考えた時、閃いた。効率良く過ごす為には、商業ギルドに行けば良いんじゃないか?


 商業ギルドは直ぐに見つかった。残念ながら、ウダイプールの冒険者ヴィハーンにもイルには冒険者ギルドは無いと言われた。仕事の斡旋も商業ギルドで行われているようだ。建物など、多少の違いは有るがよく似た感じで業務依頼の仕方も同じようである。


 注意深く観察したのだが、受付嬢のレベルも優しさも同じようだ。それはともかく、受付嬢によると雑多な仕事。この場合は、僕の町案内というものだが可能との事だ。護衛等の荒事と違い、危険は少ない仕事なので依頼を出せば直ぐにも案内人が見つかるらしい。


 ※ ※ ※ ※ ※


「アヤン・パンディーじゃ」

「カトーと言います。よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくな。一人で貸し切りと言うのはあんたか」

「ハイ。4日間、よろしくお願いします」

「4日もの案内は久しぶりだな」

「そうなんですか」

「アァ、そうだよ」


 古都カジュラホの案内人として、商業ギルドで斡旋されたのは冒険者を引退間際のアヤンであった。王都ロンダと違い市内案内のムック本は無い様で、代わりに薦められたのが案内人である。普段は案内もするが、無くし物の捜索や困り事の相談もしているらしい。彼が観光タクシーのドライバーさんと同じように、観光案内をして由緒由来を説明してくれるのだ。


 イルでは、ご当地観光と言うのは、同郷の先輩や仕事仲間が案内するらしい。だが、町には不案内な学生が多く、初めて訪れる者も多い。個人ガイドは、一日7500ルピーで贅沢と言えば贅沢だが、効率を重視したのだ。やはり、リクエストをした通り、男性で年を重ねている分だけ色々な事を知っているようだ。それに職業柄だろう、足腰がしっかりしており中々の健脚のようだ。


「今日は、どちらを巡るのでしょうか?」

「先ずは、旧市街じゃな」

「そうですか」

「名所旧跡とモス教寺院あたりになるの」


 ※ ※ ※ ※ ※


 最初の訪問先は、旧市街と呼ばれる地区にある南城門から徒歩20分の名所、バンナーヴィドゥヴァーンの名で知られるイル国最古の学問研究所である。意味は、学者になると言う事らしい。時代を重ねた石造りの建物で、イル王国の学問の殿堂として十分な雰囲気である。


 また、200年ほど前の作品であるが、画家ドゥルーヴ・チャクラバルティが描いたカジュラホ図書館の天井画は精霊を描いた傑作として特に有名である。この作品を見ようとする部外者は、入口受付で入館チケットを購入しなければならない。料金は2000ルピー。天井画は鑑賞せずに外観の見学をするだけだと400ルピーである。


 持ち物検査を受けて入場すると、2つのエリアに別れている。右手は研究関係、左手は学生の授業を行う所である。図書館は案内標識に従って右手に進み、5分ほどの場所にある。フクロウをイメージしていると思われる豪華な入り口を入ると、ドーム天井に描かれた精霊たち5人の姿が目に入る。


 中央には大精霊スプマンユ、右手には意思の精霊ウォマナフと献身の精霊アーマティ。左手には雨の精霊アムルター、音の精霊スオシャが描かれている。俊抜な作品が描かれているとは言え、この価格設定はイルではかなり高い。イルの教養層や富裕層に人気であるが、研究所の催しがある日は入場不可となる。あらかじめ開館の有無を調べておく事をお勧めする。


 ※ ※ ※ ※ ※


 イルの国教と言われるモス教は、600年ほど前から広まった善神を最高神とする一神教の教えである。そもそもモスと言うのは開祖の名である。偶像ではなく、火を最高神の象徴として崇拝している。教義は善悪二元論で、この世は真理や生命を司る善の神と、嘘や死を司る悪魔の闘争の場であるとしている。


 このマスジェット寺院では、大精霊スプマンユを祀っている。モス教では、文明が始まった瞬間を1万2千年前としている。寺院に於いては当然、神聖な場所なので土足&肌の露出は厳禁である。靴は入り口で預けるのだが50ルピー必要だ。大きな階段を上がり入口を通ると抜けると、手足と口を清める為の、かなり大きな清めの水瓶が何個も置いてある。


 さすがモス教の教義を具現した寺院と言われるだけあって、見事な大理石で装飾されており、迫力満点である。善と悪という二元論なのだろうか、左右対照の建物が鎮座している。今もその巨大な建物の中で、多くの人が敬虔な祈りを捧げている。外の喧騒が嘘のように静かな時間が流れており、歩けば大理石で作られた床の冷たさも心地良い。


以下は、拝観する価値がある寺院

 蓮の花が沢山ある事で有名なカルカジ寺院。別名、蓮寺ともいう。バハー教という、イルでは珍しい宗教の寺院だが、美しい花の開花期には他教徒も訪れる観光地になっている。寺院の中には、人造の池が築かれ祈りの場となっている。静寂の中に響く、祈りの言葉が美しく響き、心地良い空間となっている。

 

 先年、大干ばつという艱難に遭ったが、その際も境内にあった自噴する霊験あらたかな泉で、難を逃れる事が出来たと言う。一年を通じて水量が多く、通称になったほどに蓮の花が沢山ある。特に双頭蓮と呼ばれる一本の茎から、2個の花が咲くのを見れると幸運が訪れるとされる。ただし、蓮の花は早朝に咲き、昼にはしぼむので注意する事。


 また、クリシュナ寺院では、モス教の法話が描かれた美しい壁画の回廊がある事で知られている。バハー寺院から徒歩20分程で着く。回廊では、無名な修道士によって古典的なフレスコ画技法? で大精霊が描かれている。特に神の教えを人々に授けているという場面が傑作として人気である。近くに有るカルカジ寺院と併せて観光すると良い。


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 東門近くの老舗のカリームは、イルで一番美味しいと言われるカレー? を出して人気を博している。マスジェット寺院の近く、歩いて12、3分の場所にある。地元民なら知らない人はいないと言われる。実際、迷う様な細い道なので地元民に聞くとよい。首都キッバルで料理人だったシェフが始めた店なので、本格的なイル料理が食べられる。


 店の自慢料理は、マトンを使った物が多く、中でも大きな骨つき肉がゴロゴロと入ったカレーは美味。肉はよく煮込まれており、柔らかくて量も多いので大食漢でも食べ応えがある。何を食べても間違いないが、是非とも食べたいのは、予約が必要な羊の脳みそのカレーで絶品である。


 これは、特に寺院の僧侶に頼む者が多いと言われる。数量限定の上、非常に美味な為、罪悪感が生じると言われ、食べると悪魔に身を捧げた殉教者の気になるらしい。実際、罪悪感にとらわれるほど美味なカレーなのだ。ちなみに、王都ロンダで羊の脳みそ焼きと良い勝負であると思う。


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 下町にあるチャンドニー商店街での買物も外せない。西城門からすぐにあるので散策にも良いエリアである。ここは問屋通りが近い為、生活用品から貴金属まで様々な商品が売られている。選ぶのに困るほど多くの商品と種類があり、お土産選びに最適な地である。


 ただし、良い事ばかりではない。いずれの店でも値段交渉が絶対に必要である。時間に制約される旅人などは、ある程度、知っている人に見繕ってもらっての購入の方が良いかも知れない。


 尚、メイン通りのかたわらには、黄色に染められた布の一角が有る。そこには、沢山のスパイス売りが露店を出している。品質は注意しなければならないが、形をつぶしていない丸のままのホールスパイスが揃えられており、店舗や市場より安い。


 お土産にも良いイルの煎じ茶の種類も多く、これは絶対にカレー粉だと言えるミックススパイスも各種揃ってる。カレー好きには天国と言えよう。散策しているだけでも楽しい時間が過ごせるが、ここも地元民で溢れているので、盗難には気をつける事。又、通行量も多いので荷馬車にも注意。


 総じてイリア王国では見た事も無い物も多く、ここでの購入が楽しすぎて、時間を忘れてしまいそうになる事、請け合いである。


 尚、商店街の広場の食事処では、イル各地の料理が食べられるが、料金高めであるのが難点である。ただ、色んな名物料理を食べられるのは良いかもしれない。この食事処の2階には、舞台が併設されている。席料が高くなるが、演劇を観賞しながら食事ができる。かなりの人気が有るので予約がおすすめ。上演時間は途中10分の休憩を挟んで90分である。


 他の有名処は下記の通り。

 イル慰霊塔は、古都カジュラホの中心にある公園の少し変わった慰霊塔である。慰霊碑として、120年前の第1次イル動乱の戦没者を追悼するために建てられた。イルの首都キッバルにある凱旋塔をモデルにしており、高さは40メートル。


 慰霊塔なのだが、中には階段があり塔の上まで行ける。見下ろすカジュラホの町は、中々の迫力である。入場料は200ルピーだが、安全確保の為に一度に登れる人数の制限がある。整備された公園は人々の憩いの場になっており、屋台も多く出ている。毎月5のつく日に行われる青空市場は多くの人で賑わう。


 今一つは、外から眺めるだけで十分な気がする安宿街パハール。カジュラホに住む人でも行きたがらないとか。案内してくれる冒険者のアヤンさんとの待ち合わせ場所に使おうと思ったら、そこだけは止めとけと言われた場所である。


 この場所にはありとあらゆるものが集まり、一個から大量買い付けみたいな量でもOK。また、店になくとも、どこからともなく出てくる。盗品も有ると言われ、かなり黒に近いグレーの商品もある。だからこそ、ここで声をかけてくる人には、完全にシカトでいい。値段交渉をする自信があっても、精神的には間違いなくストレス一杯となる。


 アヤンさんによると、確かに大量の商品が布製品からアクセサリー、食料品、楽器まで様々な物が揃えられる。だが、覚悟を決めていく場合を除いて、行くべきではないそうだ。悪事の巣窟といわれ、スリや泥棒のみならず悪徳商人や悪徳宿もあり、果ては盗賊達との関係もあるという。色々な意味で近寄りたくない場所である。


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 こうして社会見学ともいえる5日の物見遊山を終えた。パワーの無くなった魔道具7個を、何とか無理のないように身に着けて、市内散策を兼ねて知識や経験を広げた訳だ。すっかりこの町に詳しくなった。今いる場所は、時間帯のせいもあるのか人がいなかった。


 動かなくなった魔道具は、時間をかければ動くようになるかもしれない。今の処、充填出来たと思うのは5個である。他の2個も、必要魔力量まであと少しと思うので、さほど時間がかからずに使用出来るかもしれない。


「さて、困ったな」

「どうした? カトー」


 アヤンさんが、真顔で案じてくれる。魔法書と魔道具の話したものかと迷ったが、5日も一緒に過ごした仲なので気心も知れている。

「帰国途中だとは言いましたよね。僕が、この町に寄ったのは偶然なんです。でも、魔法書があると分かってからは是非とも読みたくなったんです」

「フーン。当然、本屋には行ったんだよな?」

「エェ、遠くから見る事は出来ましたが、読む事は厳禁と言われまして。もちろん、購入すればいいんですけど……。補償金として、その本の全額が必要だと言われました。中には10億ルピーの物もありますからねぇー」

「そいつぁー、いい値だな。で?」

「手元にある金では到底足りません」

「そうだろうとも」

「で、代々家宝として伝わった魔道具の水差しを売ったんです」

「そうか。なるほどな。聞いても良いか? 幾らだったんだ。嫌なら言わんで良いが」

「構いませんとも。300万ルピーでした」

「なんと! 魔道具の水差しを、300万ルピーのはした金で渡したと言うのか?」

「安かったですか?」

「安いも何も、持ってく所が何だったら、5倍、6倍。イヤ、貴族なら言い値の10倍でも払うぞ」

「ホー……」


「でも、動かないとはいえ置いてあった7個の魔道具を貰いました」

「動かない魔道具など、いくらにもならんな」

「そうなんですか!」

「マァ、由緒由来のある物なら、売り方次第だろうが。7個か」

「ハイ、7個です」

「大きな道具屋なら、置いてあるんじゃないかな。確かに値はあるが……。そうだなぁ。動かん物なら、1個が10万として70万ルピーぐらいじゃな」

「やっぱり、損したのかー!」

「ハハハ、やられたのー。イヤ、笑ってすまんかった。気の毒だとは思うが、商人なら当たり前の事じゃからのー」

「ウーン……。動かないのは二束三文か。それじゃ、動くようになった魔道具なら高く売れますよね」

「何を言っているのだ?」

「全部じゃないですけど、魔道具を動くようにしたんですよ」

「?」

「ホラ、この通り」

「エ! エェ!」


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