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癒やされたいキャンパー。異世界を癒やしに行く。  作者: カトー
第18章 新世界
178/201

178 帰還の旅 平原の馬車

 ※ ※ ※ ※ ※


 ウダイプールの毛皮商店で、親切な狩人達と別れた後は市場探しだ。市場は地元の人に聞けば分かるが、良い宿を探し当てるのは難しいはずだ。市場でなら客が尋ねれば教えてくれるだろう。交通機関の情報も、どこかで得られるだろう。2・3カ所で買い物をして訪ねてみよう。幸い、黒目黒髪の者も多いようなので目立つ事は無さそうだ。


 ウダイプールの町に着いたのが王国歴184年10の月20日だったから、行方不明となって既に10日過ぎた。皆、心配しているだろうな。早く帰国しないとな。せめて連絡出来れば良いんだけど思念波も届かないからな。西へ進むしかないか……。


 町に出て、人々の服装を見てみると、さすがにイリアとは違う。目立ちすぎても何なので、服装をあらためる事にした。視れば男達の多くは、手甲と皮手袋をしている。手袋は、指輪をはめても隠せるのでちょうど良いのだが、これが近年の流行りなのかなー?


「旅衣装だね。だとしたらこの辺りだね。勉強しておくよ。まとめて4500ルピーでどうだい?」

「手袋を付けて、3000でなら」

「ダメダメ。物をよく見てくれよ。ウーン、4000なら売っても良いけど」

「3300でお願いします」

「大まけで3800ルピーだ。手袋は無しだぞ」


 聞き耳の魔法を使って、買物中の会話を聞くと、物を買う時には値切らないと失礼に当たる様だ。会話を大切にするとかねー。商店街や市場での買物は、時間はかかるがコミュニケーションは大事と言う処なんだろう。


 今更ながら、狩人達に会えた幸運に感謝しないとなー。19万ルピーあれば、すぐに路頭に迷う事も無いだろう。食事は市場の中にある食堂で出来たし、情報も買物をしながら仕入れる事が出来たので手間はかかったが良しとしよう。


 情報と言えば地図魔法も同時に使っているので、膨大な量が押し寄せて来た。フフフ、実は忘れても大丈夫。僕には赤い指輪がある。画像を記録しているのだから安心と思ったが音は入っていない。この事は後から解決できたが、この時はまだ音を入れる設定が分からなかった。チョット残念だった。


 それはさておき、異国での会話は疲れたが、集めた情報で宿は何とかなりそうだ。思わぬ幸運も有った。市場では、イリアでは知られていない作物やスパイスが利いた食品が多くあったのだ。そこで、嵩張らなくて軽い作物の種や、各種スパイスの種を探して購入した。中でもトウガラシやコーンを見つけたのは大収穫だった。


 フフフ、これで持ち帰ればお子様カレーから激辛カレーまで思うままである。思わず顔がにやけてしまう。トウガラシやターメリック等、多種のスパイスはカレー粉制作に外せない。辛くないカレーもたまには良いが、何事にも限度と言うものがある。そろそろアンベール帝からのギフトが尽き欠けていたし、切実な問題だったのだ。


 コーンのタネは3種類あった。おそらくスイートコーンと言われるもので甘味種コーンらしい。デンプンは少ないが甘い品種だそうだ。収穫の最盛期は終わってしまったが、イルでは、ゆでトウモロコシや焼きトウモロコシとして食べられているそうだ。イリアに帰ればしょう油がある。ぜひ、焼きとうもろこしを味わいたいものだ。


 探せば他にも種類があるかも知れない。マァ、手に入れたタネは食用が可能なコーンのはずだが、フリントコーンやデントコーンだと言われてもタネの形がまるで違う。説明を聞いた時は覚えていたが、一時に沢山のタネを購入したので忘れてしまった。マァ、なんでも良い。育ててみてポップコーンなんかが出来ても全然OKである。


 他にも、ナスのタネが売っていたので購入したが、暖かい地で無いと育たないぞと言われた。少し前に知った事だが、イリア王国にもナスはあった。だが、貴族が趣味として栽培しており、食べるよりも花を楽しむものだそうだ。そんな物かと思っていたが、食用となれば話は別だ。これは、温室の製作を真剣に考えてみないとなー。


 ウム。ナスのカレーも良いが焼きナスも外せない。秘蔵のミソで味噌汁もと……コメの栽培が成功したら糠漬けを作ってやろうと決意した。食欲といおうか、食意地は難業となっても大抵の事を乗り越えられるとものらしい。と思いながらタネを探していると、ふと思った。


 トウガラシにコーンが有るならサツマイモ、トマトやカボチャだってあるかもなぁ。ピーマン、落花生、イチゴ、タバコ、コカ、カカオ、バニラだって有るんじゃないのー? ひょっとしてアレキ大陸には無いような薬草や、嗜好品の原料となる作物が一杯有るんじゃないかな? さすがに、バナナやマンゴーなどは無いかも知れないが、どうだろう? 探してみるか。


 ついこの間は、寒さの厳しい針葉樹林帯を通り抜けて来たばかりだ。確かに、地図の過去データによると、かなり離れているが南東には海も有る。イギリスのように大西洋の暖流や偏西風でも流れているのだろうか。それとも火山とか? ウーン。それらしい山は記入されているが……。マァ、今考えてもなー。


 イリア王国の野菜は、どちらかと言うと山で採れる食用の野草が多い。いわば畑で採れる蔬菜と言うより、産地は山という事が多いぐらいだ。ここまでくると、情報を求めてと言うよりも、栽培作物のタネを集める事に変わってきてしまった。これの何かの縁だろう、千載一遇のチャンスと思い集める事にした。


 トマトを見つけた。品種改良がされていないのか、元々がこうなのかもしれないが、総じて少しだけ小さいと言えばいえる。ミニトマトほどでは無いが実は小粒で、大きくても直径5センチぐらいである。だが、味は純粋にトマトである。このトマトは酸味も甘みもしっかりしており独特の青臭さがある。何となく昔の野菜である。


 ピーマンの種は何故か手に入り易かった。僕は食べれるが、ピーマン嫌いになるかも知れないイリア人には先に謝っておく。それよりもサツマイモがある。これで、焼き芋ができれば女の人に感謝される事は必定である。サツマイモは小さめの可愛い花を咲かせてタネを作る。で、タネから苗を作るにはやはり暖かい所でないとダメだと言われた。量産するには、種芋という事になるだろうが。

 

 イチゴなんて見つけたらイチゴのショートケーキが出来る。今までは見つからなかったので、美味しいケーキ屋さんでは、ラズベリーを使っているのだ。これでジャムも出来るし、ジャムおじさんにもなれる? 口が滑った。バニラビーンズがあったのでアイスクリームの開発をしなければと強く思う。


 そして、カカオだ。言わずと知れたカカオ豆はチョコレートやココアの主原料である。カカオの木の果実の中にある種子だ。だから、カカオの樹を育てて実をつける。収穫できるのは樹を植えてから4年はかかる。最盛期は12年以降とされ、上手く行けば半世紀以上採り続けれるらしい。フフフ、これも時間加速の魔法でね。


 市場にはタネ屋と言うものはなく、あっちで3種、こっちで4種とバラバラに売っており、おまけにまとめて買ってくれとか、大袋でないと言われた。そこを何とか、倍払うという事で分けてもらった。量もいるだろうが、今回は種類を優先した。もったないと思うが、小袋に移し替えて運ぶ為に、半分以上を処分する事になるだろう。


 ウェブ小説のストレージと言われる空間魔法は亜空間に無限にしまえて、経過時間もないという優れものと言う設定だ。どうやら今の僕には使えないようだ。イグナーツにも、あったとしても膨大な魔力量を必要とするので取得するのは無理だろうと宣言されている。収納魔法はすごく欲しいけど、無いのか、使えないのか分からないが何とも残念な事だ。


 マァ、買物は量が多くなったが上手く行ったと思う。一見、根切交渉を含めて面倒な手順ではあるが、あれこれとコミュニケーションを取って情報を集めている時には、しばしの間とはいえ、1万キロの旅を始めたばかりという自分の身の上を忘れる事が出来た。忙しくしていれば、憂いも減るという事かな……。


 ※ ※ ※ ※ ※


「子供でも大人でも、1人1500ルピー。朝飯付きだよ。相部屋なら1000でいいよ」

「そうですか。でも、今夜はゆっくりと休みたいし荷物も多いので1部屋でお願いします」

「4000ルピーだ。そんなにどうしたんだ?」

「市場で買い過ぎたんですよ。ウーン。4000ですって、寝床も1人分だけしか使わないので、2000で」

「フーン。しょうがないな。小さい方のベッドで3000だ。大きいのは使うなよ。後、お湯は有料だぞ。手間がかかるからな。一杯の桶で40ルピーだ」

「そうなんですか。じゃ、お湯はいいです。ウーン2500になりません? ところで、この辺では魔法使いと言うのはいるんですか?」

「2800だな。まず、いないなー。いたとしても、お貴族様の囲いもんだろうよ」

「分かりました。2700で」

「ぎり2750だ。これ以上は無理だぞ。坊主も中々だな」


 お湯が40ルピーと言うのは、普通なのか分からないが体を奇麗にするならクリーンの魔法を使えば良い。たまにはお湯に入りたいと思うが、ここイルの地でもお風呂は無く、精々体をお湯で拭くぐらいである。せめてシャワーでもあればと思うが……。


 マァ、よほど汗をかけば、井戸端を借りる事が出来るという事だが別料金となる。夏場のこの町は、水がかなり大切らしく断られる事も有るそうだ。泊まる部屋は3階で、北に向かって窓があり大小のベッドが置かれていた。戸には鍵も有る事だし、この高さなら外から人が入って来る事も無いだろう。この部屋で良いと決めて帳場に降りて行く事にした。


 宿の食堂兼ロビーでは、話好きそうな爺さん達4人が暇そうに座っていた。振舞ったワイン一杯で色々な事を聞かせてくれた。ここから西の地では、ブドウの収穫が多いので、エールはあまり作られておらず酒はワインが主流との事だ。


 実は、タネを購入した後で育て方の本を探してみたが、この町には図書館などは無いとの事である。それならばと本屋を訪ねたが、店の者は農業書の様な物は見た事が無いと言う。おそらく農業知識は、口伝えで受け継がれているのかもしてないとも話してくれたのだ。


 常連4人が留守番役なのか、食堂には、他には誰もいない。宿屋の者も買い物に出ているという事だ。ちょうど良い。物は試しと聞いてみたのだが、爺さん達の2人は農園で働いていた事があるそうで、農園で実際に作業していた2人の話は為になった。


 加えて爺さんの1人は、昔から魔法や歴史に興味があったらしく、かなり詳しく知る事が出来た。そして、あと一人の爺さんは占い師だった事が有るという変わった経歴だった。そして、ひょんな事から赤い指輪の話が出た。


 あまり見せたくない魔道具と思われるものだったが、占いをやっていた爺さんが修業時代に師匠から聞いた事が有るそうだ。少しためらったが、指輪を見せて話を聞いてみる。もちろん、骨董市で安く手に入れた魔道具の偽物としてサイドストーリーを作って話したのだが……。


「骨董市で手に入れたんだろ。そりゃなー」

「悪い奴もいるんだ。もしも、本物だとしたら大昔の技術で作ったんだろう」

「フーン。これなんですけど」

「オ! 赤い指輪か」

「見せてみろ。ウーンこれは、コランダムの一種かもな。赤色はルビーで青ならサファイアだ。フルでは紅玉というらしい。本物だったとしたら、とても高価な品だ」

「へー」

「しかし、指輪に加工してある時点で、偽もんを掴まされたんだろう」

「何故なんです?」

「そりゃ、こんな加工したら石が割れるぞ。まず、間違いないな」


「本物のルビーは、軍神が宿ると言われ王侯貴族が身に付けるような高額な宝石なんだ」

「アァ、そうとも。その為、小さくとも力と情熱、行動力を高めて、危険を知らせてくれるそうだ。兵士が身に着ける事も多いな」

「人間の体の右側は積極性を司ると伝えられ、ルビーを身につける場合は右側とされている。これ、豆知識な」

「へー」

「そうだな。伝説として有名なのは、石の色が変わり、持ち主に危険を知らせるという話が多い。事件やもめごとに必ずと言って良いほど登場するんだ」

「ホー」

「そんな事で驚くんじゃないぞ。いいか、この大陸ではダイヤモンドのブリリアントカットが出回るまでは最高の品と言われていたんだ。イルとフルの南の秘境には、良質のルビーが採れる。ルビーは妖精の贈り物とという話もある。実際、古い文献には価格も記されていてな、ルビーは8万ルピーでダイヤモンドの8倍。エメラルドの2倍。サファイアの80倍なんだ」

「ウワー。なんでそんなに詳しいですかー」


 ワインを飲んでボーとしているだけの爺さん達かと思ったが侮れない。マァ、それはともかく赤い指輪は、思い出の指輪と名付けた。何となく詩的な響きだし、機能も表している。機能と言えば、イグナーツが頑張ってくれているが、スマホもそろそろ寿命かもしれない。


「指輪の話はこのぐらいで良いかな?」

「エェ、勉強になりました」

「確か、旅の途中だと言っていたな」

「ハイ、国へ返るんです」

「そうか。旅か。気を付けて行くんだぞ。最近はフルから、変な奴が入り込んでいるから」

「ハイ、そうします」

「アァ、俺達が聞いた話では、フル国で貴族同士のいざこざがあったらしいんだ。負けた奴らが流れて来たんだろう。迷惑な事だ」

「破れかぶれの奴も多いからなー」

「国境沿いの村が、やられたらしいぞ」

「盗っ人ならまだしも、盗賊団になっているという話だ」

「へー」

「そうそう、騎士隊が追っている盗賊団には懸賞金が出ていたなー」

「そうなんですか。近寄らないようにしたいですね」

「アァ、それが良い」

「ありがとうございます。気を付けて行きます。ところでお礼という訳ではありませんが、後で作物の種を持ってきますので貰ってくれませんか」

「種?」

「エェ、国への土産に買いこんだのです。小売りはしてくれたんですけど量が多いんです」


 爺さん達は、量と種類の多さに驚いたようだが、家庭菜園を始めてみようかと言いながらも嬉しそうに貰ってくれた。


 狩人達にも聞いた時もそうだったが、イルでは魔法使いは相当珍しいらしい。だが、この隣の国、クシャーナ王国にはいると言われた。水魔法や風魔法を操り、不思議な事を行う者達らしい。イル国を横断してクシャーナ王国に向かうので、運しだいだが会えるかもしれない。


 隕石テロの歴史は、少し変わったところも有ったがほぼ正確に伝わっていた。アレキ大陸と同じように、中央大陸もその後の100から200年は大変だったらしい。やはり、アレキ文明の事だと思われる事が色々と伝えられている。眉唾物の話やヨタ話もあるが伝説として各地に残されている。時間が有れば、いつの日か調べてみたいものだ。


 運良く手にした19万ルピーだったが、宿に服にカバン、旅行用品などで43000ルピーが無くなった。節約したつもりだが、思ったより市場での出費が5万ルピーと多かった。タネは結構高かったけれど、その価値は計り知れない。是非とも持ち帰りたい。しかし、残りの金で1万キロの移動はとても出来ないだろう。バイトをするかな?


 ※ ※ ※ ※ ※


「駅馬車の乗車券は、こちらで良いんですよね」

「アァ、その通りだ。で?」

「予約をしたいんですが……西の大きな都市は、たしか?」

「カーニャクマリだ。運賃は片道1人1万5000ルピー。6日おきに出発する」

「まかりませんか?」

「ダメだ」

「子供料金になりませんか?」

「ダメだと言いたいが……お前、ひょっとして冒険者なのか?」

「イイエ」

「ダメだ。次の方!」

「僕、水魔法が使えます」

「ホー、チョットこっちへ来い。本当なんだろうな。オイ、誰かここ替わってくれ」


 駅馬車は、乗客用に夏場は水も多めに運ぶし、馬だって飲む。常に、川や池が道路沿いにある訳でも無い。残念な事に、カーニャクマリまでは水場が少ない事で知られている。数年前の干ばつの時は特にひどく、作物はならず川も枯れ飲み水にも困るほどだった。


 だが、井戸の水も尽きようとした時、折よく通りがかった慈雨のドラゴン様に祈願して、やっとの事で生き延びれたというぐらいだ。慈雨のドラゴンと聞いた時に、思わずため息をついたらしく怪訝な顔をされた。この第四世代ドラゴンのユリアの事は今でも感謝する人は多く、不遜な事は禁止されているそうだ。


 馬車に積み込む水はこの時期、900キロになる。水の替わりに他の荷物を運べれば、その分の運賃が儲かるわけだ。早速、宿で仕入れた情報が役に立った。上手く行けば、足代になるかもしれない。売り込んで損は無いだろうと思ったのだ。


「フーン。珍しいな。お前さんは、本当に水魔法が使えるのか?」

「ハイ、お役に立てると思います」

「そうか。なら、料金はお前さんが、どれぐらい水を出せるかによるな」

「見てみます? バケツありますか?」


 結局、水魔法を使って料金は無しの替わりに乗務員扱いとされ、馬車の停車地ごとに10リッターのバケツ10杯を給水するという事になった。夏場の道中は、2時間に一度は馬を休息させるので水は結構な量になる。それが5日だと、クシャーナ王国の魔法使いでも上級者という事になるらしい。


 水魔法を見てからは、駅馬車との専属契約を持ち出されたが、帰国の途中だとやっとの事で断った。それはともかく、途中には宿の様な補給施設は無い為、美味いか不味いかはさておき、食事とテントでの宿泊付きである。身軽な身だ。折よく明日出発の便でと話が決まった。早朝出発だが、旅支度はいたって簡単である。


 ※ ※ ※ ※ ※


 4頭立の駅馬車は、西のカーニャクマリに向かい進んでいる。馭者1人と護衛の冒険者が2人。9名の乗客と天井には郵便物と荷物。共におよそ5日の旅である。約350キロで1万5000ルピーの料金である。1日あたり、70キロも進められるのは、ただっぴろい平野が続いており、山も無い。従って峠も無いからである。


 文明の利器と言われる蒸気動車やトラックは、フラン王国まで行かなければ見れないらしい。道の整備水準はケドニア帝国と同じぐらいであるが、イルの事も有って治安は良いとは言えない。駅馬車の乗客は、旅行が出来るほどの金持ちだし、荷物はそれなりに値が付く。嘗てのイリア王国と一緒の様なもので、盗賊を警戒しながら進んで行く。


 護衛の冒険者2人は先込め式の銃を使っている。昔は弓と短槍を持っていたそうだ。護衛の仕事は夏の暑さに耐えながら、冬は移動時にキャビンの外だと凍死する冒険者もいるという辛い仕事だ。冒険者は馭者と共に野営の仕事もこなさなければならないそうだ。


 道中で聞いたが、乗客でも盗賊出現の噂がある時は、武器を扱える者は歓迎されており料金割引もあるようだ。特に最近は、フルからの盗賊。ありていに言えば、敗残兵とはいえ軍の訓練を受け、装備を持っているだろうという厄介な奴らの噂があるのだ。だから、乗車券購入時に僕の様な者でも冒険者かと問われたのだろう。


 乗客は僕を含めて9人。4人は家族だろう。男の商人が2人。若いカップルが1組だ。テントは大型2張りと小型の1張りである。大型は乗客用で小型は乗務員用である。希望すれば、馬車のキャビンで寝ても良いとの事だ。出発時に水魔法を使えるとは半信半疑であった乗務員達だが、水タンクの替わりに荷物が積まれると納得したようで、僕は乗務員として扱われるようになった。


 冒険者の2人はヴィハーン・ダスとアージュン・クマールと言い、駅馬車の護衛として10年近く働いている。ベテランの冒険者だが、アージュンは家族思いなのか、近く引退する予定との事だった。最初の給水地で水魔法を使えると分かると、乗客の皆が口々に褒めてくれる。商人達は盛んに雇われないかと勧誘をしてきたほどだ。何時もの様に訳を話して勘弁してもらう。


 やはり、夏場に水の量を気にしなくともよいというのは馭者のアーナヴ・セスにも歓迎された。馬も喜んでいるように見えるのは不思議な感じだった。乗務員扱いという事で、あれこれ雑用をこなして過ごしていた。むしろ中央大陸での旅の仕方など、面倒な事も有ったが色々な話が聞けるので有難く思っていた。


 ※ ※ ※ ※ ※


 朝の空気が変わり、キャビンの中へは草原の温められた風が入ってくる。夏のけだるい昼は、ここイルでも同じように過ぎて行く。キャビンいる僕と乗客は、リズミカルに揺れる馬車の気持ち良いとも言える振動に、ウトウトとまどろみ始めている。


 突然、ずた袋をかぶせられて、馬車の荷台に放り込まれた。かどわかし、つまり誘拐だな。町から離れて盗賊に襲われたら、それまでという事だ。連れさられた場所は寂しい所なのだろう、お決まりの地下倉庫の中だ。がっしりとした木枠があって、2人が閉じ込められている。と、マァ、白昼夢なのだろう。妄想を膨らまして眠ってしまったようだ。


「縁起でもない。イヤな夢だった。でも、これって予知夢なのかな?」

 それと言うのも、北の町で使った安心安全の簡単魔法。結果的には、広域破壊魔法となったが……。マァ、それはさておき、円形斬月波で肥料を作ってから、不思議と勘? 未来予知? が当たるようになった。乗客はまだ昼寝を楽しんでいるらしく、誰に聞かれる事なく独り言で終わった。


 その夜は慣れぬ馬車の為なのか、旅の疲れのせいか、不寝番の冒険者を除いて皆がぐっすりと眠り込んでいた。今から思えば、夜明け前の事だったろうか? 駅馬車の野営地を襲った者達がいた。冒険者の見張り役の姿が消えた。あと一人は仮眠中なのか、消えかけた焚火の前で横になっている。


 もし、目が明いていたら指輪の色が変わったのが見えたかもしれない。やはり皆と同じようにぐっすりと寝ていた。運が悪ければ、頭を殴られて危うく死ぬ処だった。とっさにヒールをかけ続けなければ殴り殺されていたかも知れない。


 キャビンにいた僕は、殴られて気が遠くなるのを堪えながら、事切れたマネをして様子をうかがっていた。その時には、動く影が盗賊だと気が付いた。噂にあった盗賊団だな。どうやら、駅馬車の皆は後ろ手に縛られ、転がされているらしい。


 癒しの魔導士との異名を持つ僕だが、ヒールはなかなか上達しない魔法である。これも系統は一緒だと思うんだが……よく分からない。マァ、エミリーの時みたいに軽度のケガなら直接触れれば治癒できる場合もあるようだが、自分の傷やケガを回復させる事さえ精一杯という感じだ。その精一杯のヒールで傷を回復させていた。


 駅馬車の男達は、おそらく殺されるだろう。そして、金目の荷は奪われて女が連れ去られるという事件である。こんなストーリーは、よくあるらしい。そのよくある事が、目の前で行われようとしているのではないか? 動きが兵のように統制が取れている。これが盗賊団なのかー……。薄目を開けて10人まで数えたが、やれるだろうか。


「小頭、お宝は取り上げました。男達はどうします?」

「うるさい! 今日は虫の居所が悪いんだ。始末しろ」


 ワオゥウゥ! これにはあわてたー! 盗賊の小頭と言うのは、気が短いのだろうか決断の早い奴らしい。ためらいも無く、男9人を殺すというのかー。無茶苦茶な奴だ。人を殺すのを何とも思っていない。このまま、様子をうかがおうとしていたら、確認されてブスリと刺されそうなので覚悟を決めた。


 僕は、自分で言うのもなんだが、水魔法の使い手としては上級者である。ペットボトルで作られた空飛ぶ絨毯を、自由自在に操る事など並みの魔法使いには難しいだろう。移動できる水球が襲ってきて、息が出来ないなどと言う攻撃方法など中々ない。いわば、想定外の出来事である。


 突然現れた水球の中で、賊達の頭が浮かんでいる? 口がパクパクと動いている。両手で水球を払いのけようと手で搔きむしっている者や、水球から逃れようと走り回っている者。頭が水球の中にある事が信じられず、声を上げようとゴボゴボと音を立てている者がいる。


 ロンダの近くの森の5人の盗賊を思い出す。やはり、人を殺すのは後味の悪い。あの時は、王都守備隊のエミリーがいて、治安維持の為に賊を一緒に成敗した。で、エミリーが助からないと思われる盗賊達に慈悲の剣を与えていた。


 とっさの事だし、完全に無力化するのに他の方法が思い浮かばなかった。今回は、正当防衛のケースだろうが、日本では過剰な反撃になるのだろうか?

 待てよ。そう言えば、賊の1人が小頭と言っていたな。小頭という事は、当然、頭もいるだろうから、ここにいる10人だけでは無いという事か。1人、残しておくか。


 見てくれで決めるのはどうかと思うが、一番若そうで気の弱そうな者を選んだ。ウェイブ小説通りの展開だな。マァ、仕方ないな。乗り掛かった舟だ。教科書というか、ガイド本を読んでいたんだから活用させてもらおう。


「で、アジトはどこ?」

「お前なんかに言えるか」

「ア、そう」

「ゴボゴボ」

「ネ、言いたくなったでしょう」

「……」

「もう一回行っとくかー」

「ゴボゴボ」


 この後、縛られた賊はかなり協力的になってくれた。それによると盗賊団はかなり大きいようで、30人からの大所帯らしい。3組に分かれて活動中で、この10人組が一番多くて力も強いそうだ。今までは強かったと修正してやったが、取り敢えずだいたいの事は聞き出せた。乗って来た10頭の馬は、1キロほど離れた所でおとなしく繋がれていた。


 やはり、ロンダの時と同じように土魔法を使って9人の盗賊の死体を埋める。今回は、男手があるので早かった。馭者と乗客は助かったと礼を言いながら休息を取り始めた。冒険者のヴィハーンはアージュンを探しに出ていたが、残念ながら、彼を発見した時には打ち所が悪かったのか亡くなっていた。


 この後、馬車はウダイプールの町へ引き返すそうだ。亡くなったアージュンは、小型テントで包んで運び、家族が待っている町で埋葬するとの事だ。盗賊は軍関係だったのか、剥ぎ取った武具は割と良い物だった。馬と武具は、競売されて迷惑料とされ、4半分は馬車の運行会社に渡される。


 剝ぎ取った盗賊の金品の半分は、亡くなったアージュンの家族に渡されると言われた。残りは皆に、亡くなった冒険者、この場合はアージュンの家族にだが、も含めて平等に分けられるそうだ。これはイリア王国でも似たような取り決めがあるようだった。


 アジトは、この街道から離れる事、北に10キロ。そこは本によく出て来る洞窟では無く、嘗ては信仰されていたのだろう、古い祠にあると言われた。そこに至るには、使われなくなったと思われる巡礼路だけだそうで、今は馬を使って行き来しているという。


 そこには、2人の女性と子供の2人が囚われているという。女の人は町を襲った時に捕まえてきたそうで、子供達は、途中で行き会った高級な馬車に乗っていたという。人質が居ると聞いては、ほっておく事も出来ず、馭者に乗客と馬を頼んで向かう事にする。


 皆には、この駅馬車が襲われたと報告してもらう。事の顛末が報告されれば、町から討伐隊が出るだろうと言われた。それを待ってからとも思ったが、馬車が引き返して町から討伐隊か騎士隊か来るまでに、人質がどうなるか分からないだろう。取り敢えず、盗賊のアジトを調べておくのもアリだと思う。上手くすれば、何らかの手が打てるかも知れないと話しておく。


 義を見てせざるは、勇なきなり。という教訓が作られたように、人と言うのは意外と見て見ぬふりしてしまう。できないと言って先送りにしたり、やらなければならない事をしない。よせばいいのにと思いながらも、自ら望んで火中に身を投じる訳である。


 もっとも、今は因果な事に魔法でそこそこ戦えるし、盗賊ぐらいなら一方的に制圧できるだろうとの思いも有る。この話を聞いていた冒険者のヴィハーンが、仇を討つと言ってついて来た。アジトまで案内するのは、僕達の馬の前を走っている尋問した盗賊だ。彼には、命が惜しければくれぐれも道に迷わないよう言ってある。


 ※ ※ ※ ※ ※


 案内される途中で、弓で射られた丸裸の女の人の2遺体を見つけた。逃げようとしたんだろうが、やはり遅かったようだ。姉妹だろうか、顔や体つきが似ている。その場で悪いが、土魔法で2人を並べて埋葬した。遺品も何もないので、ヴィハーンが髪を少し切って懐にしまった。身元が分かれば良いが、ダメだったら寺院に持っていくそうだ。


 後、2キロほどと言う所で馬を降りて小高い丘に登る。これだけ離れていれば、まず常人に気づかれる事は無いだろう。対魔獣戦を繰り返したお蔭なのだろう、偵察や戦闘行動はすっかり身に付いていたようだ。ただ、魔法使いや戦闘のベテランが居れば気付かれる可能性はある。勘の鋭い者は、何か有ると思うらしい。常人だって中々捨てたものではない。


 この距離であっても聞き耳の魔法で、盗賊達のおおよその数が分かる。魔法使いの戦術的優位性の最たる例である。マァ、やはり数が少ないのだろう。魔法使いがいないのは良かった。いないとは思うが結界が出来る奴が居たらかなり厄介だ。大勢の話声が聞こえる。


 20、30人なら、火魔法や風魔法で一瞬にして壊滅できるだろう。30分ほど観察したが、近づいてさらに詳しく様子を調べる事にした。いつもと違い、灰色のローブを着ていないので透明化や結界が張られる訳でも無い。慎重に進める事にした。


「カトー。随分と慣れた感じだな」

「そうでもないですよ」

「そうかなぁ」

「ヴィハーンさん。どうやら、盗賊達が揃っているようですよ」

「仲間が帰って来ているのか。奴の話では、20人はいるはずだ。どうするかな?」

「そうですね。やるとすれば、洞窟じゃないから、煙を送り込んで燻すのは難しいですね。でも、水魔法で溺れさすという手も有るし……。それとも火魔法を中に打ち込んで、出てこれないようにフタをすれば蒸し焼きにできます。ウーン。やっぱりウェイブ小説を実践する事になるのかな」

「ウェイブ小説?」

「うちの国にある、対抗措置が書いてある教則本の事ですよ」

「そうか。物騒な事が書いてあるんだな。だが、チョット待てよ。子供が居ると言っていたぞ。それに、まだ子供たち以外に囚われている者が居るかも知れないしな」

「じゃ、もう少し調べましょう」


「ウーン。入口の見張り4人は、眠りの魔法で始末するかな」

「眠りの魔法? なんだ?」

「人でも動物でも眠らせるんです。静かにね」

「その方が良いかもな」

「いずれ気付かれるにしても、時間がかかるのは拙いでしょう。その時はどうします?」

「祠から出て来た盗賊を順に始末する事になるな。マァ、、カトーのあのえげつない水魔法なら声も上げられないだろう。それでいこう」

「そうかー。やっぱり、えげつないんだ……」


 ※ ※ ※ ※ ※


「カトー。済んだのか?」

「エェ、盗賊達の顛末を事細かに述べるのは、趣味が良くないと思うので割愛させて頂きます。と……」

「だよなぁ。ところで、中の確認はまだなんだろ。剥ぎ取りもしないとな。じゃ、止めを刺しながら行こうか?」

「やっぱり、ですよねー」


 ヴィハーンさんは入口から既に確認を始めている。生きてはいないだろうが、生きていたら止めを刺すつもりなのだろう剣を手に持っている。20人を超えて盗賊は22人だった。結局、盗賊で生き残ったのは、ここまで案内をしてきた者と入口の見張り役の4人となった。


 イルでも同じよう剝ぎ取りは、暗黙の了解となっているようだ。ヴィハーンさんが、生き残りに命じて墓を掘らせながら、仲間だった者から剥ぎ取りを命じている。5人は、あっという間に仲間が壊滅させられたのがまだ信じられないのだろう従順に動いていた。


 おそらく5人は観念していたのだろう。仲間は、魔法使いの信じられないような魔法で、溺死をしたのである。それも海や川も無い内陸で水球が追いかけてきて盗賊団が壊滅させられたのだ。もはや逃げても無駄だし、まして逆らう様な事は死に直結すると思われていたのかも知れない。


 集められた馬や装備品は、兵士崩れらしく良い物で高値になりそうだ。お宝は結構ある様だが、現金は300万ルピーと少しだった。不思議な感覚だ。興奮しているのか? ムンドゥスの世界に慣れてしまったのか? いずれにしても罪悪感は無かった。直前に囚われていた2人の遺体を見たせいかもしれない。


 子供達は奥の部屋に閉じ込められていた。見つけた時には、兄の方が妹をかばうように前に出て来た。年端もいかないのに健気なものである。高級な馬車に乗っていたと言うし、服装は高そうだったので良い所のお坊ちゃまとお嬢様という事だろう。


 やはり、馬車が襲われて定番の身代金要求となったのだろう。生かさず殺さず、人質という事か。だが、食事もろくに貰えなかったのだろう、かなり腹を空かせていた。妹の方は衰弱していたので、お腹に直接手を当ててヒールをかけてみる。エミリーの時は、回復したしケガも治ったが、さて、この子はどうだろう?


「オ! こいつは良い物を見つけたな」

「何ですか?」

「魔道具の水差しだ。盗賊のお宝だな」

「水差しなんですか」

「アァ、ちょいとした魔道具だ。以前、商人に見せてもらった事が有るんだ。結構な値になるはずだが、水魔法が使えるお前さんには無用だな」

「へー。そうなんですか。初めて見ました」

「こうやって念じるだけで……。良いはずなんだが、出ないな」

「ちょっと貸して下さい。出ませんね。ウーン、魔道具だとしたら魔力切れなんじゃないかな」

「そうなのか」

「エェ、魔力の補充が出来るとしても時間がかかるんですよ。やれるとしても4、5日は様子を見ないと」

「魔力を入れたら使えるのかー。じゃ、俺には無理だな。カトーが出来るなら試してみたらどうだ」


「カトー。余計な事かもしれんが、お前逃げた方が良いぞ」

「?」

「お前。結構、凄腕の魔法使いじゃないか? 魔力も充填出来るんだろ」

「お褒めいただき有難うございます」

「冗談で、言っているんじゃないだ。イルでもフルでもお前みたいな優秀な魔法使いはいない。きっと留め置かれるぞ」

「イヤ、訳を話せば……。無理かな?」

「だと思うぞ。上手く説明しても、直ぐに開放は無理だろうし、カトーは帰国したいんだろ?」

「違法な事はやってませんが、どこから来たか、どうやってとか、聞かれるんでしょうね。さて、どうしたもんかな?」

「俺なら逃げるね。アァ、お宝も見つけたんだ。路銀なら、お礼の分ぐらいは持って行っても良いんじゃないか」

「エー! 良いんですか?」

「ここにはお前と俺だけだ。そして俺は盗賊退治でクタクタなんだ。少し寝ても構わんだろう。優秀な魔法使いの行方など知らんという訳だ」


「ヴィハーンさん?」

「一割も無いじゃないか。落とし物の礼でも、もっと多く渡すもんだ。もっと持って行っても良いんだぞ」

「イエイエ、これで十分です」

「色々と言われるだろうが、アージュンの仇が討てたんだ。任せておけ。お宝はほとんどお上に渡すんだ。それに、ほとぼりが冷めた頃に掘り出す事にするよ。こんなに少しならバレないさ」


 今、カバンの半分には、タネが多種多様にギッシリと入っている。市場で普通に売っていたけど、イルから持ち出し禁止のタネでもあったら大変だろうな。中国からカイコを持ち出した話を思い出した。確か、他国へ嫁いだ中国の王女が国禁を破り、結い上げた髪の中に桑の種と蚕の卵を隠し持ち出したとか。国禁とか死刑なんだろうな……。


 もちろん、ウェイブ小説にあるように2人を助け出した恩人として礼を言われ、誉めそやされて恩賞を戴く。救出方法の話が出て、強大な力を持つ魔法使いだと知られて重く用いられる……と言うコースもアリかも知れない。だが、上手く行けばだし、最悪の場合、魔力充填機となって一生飼い殺しになるかもしれない。


 既にイリア王国では侯爵の身分で領地も有る。国王からの信頼も厚い。色々と制約はあるが食生活は安定している。何よりエミリー始め、ホムンクルス達やお店のスタッフ、友人知人が一杯いる。やりかけの事もあるし、そっちの選択は無いなー。


 ※ ※ ※ ※ ※


 聞き耳の魔法が反応している。遠くの方から近づく蹄の音がする。地図魔法でマッピングされた所に向けて、遠見の魔法で様子を視てみる。魔法の多重展開であるが、エミリーには外部に知られないようにと念を押されている。ただでさえ複数の魔法が使える上に、同時に複数が使える事など人間離れしているそうだ。


「ヴィハーンさん。複数の騎馬が来ます」

「そうか、まだ仲間がいたのか。どのぐらいだ?」

「およそ40騎。僕らが来た方からです」

「多いな。隠れるにしても時間がいるな」

「待って下さい……。妙ですねぇー。軍隊のように蹄のリズムが合ってます」

「どんな奴らだ?」


 服装などを説明している間に、前衛に祠が発見されそうだ。

「何だ! 魔法陣なのか! 落ち着け、止めるんだ。カトー。それは騎士隊だぞ」

「エー、騎士隊なんですか?」


 良い所のお坊ちゃまと、お嬢様と言う見立ては間違いなかったという事だろう。騎士隊が捜索している理由はそればかりでは無いだろうが、強い動機にはなっているんだろうなー。現場検証もそこそこに2人を救助、盗賊達は町へと引っ立てられるだろうな。マァ、2人が助かれば文句は無いが……。


 イリア王国の常識では、騎士とは甲冑を着込んだ騎馬兵のカッコイイ奴の事である。出来れば王都ロンダの馬上槍試合に出て来るような重装騎兵が望ましいのだ。そう言えば、第一次魔獣大戦での遠征軍出兵以後は中止になっており新春馬上槍試合は行われていないのだ。是非とも見たいと思っていたのに残念な事である。


 それはともかく、僕はイルに居るのである。洒落では無いが、所変われば服装も変わるのである。先入観でイルの騎士を騎士とは思えなかったのだ。ヴィハーンさんが居て良かった。魔石を使わないので、体内魔力によるやや小さな規模だが、もう少しで広域火炎魔法を使って殲滅させる所だった。危ない危ない。


「じゃ、お別れだな」

「エェ、お世話になりました」

「アァ、こっちこそ助かった。頼まれた事はやっておくよ」

「お願いします」


 ※ ※ ※ ※ ※


 盗賊団騒ぎがあって、その盗賊団を壊滅させた魔法使いの話がウダイプールの町で流れ、そして人々が忘れ始めた頃。あれから6カ月後、山深い狩人達の住まいを訪ねる冒険者の姿が有った。カトーから託された願いというのは、自分のお宝とされた分の半分を狩人達に渡し、残り半分を届けてくれる冒険者にと言うものであった。


 盗賊団のお宝は結構な金額である。一部とはいえ、そのまま持ち逃げする事も普通にあるだろう。だが、彼は仲間の仇を討ってくれた魔法使いの頼みに、そんな考えは浮かばなかった。その後、ヴィハーンは冒険者家業から足を洗い、近くの平和な村に住む事になる。

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