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癒やされたいキャンパー。異世界を癒やしに行く。  作者: カトー
第18章 新世界
177/201

177 イルへの転送

 ※ ※ ※ ※ ※


 それは、一昨日の事だった。確かに、夏の最中。この時期に西に向かえるなどワクワクものである。領地での道路建設工事で、近くまで来たついでという訳でも無いが、ちょうど良い時に連絡が有ったのだ。早速、空飛ぶ自動魔動車にはエミリーと二人、西海岸のソスペルに移動したのである。前回の調査で、この海の向こうには転送ステーションが置かれているとこまでは判明している。


「ホント、久しぶりに海釣だなー。前は、海辺のキャンプ場も行ったんだ」

「アァ、カトー。本当に夕食は間に合うんだよな?」

「大丈夫、まかせといて。でも念の為に、パンは持ってきてるから」

「フーン」

「海水浴だって出来るよね」

「海水浴? なんだ、それ?」

「水着を着て海で泳ぐんだよ」

「聞いた事が無い……待てよ、王都で医者が海水療法だと言っていたのを聞いた事が有る。風呂のように塩水に浸って、健康と保養が目的だと。しかし、変わった事をするんだな。海で泳ぐ者などいないぞ」

「そうか。そうなんだー」

「それに水着なー。水に浸かる専用の服か。聞いた事が無いが、マァ、カトーが好きでするのを止めはしないが……」

「泳げないの?」

「イヤ、近衛師団で一応は泳ぎを教わる。戦などで、甲冑は重いので脱ぐが、堀を渡る時に泳げないといかんからな」

「そうなんだ。普通の服だと泳ぎにくいし、悪くすると溺れるからね」

「フーン。邪魔なら、いつもように裸でイカンのか?」

「海では水着は必要なの」

「私とよく風呂に入るだろ。この間も皆して風呂に入ったが」

「あれは、お風呂なんだから裸でOK。でも」

「面倒な。しかし風呂とは違うのかー」

「エミリー。いくら見慣れていても、もう少し慎みと言うものを……」


「でもおかしいなー? エサが悪いのかな? エミリー、ひょっとしたら、この海には魚がいないかもしれないねー」

「そんなバカな事があるか! マァいい。今日は休みにしたんだから、明日からはちゃんと仕事しろよ」

「そうだねー」

「それに、もうそろそろ釣るのは止めたらどうだ。夏とはいえ海風が冷たいからな」

「それは、裸だからだよ」

「水着を付けるなど、変わり者のする事だ」

「アァ、よく分かったよ。僕もその意見には大いに賛成するよ。じゃ、今晩の宿を作ろうか。別荘タイプじゃなくても城塞ホテルでいいよね。作るのが楽なんだ」

「良いんじゃないか。それからカトー、やっぱりパン持って来て良かったな」


 ※ ※ ※ ※ ※


「御屋形様、エミリー様。こんな所までお呼び立てしてすみません」

「イヤイヤ、いつもご苦労さん」

「やはり御屋形様は、お優しいですなー」

「そんな事ないよ。照れるじゃないか。それよりも皆の方が大変だったんじゃない。で、何処かな?」


「こちらです。どうぞ」

「岬の先、丘に入口があるんだったね」

「エェ、ソスペルと言う名の転送ステーションです」

「で、僕に用と言うのは?」

「ハイ、ここはガッララーと同じ様に、聖所跡が有る処までは似ています。ですが、地下に向かう斜路を降りた所に、今まで見た事の無い装置が有るんです。あと一息で動かせると思うんですが……、動かないんです。おそらく稼働権限ではないかと思いまして」


「御屋形様、次のステーションは大海原の島に有るはずです」

「そこは、離れ小島なのかな?」

「ハイ、そうです。御屋形様から頂いたアレキ文明の地図ですと、ここから1500キロですかねぇ」

「そうかー。船か転送陣という事か」

「はっきりしない地図でたどり着くのは難しそうだね」

「エェ、そうなんです」

「本当に、転送陣が島にあれば良いんですけど、海中とか海の上になっているかもしれませんから」

「我々ならともかく、秘密を知らない一般人を送る事は出来ませんから」

「強化パーツを使えば帰ってこれない事も無いと思いますが、1500キロですと片道ですから」

「とにもかくにも、動いてからの話なんですけどね」


「認証システムは、動いているんだよね」

「そうなんです。でも、私達にはその稼働権限が無いので、お呼びしたんです」

「ガッララーの時と同じだね」

「そんな感じなんです」

「じゃ、始めよう。今回もコードを入力して、セキュリティ設定カードを読ませてと。さてと、動くかな?」


「上手く行きそうかな?」

「お待ちください。……エェ、稼働しています。復旧し始めたみたいですね」

「立ち上がるのに時間がかかりそうだね?」

「600年ぶりですからね。おそらく朝までかかるでしょう」

「じゃ、今晩はここにお泊りだな」

「カトー、早めに食事して休もう。日が暮れたら急に寒くなったからな」

「僕らと、ドック達7人か。なら、いつもの城塞ホテルタイプでいいね」

「アァ、カトー。風呂は熱めで頼むよ」


「みんな。沢山の魚、ありがとう。美味しい魚は、久しぶりなんだ。な、カトー」

「ごちそうさまでした」

「お安い御用です。エミリー様。ここら辺の海は、魚影も濃いですから誰でも簡単につれますよ」


 ※ ※ ※ ※ ※


「何だか分からないが、いつもと違うような気がする」

「気だけじゃない。止めないと拙いんじゃないか?」

「転送陣ってこんなに赤くなったっけ?」

「イイヤ、見た事ないな」

「ウン!」

「そうだな。早く止めた方が良いな」

「これって魔力暴走?」

「見た事ないけど、魔力暴走なのか?」

「緊急停止ボタンはどこ?」

「御屋形様、無理です。転送陣の向こう側なんです」

「カトー! 無茶は止めろ」


「御屋形様!」

「なんとかして、魔力操作してみる!」

「転送陣が赤々と、まるで燃えているようです」

「早く止めないと、魔核弾頭と似たような事が起こるぞ!」


「あともう少しで……。ちくしょう! 時間が無い。エミリー! みんな、逃げて!」

「でもー」

「皆、エミリーを連れて逃げろ! エミリーを、ここから連れ出してくれー!」

「床の色がー」

「ここから逃げるんだ。いいから、動け!」

「御屋形様ー!」

「カトー!」


 ※ ※ ※ ※ ※


 生きてはいるようだが、真っ暗だ。転送されたのか? どこだろう? ケガはしていないみたいだ。うつ伏せに倒れていたらしいな。ゆっくりと起き上がろうとしたら、右手に何か触る物がある。何だろう……。虫系はダメなんだ。モゾモゾしてたから、ひょっとしてムカデだったんだろうか? 暗闇の中でムカデが手の上でうごめいていたのか。嫌だなー! 


 光が欲しい。反射的に火魔法で明かりを点ける。何かの虫だったようだが、素早く姿を消したみたいだ。ゾッとして思わず周りを見回した。ウーウ。ムカデなんか、生理的にダメなんだよー。取り敢えず、明かりを増やして周りを探ろう。暗いと怖いしね。


 念の為、火魔法からライトの魔法に切り替える。密閉区画だったら酸欠になってしまう。やはり、どこか知らない所に飛ばされらしい。建物の中には違いないが、さっきまで居た転送ステーションではないな。エミリーもドック達もいない。皆は無事だっただろうか?


 緊急停止は上手く行ったのだろうか? 僕が転送されたという事は、魔核弾頭並みの爆発は避けられたという事だろうか? 魔法陣が暴走したのは昼間だったはず。ここは真っ暗だし、気を失っていたのはどのぐらいの時間だろうか? こちらに転送された時刻は……? 


 ここは危険なのだろうか? 幸い下着姿では無いが、海水浴という事なので、いつのも定番となったローブとミスリムの胴着を着けていない。僕は筋肉隆々という訳でも無く普通に少年の体だ。とてもミスリムの胴着みたいな防御力はない。考えていても、しょうがないな。まずは、状況を探らないと……。


 どのぐらいの大きさなのだろうか? 意外と広いホールみたいだ。やはり、転送陣が設置されていたのだろう、床には円状に擦り傷があった。閉じ込められたのだろうか? 待てよ、前方の壁には左右対称に出入口があるみたいだ。取り敢えず、出入口を調べる事にした。人が出入りに使えそうな大きさである。


 人間用で良かったなー。ゲームのオーガやトロール、大型魔獣が出てきたら大変だ。でも、貨物用なら大きいだろうと思いながら次の部屋に。壁に記号が書いてある。アレキ大陸の文字だ。翻訳魔法、ありがとう。チョット待てよ。これは、古代アレキ文明の言語かー。


 マァ、良かったと思おう。これで、転移して他世界に送られたようでは無いのは分かった。ここは、ムンドゥスなのだろう。しかし、過去や未来だとしたら困った事になる。でも普通の転送だとしたら、時刻もソスペルと幾らも違わないはずだ。第一技研のマリリンみたいに0.001秒の誤差などは気にしないし……。


 主人公が転移したゲームとか小説を思い出そう。慌てず騒がずが一番かー。落ち着いてとは言ってもなー。体内魔力は限られている。確かに王国の魔法使いより、はるかに多いが、何があるか分からない。慎重に使わないとな。


 壁に書いてあった指令所へと向かおう。第一技術研究所の地底湖の時もそうだったが、まったく全体像が分からん。ここは、転送陣があるから転送ステーションと思ったが、第3級転送ステーション113とは違って規模が大きすぎる。


 何か見つかれば良いが。こんなに何もない所だとは……。地図魔法だと、歩いて来た所を自動トレース出来るのだが、何もない部屋と通路が表示されるだけである。相変わらず暗闇の中を、ライトの魔法を使いながら進んでいる。


 暗闇の中では、時間感覚が狂うというが、まったく時間が分からない。いつまで歩くんだろう? 水は水魔法で解決できるが、お腹が空いてきた。たまに虫を見かけるが、サバイバル物みたいに虫を食べるのは嫌だなー。毒を持っているかもしれないしなー。


 指令所と書いてある場所に着いたが、大きな部屋には何も無い。それらしい機械や、表示板など、机や椅子さえも無い。紙くずだけが散らばっている、ただのガランドウだ。だが、ここの名前は分かった。第147補給基地らしい。捨てられていた紙には、放棄予定の補給基地100番台は情勢の緊迫化により……と書かれてあった。


 地下なのだろうか? こんなに広いのは補給基地だからだと納得したが、この規模だと山でもくり抜いたんじゃないのかな? そう言えば、第一技研も山の中だったなー。すぐに助けが来ると思えないし、ここに居てもジリ貧だろう。歩くしかないかー。


 装備も無ければ体力も無い。中身は27才でも、体は成人前の13か14才だ。もちろん、食料も無いし、せめてあめ玉でもあれば良いがポケットにはそれも無い。……そういえば大阪のおばちゃんは飴ちゃんあげる! と言っうんだったなー。いかん、幻想だ。


 水魔法で渇きは癒せるが、塩も無い。塩が無いと味付けがなー。シカを狩ったら血でも飲む? シカを捕まえれるかなー。罠を作るとしたら土魔法で落とし穴かなー。塩は汗で体内の塩分等が失われるので意外と必要なんだ。……アァ、また現実逃避してしまった。


 今居るのは通路なのかな? トンネルなのかなー? 随分と来たけれど……。ふと気が付くと、床に埃がたまっている。振り返れば足跡が付いている。さっき、通った部屋には土埃がある。急いで引き返して見直してみると、外は昼間なのだろうか? ライトの魔法を弱めて壁を見る。ほんの少しだけだが、光が入っている。割れ目に気が付いた。


 強化土魔法で作られてはいても、長年の浸食によって削られたのだろう。耳を押し当ててみると、遠くに水音が聞こえる。土魔法で割れ目を拡げていく。さわやかな風が入って来た。外だ。

 

 ※ ※ ※ ※ ※


 ヤブは、ハイキングや山歩きをすればたまに遭遇する。ここは鉄砲水にでも削られたのだろうか、穴の向こうにはクマザサによく似た植物が茂っている。日本では、ヤブは自然に有るよりも、むしろ人手の入った河川敷やキャンプ場近くあったと思う。


 森の中は意外と木の間隔や隙間の多いので、普通は歩くのに困らない。ヤブと同じように様にかき分けて進まねばならないのは、2メートル前後のススキやササの群落である。そのヤブが、出口を塞いでいる。トゲやツルは、なかなか折れないので、ぜひ切りたい所だがナタどころかナイフ一つ無い。小枝は折りにくく、見た処では、くぐって抜けようにも下まで緑の壁だ。


 ヤブを回避するために考えたのは、空飛ぶ絨毯を使う事だ。既にライトの魔法と地図魔法に水魔法、土魔法を使って何とか進んできた。やっとの事で、大穴を開けて出れると思ったらヤブが出口を塞いでいた。ヤブが、どこまで続いているか分からないが、進むしかない。進むにしても、この体では幾らも進めないだろう。


 ヤブこぎすれば、この体では体力を使い果たすのは確実だ。それに体内魔力も、空腹で疲れも溜まっているせいか、回復が遅いようだ。そこで思いついたのが魔法の空飛ぶ絨毯だ。こんな時の為に、下着の縁に埋め込んだ緊急用のもしもの魔石が有るんだ。ついに役に立つ時が来た。苦節、なん年だっけ? 


 シエテの町のヒバリの宿屋で埋め込んだのが、はるか昔に感じられる。この下着には追い剝ぎや盗難防止用に、隠し袋を縫い付けてある。その中には、金貨とミスリム硬貨、それに魔石小が緊急用として入れてある。洗濯する度に、こんなのいらないと何度思った事かー!


 いよいよ、空飛ぶ絨毯の製作開始である。脱出方法と移動手段を同時に手に入れるのだ。まさに一石二鳥だ。最初に作った絨毯の性能は、最大高度300メートル・最高速度60キロで巡航速度は40キロ。積載量200キロで、飛行距離は魔石小を使って8時間位。航続距離は500キロ弱と、なかなか優秀であった。


 絨毯が飛行する原理は極めて簡単。エミリーが言った通り、ペットボトルに水を入れて、大量の紐を木とペットボトルに結び付ける。それを、水魔法で制御して飛行していたのだ。今回はペットボトルの替わりに、強化土魔法の平型の箱を作って水を入れておく。僕が座る絨毯部分は、ヤブに生えている小枝や草、つたなどで作れば良い。


 回想はこのぐらいにして、手を動かさないとここから出れない。材料は目の前のヤブに豊富にある。まずは、強化土魔法でナイフを作る。昔見た黒曜石のナイフの様な感じで作る。刃先は強化したけどヤブの草木は手強い。小枝やササが、顔や手に当たる。密生し、枝葉が絡まっていて、ツルやイバラが生えていれば、かなりの力でかき分けるか、根本から刈り取るしかない。


 最近は測った事は無いが、11才の男子の平均身長が約145センチだったはず。転移してから3年。大きくなったとはいえ、目の位置がエミリーの揺れている胸から、情熱的な唇あたりになったぐらいだ。材料集めようとしたが、すぐにフラフラだ。とはいえ、僕は日本に居た時と違って大魔法使いである。フフフ、ならば火魔法で焼き切れば良い。


 残念ながら、簡単にいかないと気が付いた。ヤブが乾燥したいたなら、こちらまで火が廻って焼け死んでしまうだろう。アッという間に、山林火災を起こしてお終いだろう。危ない。危ない。ならば、重力魔法で圧し潰して切り離すのが一番だろう。なれて良かった魔法使いである。


 あらかた、手作業でヤブから部材を集めてから気が付いた。風魔法でビュッとすれば苦労もしなかったはずだ。アァ、豆が出来た手を見ながら思う。大木でさえ切り倒してしまえる風魔法だ。雑作も無かっただろうに……。座布団なんて本当に要るんだろうか? マァ、過ぎた事だ……。


 ヤブから虫が入ってくるので小さな火魔法で防いでいる。マァ、部屋の奥だから使っても大丈夫だろう。脱出できそうなので、魔力節約の為に止めていたヒールとクリーンの魔法を使う。体内魔力は半分ぐらいだろうか? 転送ステーションの魔力制御でかなり使ったからな。空を飛ぶ時には魔石頼りになる。


 この空飛ぶ絨毯もどきは応急製作とも言える。一見、かなりラフな感じの造作である。空中を飛ぶマットの様な物なので、座布団代わりに草と小枝が落ちないように、括り付けてあるのでかなり恰好悪くなってしまった。本当の所、こんなので飛びたくはない。だが、せっかく作ったんだという声が、どこからか聞こえて来る。


 なに、飛行できれば、すぐにヤブから出れるだろう。希望はあるんだ。それに、ヤブこぎするよりは、はるかにマシだろう。徒歩で森を移動すれば、気をつけていても毒蛇、猪、猿、熊に出くわすかもしれない。うっかりすると目の前で鉢合わせという事になる。正直言って魔法が使えなければ、犬どころか子猫と戦っても負ける気がするんだ。


 それに、獣ばかりでなく、ハチが居たら大変だ。群れで来たら逃げて転んだり、斜面から転がり落ちて命を落としたり大怪我するかも知れない。普通のハチだけでなく、恐怖のスズメバチの巣があるかも知れない。こいつの巣は土の中だから、知らずに踏めば襲われる。近寄るだけでも危険な生物兵器なのだ。


 移動すれば、沼地だってあるだろうし、崖もあるなら、下りの急斜面や風穴。落ち葉で隠された縦穴や亀裂もあるに違いない。いくら注意しても、窪地に滞留した目に見えない有毒な火山性ガス、メタンガスに巻かれてしまうかも知れない。天気の急変だって普通にあるだろう。


 遭難しても誰も助けてくれないだろう。もっとも、今が遭難状態だが……。イカン! 空腹のせいか、血の巡りが悪いのか? 無駄な動作が多くなったり、同じ事を繰り返したりするようになっている。気が付くと、独り言も言っていたようだ。


 ※ ※ ※ ※ ※


 幸い、飛び上がって5分もしない内にヤブを超えれた。空気は澄んでいて日差しもあるが、洞窟の様な補給基地とは違って外は少し寒かった。目の前には、広大な針葉樹の森が地平線まで大地を覆っている。見える範囲では樹種は少なく、トウヒ、モミ、マツなどの常緑針葉樹があるようだ。冷たい空気はシャンとさせてくれた。


 確か、暇つぶしで読んでいた雑誌記事だったな。なにが役に立つか分からないもんだ。おそらく、ここは北の地だろう。樹種からすれば、いわゆる亜寒帯と呼ばれる地帯なのだろう。広葉樹が森を作れなかった寒冷な地帯は、針葉樹が大規模な森林を作りだしている。


 やはり、このムンドゥスでも針葉樹の方が古い植物であるため、広葉樹に勝てなかったらしい。その代わりという訳では無いが、寒冷地と言う劣悪な環境での耐性を発達させたのだろう。

 

 森は暗く、コケモモなどの低木とコケ類が生えている。夏は平均10度を超えるが、冬はマイナス何十度まで下がるそうだ。年降水量は少なく、雨は夏に集中しているという。夏は冷帯湿潤気候と同様で短く、冬は乾燥気味で寒くて期間が長い。気温の年較差はきわめて大きいだろう。


 確かに、豊富な森林資源があるが、土壌はやせており農地は少ない。夏だけだが、燕麦や大麦などの耐寒性作物が栽培される。その為、イリアの最北部と同じ様に、農業はかろうじて可能だと言える。森林の伐採が盛んになるのはまだ先の時代だろう。


 手つかずの森にはテン、キツネなどの毛皮獣が多い。人は少なく、居たとしても狩人か、わずかに毛皮商人が入り込んでいるぐらいだろう。転送陣なので一瞬だったし、基地内でさまよったとは言え、日時は違わないはずだ。季節はおそらく夏。良かった。凍えないですむだろう。


 ※ ※ ※ ※ ※


 夕日が沈む方角は、しっかりと覚えた。あっちが西だ。今年の夏至の日は、6の月9日だったはず。陽が西に沈む角度は、冬至と夏至の前後1ヶ月はあまり変わらない。食糧があれば1日を費やして調べた方が良いのだろうが、ここに居ては食料が無い。飢え死にするのは嫌なので、動けるうちに進む事にした。


 もし、ここがアレキ大陸だったら西には海がある。海に出たら左右どちらかに進めばイリアの村か町に着く。よしんば中央大陸だったとしても、西には海があってフラン王国領となる。マァ、それまでには、町や村もあるだろう。海があれば、希望があるという事だ。


 一番困った状況になるとすれば南大陸だった時だ。南大陸は、遺跡都市メリダの様に完全に忘れ去れた地である。あそこは、600年に渡って事情が全く分からない。南大陸だったらお手上げだが……、その時は現地自活。つまり自給自足を覚悟しなければならないだろうなー。


 昨夜は、穴から何回も顔を出して星空を見た。曇ってなくて良かった。星の瞬く夜空は、確かに奇麗だったが僕には観賞する余裕が無い。一応、地図魔法で検索しながら、条件に当てはまる夜空を探してみた。イリアで見た星座と比較して大まかな場所を割り出そうとしたのだが……。正直に言おう。全く分からなかった。基準点も基準時間も分からないので仕方ない。


 夜は月が見える。昼間でも見える事はある。照らされている側が太陽のある方向になる。これで、東西の方角がだいたいだが分かる。ムンドゥスには北極星と言われる星は無いが、代わりに北星がある。やはり、地球と同じように自転しているので、北星以外の星は空で弧を描くように動く。よって星が昇って来るのが東、星が沈む方が西のはずだ。


 本来なら、陽が昇ってから、地面に棒を垂直に立てて、それを中心に円を描く。午前と午後の2回、棒の影の先端が円周上にくるので、2点を結べば、ほぼ真東と真西となる。腕を広げて少しの間、30分以上だと思うが、じっとして待つ。 


 星々は左手から右手に向かっているので、僕の顔は南を向いている事になる。一応、西の方向をマークして明日から西南西に進む事にする。マァ、ここが北半球だった場合だが……。アァ、西南西なのは、真西だと寒いままだからだ。


 イグナーツの言った通り、魔石エネルギーの再充填が出来ると知ってから、普段は魔石エネルギーが10%ぐらいになったら魔石を体に密着させている。魔石小なら一月ほどで再充填出来るようになっていたが、今は空腹の為なのか、余剰魔力を緊急用の魔石小に再充填するは難しいらしい。


 いつもなら、土魔法で城塞ホテルを作るのだが、魔力節約の為、止めて壁と小屋で済ます。眠る時にチョットだけ、スマホが使えた日本の事を考えた。

 

 ※ ※ ※ ※ ※


 朝一番で針葉樹の森を抜けて、今居るのは針葉樹と落葉広葉樹が混交するの森だ。楽しかった日本でのハイキングを思い出したが、ここは何処かも分からない異郷の地だ。気温はさほど高くないが、上がる前に移動しようと速度を速める。さわやかな風が吹いている。西に見えていたマークした山と山が直線状にあるように進む。


 北の森は成長が遅く、枝も少なく左右対称に成長するので、幹は真っ直ぐで丸くなっている。心材が大きいので硬い。風魔法で加工すれば、丈夫で木目が真っ直ぐな木材になる。ここで空飛ぶ絨毯を作り直そうと思ったが、魔力を温存する方が生存に繋がるだろう。形はアレでも、飛べれば良いし……。


 昔、山で方角が分からない時は年輪を見てと言われたが、それとて年輪を見れるのは植林地帯でだ。ここには、人の手が入っていない。北半球では確かに北が年輪によって分かるかもしれないが、まるで反対の場合もあるからな。


 それより苔が良いらしい。岩や古木に付いているので北側に付きやすいという。マァ、見当違いに聞こえるかも知れないが。これは以外に正しいらしい。陽が昇っているので、今の時刻なら影の向いている方向が西(西北西)だ。午後であれば東(東北東)ということになる。大ざっぱだが、北の方角を決めれたので西南西に向かう。


 絨毯で飛ぶのは寒いので、もう少しゆっくり飛びたかった。だが、食料が無いし、気も急くので足を早めている。なんの変哲もない山々が続く。ここが目印だとマークした山だなと思いながら通過する。そして山々の頂を経由して、再び森林へ入る。結構な距離を飛んだと思う。我ながら頑張ったものだ。


 腹が減って気が遠くなる。驚いた。ボーと飛行していたら急に、甲高い声が鳴り響いた。下の草地でシカを見かけたので、考えてみる。この森には確実にシカがいる。エミリーはいつも簡単にシカを弓矢で狩っていたが、僕には無理だ。


 素人が簡単にシカを狩れるとは思わないが、獣道に落とし穴を掘ったらどうだろう? はて、シカが落とし穴にはまる確率はどのぐらいだろう? 空腹なんだ。時間的に大丈夫だろうか?


 日本ではジビエ料理店が増えて居るそうだ。運良く捕えたとしても、絞めて、解体し精肉とするのはハードルが高い。狩猟に興味があるけど現実はむずかしく、野生のイノシシやシカを捕えの肉を自分で狩って食べるという一般人は少ないだろう。かく言う僕も、スーパーの肉を買う一般人だったが、転移後にエミリーに教えてもらって経験を積んだんだ。


 獣道とは、野生動物がいつも使用している障害物がなく移動しやすい道である。動物は、やみくもに森林を移動する事はなく、エサがとれる所や水場などが決まっているとされる。巡回コースだね。通る度に地面が踏み固められる。小枝は折られたり、下草は喰われたりして短い。実際、習うより慣れろで僕でも見つけた事がある。


 くくり罠を作れるような道具も無い。それにイノシシだと、近づくと突進してくる。牙もあるし、噛みつく事も有る。くくり罠のワイヤーが外れた時は危険だと聞いている。斜面で繋っていれば、必ず上の方から近づかなければならない。そうすれば突進できないしスピードも出ない。アァ、シカは、近づくと逃げようとするし、攻撃はしてこないとの事だ。


 怖いのは熊だと思う。そして悲劇を防ぐ一番重要な事は、クマと出会わない事だ。熊鈴でクマに人間の存在を知らせ無いといけない。マァ、夏至が過ぎたばかりだから、クマとて食欲の秋では無いだろう。これはすごく幸運だった。いつものミスリムの胴着は着ていない。熊の爪どころか、一息で飛ばされそうだ。なにしろ、大人も簡単に吹き飛ばされるほどの打撃力は別格だから。


 あれこれ気を紛らわしていたが、さすがに腹が減ったー! もっとまじめに鑑定魔法のレベルを上げていれば良かったなー。ウェブ小説のように、鑑定すれば丸分かりという訳にはいかない。残念だが僕の鑑定魔法は、誰かが名称とか利用法とかを一度教えてくれないと鑑定できない。


 エミリーが教えてくれた、杉や松、柘、柳にミントは分かる。今まで市場で買った野菜や、切り分けたジビエだって分かる。日本で知っていた物も沢山ある。だが、誰かが食用できる植物かどうか、教えてくれるまで、まるで分から無い。こんな何処とも分からない森の中で、食用の物を探し出す事は難しい。


 イノシシは気が荒く、反撃を仕掛けて来るので出来ればシカが良い。などと捕らぬ狸の皮算用をしたが、この際だ。狸ナベでも良いかー。それよりも、沢を見つけて川魚を狙うかなー? マァ、たとえ速度が遅くとも、急造の頼りない空飛ぶ絨毯でも止まっていない限り、いつかは海にたどり着くだろう。


 でもここに来る時、海には魚がいないという事を立証した腕前だからな。釣れる気がしない。イワナ、ヤマメといった魚を狙うとして、良識あるキャンパーとして石打漁はやりたくないしね。日本では、禁止されているからね。


 こう言うのは、転移してまったく日本と違う世界なんだから関係ないと思うんだが、不思議と出来ないもんだ。そんな事を思いながら、左手を見ると煙が上がっている。遠見の魔法で見ると小屋らしい物も建っている。良かった。人がいるらしい。


 ※ ※ ※ ※ ※


 小川を過ぎて、少し高い丘の後ろに着地した。遠見と聞き耳の魔法で様子を見てみる。腹が減っていても、いきなり姿を見せるのは拙いとは僕でもわかる。離れて様子を見るべきだとはわかっている。おそらく狩人だろうが、今にも倒れそうだ。悪人で無い事を祈ろう。


 家には2人いるようだ。良かった、1人だと会話をしないだろう。会話には発音の慣れが必要なので、急には無理だ。だがこれで、言葉を聞けば翻訳魔法が使える。サァ、ファーストコンタクトだ。


「すみませんー! そこの人ー! 待ってくださいー!」

「ナンダ? ナンダ?」

「ダレダ? ナンテ、イッテイルンダ?」


「すみません。そこの人。待って下さいと言いましたー!」

「それならそうとイエバ良いのに、妙な声を出さなくても」

「何の用だー? そこじゃ分からん。こっちへコー!」


「オャ? 子供じゃないか?」

「こんな所で、何をしてイルんだ?」

「すいません。食べ物をー。何か食べる物、ありませんかー?」

「どうした? こんな山の中で……ベントウでも忘れたか?」

「変な格好だな」

「一人なのか?」

「ウーウ」

「分かった。分かった。俺達のメシを分けてやる」

「ありがとうございます」


「フーン。道に迷ってか?」

「街道からはズイブんと離れているぞ。大変だったな」

「俺達は悪人じゃない。安心シテイナサイ。俺は猟師のカビーア・アガワル。こっちは、アールシュ・バクシだ」

「僕はカトーと」

「挨拶は後でいいから、ゆっくり食え」


「ところで、ここは何処ですか?」

「ここは、オーチャの森だ」

「アァ、迷子じゃ分からんか。一番近いのはウダイプールの町だ」

「何処の国でしょう?」

「おかしなことを聞くなー。イルだよ」

「お前、さっきからイル語を喋っているんだぞ」

「翻訳魔法、いつもありがとう」

「エ?」

「イエ、何でもないです」


 なんとイルにいるらしい。洒落のつもりはないが……。イル国という事が分かると、地図魔法により膨大な量の地形情報が押し寄せてくる。過去の情報だが、フランまでは1万キロ。クシャーナ王国の向こうである。今居る所はイル国の東だ。ウダイプールの町というのは新しく出来た町なのだろう、地図魔法では分からなかったが、フル国に近いという。それにしても1万キロかー! イリアは海の向こう、ケドニアを超えてもっと遠いんだー。


「そうか。坊主のオヤジは、よその国の商人なのか?」

「ハイ」

「道理で、妙な服を着ているんだ」

「住んでいた所では普通と思うんですけど……。あのー? ウダイプールの町へはどう行けば?」

「そうだなぁ。どうだ兄弟? 明後日のつもりだったが、準備は出来ている。明日連れて行ってやろうか」

「俺は構わんぞ。カビーア」

「助かります。ご親切にどうも」

「イイってことよ。俺達の宗教じゃ、今月は人助けをすると、来世で幸せになるんだ」


 2人の小屋は、少しずつ建てられたのだろう手作り感が一杯だ。小屋は断崖絶壁とまではいかないが、西側が高さ約30メートルの崖の上にあり見晴らしがよかった。人を寄せ付けないような俗世間とは隔絶された、神がかったような地である。


 彼らはヒゲ面で、自分達が仕留めた獣の毛皮を加工したのだろう防寒着としているようだ。しとめた獲物の皮を剥ぐための大型の鞘付きナイフを携行している。孤独を好む訳では無く、話をするうちに大声で話す陽気な人達と分かった。それに、彼らは困った者を助ける伝統を持った高潔な人間と言える。


 彼ら毛皮猟師が、この山の中を選んだのは、毛皮に出来る獲物が豊富だからだ。春から秋は狩を行い、冬には山を下りて村でと、大自然と共に生活しているようだ。


 その彼らが明後日には、食料を買い増しに久しぶりに町に出るという事だった。それと言うのも、宗教的な禁忌で猟を毎年10の月の1日から10日休まなければならない為だそうだ。ムンドゥスの秋分が9の月の25日か26日だから、それに合わせてあるのだろうか?


 降りる時に見た、原皮を水に漬ける為に小川が小屋の近くにある。下処理は、皮をはいで塩漬けにする処までの作業だ。中央大陸では、海塩より岩塩の方が豊富だと聞いた事がある。塩は貴重品と言えなくとも無いが、皮を腐りにくくするし、なめしの時のミョウバンが浸透しやすいので必需品である。


 マァ、町にある商店の業者に届ける時には、大抵この塩漬けの状態で持ち込んでいると言う。帰ってくる時は金や食糧、酒、その他の必需品に換えるのだ。皮は、この寒さが厳しいで地域では防寒着の基本だ。で、採れた毛皮の一部を町まで持って行くのだと笑いながら言っていた。


 今回は、それを僕の為に1日早めてくれたという訳だ。毛皮猟師には、町の毛皮商店に雇われた者とフリーの者とがいるみたいだ。森で獲れる毛皮は、傷つけずに捕るための伝統的な罠猟で行う。獣に勘付かれぬよう仕掛けに苔を生やすなど、様々な工夫をしているそうだ。


 ※ ※ ※ ※ ※


 2人の猟師は、背負えるだけの毛皮を載せて軽々と山道を歩いている。まるで小山が動いているようだ。僕もお手伝いとばかり50キロはある荷物を背負う。彼等は、下着に埋め込んだ金貨を受け取らなかった。自分にとっては、九死に一生を得る様な飢えからの生還である。せめてもの恩返しのつもりであったのだが……。


 替わりに町までの荷運びを手伝う事にした。ここイルでは、子供はまだまだ貴重な労働力だ。もちろん、50キロの荷など成人前の子供が運べるような量ではない。だが、この種明かしは簡単だ。重力魔法である。これを軽めに2人にもかけておく。当然、ばれない様に自分にもかけておく。


 なかば森に埋もれ、見過ごされてきた放牧地から、一本の道が町まで通じている。町までは3日で着くそうだが、途中の牧場からは預けてある馬車を使うらしい。馬車に乗り込んで2日。やがて、馬車の馭者台から町の城壁が見えてきた。ウダイプールの町だ。城壁は3メートルほど。地方の都市ならそんなもんだと言う。当然ながら、城壁と門番はセットである。


「カビーア。だれだ、こいつは?」

「アァ、大丈夫だ。こいつは知り合いの商人の息子なんだ」

「フーン、町の者ではないな。子供か……。入場税は30ルピーだ。あそこで払っとけよ」


「坊主、お前。金はあるのか」

「ハイ、カビーアさん。金貨3枚とミスリム貨を1枚持ってます。あと、価値は分かりませんが赤い指輪が一個」

「バカ野郎、こんな所でお宝の話をするんじゃねえ。アァ、それと、30ルピーだ」

「すいません」

「両替のあては……。ある訳ないか。ウーン。しょうがないな。毛皮商の旦那に頼んでやる。ついて来い」


 カビーアさんに聞かれるままに答えてしまった。町には悪人も泥棒もいると教えられていたんだ。うかつな事を言ったと思う。イリアでは灰色のカトー卿にちょっかいを出すような輩はいない。だが、今はミスリムの胴着も、魔法のローブも身に着けていない。防御力など有って無きに等しい。魔法が出来ても、不意打ちに遭えばケガでは済まないだろう。


 その後、荷物を降ろして、帳場に座っていた旦那の所に連れられて行った。いつもの様に、カビーアさん達の支払いも有るので荷下ろし場の隅で待たせてもらう。両替の事は、カビーアさんが替わりに話をしてくれたので不都合なくできた。


 ちなみに、1ルピーは日本円だと3円ぐらい。金貨は重さと含まれている金の量での交換になる。手数料込みで王国金貨一枚は15グラムで2万ルピー。ミスリム硬貨も同じで、一枚は10グラムという事なので13万ルピー。現在出回っているミスリム貨より、純度が高く驚いたそうだ。尚、交換手数料は通常10%だが、地金にするので15%だそうだ。


 魔石小は幾らかと聞くと、かなり怪訝な顔で答えてくれたが、最低でも8000万ルピー。当然、色と形により値は変わるそうだ。ただ、ここ何年も出回る物は無く、希少なのはイルでも同じようだ。


 先ほど答えた赤い指輪は、先日の道路造りの時に発見された転送ステーションの物で、エミリーに見せようとポケットに入れたままだった物だ。話が出た指輪を、隠すようにして初めて親指にはめた。価値は不明だが、転送ステーションにあった物だから売りに出さずに、取っておくつもりだ。そして、この判断は正解だった。


 はめた指輪を見つめると、右目の上の隅が小さな赤い点滅が浮かび上がってきたる。おかしいなと思って、意識を点に集中すると城門から店までの風景が出て来た。少し指輪を回すと、転送された部屋やヤブ、森を見下ろした景色が出て来る。どうやら、この指輪は魔道具で画像を記録する物だったようだ。転移の時に漏れ出た魔力で動くようになったのだろうか?


「待たせたな。金貨とミスリム貨の金だ。真っ当な旦那だから、騙される事は無いはずだ」

「ありがとうございます」

「なに、毛皮のついでだ。アァ、19万ルピーある。すぐにしまっとけ」

「あのー? お礼に食事でも」

「イイ。気にするな」

「?」

「アールシュは、いらんと言っているんだ。国に帰るんだろ。金がいるぞ」

「でもー」

「子供が気を遣うんじゃない。俺達は、ここで分かれる。坊主も気を付けて行きな。アァ、一言良いか?」

「なんでしょう? カビーアさん」

「ハハハ。次は、商人の息子で迷子ですと言うより、もう少しましな言い訳を考えておけよ。じゃぁな」


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